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民事2021年11月10日 特別対談企画 生活の知恵としての信託
「信託をしてもしなくても大切で必要な事」とは-不動産管理・仲介会社のあり方を通して考える(前編)- 生活の知恵としての信託 対談者:桜木良平 藤本学 江口尚輝 蓮把孝治 内山真太郎 二宮政文 石垣雄一郎

西鉄不動産株式会社
 代表取締役社長 桜木良平
 賃貸事業部長 藤本学
 賃貸事業部 営業課長 江口尚輝
 賃貸事業部 管理課長 蓮把孝治
 賃貸事業部 管理課 受託担当係長 内山真太郎
 賃貸事業部 管理課 第1ユニット主任 二宮政文
信託ナビゲーター・税理士 石垣雄一郎

1 はじめに

 本企画「生活の知恵としての信託」では、信託およびその周辺領域の実務に携わる専門家の方々にご登場いただき、対談形式でお話を伺う企画です。対談は、積極的な信託の利用促進を図ることを目的とするものではありません。むしろ、実際に信託をするかどうかの検討機会を増加させ、当事者が信託を理解しやすくなる環境を作り、以て信託の有用性を社会一般に浸透させること(「信託の民主化」(※1))を目的としています。

 さて、今回の対談では、「信託をしてもしなくても大切で必要な事」(※2)の一つとして不動産管理・仲介会社(以下、「管理・仲介会社」または「管理会社」ともいいます。)(※3)の行う業務(以下、「管理・仲介業務」、「管理業務」、または「仲介業務」ともいいます。)を取り上げます。
 信託をしているかどうかにかかわらず、管理・仲介会社の提供する業務水準は、不動産オーナー(以下、「オーナー」ともいいます。)の所有する賃貸不動産の管理、運用、または処分の成果に少なからず影響を及ぼします。別の言い方をすると、管理・仲介会社は、市場に見合った収益(賃料収入・売却収入)を得られるよう管理物件の不動産価値を維持し、向上させ、時として回復させる重要な役割を担っています(不動産価値に対する役割)。オーナーは管理・仲介業務をどの会社に依頼するかで不動産価値の評価が変わることがあり、オーナーにとって同業務は、「信託をしてもしなくても大切で必要な事」といえます。

 現在、民事信託をする場合は、商事信託(受託者が信託会社、信託銀行等の信託をいうものとします。)のように受託者が信託業法の適用を受け、金融庁の監督下に置かれるわけではなく、後見制度のように成年後見人等が家庭裁判所の管轄下に置かれる制度でもありません。民事信託は、金融庁の監督下にも、家庭裁判所の管轄下にもないことから自律的でなければなりません。そうなると民事信託の受託者は、信託行為と信託法等の法規に従うことが、また、管理・仲介会社(※4)は、「不動産価値に対する役割」(上記参照)を担いコンサルティング業務を提供することが求められます。管理・仲介会社によるコンサルティングは受託者が不動産経営を行うにあたり、適切で迅速な判断や意思決定をするときに欠かせません(これは信託をしていなくても同様です。)。管理・仲介会社自身がすべからくそうしたコンサルティングを実施しなければならないとする志をもつことが不動産に関する民事信託を社会に広げていくときの社会インフラ形成に役立つと考えます。

 私は「信託をしてもしなくても大切で必要な事」を実践する管理・仲介会社であれば、たとえ現時点で信託へのかかわりをもっていなくても、民事信託の受託者を十分に支援し役立ち得る存在になると考え、この観点から本企画の対談先を探していました。
 この度、幸いにも、事業分野の一つとして不動産管理・仲介業務を営む西鉄不動産株式会社(※5)で不動産実務にかかわる専門家の方々が本企画にご協力していただけることになりました。私個人は自らの顧客を通して数年前から同社の仕事ぶりを拝見させていただく機会に恵まれました。現在、同社は信託関連の不動産実務に従事しているわけではありませんが、この数年間で私が同社の取り組みにふれ、「信託をしてもしなくても大切で必要な事」を実践する会社ではないかという印象をもったことが今回の対談依頼につながりました。
 管理・仲介業務は、その業務にかかわりがなければ、一般的に、その内容を詳しく知る機会はほとんどありません。この対談が不動産に関する民事信託契約を締結する当事者とその支援をする専門家の方々にとって、管理・仲介業務が不動産経営の根幹にかかわるものであることを改めて確認する機会としていただけましたら幸いです。

