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資料2021年09月13日 重要資料 令和3年6月25日付課法2−21ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明(3)(2021年9月13日号・№897)

下記資料は895号から分割して掲載するものです。(編集部)

重要資料

令和3年6月25日付課法2−21ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明(3)

第2 租税特別措置法関係

1 第42条の4《試験研究を行った場合の法人税額の特別控除》関係
【改正の概要】

 研究開発税制について、次の見直しが行われた。
(1)試験研究費の額について、次の見直しが行われた。
① 試験研究のために要する費用の額で研究開発費として損金経理をした金額のうち、棚卸資産若しくは固定資産(事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産を除く。)の取得に要した金額とされるべき費用の額又は繰延資産(試験研究のために支出した費用に係る繰延資産を除く。)となる費用の額が追加された。
② 上記①の見直しに伴い、上記①の固定資産又は繰延資産の償却費、除却による損失及び譲渡による損失の額が除外された。
③ 上記①の見直しに伴い、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額が除外された。
④ 新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しない試験研究のために要する費用の額が除外された。
(2)一般試験研究費の額に係る税額控除制度
① 税額控除割合が、次の区分に応じたそれぞれ次の割合(上限10%)とされた。
 イ ロ以外の場合……10.145%から、9.4%から増減試験研究費割合を減算した割合に0.175を乗じて計算した割合を減算した割合(下限:2%)
 ロ その事業年度が設立事業年度である場合又は比較試験研究費の額が0である場合……8.5%
② 法人の令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度については、税額控除割合は、上記①にかかわらず、次の区分に応じたそれぞれ次の割合(上限14%)とされた。
 イ 増減試験研究費割合が9.4%を超える場合(ハの場合を除く。)……10.145%に、その増減試験研究費割合から9.4%を控除した割合に0.35を乗じて計算した割合を加算した割合
 ロ 増減試験研究費割合が9.4%以下である場合(ハの場合を除く。)……10.145%から、9.4%からその増減試験研究費割合を減算した割合に0.175を乗じて計算した割合を減算した割合(下限:2%)
 ハ その事業年度が設立事業年度である場合又は比較試験研究費の額が0である場合……8.5%
③ 試験研究費割合が10%を超える場合における税額控除割合の特例の適用期限が、令和5年3月31日まで2年延長された。
④ 令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度のうち基準年度比売上金額減少割合が2%以上であり、かつ、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額を超える事業年度の税額控除額の上限について、当期の調整前法人税額の5%相当額を加算することとされた。
⑤ 試験研究費割合が10%を超える場合における税額控除額の上限の特例の適用期限が、令和5年3月31日まで2年延長された。
(3)中小企業技術基盤強化税制
① 増減試験研究費割合が8%を超える場合の特例のうち税額控除割合を割り増す部分について、増減試験研究費割合が9.4%を超える場合の措置に見直され、その特例における逓増率が0.3から0.35に引き上げられた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長された。
② 試験研究費割合が10%を超える場合の特例のうち税額控除割合を割り増す部分の適用期限が令和5年3月31日まで2年延長された。
③ 上記(2)④と同様の見直しが行われた。
④ 増減試験研究費割合が8%を超える場合の特例のうち税額控除額の上限を引き上げる部分について、増減試験研究費割合が9.4%を超える事業年度(設立事業年度及び比較試験研究費の額が0である事業年度を除く。)の控除上限額に当期の調整前法人税額の10%相当額を加算する措置とされた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長された。
⑤ 試験研究費割合が10%を超える場合の特例のうち税額控除額の上限を割り増す部分について、増減試験研究費割合が9.4%を超える事業年度については適用しないこととされた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長された。
(4)特別試験研究費の額に係る税額控除制度
① 成果活用促進事業者との共同研究及び成果活用促進事業者への委託研究に係る税額控除割合が、25%とされた。
② 特定中小企業者等への委託研究について、次の見直しが行われた。
