カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2019年09月16日 特別解説 企業が支払った報酬の分析②(2019年9月16日号・№803)

特別解説
企業が支払った報酬の分析②
日本企業と米国会計基準を適用する米国の企業、及びIFRSを適用する欧州の企業との比較分析

はじめに

 本稿では、主要な日本企業、米国企業及び欧州(英国及び欧州大陸)の企業が会計監査人に対して支払った報酬額の調査分析を行っているが、IFRSや米国会計基準、及び日本の会計基準を適用する日本企業の別に調査分析を行った前回に引き続き、第2回目の今回は、米国及び欧州の企業が会計監査人に対して支払った報酬額に焦点を当てて調査分析を実施することとしたい。なお、参考のために、IFRS任意適用日本企業、米国会計基準を適用する日本企業、及び日本の会計基準を適用する主要な日本企業(日経平均株式時価総額上位200社にランクインした日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準適用日本企業を除いた主要な日本企業)が会計監査人に対して支払った報酬額も適宜紹介している。

今回調査の対象とした企業

 今回調査の対象としたのは、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)株価指数銘柄に選定されている主要な米国企業100社、FTSE株価指数銘柄に選定されている主要な英国企業100社、及びSTOXX欧州600指数に選定されている主要な欧州大陸の企業100社である。なお、ストックス(STOXX)欧州600指数とは、STOXX社(スイス・チューリヒに本拠を置くインデックス・プロバイダー。ドイツ取引所のグループ企業)が算出する、ヨーロッパ17か国における欧州証券取引所上場の上位600銘柄により構成される株価指数であり、流動性の高い600銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型指数である。これらの企業の直近のアニュアルレポートやレジストレーション・ドキュメント(2018年12月期のものが大半を占める)で開示されている監査報酬額(Auditor's remuneration)を集計し、決算月末の為替レートで日本円に換算している。

米国会計基準を適用する主要な米国企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った主要な米国企業を列挙すると、表1のとおりであった。

 ちなみに、IFRS任意適用日本企業で支払報酬額がトップのソフトバンクグループは6,880百万円、米国会計基準適用日本企業でトップのトヨタ自動車が5,296百万円、日本企業で支払額が断然トップの三菱UFJフィナンシャル・グループは、8,507百万円の報酬を国内外の会計監査人に対して支払った。支払額が150億円に迫るゼネラル・エレクトリックは「別格」としても、米国の巨大企業の中に入ると、三菱UFJフィナンシャル・グループの報酬支払額が8番目。ソフトバンクが12位、トヨタ自動車が16位相当である。
 次に、10社が支払った報酬の内訳をみると、会計監査人に対して巨額ともいえる報酬を支払っている米国の大企業であるが、支払額のほとんどは監査報酬であり、非監査業務報酬が占める割合はさほど大きくない。
 次に、米国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表2のとおりであった。

 今回調査の対象とした主要な米国企業100社が会計監査人に対して支払った報酬額の平均は、3,321百万円であった。これは、IFRS任意適用日本企業の場合でいうと192社中の10位、日本の会計基準を適用する主要な日本企業(日経平均株式時価総額上位200社の企業)でいうと、106社中の6位(日産自動車の支払額とほぼ同額)に相当する。これだけを見ても、米国企業が会計監査人に対して支払っている報酬額の大きさが分かる。
 表2の報酬額の分布を見ても、10億円以上を支払っている企業が9割近く(89%)を占めており、支払額が3億円未満の会社はわずか1社であった。

IFRSを適用する英国の企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った英国企業を列挙すると、表3のとおりであった。

 HSBCホールディングス、アクサ、バークレイズの金融機関3社の支払額は米国企業並みであるが、4位以下の企業については、報酬支払額の水準はだいぶ下がる。なお、今回調査対象とした英国の企業100社が支払った監査報酬額の平均は1,361百万円であり、米国企業の4割強の水準であった。
 次に、表3の10社が支払った報酬の内訳をみると、HSBCが対価を支払った主な非監査業務としては、コンフォート・レターの作成や、IFRS第9号「金融商品」の適用に関連する支援業務等が挙げられている。
 次に、英国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表4のとおりであった。

 英国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を見ると、30億円以上支払っている企業から、報酬額が1億円に満たない企業まで、まんべんなく分布している。

IFRSを適用する欧州大陸の企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った欧州大陸の企業を列挙すると、表5のとおりであった。

 欧州大陸の企業で会計監査人に対して2018年度に最も報酬を支払ったのは、業績不振に苦しみ、今何かと話題になっているドイツ銀行であった。以下、4位のフォルクスワーゲンまでをドイツの企業が占めている。上位10社が支払った報酬の水準は、英国の企業とほぼ同水準と言えるであろう。ちなみに、今回調査対象とした欧州大陸の企業100社が支払った報酬額の平均額は1,675百万円であり、英国企業よりも約2割高かった。
 次に、表5の10社が支払った報酬の内訳をみると、フォルクスワーゲン社が支払っている非監査業務報酬の金額の大きさが目に付くが、同社のアニュアルレポートによると、当該非監査業務の内容は、新たな法的な基準の適用方法に関する助言業務とディーゼル問題に関連する方策の支援に関する助言業務とされている。
 次に、欧州大陸の企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表6のとおりであった。

