民事2025年05月14日 土下座要求、長時間拘束、SNSで中傷…苛烈なカスハラ、自治体の対策は 提供:共同通信社

ある公共機関のコールセンターで、カスタマーハラスメント(カスハラ)が起きた。相手は電話口でこう言った。「これから火を付けに行く」。脅迫めいた内容に、コールセンターの職員は恐怖を感じたという。
コールセンターでは、対応が2時間に及んだり、やりとりが堂々巡りになったりすることも少なくない。厳しい叱責から重箱の隅をつつくような細かな指摘まで、内容はさまざま。精神的な疲弊は大きい。体調を崩し、離職する職員もいる。
長時間の拘束、交流サイト(SNS)での誹謗中傷、土下座の要求…。全国各地でカスハラ被害が相次いでいる。カスハラは休職や退職のきっかけになり、社会への影響は大きい。カスハラの実態と、国や自治体の対策を追った。(共同通信=江森林太郎)
▽6時間の拘束
生命保険会社に勤務する東京都の30代女性は数年前、苦情対応で訪れた顧客の女性宅で6時間拘束された。別の訪問先では毎年、高齢男性から契約内容や受け取れる金額についての不満を3時間ほど強い口調でぶつけられた。およそ30年前の契約のためどうすることもできない。
相手の怒りのボルテージはどんどん上がり、女性が泣いてしまうこともあった。ただ、カスハラだと声高に訴えていいのか、迷いがあるという。顧客への対応では会社側の不備が引き金になったケースもあった。「顧客の要望と捉えることもできるので、指摘するのは難しい」と話す。
▽お客さまは神様
カスハラはカスタマー(顧客)とハラスメント(嫌がらせ)を組み合わせた造語だ。顧客や取引先が優越的な立場を利用して店員や公務員に暴力を振るったり、理不尽な要求をしたりする迷惑行為を指す。
カスハラが横行する背景について、ある専門家は「顧客と労働者が対等ではなく、『お客さまは神様』という意識が根強い。日本では忍耐が美徳の一つとされ、カスハラを容認する一因になっている」と話す。
カスハラが生み出す被害は深刻だ。労働組合「UAゼンセン」が2024年6月に公表した調査結果には次のようにある。
迷惑行為を体験した後の心身の変化を聞いた質問では、「嫌な思いや不快感が続いた」「腹立たしい思いが続いた」の順に多かった。他に心療内科への通院、寝不足が続いたなどの回答が寄せられた。調査とは別にカスハラが自殺の原因として労災認定された事案もあった。
▽自治体が次々と条例制定
深刻な被害状況を受け、自治体も対策に動いている。東京都は2024年10月、全国に先駆けてカスハラ防止条例を成立させた。その背景には、企業数や労働者が多いことがある。
「何人も、あらゆる場においてカスハラを行ってはならない」と条例に明記し、顧客や働く人、事業者、都に対して責務を定めた。
実効性を高めるため、該当する可能性のある行為を指針で次のように示した。暴言や長時間の拘束、土下座の強要、交流サイト(SNS)での中傷などだ。ホームページやポスターで周知を進めている。
都幹部は条例化の背景を次のように語る。「労働者と経営者ともに対策が必要との認識で一致した。カスハラはいけないという理念が浸透する契機になれば」。他にも、北海道で2024年11月、群馬県では2025年3月にそれぞれ同様の条例が成立した。
▽制裁措置
より踏み込んだのは三重県桑名市だ。今年4月施行の防止条例で、警告後も十分な改善がない場合、行為者の氏名を公表できると事実上の制裁措置を定めた。担当者は「安心、安全に働く環境をつくるための抑止力として設けた。公表は悪質なケースを想定している」と話す。
共同通信の47都道府県調査では、条例を制定した北海道、東京、群馬の他に愛知、三重両県も「制定する」と回答した。さらに、岩手、栃木、埼玉、静岡、和歌山の5県が「制定に向けて検討している」としている。政府も企業に対策を義務付ける労働施策総合推進法などの改正を進めており、社会全体での取り組みが加速することになる。
関西大の池内裕美教授(社会心理学)は「働きやすい環境づくりは官民問わず利益があり、条例制定の動きはさらに広がりそうだ」と分析。「地域ごとに人口規模や産業構造が異なるため、実情に即した対策を進めるのが望ましい」と語った。
(2025/05/14)
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