 なお、本稿で取り上げるのは、オーナーが賃貸マンション・アパートを自主管理をする場合を除き、個人または中小企業がそれを所有する場合を対象としています。

※1 「信託の民主化」とは、数々の優れた作品を世に出された工業デザイナーの榮久庵憲司氏が戦後の復興する日本社会で唱えられた「モノや美の民主化」に倣ったものです。
同氏の代表作の1つをあげますと、私たちにも馴染みのある「キッコーマンしょうゆ卓上瓶」(1961年)があります。
各国で「立体商標登録」され、使いやすさと、どういうふうにしたら人々の生活が向上するのかといった視点でデザインされ、「モノや美の民主化」を実現させた象徴的な代表作といえます。
https://www.kikkoman.com/jp/quality/ip/topics4.html 等参照
※2 拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース6は潜在的空き家対策(受益者連続型信託)において遠隔地に住む高齢の親をどう看るかについて本稿でいう「信託をしてもしなくても大切で必要な事」から信託の検討をスタートするアプローチをとっています。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046
※3 本稿では不動産管理・仲介会社の中に不動産オーナーが節税目的で設立する不動産管理会社を含めないものとします。
※4 受託者は信託外部に対しては不動産オーナーとなりますが、信託法上、受託者は権限を有する(信託法26条~28条)とともに受益者に対する義務等(信託法29条~39条)や責任等(信託法40条~47条)を負います。
民事信託を支援する管理・仲介会社は、この点を十分に理解し、意識した行動が求められます。
※5 西鉄不動産HP https://nishitetsu-fudosan.co.jp/company/
同社は西日本鉄道株式会社(東証1部)を中心とする西鉄グループ(運輸、不動産、流通、物流、レジャー・サービス等の事業を展開)の一つで、福岡県下に売買仲介15店舗、賃貸仲介3店舗、計18店舗(※6)を構え、西鉄大牟田線(下記【ひと口メモ①】参照)沿線を中心に宅地開発や住宅の販売を行ってきた地域密着型の企業です。
当初は、電気軌道の用地売買からスタートし、宅地開発・マンション分譲事業等を経て、現在は賃貸事業、売買仲介事業、マンション管理事業、買取・再販事業を行っており、2019年10月に創業90年を迎えました。
創業以来、福岡という地域の発展とともに積み上げてきた実績があり、西鉄グループのネットワークを活かしたサービス提供を行っています。
※6 西鉄不動産・店舗HP
https://www.nishitetsu-fudosan.co.jp/tenpo/
【ひと口メモ①】西鉄天神大牟田線
西鉄天神大牟田線は、九州最大の繁華街である天神を起点に福岡県を南北に結ぶ大動脈の路線で西日本鉄道株式会社(通称、西鉄)が運営しており、福岡の中心地天神から県南部の大牟田市まで全長74.8㎞、49駅あります。
路線の中程に福岡県第三の都市である久留米市が位置しています。
沿線には県下でも比較的規模の大きな都市や拠点的な都市が連なり、古くから沿線開発が進められています。
主に福岡市への通勤・通学路線として利用されていますが、沿線には太宰府天満宮・九州国立博物館や旧柳河藩の城下町などの観光地もあります。

 対談のはじめに、本稿の法的見解、考え方は、すべて対談当事者個人によるものであり、読者の皆様方およびそのお客様方の個別案件に対応するものではなく、その責任を負うものではないことをご承知おきください。

