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解説記事2019年01月07日 【特別解説】 耐用年数を確定できない無形資産①~概要とIFRS任意適用日本企業の計上額~(2019年1月7日号・№769)

特別解説
耐用年数を確定できない無形資産①
~概要とIFRS任意適用日本企業の計上額~

はじめに

 ここのところ、特に欧米諸国の主要な企業のM&Aの大型化が急速に進み、のれんの残高が急ピッチで積み上がってきていると言われている。これを受けて、現在のところはのれんを非償却(減損テストのみ)としている国際財務報告基準(IFRS)の規定を見直そうという機運が生じてきており、我が国の新聞や雑誌でも頻繁に取り上げられている。金額が大きく、知名度も高いのれんの陰に隠れがちであるが、IFRSや米国会計基準では、のれんと同様に非償却(減損テストのみ)という取扱いになっている無形資産が存在する。これが「耐用年数を確定できない無形資産」である。
 わが国の会計基準では「耐用年数を確定できない無形資産」という考え方がないためになじみが薄いが、IFRSを適用して有価証券報告書を作成・公表している日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)では、耐用年数を確定できない無形資産を計上している事例が散見される。本稿では、耐用年数を確定できない無形資産を取り上げて、2回に分けて、IFRS任意適用日本企業やIFRSを適用する欧州大陸及び英国の企業、及び米国会計基準を適用する米国企業を題材として、調査分析を試みることとしたい。まず第1回目の本稿では、耐用年数を確定できない無形資産とはどのようなものかを概観した後で、IFRS任意適用日本企業の計上の状況を取り上げる。第2回では、諸外国(米国、欧州大陸及び英国)の企業における耐用年数を確定できない無形資産の計上の状況について、同様の調査分析をすることとしたい。

調査の対象とした企業
 今回の調査(全2回)の対象としたのは、2018年3月期までにIFRSに基づく連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を提出したIFRS任意適用日本企業158社と、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)指数100を構成する銘柄である、米国の大企業100社(米国会計基準を適用)、FTSE指数を構成する銘柄の100社(IFRSを適用する英国の大企業が中心)、及びSTOXX指数構成銘柄のうちの100社(IFRSを適用する英国以外の欧州大陸の大企業が中心)である。このうち本稿ではまず、IFRS任意適用日本企業を取り上げる。冒頭にも記したように、我が国の会計基準では、一部の借地権等を除いて無形固定資産には耐用年数があり、償却の対象となるが、IFRSと米国会計基準では、「耐用年数を確定できない無形資産」というカテゴリーが存在する。なお、「耐用年数を確定できない(indefinite life)」とは、土地のように、耐用年数が無限であることを意味するわけではない。後述するように、状況の変化等により、耐用年数を確定できない無形資産から耐用年数を確定できる(=償却対象の)無形資産に分類変更する場合も想定されている。