 イ 委任契約等により委託するもので、その委託に基づき行われる業務が試験研究に該当するものに限ることとされた。
 ロ 委任契約等において、その試験研究の成果がその委託をする法人に帰属する旨(改正前:その試験研究の成果の帰属に関する事項)を定めなければならないこととされた。
③ 大学等との共同研究及び大学等への委託研究について、適用を受けようとする法人が中小企業者及び農業協同組合等以外の法人である場合におけるその契約又は協定に定めるべき事項に試験研究に要する費用の見込額が追加され、その見込額は50万円を超えるものに限ることとされた。

【新設】(試験研究の意義)
42の4(1)−1
 措置法第42条の4第8項第1号イ(1)に規定する試験研究とは、事物、機能、現象などについて新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う創造的で体系的な調査、収集、分析その他の活動のうち自然科学に係るものをいい、新製品の製造又は新技術の改良、考案若しくは発明に係るものに限らず、現に生産中の製品の製造又は既存の技術の改良、考案若しくは発明に係るものも含まれる。

【解説】
1 本通達においては、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究の意義について明らかにしている。
2 令和3年度の税制改正において、研究開発税制における試験研究費の額について次の見直しが行われた。
(1)試験研究のために要する費用の額で研究開発費として損金経理をした金額のうち、棚卸資産若しくは固定資産(事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産を除く。)の取得に要した金額とされるべき費用の額又は繰延資産(試験研究のために支出した費用に係る繰延資産を除く。)となる費用の額が追加された。
(2)上記(1)の見直しに伴い、上記(1)の固定資産又は繰延資産の償却費、除却による損失及び譲渡による損失の額が除外された。
(3)上記(1)の見直しに伴い、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額が除外された。
(4)新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しない試験研究のために要する費用の額が除外された。
  また、令和3年度税制改正の大綱(令和2年12月21日閣議決定)の三4(2)③では、「開発中の技術をその開発をする者において試行する場合において、その技術がその者の業務改善に資するものであっても、その技術に係る試験研究が工学又は自然科学に関する試験研究に該当するときは、その試験研究に要する費用は研究開発税制の対象となること等、研究開発税制の対象となる試験研究費の範囲について明確化する」こととされた。
  上記を踏まえ、研究開発税制の対象となる試験研究費の意義について明確化することとした。
3 試験研究費の意義については、過去に国税庁において公表していたQ&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)(平成15年10月。以下「国税庁Q&A」という。)の(Q8)(A)において、
  「この試験研究は、工学的・自然科学的な基礎研究、応用研究及び開発・工業化等を意味するもので、必ずしも新製品や新技術に限らず、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象となります。逆に、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に当らない人文・社会科学関係の研究は対象とはなりません。」としていたが、これ以外で法令解釈通達等において試験研究費の意義について明らかにしていなかった。
4 令和3年度の税制改正において、上記2(4)にあるとおり、研究開発税制の対象となる試験研究費の額から、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用の額のうち、新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しない試験研究のために要する費用の額が除外されている。これは、研究開発税制は、我が国の科学技術・イノベーション基本計画における研究開発費の政府目標を達成するための一つの手段であるが、同計画のKPIである「研究開発費」は総務省統計局が行っている科学技術研究調査の調査項目となっている。そして、この科学技術研究調査は、元々はOECDのR&D統計の適切な国際比較のためのマニュアルであり、現在では、OECD加盟国における研究開発税制における研究開発の定義においても参照されている“Frascati Manual”に準拠している。このため、研究開発費の政府目標を達成するために研究開発税制の対象となる試験研究費についても、この“Frascati Manual”に沿った方向に見直すことが考えられた。この“Frascati Manual”の中で“Research and experimental development”が定義されおり、この“Research and experimental development”の範囲は、おおむね研究開発税制の対象となる試験研究と同様であるところ、研究開発税制においてはリバースエンジニアリングのような行為が必ずしも明確には排除されていなかったことを踏まえ、試験研究費の範囲をグローバルスタンダードに合わせる観点から、この見直しが行われている。このことから、この科学技術研究調査及び“Frascati Manual”における研究開発費の定義に沿って定義することが適切であると考えられる。