2 対談依頼のきっかけとなった2つの出来事

石垣 この度は、ご多忙のところ、本企画対談にご協力いただきましてありがとうございます。それでは、早速、始めさせていただきます。私が御社に対談をお願いしたいと考えるきっかけとなった2つの出来事があります。1つは、昨年前半、他社に先駆けて御社から新型コロナ感染対策に関するお知らせをいただいたこと、もう1つは、御社の顧客であり、私の顧客でもあるオーナーから「西鉄不動産の良い点」は、「担当が別の方(※7)になっても、そのサービスの質が変わらないところです。」というお話をうかがったことでした。というわけで、対談は、この2つの話題から入らせていただきます。

※7 当初は中尾陽一さん、宮崎慎司さん、現在は、二宮政文さん、蓮把孝治さんのお世話になっています。
この方々は私の顧客にとって、西鉄不動産を代表する顔となっています。

3 コロナ禍における対策等

①会社のリスク意識が顕著に表れた新型コロナ感染対策
石垣 昨年の初め、日本でもコロナ感染者が目立ち始めた頃、御社はかなり早い段階で、管理物件のオーナー向けに入居者に感染者が出た場合の対応策について、お知らせを出されました。私はその時点でこうしたお知らせを見たことがなく、とても心に残りました。この取り組みについて、ご説明していただけますか?

蓮把 はい。コロナ感染者が出始めた2020年2月から3月頃、西鉄グループ各事業でコロナ禍における事業継続方針の策定を行いました。特に電車、バスなどの公共交通については市民生活や様々な事業への影響が大きく、お客様が困惑・混乱しないように「安全」、「安心」という視点をもつ必要がありました。この方針に従い、私達、西鉄不動産も従業員の中に感染者が出て要員不足になる場合や、お客様(入居者)の安全確保が難しい場合などを想定した具体策を定めました。一時、大部分において来店されるお客様との対面接客を停止いたしました(最近はリモート接客やweb内覧も活用)。その後も感染が拡大し、緊急事態宣言が発出されるなど日々状況が変わっていく中で、管理物件において感染者が出た場合は、他の入居者の安全のため、共用部の消毒を行うことおよびプライバシーに配慮したうえで情報を開示することが、管理会社およびオーナーの善管注意義務の範囲内だと判断し、各オーナーへの通知をいたしました。

石垣 「信託をしてもしなくても大切で必要な事」を会社の方々が実践されている様子が伝わってきます。昨年の初め、日本でもコロナ感染が広がり始めた頃、都市部のオーナーは、入居者がコロナ感染したときにどうすればいいのか、漠然とした不安感を抱き始めていました。御社のお知らせはその矢先に送られてきましたので、タイミングの良い気配り、気遣いでした。善管注意義務をご自分たちの顧客であるオーナーに対する問題としてだけでなく、オーナーがその顧客である入居者に対し負う義務として履行できるよう配慮されています。この点は、顧客とその顧客の両方に心を配る「親切心」と同時に、一朝一夕では築けない組織の「強み」を感じます。普段は競合他社と表向きはさほど変わらなく見えるお仕事をされていても、コロナ禍ではいち早く必要とされる行動をとられています。私はこの点に意義があると思っています。一事が万事と言います。今、その当時の背景をうかがいますと、改めて、他の事であっても、同じように考え、行動していただけそうだという気持ちが生まれてきます。

②不動産市場の環境変化
石垣 ところで、コロナ禍の環境では、入居者と入居希望者のニーズに変化が生じたのではありませんか?

二宮 はい。環境の変化という点では、コロナ禍により在宅時間が長くなったことなど生活様式の変化から、コロナ前よりも騒音に関する相談や設備の不具合の連絡も多くなってきました。また、お部屋探しの条件にも変化が出てきました。インターネット環境やオンライン授業・テレワークが推奨される中、作業用スペースが確保できる間取りを重視される方の問合せが多くなってきていると実感しております。入退去時のヒアリングやアンケート等で把握したこうした変化を迅速にオーナーへの情報提供、提案に生かしていく必要性を感じています。

石垣 コロナ禍では、これまで以上に市場と向き合い、物件の商品価値、競争優位性を再点検し、実施すべき事項を検討し、重要性と緊急性を考慮し実施する、計画的な不動産経営が改めて求められている気がします。

