カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

資料2020年11月13日 【税制改正関連情報】 第4回税制調査会 議事録

第4回税制調査会 議事録

PDFファイルを表示(20201113_2zen4kaigiji.pdf)

税制調査会(第4回総会)議事録
日 時:令和2年11月13日(金)14時00分
場 所:WEB会議(財務省第3特別会議室を含む)

○中里会長
それでは、ただいまから第4回税制調査会を開会します。
本日は、引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、委員の皆様方の
御理解、御協力をいただきまして、オンライン会議とさせていただきました。
本日の出席者一覧は、お手元にお配りさせていただいており、現在、全員との接続
が確認できています。
会議の途中でパソコン操作などに支障が生じましたら、あらかじめお伝えしていま
す事務局の電話番号に御連絡をいただければ、対応をさせていただきます。
なお、本日の総会も公開とさせていただいています。プレスの方々には、新型コロ
ナウイルス感染症の感染予防のため、本日も別室にてリアルタイムで会議の模様を御
覧いただくこととしています。
加えて、インターネットでのリアルタイム中継も行っていますので、お含み置きく
ださい。
それでは、議事を進めてまいります。
本日も前回に引き続き、中期答申で既に示されている課題について議論をしていき
たいと考えています。
具体的には、納税環境整備に関する専門家会合における議論について、岡村座長か
ら御報告を受けた後、皆様から御意見を頂戴するとともに、資産課税に関して、資産
移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について、財務省からの説明を踏まえ、皆
様から御意見を頂戴したいと考えています。
それでは、申し訳ありませんが、ここでカメラの皆様は御退室をお願いします。
(報道関係者退室)
○中里会長
それでは、まず納税環境整備に関する専門家会合における議論について進めたいと
思います。
前回の会議の最後にも、岡村座長から納税環境整備に関する専門家会合の議論の概
要を御報告いただいたところですが、今回は岡村座長からの御報告をお伺いし、その
後、皆様から御意見を頂戴したいと考えています。
岡村座長、よろしくお願いします。
○岡村委員
納税環境整備に関する専門家会合の議論の状況について、説明させていただきます。
資料については、説明資料総4-1を御覧ください。
この専門家会合は、ウィズコロナ時代における税務手続の電子化やグローバル化・
デジタル化の進む経済社会における適正課税のあり方について、今後の総会における
議論の素材を整理するために、10月7日から4回にわたって開催されたものです。
専門家会合において、事務局や業界団体から説明があった主な資料について、私か
ら簡単に紹介しつつ、委員の皆様の主な御意見について報告させていただきたいと思
います。
説明資料の5ページを御覧ください。こちらは昨年9月に政府税調において取りま
とめられた「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」の納税環境整
備部分の抜粋となっています。このような方針を踏まえまして、議論を行っていまし
た。
7ページと8ページは、日本商工会議所に説明いただいた資料となります。
8ページを御覧ください。クラウド会計の登場による記帳作業の変化や今般のコロ
ナ禍は、帳簿の重要性や電子化の効果を改めて認識する機会となりました。その一方
で、中小・小規模事業者が電子帳簿保存に取り組もうとしても、厳格な要件をクリア
することは困難であること、また、コロナ禍でデジタル化への機運が高まる今が電子
帳簿促進の好機であるといったことを御説明いただきました。
10ページから12ページは、新経済連盟に御説明いただいた資料となります。
10ページでは、紙を用いた業務フローとクラウド会計を用いた業務フローの比較や、
リモートワークなど多様な働き方への対応について御説明がありました。
11ページになりますが、電子帳簿保存法、いわゆる電帳法の活用に向けた課題につ
いて御説明いただきました。
14ページからは、第2回の会合の資料となります。
16ページを御覧ください。電帳法の概要です。電帳法には、改ざん防止等の観点か
ら様々な要件が設けられており、高い事後検証可能性が確保されるものとなっていま
す。その一方で、先ほどの日本商工会議所、新経済連盟の資料にもありましたように、
その厳格な要件が事業者における電帳法の利用拡大を阻害しているとの指摘もあると
ころです。
19ページを御覧ください。地方税手続の電子化になります。昨年の10月より、主と
して法人向けの税目について、地方税共通納税システムの稼働が開始されるなど、電
子化の推進が行われています。
22ページからは、事業者の適正申告の確保、記帳水準の向上についてとなります。
22ページを御覧ください。上の太枠で囲んだ部分が個人事業者の記帳の概況です。
小売、飲食店、理美容師等の伝統的な自営業の方々については、会計ソフトの利用者
は少なく、手書きの帳簿も依然として存在する状況です。
次に24ページを御覧ください。事業者の記帳を巡る状況について、日本商工会議所
からヒアリングしたところ、「今般のコロナ禍の中で、事業者が支援を受けようとす
る際、帳簿の未整備等により申請が困難だった」との相談が多く寄せられたとのこと
です。
一方、クラウド会計ソフトの導入支援を受けている事業者からは、「融資の相談を
スムーズに行うことができた」といった声や、記帳や税務申告業務が大幅に削減され、
業務の効率化につながったとの声があったとのことです。
次に25ページを御覧ください。税務調査の対象となった個人事業者について、青色、
白色の記帳水準別に「記帳不備」と確認された者の割合が表に示されています。表に
記載のとおり、記帳水準が低いほど税務調査において「記帳不備」と指摘される割合
は高まり、白色申告者では7割を超える状況にあるとのことです。
28ページからは、今、御説明いたしました、「税務手続の電子化」と「事業者の記
帳水準の向上」について、今後の論点をお示ししたものとなります。
28ページは、「国税における税務手続の電子化」についてです。
今後の主な論点として、一つ、中小法人における電子申告のさらなる利用率向上の
ため、高い税理士関与割合を踏まえ、税理士会とより一層の連携を図るなど、より効
率的かつ効果的な利用促進策が必要ではないか。もう一つ、記帳水準の向上を図る観
点から、電帳法の要件を満たす信頼性の高い記帳を推進していく一方で、中小事業者
への電子的な帳簿作成の広がりやギグワーカー等の増加に鑑みて、低コストの電子記
帳の利用可能性を考える必要はないか。最後に、紙の領収書等を授受する商慣行が存
在することを前提に、スキャナ保存制度における信頼性確保のための要件については、
紙原本によるチェックを極力縮小していきつつ、代替となる改ざん抑止措置を検討す
べきではないかといった点が挙げられています。
29ページでは、「事業者の適正申告の確保、記帳水準の向上」についてです。
主な論点といたしまして、三点。一点目は個人事業者全体の記帳水準について、ICT
等の活用を通じて、どのように底上げを図るか。そのための環境整備をどのように図
るか。二点目は、特に現在、白色申告等の低い記帳水準にとどまっている個人事業者
をどのように正規簿記へと促していくか。三点目は、中長期的な記帳・帳簿書類保存
制度のあり方といった点が挙げられています。
30ページは、「地方税における税務手続の電子化」についてです。
今後の主な論点として、三点。一点目は、地方税共通納税システムについては、利
便性の向上等の観点から対象税目の拡大が必要ではないか。二点目は、特別徴収税額
通知のうちの本人、納税義務者用については、地方団体及び特別徴収義務者の理解を
得ることに留意をしつつ、かつ、個人情報の適正な取扱いを確保した上で、個々の納
税義務者に電子的に送付することを実現すべきではないか。その場合、特別徴収義務
者に対して、eLTAXを経由して送付するというシステムをつくっていくことがいいので
はないか。三点目は、納税者や地方団体の負担軽減に資する地方団体の税務システム
の標準化を進めていくことが必要ではないかといった点が挙げられています。
32ページからは、第3回の専門家会合の資料となります。
33ページを御覧ください。「国税関係手続における押印原則について」です。
論点としては、国税関係における押印義務は、原則として廃止すべきではないか。
また、実印による押印及び印鑑証明書の添付を求めているような一定の手続について
は、政府全体の方向性を踏まえて、その取扱いを検討すべきではないか。そして、実
務上、「署名または押印」を求めている手続であって、現状において認印を許容して
いるものについては、押印と併せて署名も不要と整理すべきではないかといった点が
挙げられています。
次に34ページは、地方税についてとなります。
論点といたしましては、国税と同様、地方税関係手続における押印義務は、原則と
して廃止すべきではないか。また、「署名又は押印」を求めている手続や犯則事件調
査についても、税手続の統一性の観点から、国税と同様の対応を行うべきか。そして、
地方団体が条例で独自に押印を求めているものについて、どう考えるかといった点が
挙げられています。
36ページからは、「課税実務をめぐる環境変化への対応」でございます。
36ページを御覧ください。国境を越えた経済活動が活発化してきており、非居住者
や国内にPE、つまり恒久的施設を持たない外国法人が、国内において直接経済活動を
行う場面も増えてきています。
37ページですが、そのような方は、法令上、国内関係者の中から納税管理人を指定
することになっており、税務調査を行う必要が生じた場合には、納税管理人を通じた
接触等によって進めていくことになりますが、自発的に納税管理人を指定しない場合
などについて、どのように効果的に税務調査を行うかが実務上の課題となってきてい
ます。
38ページを御覧ください。国際的な租税の徴収につきましては、平成25年以降、租
税条約に基づく徴収共助の実施、すなわち税務当局間の国際連携によって対応してき
ており、徴収共助要請の実績は、年間37億円となっているところです。
40ページを御覧ください。滞納者の国外財産について、今申し上げた徴収共助の枠
組みの活用により徴収を試みた場合、国内にある財産であれば適用可能な罰則や制度
が、現行法上、国外財産には適用できず、結果的に徴収共助逃れとして利用され得る
状態となっているところです。
例えば、滞納処分を免れる目的で国内財産を移転した場合には、滞納処分免脱罪が
適用されますが、徴収共助が可能な国にある国外財産を移転した場合には、滞納処分
免脱罪の適用がないというアンバランスが生じています。
以上、簡単ではありますが、事務局からの説明の概要を紹介させていただきました。
こうした課題に対して、委員の皆様からいただいた主な意見につきまして、それぞ
れのテーマに分けて整理をしています。
42ページを御覧ください。「国税における税務手続の電子化」についてです。
まず、電子化全般の話として、年末調整、確定申告、納税電子化がどこまで徹底さ