  具体的な意義について、令和3年科学技術研究調査の調査票記入上の注意では、
 「○「研究」について
  この調査における研究とは、事物、機能、現象などについて新しい知識を得るために、又は既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求をいいます。
  いわゆる学術的な研究のみならず製品・サービスの開発、既存製品・サービスの改良及び生産・製造工程の開発や改良に関する活動も研究となります。ただし、営業や管理を目的とした活動は、社内で研究と呼ばれていても、この調査でいう研究には当たりません。
  なお、この調査では自然科学のみでなく、人文・社会科学の研究についても調査の対象としています。」とされている。
  また、“Frascati Manual”における研究開発の定義及び基準を要約すると以下のとおりとされている。
  “研究開発とは、知見(人類、文化及び社会についての知識を含む。)の蓄積を増大するため、また、利用可能な知見の新たな応用を考案するために行われる、創造的で体系的な作業である。”
  “研究開発として以下の5つの判断基準が全て、少なくとも原則として満たされるべきである。
 ① 新規性(新たな発見を目指していること)
 ② 創造性(自明ではなく、独自の概念及び仮説に基づいていること)
 ③ 不確実性(最終的な結果が不確実であること)
 ④ 体系性(計画され資金計画が立てられていること)
 ⑤ 移転可能性(再現可能になりうる結果を導くこと)”
5 企業会計においては、「研究開発費等に係る会計基準」(平成10年 企業会計審議会)、会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(平成11年 日本公認会計士協会。以下「実務指針」という。)が定められており、例えば、ソフトウエアの取得価額の算定における研究開発費の取扱いについて、企業会計上は、ソフトウエアを大幅に変更して自社仕様にするための費用について、「それによる将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合を除き、研究開発目的のための費用と考えられるため、購入ソフトウェアの価額も含めて費用処理する」とされている(実務指針 15)一方で、税務上は自社利用ソフトウエアに係る研究開発費の額についてその自社利用のソフトウエアの利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合における当該研究開発費の額に限ることとしている(基通7−3−15の3(2))など、自社利用ソフトウエアに関する扱いは異なるもののそれ以外については、基本的には同様に取り扱うこととされている。
  具体的な意義について、研究開発費等に係る会計基準では、
 「1 研究及び開発
  研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求をいう。
  開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。」とされている。
6 上記3から5までの試験研究等の定義等を踏まえ、また、上記2(4)で除外されたものの裏を返せば「新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究」が対象になることを踏まえ、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究の意義を定めることとした。
  具体的には、事物、機能、現象などについて新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う創造的で体系的な調査、収集、分析その他の活動のうち自然科学に係るものをいい、新製品の製造又は新技術の改良、考案若しくは発明に係るものに限らず、現に生産中の製品の製造又は既存の技術の改良、考案若しくは発明に係るものも含まれるとした。
  なお、科学技術研究調査及び“Frascati Manual”では、人文・社会科学の研究についても対象に含まれているが、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究であることから、自然科学に係るものに限定している。また、国税庁Q&Aでは工学的・自然科学的なものとされていたが、令和3年科学技術研究調査の調査票記入上の注意の「6 研究者の専門別内訳」では、自然科学部門の1区分として工学が位置付けられているため、工学は自然科学に内包されるものと整理を行ったものであり、工学に係る試験研究を対象から除く趣旨ではない。参考ではあるが、工学以外の他の区分としては、理学、農学、保健とされている。
