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資料2020年10月22日 【税制改正関連情報】 第3回税制調査会 議事録

第3回税制調査会 議事録

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税制調査会(第3回総会)議事録
日 時:令和2年10月22日(木)10時15分
場 所:WEB会議(財務省第3特別会議室を含む)

○中里会長
それでは、ただいまから第3回税制調査会を開会いたします。
本日は、前回に引き続き新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、委員の皆様
方の御理解、御協力をいただきまして再びオンラインの会議とさせていただきました。
本日の出席者一覧は、お手元にお配りさせていただいており、現在、全員の皆様と
の接続が確認できています。
もし、会議の途中でパソコン操作などに支障が生じましたら、あらかじめお伝えし
ています事務局の電話番号に御連絡をいただければ、対応させていただきます。
なお、本日の総会も公開とさせていただいております。プレスの方々には本来であ
れば会議室内で傍聴していただくのですが、3密回避の点からも本日も別室にてリア
ルタイムで会議の模様を御覧いただくこととしていますので、よろしくお願いします。
なお、加えて、インターネットでのリアルタイム中継も行っていますので、その点、
お含みおきくだされば幸いです。
それでは、議事を進めてまいります。
8月5日に開催しました第2回総会にて「中期答申、経済社会の構造変化等につい
て」を議題に委員の皆様から実に幅広く御意見を頂戴しました。本日は、まず前回の
御意見の整理を事務局から簡単に御説明いただき、その後、老後に係る税制のあり方、
経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応、この二つについて議論を進めていくとと
もに、さらに納税環境整備に関する専門家会合についても御報告をいただきます。
それでは、カメラの皆様は御退室をよろしくお願いします。
(報道関係者退室)
○中里会長
それでは、初めに、財務省から説明をお願いします。
主税局木原調査課長、よろしくお願いします。
○木原主税局調査課長
先ほど中里会長からお話がありましたとおり、政府税制調査会第2回総会におきま
して、幅広く先生方から御議論いただきましたので、その議論のポイントを簡単に御
紹介させていただければと思います。議事録の全体につきましては、内閣府のホーム
ページに公表されますので、ここで全ての論点をカバーし切ることはできないかと思
いますが、簡単に御紹介をさせていただければと思います。
一つ目は、新型コロナウイルス感染症により、昨年の税制調査会の答申において指
摘した経済社会の構造変化がさらに加速するのではないかという御指摘を、多くの先
生方からいただきました。
二つ目は、日本経済社会の根源的なトレンドであります少子高齢化につきましては、
引き続き日本が直面する大きな課題です。女性の労働参画の促進や、あるいは高齢者
がより働きやすくというようなトレンドもあるかと思いますが、そういった形での経
済の担い手を拡大しながら財政の持続可能性をしっかりと確保していく必要があるの
ではないかという御指摘もいただいたところです。
三つ目は、働き方・ライフコースの多様化が一層進んでおり、特に新型コロナウイ
ルス感染症の影響で一層多様化が進んでいくのではないかという御指摘を多くいただ
いたところです。こうした中で、これに対応した税制を、特に格差の固定化につなが
らないように配慮しながら税制を構築していくべきではないかという御指摘もいただ
きました。
四つ目は、新型コロナウイルス感染症の影響や経済のデジタル化等により個人や企
業の活動が大きく変化し、産業の構造変化も併せて進む中、税制上の課題について、
国際的な議論も踏まえながら様々な側面から対応していく必要があるのではないかと
いう御指摘をいただきました。
五つ目は、少し新しい視点かもしれませんが、例えば気候変動問題などの観点を踏
まえながら、持続可能な経済社会の実現に資するような税制をどのようにつくってい
くのかという議論も必要ではないかという御指摘をいただきました。
続く六つ目と七つ目は、第2回総会で御了承いただきましたが、既に専門家会合で
議論しています納税環境整備についてです。
一点目は、ウィズコロナ時代における税務手続の電子化等による利便性向上と、そ
れと併せてグローバル化・デジタル化が進む中での適正課税のあり方、この両面から
議論を深めていく必要があるのではないかという御意見がございました。
二点目は、税務関係手続の書面・押印・対面原則の見直し、あるいは電子帳簿等保
存制度のあり方について現在の状況、経過も踏まえながらきちんと検討すべきではな
いかという御指摘をいただいたところです。
最後は、より幅広い議論でございますが、財政健全化の重要性や税の果たすべき役
割について、従前からやってきていることではありますが、国民の皆様の理解をさら
に得るべく広報をしっかり行っていくべきだという御指摘をいただいたところです。
私からは以上です。
○中里会長
ありがとうございました。
今後は、諮問にもあるとおり、中期答申に示された考え方を踏まえ、前回及び本日
にいただく御意見も参考にしながら、あるべき税制の具体化に向けた議論を進めてい
きたいと考えます。
そのため、当面は、中期答申で既に示された具体的な課題でもある働き方の違いに
よって、有利・不利が生じない老後に係る税制のあり方、資産移転の時期の選択に中
立的な税制のあり方、そして、経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応について、
専門的な議論を進めていくとともに、岡村座長を中心に専門家会合を精力的に行って
いただいている納税環境整備につきましても御報告を賜われればと考えています。
それでは、まず本日は、働き方やライフコースの多様化が今後、一層進むことが見
込まれる中、働き方の違いによって有利・不利が生じないような老後に係る税制のあ
り方について議論を進めたいと思います。
このテーマにつきましては、これまでも海外調査報告などで理解を深めてきたとこ
ろですが、中期答申においても包括的な見直しを行うべく検討を丁寧に行っていく旨、
取りまとめられたところです。
こうした観点から、最初に事務局から御説明をいただき、続いて、今日は本当に大
変お忙しい中、慶應義塾大学の佐藤英明先生にお越しいただきましたので、「老後に
係る税制の諸課題」についてプレゼンをお願いできればと思います。その後で委員の
皆様から御意見を頂戴いたします。
それでは、初めに、財務省から説明をお願いします。
主税局植松税制第一課長、お願いします。
○植松主税局税制第一課長
お手元の説明資料総3-2をお開きください。
まず3ページ、平成31年度の与党の税制改正大綱でございます。ここにありますと
おり、老後に係る税制につきましては企業年金、個人年金等の年金税制、貯蓄・投資、
保険等の金融税制が段階的に整備・拡充されてきましたが、働き方の多様化が進展す
る中で、働き方の違い等によって税制による支援が異なること、さらに各制度それぞ
れで非課税枠の限度額管理が行われていることといった課題があるとされています。
こうした中で、働き方の違いやライフコースの多様化等によって有利・不利が生じ
ないようにするなど、公平な制度を構築する観点から諸外国の制度も参考に包括的な
見直しを進めることが課題となっています。したがって、本日、ここで御議論いただ
きたいテーマも働き方やライフコースの多様化を踏まえ、いかに公平な制度あるいは
税制を構築していくかということになろうかと思います。
続きまして、4ページをお開きください。こちらは令和元年9月に政府税制調査会
で取りまとめていただいた答申です。ここにある具体的な論点は後ほど改めて取り上
げたいと思いますが、一点付言いたしますと、政府税調におかれましては昨年春に海
外調査を行っており、この答申においても、諸外国の例としてイギリスやカナダの事
例も盛り込んでいます。
続きまして、5ページです。先ほどの中期答申を踏まえて令和元年12月に取りま
とめられた与党の税制改正大綱ですが、イギリス、カナダの例についても言及されて
いるところです。
次に6ページを御覧ください。平均寿命の延伸を示した図です。
続きまして、7ページを御覧ください。こちらは高齢者世帯の1世帯当たりの平均
所得金額を示したものです。所得の構成割合について、2008年と2018年を比較します
と、公的年金・恩給の部分の割合が減っていて、その代わりに雇用者所得あるいは企
業年金・個人年金等の割合が概ね2倍程度増加している状況が見てとれると思います。
続きまして、8ページを御覧ください。高齢者世帯の貯蓄の状況です。金融資産額
が3,000万円以上の世帯が全体の約4分の1程度ありまして、一方で、450万円未満の
世帯も2割弱ぐらいあるということで、二極化の状況にあることが見てとれると思い
ます。
9ページは私的年金等の非課税措置等の概要をまとめたものですが、上半分が確定
給付企業年金や確定拠出年金等の私的年金、下半分がNISA等の非課税貯蓄等でござい
ます。私的年金については、拠出時非課税、運用時非課税、給付時一部課税というこ
とで、政府税調でも議論いただいていましたが、いわゆるEE、スモールTという状況
になっている。一方で、NISA等の非課税貯蓄については拠出時課税、運用時非課税、
給付時非課税となっています。
続きまして、10ページ以降ですが、まず拠出段階について資料を整理しています。
中ほどの黒い枠が企業年金・個人年金等ですが、正規雇用労働者と非正規雇用労働者、
さらにフリーランス等では用意されている制度が違うことが見てとれると思います。
また、正規雇用労働者の中でも大企業と中小企業で拠出額が異なるという状況もござ
います。
続きまして、12ページを御覧ください。主な私的年金制度、非課税貯蓄の加入者数
等の推移ですが、先ほど申し上げたEE、スモールTの対象になるのがこの赤い枠で囲
まれたところです。具体的には令和2年3月のところで見ていただきますと個人型確
定拠出年金、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金の加入者数が増えている状況が
見てとれると思います。
企業型のDC、DBの加入者数の推移をより細かく示したのが13ページです。
続きまして、14ページ、こちらはiDeCoの加入者数の推移になります。右側に2号加
入者、すなわちサラリーマン等の加入者の内訳の推移を示しています。2017年1月か
ら、企業年金に加入しているサラリーマン、さらには公務員にもiDeCoの加入範囲が拡
大していますが、現状、御覧のような内訳で増加している状況にあります。
続きまして、昨年春に政府税調で海外調査を行っていただきましたが、その一つの
成果として、各国の私的年金税制等について整理しております。15ページを御覧くだ
さい。カナダは働き方や私的年金の種類にかかわらず非課税拠出に共通の枠を設ける
という共通型という制度となっています。また、アメリカにつきましては企業年金に
加入していると所得に応じて個人退職勘定の限度額が調整されるという調整型と呼ば
れる制度となっています。
続きまして、16ページを御覧ください。こちらはイギリス、フランス、ドイツの例
を出していますが、イギリスは共通型の制度、フランスは個人年金貯蓄制度の拠出枠
を通じて企業年金等と拠出枠を調整する調整型の制度となっています。
一方で日本はどうかと申し上げますと、17ページを御覧ください。サラリーマンに
つきましては、この厚生年金保険の上部に、企業型のDC、個人型DC、つまり、iDeCoで
ございますが、実施ケースの組合せが全部で6通りあるということになっており、そ
の組合せによって拠出限度額が決まっているという形になっています。その際、例え
ば、企業型DCを実施し、規約で個人型DCの加入を認めている場合ですと、企業型DCを
実施している場合はiDeCoに加入するには規約で定めて認めるという必要があるとい
う課題がありました。
それに対して、18ページを御覧ください。こうした状況の中、本年春に年金制度の
法改正が行われ、規約の制約をなくし、企業型DC加入者もiDeCoの拠出限度額2万円の
範囲内で、かつ、企業型DCとの合計が企業型DCの拠出限度額5.5万円の範囲内で、iDeCo
の拠出が可能となります。これは令和4年10月の施行となっています。
さらに、現在、社会保障審議会企業年金・個人年金部会で議論されていますのは、
企業型DCとDBを合わせて実施しているケースです。現在はDBを実施している場合には
一律に掛金相当額を月額2.75万円と評価しており、企業型DCの限度額は2.75万円とな
っている状況です。
しかし、実際のDBの掛金額の状況につきましては19ページを御覧ください。加入者
1人当たりのDBの掛金額の状況を見ますと、全体的に2.75万円より低く、5,000円から
1万円までの範囲に集中しており、随分ばらつきがあります。
20ページ、これは2020年10月14日に開催された社会保障審議会企業年金・個人年金
部会の資料ですが、一律にDB掛金相当額を月額2.75万円と評価するのではなく、実態
に応じて、より公平にきめ細やかな制度とする方向で検討されていると承知していま
す。
21ページも併せて同様の資料でございます。
22ページを御覧ください。拠出段階における論点をここに掲げています。冒頭の答
申からの引用、抜粋でございますが、働き方やライフコースが多様化している中で、