れているのか。それがいつまでにどういう姿になるのかを明らかにしていく必要があ
る。また、マイナンバーカードの普及拡大が必須である、などといった御意見をいた
だきました。
次に電子帳簿等保存制度の利用状況についてですが、まずは帳簿書類関係として、
国税関係帳簿書類の保存を電子的に行う場合、検索要件をはじめ、保存の要件が非常
に厳格になるため、実務上は紙で保存せざるを得ない状況になっているケースがある。
また、承認制度の簡易化について御意見がありました。
43ページになります。領収書等のスキャナ保存に関しては、様々な要件が設けられ
ており、ハードルが高い状況にあるため、納税者から見た利便性を考えていく必要が
ある、といった御指摘や、要件を緩和した上で、改ざん防止のためには、ペナルティ
ーの議論をすべきではないかといった御意見もいただきました。
電子取引については、領収書等を紙で受け取るのではなく、データで受領し、デー
タのまま保存できることが、納税者利便の観点からは目指すべき姿であるとの御意見
をいただきました。
44ページを御覧ください。「地方税における税務手続の電子化について」です。
地方税共通納税システムの対象税目の拡大を進めることで、申告から納税まで一貫
して電子的な処理が可能となる社会が実現されていくことを期待している。また、特
別徴収税額通知の電子化について、eLTAXを経由して送付する仕組みができれば、コス
トダウンなどを図ることができ、電子化に大きく貢献するといった御意見をいただき
ました。
45ページを御覧ください。記帳水準の向上についてです。
今回のコロナ禍での持続化給付金や家賃支援給付金の申請にあたり、記帳を適正に
しているか、会計状況をいかに的確に示しているかが問題となり、実態をきちんと証
明できるような帳簿組織になっていることが重要。また、クラウド会計ソフトの発達
で、個人事業者でも比較的簡単に記帳できる環境は整っているのだから、もはや記帳
が手間だということを言い訳にはできない状況になってきているのではないか。そし
て、記帳水準の向上に向けた今後の道行きについてのロードマップを作成し、計画的
に取組を進めることが重要であり、政府税調でも引き続き議論していくべきではない
かといった意見をいただきました。
46ページを御覧ください。押印義務の見直しについてです。
押印文化のない国もあることに鑑みれば、税務書類に押印がなくても問題ないとい
う発想はあるのではないか。また、担保提供や財産処分のときなど、本人の意思確認
が特に重要な場面においては、印鑑登録証明や実印が求められる場合があり、このよ
うな場合の押印は認印とは性格が違うといった御意見がありました。
47ページを御覧ください。「納税管理人制度の見直し」についてです。
企業を退職した者や帰国した外国人労働者に対して、継続的に連絡を取ることは難
しく、企業がそうした労働者の納税管理人になることは実務上難しいといった声があ
る。また、納税管理人の役割は、書類の窓口のようなものであり、決して責任が重い
ものではないため、納税管理人に大変な負担を強いることになるわけではないといっ
た意見もいただきました。
最後に、「国際的な徴収回避行為への対応」についてです。
徴収共助の制度を作ってみて、その上で必要な立法事実が生じたということであれ
ば、法改正をする方向に持っていってはどうかといった意見をいただきました。
以上、専門家会合における議論の状況を説明させていただきました。
本日御出席の皆様の中にも様々な御意見があろうかと思いますので、こうした議論
を踏まえて、総会でも引き続き有意義な議論が行われることを期待しまして、私の報
告とさせていただきます。ありがとうございました。
○中里会長
それでは、ここからは皆様から御意見をいただこうと思います。
なるべく多くの方々から御意見を頂戴したいと思いますので、準備のできた方から
挙手ボタンを押してください。発言順につきましては、私から指名をさせていただき
ますので、指名された方はミュートボタンを解除して御発言ください。
なお、時間の関係もありますので、岡村座長または事務局への御質問等につきまし
ては、この議題の最後にまとめて受けたいと思いますので、その点、御協力のほど、
お願い申し上げます。
それでは、佐藤委員、お願いします。
○佐藤委員
私からは、大きく三点です。
一点目は、今回の議論の納税環境整備について、電子化に対応した納税をできるよ
うにしようという話の中で、帳簿や伝票の話が出てきて、ふと思ったのですが、2023
年から消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が導入されることになりま
すが、インボイスに関する電子化の議論はどうなっているのか。インボイスについて
は電子インボイスをベースとするといいのでしょうか。
二点目は、総務省に対する質問ですが、eLTAXでは固定資産税の地方税共通納税シス
テムによる納税ができないと思います。償却資産などは企業が多く保有していますの
で、eLTAXで固定資産税の償却資産の納税ができるようになると、企業にとって非常に
有用になるのではないかと思いました。
最後、感想ですが、eLTAXも含めて税務手続のデジタル化が進んでくると、制度につ
いても色々と見直す余地が出てくると思います。先ほど納税管理人の話がありました
が、現在、住民税は前年所得課税なものですから、例えば海外の者が前年まで日本で
働いていて、今年、前年の所得に応じて住民税を払うべきところ、国外へ帰ってしま
ったという話はよく聞く話です。本当は納税管理人を置くべきところですが、大体の
人は何もしないまま帰ってしまうケースもあるので、住民税については、現年所得課
税化したらどうかという議論が出てきています。今までは税務手続の電子化を前提に
していなかったものですから、難しいでしょうという議論だったと思いますが、デジ
タル化が進めば、住民税の現年所得課税化も可能性としては出てくるのではないかと
思いました。
○中里会長
熊谷特別委員、お願いします。
○熊谷特別委員
岡村座長から御説明いただいたことには、全く異議はございません。最後にご説明
のあった専門家会合での御意見も非常に納得するものが多かったという印象でござい
ます。
その上で、二点ほど申し上げたいと思いますが、まず一点目としては、税務手続の
電子化・デジタル化が急務であるということ。コロナ禍で、各国が家計向けの給付を
行いましたが、給付まで何日かかったか調べてみると、例えばシンガポールは5日で
90パーセントまで支給ができた。他国に関して、75パーセントまでの支給ができた日
数を計算してみると、韓国が19日ぐらい、アメリカはおおむね40日、これに対して日
本は60日かかっているということですから、特にシンガポールなどと比べると彼我の
差は非常に大きいわけであって、申告手続から納税手続までを一貫して電子的な処理
が可能な社会を目指して、デジタル化を進めることが急務である。これを一点目とし
て申し上げます。
二点目としては、無謬性に対する過剰なこだわりを捨てるべきだと考えておりまし
て、必要以上の厳しい規制を行っても、そのことで減る不正というのは、恐らく微々
たるものであって、他方で、過剰な規制への対応による事務コストというのは、計り
知れないものがあるのではないか。その意味では、バランス感覚が求められており、
最低限の改ざんの防止策は必要ですが、やはり費用対効果をしっかりと見た上で、可
能な限り規制は減らしていくということ。また、紙が原則だという考え方自体もある
種の既成概念ですから、やはり転換していかないといけない。これらのことは、今、
菅政権が進めている悪しき前例主義を打破するとか、規制をしっかりと改革していく、
こういう考え方に合致するものだと思いますので、是非とも今日の御報告の内容に即
して、迅速にこの改革を進めていただきたいと考えます。
○中里会長
林正義特別委員、お願いします。
○林特別委員
四点ございます。一点目は、クラウド会計ソフトのお話が出ましたが、会計ソフト
を入れて帳簿が簡単になるというのは理解できるのですが、クラウドを強調されてい
るところを、もう少し御丁寧に説明していただければ、色々と勉強できると思います。
二点目は、地方と国のシステムの御説明がありましたが、そもそもなぜ別になって
いるのか疑問でございます。もちろん地方には国が持っていない課税ベースもあると
思いますが、課税ベースはかなり重複しているところがあると思います。特に法人関
係におきましては、納税者にとっては二度手間になる可能性があると思うのですが、
統合したシステムはできないのか、お答えいただければと思います。
三点目です。押印を不要とするという話が出ましたが、一番気になるところは、前
例を見ると、押印を不要とすることによって、かえって電子手続が煩雑になることも
十分に考えられるので、単に電子手続にすればいいということではなくて、手続を簡
単にすることが重要ですので、この点も御留意いただければと思います。
最後です。これはそんなに重要ではないかもしれませんが、前の任期のときの政府
税調でも税務手続の話が出て、その時には医療費と納税との情報のやり取りについて、
各関係者が努力していらっしゃるというお話がありました。ただ、事後検証はまだお
伺いしたことがなかったので、その後、進展はどうなったのかということを御確認し
ていただけばと思います。
○中里会長
清家委員、お願いします。
○清家委員
岡村座長がおっしゃったデジタル化を進めなければいけないということについては、
全面的にそのとおりだと思います。
また、専門家会合の意見の中にありました、税務手続のデジタル化を進める上で、
マイナンバーカードの普及が大切だということも、そのとおりだと思います。
そこで、ポイントになるのは、利用者にとって、税を納める側にとって、デジタル
化やマイナンバーを使うことがどのくらいメリットになるのかということで、要はイ
ンセンティブを考えていかなければいけないのではないかと思います。
例えばデジタル化で一部の納税者の負担軽減にはなるが、かえってそれへの対応の
ために苦労する割にはメリットが少ないという納税者にとっては、積極的に普及に協
力するインセンティブが少ないということだと思いますので、そのためにも中小零細
事業者も視野に入れ、使いやすい、使えてよかったという仕組みとすべきと思います。
○中里会長
足立泰美特別委員、お願いします。
○足立特別委員
私からは、デジタル化の活用の視点から意見を述べたいと思います。
デジタル化につきましては、もはや一部の大企業の経営効率化という視点だけでは
なく、中小零細事業者の省力化や生産性の向上、また、高齢者を含めた個人事業者や
納税者の利便性の向上、こういった点からもしっかり進めていくべき状況にあります。
中でも、所得情報につきましては、社会保障をはじめ、様々な制度で使われていま
す。今回の新型コロナウイルス感染症におきましても、持続化給付金の支援で活用さ
れています。このことを鑑みますと、適正な所得の申告は、社会のインフラとして様々
な制度に活用されていますので、ぜひ記帳水準の向上にしっかり取り組んでいただき
たいと思います。
○中里会長
神津里季生特別委員、お願いします。
○神津(里)特別委員
説明資料総4-1の23ページにも記載がありますが、近年、フリーランスなど、従
