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一般2021年04月13日 WEリーグに見る女性スポーツの今後 執筆者:堀田裕二

 スポーツ界における女性差別発言や女子アスリートに対する盗撮問題などスポーツとジェンダーや女性とスポーツに関する話題が多くなされている。スポーツ界においても女性の活躍がめざましいことは言うまでもなく、性別関係なくスポーツをする権利が存することは当然であるが、女性については、男性との体格差や、スポーツがもともと男性中心に行われてきたことによる差別や偏見等の問題、さらには生理や妊娠、出産という女性特有の問題など様々な問題が存するのであり、これを克服することがこれからのスポーツ界に求められている。

 そのような中、今年秋に「WEリーグ1」という女子サッカーの新しいリーグが発足する。
 「WEリーグ」は、女子サッカーのプロリーグであり、従来存在しているなでしこリーグの上位に位置するリーグである。このWEリーグの特徴は、チーム内の選手の大部分(15名以上、プロA契約選手5名以上およびプロB・C契約選手10名以上)をプロ選手とすることが必要とされているという点であり、この意味でWEリーグは我が国における女子サッカー初の本格的プロリーグといって良い。このWEリーグでは、単に女子サッカーのプロリーグというだけでなく、さまざまな意味で女子サッカーの発展や普及、女性アスリートの権利保護に取り組む姿勢が見られるので以下敷衍する。
 まず、監督の要件について、JFA・S級(またはS級相当)の指導者資格を有する者とされているのは男子と変わらないが、女性指導者を対象としたJFA・A-Proライセンスの指導者資格やS級資格取得講習会を受講中の女性でも可能とされている点が特徴的である。これは、女子サッカーにおいては、選手以上に女性の指導者が圧倒的に不足しているという現状があり、そのことが男性指導者によるセクハラやパワハラを生んでいる原因となっているという指摘もあることから、女性の指導者資格取得を実質的に後押しするための規程であるといえる。また、参加チームは、U-18、U-15、U-12といういわゆる育成チームを保有することも要件としており、チームには単にトップチームとして強いだけでなく、女子サッカーの育成を行うことも求められている。これも、指導者と同じく、サステナブルな女子サッカーの発展という観点から、トップダウンの普及だけでなく、ボトムアップからの育成も同時に行うという姿勢の表れであるといえる。
 さらに、WEリーグでは、選手や指導者のみならず、運営する法人自体についてもダイバーシティーに配慮したガバナンスを求めている点が特徴的である。具体的には、運営にあたる法人を構成する役職員の50%以上を女性とするよう求めており、さらに意思決定に関わる者のうち、少なくとも1人は女性とすること(取締役以上が望ましい)とされている。スポーツ団体ガバナンスコードが求める4割よりもさらに進んだ女性割合を求めているという点、運営面からもダイバーシティーを求めているという点が新しい取り組みであるといえる。

 次に、契約や規則の観点から検討する。WEリーグが設立されるにあたり、2021年2月、日本サッカー協会(JFA)は新たに「女子プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則」を制定した。
 これまでも、なでしこリーグや海外のリーグで活躍する女子サッカー選手の中には、プロ選手も存在したが、これまではJリーグなど主に男子を対象とした規則しかなく、女子サッカー選手であってもこの規則を使うしかない状況であった。今回新たに制定された規則は、基本的にはこれまでの主に男子を対象とした規則と同様の内容ではあるが、女性特有の規定も存するのであり、中でも選手の妊娠、出産に対する配慮や規制がなされているのが特徴的である。
 具体的には、妊娠及び出産に係る女性選手の権利の保護に関する特別規定として項目を設け、プロ契約をするにあたり、産休や育休を取ることや、出産後のサッカー活動の再開などを選手の権利として定めている点がある。なお、これらの権利はWEリーグだけでなく下位のなでしこリーグなどにも適用されるとしている2
 また、クラブが、選手が妊娠中でないことや、契約期間中妊娠しないこと、産前産後休業を取得しないことなど妊娠、出産に関連した権利を行使しないことを条件としてはならないと定め、妊娠や出産を理由に契約しないことを禁止している3。他方、クラブに対しても、妊娠、出産した選手がいる場合には、クラブの人数制限の点で配慮する規定も設けられている4

 以上のように、WEリーグの取り組みは、単に女子のリーグが新設されたというだけにとどまらず、持続可能な女子サッカーという視点や女性のスポーツ権の確保まで目指している点で他のスポーツにおいても参考になると思われる。

1 WEリーグ[うぃーりーぐ](Women Empowerment League)
2 女子プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則1-2-2
3 同規則1-2⑧
4 同規則1-6③(3)

(2021年3月執筆)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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