蓮把 孝治
賃貸事業部 管理課長
2005年 西鉄不動産株式会社 入社
     西鉄不動産入社後、一般管理部門を経験し現職

4 人材の採用・育成・配置に関する方針

石垣 顧客担当者が交代すると、良きにつけ、悪しきにつけ、対応が変わったということを顧客から耳にすることがあります。顧客目線で言わせていただきますと、私たちは、御社のご担当が変わっても、業務品質が一定水準に保たれていることを肌で感じています。そこで、御社は人をどのような基準で採用し、育成し、配置するのか、人材採用・育成・配置に関する方針を教えていただけますか?

蓮把 はい。わかりました。それは次の4つに分けています。

①採用方針
 採用に関して大切にしていることは、西鉄グループの風土である安全と安心を担っていける人材であるかどうかです。同じ業界の経験者だけに頼った均一な人材のみで固めるのではなく、異業種での経験者も積極的に採用しています。新たな血が入ることで、活性化を図ることを狙っています。そして、やはり福岡を愛せることが大切であり、今の風土を作っている既存社員が、共に働きたい!と思える人材であるかどうかを最後の判断基準としています。採用方針は、採用に携わる役職者全員の共通認識としています。

②ジョブローテーションについて
 賃貸事業部では入社した社員にお客様のお部屋探しをお手伝いする斡旋業務(賃貸仲介)から経験してもらいます。そこでエリアの家賃の相場感、エリア特性、設備の知識、賃貸物件の借り手のニーズ等を学んでもらいます。その後、賃貸物件の管理を担当することになるのですが、賃貸仲介業務で学んだことがオーナーへの各種ご提案の際に活かせると考えています。賃貸仲介業務と管理業務の両方を経験し、コンサルティングのできる人材育成を行っています。数年おきにローテーションを行う前提で要員計画を策定しています。

③研修・教育制度
 入社時の研修は社内ルールになっています。入社後すぐにコンプライアンス研修を通じて「企業理念」や「企業メッセージ」を学んでもらいます。その後は、企業理念を謳ったコンセプトブックやコンプライアンスマニュアルに基づき、「安全」、「安心」に関する意識の統一と浸透を図っています。
 具体的には、西鉄グループ内や外部研修を利用して各社員のスキルに応じた学びの場を用意し、外部研修についても予算化されており、随時実施しております。
 また、入社後の業務は、グループ各社との関わりが多く、グループの風土を体感しやすい環境が作られています。

④資格取得奨励制度
 資格取得を奨励する制度をつくり、各社員のスキルアップを図っています。宅地建物取引士と賃貸不動産経営管理士の資格は業務上必須の資格とし、各社員に資格取得に努めてもらっています。今後は、公認不動産コンサルティングマスター(※8)等資産活用のアドバイスができる資格については、中期経営計画にて強化していくことを掲げております。

※8 公認不動産コンサルティングマスターについては、公益財団法人不動産流通推進センターHP参照https://www.retpc.jp/qualification/consultingmaster/

5 チーム制による管理業務の実施

石垣 管理業務についてご担当の方が一人ですることが多過ぎると、業務が多忙になり、仕事の習熟度によっては、十分に対応できなくなって、業務が滞ってしまうかもしれません。迅速性と正確性が求められる業務について、品質を一定水準以上に保つために、オーナー窓口担当の方に対する社内のバックアップ体制は、どうされているのですか?