来の労働関係法令では保護の対象とならない、いわゆる雇用的自営業等の労働者が増
加をしています。コロナ禍におきまして、こうした方々のセーフティーネットの脆弱
性、そして、所得格差の状況が改めて露呈をしたところです。国民生活を守るセーフ
ティーネットの必要性が浮き彫りになっているところです。
とりわけ、今回のコロナ禍のような有事において、立場の弱い方々へのプッシュ型
支援制度の構築は重要な課題だと思います。その際、税制面においては、今回の議題
であります納税環境整備に加えて、マイナンバー制度を活用した正確な所得捕捉に基
づく課税制度の構築が重要だと思います。関係省庁の連携の下、総合的な取組が求め
られていると思います。
また、就業形態の多様化にはプラットフォームエコノミーの台頭が大きく影響して
います。納税環境整備の観点からは、プラットフォーム事業者からの情報提供制度を
整備していくことも重要な課題だと思います。同じくマイナンバー制度、マイナポー
タルを活用した、制度設計に向けた議論が必要だと思います。今回の専門家会合の報
告をきっかけとして、こうした観点も踏まえながら、さらに議論が深まることを望み
ます。
○中里会長
赤井特別委員、お願いします。
○赤井特別委員
一点だけです。コロナ禍でデジタル化の必要性が本当に高まったと思うので、デジ
タル化を進めるべきですし、進めるチャンスだと思います。
今日お話しいただいたように、国税にしろ、地方税にしろ、押印の問題にしろ、今、
まさにマイナンバーを活用していこうと言われていますので、全てにおいてマイナン
バーをもっと活用できないか、また、改革を行う上で、マイナンバーと連携すること
で、もっと効率化を進められるのではないかと思います。
押印などにおきましても、本人をどのように確認するのかというところで、本人を
その場で確認するというよりも、後々、何かあったときに、それが本人に結びつくこ
とが大事ですので、本人の証明という意味でも、全ての書類においてマイナンバーを
記入することで、より押印もなくしやすくなると思いますし、その他の部分も連携が
しやすくなって、効率化につながるのではないかと思います。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
私は専門家会合のメンバーに加わらせていただいて、議論に参加させていただいて、
岡村座長、事務局には、うまく取りまとめて御発表いただきまして、誠にありがとう
ございます。
私、専門家会合でも申し上げた点で、必ずしも先ほどの資料に盛り込まれていなか
った点で、一点だけ申し上げたいと思います。記帳水準の向上でございます。記帳水
準の向上は、税務だけではなくて、まずは第一義的に事業者の経営を効率化する、な
いしは日々の経営状況を把握する上で非常に重要なインフラであると思います。まず
始めにその部分があって、次のステップに進むということだと思います。幸いクラウ
ド会計ソフトが向上していますので、比較的容易にデジタル化ができることになって
いて、税務はもとより、経営状況を把握する意味においても、記帳水準を向上してい
ただくことが、第一義的に事業者のためになるということだと思います。それを事業
者に恩恵として御理解いただきつつ、税務においては、適正申告を確保することにつ
なげていくことが重要だと思います。
その意味では、説明資料総4-1の45ページにもありますように、今後の道行きに
ついてロードマップを作成するとともに、これを対外的に公表する、政府から方針を
示すことを通じて、会計ソフト供給メーカーの開発計画にも役立つでしょうし、事業
者がいつまでにどのような対応をすればいいかという準備に資することにつながるの
ではないかと思います。こういう議論を引き続き政府税制調査会でも続けていただき
たいと思います。
○中里会長
田近特別委員、お願いします。
○田近特別委員
岡村座長、専門家会合の意見の集約ありがとうございました。
取りまとめていただいた説明資料総4-1、42ページの税務手続の電子化なのです
が、申し上げたいのは、ここで議論したことを一日も早く具体化していただきたいと
いうことです。
ここに書かれているのは、年末調整、確定申告、確定申告の納税電子化がどこまで
徹底されているのか。それがいつまでにどういう姿になるのかを明らかにしていく必
要がある。それから、マイナポータル等も通じて、データをデータのまま活用・やり
取りする仕組みが大切だ。そして、マイナポータルを使う前提としては、マイナンバ
ーカードの普及拡大が必須だ。この辺を議論したのですが、先ほど神津里季生特別委
員も指摘なされましたが、多様な働き方の中で支払調書の電子化も必要だということ
です。
私が申し上げたいのは、例えばマイナポータルを利用すると、こういう情報が手に
入る。その情報を手に入れるためには、こういう改革をしなければいけない。マイナ
ポータル等を通じてデータをデータのまま活用・やり取りする仕組みがこのようにな
る、といったことを、納税者あるいは多様な働き方をしている方に分かるようにして
いただきたいと思います。
○中里会長
吉村委員、お願いします。
○吉村委員
我が国の租税行政のデジタル化が遅れているというところは、否めない事実として
ありましたので、今回こうした取組で議論が行われているというのは、非常に評価さ
れるべきだと思います。
その上で、法学者として一点申し上げますと、今後、大量のデータの処理であった
り、あるいは他機関との連携を進めていくことになりますと、個人データ保護の観点
から、納税者の中には不安を感じる方もあるだろうと思います。こうしたデジタル化
が進んだ状況というのは、我が国にとって新しい状況ではありますが、既に他国で経
験したものでありますし、それぞれの国で様々なセーフガードの試みも行われており
ますので、そういったものも是非御検討いただければと思います。
以上です。
○中里会長
大田弘子特別委員、お願いします。
○大田特別委員
二点、申し上げます。
政府全体でデジタル化を加速しようとしているときですから、中小法人の電子申告
の利用についても、100パーセント達成の目標年次を決めて、その時点まで必要な支援
策を講じ、その後は電子化しない場合のペナルティーといいますか、何らかの負荷を
加えることが必要ではないかと思います。
二点目です。税務調査で「記帳不備」と指摘される割合が白色申告の場合は7割と
いうデータが資料にあります。これまで複式簿記へのインセンティブを70年間付与し
てきて、実際にかなり広がってきています。また、クラウド会計ソフトが利用できる
ようになっていますので、一定の猶予期間を設けて、猶予期間内に必要な支援策を講
じて、その上で、白色申告は廃止もしくは例外的な措置にしていいのではないかと思
います。
専門家会合での御発言として御紹介されている中に、正規簿記へのインセンティブ
をやめて、電子化へのインセンティブに切り替えるということが書かれていましたが、
私もこれに賛成です。
○中里会長
それでは、御意見のほかに、頂戴した御質問等につきまして、岡村座長からお答え
をお願いいたします。
○岡村委員
佐藤委員からいただいた御質問です。デジタル化とインボイス制度、消費税の適格
請求書等保存制度との関係につきましては、正面から議論をしていなかったことは確
かなのですが、電帳法との切り分け等の問題もあり、今後、議論が進んでいくだろう
と思います。もし何かございましたら、事務局から補足をお願いします。
固定資産税をeLTAXで申告可能にすることについても、特に議論をしていなかったの
ですが、これも補足があれば、事務局からお願いします。
住民税の前年所得課税の問題というのは、水面下ではずっと意識をしてきていると
ころなのですが、これも税務手続のデジタル化による容易さがどの程度増すのかとい
うことについては、特に議論をしていませんでした。ここも補足いただけるようでし
たら、お願いします。
林特別委員からいただいた御質問の中で、クラウド会計ソフトのことがあったと思
います。クラウド会計ソフトを利用する納税者の方が増えていて、オンプレミスの会
計ソフトを利用していた方が、クラウド会計ソフトの方に移っています。さらに、あ
まり正面から議論したわけではないのですが、クラウド会計ソフトを利用することに
よる改ざん防止、つまり全部ログが残るとか、データがクラウド側で保存されるので、
そうすると勝手に利用者が改ざんできないといったメリットがありますので、報告さ
せていただいたということになります。
ご質問の二つ目、国税と地方税を一つのシステムでやったらどうかということだろ
うと思うのですが、これは今回の納税環境整備の守備範囲を超えているようなところ
がありまして、事務局から何かありましたら御補足をお願いしますが、国税と地方税
は基本的に違うということもあると思っています。したがって、執行のシステムが違
ってくるだろうという感じがしています。
ご質問の三つ目のところは、社会保障関係まで立ち入った議論はしていなくて、本
日、事務局からもお答えできるかどうかは分からないのではないかと思います。
残っているものがありましたら、御指摘をいただければと思うのですが、よろしい
ですか。
○中里会長
ありがとうございます。
事務局からですが、中島企画官、お願いします。
○中島主税局税制第一課企画官
補足させていただきます。佐藤委員から御指摘のあったインボイスの話ですが、岡
村座長からも御説明がありましたように、今回の専門家会合でインボイスはそれほど
議論に出ませんでしたが、昨年の秋に政府税調でお取りまとめいただいた中期答申で
は、税務手続の電子化、証憑類の電子化を進める上で、インボイス制度の導入も見据
えてといった言及がなされ、今回その流れで議論がされました。
また、今回、新経済連盟も第1回会合でプレゼンをしていただきましたが、インボ
イス制度の導入も踏まえると、請求書のペーパーレス化、経理処理の効率化が求めら
れているといった問題意識が示されたところです。
林特別委員から御指摘いただいた、クラウド会計ソフトを強調している理由でござ
いますが、岡村座長がおっしゃったことに加えて、低コストで個人の方も含めて手軽
に利用できるとか、インストール型だとバージョンアップはマニュアルでやる必要が
あるのですが、クラウド型だと自動でできるとか、様々な利便性の観点から使い勝手
の良さといったものが背景にあろうかと思います。
国税と地方税の手続の統合ですけれども、今回、納付面も非常に大事になってまい
りますが、国税の方でデジタル納付といったものは取り組んでいるところですが、加
えて昨年の10月から地方税の方でもeLTAXが整備されたこともあって、利用者から見ま
すと、国、地方それぞれについて、電子的に納税がしやすいという環境が整ってきた
と考えているところです。
医療費と納税の情報連携ですが、これは今回重点的には取り上げませんでしたが、
引き続きマイナポータルと連携し、格納されている医療費情報をシームレスかつ自動
的に、申告書へ転記していくといった取組はやらせていただいているところです。
御質問の点は、以上です。
○中里会長
総務省からお願いします。
○東自治税務局電子化推進室長
私からも補足をさせていただきます。佐藤委員がおっしゃった固定資産税をeLTAXの
地方税共通納税システムの対象にするということですが、一番要望をいただいている
