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解説記事2014年03月03日 【税務マエストロ】 平成26年度税制改正 ~AOAに基づく帰属主義②(2014年3月3日号・№537)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
平成26年度税制改正 ~AOAに基づく帰属主義②
#106 品川克己
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(マネージング・ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#107 経営戦略に応える企業再編成税 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

2 モデル条約第7条の改正点
(1)改正の概要
 2010PEレポートは、外国法人の支店等(恒久的施設:PE)に「帰せられる所得」(帰属所得)の解釈、特にPEの帰属所得をどのように算定するべきかについて検討を重ね、その検討結果としてAOAを採用したものであるが、このPEレポート及びAOAの内容を踏まえて、OECDモデル条約第7条が改正されている(2010年)。
 このOECDモデル条約第7条は、すでに帰属主義を謳っているのであるが、「帰せられる所得」の解釈、認識を統一し、より厳密にAOAに沿った帰属所得を算出することができるよう、具体的には次の点が改正されたものである。
(i) 第1条の第2文の改正
(ii) 第2項全文改正
(iii) 第3項から第6項の削除
(iv) 新第3項を新設し、第7項を第4項に変更
(2)第1項の改正  第7条第1項の第1文は改正がなく、第2文で、「その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国において租税を課することができる。」とされていた部分が、「2の規定に基づき当該恒久的施設に帰せられる利得に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。」とされた。これは「2項にしたがって計算された帰属する所得」と限定することにより、PE帰属所得が第2項に規定するAOAに基づいて算定されることを明示したものと解釈することができる。
(3)第2項の改正
 第2項は、PEの帰属所得の算定方法に関する基本原則を定める規定であり、改正前においても「当該恒久的施設が、同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う個別のかつ分離した企業であって、当該恒久的施設を有する企業とまったく独立の立場で取引を行うものであるとしたならば当該恒久的施設が取得したとみなされる利得が、各締約国において当該恒久的施設に帰せられるものとする。」(下線筆者)とされており、いわゆる独立企業原則に従ってPEの帰属所得を算定することが定められていた。今回の改正では、まさしくAOAを反映すべく、次のような条文となった。
 この条及び第23A、23B条の適用上、各締約国において1に規定する恒久的施設に帰せられる利得は、特に当該恒久的施設を有する企業の他の構成部分との取引において、当該恒久的施設が、同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、当該企業が当該恒久的施設を通じて、及び当該企業の他の部門を通じて遂行した機能、使用した資産及び引き受けた危険を考慮して、当該恒久的施設が取得したとみられる利得とする。(下線筆者)
 この新2項は、大きく2つの要素で構成されている。1点目は、この2項でいう帰属所得の考え方が、第23条の適用にあたっても適用されるということである。具体的には、第23条は二重課税排除の規定であり、外国税額控除の適用、つまり国外所得及び控除限度額を計算する際にも、AOAに基づいてPEの帰属所得を計算し、また国外所得免除であれば、免除されるPEの帰属所得がAOAに基づいて計算されるということになる。
 2点目は、まさしくPEの帰属所得の計算にあたってはAOAに基づいて算定することを明示したことである。AOAは2つのステップによることになるが、その2つのステップが規定されたものと捉えることができる。
 AOAの第一ステップは、PEを、本社を含む企業内の他の部署及び外部の他企業との関係において別個の独立した企業体と擬制することである。この点は、「特に当該恒久的施設を有する企業の他の構成部分との取引において、当該恒久的施設が、同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、」という文言で表している。特に、改正前の「個別のかつ分離した企業(distinct and separate enterprise)」が「分離し、かつ、独立した企業(separate and independent enterprise)」に改正され、より一層、独立企業・独立した事業体の概念が明確にされている。