  いずれにしても、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究については、自然科学に係るものが対象となり、人文・社会科学に係るものが対象にならないことも含め、従来の試験研究の範囲を変えるものではなく、自社利用ソフトウエアに係る研究開発費の取扱い(基通7−3−15の3(2))等の一部の取扱いを除けば、概ね企業会計で研究開発費として処理すべきものや科学技術研究調査における研究として報告の対象に含まれるものと一致すると考えている。また、本通達には具体的な言及はないが、“Frascati Manual”の5つの基準のうちの③不確実性、⑤移転可能性についても研究開発税制における試験研究に当然当てはまるものである。
7 なお、対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究、いわゆるサービス開発に係る試験研究については、企画、情報収集、情報分析、設計、適用という一連の過程を伴うところであり、細かい一つ一つの活動からは試験研究の該当性の判断は困難であることから本通達の対象とはしていないが、その一連の活動全体から考えるならば、本通達で意義するところと異なるものではない。
8 連結納税制度においても、同様の通達(連措通68の9(1)−1)を定めている。

【新設】(試験研究に含まれないもの)
42の4(1)−2
 措置法第42条の4第8項第1号イ(1)に規定する試験研究には、例えば、次に掲げる活動は含まれない。
(1) 人文科学及び社会科学に係る活動
(2) リバースエンジニアリング(既に実用化されている製品又は技術の構造や仕組み等に係る情報を自社の製品又は技術にそのまま活用することのみを目的として、当該情報を解析することをいう。)その他の単なる模倣を目的とする活動
(3) 事務員による事務処理手順の変更若しくは簡素化又は部署編成の変更
(4) 既存のマーケティング手法若しくは販売手法の導入等の販売技術若しくは販売方法の改良又は販路の開拓
(5) 単なる製品のデザインの考案
(6) 製品に特定の表示をするための許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験
(7) 完成品の販売のために行うマーケティング調査又は消費者アンケートの収集
(8) 既存の財務分析又は在庫管理の方法の導入
(9) 既存製品の品質管理、完成品の製品検査、環境管理
(10) 生産調整のために行う機械設備の移転又は製造ラインの配置転換
(11) 生産方法、量産方法が技術的に確立している製品を量産化するための試作
(12) 特許の出願及び訴訟に関する事務手続
(13) 地質、海洋又は天体等の調査又は探査に係る一般的な情報の収集
(14) 製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウエアに係るプログラムの機能上の障害の除去等の機能維持に係る活動
(15) ソフトウエア開発に係るシステム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート及びソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの制作

【解説】
1 本通達においては、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究(新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しないものを除く。)に含まれないものについて例示的に明らかにしている。
2 令和3年度の税制改正において、研究開発税制における試験研究費の額について次の見直しが行われた。
(1)試験研究のために要する費用の額で研究開発費として損金経理をした金額のうち、棚卸資産若しくは固定資産(事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産を除く。)の取得に要した金額とされるべき費用の額又は繰延資産(試験研究のために支出した費用に係る繰延資産を除く。)となる費用の額が追加された。
(2)上記(1)の見直しに伴い、上記(1)の固定資産又は繰延資産の償却費、除却による損失及び譲渡による損失の額が除外された。
(3)上記(1)の見直しに伴い、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額が除外された。
(4)新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しない試験研究のために要する費用の額が除外された。
  また、令和3年度税制改正の大綱(令和2年12月21日閣議決定)の三4(2)③では、「開発中の技術をその開発をする者において試行する場合において、その技術がその者の業務改善に資するものであっても、その技術に係る試験研究が工学又は自然科学に関する試験研究に該当するときは、その試験研究に要する費用は研究開発税制の対象となること等、研究開発税制の対象となる試験研究費の範囲について明確化する」こととされた。
  上記を踏まえ、研究開発税制の対象となる試験研究費の意義について明確化する一環として、試験研究費に該当しないものを例示的に明らかにすることとした。