いかに公平に支援するための税制を構築するかが求められています。我が国において
は、これまで私的年金に関する税制が段階的に整備・拡充されてきた中で、働き方の
違い等によって税制の適用関係が異なることや、各制度それぞれで非課税拠出枠の限
度額管理が行われていることといった課題があります。
例えばイギリス、カナダにおいては、各種私的年金に共通の非課税拠出限度額を設
けており、働き方の違い等によって有利・不利が生じないような仕組みとなっていま
す。
諸外国の例も参考にしつつ、働き方の違い等によって有利・不利が生じないような
企業年金・個人年金等に関する税制上の取扱いについて検討するとともに、拠出・運
用・給付の各段階を通じた適正な税負担のあり方についても検討する必要があるとの
指摘を受けています。こうした論点を踏まえて将来像について御議論いただければと
思います。
23ページ以降は給付段階の資料です。拠出段階と異なり、これまであまり将来像に
ついて議論ができていませんでしたので基礎的な資料を用意しています。
24ページをお開きください。まず公的年金等控除制度の概要ですが、国民年金、厚
生年金に加えまして確定給付企業年金、確定拠出年金等による年金給付についてもこ
の制度が適用されることになります。公的年金等控除額について、平成30年度改正後、
令和2年分から適用されますが、65歳以上の場合は最低保障額が110万円であり、控除
額の上限は195.5万円となっています。
25ページをお開きください。こちらは公的年金等控除に係る政府税調の過去の答申
で、高齢者の担税力は他の所得に比べてかなり低いと考えられることや、経済的稼得
力が通常減退する局面にある高齢者であることを考慮したものという整理をされてい
て、一方で、年金以外に給与を得ている者にとっては給与所得控除と公的年金等控除
が各々適用されることも指摘されています。
続きまして、26ページを御覧ください。答申の中に指摘があったように高齢者の中
でも給与所得者が増えていくということを示しています。
26ページは65~69歳の状況、続きまして、27ページは70歳以上の状況となっていま
す。
続きまして、28ページを御覧ください。次に、企業年金をめぐる近年の状況ですが、
左側のグラフを御覧ください。退職年金制度のみを導入している企業の割合は、徐々
に下がっています。退職年金制度と退職給付制度の両制度を併用している企業の割合
も下がっていて、一方で、退職一時金制度のみを用意している企業の割合は若干増え
ている状況です。
続きまして、29ページは従業員規模別の退職給付制度の実施状況です。従業員規模
が小さいほど退職年金制度の実施割合が低い状況が見てとれます。
続きまして、30ページを御覧ください。確定給付企業年金と確定拠出年金の受給の
形態です。確定給付企業年金・確定拠出年金ともに相当数が一時金受給を選択してい
ます。確定給付企業年金でありますと7割程度、確定拠出年金でありますと企業型・
個人型ともに9割程度の方が一時金を選択している状況にございます。
続きまして、31ページは退職所得の課税方式です。下の注書きにあるとおり、先ほ
どの確定給付企業年金制度や確定拠出年金制度等に基づいて支払われる退職一時金等
についても退職所得として課税することとされています。具体的な課税方法としては、
まず、収入金額から退職所得控除額を差し引きます。この退職所得控除額は勤続年数
20年までは1年につき40万円、勤続年数20年超については1年につき70万円となって
います。その後、差し引いたものに対して平準化措置として2分の1を掛けることで
退職所得金額を出しまして、税率を掛けていく形になります。
勤続年数30年の場合で退職一時金2,000万円の場合には計算の結果、所得税額は15.3
万円になります。
続きまして、32ページを御覧ください。次は勤続年数別の退職一時金の状況です。
右側の上のグラフを御覧いただきますと、今まで退職一時金については勤続年数に応
じてS字カーブの形を描いており、平成11年が一番顕著だと思いますが、一定年数以
上の勤続年数になると急速に退職金の額は増えていく状況でしたが、近年は、働き方、
企業の退職金に対する考え方の変化なども踏まえて、かなりリニアな形で勤続年数と
比例して退職金の額が増えていくという状況が見てとれるかと思います。
続きまして、33ページを御覧ください。こちらは、退職所得課税関連の政府税調の
過去の答申の記述です。こちらでは、退職金というのは退職後の生活の原資であって、
老後の生活設計に織り込まれているという実態や企業における給与体系の変更には時
間を要することを考慮する必要があるとの指摘を受けたところです。
続きまして、34ページを御覧ください。これも政府税調の過去の答申等の抜粋です
が、給付段階における論点を並べています。
二番目の論点から御覧いただきますと、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正な
税負担のあり方について検討する必要があること。
三番目の論点ですが、退職給付に係る税制についても、給付が一時金払いか年金払
いかによって取扱いが大きく異なり、退職給付のあり方に対して中立ではないこと。
四番目の論点ですが、給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスについ
ても、働き方やライフコースの多様化を踏まえ丁寧な検討が必要であること。
最後の論点ですが、企業年金・個人年金等は企業の退職給付のあり方や個人の生活
設計にも密接に関係することなどを踏まえ、その検討を丁寧に行い、関係する税制の
包括的な見直しを行っていくべきであることなどが指摘されておりますので、こうし
た観点も踏まえ、将来像について御議論をお願いしたいと思います。
35ページ以降は関連する金融所得課税の資料をつけています。時間の都合で御説明
は省きますが、39ページに、令和元年9月の答申での指摘を御紹介させていただきた
いと思います。二段落目のところですが、金融所得の今後の課税のあり方については、
勤労所得との間の負担の公平感や所得再分配に配慮する観点から、諸外国の税制も参
考にしつつ、総合的に検討していくべきであるとの指摘を受けています。
以下、40ページ以降は参考資料になります。
やや駆け足になりましたが、以上です。
○中里会長
ありがとうございました。
それでは、次に、佐藤英明教授から御説明をお願いします。
○佐藤慶應義塾大学大学院法務研究科教授
慶應義塾大学の佐藤です。
本日は、「老後に係る税制の諸課題」ということでお話をさせていただきます。
構成としては、最初に、将来的に老後に係る税制はどういう姿であるべきかという
ことをお示します。その上で、その将来像に向けてどういう道のりをたどっていくこ
とが考えられるかという問題について、最後までは説明できないのですが、途中のポ
イントぐらいまで、拠出段階と給付段階に分けてそれぞれの道のりを考えてみます。
そして、最後にまとめの結論を申し上げます。
まず目指すべき将来像を考えてみたいと思います。ここでは高齢期において老後の
生活の糧と言える標準的な生活を支える収入を考えます。そうすると、同じ収入額で
あるのに現役時代の働き方、例えば個人事業主であったか、企業の従業員であったか、
また、企業の従業員であったとしても勤務先の企業にどのような企業年金や退職金な
どの制度があったかなどによって税負担が異なるのは適切ではないと考えられます。
そこで、目指すべき将来像としては、高齢期における収入に関する課税が、現役時
代における働き方や老後への備え方の違い、高齢世帯における収入のあり方の違いな
どに左右されない中立的な税制の構築が求められていると考えます。
また、このような税制がつくられた場合、すなわち、高齢期における課税が現役時
代の働き方によって左右されないとすれば、引退後あるいは引退時の課税を考えて独
立や転職をやめるというようなことがなくなるはずであり、その意味で働き方に中立
的な税制であって、この観点からも望ましいと言えます。
例えばある納税者がある会社に20年勤続したという状況をお考えください。現行法
の下では、この時点でこの納税者は将来にもらう退職金のうち、800万円が非課税にな
るということが確実となったと考えられます。この時点でほかの会社に移籍すると退
職金の非課税部分は最初からやり直しと申しますか、勤続1年ごとに40万円ずつ非課
税枠が増えていくことになりますので、退職金のうちの800万円が非課税となるために
はもう20年の勤続が必要となります。このような現行制度の仕組みは、ある企業の従
業員の転職や独立を妨げる要素として働く可能性があります。
そこで、中立的な税制を構築するという場合に、まず考えられるべきことは何かと
いうと、3ページですが、公的年金とともに、高齢者の生活を支える柱となる各種の
年金収入への課税関係を統一すること、これが重要であると考えます。ここで申し上
げた各種の年金収入とは、確定給付型や確定拠出型の企業年金、個人型確定拠出年金
などが含まれているとお考えください。また、将来的には国民年金基金なども含める
ことができればと考えております。
それから、ここで申し上げた各種の年金収入への課税関係には現実に受け取る年金
にどう課税をするかというだけではなく、現役時代の拠出についていかなる課税関係
を築くかという論点も含まれております。
それでは、この将来像に比べて現状はどうかということを確認してみます。手始め
に、いわゆる国民年金の2号被保険者に関する現状を見てみましょう。もちろん、こ
のほかに1号被保険者、いわゆる個人事業主の方や、3号被保険者、多くは主婦の方
などがおられます。2号被保険者の現状を見ると、年金等の拠出に関する課税関係が
制度により、また、企業により異なることがすぐ分かります。2号被保険者の年金拠
出に関して、令和4年10月からは5ページにあるように4パターン存在するというこ
とが見てとれます。
また、ここで企業型DCとされているものの場合、企業がどれだけの拠出をしている
かも様々です。
今のは年金の話でしたが、年金制度を離れてさらに労務の対価の支払われ方の実態
を眺めてみます。従業員が提供した労務の対価は、支給形態が企業によって異なると
考えられます。給与のみである、あるいは給与と退職金制度がある、給与といわゆる
前払い退職金手当が存在する、あるいは給与と企業年金制度があるというような、恐
らくこの他にもあるでしょうが、様々な給与の支払われ方、労務の対価の支払われ方
が存在すると考えられます。それに応じて課税関係も違うということになるわけです。
これを老後の生活の糧への課税という観点から見直しますと、給与のみの場合や給
与と前払い退職金の場合は自分で備えることになります。iDeCoを使うか、あるいは給
与所得課税後の所得から貯蓄をするか、などが選択肢になります。そのほか、退職金
は退職所得として課税され、企業年金は公的年金等として課税されますので、それぞ
れ課税のされ方や税負担が異なることになります。一体、こういう制度をどのように
統一、統合したらよいのかというのが問題点です。
そこで、拠出と給付の統合の姿をJIRAという姿でお示ししたいと思います。7ペー
ジを御覧ください。今は、2号被保険者を考えていますので納税者のことを従業員と
書いています。従業員は自分で設定した個人年金や勤務先の企業年金に拠出をし、ま
た、企業も自社の年金制度にこの従業員のために何らかの拠出をするということがあ
り得ます。
そこで、一定の要件、例えば拠出額の上限や支給開始年齢などの要件を満たす年金
を総じてJIRA適格あるいはJIRA適格年金と分類をして、それらの年金への拠出という
場面を考えます。そうなると、従業員はこのJIRA適格の個人型確定拠出年金や勤務先
の年金への拠出、あるいはこのJIRA適格の勤務先年金への拠出、あるいは企業がこの
従業員のために企業年金への拠出をした場合に、これらの拠出について、この従業員
に着目して上限を設定し、管理するという発想がJIRAの拠出時の発想であります。言
わばJIRAは従業員1人が1つだけ保有する「拠出の共通枠」というように御説明する
ことができようと思います。
給付場面はどうなるかというと、8ページを御覧ください。元従業員と書いていま
すのは受給時で考えますと、退職して従業員ではなくなっているからです。この場面
で、JIRA適格年金から支給される年金は公的年金と同じ課税関係とされることになり
ます。すなわち、公的年金のほか、個人型確定拠出年金等や企業年金からの年金支給
も合わせてこの元従業員の年金に係る収入金額となります。
7ページの拠出段階と、8ページの受給段階の2つの姿をつくることができれば、
最初に申し上げた統一的な将来像に近い姿になり、さらに1号、3号被保険者を制度
に取り込めば将来像に挙げた姿と似てくるということになります。
誤解のないように申し上げておきたいのですが、年金の一体化とか統合というよう
に申しましても、現実のそれぞれの企業年金制度や個人年金制度を廃止して何か一つ
のものに統合するということではありません。そうではなくて、一定の要件を満たす
それぞれの年金について、その年金制度への拠出やそこからの受給を税制上、統一的
に捉えるという発想がJIRAであります。
先ほどからこのアルファベット4文字は何なのだろうとお思いの方がいらっしゃる
と思いますが、事務局の資料にも途中出てまいりましたアメリカの個人退職年金勘定
が略称でIRAと呼ばれますので、それに日本のJをくっつけただけだということで御理
解ください。私自身はこの名称には全くこだわりませんが、取りあえず今日のお話で
はこの名称を使うことをお許しいただきたいと思います。
どうしてかといいますと、日本版個人退職年金制度というのは現在存在しない制度