二宮 当社の管理業務では、オーナーの窓口担当を「物件担当」といいます。入居者の募集や契約管理業務をはじめ、物件に関する全体について担当します。物件を巡回し、状況を目視で確認して異常の有無、その兆候を把握し対処する「巡回担当」、そして、原状回復・室内の追加工事、入居者のお困りごとに対応する「サービス担当」がいて、各担当がチームを構成し、管理業務を実施しています。

石垣 管理業務の役割を分担(※9)しながらも、顧客に対しては、管理担当者が一人で全部の役割を担い業務に支障が出ることがないよう工夫されている点は社内外への配慮がうかがえます。親会社・西鉄の鉄道事業で考えると、天神大牟田線を安全に運行するため、電車の運転、車両整備・点検、電気、保線、運行管理、駅等の各業務について役割を分担した方々が組織的に一体となって動いていることと思います。組織を構成する個人の力量の違いが「安全」の差にならないよう、長年にわたり、細心の注意を払い続けておられるでしょうから、御社が提供する役務についても、グループの企業文化・風土が反映されているものと受けとめています。

※9 顧客(オーナー)に対しては、物件担当の方を窓口としつつも、原状回復工事のときは、入居者対応をされるサービス担当の方から工事内容・見積関連のご連絡をいただくこともありますが、違和感はまったくありません。
それは管理業務がチームで有効に機能しているためと推測しています。
二宮 政文
賃貸事業部 管理課 第1ユニット 主任
2007年 西鉄不動産株式会社 入社
    前職は不動産賃貸仲介、西鉄不動産入社後も賃貸仲介を経験し現職

6 管理業務の実際

石垣 管理物件の定期巡回の時に巡回担当の方は、何を点検されるのですか?

蓮把 巡回担当は前述しましたようにその名のとおり物件の巡回を主な仕事としております。毎月現地へ赴き、目視にて建物の劣化状況や共用部の使用状況などを確認し、物件担当を通じてオーナーへ状況報告・改善策提案を行うことで物件の質の維持・向上に貢献できるよう努めております。当社の定期巡回について巡回担当は、例えば、次の項目をチェックポイントにしています。

(1)定期巡回時の主なチェックポイント(例)

 ・外壁のクラックやタイルの剥がれなど入居者・通行人に危害を及ぼす恐れがないかどうか。
 ・漏水の原因となる破損・劣化がないかどうか。
 ・長期的維持の観点から、修繕が後手にまわると多大なコストがかかるような破損・劣化箇所がないかどうか。
 ・非常灯の点灯や消火器の期限などの確認。
 ・ゴミが落ちていないか、共用部の占拠や、駐輪の乱れがないかどうか。
 ・例えば、人通りの多い駅近の物件などでは、入居者以外の方が駐輪をされる場合もあり、自転車を乗り捨てられることも少なくないため駐輪場の状況を注視するなど物件により注意点は異なる。
 ・雑草や植栽の状況確認。植栽が隣地に越境したり、逆に隣地から越境してきたりしている場合は速やかにオーナーあるいは隣地の方へ連絡をとり、対応をお願いする。特に春から夏にかけては植栽の伸びが早いため、注意が必要。

蓮把 特に築年数が経過している建物や、大規模修繕がなされていない場合などは劣化状況について注意をして確認します。また、項目によって毎月行うもの、半年に1回や年に1回行うものの区分けもしています。この他にも台風や梅雨の季節には排水廻りを再確認したり、寒波が来る時期には、特に冷え込む地域の空室物件において給湯器の水抜き等を行って故障や漏水を予防するなどできるだけ季節に応じた対応を行っています。

(2)特別巡回
石垣 普段の定期巡回とは別に特別巡回を実施されることがありましたら、この点も教えていただけますか?

蓮把 エリアの特性や物件の特性、気候などを考慮して行います。いくつかの場面があり、例えば台風や梅雨の季節には排水廻りを再確認したり、できるだけ季節に応じ対応するよう努めています。最近のように非常に強い台風がきたり、大雨の予想がされる場合には、時間は限られますが、建物の状況に応じて優先順位をつけ、できる限り物件を巡回し、危険な箇所がないか確認に努めています。大雨や、福岡では少ないですが、地震発生などの自然災害後についても同様に、巡回を行うことがあります。特にオーナーが遠方にいらっしゃって現地の状況を確認できない場合などはできるだけ速やかに状況の報告ができるよう取り組んでおります。また、それ以外では修繕が必要な箇所や、より入居率を向上させるために提案できるポイントの有無を確認するため、通常の「物件担当」・「巡回担当」「それ以外の者」が同行して物件を見せていただくこともあります。

石垣 「それ以外の者」とは、どういう方でしょうか?