3 令和3年度の税制改正において、上記2(4)にあるとおり、研究開発税制の対象となる試験研究費の額から、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用の額のうち、新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しないものの額が除外されている。これは、研究開発税制は、我が国の科学技術・イノベーション基本計画における研究開発費の政府目標を達成するための一つの手段であるが、同計画のKPIである「研究開発費」は総務省統計局が行っている科学技術研究調査の調査項目となっている。そして、この科学技術研究調査は、元々はOECDのR&D統計の適切な国際比較のためのマニュアルであり、現在では、OECD加盟国における研究開発税制における研究開発の定義においても参照されている“Frascati Manual”に準拠している。このため、研究開発費の政府目標を達成するために研究開発税制の対象となる試験研究費についても、この“Frascati Manual”に沿った方向に見直すことが考えられた。この“Frascati Manual”の中で“Research and experimental development”が定義されおり、この“Research and experimental development”の範囲は、おおむね研究開発税制の対象となる試験研究と同様であるところ、研究開発税制においてはリバースエンジニアリングのような行為が必ずしも明確には排除されていなかったことを踏まえ、試験研究費の範囲をグローバルスタンダードに合わせる観点から、この見直しが行われている。
4 また、令和3年度税制改正の大綱(令和2年12月21日閣議決定)の三4(2)③では、「開発中の技術をその開発をする者において試行する場合において、その技術がその者の業務改善に資するものであっても、その技術に係る試験研究が工学又は自然科学に関する試験研究に該当するときは、その試験研究に要する費用は研究開発税制の対象となること等、研究開発税制の対象となる試験研究費の範囲について明確化する」こととされたが、この背景事情として、過去に国税庁において公表していたQ&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)(平成15年10月。以下「国税庁Q&A」という。)の(Q8)(A)において、
 「この試験研究は、工学的・自然科学的な基礎研究、応用研究及び開発・工業化等を意味するもので、必ずしも新製品や新技術に限らず、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象となります。逆に、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に当らない人文・社会科学関係の研究は対象とはなりません。
  したがって、例えば、次のような費用は含まれませんので、ご注意ください。
 イ 事務能率・経営組織の改善に係る費用
 ロ 販売技術・方法の改良や販路の開拓に係る費用
 ハ 単なる製品のデザイン考案に係る費用
 ニ 既存製品に対する特定の表示の許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験費用」
 と示されていたことによる。具体的には、イの事務能率の改善と言った場合に、例えば、技術の開発過程において、自社を実験場として技術の試行を行った場合に、人が今までに担ってきた作業の代替(短縮・省人力化)をするような業務改善にも資する技術の開発を行った場合についても、この事務能率の改善に当ってしまうのではないかという疑義があった。
5 科学技術研究調査では、令和3年科学技術研究調査の調査票記入上の注意において次のようなものが研究としないもの等として例示されている。
 「研究としないもの(例)
 ・ マーケティング調査、消費者アンケートなど営業活動を目的とした調査・分析
 ・ 財務分析、在庫管理など、経営管理を目的とした調査・分析
 ・ QC活動、ISO9001(品質管理)、ISO14001(環境管理)など、工程管理を目的とした調査・分析」
 「研究関係業務としないもの(例)
 ・ 生産の円滑化を図るための生産工程を常時チェックする活動、製品・半製品・生産物の品質管理に関する活動及び経常的な土壌・大気等の検査・試験・測定・分析活動
 ・ パイロットプラント、プロトタイプモデルなどによる試験研究の域を脱して、経済的生産のための機器設備などの設計
 ・ 一般的な地形図の作成、あるいは、地下資源を探すための単なる探査活動及び地質調査・海洋調査・天体観測などの一般的データ収集
 ・ 特許の出願及び訴訟に関する事務手続
 ・ 一般従業員の研修・訓練などの業務
 ・ 営業活動を目的とした調査、分析など
 ・ 他社から受託した事業として行う市場調査、技術サービス(保守・管理等)、販売分析など
 ・ 貴金属、衣料品等のデザイン関係」
 「ソフトウエア開発について
(1)研究の範囲について(中略)
  (例)「研究」に含めないもの
 ・ 大幅な変更を伴わない,既存パッケージソフトウェアや既存ソフトウエアのユーザ仕様への適用
 ・ 大幅な修正を伴わない,異なる環境(OS,ハードウェア,言語)への既存ソフトウエアの適応
 ・ 既存システムの欠陥の発見と除去
 ・ システム運用管理
 ・ ユーザードキュメントの作成
 ・ ユーザーサポート
 ・ ソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの製作(データベースのデータなど)」
