「外国子会社配当益金不算入制度導入に伴う我が国国際租税制度への影響」 要 旨 〈秋元 秀仁〉

平成21年度の税制改正により、内国法人が一定の外国子会社から受ける配当の額について非課税とする外国子会社配当益金不算入制度(以下「本制度」という。)が導入され、これに伴い、間接税額控除制度が廃止(直接税額控除制度が改正)された。

また、本制度の導入に伴い、タックスヘイブン対策税制も改正され、特定外国子会社等が稼得した所得については、内国法人への配当の有無やそのタイミングの如何にかかわらず、その所得のすべてを持株割合に応じてその投資主である内国法人に合算課税する仕組みに変更された(この変更後の制度を、以下「改正タックスヘイブン対策税制」という。)

本制度の導入や間接税額控除制度の廃止等は、我が国国際租税制度に大きな影響を及ぼし、様々な問題が指摘されている。本稿は、海外の配当免税制度やその導入議論にも触れながら主に次の3つの問題について論じている。

1 本制度の下での改正タックスヘイブン対策税制の意義

タックスヘイブン対策税制の意義を「軽課税国に外国子会社を設立し、ここに所得を留保して我が国の税負担を不当に軽減する租税回避を規制するもの」と捉えた場合、内国法人に帰属すべき利益を軽課税国の子会社に留保したとしても、内国法人に対する配当という行為があれば、結果としてその課税に服することとなる。しかし、これを配当せずに留保すると、この配当に対する課税を逃れることになるため、これを規制するための制度がタックスヘイブン対策税制であると言い換えることができる。

ここで、本制度の導入に伴い特定外国子会社等からの受取配当についても非課税となったことから、改正タックスヘイブン対策税制は租税回避防止策として、既にその存在意義を有さなくなったのではないかという問題が生じ得る。

この点については、改正タックスヘイブン対策税制は、内国法人が自己の所得と認識すべきものを特定外国子会社等に移転することを防止するための制度と捉えるのが適当であって、その存在意義は十分にあることを論じている。

2 改正タックスヘイブン対策税制における租税条約適合性

第2は、改正タックスヘイブン対策税制が租税条約に定める事業所得条項(7条1項)に違反していないかという問題である。

その前提として、グラクソ事件(最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁)がある。同事件では、課税庁がタックスヘイブン対策税制に基づき、内国法人のシンガポール子会社の所得について合算課税したことに対し、同税制は我が国にPE(恒久的施設)を有さない同子会社に対して課税するものと同視できるから、日星租税条約に規定する「PEなくして課税なし」の原則に違反する可能性があるという点が争いとなった。最高裁は、「我が国のタックスヘイブン対策税制は、…日星租税条約の趣旨目的に違反するようなものということもできない。」と判示し、この問題については一定の解決をみた。

しかし、この当時のタックスヘイブン対策税制の合算課税の対象は、特定外国子会社等がその内国法人に配当しない留保所得であったのに対し、改正タックスヘイブン対策税制のそれは特定外国子会社等の留保所得ではなく、当該特定外国子会社等の稼得した所得そのもの(すべて)と変更された。このため、従来以上にPEを有さない特定外国子会社等の所得に直接課税する仕組みと捉えられる可能性が高くなったとともに、制度の合理性の論拠としてきた「親法人(内国法人)に配当したものとみなして当該親会社に対して課税する制度」との説明は困難となり、条約適合性を再考する必要が生じる。

この点については、最高裁の考え方を踏まえ、本制度導入前のタックスヘイブン対策税制に係る条約適合性の判断要素、解釈方法等について考察し、学説や外国の裁判例、OECDにおける議論をも参考にしつつ、特定外国子会社等の帰属所得の認識方法を論拠に改正タックスヘイブン対策税制が租税条約に抵触しないものであることを論じている。

3 二重課税排除方法の変更と租税条約適合性

第3は、間接税額控除制度の廃止や直接税額控除制度の改正に伴い、我が国の二重課税排除方法に変更が加えられたが、この変更後の制度が租税条約に適合したものとなっているかという問題である。

我が国が締結する租税条約の多くは間接税額控除を行うことを求める規定を持ち、その規定は「居住地国は外国税額控除を認める(shall allow)」と義務的に定めている。

これに対し、我が国ではこれを行う間接税額控除の規定が削除(直接税額控除の規定は改正)され、その結果、租税条約の二重課税排除条項との間に整合性が保たれず、国内法の規定が租税条約の規定に違反しているのではないかという問題が生じ得る。

この点については、規定振りの異なる複数の租税条約(日米、日伯、日蘭、日独)の具体的な規定の文言解釈や二重課税排除条項の趣旨目的について考察しながら、条約の規定は「確認規定」であること等を論拠に、改正後の我が国国際租税制度は租税条約に抵触しないものであることを論じている。