蓮把 「それ以外の者」とは、次の2つをあげることができます。

① 建築士や工事関連の実務歴が長い者(建物・設備その工事に専門性がある者)
巡回担当も日々建物等を見ておりますが、違った視点で見ることができます。
② 別の物件の担当者
その物件の担当者および巡回担当者はある意味、その物件を「見慣れて」おります。よって、普段は行かない別の担当者が新鮮な視点で見ることで、物件の価値を上げるような新しいアイデアが出ることがあります。

石垣 ルーティンワークは、長期間、特に工夫をせずに続けていますと、マンネリ化してしまいがちです。しかし、そうならない工夫を施し、オーナーの財産、入居者の住環境を守ろうとする経営の基本姿勢が、現場に浸透し、実践されている様子が伝わってくるようです。

7 オーナーが管理会社を変更する理由

石垣 ところで、御社は管理業務の顧客開拓をどのようにされているのですか?

内山 管理業務の委託先をオーナー自らが当社に変えてくださることが多いです。マンションの賃貸管理については、福岡市およびその近郊(前記【ひと口メモ①】参照)を中心に約4000戸の賃貸管理をさせていただいております。その約8割はオーナーご自身が他の管理会社から当社に変更されたものです。また、残りの2割のうちの多くは既存のお客様であるオーナーが物件を買い増すことで、ご依頼をいただいた管理業務です。

石垣 それは興味深いお話です。管理会社の変更理由には、顧客満足を実現する大きな手掛かりがありそうですので、こちらに話題を絞らせてください。管理会社の変更理由には、どういうものがあるのでしょうか?

内山 これまでは次の①から③のようなケースにまとめられるものが多く、それぞれケース・バイ・ケースで対応させていただいております。

① 前管理会社のオーナーに対する「報告」、「連絡」、「相談」、「確認」不足により、オーナーに不信感を募らせてしまったケース
(対応例) 当社では管理変更の相談を受け、当社の業務内容をご説明差し上げる段階で、「入居者の募集」から「入居中の管理」、「入居者の退去」まで一連の管理業務のなかで、当社からオーナーへご連絡を差し上げるタイミングを具体的にお伝えします。例えば、入居の申込みがあった場合や入居中の不具合などの連絡を受付けた場合、退去のご連絡を受けた場合などです。その中で、オーナーが望まれるタイミングも聴き取り、その情報は確実に管理担当部署へ引継ぎます。
② 空室率が改善せず、オーナーがお困りで当社へ提案を求めるケース
(対応例) 社内で空室対策をご提案するためのミーティングを行います。その中で、空室が改善しない原因を深掘りします。物件の状態や賃料・初期費用など募集条件の全般的な設定、広告媒体など様々な原因が考えられます。そのような原因を分析し物件の特性に応じた対策を社内協議のうえご提案いたします。このような形でのご提案となるため、担当者の個人的な提案とせず、当社からの対策案としてオーナーへご提案します(当社はオーナーごとに物件担当が付き対応します。)。
③ 管理会社の窓口が業務ごとに分かれているため、内容によって複数の担当者から連絡があることにより、情報の混乱が生じ、オーナーの判断に支障をきたしているケース
(対応例) 当社においては、オーナー対応を専任の担当者(物件担当)に1本化しています。賃料の収納状況や建物の状態などの各種情報が担当者へ集約され、その情報を正確にオーナーへ伝達します。不具合等が生じている場合は、その原因と対策、対策の必要性、かかる費用などを迅速かつ正確にご提案します。

石垣 上記①から③は、いずれも、オーナーは、管理会社から、ないがしろにされていると感じているのに対し、前管理会社の経営者や現場担当者の方々の多くは、しっかりとやっていてオーナーをないがしろにしているつもりはないとの認識ではないかと推測されます。認識のズレが顧客離れを起こす原因となることを示唆しています。このことからも『「信託をしてもしなくても大切で必要な事」が何であるか』を意識させられます。御社は、このような不満を抱えてきたオーナーに対し、どのような受けとめ方で管理業務を受注されるのですか?

