カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2015年01月26日 【税制改正解説】 平成27年度税制改正大綱をこう読む(2015年1月26日号・№580)

税制改正解説
平成27年度税制改正大綱をこう読む
 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部泰久

はじめに-成長戦略としての平成27年度税制改正

 平成27年度税制改正を一言で表せば成長戦略としての税制である。毎年の税制改正がその時々の経済政策を反映したものとなることは当然としても、今回の税制改正は、アベノミクスの第3の矢としての成長戦略に色濃く縁取られたものとなった。
 昨年12月30日にとりまとめられた与党平成27年度税制改正大綱(以下、大綱)の「基本的考え方」では、デフレ脱却・経済再生をより確実なものにしていくため、「企業収益の拡大が速やかに賃金上昇や雇用拡大につながり、消費の拡大や投資の増加を通じてさらなる企業収益に結び付くという、経済の好循環を着実に実現していくことが重要である。」として、法人税改革が冒頭に掲げられている。このほかにも、高齢者層から若年者層への資産移転に関する様々な措置も、住宅投資や個人消費の活性化という成長戦略に沿うものである。また、地方創生関係の措置も、成長の成果を地方へ波及させようとするものにほかならない。
 そこで、本稿では、平成27年度税制改正の主要項目を、成長戦略の中での位置づけを通して読み込んでいくこととしたい。

Ⅰ 成長志向の法人税改革
 今回の法人税改革は「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」ことにより、法人課税を成長志向型の構造に変えるもの(大綱)と位置付けられている。税率引き下げにより「稼ぐ力のある企業」の税負担の軽減を図る一方で、課税ベースの拡大(特に欠損金繰越控除の制限)や外形標準課税の拡大により、赤字企業や収益力の乏しい企業には厳しい内容となっている。事実、経団連の推計では、赤字企業では外形標準課税の拡大により税負担が増加することはもとより、所得計上企業の中でも結果的に税負担が増大する企業が現れる一方で収益力の高い企業ほどみかけ以上の減税となることが予想される。

1 法人実効税率の引き下げと先行減税  平成27年度改正の最大の課題は法人実効税率の引き下げであったが、実際の検討過程では、まず財源としての課税ベース拡大の方策を課税当局と経団連との間で可能な限り実務的に詰め切り、最終段階で税率をどこまで下げて「先行減税」を確保するかが政治的に決定された。
 経団連では、まずは平成27年度で実効税率2.5%以上の引き下げを求めていたが、結果として、現行34.62%(標準税率)から平成27年度に2.51%引き下げ32.11%に、平成28年度に3.29%引き下げ31.33%となり、両年度でそれぞれ2,100億円の先行減税とされた。この先行減税とは、課税ベースの拡大のうち欠損金の制限が平成29年度に50%まで拡大されることで税収中立となるまでの間の先行との意味である(表1参照)。

 大綱では、平成29年度以降においても、「引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。」とされているが、その財源策として、①大法人向けの法人事業税の外形標準課税のさらなる拡大、②生産性向上設備投資促進税制(平成28年度末期限)、所得拡大促進税制(平成29年度末期限)及び研究開発税制(増加型・高水準型は平成28年度末期限)の縮減・廃止、③減価償却方法の定額法への一本化、などが明記されている。

2 賃上げの原資としての法人税減税  成長戦略の中に法人実効税率引き下げが明確に位置づけられたのは、平成26年度改正において復興特別法人税が前倒し廃止されたことから始まるが、その際に賃金引き上げがその条件とされた。法人税減税が、企業の内部留保の増大ではなく設備投資や研究開発投資に向かうことはそれ以前から期待されていたが、それにとどまらず賃金引上げにより経済の好循環を促すとの考えは、平成26年度改正からであり、今回はこの傾向がより明確に示されている。
 大綱では、法人税改革を通じて「企業が収益力を高めれば、継続的な賃上げが可能な体質となり、より積極的な賃上げへの取組みが可能となる。」とした上で、極めて異例だが、「経済界においては、今般の改革がもたらす経営環境の変化も踏まえ、収益力や生産性の向上に向けて一層の企業努力を行い、得られた利益を従業員や株主に適切に還元するとともに、取引先企業への支払単価を改善することを通じて、経済の好循環の実現に向けて積極的に貢献していくことを求めたい」との言及がなされている。
 なお、昨年12月16日開催の政労使会議において、経団連は次期賃金改定での賃金引上げを了解するとともに、本年1月公表の経営労働委員会報告書の中では、ベースアップも選択肢とした賃金引上げを会員企業に対して呼び掛けていくことになる。

