「会計基準の国際的統合化と法人税法の論点」 要 旨 〈馬場 茂樹〉

1.本稿の概要

本稿は、会計基準の国際的統合化に起因して、IFRSが、大きな規範力を有する可能性があることを鑑み、確定決算主義のあり方を論じるものである。

近年は、金融資本市場が国際化し、クロスボーダー取引が行われる時代となった。このような時代の要請によって、財務諸表の国際的な比較可能性の向上、資金調達の容易化(低コスト化)及び金融資本市場の公正化(透明化)などの観点から、高品質な会計基準を作成目的とするIFRSを中心とした会計基準の国際的統合化が推進されている。

会計基準の国際的統合化に伴う我が国への影響は、トライアングル体制(金融商品取引法会計、会社法会計及び税法会計の密接な関係)の崩壊となって具現化している。現下の三者の関係を換言するならば、金融商品取引法会計と会社法会計は比較的密接であるものの、税法会計は独自性を強調していると表現できる。ただし、税法会計と金融商品取引法会計及び会社法会計との間には、架け橋として確定決算主義が存在することも事実である。こうした背景の経緯に基づき、確定決算主義のあり方が問われるようになっている。

そこで、本稿では、まず、三者の変遷を整理したのち、それぞれにおいてIFRSの解釈を考察した。次に、法人税法の本質を整理し、その上で、特に重要と考えられる代表例において、会計基準の国際的統合化に対する法人税法の解釈上及び立法上の対応を検討した。これらを通じて、企業利益算定と課税所得算定の関係を明確化し、結論として、会計基準の国際的統合化に対して確定決算主義が合理的なものか否かを論証した。

2.本稿の構成

第1章では、第一に、会計基準の国際的な統合化について、IFRSの意義や問題点、各国及び我が国の動向を整理した。第二に、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」の解釈におけるIFRSの位置づけを考察した。これを踏まえ、IFRS強制適用時における上場企業及び非上場企業への影響を検討した。最後に、小括として、会計基準の国際的統合化における金融商品取引法の対応を論証した。

第2章では、第一に、商法(会社法)改正の変遷、会社法(商法)と金融商品取引法(証券取引法)及び中小企業のための会計指針との関係を整理した。第二に、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」及び「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の会計基準」の解釈におけるIFRSの位置づけを考察した。第三に、これを踏まえ、IFRS適用時における上場企業及び非上場企業への影響を検討した。最後に、小括として、会計基準の国際的統合化における会社法の対応を論証した。

第3章は、第4章の論証にあたり重要となる法人税法の本質を明示することを主たる目的とした。第一に、トライアングル体制を考察した。第二に、法人税法上の課税所得の決定要素となる課税所得の計算構造、所得概念、租税政策原理及び課税根拠を整理した。この過程で、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の解釈におけるIFRSの位置づけを考察した。第三に、確定決算主義について、概要、形式的意義、実質的意義及び機能を考察した。

第4章では、第一に、第3章までの論証によって明らかにした会計基準の国際的統合化に起因する3つの会計制度における論点を整理し、法人税法が、解釈上及び立法上如何に対応するかについて問題提起した。第二に、当該問題提起を受けた法人税法の解釈上の対応を検討した。具体的には、収益の計上時期、陳腐化償却及び資産の評価損の計上及び価額(時価)の評価について、IFRS、日本基準及び法人税法上の規定を整理し、事例ごとに視点を変えながら考察を進めた。第三に、当該問題提起を受けた法人税法の立法上の対応について、棚卸資産、請負契約及び長期工事契約の改正を例示して検討した。第四に、近年の確定決算主義に対する批判を示し、これに反証した。最後に、総括として、会計基準の国際的統合化によって、確定決算主義が否定されるものではないと結論付けた。

なお、本稿は、主に2011年3月末までの法令等に基づき論証している。また、本稿の意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する法人および組織の見解を代表するものではない。