内山 当社と致しましては、少なくとも上記3つのカテゴリーに属する顧客不満足を起こす理由がわかっていますので、当社は顧客の気持ちをしっかり受けとめなければなりません。そのうえで、管理委託を受けるにあたり、オーナーが抱えておられる問題点を把握するため、ご要望やご意向をできる限り詳しく具体的に聴き取り、問題の解決と物件の維持管理の向上ができるようにいたします。オーナーからの聴き取りを行う中で得た情報は、社内共有ファイルの物件チェックリストへ登録し、物件の詳細情報とともに各担当と共有します。オーナーとの管理委託契約を締結したのちに賃貸事業部内の受託担当部署より管理担当部署へ引き継ぐこととなります。物件の引継ぎにあたっては、管理担当者、会計担当者と対面同席のうえ、物件チェックリストをもとに物件の特徴やオーナーより聴き取りした情報を漏れなく引継ぎ社内共有化します。

二宮 管理業務を引き継いだ後、入居中データ・書類の管理ができていないために入居前の写真の記録が無く、解約時にオーナーが負担すべき原状回復費用が正確に出せなくなることがあります。このような場合は、管理業務受託後、退去時に問題が生じないようデータ・書類の整備を実施します。

内山 真太郎
賃貸事業部 管理課 受託担当 係長
2003年 西鉄不動産株式会社 入社
     西鉄不動産入社後、分譲マンション販売、分譲マンション管理、賃貸管理・賃貸仲介を経験し現職

8 物件チェックリスト

石垣 今、お話のあった「物件チェックリスト」(上記7参照)とは何ですか?

内山 オーナーの基本情報と物件の詳細情報をひとまとめにしたシートです。作成責任者は、管理の受託担当部署です。貸主様の情報と物件の周辺環境、ライフライン、登記情報、法令等の制限、賃貸借契約の募集条件、管理委託契約上の基本情報などの詳細をまとめたものです。管理担当部署、会計担当部署へ情報を引継ぐために用いるツールであることと弊社の基幹システムへRPA (Robotic ProcessAutomation)を用いて情報を登録するためのベースとなるシートです。登録後の情報管理は、基幹システム上で行い、基幹システムに登録された情報は、管理担当部署と会計担当部署の責任において、関連する項目に応じて、管理・更新していくことになります。

石垣 情報を属人的なものでなく、会社に帰属する財産として基幹システムで管理されている点からは、御社の情報の取り扱いに関する基本姿勢がうかがえます。

9 管理物件に関する会計業務

石垣 管理物件に関する「会計担当者」の方の業務内容を教えていただけますか?

内山 会計担当は当社の管理物件について賃貸管理業として基幹的な事務業務を行います。毎月の業務内容は大きく分けて次の3つです。

① 収納業務
 賃借人から賃料等を収納します。賃借人からの家賃の収納方法には「銀行振込」「銀行引き落とし」「保証会社からの引き落とし」等がありますので、収納漏れが無いように行う必要があります。特に保証会社が保証している場合は、保証期間や保証限度額、代位弁済期日を確認し、オーナーの不利益にならないよう滞納時に備えておく必要があります。滞納がある場合には督促状を発行するなどの業務も行っています。
② 送金業務
 賃借人より収納した賃料等をオーナーへ送金します。オーナーへの送金は賃料だけでなく、変動費(水道代等)や付帯収入(自動販売機設置料、アンテナ設置料、看板使用料等)もありますので、過不足が起きないように送金項目を正確に行う必要があります。また、確定申告時等に必要となる送金額の明細書を毎月オーナーへ郵送する業務も行っています。
③ 支払い業務
 管理物件から生じるビルメンテナンス費用、工事代金、公共料金等を関係各所へ支払います。それぞれ、支払期日や支払方法、支払内容が異なるため、正確かつ適時の管理が必要となります。

10 管理業務を受注するときの判断基準

石垣 御社における管理業務受注の判断基準を教えていただけますか?