税目でございまして、経団連や、日本商工会議所からも要望をいただいています。我々
はそれを認識しており、政府税調とは別の場でございますが、関係者が入った検討会
なども立ち上げて、検討を進めているところですので、できるだけ早く実現できるよ
うに、検討してまいりたいと考えているところです。
林特別委員のおっしゃられた国税と地方税のシステムの統合ですが、同じ法人関係
の税金でも、地方自治体に対してお知らせいただく情報は、国税情報とは分割が必要
だということもありまして、システムが別になっているところでございますが、別の
ままで不便を強いるということではございません。例えば財務諸表につきましては、
e-Taxに出していただければ、そこを経由してeLTAXに行くとか、企業の関係で申しま
すと、給与支払報告書等について、eLTAXに出していただければ、e-Taxに回すとか、
一元化の取組も進めてございまして、納税者の方の便利な連携につきましては、引き
続き国税庁などと協力して進めてまいりたいと考えているところです。
○中里会長
門前市町村税課長、お願いします。
○門前自治税務局市町村税課長
佐藤委員からは、電子化が進めば、個人住民税の現年課税化が進むのではないかと
いう御意見だったと思います。これにつきましては、御指摘のとおり、電子化が進み
ますと、個人住民税の現年課税化に向けた幾つかの課題が解消されていくことになる
とは思います。ただ、他方で、例えば現年課税化に切り替える年の前年課税分と現年
課税分をどのような形で徴収をするのか等、その他の課題もあるという認識をいたし
ています。
総務省内の検討会におきましても、これまで議論を深めてきているところですので、
今後も電子化の進捗を見ながら、検討を深めていきたいと考えているところです。
○中里会長
ありがとうございます。
今回は、納税環境整備に関する専門家会合における現時点までの議論について、岡
村座長から御報告をいただきました。
経済社会の変化に応じて納税環境を整備していくことは、極めて重要な課題だと思
っています。今後も引き続き丁寧な議論を行っていくとともに、制度面・運用面とも
に可能な方策については、着実に取組を進めていく必要があるものと考えています。
議論に当たっては、引き続き、委員の皆様の御協力をお願いします。
それでは、次の議題でございます、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等
に移ります。
初めに財務省から御説明をお願いします。
○吉住主税局税制第一課企画官
資産税担当の企画官、吉住でございます。どうぞよろしくお願いします。
それでは、説明資料総4-2「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等につ
いて」ということで、2ページ目、目次でございますが、二つのパートに分けさせて
いただいております。一つ目が相続税・贈与税の概要、二つ目が現状と課題です。二
つ目の内容を中心に御説明させていただきたいと考えています。
4ページを御覧いただきますと、国税の税目及び税収の内訳ということで、相続税・
贈与税の税収は、令和2年度予算額で2.3兆円、国税収入に占める税収の割合は3.4パ
ーセントとなっています。
5ページでございますが、これは平成12年の政府税調の答申です。相続税の意義に
ついて、遺産の取得という無償の財産取得に担税力を見出して課税するもので、個人
所得課税を補完するものであり、また、累進税率を適用することで、富の再分配を図
るという役割もあるといった旨、記載されております。
6ページは相続税の概要です。
現行の相続税の計算方法について、基礎控除が3,000万円足す600万円掛ける法定相
続人数、税率が10パーセントから55パーセントまでの8段階の累進税率となっていま
す。
相続税の課税状況ですが、平成30年分の死亡者数は約136万人、課税件数が約11.6万
件であり、課税件数の割合は8.5パーセントとなっています。
7ページですが、我が国では、相続税の総額を法定相続人の数と法定相続分によっ
て計算し、それを各人の取得財産額に応じ按分して税額を計算する、法定相続分課税
方式を採用しています。
8ページですが、相続税が課税される財産等についてです。
相続財産の内訳として、かつては土地の割合が高かったのですが、平成30年では有
価証券、現金預金の割合がそれぞれ、16パーセント、32パーセントとなっています。
9ページですが、地価公示価格指数の推移と相続税の改正経緯を書かせていただい
ています。
グラフを見ていただきますと、バブル期に地価が高騰して、それに伴う負担調整の
ため、累次にわたり基礎控除の引上げ及び最高税率の引下げを行ってきたところです
が、平成25年度税制改正において、相続税の再分配機能の回復、格差の固定化の防止
等の観点から、基礎控除の5,000万円から3,000万円への引下げ、最高税率の引上げを
実施して、現行の制度となりました。
その結果、10ページを御覧いただきますと、バブル期以降、課税件数割合や、負担
割合、税収が減少傾向にあったものが、平成25年度税制改正が施行された平成27年以
降は増加し、課税件数割合も100人中8.5人となっています。
11ページですが、相続税の負担割合につきましても、平成27年の基礎控除額の引下
げ等以降、増加しています。
12ページは、贈与税の概要です。贈与税は相続税の補完的な性格を持ちまして、贈
与により取得した財産の合計額から110万円の基礎控除を控除した残額に課税する暦
年課税と、平成15年度税制改正で導入された、相続時精算課税制度が存在しており、
いずれかを選択する仕組みとなっています。
課税状況を申し上げますと、平成30年分の暦年課税の申告件数が37.4万件、相続時
精算課税が4.3万件であり、相続時精算課税が暦年課税の1割強という状況です。
13ページを御覧いただきますと、令和元年9月の政府税調の中期答申で、資産課税
が適切な再配分機能を果たしていくべく、そのあり方を不断に検討していく必要があ
るといった御指摘をいただいています。
次は相続税・贈与税の現状と課題について、御説明申し上げたいと思います。
最初に経済社会の構造変化ということで、15ページを御覧ください。年代別の金融
資産保有残高の分布の推移の図を見ますと、60歳代以上の方の割合は、1989年には3
割程度であったものが、25年間でほぼ倍増しています。年代別金融資産保有総額の図
では、個人金融資産約1,700兆円のうち、約1,000兆円の資産を60歳以上の方が保有し
ています。
16ページですが、相続財産種類別の財産価額の推移で、相続財産に占める土地の割
合がバブル期以降下がっており、有価証券、現金・預貯金の割合が増加していること
が見てとれます。
17ページですが、少子高齢化が、人口動態的にも進行しています。
18ページは、被相続人の年齢構成比のグラフで、被相続人の高齢化が進んだ結果、
いわゆる老老相続が増加しており、相続による若年世代への資産移転が進みにくい状
況になっています。具体的には、被相続人が80歳以上の割合が、平成元年から平成30
年にかけて4割弱から7割強と増えています。80歳以上ですと、子の年齢も50代以上
になろうかと思います。
19ページは、世代別の収入分布の変化ですが、1994年から2014年までの20年間で、
30歳未満の若年世代を中心に現役世代の世帯収入が低下しています。
20ページは、高齢者世帯の貯蓄現在高をグラフにしたものです。同じく1994年から
2014年までの20年間で、U字型になっているのが、より一層急な形になっているとい
うことが見てとれるかと思いますが、貯蓄の多い世帯と非常に少ない世帯の割合が上
昇してきており、いわゆる二極化の傾向が見られます。ここから、高齢者世代内にも
資産格差といったものがあり、それが相続等を通じて、次世代へ引き継がれる可能性
も増してきているのではないかと考えられます。
21ページですが、こちらは家庭の経済事情による学力への影響で、所得が高い家庭
の子供の方が、試験の正答率がより高い傾向が見てとれるかと思います。
22ページは、親の所得と子の大学進学率の関係で、親の所得が高いほど、子の4年
制大学への進学率が高くなり、これにより生涯賃金も高くなるのではないかと考えら
れます。
次は制度的論点について御説明申し上げたいと思います。
24ページ、相続税の課税方式について、我が国は法定相続分課税方式を採用してい
ます。これに対し、諸外国は異なる方式を取っており、アメリカは、遺産課税方式と
いう、遺産総額に対して税額を計算し、遺言執行人等が納税する形となっています。
相続人は、納税後の財産を適宜取得する形になっています。
ドイツ、フランスでは、遺産取得課税方式という、遺産を取得した相続人等が納税
義務者として、相続人等が実際に受け取った遺産の取得額に応じて税額を計算し、納
税する方式を採っています。
25ページ、今回テーマとさせていただいております、資産移転の時期の選択に中立
的な税制のイメージについて御説明申し上げたいと思います。
ここでの中立的な税制といいますのは、資産の移転の時期、あるいは回数・金額に
かかわらず、納税義務者にとって生前贈与と相続を通じた資産の総額に係る税負担が
一定となることを指しています。すなわち、全ての財産が相続により移転する場合と、
複数回の贈与と相続により移転する場合のいずれでも、税負担が一定となることを、
資産移転の時期の選択に対して税負担が中立的であると考えています。
このような制度の下では、税負担を意識して財産の移転のタイミングを計る必要が
なく、ニーズに即した財産の移転が促進される。一方で、意図的な税負担の回避も防
止されることになると考えています。
実際、アメリカ、ドイツ、フランスでは、贈与税と、遺産税あるいは相続税の税率
は共通で、相続・贈与に係る税負担の中立性が確保される制度を設けているところで
す。
26ページを御覧ください。我が国と諸外国の相続・贈与に関する税制の比較ですが、
アメリカの遺産税あるいはドイツ、フランスの相続税は、一定期間内の生前贈与と、
遺産の額あるいは相続財産の額を全て合算し、遺産税又は相続税の額を計算すること
とされており、相続税と贈与税を別体系としている我が国とは、かなり異なる制度が
採られています。これにより、諸外国では、どのタイミングで生前贈与や遺産の承継
をしても、一定期間内における税負担の額は一定となり、遺産税や相続税が果たすべ
き再分配機能が十全に発揮されるとともに、生前贈与に対するマイナスの作用も働か
ないため、中立的な制度となっています。
他方、我が国では、贈与税と相続税が別体系で存在しています。そして、相続税の
累進回避を防止するという観点から、暦年課税においては高い税率の贈与税が課税さ
れる仕組みとなっています。
こうした中で、生前贈与の促進といった観点から、平成15年度の税制改正で相続時
精算課税が導入されています。この制度は、選択後の生前贈与額と相続財産額を合算
して相続税額を計算する仕組みですが、暦年課税との選択制ということもあってか、
その利用は必ずしも進んでいない状況です。
27ページからは、アメリカ、ドイツ、フランスの相続・贈与に関する税制です。
アメリカでは、生涯にわたる財産の移転額を累積して課税します。相続時には、過
去の累積贈与額と遺産額の合計額に累進税率を適用し、過去に納めた贈与税額を控除