6 企業会計においては、「研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成10年企業会計審議会)において次のようなものが研究・開発に含まれないものとして例示されている。
 「三 要点と考え方
 1 研究及び開発の定義について
  (中略)なお、製造現場で行われる品質管理活動やクレーム処理のための活動は研究開発に含まれないと解される。」
  また、会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(平成11年日本公認会計士協会。以下「実務指針」という。)において次のようなものが研究・開発に含まれないものとして例示されている。
 「26.(中略)なお、研究・開発に含まれない典型例としては、以下のものを挙げることができる。
 ① 製品を量産化するための試作
 ② 品質管理活動や完成品の製品検査に関する活動
 ③ 仕損品の手直し、再加工など
 ④ 製品の品質改良、製造工程における改善活動
 ⑤ 既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更
 ⑥ 客先の要望等による設計変更や仕様変更
 ⑦ 通常の製造工程の維持活動
 ⑧ 機械設備の移転や製造ラインの変更
 ⑨ 特許権や実用新案権の出願などの費用
 ⑩ 外国などからの技術導入により製品を製造することに関する活動」
「16.ソフトウェアを利用するために必要なその他の導入費用については、次のとおり処理する。
(1)データをコンバートするための費用
  新しいシステムでデータを利用するために旧システムのデータをコンバートするための費用については、発生した事業年度の費用とする。
(2)トレーニングのための費用
  ソフトウェアの操作をトレーニングするための費用は、発生した事業年度の費用とする。」
 「34.(中略)
(2)ソフトウェアの機能維持に要した費用
   バグ取り、ウイルス防止等の修繕・維持・保全のための費用は、発生時の費用として処理する。」
7 上記4から6までの試験研究等に該当しないものの例示を踏まえ、また、上記2(4)で新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しないものの額、具体的にはリバースエンジニアリングに要する費用の額が除外されたことを踏まえ、試験研究に含まれないものについて例示的に定めることとした。
  具体的には、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究(新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う試験研究に該当しないものを除く。)には次のような活動は含まれないこととしている。なお、ここで言う活動とは、調査、収集、分析その他の活動が該当する。
(1)人文科学及び社会科学に係る活動
(2)リバースエンジニアリング(既に実用化されている製品又は技術の構造や仕組み等に係る情報を自社の製品又は技術にそのまま活用することのみを目的として、当該情報を解析することをいう。)その他の単なる模倣を目的とする活動
(3)事務員による事務処理手順の変更若しくは簡素化又は部署編成の変更
(4)既存のマーケティング手法若しくは販売手法の導入等の販売技術若しくは販売方法の改良又は販路の開拓
(5)単なる製品のデザインの考案
(6)製品に特定の表示をするための許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験
(7)完成品の販売のために行うマーケティング調査又は消費者アンケートの収集
(8)既存の財務分析又は在庫管理の方法の導入
(9)既存製品の品質管理、完成品の製品検査、環境管理
(10)生産調整のために行う機械設備の移転又は製造ラインの配置転換
(11)生産方法、量産方法が技術的に確立している製品を量産化するための試作
(12)特許の出願及び訴訟に関する事務手続
(13)地質、海洋又は天体等の調査又は探査に係る一般的な情報の収集
(14)製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウエアに係るプログラムの機能上の障害の除去等の機能維持に係る活動
(15)ソフトウエア開発に係るシステム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート及びソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの制作
8 本通達の(1)は、本通達の試験研究は、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究であることから、自然科学に係るものに限定され、国税庁Q&Aで示していたように人文科学及び社会科学に係る活動は除かれるということになる。参考までに、令和3年科学技術研究調査の調査票記入上の注意の「6 研究者の専門別内訳」では、人文・社会科学部門の区分として人文科学(文学、その他(史学、地理学等))及び社会科学(商学・経済、社会学、その他(法学、政治学等))とされている。