であります。そこで、各論者、研究者や実務家が新たな制度を提唱されるときに、こ
れこそが自分の考える日本版IRAだという名前のつけ方をそれぞれなさることになり
ます。そのため、一口に日本版IRAと申しても、主張している方によって中身が違うと
いうのが現状です。そこで、今日、これも一つの日本版IRAなわけですが、このお話し
する制度については一応JIRAという名前をつけて、他の方が主張されている日本版IRA
とは中身が違うということで御理解をいただきたいと思います。
ところで、今、申し上げたような目標に近づくためには、今後、どのような制度改
革が必要なのかということを追って議論していきたいと思います。9ページですが、
拠出段階として出発点は、まず企業年金と個人型確定拠出年金を統合した「拠出の共
通枠」を設けるという点から出発すべきだと考えます。将来的には1号被保険者に係
る国民年金基金や3号被保険者に係る個人型確定拠出年金なども統合するということ
を視野に入れますが、当面は2号被保険者の拠出枠を統合して管理することを考えた
らよかろうと思います。
10ページは厚生労働省のサイトから引用した個人型DCの拠出限度額の見直しの一例
です。5ページでは令和4年10月以降のパターンであっても、2号被保険者の年金
拠出については4パターンということでしたが、仮にこのページにあるような見直し
をすれば、2号被保険者のタイプは企業が何らかの企業年金を持っているか、それと
も勤務先の企業がそういう年金制度を持っていないかという2パターンにまとめられ
ます。
例えばこういうまとめ方がなされるのであるとすると、11ページですが、当面手を
つけるべきことは次の二点ということになります。すなわち一点目は、勤務先の企業
に企業型の年金があるかどうかを問わず、ある従業員に着目したときに拠出されてい
る拠出総額を一体として共通枠で管理することと、二点目は勤務先の企業に企業年金
がない場合であっても、それがある場合と同様の拠出条件等を設定すること、この二
点、この制度改正を行えば目指す姿に一歩近づくものと考えます。
次に、給付段階における統合について考えてみます。12ページになります。JIRA適
格年金の扱いは公的年金と同じと考えます。つまり、企業年金等も公的年金等として
合計している現行の扱いを維持すべきであるという主張です。これは確定給付・確定
拠出年金などは公的年金を補完する制度であり、高齢期、特に引退後の生活の糧とし
て公的年金等と区別する必要性に乏しいと考えるからです。
先ほど事務局の御説明にもありました年金支給時の課税の適正化については、当然、
別途検討が必要と考えますが、この論点は多くの問題を含みますので、本日のお話で
は特に取り上げないことといたします。あくまでもこの報告の主眼は中立的な税制の
構築をいかにすべきであるかという点です。その観点から見逃せないのが退職所得の
存在です。退職金の課税は年金課税に統合されていないからです。
13ページを御覧ください。既によく御承知のように企業年金制度の有無とは別に
企業は退職者、特に定年退職者を対象に退職金を支給する制度を有している場合があ
ります。この退職所得、退職金の税負担は現行制度の下で非常に軽いものとなってお
り、現実には定年退職時の通常の水準の退職金には所得税がかからないという結果で
あると理解していただいてほぼ間違いないと思います。
このように退職所得ないしは退職所得課税を年金ないし年金課税と別立てにしてお
くと、退職金制度を有する企業に勤務した納税者とそれ以外の納税者との間に老後の
生活を支える所得について課税関係が異なることとなります。これは冒頭で申し上げ
た目指すゴール、すなわち、現役時代の働き方が違っても高齢時の収入の課税関係が
異ならないものとするというゴールとは違う状況であると言わざるを得ません。
そして、多くの企業年金において退職時に年金の全部または一部を従業員、つまり、
退職者の選択によって一時金で受け取ることができる点に注意が必要です。なぜなら
ば、これも事務局の御説明にありましたとおり、この一時金は退職所得として課税さ
れるからです。
ここで、13ページの図を御覧いただきたいのですが、元従業員が勤務先の企業年金
から年金で受給することも一時金で受給することもできるという場面で、一時金で受
給する方が税負担が軽いのであれば、それを理由に一時金で受給することを選ぶ従業
員が出てくることは容易に予想され、そして、この結果は従業員の選択に対して税制
が中立的ではないということになります。
それでは、このような望ましくない結果が退職所得、退職金を課税上、大いに優遇
していることから生じるのなら退職金への課税の優遇を大幅に削減すれば問題は解決
する、とお考えかもしれません。しかし私は、それは現実的な答えではないと思って
おります。なぜかというと、退職時、特に定年退職時に受け取る退職金にはほとんど
税金がかからないという制度が我が国の社会に長く根づいている。先ほどの事務局の
御説明では昭和41年の政府税調の答申ぐらいからのようですが、長く根づいていて、
この状況を直ちに変更することは多くの給与所得者の人生設計への期待なども考える
と実際上は困難だと考えるからであります。
これではデッドロックですが、さて、どうすべきでしょうか。ここで着目したいの
は、この定年退職時の退職金にはほとんど税金がかからないという現状は、定年退職
時の退職所得に適用される退職所得控除額が我が国の企業において通常支給される退
職金の額とほぼ同程度に設定されていて、その額が課税対象から除かれるという仕組
みから生じていることであります。
このことに着目すると、14ページですが、この問題については退職所得課税を「拠
出の共通枠」であるJIRAに取り込むことによって解決することが考えられます。具体
的に言えば、通常の拠出限度額とは別枠で「退職金拠出限度額」を設けること。そし
て、この「退職金拠出限度額」の水準を現在の定年退職の際の退職所得控除額と同程
度の水準とすること。最後に、退職者が選ぶわけですが、年金拠出限度額を超える退
職金と限度内でも拠出されなかった退職金には受給時に課税を行うこと。この三点に
よって先ほどの問題に一定以上応えることができます。
今申し上げた三点を図で示すと15ページとなります。この従業員は既に退職金を受
け取っているという図になっていますが、この受け取った退職金からJIRAに拠出をす
るとした場合に、この拠出部分を非課税とするという制度をつくろうというのが14ペ
ージで申し上げた点です。
そして、非課税となる拠出部分の上限額を現在の定年退職時の退職所得控除の額と
同じ水準の金額とすれば、JIRA適格年金に拠出する限り、現在と同じく退職時に退職
金を受け取った時に、所得税がかからないということになります。このような制度と
すべき理由というのは、現在の退職所得控除の趣旨、通常の水準の退職金を非課税に
するというこの制度の趣旨は、老後の生活の糧への税負担を和らげることにあると考
えます。そしてまた、その趣旨は制度が姿を変えたとしても退職金のうち、真に本当
に老後の生活の糧となるものには退職時、それを受け取ったときの課税を回避するこ
とが望ましいとの判断につながります。
そこで、JIRA適格年金に拠出した部分は退職金のうち、本当に老後の生活の糧とな
るものと考えて受給時の課税を回避するというのがここでお示ししている制度の考え
方です。若干分かりにくいと思いますが、逆のパターンを考えていただければと思い
ます。退職金を受け取ったが、その一部で高級自動車を購入したという納税者がいた
とすると、その選択自体は少しも構わないわけですが、高級自動車の購入に充てられ
た部分の退職金を老後の生活の糧と評価して課税上優遇する理由はないものと考えま
す。
そして、そのように退職金の一部に課税をする場合の課税方法としては、現在の退
職所得の優遇措置を形成する要素のうちで退職所得控除以外の要素を適切に改正して
用いればよろしいと考えております。
これを「拠出の共通枠」のほうから見ると、まず退職金からの拠出は非課税にする。
ただし、これには上限が設定される。それから、重要なことですが、この従業員はJIRA
にこれまで個人型ないしは企業型の確定拠出年金について一定の拠出をしているはず、
あるいはこの従業員のために拠出がされているはずです。そこで、その個人型確定拠
出年金等の残高と、各種企業年金残高の合計を含めて一定額の残高制限を設けます。
この場合、非課税とされる退職金拠出部分の限度内であっても、当該残高制限を超え
る部分は拠出ができないものとするのが制度の姿としては適切と考えます。
なぜこのような制限が必要であるかというと、これはJIRAにおける残高を、標準的
な老後の生活の糧となる年金の原資に相当する金額に限定する趣旨だからです。違う
言い方をすると、巨額の給与や退職金が非課税のまま年金のための運用に回されるこ
とを防ぐ必要があるとの考慮です。
退職金から拠出できないために課税される部分について懸念もあろうと思いますが、
通常の水準の退職金であれば全額が非課税で拠出できるように、この限度額や共通枠
の残高制限を設定することが適切と考えます。したがって、課税されるのは、典型的
には、通常の水準を大きく超える多額の退職金を受け取る場合であるということにな
ります。また、このような場合は現在も退職所得控除後の残額が課税対象となるので
現状と大きく変わるわけではありません。
今、申し上げた退職所得をJIRAに組み込んだ図が16ページです。企業年金から一時
金で受給し、あるいは勤務先企業から退職手当として受給した退職所得は、これを退
職時にJIRA適格年金に拠出することによって受給時に課税を免れる。では、課税はど
こで行われるかというと、その拠出した先の年金から年金として支給されるときに他
の年金と合わせて課税の対象となることになります。この図で言えば個人型確定拠出
年金等からの年金の支給を通じて最終的には退職所得に課税をされる仕組みとなると
いうことです。
退職所得については若干まだ申し上げたいこともありますが、既に相当時間を使っ
ていましましたので後ほど御質問があればお答えすることにして、17ページの御説
明は割愛させていただきます。
そこで、今日、申し上げたかったことの結論を申し上げます。高齢期における収入
に関する課税が、現役時代における働き方や老後への備え方の違い、あるいは高齢世
帯における収入のあり方の違いなどに左右されない、中立的な税制の構築が必要と考
えます。それに向けての動きとしては、当面、企業年金・個人型確定拠出年金等を通
じた共通の拠出限度枠と受給年金課税の制度の整備が必要であり、そして、退職金か
らの拠出に関する制度の整備を併せて急ぐことが必要と考えます。
その上で、この2号被保険者を前提とした制度を前提に、将来的に1号被保険者や
3号被保険者を含めた制度とすることができれば、まさにJIRAと申し上げたような統
一的な制度になるものと考えます。このJIRAでは個人事業主として働いた期間と企業
に勤務した期間の両方がある場合でも年金や拠出と受給は統合して可視化され、中立
的な税制が実現されるものと考えます。
私からは以上です。
○中里会長
ありがとうございました。
それでは、ここからは皆様から御意見をいただこうと思います。なるべく多くの方
から御意見を頂戴したいと思いますので、準備のできた方から挙手ボタンを押してく
ださい。発言順につきましては私から指名させていただきますので、指名された方は
ミュートボタンを解除して御発言ください。
なお、発言希望者が多く、時間の関係もありますので、事務局への御質問等につき
ましては、この議題の最後にまとめて受けたいと存じます。
赤井特別委員、お願いいたします。
○赤井特別委員
では、簡単に2点ほど。まずは説明資料総3-3の11ページのところです。多様な就
労選択に中立的であるためにということで先ほどの佐藤英明教授からの話にもありま
したが、やはり共通枠というものを現実的にどう導入していくのかということを考え
たほうがいいと思います。
それから、あと税制に関して説明資料総3-2の9ページのところですが、スモール
Tをどうするのかというのは、スモールTと言っても中身は複雑ですが、そのための
大きな概念、目指すべき目標をより明確化させるのが大事かと思います。つまり、小
さなTに関して老後にどのぐらい備えてもらうのかということで、中立性をどう考え
るか。さらに老後に備えてもらうということを強化するためには、時間的な中立性と
いうよりは老後へ備えるほうが得になる、一気に引き出すよりも徐々に引き出してい
くほうが得になるような税制をつくっていくべきということで、その結果としてTの
レベルというものがどのレベルがいいのかという議論も重要になると思います。
iDeCoなどで実際どのように引き出せば得なのかという報道もたくさんありますし、
どのような選択でどのぐらいの税額になって損得が生じるのか、もう少しきめ細かな
税制シミュレーションを行って、こういう場でもシミュレーションの数値を見ながら
控除のあり方を考えていくということが小さなTのあり方を考える上で重要かなと思
います。もちろん、老後のもっと後に長期的に備えてもらうことが望ましいのであれ
ば、そのような受け取りが得となるような税制を考えればいいかと思います。
○中里会長
後でまとめて佐藤教授にお答えをいただけるということです。
石井夏生利特別委員、お願いします。
○石井(夏)特別委員
専門的な議論がこれからどんどん展開されると思いますので、私から専門外の立場
から一点だけ感想めいたことの意見を申し上げたいと思います。
今回の御説明に関しましては老後税制について複雑な制度をシンプルにして包括的
な見直しを行う、そのような御提案であると理解していまして、その方向性において
は全く異論のないところです。