する形になっています。
ドイツにつきましては、過去10年間の財産の移転額を累積して課税します。具体的
には、贈与時、過去9年間の累積贈与額と本年分の贈与額の合計額から税額を計算し、
その後、過去9年間の贈与税額を差し引くことにより、毎年納税額を精算して課税を
行う仕組みとなっています。
フランスは、ドイツと同様の制度ですが、累積期間が15年間となっています。
30ページは、我が国の相続税と贈与税の関係です。
先ほど申し上げたとおり、我が国では、贈与税は相続税の累進回避を防止する観点
から、相続税より高い税率構造が設定されています。そのため、将来の相続財産が比
較的少ない層にとっては、相続財産に適用される限界税率に比べ、贈与税の税率が高
い水準にあるため、分割贈与をしても高い贈与税が適用される余地が多く、ニーズに
即した財産移転に抑制的に作用している面もあろうかと思います。
他方、相当に高額な相続財産を有する場合には、相続財産に適用される限界税率を
下回る水準まで財産を分割することで、相続税の累進負担を回避しながら、多額の財
産を移転することが可能となっています。
例えば、相続財産が4,500万円以下の場合に、当該財産の贈与を行いますと、高い贈
与税率が適用され、ニーズに即した財産移転に抑制的に作用することもあろうかと思
います。
他方、相続財産が6億円超の場合には、分割して贈与する方が、高い贈与税率が適
用されても相続税の税率を下回る場合があり、相続税の累進回避につながるといった
構造になっています。
31ページは、贈与の実態がどのようなものかを調べたものです。暦年課税の取得財
産価額階級別の課税人員ですが、取得財産価額が700万円以下の者、つまり贈与税の限
界税率が10パーセントから20パーセントにあたる贈与が約9割になっています。
32ページは、連年贈与の状況について調べたものですが、平成24年に400万円以上の
贈与をして贈与税申告書を提出した者のうち3割から4割の者は、7年連続で贈与を
受けており、複数年にわたって贈与を受ける者が多いことが見てとれます。
33ページですが、連年贈与でどれぐらい税負担が減るかということを見てみると、
この資料にある前提で700万円を15年連続で贈与した場合には、税負担が2,275万円分
減少します。このように連年贈与を行うことで、税負担を減らせる構造になっており、
相続税の再分配機能の点からいかがなものかということが考えられます。
34ページは、相続時精算課税の概要です。この制度は、平成15年度の税制改正で、
暦年課税との選択制として導入されました。贈与額2,500万円までは非課税で、それを
超えた部分に一律20パーセントで課税します。その後、相続時に贈与額を相続財産に
加算して相続税を計算し、贈与時に納付した贈与税額は相続税額から控除します。な
お、控除し切れない場合は還付となります。
35ページは、贈与税の課税状況の推移ですが、平成30年の暦年課税の課税件数が37
万件、相続時精算課税が4.3万件と、相続時精算課税の利用は必ずしも進んでいない状
況になっています。
こうした中、昨年の政府税調の中期答申ですが、我が国においても諸外国の例を参
考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時
精算課税制度と暦年課税のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の
時期の選択に中立的な税制を構築する方向で検討を進める必要があるとの御指摘をい
ただいています。
次に、贈与税の非課税措置について御説明させていただきます。38ページ以降は、
教育資金の一括贈与に係る非課税措置、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措
置、住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置を載せています。
38ページですが、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置では、親あるいは
祖父母から子や孫への教育資金の一括贈与について、1,500万円までは非課税とされて
います。なおこの措置は令和3年3月末で期限を迎えます。
39ページは、教育資金贈与信託の受託状況ですが、令和元年度の新規契約数が9,413
件、新規信託財産設定額が828億円となっています。
40ページは、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の概要です。
親・祖父母から子や孫への結婚・子育て資金の一括贈与について、1,000万円までは非
課税とされています。
41ページは、結婚・子育て資金贈与信託の受託状況です。令和元年度の新規契約数
が212件、新規信託財産設定額が10億円と制度導入時からかなり減少しています。なお、
この措置は令和3年3月末で期限を迎えます。
42ページは、住宅資金等資金に係る贈与税の非課税措置の概要です。
43ページは、昨年の政府税調の答申です。これらの非課税措置は、限度額の範囲内
では家庭内における資産の移転に対して、何ら税負担を求めない制度であり、格差の
固定化につながりかねない側面がある。機会の平等の確保の観点などを踏まえ、非課
税措置のあり方について検討していく必要があるとの御指摘をいただいています。
それ以後は参考資料でございますので、時間の都合上、割愛させていただきたいと
思います。
○中里会長
それでは、ここからは皆様から御意見をいただこうと思います。
なお、本日御欠席の沼尾委員から意見書が提出されていますので、適宜御参照いた
だければと思います。
それでは、なるべく多くの方々から御意見を頂戴したいと思いますので、準備ので
きた方から挙手ボタンを押してください。発言順につきましては、私から指名させて
いただきます。指名された方は、ミュートボタンを解除して御発言ください。
翁特別委員、お願いします。
○翁特別委員
資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築というのは、とても重要だと思ってい
ます。今日御説明いただいたように、教育や結婚・子育て、住宅取得等の資金に係る
贈与税の非課税措置については、格差の固定化につながりかねない問題がありますし、
また、60代、70代になって遺産を受け取っていることにつきましても、若年世帯への
資産移転を促す必要性を示唆していると思います。
また、金融資産について、65パーセントを60歳代以上が持っているという説明があ
りましたが、後期高齢者がこれから増えていくことを考えますと、これが7割ぐらい
になっていくことも想定されます。残念ながら、後期高齢者になっていきますと、認
知症の問題などを抱える方もいらっしゃって、マクロ的に見ましても、贈与税と相続
税で税率が中立的でないということは、大きな問題であるかと思います。
もう一つ、説明資料総4-2の30ページにあるとおり、将来の相続財産が少ない者
にとって、税制面で若干不利になっていることも問題かと思っています。その意味で
も相続と贈与を一体的に課税する、すなわち生涯にわたる累積贈与と相続財産を一体
に課税するような累積課税制度も含めて、この制度をしっかりと改革していく必要性
を感じています。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
令和元年の政府税制調査会の中期答申で記されたように、資産課税の適切な再分配
機能を果たすということと、先ほど事務局からの説明にあった、資産移転の時期の選
択に中立的な制度をどのように両立していくかということが、今後、非常に重要な制
度設計だと思います。老老相続とも言うべき状況が進んでいる割に、現役世代は資産、
特に金融資産をあまり多く持っていないという状況があるということを踏まえて、制
度設計をする必要があると思います。
今日の説明資料で如実に明らかになったのは、贈与税が相続税の累進回避を防止す
るという観点から、独自に税率を設けている割には、富裕層の累進回避を阻止すると
いう効果は限定的であるとか、連年贈与により税負担が軽減されている実態が顕著に
表れているということがあって、制度が意図していることが実態にうまく反映できて
いない面が、現状の課題としてあるのだろうと思います。そういう意味では、翁特別
委員も先ほどおっしゃったように、資産移転の時期にかかわらず、税負担が同じにな
るような仕組みを構築しつつ、租税負担の回避を防止するということを行って、資産
の世代間移転を阻害しないようにすることが必要かと思います。
諸外国の例を事務局に挙げていただいて、アメリカ、ドイツ、フランス、それぞれ
工夫をしておられるということで、それに似るような仕組みも発想としては必要だと
思います。ただ、我が国には、相続時精算課税制度があるので、これをもう少し多く
利用していただくことを通じて、資産移転の時期の選択に中立的な税制にしていくと
いうことだと思います。
ただ、残念ながら、先ほどの事務局の説明にもありましたように、相続時精算課税
制度の利用は低調であるということですので、どうして低調なのかという現状の分析、
どのような形で我が国が資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築できるかという
ことを集中的に調査・検討する必要が、早期にあるのではないかと思います。
○中里会長
武田洋子委員、お願いします。
○武田委員
相続税・贈与税に関して、意見を申し上げます。
資産移転の時期に中立的な税制が望ましいということには、賛成です。
加えて、この先の社会の変化を見据えますと、特に格差の固定化を防止するための
制度設計をしていくことの重要性を強調したいと思います。
本日は、中長期的な世代別の収入分布の変化を大変丁寧に図示して御説明いただき
ましたが、コロナ禍を契機に、格差の問題は、この先、より深刻さを増すことが懸念
されています。
世界的にコロナ禍で特に影響を受けておりますのは、飲食業や観光業等のサービス
業ですが、日本ではこうした業種において、非正規雇用の比率が高く、特定の分野の
特定の方々に大きな影響が及んでいます。
当社が10月中旬に実施しました、生活者へのアンケートによりますと、世帯収入は
変わらないと答えた方が6割強であったのに対し、10パーセント以上減少した世帯が
3割程度、そのうち50パーセント以上所得が減った世帯は1割程度です。これはあく
までアンケート調査ですが、回答ベースではそうした結果でした。
コロナ危機を契機に、同じ業種間でも、デジタルサービスなど需要が増えているセ
クターと、先を見据えても需要がなかなか戻らないであろうセクターとの二極化が起
きており、新型コロナの感染拡大が急速には収束しないことを考えますと、格差の固
定化が一層進む可能性がございます。
世帯別の収入分布の変化が、既に中長期的に起きているわけですが、こうした懸念
を踏まえますと、格差の固定化を防ぐ観点からの税制改革は急務と考えます。本日御
紹介いただいた高額な相続財産を有する場合に有利な税制や、格差の固定化につなが
りかねない仕組みは、見直しが必要なタイミングではないかと考えます。
○中里会長
石井夏生利特別委員、お願いします。
○石井(夏)特別委員