  本通達の(2)は、リバースエンジニアリングであるが、一般的な用語の意義よりは狭い表現としており、既に実用化されている製品又は技術の構造や仕組み等に係る情報を自社の製品又は技術にそのまま活用することのみを目的として、当該情報を解析することとしている。これについては、国税庁Q&Aにおいて必ずしも新製品や新技術に限らず、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象としていたとおり、世の中全般において新規である必要は必ずしもなく、自社にとって新規であればよいところではあるが、単に模倣することを目的とするのであれば新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行うものではないので研究開発税制における試験研究の対象にはならないということである。この点、例えば、特許侵害がないかのみを確認するために行うリバースエンジニアリングはそもそも試験研究性がない。
  本通達の(3)は、従前国税庁Q&Aにおいて、事務能率・経営組織の改善と言っていたものについて、元来、自然科学に係る試験研究に該当するものを除く趣旨ではないことを明らかにするために、改めて、対象とならない活動を明確にする見直しを行ったものである。無駄となった事務を止めるなどの事務処理手順の変更若しくは簡素化又は部署編成を例えばフラット化する若しくは事業部制を採用するなどの変更については、自然科学に係る試験研究とはいえない。一方で、技術の開発過程において、自社を実験場として技術の試行を行った場合に、人が今までに担ってきた作業の代替(短縮、省人力化)をするような業務改善にも資する技術の開発を行った場合については、当然試験研究性がある。
  その他本通達で掲げているものと上記4から6までの試験研究等に該当しないものの例示とで若干表現ぶりが異なるところがあるが、例えば、次のようなことを踏まえ本通達のような表現としている。しかしながら、現行の会計基準や科学技術基本調査の考え方を変更するものではなく、現行の実務も本通達のとおり運用されている。
・ 本通達の(4)では、「既存の〜導入等の」としているが、顧客のインターネットアクセスを解析し、その顧客に最適な商品を提案するためのアルゴリズムの開発を行い、これを特定のソフトウエアとして実装すれば製品の開発に係る試験研究となり、自社内のプロセスの中に実装する場合は技術に係る試験研究となり得ることを踏まえ、このような表現としている。
 ・ 本通達の(6)では、既に技術的に確立された事項について、製品に特定の表示をするための許可申請のためだけに、データ集積等の臨床実験を行う場合を念頭に置いているのであって、臨床実験であっても、新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う活動は、当然、試験研究となり得ることを踏まえ、このような表現としている。
 ・ 本通達の(7)では、「完成品の」としているが、製品の開発に当たって、適切な設置場所はどこか、そのために必要な装置、実用化すべき技術は何かといった調査は、応用研究となり得ることを踏まえ、このような表現としている。
 ・ 本通達の(8)では「既存の」と、本通達の(9)では「既存製品の」及び「完成品の」としているが、職員が手作業で各所からデータを収集し、分析を行っている作業について、収集すべきデータを特定し、自動で収集するアルゴリズムの開発を行い、これを特定のソフトウエアや自動ロボットとして実装する場合は製品の開発に係る試験研究になり、自社内のプロセスの中に実装する場合は技術の改良に係る試験研究となり得ることを踏まえ、これらのような表現としている。
 ・ 本通達の(10)では、「生産調整のために」としているが、熟練工が経験的に行っている作業について、例えば温度、力加減等をパラメーター化し、作業を自動化するためのアルゴリズムやロボットの開発を行った場合、他社に販売すれば製品の開発に係る試験研究となり、成果を自社内で活用すれば技術の改良に係る試験研究となり得ることを踏まえ、このような表現としている。
 ・ 本通達の(11)では、「技術的に確立している」としているが、少量生産は可能であるものの、大量生産することが難しいような生産技術もあり、量産技術を確立するための研究開発が不可欠である場合も存在することを踏まえ、このような表現としている。
  その他会計基準や科学技術基本調査において研究開発に該当しないものとしているものについて、本通達に盛り込まれていないものがあるが、そのようなものについても試験研究の意義(措通42の4(1)−1)に照らせば研究開発税制における試験研究に該当しないことは明らかであるので、本通達において例示的に明らかにしていない。いずれにしても、本通達に例示されていないから研究開発税制における試験研究に該当するということではなく、本通達に例示されていないものであっても、その趣旨からして、会計基準や科学技術基本調査において研究開発に該当しないと判断されるものであれば、研究開発税制における試験研究には該当しないし、会計基準や科学技術基本調査において試験研究等に該当しないものとして明らかにされていないものであれば、試験研究の意義(措通42の4(1)−1)に照らして判断することになる。
9 連結納税制度においても、同様の通達(連措通68の9(1)−2)を定めている。

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