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解説記事2021年03月01日 SCOPE 税理士事務所の貢献料、割増賃金の算定基礎の賃金に(2021年3月1日号・№872)

職員への給与支払いでトラブル
税理士事務所の貢献料、割増賃金の算定基礎の賃金に


 税理士事務所に限らず、労使間における勤労条件を巡るトラブルはよく見受けられるが、今回紹介する事案は、税理士事務所における「貢献料」の取り扱いだ。当該税理士事務所では職員に対して「貢献料」を支払っていたが、これが残業代になるか否かなどが争われたものである。東京地方裁判所(髙市惇史裁判官)は、税理士事務所の所長(被告)が原告(元職員)に対して、雇用契約において貢献料を残業代として支払う旨の合意があったと認めることはできず、貢献料は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含まれるとの判断を示し、被告に対し未払残業代などとして500万円超の支払いを命じた(令和2年6月10日判決。確定)。確定申告時期など繁忙期には残業や休日出勤も仕方がない面はあるものの、後々のトラブルにならないよう労務管理は事務所経営を行う上で必須となろう。

貢献料を残業代として支払う合意があったと認めず

 本件は、税理士事務所の所長として業務を行う税理士(被告)に雇用されていた原告(元職員)が、雇用契約に基づき、平成28年4月25日から平成30年5月25日までの間の未払残業代429万871円及び月額10万円の「貢献料」の未払分57万4,240円などの支払いを求めた事案である。原告は、被告から貢献料は10万円と説明されており、雇用契約において貢献料を毎月10万円支払う旨の合意があったなどと主張していた。
 東京地裁は、被告が原告に交付したメモには「貢献料10万円」の記載があるものの、被告は原告に対して貢献料について金額も含めて明確な説明をしていないと認められることからすると、本件メモの記載をもって直ちに貢献料を毎月10万円とする合意があったと認めることはできないとした。ただし、雇用契約において貢献料を残業代として支払う旨の合意があったとも認めることはできないと指摘。東京地裁は、貢献料は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含まれるとの判断を示し、被告に対し未払残業代などとして500万円超の支払いを命じている。

【表1】雇用契約

(1)所定労働時間:午前9時から午後5時の7時間(休憩1時間)
(2)所定休日:土日祝日、年末年始、夏季休暇5日、確定申告休み2日
平成28年:124日、平成29年:127日、平成30年:127日
(3)賃金
・基本給:
平成28年5月から同年12月 23万2,000円
平成29年1月から平成30年5月 23万3,000円
・資格手当:2万円
・貢献料:金額については争いがある。
・通勤費:9,170円
(4)締日・支払日:毎月20日締め・当月25日払い

【表2】主な争点に対する当事者の主張及び裁判所の判断

(1)貢献料を毎月10万円とする合意の有無

(原告の主張)
・被告から貢献料は10万円と説明されており、雇用契約において貢献料を毎月10万円支払う旨の合意があった。
(被告の主張)
・貢献料は毎月10万円の固定ではなく、残業代の仮払いであり、毎月の金額が変動するものであるから、未払いはない。
(裁判所の判断)
・被告が原告に対して交付したメモには、「貢献料10万円」の記載があるものの、メモを交付した際、被告は原告に対して貢献料について金額も含めて明確な説明をしていないと認められることからすると、本件メモの記載をもって直ちに貢献料を毎月10万円とする合意があったと認めることはできない。
・貢献料の金額は雇用契約を締結して2か月目の給与時には8万円となり、その後も変動していることが認められることなど、貢献料という手当の名目からは、被告の業務に対する貢献に係る手当であることが窺われ、金額が変動する手当であったとしても不自然とまではいえないことを併せ考慮すると、原告と被告との間に、貢献料として毎月10万円の固定額で支払う旨の合意があったと認めることはできない。
 したがって、原告の貢献料の未払分に関する請求には理由がない。

 

(2)基礎賃金

(原告の主張)
・割増賃金の基礎となる賃金には、基本給、貢献料及び資格手当が含まれる。
(被告の主張)
・貢献料は、残業手当として支払っていたものであるから、基礎賃金から除外されるべきである。
(裁判所の判断)
・原告は貢献料について説明を受けていないとし、被告自身も貢献料に関する原告に対する説明について「残業代に代わるものだというふうな説明をしているかと思う」旨述べるにとどまり、貢献料には残業代だけではなく幅広い意味で努力に報いる趣旨が含まれていること、貢献料が残業時間に応じて計算されているわけではない旨供述していることは、貢献料を残業代として支払っていたことについて疑義を生じさせるものである。したがって、本件雇用契約において貢献料を残業代として支払う旨の合意があったと認めることはできず、貢献料は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含まれる。

 

(3)実労働時間

(原告の主張)
・事務所においては、タイムカード等による従業員の労働時間管理がなされていなかったことから、原告は自らの労働時間を記録するため、スマートフォンのアプリを利用して記録していた。
・休日出勤について、事前に所長の了解を得てすることといった指示を受けたことはなく、やむなく行ったものであるから、労働時間に当たる。
(被告の主張)
・アプリの記録は原告が任意に入力したものに過ぎないから客観性がなく信用性が低い。
・休日の勤務について、休日出勤を強制したこともない。指示したこともない。休日出勤する際には被告の了解を得るように伝えていたが、原告は事前に届け出ておらず、指揮命令が及ばない形で行われている。
(裁判所の判断)
・所定始業時刻前のアプリの記録等をもって始業時刻として主張する場合には、使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が使用者から義務付けられ、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張立証が必要であるが、本件については証拠がなく、所定始業時刻以前の時間について、業務に従事することを義務付けていたと認めることはできない。
・被告において休日出勤を事前に届け出る制度はないことなどからすれば、被告は、原告の休日出勤を黙認していたものと推認される。原告が業務を行う以外の理由で休日に事務所に行くことは考え難く、原告が休日に事務所に出勤していた時間は、被告の指揮命令下に置かれた労働時間と認めるのが相当である。

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