耐用年数を確定できない無形資産とは?
 耐用年数を確定できない無形資産について規定するIFRSは、IAS第38号「無形資産」であり、第88項では、次のように定められている(下線は筆者)。
 企業は、無形資産の耐用年数が確定できるか又は確定できないかを査定し、もし有限であれば、その耐用年数の期間、又は製品あるいは構成する同様の単位の数を検討する。関連するすべての要因の分析に基づいて、無形資産が、企業に対して正味のキャッシュ・インフローをもたらすと期待される期間について予見可能な限度がない場合、企業は、当該無形資産の耐用年数は確定できないものとみなさなければならない。
 無形資産が、企業に対して正味のキャッシュ・インフローをもたらすと期待される期間について予見可能な限度があるか、ないかについては高度な判断が要求され、ある程度のばらつきが生じることは避けられない。IAS第38号には無形資産の耐用年数の査定についての設例が9つ設けられており、そのうちの以下の4つについて、耐用年数が確定できない無形資産に該当するとの判断がなされている。
① 5年で期限が切れる放送免許の取得(設例4)
② 3年で期限が切れるヨーロッパ2都市間の空路権の取得(設例6)
③ 過去8年間にわたり市場シェア首位である目玉商品を識別し区別するために使用される商標の取得(設例7)
④ 目玉商品を区別する10年前に取得した商標(設例8)
 これらのうち、①、②、③が耐用年数を確定できない無形資産とされる理由は次のとおりである。
 ① 5年で期限が切れる放送免許の取得 ・免許はほとんど費用をかけずに、不確定の期間にわたって更新することができ、直近の更新以前に2度、更新されている。
・取得企業は免許を永久的に更新したいと考え、それが可能となる裏付け証拠もある。
・過去の免許の更新に、重大な課題は存在していない。
・放送に用いられている技術が、予見できる将来において別の技術に取って代わられるとは予測されていない。
・したがって、免許は、企業の正味キャッシュ・インフローに永久的に寄与すると予測される。
 ② 3年で期限が切れるヨーロッパ2都市間の空路権の取得 ・空路権の更新は最低限の費用で行われ、空路権は航空会社が準拠法や規則を遵守している場合には普通に更新されてきた。
・取得企業は、ハブ空港から両都市の間のサービスを不確定の期間にわたって提供することを考えており、関連のサービスを提供するためのインフラ(空港ゲート、スロットやターミナル施設のリース)も、空路権を有している限り、空港においてそのまま活用できると予測している。
・事実関係及び周囲の状況から、取得企業は両都市の間の航空サービスを不確定の期間にわたって提供できると考えられる。
 ③ 過去8年間にわたり、市場シェア首位である目玉商品を識別し区別するために使用される商標の取得 ・商標の法的残存年数は5年であるが、ほとんど費用なしに10年ごとに更新可能となっている。
・取得企業は商標を継続的に更新するつもりであり、裏付けとなる証拠からそれは可能となる。
・(1)商品寿命の研究、(2)市場、競争及び市場の趨勢、及び(3)ブランドの拡大機会の分析により、この商標のついた商品は取得企業に対し、不確定の期間にわたり、正味キャッシュ・インフローをもたらすことが分かっている。
 耐用年数を確定できない無形資産は償却してはならず、IAS第36号「資産の減損」に従って、毎年及び当該無形資産に減損の兆候がある場合はいつでも減損テストを行う必要がある(IAS第38号第107項、第108項)。
 そして、耐用年数を確定できないと判断された無形資産については、当該資産の耐用年数を確定できないものとする事象又は状況が引き続き存在するかどうかを毎年見直す必要がある。もしそれらが存在しなくなれば、耐用年数を確定できないものから確定できるものに変更し、会計上の見積りの変更として会計処理しなければならない(第109項)。また、IAS第36号に従って、無形資産の耐用年数を、確定できないのではなく有限であると再査定することは、当該資産の減損の兆候となるとされている(第110項)。
 なお、米国会計基準では、(ASC350「無形資産―のれん及びその他」において、IAS第38号と同様の規定が置かれている。

IFRS任意適用日本企業の計上状況
 IFRS任意適用日本企業158社のうちで、耐用年数を確定できない無形資産を計上していたのは42社であり、残高が大きい上位10社は表1のとおりである。

 のれんと同様に、ソフトバンクの計上額が群を抜いて大きい。ソフトバンクの場合、のれんの計上額(4兆3,025億53百万円)と耐用年数を確定できない無形資産の計上額(4兆1,754億64百万円)とを合計すると8兆4,780億17百万円となり、連結純資産金額(6兆2,730億22百万円)を大きく上回ることになる。
 次に、耐用年数を確定できない無形資産の計上額の分布を示すと、表2のとおりである。 1,000億円を超える残高がある企業は、IFRS任意適用日本企業158社のうち、わずか5社に過ぎない(のれんの場合、41社の計上額が1,000億円を上回る)。

 また、耐用年数を確定できない無形資産として計上されていた項目を列挙すると、表3のとおりである。商標権、トレードマークとブランドでほとんどが占められていることがわかる。

 表3の項目のほかに、フランチャイズ権(双日、サントリー食品インターナショナル)、取引所会員権(マネックスグループ)、キャリアショップ運営権(兼松)等の事例がある。
 なお、個別の計上項目の金額の中では、ソフトバンクのFCCライセンス(3兆9,605億97百万円)が圧倒的に大きい。なお、FCCライセンスとは、米国連邦通信委員会(FCC)が付与する特定の周波数を利用するためのライセンスである。
 なお、今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業の158社には含まれていないが、2019年3月期第一四半期からIFRSを任意適用しているNTTとNTTドコモ(2018年3月期は、両社ともに米国会計基準を適用)は、2018年3月末日現在、表4の金額の耐用年数を確定できない無形資産を計上している。