私が感じた点としましては、納税者には様々な状況の方がいらっしゃると思います
ので、この議論が高齢者の中でもどのような層の目線から行われているのか、あるい
は行われるべきであるのかという点にも留意、配慮をしていただくとよろしいかとは
思います。佐藤教授から多角的な視点で御説明いただいていますので十分御配慮いた
だいているかと思いますが、それが私が感じた点でした。
特に資力の点から見てみますと、高齢者の中には資産の状況が二極化しているとの
御説明が事務局からあったところですし、十分な資力を有していて納税に負担感を持
たない人もいれば、年金だけでは生活が成り立たないので追加の収入を求める人たち
もいるのではないか。この働きたくて働いているのか、働かざるを得なくて働いてい
るのかという観点も考慮していただく必要があると少し思った次第です。
これから高齢化する世代についても同様の問題がある、あるいは二極化というのは
一度、低収入、低所得、低貯蓄になってしまうと、そこから抜け出すのはなかなか難
しいところはあるかと思いますので、さらにコロナ禍の中では収入を得る道もますま
す限られている状況もあろうかと思います。ですので、もし収入が少なくて働かざる
を得ないような人が一定層いるとすれば、そういう方にとって今回の見直しが生活を
さらに苦しくすることのないように御検討いただく必要があると思った次第です。
○中里会長
神津里季生特別委員、お願いします。
○神津(里)特別委員
まとめて三点、申し述べたいと思います。
一点目は、企業年金、退職所得控除に関してです。企業年金は退職給付由来であり
まして労働条件の一つであります。企業年金が労使合意の積み重ねによって実施され
てきた経緯は重たいものがあります。税制や法制度の見直しによって企業年金の設計
や給付水準の変更を余儀なくされるということは適切でないということを申し述べて
おきたいと思います。また、退職給付である企業年金と自助努力である個人年金は制
度の性格が異なります。掛金の拠出者も異なります。これらを確定拠出年金制度とし
て一元的に限度額管理をしている点については、企業年金の個人年金による置き換え
という懸念があります。労働組合として問題意識を持っているということは申し述べ
ておきたいと思います。
一方で、退職所得控除に関しては、就業形態も多様化しています。勤続年数で差を
設ける意義も薄れていますから、勤続年数にかかわらず一律にすべきだと考えます。
その際は、老後生活に十分留意した上で控除水準の検討を行う必要があると考えます。
退職所得控除を含めて企業年金、個人年金制度について全体的な検討を行うのであれ
ば、こうした各制度の性格に十分留意し、そして、高所得者優遇とならないよう考慮
しつつ丁寧に検討していく必要があると思います。
二点目ですが、金融所得課税についてです。金融所得課税の強化については、与党
の税制改正大綱においてここ数年、検討課題とされながら結論は見送られています。
所得再分配機能や財源調達機能の回復に向けた重要課題です。早急に結論を出すべき
だと思います。また、金融所得を含めた正確な所得捕捉の実現に向けて、マイナンバ
ーの活用は不可欠であります。各種課題や懸念される事項を丁寧に整理しながら、マ
イナンバーと銀行口座の紐づけに関し、1口座のみにとどまらず全ての口座情報等の
紐づけに向け検討を進めるべきだと思います。
最後、三点目です。納税環境整備についてであります。本日の議題であります老後
に関わる制度をはじめとした各種セーフティーネットを非正規雇用労働者やフリーラ
ンス等、曖昧な雇用で働く労働者に対しても提供していくことは非常に大事です。コ
ロナ禍を経て顕在化した重要な課題だと思います。その際、税制面においてはプラッ
トフォーム事業者からの情報提供制度など適切な所得把握と課税制度の構築がポイン
トとなります。マイナンバー制度のさらなる活用が求められると思います。後の議題
に関わる話なのですが、これらを踏まえた納税環境整備に向けて専門家会合及び総会
での活発な論議を期待したいと思います。
○中里会長
清家委員、お願いします。
○清家委員
今日の論点の一つは老後に係る税制のあり方で、これについて考えるときに私はレ
ーバーエコノミストとして一つ申し上げたいのは、やはり高齢期の労働力参加率の増
加に注目すべきだということです。既に資料でも高齢者の雇用者の増加について御説
明もありましたが、例えば年金の受給可能年齢層の60歳代の後半で見ますと、既に直
近ではほぼ半数が労働力参加しています。男性に限って見ますと6割が労働力参加し
ているということです。もし、この老後ということの定義は、色々あると思いますが、
年金での引退生活であると考えるならば、少なくとも60歳代後半では多くの人はまだ
老後ではないということにもなるかと思います。
このことは現役時代のライフコースや働き方の多様化に加えて、年金受給可能年齢
になっても就労を続けるか、あるいは年金で引退生活に入るかの選択の可能性も高ま
っているということを意味します。そうなりますと、先ほど石井特別委員もお話しに
なりましたように、働かざるを得ないのかどうかということはもちろん考慮する必要
はありますが、就労を続けるか、引退をするかという個人の就労選択により中立的に
なるように税制も見直していかなければいけないということだと思います。今日の佐
藤英明教授の御提案もそうしたことに関する一つの大切なお考えであるというように
思いました。
その上で、今日のお話にはなかった点として一つだけ申し上げたいのは、高齢期の
就労を抑制する可能性のある制度として在職老齢年金制度をよく私どもも分析してお
り、政策的にも問題になるわけです。そこでこの在職老齢年金制度の見直しなどと併
せて、年金課税のあり方についても検討をしてはどうかということです。
少子高齢化の下で社会の支え手をできるだけ維持するために高齢者の就労促進とい
うのは極めて大切です。もちろん、年金だけに頼らざるを得ない高齢層への配慮は必
要です。しかし、税制においても就労を促進する制度にまでするかどうかはともかく、
できるだけそれを阻害しない方向への改革というのを検討すべきではないかというよ
うに思っております。
もともと働いた勤労収入で生活をする現役期間と引退して年金で生活をする老後と
は必ずしも画然と分けられるものではありません。そのことは現在の年金制度や、税
制などの作られた頃に比べて、今日、より一層顕著になってきているのではないかと
思います。それを踏まえた検討の必要性についてコメントさせていただきました。
○中里会長
増井委員、お願いします。
○増井委員
退職一時金についてです。事務局の説明資料総3-2の32ページのグラフを拝見す
ると、勤続年数20年というところで、そこを超えると支給一時金の額が増えるという
ことですが、このS字カーブがリニアになってきているということです。ということ
は、20年で折返しがないわけですから、退職所得控除が勤続20年を超えると1年ごと
の控除額が割増しになるという現行ルールは前提が違ってきていると思います。この
ことをもう少し踏み込みますと、退職所得控除が勤務年数に応じて増えること自体、
同じところで長く働いたら非課税枠が増えるということですから、これは多様な働き
方に対して中立的でないように思います。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
慶應義塾大学の土居でございます。
御説明ありがとうございました。先ほど来、皆様から様々な議論があって、確かに
今、税調で議論している件は、あくまでも老後に備えのできる方に対する税制という
ことで、必ずしも十分に備えができない方がおられるということは当然承知していま
すし、かつ、そういう方々に対する配慮というのは大切だと思いますが、それはさす
がに税制だけではできないと、むしろ社会保障制度でも議論していただかなければい
けないということなので、政府税調としての守備範囲というのをしっかりそこに定め
て、変なそしりを受けないような形で議論を進めて国民の誤解を招かないような形で
議論を進めていくということは大事だと思います。
その上で、今日の議論について申し上げたいと思います。まず退職所得課税であり
ますが、一時金払いに伴う所得税の軽課というのが浮き彫りになったかと思います。
ただ、年金払いに誘導するというほどドライブをかける必要がどこまであるのかとい
うように思います。ですから、年金払いに誘導するという建て付けではなくて、むし
ろ一時金払いでも年金払いでも生涯を通じて納税額ができるだけ等価になるような税
制をまずはどう構築できるかというところを目指すべきではないかと思います。その
後で政策的配慮が必要ということであれば、その次の話があるのかと思いますが、ま
ずは一時金払いと年金払いとの間で中立的でないという仕組みがあるとすれば、それ
を改めていくところから始めるべきではないかと思います。
確かに本来は年金払いで受け取られたほうが老後の生活を設計していく上で、より
資するということで、一時金払いでたんす預金にしてしまって詐欺被害に遭ったりと
か有利に運用できなかったりする方には年金払いにするように誘導するということも
あるのかもしれませんが、今はむしろ両者を中立にするというところから始めるべき
だと思います。
その上で、退職所得課税の見直しについては、老後の生活設計にも関わるので老後
に係る税制の包括的な見直しの将来像も見据えながら実態をよりよく把握するという
ことがまずは必要で、一定の経過期間を置きながらその見直しを講じていくというの
が基本になるのではないかと思います。特に一時金払いで受け取られて住宅ローンの
返済に充てるということをもともと見込んでおられるという方もおられます。そうい
うことだとすれば、その住宅ローンの返済という部分は年金払いにはできない、そう
いう側面もございますので、一時金払いにしたからといって直ちに軽課をやめるとい
うわけではなくて、住宅ローンの返済を控除なりした上で一時金払いにしても年金払
いにしても両者が中立になるような税制というものを構築していく必要があるのでは
ないかと思います。
それから、もう一点は、これは佐藤教授がおっしゃったこととも関係してくるので
すが、TEEなのか、EETなのかということによっても有利・不利というものがないよう
にするというところはよくよく考えていく必要があるのではないかというように思い
ます。iDeCoと積立NISAがその両者あって、かつ私はその両者あってよいと思います。
佐藤教授がIRAを例示されました。IRAはアメリカではRoth IRAも含めるとTEE型でもあ
り、EET型でもあり、両方できるということではあるのですが、そのEETであれ、TEEで
あれ、どちらでも有利・不利が出ないような、そういう意味での「共通の拠出枠」を
考えるということは重要なポイントになってくるのかと思います。これは佐藤教授も
おっしゃっていたように連立する私的年金制度を制度として統合の方向に向けていく
というより、むしろその税制面で拠出枠を共通にするという形で国民にとって分かり
やすい仕組みに変えていくとともに、課税上の有利・不利が生じないようにしていく
ことは重要かと思います。
ただ、1点、佐藤教授が御提案されていた残高制限は確かにTEEなのか、EETなのか
によって税制上、有利・不利が出るということにつながることを考慮されたと思うの
ですが、うまく生涯を通じた納税額が等価になるように制度設計をすれば必ずしも残
高制限まで行かなくても拠出枠でうまく調整できるのかなと思います。
最後に、この退職所得課税に関してですが、近年、短期間の勤務で給料の代わりに
退職金を受け取ることで所得税が軽課されるという仕組みを使って租税回避的に使わ
れているという話も小耳に挟んだりします。そういう意味では、短期間で勤務してい
るにもかかわらず、給与でなく退職金で受け取るという実態がもしあるとすれば、そ
れはまずは実態の把握に努めるべきだと思いますので、事務局におかれましては退職
金の実態についていろいろと調査していただければと思います。
○中里会長
増田悦子特別委員、お願いします。
○増田(悦)特別委員
増田でございます。全国消費生活相談員協会です。
消費生活相談の現場には様々な働き方をしている方からの御相談があります。非正
規、自営、フリーランス、アルバイトを掛け持ちするなど、特にこのコロナ禍におき
ましては多様化せざるを得ないと実感しています。
また、若年者におきましてはステップアップするために転職するということが普通
になっています。デジタル化が進みまして起業やサイドビシネスを目指す方も多く、
消費生活相談では起業やサイドビジネスのために商品やサービスの契約をしてトラブ
ルに遭遇する方も少なくありません。これは若年者だけではなく中高年の方も同様で
す。
それぞれの働き方で税金を納め、社会を支えている以上、給与・退職一時金・年金
給付などの税負担のあり方は社会の実情を反映させた公平なものであってほしいと思
います。高齢になっても働く場合、先ほど委員の方々がおっしゃられたように年金が
少なく働かざるを得ない方への配慮もお願いしたいと思っています。
○中里会長
武田洋子委員、お願いします。
○武田委員
ありがとうございます。老後に関する税制のあり方について意見を述べさせていた
だきます。
まず、働き方やライフコースの多様化、また、シニアの就労増加などを踏まえまし
て働き方に中立な、税負担が等価となるような制度を構築することは重要と考えます。
同時に、経済成長との整合性、親和性を図るという観点も踏まえる必要があると考え
ます。
年金のポータビリティーを高めることにより雇用の流動性が促進され、その結果、
産業の新陳代謝が高まれば日本の成長力を引き上げることも可能となります。また、
同時に、働き方に中立という観点では、退職所得課税を一体で見直す必要があると考