私からは、二点ほど申し上げたいと思います。
一点目ですが、先ほど事務局の方から、計画的に連年贈与が行われている実態につ
いて御説明がありました。相続税の累進回避を防止するために、高い贈与税率が設定
されているということですが、それにもかかわらず、富裕層の節税的な行動が一定程
度存在しているということが示されているように思われます。現行制度がこうした行
動を許してしまっているとするならば、相続税における資産の再分配機能の確保とい
う趣旨から見て、問題があると言わざるを得ませんので、制度的な対応が必要になっ
てくるのではないかという点を強調しておきたいと思います。
もう一点は、今後の議論の仕方についてです。格差の固定化の防止という観点が留
意すべき点だと思われます。資産を早期に移転する、その移転の促進を図るという点
は非常に重要ではあります。他方で、単に資産を若い世代に移転しよう、それを促進
する際に、贈与税の非課税措置を中止すべきという議論に集約されると、格差の固定
化を解消する、改善するといった点からすると、問題が出てくる可能性があるように
思いました。資産の再分配という相続税や贈与税の課税根拠に留意しながら、公平な
税負担を確保しつつ、資産移転の時期の選択の中立性を確保する、そうした制度の構
築に向けた議論を進めていくべきではないかと考えています。
○中里会長
諸富特別委員、お願いします。
○諸富特別委員
相続財産が6億円以上のところで、財産を分割することで相続税の累進負担を回避
するという行動が行われている形跡があるという御指摘は、大変重要なところであり、
それが贈与税と相続税の税率構造の違いからもたらされているということ、これが資
産移転のタイミングとか、回数を操作することで、やはり課税を逃れている点は非常
に問題だと思います。こうした問題が、贈与税と相続税の税率構造の違いから来てい
るのだとすると、これを直していくことが重要になってくると思います。
その導きの糸としては、財政学者の間でよく知られています、ノーベル経済学賞を
受賞したヴィックリーの承継税という考え方がございます。これはまさに資産移転の
タイミングや回数によらず、生涯の資産移転額に対して完全に中立的な税制だという
ことになるわけですが、実はその影響を受けたシャウプ勧告は1949年に出され、その
中で生涯累積課税制度を提言していて、一旦それが実現したはずなのです。しかし、
1953年に記録の保存や税務調査の困難を理由に、現在のような相続税と贈与税の二本
立てになったわけです。現在、確かに資産移転額の少ない層では、贈与税の税率が高
いことが、言わば相続税回避の防止措置になっているのですが、今日の御報告にあっ
たような問題があることから、ヴィックリーの承継税の理念、あるいはシャウプ勧告
に戻っていくべきではないかと思います。
そういう意味では、私が今日言及をさせてもらったところからすると、アメリカが
採用している贈与税と遺産税の、両税の間で将来にわたる財産の移転額を累積で課税
をしていくという仕組み、あるいは日本自身が現在採用している相続時精算課税制度
を選択制から、義務づけといいますか、こちらの制度を基本としていくというスタイ
ルへの変更はできないかと思います。
また、教育、結婚・子育て、あるいは住宅取得等の資金に係る贈与税の非課税措置
ですが、世代間で親族の中で非課税のまま移転していくことを促進していくという意
味では、格差是正の機能に対して逆行する制度でありまして、利用件数も減ってきて
いるようですし、一定のニーズは満たされたということで、廃止をしていくべきでは
ないかと考えております。
○中里会長
神津信一特別委員、お願いします。
○神津(信)特別委員
資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築という御提案でございますが、御説明
があったとおり、高齢世帯に資産が多く偏在し、また、高齢世帯においても格差が一
層拡大しているということは、資料上明らかであります。こうした状況の下、資産の
移転時期の選択について、税制上の中立を確保する必要があることに賛同いたします。
先ほどからいわゆる資産の連年贈与が不公平だという御批判がございますが、私は
少し考え方が異なります。現行税制において、贈与財産は、相続財産と切り離せると
いう原則の下、贈与税と相続税の税率の違いを利用し有利な生前贈与を選ぶというの
は、当然の経済行動だと思います。それが税制の仕組みにあるとしたら、今回これを
契機に税制の仕組みを変えて、中立的な税制の構築を図るということには、賛意を表
したいと思います。
また、親から子への資産の早期移転は、経済の活性化に寄与していると考えます。
相続時精算課税制度を中心に検討していくことになるのだと思いますが、現在はさら
に進化が求められているマイナンバー制度が導入されて、これをよりしっかり活用し
ようという議論が行われています。マイナンバー制度の利用や、様々なことについて、
今後税制調査会においては、しっかりとした議論が行われることを望むものでありま
す。今回示された精算課税を主体として、相続税を再構築していくという方向性につ
きましては、日税連としても改めて検討させていただいたうえで、税務の専門家とし
て、実務的な観点から今後とも意見を述べさせていただきたいと思います。
○中里会長
寺井公子委員、お願いします。
○寺井委員
贈与税の課税方式についてですが、今、暦年課税方式と相続時精算課税方式が選択
制になっています。相続時精算課税方式は累積された贈与額が相続時に相続財産に合
算して課税されますので、資産を移転する時期をいつにしても税負担は変わりません。
したがって、資産移転のタイミングについて中立的です。一方で、暦年課税は、贈与
は累積されず、相続財産に合算されず、資産移転の時期と額を操作することで、税負
担を軽減することが可能になります。中立性の観点からは、相続時精算課税方式が優
れていると思っています。
その上で、暦年課税方式と相続時精算課税方式が併存していて、選択制になってい
ることで、暦年課税を選択して納税額を軽減しようとする誘因を与えてしまうことに
は、問題があると思っています。既に皆様が御指摘されたように、格差の固定化にも
つながると考えます。生前贈与をきちんと累積して課税することで、移転時期を気に
せずに資産の移転ができることから、今後、考える方向性として、暦年課税を廃止し
て、相続時精算課税制度に一本化するという可能性も含めて議論をするべきだと考え
ます。
○中里会長
神津里季生特別委員、お願いします。
○神津(里)特別委員
既に収入や貯蓄の格差が進んでいるところに、今回のコロナ禍によって、これが一
層拡大をしているのではないかと認識をしています。また、先ほど武田委員からも詳
しくありましたように、こうした格差が今後も拡大し続けていくのではないかという
懸念を持っています。
こうした格差の固定化やさらなる拡大を防ぐ観点から、本日のテーマであります資
産課税においても、再分配機能の強化に向けた改革が必要だと認識をしています。具
体的には、相続税の基礎控除額のさらなる引下げ、相続税及び贈与税の最高税率の引
上げなどを検討していくべきだと考えます。
併せて教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置につきましては、
資産を有する者ほど有利な制度であり、さらなる格差の要因となり得るため、制度の
廃止を基本とした検討が必要だと考えます。その上で、家族内の承継ではなく、遺産
による寄附の促進など、資産の社会への還元を通じて、次世代における機会の平等や
世代内の公平の確保を図る方策の検討が重要であると考えます。
また、資産移転の時期による税負担の格差が生じないよう、現行の相続時精算課税
制度は、将来的な一生累積課税方式の採用に向けて見直しの検討を進めるべきではな
いかと考えます。
○中里会長
赤井特別委員、お願いします。
○赤井特別委員
私も他の委員と重なるところがあるのですが、もう少し踏み込んで、制度がどうあ
るべきかを考えたいと思います。
今、贈与税について暦年課税と相続時精算課税の選択制になっているということで、
前者は資産移転の時期に中立的ではなく、後者は中立的とされていますが、できるだ
け資産移転の時期に影響を与えないというのが、税の効率性の面からも重要だという
こともありますし、そういう面からも中立性のある相続時精算課税に一本化していく
のがいいのではないか。
諸外国の相続・贈与に関する税制の調査に私も少し関わったのですが、理想からい
うと、生涯にわたる財産の移転額を累積して課税するというのが望ましいかもしれま
せんが、ドイツの10年やフランスの15年といった累積贈与額の年数も、ヒアリングを
すると、10年が分かりやすいとか、これまでの経緯から15年ということで、それが望
ましいからというわけではなくて、実効性という面からそのようになっており、アメ
リカも累積期間が生涯となっていますが、本当に執行できているかというと、怪しい
ところもあるような気もします。日本の場合、適正に執行することが重要ですから、
累積期間を生涯にすると実効性がないということもございますので、そういうところ
は、現実の制度はどうあるべきかということを考えながら、今後、相続時精算課税に
一本化していくときに、累積期間なども考えていく必要があるのではないかと思いま
す。
ただ、デジタル化が進んでいって、マイナンバーなどでしっかりと把握できるよう
になれば、ある程度効率的にミスのない制度ができるかと思いますので、デジタル化
とも連携しながら、この制度のあり方を考えることができればと思います。
○中里会長
田中特別委員、お願いします。
○田中特別委員
相続・贈与のいずれの場合でも、資産移転の時期によって、課税額に差がない中立
的な税制を見直していくという方向性については、異論はないところです。
ただ、中小企業等の事業者にとって、相続税というのは、いろいろな弊害を持って
いるところがあります。そういったものも考慮しながら進めていくべきだろうと思っ
ています。税制だけではなくて、生前贈与については、相続が発生した段階で遺留分
が問題となるケースがあります。現在、遺留分に関する民法特例もありますが、本質
的には家族関係の中で合意がないと制度を適用できないということがあって、うまく
継承できないという問題があります。
また、今、お話があったとおり、累積期間についても、無期限ということになると、
非常に難しいと思います。実際に会社の経営を任されたり、事業を運用している者は、
自分が苦労して大きくしたものについて、遺留分としてそれを放出していかなければ
ならないということもあるので、やはり税制だけではなくて、その他の法制度も含め
て、引き続き安定的に生前贈与を行えるような環境整備を検討していただくことが必
要であろうと思います。
○中里会長
清家委員、お願いします。
○清家委員
私も報告されたことに全部賛成なのですが、税に限らず、国の制度というのは、で
きるだけ年齢といったものから中立的であるべきだということは言うまでもないと思
います。ただ、そのときのポイントは、制度としての年齢中立と、結果としての年齢
中立ということではないかと思っています。
税制の場合は、どちらかというと、後者のことが、今問題になっていると理解して