内山 当社では、主に次のような基準で判断させていただいております。

(1)緊急時の対応その他提供するサービスの質を考慮して対象エリアを限定。
(2)建築基準法に抵触する物件や未登記の物件、また、建物が著しく劣化していて、改善の余地がなく、安全性が確保できていないなど、受託後の管理業務に支障をきたすことが想定されるか否か。
(3)オーナーが望まれるご意向がコンプライアンスに抵触していないか、あるいは原状回復・不具合に対する費用負担や入居者対応の考え方が国土交通省のガイドライン(※10)に沿っているか否か。

内山 以上の他にオーナーの収益性が一定程度に満たない場合は、当社の管理報酬等とのバランスを考慮して判断させていただくことがあります。管理業務の遂行にあたり弊社が最も重要視することはオーナーとの信頼関係です。当社としては、オーナーへ丁寧にご説明し、このような基準をもとにご理解をいただけるよう努めています。もちろん、最終的に、管理受託とならない場合もあります。

※10 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)国土交通省住宅局
https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf

11 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の適用

石垣 数年前、私の顧客が御社に管理業務を委託する際に、不動産売買・賃貸借仲介業務のときに実施される「重要事項説明」と同じような説明を受け、書類を受け取っていました。御社は「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(令和二年法律第六十号)(以下、「賃貸住宅管理業法」といいます。)の制定前からコンプライアンスの意味を法規の定めだけに限定しない実践がされている印象が残っています。賃貸住宅管理業法を簡単にご説明していただけますか?

内山 はい。現在、当社は、2021年6月に施行された賃貸住宅管理業法に則って事業を行っています。この制度に登録した会社は4つの義務を遵守しなければなりません。

① 業務管理者の配置
  事務所毎に、賃貸住宅管理の知識・経験等を有する者を配置
② 管理委託契約締結前の重要事項の説明
  具体的な管理業務の内容・実施方法等について書面を交付して説明
③ 財産の分別管理
  管理する家賃等について、自己の固有の財産等と分別して管理
④ 定期報告
  業務の実施状況等について、管理委託契約の相手方に対して定期的に報告

内山 この法律が制定された背景には、近年におけるオーナーの高齢化や相続等に伴う兼業オーナーの増加、管理内容の高度化等により、管理業者に管理を委託するオーナーが増加したことで、ルールの制定が必要になった、ということがあります。上記遵守義務のうち、実務で大きく影響を受けることになったのは➁管理委託契約締結前の重要事項の説明です。重要事項の説明は対面で行うことを前提としていますが、オーナーの承諾を得た場合にはテレビ会議等のITを活用した方法で実施できます。重要事項の説明が義務化されたことにより、遠隔地のオーナーや対面での説明が困難なオーナーに対してはITを活用した重要事項説明をお願いすることになります。ITを活用した重要事項説明を行う際は、双方向でやりとりできるIT環境の構築や、あらかじめ送付した重要事項説明書を読んでおくなど、オーナーの協力が必要となります。おっしゃる通り、当社では法の制定前から、同様の対応をとってまいりました。業務管理者になりえる賃貸不動産経営管理士の資格(※11)については、既に多くの従業員が取得しており、また、今回制定された法律に完全に対応するものではありませんが、不動産の賃貸を行うにあたって貸主として理解しておいていただきたい事項につきましては書面にて説明いたしておりました。財産の分別管理および定期報告についても従前より行っておりましたので、円滑に対応できたと思います。

※11 賃貸不動産経営管理士協議会HP参照
https://www.chintaikanrishi.jp/contact/faq/

 以上で対談の前編を終了します。この次に中編、その後、後編へと続く予定です。文字数の関係で、便宜上、3編に分ける予定ですので、対談に登場される西鉄不動産の方々は、各編のいずれに登場されるかにかかわらず、全編にわたってその氏名を掲載しています。

(2021年10月 対談)

執筆者

石垣 雄一郎いしがき ゆういちろう

税理士、信託ナビゲーター

略歴・経歴

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)の取締役を経て、現在は、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

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