サントリー食品インターナショナルが2017年12月期に行った注記
 2017年12月期よりIFRSを任意適用したサントリー食品インターナショナルは、IFRS任意適用日本企業の中では2番目の、3,500億円強の耐用年数を確定できない無形資産を計上している。サントリー食品インターナショナルが行った開示は次のとおりである。我が国でもよく知られている商標が顔をそろえている。
 「耐用年数を確定できない無形資産の内訳は、次のとおりです。
 Lucozade及びRibenaの商標権は、2013年12月31日に行ったLucozade Ribena Suntory Limitedの事業譲受時に取得したものです。また、Schweppes、Orangina、Oasis及びLaCaseraの商標権は上述のOrangina Schweppes HoldingB.V.の買収により取得したものです。米国ノースカロライナ州等、及びベトナムのフランチャイズは、Pepsico社と締結したそれぞれの地域に関するフランチャイズ契約を無形資産として識別したものです。これらの商標権、フランチャイズは、事業が継続する限り存続すると見込まれるため、耐用年数を確定できない無形資産に該当すると判断し、償却していません。」


無形資産の耐用年数を確定できないと査定した理由
 開示例を紹介したサントリー食品インターナショナルもそうであるが、IFRS任意適用日本企業の場合、「事業が継続する限り存続すると見込まれるため」といった紋切り型の文言がよく用いられている。本稿の前半部分で取り上げたIAS第38号の設例のように、無形資産の耐用年数を確定できないと査定した理由について詳細に説明している事例は少ない。
 そのような中で、耐用年数を確定できないと決定した際に重要な役割を果たした要因について、ある程度具体的な開示を行っていた3社の事例を紹介する(いずれも、各社の2018年3月期の有価証券報告書における開示の抜粋である。下線はいずれも筆者。)。
①-1 ソフトバンク FCCライセンス 3兆9,605億97百万円  FCCライセンスは、米国連邦通信委員会(FCC)が付与する特定の周波数を利用するためのライセンスです。FCCライセンスは規制当局の定める規制に準拠している限り、その更新・延長は最低限のコストで行うことができることから、FCCライセンスの耐用年数を確定できないと判断しています。
①-2 ソフトバンク 商標権 6,648億78百万円  商標権のうち、「Sprint」「Boost Mobile」などの事業が継続する限りは法的に継続使用でき、かつ、予見可能な将来にわたってサービスを提供することを経営陣が計画している商標権については、耐用年数を確定できないと判断しています。
② 日本板硝子 ピルキントン・ブランド 362億94百万円  ピルキントン・ブランドは、耐用年数が特定できないため定額償却は行われません。ピルキントン・ブランドは、ガラス業界における長い歴史を有しており、世界のガラス市場において確固とした地位を築いてまいりました。こうした要素およびその事業規模が、ブランドの永続に寄与しています。当社グループは今後とも末永くピルキントン・ブランドを活用してまいります。
③ プレミアグループ 顧客関連資産4,580百万円  顧客関連資産は、被取得企業がクレジット事業及びワランティ事業における事業運営のノウハウやバリューチェーン、運営組織等を包括したものであり、当社の将来における超過収益力の根幹をなすものです。当該資産は、事業が継続する限り基本的に存続するため、将来の経済的便益が期待される期間について予見可能な限度がないと判断し、耐用年数を確定できない無形資産に分類しております。

業種等による特徴
 内部で創出されるブランド等及び実質的にこれらに類似する項目に関する支出は、事業を全体として発展させる原価と区別することが不可能であることから、無形資産として認識してはならないとされていることから(IAS第38号第63項、第64項)、連結財政状態計算書(貸借対照表)に計上されている耐用年数を確定できない無形資産は、企業結合や個別の取引等で外部から取得したもののみである。企業結合や個別の取引等で多額のブランドや商標権、フランチャイズ権等を取得しているのは、総合商社や食品、飲料メーカーが多い。これらの業種では、特定の商標権やブランド、ブランドネーム等の取得を目的としたM&Aが頻繁に行われている。また、仕掛研究開発は製薬業の企業、ライセンスは通信業の企業の事例が見られた。

終わりに
 次回は、米国会計基準を適用する主要な米国企業、IFRSを適用する欧州大陸の企業及び英国企業による耐用年数を確定できない無形資産の計上の状況を取り上げて、IFRS任意適用日本企業との比較を適宜交えながら、調査分析することとしたい。

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