3 外形標準課税の拡大  法人事業税の外形標準課税は、「一部の黒字企業に税負担が偏っている状況を是正して、広く負担を分かち合う構造へと改革する(大綱)」ものとして位置づけられている。
 経団連では外形標準課税の拡大について、法人実効税率20%台への引き下げのためには不可避と考え、①段階的に行うこと、②賃金引き上げ部分を課税対象から除くこと、③適用対象を中小法人に拡大しないこと、の3点を条件として総務省自治税務局と折衝を続けてきた。
 このうち、賃金引き上げ部分を課税対象から除くことについては、外形標準課税における所得拡大促進税制の導入として対応されている。
 具体的には、平成27年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度に国内雇用者に対して給与等を支給する法人について、その法人の雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額=平成24年度の給与等支給額を控除した金額)の基準雇用者給与等支給額に対する割合が3%以上(平成28年度に開始する事業年度については4%以上、平成29年度に開始する事業年度については5%以上)であるときは、その雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除できることとされている。ただし、国税の所得拡大促進税制と同様に、雇用者給与等支給額が前事業年度の雇用者給与等支給額以上であること、および平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額を上回ることが要件とされている。
 また、資本割部分については、現行制度では自社株取得等により減少し負担がゼロとなる企業が続出しているため、その課税標準の見直しを行うこととされた。資本割の課税標準である法人税法上の資本金等の額が、会社法上の資本金と資本準備金を合計した額を下回る場合には、資本金と資本準備金を合計した額が資本割の課税標準となる。なお、併せて法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額についても、無償増減資等の金額を加減算する措置を講ずるとともに、当該資本金等の額が資本金と資本準備金の合計額を下回る場合には、資本金と資本準備金の合計額を均等割の税率区分の基準とすることとされた。
 また、与党税調における検討の過程で資本金が数億円レベルの中堅企業に対する負担緩和が強く主張されたため、負担変動軽減措置が2年間限りの措置として導入された。具体的には、平成27年度中に開始する事業年度に係る付加価値額が40億円未満の法人について、当該事業年度に係る事業税額が平成26年度の付加価値割、資本割及び所得割の税率を当該事業年度のそれぞれの課税標準に乗じて計算した額を超える場合には、付加価値額が30億円以下の法人についてはその超える額の1/2を、付加価値額が30億円超40億円未満の法人についてはその超える額に付加価値額に応じて1/2から0の間の割合を乗じた額を事業税額から控除する。


4 課税ベースの拡大  法人税減税財源については、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略2014」の中では、課税ベースの拡大とアベノミクスの成果としての自然増収がともに示されていたが、実際には「2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するため制度改正を通じた課税ベース等により、恒久財源をしっかり確保する(大綱)」との方針が貫かれていた。
 具体的な課税ベース拡大については、昨年8月末に、法人事業税外形標準課税の拡大と併せて欠損金繰越控除の制限、受取配当益金不算入の制限、研究開発税制の縮減を平成27年度・28年度に行い、さらに減価償却制度の定額法一本化を平成29年度に行うとの方針が、財政当局より自民党税調幹部に対して示され、9月初めより経団連と財務省主税局との折衝が続けられ、11月中にはほぼ合意をみていた。その概要を整理して示しておく(表2参照)。


Ⅱ 消費拡大のための資産移点促進等
 昨年4月の消費税率引き上げによる消費の停滞や住宅投資の落ち込みが、昨年4-6月期および7-9月期マイナス成長の大きな要因となっていること等を理由として、本年10月に予定されていた消費税率再引き上げは延期された。
 一方で、平成29年4月には、確実に引き上げを行うために景気判断条項は外すこととされており、それまでに日本経済を成長軌道にのせるための個人消費や住宅投資の拡大を意識した異例の措置が平成27年度税制改正では並べられている。そのキーワードは「高齢者層から若年層への資産の早期移転」である。