えます。財源面では小さいですが、企業内の退職金制度とも紐づいていることを踏ま
えれば、日本的な雇用制度、雇用慣行を時代の変化にふさわしい形で変えていくとい
う観点では、大きな意義があるのではないかと思います。
例えば、15年程度東京の企業で勤務された方々が起業したい、Uターンをして地元
の企業で働きたいと思ったとしても、税制と企業内の制度が紐づいているがゆえに踏
みとどまるケースはあると思います。日本の長きにわたる課題であります労働市場の
流動性の低さ、起業数の少なさを解決し、イノベーション力の向上や地域経済の活性
化につなげる観点から必要な税制改正と考えます。課税強化という趣旨ではなく、将
来を見据えた働き方に中立な制度という視点で年金や退職金の税制をセットで議論を
していただきたいと考えます。
○中里会長
田中特別委員、お願いします。
○田中特別委員
今日のお話、いろいろ根が深いなと思いました。よく整理ができているのでこれを
深めていければと思うのですが、全体的には個人事業者、フリーランスなど多様な働
き方に対応して自由度のある選択ができるように検討していただきたいと思うのです
が、一方で、企業にとっても企業年金に対応できない企業も増えていたり、従業員に
とっても現状、社会保障費が増えていて手取りが上がらないという現状の中で、どれ
だけ将来に対して積めるかという問題を抱えています。その中でどのように中小企業
や低所得層について将来の蓄えをしていくかというのは重大な問題だと思っています。
今日のお話はそれができる人たちの税金なり何かを公平にしようという論点だと思
うのですが、税制だけでの話ではなくて先ほどのお話と一緒で、どのように低所得層
や中小企業がそういう蓄えに対して対応できるのか、企業だけではなくて社会保障の
ことも含めてトータルで考えていくような課題なのかなというように感じています。
税制だけでは終わらない、もう少し全体のお話が見えるといいなと感じた次第です。
○中里会長
それでは、田近特別委員、お願いいたします。
○田近特別委員
私が言いたいのは、老後に係る税制のあり方について、今、この場で何を我々はや
るべきなのかということの整理なのですが、全て議論した後に佐藤教授の議論したと
ころに戻っていくのだと思うのですが、この段階で私が思うのは、何を問題にするか
ということをシェアすることと、あるべき方向は何か、その全体像は何か、それを議
論するときに何の実態が必要なのか、という幾つか大きなところでの合意が必要です。
今日いただいた説明資料総3-2の17ページ、まず問題点のシェアですが、日本の
私的年金を見ると、これはもう圧倒的ですね。下のほうで国民年金のところへ行くと
上へつながらず、途切れてしまっている。それから、あと上の厚生年金の上部は複雑
になっている。
それから、15ページを開いていただきたいのですが、この図を私も含めてどう理解
するか。今、話した日本のケースがここにあって、お金を拠出するほうでは昔からの
企業年金のリファインドベネフィット型。それから、企業年金プラス個人、アメリカ
で言うと401(k)的なリファインドコントリビューション。それから、リファインド
コントリビューションの個人版、これが複雑になっている。しかも、先ほど言ったよ
うに国民年金のところで切れてしまっている。
ここから言いたいことなのですが、その問題をどう扱うかで、実はアメリカ型があ
り、それをもっと普遍的にしたカナダ型もある。イギリス、フランス、ドイツ型もあ
る。もう少し頭をソフトにして、まずどういう枠を目指すのか、どういう枠があるの
か検討する必要があります。
それから、第二点目はアメリカのところを注目いただきたいのですが、資料では日
本やカナダでいう投資・貯蓄促進にあたるものがありません。これは拠出や給付とど
うつながっているのだと、我々は、今日は老後のことを議論しているのに、この貯蓄
が切れているのか。決してそうではなくて、この注釈の二番目のところに、アメリカ
の場合にはRoth TEE。つまり、EET型の年金を引き下ろした、解約して使えるようにな
ったときに、TEEのRoth IRAに落とすのですね。だから、ここの貯蓄のほうも実は年金
の全体ともリンクしているということです。だから、もう少しどういうことに向かう
のか、私的年金税制等のあるべき方向性も議論できるのではないのか。
それから、実態について言うと、既に清家委員はじめ多くの委員の方々が高齢者の
働き方や在職老齢年金の問題を指摘されて、一体何をどのぐらいの金額のもの、年金
を通常もらっているのかとか、その点が私も必要かなと思います。
それから、最後、佐藤教授の指摘のとおり、退職金は大きな問題ですが、やるべき
問題としては、今、入り口の枠で退職金をどう考えるのか、あるいは出口の枠でどう
考えるか、そこに問題があるということは共通認識で、今、ここから始めると全体像
がなかなか分からなくなってしまうという感じで、全体像と、あるべき姿の共有をも
う少し深めるべきだというのが私の意見です。
○中里会長
吉村政穂委員、お願いします。
○吉村委員
一橋大学の吉村です。私から二点、コメントを申し上げます。
一つ目が、私的年金の課税についてです。こちらは働き方の多様化というのが進ん
でいますので、老後に備えた資産形成のためのインセンティブを整えていく、税制上
の取扱いをそろえていくというのは非常に重要な取組だと思います。それと同時に、
先ほど田中特別委員が御指摘になりましたとおり、税制上のインセンティブがうまく
働いていない層にどのようにアプローチしていくかということもやはり重要だと思っ
ています。例えばイギリスですとNESTへの拠出に当たって政府から税還付という形で
マッチング給付もなされていますので、そういったものも中長期的な課題としては考
えていくべきだと思います。
もう一つが金融所得に対する課税です。こちらは新型コロナの影響等もありまして、
他の国でもキャピタルゲイン税率への注目が高まっております。やはり日本でも負担
能力に応じた課税になっているかということを改めて検証するタイミングではないか
と思います。
○中里会長
寺井委員、お願いします。
○寺井委員
企業年金と個人型確定拠出年金を税制上統合して扱うという佐藤教授の御提案を私
も非常に望ましいことと考えながら承っておりました。一つの視点としまして、今般
の新型コロナウイルスの感染拡大のみならず、他の大規模な自然災害や金融危機のよ
うなマクロショックが10年に一度、あるいはもっと頻繁に発生しているという現状を
踏まえて考える必要があると思います。
また、そのショックが経済に与える影響は産業間で一律ではないことにも留意が必
要だと思います。今回の新型コロナウイルス感染拡大が企業利益や雇用に与えている
影響を見ても明らかなことだと思います。そのマクロショックの発生によってある産
業では余剰の雇用が発生して、また、違う産業では雇用を吸収する余力があるときに
労働者の移動を妨げない制度構築という視点が、ショックが頻繁に発生する経済では
重要になると思います。
産業や企業規模によって、どのような企業年金制度を採用しているかにばらつきが
あるという説明が先ほどありましたが、そのことも踏まえてマクロショックの負の効
果を吸収できる経済という視点から、企業年金と個人型確定拠出年金を統合した枠を
設ける、統合して扱うということは個人の働き方選択に中立的であるがゆえに、今よ
りも雇用の流動性を高める働きをするだろうと思います。
その上で、一つ質問させていただきたいのですが、拠出限度額の設定についてです。
単年度主義といいますか、その枠が余っても次年度に繰り越せないようにする方がよ
いのか、あるいは繰り越せる方がよいのか、どちらがよいのかを考える際の重要な視
点を教えていただければと思います。日本の一般的な年齢が高いほど高くなる賃金体
系の下では、若い人たちは枠いっぱい使用せずに、一方、キャリアの後半にある人は
もっと枠が欲しいと思うのではないかと考えます。
未使用の枠を後年に繰り越すことができれば、この問題はある程度ではありますけ
れども、解消されると思うのですが、そのような制度設計では不都合が生じることが
あるのか。あるとしたら具体的にはどのようなことか、もし時間がございましたら教
えていただければと思いますし、検討の課題の一つだというように考えます。
○中里会長
足立特別委員、お願いします。
○足立特別委員
このたび、佐藤教授におかれましては、大変貴重な御提案、ありがとうございます。
今回、老後に関わる税制につきましては、働き方やライフコースの多様化も踏まえた
公平な税制を目指すという大きな目標があるということが本当によく理解できました。
このとき、働き方の違いにおきます公平性については三つの論点があることがよく分
かります。一つは、異なる働き方をする人の間での公平性。二つ目は、同じ人がライ
フコースの中で結果として様々な制度や税制を渡り歩く、この点にも論点があると思
います。
実際に同じ人のライフコースにおきます移動は厚生労働省のデータにも記されてお
ります。例えば公的年金の1号被保険者、こちらにつきましては、被保険者全体約2
割を占めますが、65歳の受給権の加入履歴を見ますと1号期間のみだった人が僅か4.4
パーセントになります。そうなりますと、95パーセント以上の方が一生のうち、どこ
かで厚生年金に関わる期間、つまり、2号期間、または3号期間を有しているという
ことが見てとれます。そうなりますと、様々な制度や税制を渡り歩くことを前提に公
平性やポータビリティーを考えていくことが必要です。
さらに、三つ目の論点としましては、引退時期になります。一度、もしくは何度か
退職金をもらって第2の人生、第3の人生、そういったところで社会に貢献する方々
が今、増えてきています。引退時期の柔軟性といった観点から制度設計が必要である
と考えられます。以上の三つの論点から二つの課題が挙げられます。
まず一つ目の課題は、拠出・運用・給付段階の包括的な見直しへ向けて政府税調が
しっかり検討していくことが必要であります。
二つ目の課題は、退職所得課税です。退職所得課税につきましても包括的な見直し、
さらに、その際には将来を見据えた上での検討が重要であると考えられます。
本日、佐藤教授の御提案、こうした課題について対応可能な提案だと思いますので、
私もそうした観点から是非本日の御提案を勉強していきたいと思います。
○中里会長
熊谷特別委員、お願いします。
○熊谷特別委員
大きく二つ申し上げたいのですが、まず一点目、今回の主な議題につきましては、
先ほどまさに田近特別委員がおっしゃっていたように、テクニカルな話というよりは、
やはりあるべき姿ですとか全体像のようなものを共有するところから入ったほうが良
いという印象でありまして、あまりテクニカルなところで細かい議論というよりは、
大きな議論のところから是非展開できればと考えております。その意味では、土居委
員がおっしゃったように年金払いと一時金払いで税負担が等価になる、ここがまさに
本質的なところですから、そういう原理原則をしっかりと共有できればと考えており
ます。
二点目としては、本日の本題ではないと思いますが、先ほど神津里季生特別委員と
吉村委員からキャピタルゲインの課税、金融所得の課税等についてコメントがありま
したので、私からはやはりこれは慎重に考えるべきだということを申し上げたいと思
います。
幾つか理由がありますが、一つ目は、安倍政権、それから、それを受けた菅政権と
いうのは、基本方針として「経済再生なくして財政健全化なし」、こういう考え方で
ありますので、実際、第2四半期のGDPが前期比でマイナス7.8パーセントという状況
の中では、まずは経済の回復を図り、持続的な経済成長につなげていくという考え方
が非常に重要なのではないかということがまず1点目です。
二つ目は、説明資料総3-2の37ページに所得税負担率に関する資料がありますが、
これに関しては、母集団が小さいということを指摘せざるを得ません。国民全体に影
響を与えるような議論をこういう小さい母集団に基づいて考えるということは少し問
題があるのではないか。例えば平成30年分のデータに関して申し上げますと、高所得
者ほど所得税の負担率は低下するとされていますが、申告所得が1億円超の者は2万
1,000人と、申告納税者全体、639万人の僅か0.3パーセントです。
三つ目は、「大衆課税」となる可能性です。株式等の譲渡所得等の申告所得者は、
約20万人にすぎない。これに対して申告不要とされている源泉徴収ありの特定口座数
は直近で2608万口座ということですから、負担増を議論するに当たっては適切なエビ
デンスをしっかりとそろえる必要があるではないか。金融所得税率の一律の引上げと
いうのは高所得者ではなくて中間層以下の納税者に対しても影響を与えることになり
ます。
その他、まだまだありますが、時間も限られておりますので、あと一つだけ申し上
げるとすれば、今、菅政権は国際金融都市構想を推進しています。アジアで国際金融
都市として一定の地位を確立している香港やシンガポールは、キャピタルゲインや上
場株式の配当については非課税という状況ですので、その意味では国際金融都市構想
を推進するということにおいても、金融課税を少なくとも現時点で拙速に強化すると
いうことはマイナスに作用するのではないかと考えます。
○中里会長
中空委員、お願いします。
○中空委員
私も金融所得課税についての話です。
私も金融所得課税の強化一辺倒になる議論というのは少し危険かなと思っておりま
す。基本的には貯蓄から投資へということを促している最中にあると未だに思ってい
て、現状をマクロデータから見ても、まだまだ全然投資の金額は増えていない中で、
貯蓄したもの、あるいは投資して増やしたものに対しては課税されるという話を出す