 AOAの第二ステップは、独立企業間原則に基づいてPEの帰属所得を算定することである。この点は、「当該企業が当該恒久的施設を通じて、及び当該企業の他の部門を通じて遂行した機能、使用した資産及び引き受けた危険を考慮して、当該恒久的施設が取得したとみられる利得とする。(taking into account the functions performed, assets used and risks assumed by the enterprise)」という文言で表している。この概念及び文言は「OECD移転価格ガイドライン」で用いられるものであることから、PEの帰属所得を算定する際に独立企業間原則に従うということは、OECD移転価格ガイドラインを適用(準用)することと同義であるといえる。したがって、PEの帰属所得は、OECD移転価格ガイドラインに従った比較可能分析を行い、PEと取引対象である当該企業の他の部署等のそれぞれの機能分析、資産等の事実関係、リスク負担の状況を検討して、OECD移転価格ガイドラインで認められる独立企業間価格算定方法と同様の方法により算定することになる。
(4)旧第3項から旧第6項の削除  第7条の旧第3項から旧第6項までは、新第2項に定める独立企業間原則に基づくPEの帰属所得の算定との整合的でないことから削除された。以下が、削除の対象となった規定の趣旨である。
 ① 旧第3項:本店の一般管理費の配賦  本項では、PEの帰属所得を算定するにあたって、費用の発生地を問わず、PEのために支出された一般管理費は控除することを認めるという規定であるが、対象となる費用が独立企業間価格を超える場合でも、実際に負担したものである以上控除することができると解釈することができる。また逆に、独立企業間価格ではなく実際に負担した金額しか控除できないとの解釈も可能である。こうした解釈は、支払った実費を基本に捉えるものであり、独立企業間での価格を基本に捉えるAOAとは整合的でないことから削除されたものである。
 ② 旧第4項:企業の利得総額の配賦方式  本項は、企業の利益の総額を一定の割合でPEに配分する方法によってPEの帰属所得を算定する慣行があり、かつこの慣行が独立企業間原則に合致する場合には認められるという規定である。しかしながら、そもそもこうした配分方式は独立企業間原則と矛盾するものであると考えられることから削除されたものである。
 ③ 旧第5項:単純購入非課税の原則  本項は、PEが仕入等の商品及び物品の購入のみを行う場合には、当該行為に対してはいかなる所得も帰属しないということを定めるものである。これは、商品等を購入した時点では利益が実現しておらず、課税すべき程度まで至っていないとの考え方が基本にあるが、AOAの概念に基づけば、商品等の購入も事業活動の流れの中の一つであり、そのためにコストが生じている以上、その機能に応じた所得が帰属すべきということになる。したがって、本項はAOAとは矛盾するものであり、必然的に削除されたものである。
 ただし、PEに該当しないものの定義である第5条第4項(PEから除かれるもの)の中に「商品等を購入するだけの施設」が定められており、その部分は削除されていない。その結果、こうした機能のみを行う施設はそもそもPEに該当せず、さらに帰属所得の問題も生じないこととなる。したがって、旧第5項の削除による影響は、PEが商品等の購入以外の機能を果たしている場合に、これまでは(本店等のために行う)商品購入に関しては収益も費用も認識せず、商品購入以外の部分の業務に関して収益及び費用を認識していたが、今後はこうした機能、行為に対しても収益、費用を認識することになる点である。
 ④ 旧第6項:同一方法の継続適用  本項は、PEの帰属所得の算定にあたり、正当な理由がない限り、毎年同一の方法により計算することを求めるものであるが、AOAの概念に沿って、独立企業間原則に基いてPEの帰属所得を計算する場合、PEが果たす機能、引き受けるリスクや使用する資産等によってその計算も変わることが当然であることから、毎年同じ方法の適用を求める本項の削除が必要であったものである。
(5)新第3項の創設  創設された新第3項は、AOAに基づき算定されたPEの帰属所得につき、本国(本店所在地国)において、二重課税の排除のために必要な範囲で適当な対応的調整を行うことを定めるものである。また、そのために必要な場合には相互協議を行うことも定められた。たとえば、無償資本の配賦に係るアプローチが異なり、PEの帰属所得の算定にあたって損金に算入とされる利息の金額がPE所在地国と本店所在地国で異なる場合には、その結果として二重課税が生じる可能性がある。こうした場合は、最終的に相互協議により課税対象となるPEの帰属所得を算定し、外国税額控除等の対象となる税額を算出することとなる。

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