1 住宅関連  その最たるものは、住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置の拡充である。大綱では極めて率直に「高齢者層から若年層への資産の早期移転を通じて、すそ野が広く経済波及効果が大きい住宅需要を刺激する」とともに「消費税率引上げの前後における駆け込み需要及びその反動による住宅市場への影響を踏まえ、その影響の平準化及び緩和を図る」とされている。
 そのため、消費税率引き上げを行う平成29年4月の前後各半年間(平成28年10月1日~29年9月30日)に非課税限度額のピークが3,000万円(良質な住宅の場合)に設定されている。
 なお、住宅については、消費税率引上げによる住宅投資への影響の平準化・緩和策である住宅ローン減税の拡充等の対象期間を平成31年6月30日まで1年半延長するほか、「住宅市場に係る対策については、今般の経済対策を含むこれまでの措置の実施状況や今後の住宅着工の動向等を踏まえ、必要に応じて検討を行う(大綱)」とされている。この裏側には、消費税の軽減税率の対象に住宅を入れない代わりに、これらの税制措置のさらなる拡充があり得ることが示されているものと考える。

2 結婚・子育て資金の一括贈与  高齢者層から若年層への資産の早期移転のための第2の措置は、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設である。平成27年度から30年度までの間の時限措置として、成年(20歳以上50歳未満)の結婚・子育て資金として直系尊属が受贈者1人につき1,000万円(結婚資金は300万円)までを非課税で贈与できる制度である。
 これは大綱では「少子高齢化の進展・人口減少への対応」のためとされているが、そうであれば恒久的な措置とすべきであり、実態は現行の教育資金贈与特例の延長・拡充とともに、「祖父母や両親の資産を早期に移転することを通じて」消費を拡大させようとする措置である。

3 ジュニアNISA  また、ジュニアNISA(未成年者口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)の創設も「投資家のすそ野拡大・成長資金の確保」とされているが、NISAの非課税投資枠の年間120万円への引上げとともに、資産効果を通じた消費拡大策でもある。

4 車体課税の見直し  ここ数年間の税制改正では、消費税率引き上げ対策として掲げられてきた車体課税の見直しであるが、今回は景気対策としても位置付けられている。
 昨年の大綱で明示された消費税率10%段階の車体課税の見直しについては、平成28年度以後の税制改正において具体的な結論を得るものとして先送りされたが、自動車取得税・自動車重量税に係るエコカー減税については、燃費基準の移行を円滑に進めるとともに、「足下の自動車の消費を喚起することにも配慮(大綱)」しての経過的な措置として、平成32年度燃費基準への単純な置き換えを行うとともに、現行の平成27年度燃費基準によるエコカー減税対象車の一部を引き続き減税対象とすることとされた。
 さらに、軽自動車税についても、一定の環境性能を有する四輪車等について燃費性能に応じたグリーン化特例(軽課)が導入され、二輪車等の税率引上げは適用開始を1年間延期し、平成28年度分からとされた。

Ⅲ 地方創生のための税制
 成長戦略のもう一つの重要な要素は地方振興である。実は、地方創生関係の税制措置については、各省庁からの税制改正要望の締め切りである8月末までに間に合わず、27年度改正ではどこまで取り上げられるのか見通しもつかなかったが、大綱とりまとめ直前の12月27日にとりまとめられた「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(長期ビジョン)」に従って、最終局面で数々の地方創生関係税制が追加された。
 このうち最も重要であるのは、「企業が、その本社機能等を東京圏から地方に移転したり、地方においてその本社機能等を拡充する取組みを支援するため(大綱)」すなわち企業の地方移転を促進するための優遇税制としての地方拠点強化税制(本社等の建物に係る投資減税、雇用促進税制の特例)の創設である。
 いずれも、地域再生法による地方拠点強化実施計画の承認が要件となるが、たとえば東京23区から地方への移転であれば、本社等の建物の取得に対して25%の特別償却か7%税額控除の選択適用、地方拠点での雇用者数増加1人当たり80万円(最大3年間で140万円)の税額控除を受けることができる。
 このほか、ふるさと納税の促進(特例控除額の上限を個人住民税所得割額の1割から2割へ引上げ、ふるさと納税を簡素な手続で行えるふるさと納税ワンストップ特例制度の創設)や、外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充も地方創生推進のための措置として掲げられている。