います。もともと税制そのものは年齢から中立的な制度です。例えば社会保険制度、
年金などは、年齢を加入要件としたり、また、年齢によって給付ですとか、あるいは
医療保険などは自己負担の額が違うという形で、年齢を基本的な要件としているわけ
ですが、税制は、納税の義務とか、控除の制度等に年齢の基準はないわけです。ただ、
制度としては、年齢そのものを基準としていなくても、結果として年齢中立的でなく
なってしまうという部分があるということが、今、問題になっていると理解しており
ます。
例えば今日のお話とは少し違いますが、社会保険料控除などは、被保険者である年
齢層を対象とするために、結果として現役世代に多く適用される控除となっています
し、当然ですが、公的年金等控除は年金受給者を対象とすることから、結果として高
齢者に適用される制度となっているわけです。
先ほど説明していただいた相続税も、近年では、被相続人の7割以上で80歳以上に
なっている。そうすると、相続人も50歳代以上になっていると考えられて、結果とし
て、老老相続と言われるように、多くの人にとって人生の後半の年齢に負担する税と
なっているところが問題なのだろうと思います。
私も親から同じ額の財産を受け取るならば、人生の後半の年齢で支払う相続税と、
より早い年齢で支払う贈与税で、経済学的により正確に言えば、税負担額の総額の現
在価値総額が同じであるという、御説明にあったような資産移転の時期の選択に中立
的な制度になるべきだろうと思います。
その意味で、今、両者に大きな格差があるとすれば、それを縮小するような制度改
正を進めるべきだということには賛成です。ただ、現行の制度も意図するところが当
然あるわけですから、専門家の会議においては、現行制度の意図するところとのバラ
ンスも考慮しつつ、改革の具体策を検討していただければと考えています。
○中里会長
熊谷特別委員、お願いします。
○熊谷特別委員
先ほど来、皆様おっしゃっているように、私も今回の御説明の内容については、全
く異論はございません。
その上で、先ほど赤井特別委員からも御指摘がございましたが、恐らく本質的なと
ころでいえば、公平性と、適正な執行もしくは実効性、この二つについて、どうバラ
ンスを取るかというところが、非常に重要なポイントであって、アメリカの遺産課税
方式は、一生涯を対象とするわけですから、公平性という意味では非常に優れていま
すが、適正な執行ということでいえば、かなりの困難があります。しかし、アメリカ
では免税点が高いので、こういうやり方でも何とか運用できているのではないかと考
えます。
その意味で、公平性と適正な執行のバランスが取れているのは、少なくともデジタ
ル技術等々の現状を前提とすれば、独仏のやり方ではないかと思います。我が国にと
ってもバランスの取れたものとして、参考になるのではないかと考えます。
日本に関していえば、暦年課税と相続時精算課税の選択制でございますが、相続時
精算課税を本則することが基本的な方針として重要ではないでしょうか。そのときに、
暦年課税については、やめるという考え方もあるし、また、残るにしても、限りなく
小さくしていくという方向性で考えていくべきではないかということを、私の個人的
な見解として申し上げます。いずれにしても、今後、実際の運用とか、実態を踏まえ
て、多面的な議論を是非展開していただきたいと思います。
○中里会長
大田特別委員、お願いします。
○大田特別委員
二点、申し上げます。
一点目、相続税と贈与税の一体化については、賛成です。そろそろ具体的な設計に
入る段階ではないかと思います。そのとき、生涯の生前贈与を対象とするのか、一定
期間を対象とするかというのが重要なポイントですが、80歳以上で亡くなる方が7割
以上だとすれば、10年とか、15年というのは、少し短いような気もいたします。デジ
タル化が進んで、贈与税の申告も簡単になれば、生涯を対象にすることも可能性があ
るのではないかと思っています。
二点目、教育資金や結婚・子育て資金などについての贈与税非課税措置ですが、裕
福な層にのみ、あえて子供と孫への非課税贈与枠を提供しているわけですから、格差
の固定化を容認し、かつ助長する制度です。経済活性化を目的とする制度ではありま
すが、税の再分配機能を高めて、格差の拡大を防ぐことも重要な政策課題です。これ
に真っ向から反する制度は、これ以上残すべきではないと思います。
○中里会長
佐藤委員、お願いします。
○佐藤委員
相続税・贈与税、富の格差の固定化を回避するという公平の観点から、強化すべき
だということは、言うまでもないと思うのですが、今回の説明資料のタイトルにもあ
りますとおり、資産移転の時期の選択に対して中立的であるべきだということです。
この中立性をどうやって担保するかというのが大きな課題だと思うのですが、多くの
委員が言及されているとおり、日本は贈与税と相続税が別個の体系になっています。
贈与税というのは、暦年贈与なのでフローなのです。でも、相続税というのは、贈与
して残っている財産という意味においては、ストックなのです。だから、相続税はス
トックに対する課税、贈与税はフローに対する課税、ここには大きな齟齬があって、
それをうまく取り仕切っているのは、諸富特別委員から御指摘がありましたが、やは
り欧米の累積課税の仕組みなのだと思います。
先ほどから日本の相続時精算課税制度が、ある意味、贈与税と相続税の一体化に寄
与するという御指摘があるのですが、日本のシステムでは、精算するのは相続のとき
だけなのです。ところが、海外の場合、よく見ると、贈与するたびに、これまで払っ
てきた贈与税を返して、累積した金額に新たに課税をするという仕組みになっている
ので、贈与のたびに逐次精算という枠組みになっているのだと思います。それは納税
者から見れば、急激な税負担の増加は避けられますし、課税当局から見れば、取りこ
ぼしが少ない。仮に相続の段階で取りこぼしたとしても、その前の段階で押さえてい
るわけですから、比較的取りこぼしが少なくて済むという仕組みが利点だと思いまし
た。
ただ、そうはいっても、赤井特別委員からも御指摘があったように、実効性という
ところで、日本で相続時精算課税制度が不人気の一つの理由は、少額の贈与であって
も申告しないと、自分たちの控除の枠をどこまで使ったかということが分からないの
です。2500万の控除の枠をどこまで使っているか分からないので、ドイツでも、フラ
ンスでも、例えば10万ユーロとか、40万ユーロという控除額があるわけですから、こ
れをどこまで使い切っているのかということを知るためには、度が過ぎての少額はい
いのでしょうけれども、10万円、20万円であったとしても、申告してもらわないとい
けないという問題があると思います。
先ほど前半の議論であったデジタル化で、帳簿であるとか、記帳のデジタル化が進
めば、この辺の記録を残しておくことは可能なのかもしれないのですが、どのぐらい
フランスやドイツは実効性を担保しているのかというのは、やや疑問ですし、制度が
あまりにも美し過ぎる分、大丈夫なのかという面はあるのですが、方向感としては、
贈与税を累積課税化することによって、相続税と贈与税の一体化を目指すというのが
王道だと思いました。
○中里会長
田近特別委員、お願いします。
○田近特別委員
既に多くの議論が出ているのですが、相続税・贈与税を一体化すれば、御指摘のよ
うな相続税・贈与税の税率構造の違いを利用した節税もなくなるし、資産移転の時期
の中立性も実現する。長年議論してきていますが、実現できればいいと思います。
もう一つは、格差是正ということが長く言われてきて、平成25年度の税制改正とい
うのはすごかったと思います。相続税の基礎控除額の計算で、法定相続人に乗算する
金額を1,000万円から600万円にした。その結果、死亡者に占める課税件数が、戦後初
めて上がった。それから、課税価格に対する税負担も上がった。そうすると、これか
らの議論として、格差の問題に関して600万円ではまだ足りないのか。これをもっと下
げるという議論をするのか、あるいはこれまで議論してきた非課税財産、小規模宅地
の扱いを変えるのかとか、税収の面から見れば、課税の仕方を変える、変えない、つ
まり贈与のタイミングの議論とは比べ物にならない課題があると思います。
具体的に申し上げますと、今、相続税の課税件数割合は8.5パーセント、そして、相
続財産に対する税額の負担割合が13パーセント、そうすると、課税件数割合を拡大し
てもっと多くの人に税金を払ってもらって、税収を増やしたいのか、今の課税件数割
合は変えないで、税収だけ増やしたいのか。我々はここの議論で何を目指すのか。目
的が複数あって、複数あることは悪くないのですが、何に焦点を合わせて議論するか
というのが、まず重要ではないかと思いました。
○中里会長
辻委員、お願いします。
○辻委員
私からは非常に大きい点を一点お伺いしたいのですが、今回、資産移転の時期の選
択を中立にしていくということは、私も大賛成です。ただ、中立にしていくとなると、
どうしても一部中立にする過程の中で、課税強化に進むものが出てくることになると
思うのですが、そうしたときに、当然のことながら、昔のように財産に土地が多いと
比較的やりやすいのかもしれませんが、土地から金融財産等に財産が移ってくると、
課税逃れの手法がいろいろと出てくることになると思います。今、色々な環境、色々
な政策が出るようになってきて、今回これをざっくり実施していくようになると、デ
ジタル化の環境が整っていく中で、課税逃れのような形はある程度抑制できるように
なってきているのか、それともかなり慎重にやっていかないと、従来どおり発生して
しまうのか、その辺りの感触を事務局からお聞かせいただければ幸いです。
○中里会長
宮永特別委員、お願いします。
○宮永特別委員
私は資産移転の時期の選択に中立ということに関しては、賛成です。
一般論として、個人が行動するときの、もしくはある相続の時期の違いによっての
問題がどういうことになるのかということから考えると、累進税率でも相続税と贈与
税を一体化するのは構わないのですが、税率とか、税体系とか、制度が安定していて
変わらないという視点、つまり、ある時期に亡くなって相続したが、その後に制度が
変わるような場合もあり、制度が安定的であることも大事であるということが一点で
す。
もう一点、格差の是正や、固定化を防ぐということであれば、相続税や贈与税につ
いて制度を変えるときは、目的税ではございませんが、格差の固定化につながらない
ように、教育の機会とか、家庭の所得による学力の差をどのように改善したらいいか
というように、どういう考え方で何に使っていくのかということもしっかり考えてい
くことが、世の中の理解を得られる基ではないかと感じています。
○中里会長
岡村委員、お願いします。
○岡村委員
資産の移転時期に中立的な税制を検討することに賛成でございます。
四点、論点を申し上げます。
第一点は、中立的な税制が仮に実現されたとして、それがどの程度資産移転の時期
を早めることに影響するかということです。逆に言えば、現在の相続税・贈与税の制
度がその時期をどれだけ歪めているかというところに関する点があります。それは限
定的なものではないかという感じもしています。高齢者の方も、将来も生きていくだ
ろうから、その点に関する資産の貯蓄といったものを維持したいところもあるのでは
ないかと考えるからです。