のはどうかと思います。もちろん、全体的なバランスが必要であるということも分か
りますが、持っている人たちから取りましょうということだけではない、貯蓄から投
資へという発想も必要だと思っています。
ただ、全体像としては人生100年時代にあって個人の選択が税制とか課税上の損得に
よって阻まれないようにしなければならないと思いますし、今回、議論になりました
DBとDCを一緒にしようという話についても公平、中立、簡素ということでいけば、そ
れは促していくべきだと思います。ただ、それはそれとして、国民の選択の中での様々
なモチベーションというのをいかに考えるかということも、税制上、考えるのは必要
ではないかと思います。
○中里会長
神津信一特別委員、お願いします。
○神津(信)特別委員
まず貴重な報告を行っていただいた佐藤教授、大変ありがとうございました。貴重
な方向性をご示唆いただいた御意見だと思いました。
まず私は、中小企業の立場から若干申し上げたいと思います。中小企業の貸借対照
表、損益計算書を見てみますと、法定福利費というのが非常に大きな比率を占めてお
りまして、経営者としては毎年こういう感じで負担増となるのはたまらないという悲
鳴を上げて、何とかして厚生年金等に入らない方法はないのかという御相談もいただ
くような次第でございます。年金の支給年齢も60歳、63歳、65歳、70歳とどんどん上
がってきて、若い方、特に20代、30代の方は、もう受給年齢になるときは年金をもら
えないのではないかという悲壮的な意見を言う方も多々いらっしゃると思います。
そこで御提案ですが、消費税率が今、10パーセントになったところで、安倍前総理
と菅総理も今後10年は消費税率を上げないというお考えで、それについては賛成の意
向を示すわけですが、消費税を増税したときのコンセプトの一つとして、高齢化社会
に対応すべく社会保障費の財源を確保するということが大きな目的の一つだったと思
います。それは税制調査会の守備範囲ではないということは承知しておりますが、そ
れらを効率的に使うことにして、もうこれ以上、企業なり個人の社会保険料の負担を
増やさないでほしい。今、例えば一生懸命働けば70歳になって年金がちゃんと貰え、
それから、希望すれば継続して働くこともできるといったばら色の老後が待っている
というような明るい姿にしていかないといけないと思いました。
○中里会長
䭜委員、お願いします。
○䭜委員
私、一言だけ、佐藤教授にお伺いしたいのですが、今回の大きな構想、大体タイム
スパンでどのぐらい時間をかけて最終形につながっていくのか、アバウトなところで
いいのでイメージを聞かせていただけたらと思います。
○中里会長
神野会長代理、お願いします。
○神野会長代理
生産的な御議論をいただいたことについてはまずお礼を申し上げなければいけない
と思います。一つは、この会長代理を仰せつかっているということがありますが、も
う一つは、事務局から御説明がありました、社会保障審議会の企業年金・個人年金部
会の御議論について御紹介いただいておりますが、私は、企業年金・個人年金部会の
部会長を務めさせていただいていますので、私からも一言、発言をさせていただけれ
ばと思います。
事務局から概要を説明していただいたので繰り返しになりますが、我が国において
は御存じのとおり、企業年金、個人年金などという、いわゆる私的年金と、それと有
機的に関連する税制については段階的に整備され拡充されてきたと認識しています。
ただ、特に働き方や勤め先の企業によって受けられる税制の非課税枠、これは密接に
関連しております。非課税枠が異なっているなどの課題がまだ残っているということ
は認識しておかなくてはいけないと思います。
今日の御議論もそうですが、働き方やライフコースは非常に多様化が進んでいるの
で、その働き方などの違いによって有利・不利が生じないような制度を構築していく
ということが重要な課題だと私どもは認識しております。つまり、私どもの使命は制
度をつくるほうですので、そういう制度をデザインしていくということが重要だと思
っております。
企業年金、個人年金についてのそのような制度面をデザインしようとすると、私ど
も審議会のミッションから言っても、どうしても拠出段階の公平性あるいは中立性に
論点を絞って検討していくということにならざるを得ないかと思っております。現在、
社会保障制度審議会でどのような検討を進めているかというと、もう既に事務局のほ
うから説明資料総3-2の16、17、18ページ等々を使って現在進めている議論につい
ては御説明をいただいています。つまり、今まで一律評価しかしてこなかったDB、確
定給付型企業年金について、一律評価ではなく少しきめ細かに対応できるというよう
なことを検討していますので、私どもが今、審議会で検討している見直しが実現でき
れば、一律評価ではなくなってきめ細かな対応が可能になるというように考えており
ます。
本日は佐藤英明教授から非常に意義深い御提案を頂戴したのですが、今後はより良
い、より公平な制度の構築を目指していくことが重要になろうかと思いますが、私ど
も社会保障審議会における制度の議論と、それから、税制調査会における税制の議論、
これを整合的に進める、車の両輪となるような形で動かしていくということが重要で、
私どももその辺りを十分留意しながら議論を進めていきたいと考えています。したが
いまして、税制調査会の委員の皆様方にも認識を御共有いただいて御協力を賜われれ
ばと思います。
○中里会長
ありがとうございます。
以上、18人の委員の皆様からコメントを頂戴いたしました。佐藤教授、よろしくお
願いします。
○佐藤慶應義塾大学大学院法務研究科教授
多くの御意見、それから、御質問を頂戴し、大変ありがとうございます。私自身、
考えの足りないところも多く見つかったところです。一問一答でお答えするのは到底
無理ですので多少まとめて感想めいたことをお話しすることになる点を、お許しくだ
さい。
全体像が大事だという田近特別委員をはじめとする委員の皆様のお考えについては、
まさにそのとおりだと考えています。今日、お示ししましたのもすぐにできるもので
はないということを知りつつ、どういう方向を向いていくべきかということを申し上
げたとお考えください。
その中でどこにポイントがあるかというと、働き方等によって課税関係が変わらな
い、老後の生活を支える収入への課税方法がそのポイントであるという点は恐らく多
くの委員の方と認識は共有できていると思います。その中で、土居委員をはじめ2人
の委員が等価論ということをおっしゃって、年金への誘導というのはその後の話です
よねという御指摘がありました。これは私がJIRAというのを将来像としてお示しした
点にやや誤解があったように思うのですが、JIRAというのは確かに一つの将来像であ
りますが、それは骨格にすぎません。すなわち、当面、仮に私がお示しした骨格に同
意されるとしても、それを現実の姿としてどのようにつくり上げるかということにつ
いてはかなり大きな幅があると私は考えています。
私自身が論文にどう書いたかと言われれば、それには一つの答えはありますが、こ
れが年金に誘導する制度という性格を持つこともあれば、必ずしもそうではないとい
う形でJIRAの骨格を実定化することもできると考えています。私自身はこれを最終的
には租税優遇措置として構成して、そして、老後の安全を支える税制と位置づけるこ
とを考えていますが、それは研究者としての結論にすぎないわけで、現実の制度とし
てこのJIRAの骨格をどう肉づけしていくかということには大きなフリーハンドがある
とお考えください。
その上で、この等価論につきましては、JIRAは、企業年金、個人年金、退職一時金
を等価に扱う一つの手段であると私は考えています。別の方法として一定額の退職所
得控除額を年金化するというようなアイデアを発表したこともありますし、ほかのア
イデアと言われればないわけではありませんが、恐らく最終的な姿として退職所得と
年金課税を等価なものとして課税の結果を同じにするならば、本日お示ししたJIRAと
いう考え方が絵柄としては最もきれいな絵柄になるだろうと考えています。大きくそ
れが第一点です。
それから、対象となる納税者についても多くの先生方から御指摘をいただきました。
JIRAが基本的に所得控除型でつくられているため、御指摘にあったとおり、この対象
はある程度、自分で自分の老後の面倒を見られる経済力がある人たちに限られます。
これはJIRAの限界ですので、委員の方々がお示しになったような低所得者層にさらに
どういう手を差し伸べるかということについては、これは対象外というか、別の制度
を使っていかなければ国民全体に安心を与える制度にならないという御指摘は、まさ
にそのとおりだと考えています。
それから、赤井特別委員から御議論があって、その他の方からも頂戴した、いわゆ
るスモールTの水準あるいは拠出運用受給段階を通じた適正な課税という考え方でど
のような負担水準とすべきかということは、これは一概に理屈だけではなく、実態を
見ながら決めていただくべきことで、私はそれについて今日、直接何か申し上げるつ
もりはありません。
ただ、清家委員をはじめとして御指摘のあった働く高齢者、給与収入を得ている年
金世帯については、Tの水準の決定のほかに、合計で同額の収入を得ていてもその割
合、給与収入が多いか、年金収入が多いかによって課税される所得の多寡が違うとい
う問題が生じています。そのため、御提示くださった働く高齢者の問題は、突き詰め
て言えば給与所得控除と公的年金等控除の関係として捉えるべきだと考えます。これ
は負担の水準ではなく制度の形の問題として生じていますので、この点についても、
是非今後、こちらの調査会で議論を深めていただければと考えます。
現在の税制は給与所得者が引退して年金生活者になるという切り替わりを前提につ
くられていると理解していますが、御指摘のあったとおり、そこは少しずつ変化して
いくというか、一旦退職しても働きながら年金を受け取り、最終的に年金のみの生活
になるという長い期間を経てライフスタイルが変わっていくことに現在の税制が対応
していないという指摘は、まさにおっしゃるとおりだと思います。そういう点から見
れば、私は年金に誘導するというのは一つの手段と思いますが、それはさらに先の話
ということになろうと思います。
JIRAについて細かくどういう制度を考えるかというと、例えば土居委員から頂戴し
た住宅ローンの返済といったことは、退職金からJIRA年金に拠出する段階で一定の用
途については非課税枠を流用する形で、非課税で受給できる制度をつくることが考え
られますし、それから、寺井委員から頂戴した拠出限度額の繰越しの問題もどちらも
あり得るわけで、それらは、JIRAの骨格の下でどのような制度をつくるかという技術
論に属することだと考えています。
その上で、判断の視点を示せという御指摘について申し上げれば、私自身は、拠出
枠は繰り越せるとしてもごく短期間であって制限的であるべきだと考えます。確かに
若年層、というとこれからは働き方が変わるかもしれませんが、社会に出てまだスキ
ル等がなくて比較的給与が安いときは限度額いっぱい使えない。スキルアップして転
職などをして待遇がよくなったからたくさん拠出できるというような場合は当然ある
と思いますが、その場合は逆に言うと高い所得を得て高い累進税率を適用される時代
に多額の控除を受けるということになりますから、高額所得者の優遇という問題が顕
著に出てくる可能性があります。他方で、現在、所得税の限界最高税率が5パーセン
トの納税者と10パーセントの納税者をあわせると、納税者全体の84パーセントを占め
るという推計を見たことがありますから、そういう点も含めた上で拠出枠の長期間繰
越しは大きな問題ではないと判断をするのか、それとも、やはり高額所得者になった
ときに過去の枠を広く使って、そこで税金を減らしていくという制度が望ましくない
と考えるのか、ここが恐らく判断の視点になろうと思います。
タイムスパンというのは非常に難しい問題で、私が最初にJIRAについて書いたのは
多分2006年、14年前だったと思いますが、そこから14年経って今から議論を始めると
いうところに立っているわけですから、ここは何とも申し上げられませんが、退職所
得についての制度を変更するということを考えれば最低10年、おそらくはそれ以上の
タイムスパンでなければならないと思います。何しろ急に制度を変えると、駆け込み
退職が出る可能性すらありますから、慎重な移行措置、トランジションが重要だと考
えています。
他にもお答えすべきことがあろうかと思いますが、最後に申し上げておきたいのは、
退職所得について増井委員からも御指摘のあったところで、現在の退職所得の制度が
必ずしも時代に合っていないという点です。まず退職所得から手をつけるのだと言わ
れれば、それなりの改革案のメニューも持っていますが、まずは大きな絵柄からとい
う議論で今日のご報告では詳細を割愛させていただきました。
退職所得制度の改革案としてあえて付け加えるならば、納税者人一人について最終
的に定額となる形の退職所得控除、それから、2分の1というような大ざっぱな形で
ない平準化措置を設けてそれを一定以上の勤続期間に限って適用するという考え方。
そして、分離課税についてその必要性を十分に検証すること、この三点ぐらいがその
方向性であると考えております。
○中里会長
ありがとうございます。
委員の皆様の質問のうち、まだ回答されていないものなどは、事務局のほうにまた
お寄せいただければ佐藤教授にお伝えして、佐藤教授にしかるべく御発表なりしてい
ただくということになると思いますので、よろしくお願いします。緻密かつ包括的な
報告、本当にありがとうございました。
それでは、植松課長に対する質問はいかがでございましょうか。