Ⅳ その他
 以上、成長戦略との関連で平成27年度税制改正を見てきたが、今回の税制改正では、そのほかにも押さえておきたい重要項目がある。

1 国際課税  欧州における米国系多国籍の租税回避を契機として一昨年から開始されたOECD・G20諸国による「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクト」は、昨年秋以降、順次取りまとめに入っており、本年中には全てのアクション・プランが終了する予定である。
 これを受けて、今後数年のうちに国際課税制度は大きく変化していくが、今回の税制改正ではその第一弾となる改正として、外国子会社配当益金不算入制度の見直しが行われている。これは、国際的な二重非課税を防止する観点から、外国子会社の所在地国において損金に算入される配当を外国子会社配当益金不算入制度の適用対象から除外するものであり、BEPSのアクション・プラン2-ハイブリッド・ミスマッチの無効化に関するOECD勧告を受けた改正である。具体的には、現地国において支払配当の全部あるいは一部が損金算入されている場合には、その対応した額を益金不算入の対象から除外するものであり、オーストラリアの償還優先株式に係る優先配当やブラジルの利子配当等が該当するものとなる。
 国際的な租税回避を各国協調して防止することで公平な課税を実現するためのものとして、非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度が整備される。
 さらに、国境を越えた人の動きに係る租税回避を防止する観点から、出国時における株式等に係る未実現のキャピタルゲインに対する譲渡所得課税の特例(出国税)が創設される。
【出国税の概要】 ・在住期間要件:出国直前10年内において5年以上居住者であった者
・対象資産:有価証券、匿名組合契約の出資持分、未決済デリバティブ取引等
・資産規模要件:対象資産の出国時の評価額の合計額が1億円以上
・未実現のキャピタルロスについても出国時に実現したものとみなして課税所得を計算
・出国時に他の所得と併せて申告納税を行うか、納税管理人を届出手、主国翌年の確定申告時に他の所得と併せて申告納税を行う
・一時的な出国であり出国期間中に資産売却を行うことなく帰国を予定している者等については、出国時に担保を提供することで納税を猶予する。出国期間中に資産売却を行うことなく5年以内に帰国した場合には、帰国時に出国時特例分は免除。

2 固定資産税の現行制度維持  固定資産税については、総選挙後の12月半ばを過ぎてから、総務省より商業地等の宅地に係る負担調整措置(課税標準の60%~70%の間にある場合は据置き)の見直し等が提案されたが、「現下の最優先の政策課題はデフレ脱却であることを踏まえ(大綱)」、平成27年度から平成29年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとされた。

3 納税環境整備  納税環境整備に関しては、出国税の創設と併せて財産債務明細書を財産債務調書に改めることで、所得税・相続税の申告の適正性を確保するため記載内容を充実するなどの見直しが行われる。また、マイナンバーが付された預貯金情報を税務調査において効率的に利用できるようにする観点から、銀行等に対し預貯金情報をマイナンバーにより検索可能な状態で管理することが義務付けられる、等の改正が行われる。
【財産債務調書の概要】 ・提出基準:年間所得金額2,000万円超
     +年末の財産価額の合計額が3億円以上
      または
      年末の有価証券等の合計額が1億円以上
・記載事項
 :財産の種類、数量、価額(原則は時価、見積もり価額も可)、所在、有価証券の銘柄・取得価額
・過少申告加算税の特例
 :財産債務調書の有無等により所得税・相続税に係る過少申告加算税などを加減算(国外財産調書と同様)

4 中小法人の扱いについて  今回の税制改正では、中小法人関係での増税は皆無であった。法人税の軽減税率の特例(15%)や、中小法人向け各種租税特別措置も手つかずであり、欠損金の繰越控除の制限も大法人のみである。外形標得準課税の適用対象の拡大も、政府税制調査会では大いに議論されていたが、9月以降の折衝の中では話題にさえ上らなかった。
 しかし今回の大綱では、基本的考え方の中で、中小法人について「資本金1億円以下を中小法人として一律に扱い、同一の制度を適用していることの妥当性について」検討を行うとした上で、「中小法人のうち7割が赤字法人であり、一部の黒字法人に税負担が偏っている状況を踏まえつつ、中小法人課税の全般にわたり、各制度の趣旨や経緯も勘案しながら、引き続き、幅広い観点から検討を行う」とされている。また、検討課題の中では、小規模企業等に係る税制のあり方について、「個人と法人成り企業に対する課税のバランスを図るための外国の制度も参考に、所得税・法人税を通じて総合的に検討する」とされている。これらが直ちに中小法人税制の見直しにつながることはないとしても、今後の動向には注目しておきたいところである。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索