 報酬額が5億円以上の英国企業の比率が56%であるのに対して、欧州大陸の企業は78%を占めるなど、全体的に見て、英国の企業に比べ、欧州大陸の企業の方が、報酬の支払額が大きくなっている。報酬の支払額が1億円未満の英国企業が10社あるのに対して、欧州大陸の企業では1社もない。

日本企業との比較

 本稿の調査分析の最後に、米国、英国及び欧州大陸の企業が会計監査人に対して支払った報酬額を、日本企業(IFRS、米国基準、及び日本の会計基準を適用)が支払った報酬額と一覧形式で比較してみたい。
 米国企業、英国企業、及び欧州大陸の企業に加え、IFRS任意適用日本企業、米国会計基準適用日本企業、及び日本基準を適用する主要な日本企業が、会計監査人に対して支払った報酬額の平均を一覧にして比較すると、表7のとおりであった。

 IFRS任意適用日本企業及び日本基準を適用する日本企業が会計監査人に対して支払った報酬の水準を1とすると、英国企業が2、欧州大陸の企業が2.4、米国会計基準を適用する日本企業が3.8、米国企業が5という結果になった。同じ超大企業どうしであっても、日本企業が支払う報酬水準の低さと米国企業が支払う報酬額の高さが目に付いた。また、同じ日本企業であっても、米国会計基準を適用している超優良企業が会計監査人に対して支払う報酬の額は、ほぼグローバルレベルということができよう。
 最後に、表7のそれぞれの区分の企業について、会計監査人に対して支払った報酬額の分布を一覧にして示すと、表8のとおりであった。

 雑駁なまとめ方ではあるが、各国の主要な企業が会計監査人に対して支払っている報酬額の全体的な水準を比べると、以下のような傾向があると考えられる。
① 主要な米国企業が支払っている報酬額が、欧州(大陸、英国)や日本の主要な企業が支払っている金額よりもかなり大きく、平均すると、主要な欧州企業の約2倍、日本基準を適用する主要な日本企業と比べると、5倍近くの開きがある。
② 我が国では、数は少ないとはいえ、米国会計基準適用企業が支払っている報酬額の大きさが目立つ。日本国内の監査法人よりも、海外の提携先のネットワーク・ファームに対して多額の報酬を支払っている場合が多い。
③ 非監査業務報酬は、日米の企業による支払額が小さく、欧州(英国、大陸)企業による支払額が比較的大きい。
④ 日米欧の地域を問わず、大手金融機関(銀行や保険会社等)が、会計監査人に対して多額の監査・非監査業務報酬を支払っている。
⑤ IFRS任意適用日本企業は、世界中で事業を幅広く展開し、多額の監査報酬を国内外の監査事務所に支払っている大企業グループと、日本の会計基準を適用する中堅規模の上場日本企業と大きく変わらない中小規模の企業グループ(IFRSを適用して新規に上場した企業を含む)とに大別される。

終わりに

 本稿では、2回に分けて、日本企業(日本の会計基準を適用する主要な日本企業、IFRS任意適用日本企業及び米国会計基準適用日本企業)及び米国企業、英国企業並びに欧州大陸の企業について、会計監査人に対して支払った報酬額の比較分析を試みた。今回の調査分析で取り上げたのは、各国を代表するようないわば超大企業ばかりであり(IFRS任意適用日本企業の一部を除く)、前回の最後に取り上げた、「監査人・監査報酬実態調査報告書」のような、全上場会社を網羅的にカバーしたようなものではない。したがって、日本企業が会計監査人に対して支払っている報酬額は、米国や欧州大陸、英国の企業の数分の一に過ぎない、といった結論を簡単に出してしまうのは、いささか乱暴であると思われる。本来は米国や欧州の企業についても、ニューヨーク証券取引所やユーロネクストに上場しているような企業全体について、会計監査人に対する報酬支払額の調査を網羅的に行えば、より有用なデータが得られるものと思われる。しかし、今回のごく限られた、超大企業に限った調査分析の結果からも、主要な米国企業が会計監査人に支払っている報酬額の大きさや、主要な日本企業が支払う非監査業務報酬の小ささ、主要な日本企業が海外提携先のネットワーク・ファーム(主にビッグ4会計事務所)に支払う金額の大きさ等を垣間見ることができる。
 今年度から制度の適用が始まる監査上の主要な検討事項(KAM)は、会計監査人と投資家との間のコミュニケーションを促進するとともに、投資家や企業、監査役等が会計監査人(監査法人)を判断するための有力な材料の一つになるとも言われている。KAMの導入や監査報告書、監査プロセスの透明化を一つの契機として、監査法人側に監査の品質を向上させたうえできっちりと対外的な説明責任を果たそうというインセンティブが生じ、それを受けた投資家や企業の側も、監査法人の努力を前向きに評価して適正な対価を支払う、といった望ましいサイクルが定着することが望まれる。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索