○植松主税局税制第一課長
何人かの先生方から実態の把握とか分析をよりしっかりすべきだという御指摘をい
ただいていましたので、事務局としてもこれから勉強していきたいと思います。
それから、寺井委員から非課税限度額を繰越しするような仕組みについてどう考え
るかという御指摘がありました。詳細は省きますが、説明資料総3-2の15ページ、
16ページにアメリカ、カナダ、イギリス、フランスの例を出していましたが、例えば
カナダであれば無期限に繰越し可能、それから、イギリス、フランスであれば3年間
繰越し可能となっています。これについてどう考えるかというのは、まだ十分検討ま
で至っていませんが、例えば事務負担の問題であるとか、そもそも非課税限度枠の大
きさとの関係であるとか、そういったことも含めて検討されるべき課題であろうと思
います。
それから、例えば非課税限度枠を繰り越せるのだったら後で積み立てればいいでは
ないかといった行動をすることも十分考えられると思いますので、本人の行動や企業
の雇用に対する考え方の影響、そういうことも含めて検討すべき課題だと思います。
○中里会長
ありがとうございます。
なお、お手元に配付していますが、佐藤主光委員から意見書の提出がありますので、
併せてここでお知らせいたします。
本日は、委員の皆様から大変有益な御意見、多数いただきましたが、今回の議論を
振り返ると、老後に係る税制のあり方について、拠出から給付までの各段階を包括的
に見直すに当たって議論を深めるべき課題が認識されたのではないかと思います。そ
れとともに、働き方やライフコースの多様化といった経済社会の構造変化に対し、公
平で中立的な税制を構築することは中期的な税制のあり方を議論する上で避けて通れ
ない課題であること、これも確認されたのではないかと思います。
本テーマについては、中長期的な課題でございますので、今後も引き続き議論をさ
せていただければと考えております。委員の皆様におかれましても引き続きよろしく
お願い申し上げます。
それから、佐藤教授、改めまして本日は本当にどうもありがとうございました。お
礼申し上げます。
次に、経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応について議論を進めたいと思いま
す。
このテーマも中期答申において記載されていたものですが、国際課税について初め
てお聞きになられる方もいらっしゃるかもしれませんので、基本的なことから、また、
10月14日にG20の財務大臣・中央銀行総裁会議がありましたので、最近の国際的な議論
も含めて、財務省から御説明をお願いしたいと考えています。その後、委員の皆様か
ら御意見を頂戴いたします。
それでは、藤井参事官、よろしくお願いします。
○藤井主税局参事官
よろしくお願いします。
説明資料総3-4の2ページ、3ページをお願いします。こちらには令和元年9月
にまとめていただいた中期答申の国際課税関連部分を載せています。
2ページでは、国際的な租税回避への対応としてBEPSプロジェクト、それから、税
務当局間の情報交換といったような取組みについて書かせていただいています。
3ページでは、経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題という部分について書か
せていただいていますが、デジタル化の進展に伴いまして、大量のデータや知的財産
等の無形財産が新たな付加価値を創出していること、物理的な拠点なく事業を行う外
国企業に対して市場国が適切な法人課税を行うことが難しくなっていること、多国籍
企業が移転の容易な無形資産によって超過利益を得ている場合や、市場国における活
動に係る機能・リスクを限定することで課税される利益が抑えられているような場合
の課税権の配分の問題が顕在化しているところでございます。
4ページには経済のデジタル化・グローバル化と国際課税の動きの年表をつけてい
ます。
いわゆるGAFAと呼ばれるApple、Amazon、Google、Facebookが20世紀の終わりぐらい
から登場しまして、その後、iPhoneが登場し、日本ではLINEが登場し、Alpha Goの話
とかAppleの時価総額が1兆ドルを超えるとか、そして、足元ではZoomが普及するとい
ったような動きが起きています。そういった中で、国際課税の世界では、まず2000年
代に入りまして情報交換の整備というのが進み、その後、2010年代に入りましてBEPS
プロジェクトが立ち上げられ、日本でも国内法の整備により様々な対応をさせていた
だいています。
経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応としては、2015年にスタートし、中間報
告、作業計画といったものがOECDで取りまとめられ、2020年10月にG20に青写真という
レポートが提出されたところです。
5ページには国際課税上の課題の背景として、3ページの中期答申の抜粋にも書い
ていますが、「PEなければ課税なし」「独立企業原則」「軽課税国へのBEPSリスクの
増大」という大きく三つの課題があると書かせていただいています。
6ページをお開きください。これらの課題につきましては、国際的にはOECDを中心
として検討を進めています。段階的に様々な報告書を出していますが、昨年、福岡で
G20が開かれたときに作業計画というものを取りまとめていまして、2020年末までに最
終報告書をまとめようということで合意されています。
7ページをお願いします。解決策として大きく2つの制度設計を考えることで議論
が進んでいます。
第1の柱といたしましては、市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルール
の見直しということで、多国籍企業が活動する市場国に対して、物理的拠点の有無に
かかわらず、新たな課税権を配分するという仕組みを考えようとしています。
第2の柱としては、軽課税国への利益移転に対抗する措置として、国際的に合意す
る最低税率による法人課税を確保するルールを導入しようとしています。
8ページと9ページに第1の柱について書かせていただいています。8ページの左
側が問題の事象で、企業所在地国から市場国にビジネスを提供する場合、例えばオン
ライン広告やクラウドサービスといったものを考えていますが、市場国側にPE、物理
的拠点がないものですから、今、課税ができないということになっています。市場国
で価値が生み出されているにもかかわらず課税ができない。
これに対して、右側の表は多国籍企業グループ全体の収入を表していますが、多国
籍企業グループの全体の利益の一定割合、利益Aと称しますが、これを市場国に配分
するということを考えています。具体的な対象となるサービスとしましては、自動化
されたデジタルサービス、例えばオンライン広告、クラウド、検索エンジンといった
ようなものです。さらに、消費者向けビジネス、例えば消費者向けの商品、サービス
の提供として家電製品、衣服、化粧品等の販売といったようなものを考えています。
残された論点として4つほど挙げさせていただいています。対象企業の範囲、それ
から、利益Aというものを決定するためのみなし通常利益率、利益の配分割合、アメ
リカが提案しております企業の選択制という議論がございまして、これらについての
議論が行われています。
9ページは第1の柱のもう一つの議論で、市場国での販売活動等に係る移転価格ル
ールを定式化するという議論です。同じく左側が問題の事象を表しておりますが、ブ
ランド等の無形資産を使ったビジネスをする場合に、市場国側でその価格というもの
について市場国と企業の間での紛争が多発しており、利益の算定が困難という事象が
あります。
これに対して、右側の販売子会社等の収入の図ですが、利益Bとありますが、販売
子会社等につきまして基礎的な販売活動に対応する利益として一定の固定利益に対応
する利益を市場国での利益として保証するという考え方を取っています。なお、その
上に黄色く塗っている点線で囲んでいるところがありますが、これは市場国の課税当
局が自身で証明をした場合にはここの部分にも課税することは考えられるわけですが、
ここで紛争が起きた場合には紛争解決メカニズムを用意しようという考え方です。こ
ちらも右下に記載されているような論点が残っているところです。
10ページを見ていただきますと、これが第2の柱でございます。
第2の柱は、幾つかのルールを組み合わせた形で国際的に合意された最低税率まで
の課税を行おうというものですが、こちらが一番典型的な所得合算ルールについて説
明した資料です。親会社居住地国の法人税率、例えば日本ですと法人実効税率は29.74
パーセントですが、それに対して子会社等の居住地国が軽課税国ですと、非常に低い
実効税率になるわけです。そこで、国際的に合意した最低税率というものを設けよう
という議論をしています。この場合に、軽課税国に所在する子会社等の実効税率と国
際的に合意した最低税率の間の部分、ここの部分について上乗せ課税、トップアップ
課税というのをしようというのが所得合算ルールのイメージです。
こちらも残された主な論点ということで書かせていただいていますが、一番大きな
論点は、この国際的に合意された最低税率をどういう水準に定めるかというところが
政治的にも大きな論点です。
11ページに移っていただきますと、この第2の柱では、多国籍企業の様々な事業展
開に対応する必要があるので複数のルールを設けることにしています。ここには主要
なルールとして所得合算ルールと軽課税支払ルールを載せておりますが、所得合算ル
ールの場合は図にありますように、通常の税率の国に親会社、軽課税国に子会社等が
ある場合に、子会社等の所得に着目して最低税率まで親会社の国で課税をするという
仕組みです。軽課税支払ルールは、今度は親と子が逆転した状態で、軽課税国に親会
社がある場合には子会社等からの使用料等の支払いに対して、子会社等が置かれてい
る通常の税率の国において使用料等の支払いの損金算入を否認するなどといった形で
課税を確保しようということです。
12ページは第2の柱の各ルールを載せておりますが、全体で四つルールがございま
す。先ほどのページで御説明したのは所得合算ルールと軽課税支払ルールですが、そ
の他にスイッチオーバールールというルールがあります。これは二重課税調整につき
まして国外所得免除方式を採っている国が外国税額控除方式に切り替えることができ
る仕組みを用意するというもので、これは日本には関係ございません。それから、租
税条約の特典否認ルールというルールがあり、これは主に途上国を念頭に置いている
ものです。
13ページは10月14日にG20に報告された青写真という資料の概要です。BEPS包摂的枠
組みのステートメントにつきまして、最終的な合意にまでは至っておりませんが、今、
申し上げてきましたように制度設計につきましては議論が大きく進展していまして、
「将来の合意のための強固な土台」ができているという状況にあります。これを土台
にして、来年の半ばまでに結論を目指そうということで、さらに細部を詰めていこう
という議論をしているところです。
14ページには10月14日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議のコミュニケを載せさせて
いただいています。
15ページに行きますと、今後の主な日程ということで、11月にはオンラインでG20サ
ミットがありまして、それから、1月にはパブリックコンサルテーションが予定され
ています。第1の柱、第2の柱の議論、制度設計も大事ですが、この適用を受ける多
国籍企業あるいは課税当局にとって、そのルールが実際に執行できるかという点も重
要になっていますので、制度の簡素化ですとか事務コストといったようなところも踏
まえて、市中協議を関係者の方としていくということです。
最後、16ページでございますが、これは新聞等でも出ていますが、各国で個別のデ
ジタル・サービス・タックスと呼ばれるような暫定的措置が広がっているという状況
がありまして、多国籍企業が国際的に展開すると、こういった個別の制度が広がって
いくというのはやはり懸念があります。OECD、G20の下で議論してマルチの制度を作っ
ていくことが非常に重要と考えていますので、引き続き議論に積極的に参加してまい
りたいと思っています。
○中里会長
ありがとうございます。
今の藤井参事官の御報告、御説明について御意見等ございますか。
では、岡村委員、どうぞ。
○岡村委員
これまでの議論の中では利益A、利益Bに付け加えまして利益Cというのがありま
した。これについては、先ほど御説明をいただいたとおりですが、拘束力のある二重
課税防止措置を用意するといった議論があったかと思います。この利益Cというもの
は今回消えましたが、今、御説明のとおり、二重課税防止については十分に配慮する
ということでしたので、この点、十分に引き続き御議論いただければと思います。
○中里会長
ありがとうございます。
藤井参事官へのコメント、御質問はまとめて後でお答えいただくということで、次
に佐藤主光委員、お願いします。
○佐藤委員
幾つか質問なのですが、例えば第1の柱でよく出てくる課税対象の企業というとき
に多国籍企業というのは簡単ですが、ビジネスラインごとに分ける、ある程度セグメ
ントをかけるという、この辺りはどの程度まで具体化しているのかなというのと、同
様に第2の柱に関わるのですが、課税ベースを決定するときに、財務諸表はどの国の
どの会計基準に基づいた財務諸表を使うのですかとか、日本でも企業会計上の財務諸
表で認められている収入でも、税務上の益金不算入もあれば損金不算入もありますし、
その辺りの課税ベースの調整はどうするのか、ということ。