二点目は、中立性の中身です。先ほど神津信一特別委員から、相続と贈与は違うと
いうお話があったかもしれませんが、民法などで見ていても、贈与というのは契約の
一つでありまして、自分が欲しいものはもらえるし、要らないものは要らないと言え
ばいいのですが、相続というのは包括承継でありまして、全部を要らないと言う、相
続を放棄するか、それとも、マイナスの財産も含めて、あるいはいろんな義務や責任
を含めて背負う、相続するかになります。そうすると、単純に贈与額と遺産額を足し
てどうこうという話になるのかどうかというところは、議論の余地があるかもしれま
せん。
ちなみに、アメリカの制度は少し勉強したことがありますが、完全に中立だという
ことにはなっていません。中立的ではありますが、中立そのものではないと思います。
三点目は、課税の公平性の問題です。現在、相続税の課税方式は、法定相続分課税
方式と呼ばれているものでありまして、一旦遺産額を全部まとめて、法定相続分に従
って分けたらどうなるかということで計算をし、実際にもらった分に応じて按分する
ということなのですが、誰と誰との公平を考え、誰から誰への再分配を考えているの
かということが見えにくいところがあって、アメリカのような遺産税方式なのか、そ
れともドイツ、フランスのような遺産取得課税方式なのか、どちらかだとこの議論は
比較的やりやすいというか、はっきりしてくると思われます。
どちらかということになるのですが、これを執行上の便宜で考えるのも変なのです
が、被相続人になる回数はみんな1回です。1回しかないです。しかし、相続人にな
る回数は何回かあると思います。そう考えると、1回だけ課税する方が楽かもしれな
いし、それから、最近国際的な人の移動があったり、離婚や再婚を行う人たちも昔よ
りはずっと増えています。法定相続分課税方式が導入された時期は、兄弟の数がある
程度多くて、それを分散するのと集結するので大分違うのはどうなのかということも
言われていたと思いますが、そのような社会的な前提が今はもう失われているだろう
といったことを考慮してはどうかと思います。
四点目はかなり大きな課題なのですが、もう少し若いときに財産を移してもらおう
ということを前提に税制を設計すると、相続税ではなくて、贈与税を中心に物事を考
える。つまりこれまで贈与税というのは、相続税の補完税だったけれども、そうでは
なくて、贈与税を中心に考えて、最後の帳尻合わせが相続税だという発想になってく
ると思います。そうすると、贈与税の課税ベースが現在のままでいいかという問題が
あると思います。
これはよく知られていることですが、相続税にはないけれども、贈与税にはある非
課税財産がありまして、それは扶養義務者相互間において生活費または教育費に充て
るために贈与によって取得した財産というものです。これがもし富裕層と貧しい層で
違うとすると、先ほどから出ている一つの不公平の要因になってくるかもしれない。
さらにもう少し言うと、相続税・贈与税は財産取得税として構成されていて、財産
を取得しない限り、課税はありません。しかし、財産を取得させないでも、実質的な
経済的利益を移転する方法はいろいろとあります。一番簡単なのは、親が子供のため
にマンションを買ってあげて、管理費も全部負担して、名義と登記は親だけれども、
親は鍵すら持っていなくて、子供たちが住んでいる。こういうことがあって、それに
対して贈与税はかけられないということだと思います。こういったことを今後どのよ
うに考えていくのかといったことがあるのではないかと思います。
○中里会長
これは私が言うべきことではないのですが、今日の議論は、親から子への財産の移
転、経済面を中心に考えていて、子から親への財産の移転、民法や最高裁判決との連
動をあまり考えていません。これは将来的に問題を引き起こす可能性もあるのではな
いかと思うので、必死になって我々も考えてまいりましょう。これはかなり根本的な
問題だと思います。
足立特別委員、お願いします。
○足立特別委員
高額の連年贈与につきまして、四つの視点、つまり再分配機能の確保、相続時精算
課税と暦年課税の選択による税負担の格差、執行面の配慮、最後に時限措置の点につ
いて、意見を述べたいと思います。
一つ目の再分配機能の確保ですが、相続税の累進回避を防止するために、高い贈与
税率が設定されているにもかかわらず、それでもなお富裕層の節税的な行動を許して
いるとすれば、現行制度は格差の固定化を招くおそれがあります。資産の再分配とい
う点から、制度的な対応は必要だと思います。
ただし、留意しなければならないのは、資産の早期移転の促進を図ることです。確
かにこの点は重要です。しかしながら、単に資産の若年世代への移転の促進を論点に
すると、贈与税の非課税措置のさらなる充実が議論になりまして、その結果、税負担
もなく、多額の資産を若年世代に移転する点が問題になります。特に再分配という相
続税・贈与税の課税根拠に留意しつつ、公平な税負担を確保しながら、資産移転の時
期の中立性を担保した制度の構築、この点は議論すべきだと思います。
二つ目につきましては、相続時精算課税と暦年課税の選択制による税負担の格差は、
重要な点だと思います。資産移転の時期の選択に中立的な制度として、我が国におい
ては、相続時精算課税制度が設けられております。この制度を選択すれば、これ以降
の贈与は相続時に相続財産に合算して課税されますので、財産移転時期を問わず、相
続税の負担が一定となります。しかしながら、暦年課税も選択制であることから、暦
年課税が選択されれば、贈与は累積されず、相続税制に合算されない。つまり制度の
選択の有無によって、トータルの税負担に差異が生じてしまうのはやはり問題になり
ます。ですので、諸外国のように、生前贈与を累積して課税することで、税負担を一
定としつつ、資産移転の時期を気にせず贈与ができる環境というのは、やはり整える
べきだと思います。
三つ目は、執行面の配慮です。今後、諸外国の制度を参考にしまして、資産移転の
時期の選択に中立的な制度の構築に向けて検討をするならば、制度的な面だけでなく、
執行面からの配慮が重要になります。
具体的に申しますと、生前贈与の税務当局への申告方法、また、税務当局における
資産の累積状況の把握、さらに申告漏れがあった際の対応、実際に制度を執行する際
にこれらの点をよく把握した上で、納税者にとっても、また、税務当局にとっても過
度な負担とならない制度を検討する必要があるかと思います。
四つ目、時限措置への対応についての検討も必要になるかと思います。贈与税非課
税措置につきましては、経済の活性化という目的から、これまで何度も適用期限が延
長されてきました。これらの措置は限度額の範囲内では、何の税負担も求めない制度
になります。しかしながら、この制度によって、資産を有する層とそうでない層、言
い換えるならば、制度が利用できない層との間で格差の固定化を助長する一面も否定
できません。したがいまして、経済的な点から時限的に措置されているのであるなら
ば、こうした問題点を考慮しても、なお効率性の観点から措置するだけの政策効果が
あるかをしっかりと検証する必要があるかと思います。
○中里会長
以上で挙手されている方はおりませんので、ここで質問を終わりにさせていただき
ます。
それでは、頂戴した御質問等につきまして、事務局から御返答をお願いしたいと思
うのですが、辻委員から追加の質問として、デジタル化によってある程度課税逃れを
防ぐことができるのかという御質問をいただいていますので、これについても併せて
お願いします。
吉住企画官、お願いします。
○吉住主税局税制第一課企画官
様々な有益な御意見を賜りまして、大変ありがとうございました。
高齢化社会が進み、高齢者の方に富が偏在している中、資産の移転をどう進めてい
くのか。その一方で、格差の固定化の防止をどうやって両立していくのか。あるいは
税制を考える際に、公平性や適正な執行の担保といったものをどう考えていくのかと
いった点から、様々な有益な御意見を賜りまして、大変ありがとうございました。よ
く勉強させていただきたいと思います。
その中で、多岐にわたるものをいただきまして、実際問題として、これからよく勉
強させていただきますというものも多いのですが、課税逃れみたいなものがどうなっ
ているのかということにつきましては、デジタル化が進むことによって、ある程度の
財産の紐付けが可能になる。その意味において、課税漏れ、あるいは課税逃れを防止
することに資するものだとは思っております。ただ、それを実際にどういう形で進め
ていくのかということにつきましては、今後、執行面の点や実現可能性を含めまして、
色々と議論があるところだと考えています。いずれにいたしましても、一般的にデジ
タル化が進めば、すぐにどうという話では必ずしもないのかもしれませんが、課税の
適正な執行といったものが税への信頼性を担保することにつながるわけですから、そ
れについては努力していくということになるのかと考えています。
その他の点につきましては、安定性ですとか、あるいは今後アメリカ側に寄せてい
くのか、何に寄せていくのか等々の御質問をいただきましたが、各国の制度といった
ものをよく勉強させていただきながら、相続時精算課税制度自体の適用の実態等も含
めて、よく勉強させていただきたいと考えています。
○中里会長
デジタル化が適正執行と課税逃れのどちらに作用するか、おそらく両方に作用する
のでしょうけれども、今後、見ていかないといけません。
本日も委員の皆様から有益な御意見を多数いただきました。
特に諸外国の制度が相続税負担の回避を防止しつつ、財産の世代間移転を阻害しな
いような工夫をしている点を参考とすべきだといった意見や、格差の固定化防止とい
う観点に留意しながら、議論していく必要があるといった御意見を頂戴したところで
す。諸外国の制度がどう運用されているのか等を踏まえながら、今後より専門的な議
論を深めていく必要があると思います。
そのために、これはなかなか重い課題でございますので、この課題については、専
門会合を設置して議論を進めていただいてはどうかと考えおります。
法律面がかなり関係してくることもありますので、座長につきましては、増井委員
にお願いし、専門家会合のメンバーの構成や具体的な進め方についても、増井委員と
私で相談しながら検討させていただければと考えていますが、この点、私に御一任を
いただければと存じますが、いかがでございましょうか。
(「異議なし」と声あり)
○中里会長
ありがとうございます。
専門家会合につきましては、改めて詳しく御報告させていただければと思います。
これで、本日の議題は終了となりました。
前回と今回の議論において、委員の皆様からそれぞれの課題について、多岐にわた
り貴重な御意見を頂戴いたしました。それぞれが非常に重要な課題でありますので、
引き続き総会や専門家会合で丁寧に議論を進めていきたいと考えています。皆様には、
今後、大変だと思いますが、御協力のほど、お願いします。
次回は年明け以降を考えていますが、日程については、決まり次第、事務局から御
連絡をいたします。
また、本日の会議の内容は、この後、私から記者会見で御紹介したいと思います。
本日はお忙しい中、本当にどうもありがとうございました。
[閉会]

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索