それから最低税率の話が出ましたが、これまでの外国子会社合算税制の場合は租税
負担割合で決めていましたが、今回はいわゆる法定実効税率で決めるという理解でい
いのか。その場合、どこまで法人税とみなすのか。例えば我が国においては外形標準
課税がありますが、外形標準課税の税率は入ってこないのかということ。それから、
一部の新聞報道では、こういう国際課税の協調で大体世界で8兆円レベルの税収とい
う記事がたしか出ていたと思うのですが、実際のところ、どれくらいの税収規模を見
込んでいるのかということ。これはなぜ大事かというと、結構欧州や日本でもそうか
もしれませんが、コロナ復興基金の有望な財源として望む声もあるので、我々はどれ
くらいの税収規模の議論をしているのかなと思ったものですから、それを伺いたいと
思います。
○中里会長
宮永特別委員、お願いします。
○宮永特別委員
経済界としましては、お話がありました中でも特にやはり簡素化ということに関し
て、より力を入れていただきたいということで、それから、例えば第2の柱におきま
して国ごとの租税負担割合の計算に際しまして、リスクの低い高税率国を除外するとい
う観点から、ある程度計算の対象とすべき国とか子会社の一定の閾値を上手に求めて、
かなり絞り込んで簡単なやり方にしていただければありがたいということと、もう一
つ、説明にもありましたが、やはり二重課税の防止や排除のためにぜひ強力な予防、
それから、解決をするための手段というものの御準備を検討いただければありがたい
と思っています。
○中里会長
吉村委員、お願いします。
○吉村委員
経済のデジタル化に伴って、見かけ上の利益の計上地だけではなくて、拠点選択に
ついても税制上の優遇措置あるいは税制上の仕掛けに応じて左右されるといったケー
スが目立ってくるようになりましたので、今回のプロジェクトについては積極的に進
めていただければと思います。
特に新型コロナの影響あるいは貿易絡みの紛争でサプライチェーンの見直しという
のがさらに進められていくと思いますが、第2の柱のように、国際的に足並みをそろ
えて租税競争に底を設けていくといった取組は非常に重要だと思います。また、企業
にとりましても競争条件を整えていくという上で重大な意義がありますので、既に日
本の産業界の方もパブリックコンサルテーション等を通じてインプットを積極的に行
っておりますが、日本政府、産業界ともに貢献を続けて是非成功していただければと
思います。
その上で、執行面におきまして既に指摘が出ておりますように、やはりルールが複
雑化して企業が対応困難なものになってしまうと企業の負担ばかり増えて何もいいと
ころがないということになりますので、その点では御配慮いただければと思います。
○中里会長
平野特別委員、お願いします。
○平野特別委員
私からはIT業界を代表して意見を述べさせていただきます。IT業界では日本企業と
海外企業でフェアな勝負ができていないのです。日本企業に不利に、そして、海外企
業に有利になっています。その理由の一つが研究開発費でして、アメリカの会計制度
ですと、ソフトウエアに対する研究開発投資というのは税務上も全額損金計上が認め
られています。一方、日本においては、税務上は自社開発のソフトウエアも資産計上
して、3年もしくは5年で減価償却をする必要があります。そのため、日本企業の場
合は、その年のキャッシュフローが人件費という形で支出しているにもかかわらず、
アメリカなどの外国の法人に比べて多くの法人税を支払う必要があります。
結果的に欧米のIT企業はソフトウエアに投資をして魅力的なサービスをつくりやす
くなります。そこで開発したソフトウエアを海外企業は日本に持ってくるわけなので
すが、大きな売上げを上げているにもかかわらず、日本国内では利益をほとんど出さ
ず、法人税をほとんど支払っていません。ですので、私からの提言といたしましては、
一つは、日本企業のソフトウエアに対する研究開発投資は、税務上全額損金計上を認
めるべきということ。そして、もう一つは、日本で活動する海外企業、中でも一定額
を超える企業には売上税をつくるべきだと思っています。売上げに対する割合を国内
同業種と同程度、もしくはそれ以上に設定することで利益を日本国内で出していなく
ても法人税を支払う仕組みにできるのではないのかなと思っております。
先ほど藤井参事官の御説明で第1の柱、第2の柱とありました。日本企業ではほと
んどの売上げが日本国内にあるような企業と比べてどちらで法人税が高くなるかは分
からなかったのですが、ぜひフェアにしていただきたいと思っております。
税金以外の面でも例えば通称アップル税と呼ばれるプラットフォーム使用料という、
売上げの3割をアプリ業者は支払わなければならないとか、また、そもそも中国企業
は日本国内でビジネスができるのに、その逆、日本企業は中国でビジネスができない
のです。このように日本のIT企業というのは大変な不利な状況になっていますので、
少なくとも税金面だけでもフェアな環境、もしくは国際競争に勝つためには日本企業
に有利な制度をつくっていただきたく思っています。
○中里会長
石井特別委員、お願いします。
○石井(夏)特別委員
今、御説明いただいたことは、巨大IT事業者が得る利益についてのヨーロッパとア
メリカの対立の税制面での問題と見ることができるように受け止めています。アメリ
カの巨大IT企業が他国で経済的利益を上げていることにどのように対処するかという
点におきましては、税制だけではなくて個人情報の世界でも同様に規制強化を含めた
議論が展開されているところでありまして、例えばEUのGDPRなどはGAFAを念頭に置い
ている面は少なからずあると認識しています。また、競争法の世界でも活発な議論が
行われているところです。
国際的な状況を少し見てみますと、個人情報保護の分野ではなかなか拘束力を持た
せる形で各国や地域のコンセンサスは得るのが難しいというところが現実としてはあ
ると思いますし、IT企業が台頭している中国に対してどのようにアプローチをしてい
くかということについてもまだ模索中という印象を受けるところではあります。
他方、税制に関しては中国も含めてコンセンサスを得られる可能性がある。そうす
ると、条約の形で具体化していくことになると思いますので、ばらばらの規制は拘束
力を持たせる形で、一つのルールとして取り決めていくことができると非常に好まし
い成果になるのではないかと思っています。
第1の柱、第2の柱ともに非常に重たい論点が列挙されていると思いますが、ぜひ
国際的なルール形成に向けた一層の推進、取組を期待しております。
○中里会長
ありがとうございます。
増田特別委員、お願いします。
○増田(悦)特別委員
私からは消費者の立場から申し上げます。コロナ禍におきましてインターネット取
引がますます増加しておりますが、消費者は海外の事業者と認識せずに取引をするこ
ともあって、それが原因でトラブルに遭遇しています。取引がボーダーレスになった
以上、実情に合わせて税金のあり方も変えていただきたいと思います。消費者は税金
のことまで考えて取引していませんので、この問題はもっと分かりやすく国民に周知
して自分たちの行っている取引の影響について理解促進していただきたいと思ってい
ます。
○中里会長
ありがとうございます。
それでは、藤井参事官、よろしくお願いします。
○藤井主税局参事官
たくさんの御意見を頂戴しまして、ありがとうございます。
まず、岡村委員から御質問いただきました利益C、これは従来、利益Cという言い
方でありましたが、最新の青写真ではなくなりまして、これは紛争解決防止手続とい
うことで利益Cというものを表現するということになっていますし、しっかりとした
ものをつくろうということで議論をさせていただいておるところです。
それから、佐藤委員から幾つか御質問をいただきました。まず多国籍企業をどうい
う単位で見るかというところですが、基本は多国籍企業グループ全体として見ていく
ということですが、一定の規模を超えるような場合にセグメントで分割をしてみると
いうルールも考えているところで、詳細は非常に細かくなりますので、その考え方だ
けお伝えさせていただきます。
それから、課税ベースの計算につきましては、基本的にはIFRS等の企業会計基準あ
るいはIFRSに相当する会計基準に沿って計算することとなっています。それから、実
効税率の計算に当たってどういった租税をカウントするかというのは御指摘のとおり
重要なポイントで、この点、各国、様々な租税があるものですから、そこについては
まだ議論が収れんしておりませんが、引き続き佐藤委員の御意見も含めて議論してい
きたいと思います。
それから、8兆円等の試算が出ていると報道されていますが、これはOECD事務局に
おいて一定の仮定を置いた上で非常に大雑把に計算をした試算です。したがって、ま
だいろいろな基準について確定していませんので、この数字については今後も変わっ
ていくものと思います。そういった数字だということで御理解をいただければと思い
ます。
それから、宮永特別委員、吉村委員等々から、執行面及び簡素化が大事だという点
について御指摘いただきありがとうございます。その旨を持ちまして引き続き取り組
んでまいりたいと思っています。
それから、宮永特別委員から同じように二重課税の防止、それから、紛争の防止・
解決が大事だという点も御指摘いただきまして、それを踏まえて議論を行っていきた
いと思います。
それから、平野特別委員から御指摘いただきましたソフトウエアの損金算入とかど
うするかといったのは私の手に余る、外側なのでお答えできませんが、今回の国際課
税の議論というのが国際的な企業間の公平な競争環境を整備しようという目的で行わ
れているということがまずありますし、それから、売上税というようなお話がありま
したけれども、第1の柱、それから、第2の柱の考え方の基本に、今、申し上げまし
たように売上税とは違う形ではありますが、公平な競争環境を整備しようという考え
方があります。
それから、最後に増田特別委員からいただきました消費者の方々に対して分かりや
すく周知していくという点、この点は国際課税に限らず全ての税制について共通する
ところだと思いますが、特に複雑で分かりにくい制度になっていくと思いますので、
現在も経済界とは議論を開始させていただいていますが、引き続きその点を胸にしま
して取り組んでまいりたいと思います。
○中里会長
ありがとうございます。この点についても有益な御意見、ありがとうございました。
このテーマ、非常に重要なものですので、議論を続けてまいりたいと思います。委
員の皆様におかれましても引き続きよろしくお願い申し上げます。
さて、最後になりましたが、納税環境整備に関する専門家会合について、岡村座長
から御報告を頂戴したいと存じます。
この専門家会合につきましては、前回の総会において設置を御承認いただいてから
岡村座長を中心に精力的に議論を進めていただいています。詳細な報告は次回、改め
てお願いしようと思っていますが、重要なテーマですので、本日はまず簡潔にその概
要報告を頂戴いたしたいと思います。
岡村座長、よろしくお願いします。
○岡村委員
では、端的に申し上げます。説明資料の総3-5を御覧ください。8月5日の第2
回総会におきまして委員の皆様からウィズコロナ時代における税務手続の電子化やグ
ローバル化・デジタル化の進む経済社会における適正課税のあり方についての御意見
が出たことを受け、中里会長より、今後の総会における議論の素材を整理するため、
専門家会合を設置してはどうかとの御発言があり、委員の皆さんの御了承の下、納税
環境整備に関する専門家会合が設置され、10月7日に第1回の会合が開催されました。
1ページに当専門家会合のメンバーのリストがあります。外部有識者3名の方を加
え、12名のメンバーで活発に議論を行っているところです。第1回の会合が10月7日、
その後、10月16日と10月21日に開催し、これまで3回の会合が開催されています。
2ページを御覧ください。簡単にこれまでの3回の会合の内容を御説明いたします
と、第1回会合は民間ヒアリングとして日本商工会議所と新経済連盟をお招きし、事
業者における記帳の実態や事業者のバックオフィスのデジタル化の状況についてお話
を伺いました。この中では、今般のコロナ禍で顕在化した事業者の帳簿の課題やクラ
ウド会計の普及など中小企業における会計業務のデジタル化の流れが紹介されました。
第2回会合は税務手続の電子化、事業者の適正申告の確保、記帳水準の向上につい
て、第3回会合は税務上の書面、押印、対面原則の見直し、課税実務を巡る環境変化
への対応について、それぞれ財務省、総務省から現行制度の概略や今後の課題につい
て御説明いただき、活発な議論を行いました。
今後、専門家会合で出た主な意見を総会へと報告させていただくことを考えていま
す。どうかよろしくお願いします。
○中里会長
岡村座長、どうもありがとうございました。引き続きどうかよろしくお願いいたし
ます。
それでは、次回は冒頭申し上げました課題のうち残りの、資産移転の時期の選択に
中立的な税制のあり方、それから、納税環境整備に関する専門家会合からの報告、こ
れらを議題とさせていただきたいと考えていますが、それでよろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○中里会長
この辺りで本日は閉会といたします。
次回の開催日程については、決まり次第、事務局から御連絡いたします。また、本
日の会議の内容は、この後、私のほうから記者会見で御紹介したいと思います。
本日は、お忙しい中御参加いただき、本当にありがとうございました。
[終了]

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