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家族2021年03月14日 インタビュー「許さぬ!性暴力―私の視点」 提供:共同通信社

 愛知県で起きた実の娘に対する性的暴行事件で、名古屋高裁が父親に逆転有罪判決を言い渡してから12日で1年が経過。一審判決が「被害女性が抵抗できない状態だったとは認められない」として無罪とした経緯があり、司法の認識遅れや法制度の不備を指摘する声が相次いだ。性犯罪や性暴力の対策強化に向けた動きが強まる今、識者に課題や支援の在り方を聞く。

不同意性交罪の早期創設を 性暴力被害者らでつくる一般社団法人「Spring」代表理事の山本潤さん 

 性暴力に対する社会の理解や取り組みは前に進んではいるが、動き始めるのが遅すぎたため課題が山積みだ。実の娘に性的暴行を繰り返した父親が準強制性交罪に問われた愛知の事件。一審の無罪判決は法律の不備が露呈したものだ。同意のない性交を犯罪とする「不同意性交等罪」の一刻も早い創設が必要だと、私は考える。
 私は13歳から20歳まで父親の性暴力を受けた。名古屋地裁岡崎支部の無罪判決を聞いた時、怒りや悲しみをこらえる自分がいた。性的虐待があったと認めながら、抵抗することが著しく難しい「抗拒不能」ではなかったとした判決は理解できるものではなかったが、感情を表に出すと堪えられない気がした。
 その頃、同様に憤りを感じた人たちが立ち上がったのが「フラワーデモ」。一人一人が抱える怒りや悲しみを分かち合おうとする穏やかな取り組みが全国に広まり、それまで声を上げることのできなかった被害者の声が可視化され、社会を動かす大きな波となった。
 昨年3月の名古屋高裁の逆転有罪判決は、抵抗が難しい家庭内の性暴力の実態をよく理解している内容だった。そして政府は6月、性犯罪・性暴力対策を強化する方針を打ち出した。法務省に設置された性犯罪規定を巡る検討会には私も委員として参加し、不同意性交を犯罪とする法改正の必要性を訴えてきた。
 名古屋高裁判決を機に、社会は性暴力を巡る現状を「このままではいけない」と無視できなくなった。この点は前進だが、性暴力被害者への支援はまだまだ足りていない。トラウマで働けなくなる被害者もおり、治療費や生活費などの経済的支援が必要だ。性教育も不十分。何が性暴力かを理解していない「性暴力リテラシー」の欠如した加害者も多いと、被害女性の声を聞く中で感じる。
 新たな課題も出てきた。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、経済的に困窮する女性が増え、デートの見返りに金銭を受け取る「パパ活」の相手から性暴力を受ける女性が増えている。自分を責め、相談できずに悩んでいる人もいるのではないかと懸念する。
 勇気を出して声を上げても逮捕、起訴されないケースが依然として後を絶たないという。強制性交罪や準強制性交罪の暴行・脅迫や抗拒不能といった構成要件は曖昧すぎる。同意のない性交がどういうものであるか明文化する法改正を行い、加害者は相応の処罰を受けるべきだ。これ以上、加害者が罪を償わない文化を根付かせてはいけない。
  ×  ×  ×  
 やまもと・じゅん SANE(性暴力被害者支援看護職)。性被害当事者として講演などの取り組みも続けている。

解釈部分狭める法改正必要 性犯罪被害者支援に取り組む上谷さくら弁護士

 強制性交罪などの構成要件である「暴行・脅迫」に該当するかどうかについては解釈に委ねる部分が大きすぎる。
 性行為自体は犯罪ではないわけで、処罰対象とする要件は明確にする必要がある。ただ暴行・脅迫の要件は2017年の刑法改正以前から「厳格すぎる」とされ、裁判所は解釈で運用してきた歴史がある。そうした中、一審判決と二審判決とで法の解釈が異なり、判断にぶれが出たのが愛知の準強制性交事件だった。
 無罪の判断は控訴審で是正されているから現行法のままでも問題はない、とする声もある。だが一度無罪が出た事実は消えず、被害者には大きな負担がかかった。解釈に委ねる部分を狭め、さらに、こぼれ落ちる被害が出ないよう犯罪類型を増やす法改正が必要だ。
 ただし、単に「同意がなければ犯罪」とする考え方を支持している法律家は少ない。犯罪となる性行為とそうではないものとの線引きが不明確だからだ。「不同意性交罪」を設けている国は、日本とは文化や国民性が異なるし、激しい暴力によるレイプが多いというような事情がある。
 日本では、被害者に重傷を負わせたり、包丁を突き付けたりするような事例は多くない。上下関係を背景に拒絶困難な状況に仕向けるなどの類型が大多数を占めている。そうした実情を踏まえ、性犯罪規定を議論する法務省の検討会などでは「優越的地位に乗じる」「威迫や不意打ちを用いる」などの表現で処罰対象を広げられないか、刑法学者を中心にアイデアを出し合ってきた。
 もう一つ重要なのが未成年者保護の強化だ。愛知の事件の一審判決は、被害者が中学2年の頃から受けていた性的虐待の影響を全く考慮していなかった。継続する虐待が抵抗する気力を奪うという、心理学者や精神科医が示す知見に対する司法の理解が薄かった。
 現行では18歳未満の未成年者に対する親ら「監護者」の性行為は暴行・脅迫なしで監護者性交罪に問えるが、学校や塾の先生、部活の顧問からの性的搾取に関しても何らかの規定を設けるべきだ。性的行為への同意能力があるとみなされる性的同意年齢を現行の13歳からどれぐらい引き上げるかも大きな論点となる。
 法律家は法律の整合性を優先し、被害の実態を置き去りにしてしまいがち。愛知の事件を一つの象徴として立ち上がった性犯罪被害者らの声に真摯(しんし)に耳を傾け、あるべき法改正に向けた発想をしていくべき時だと思う。
  ×  ×  ×  
 かみたに・さくら 毎日新聞記者を経て2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」委員。

愛知の準強制性交事件

 2017年に愛知県内で19歳の実の娘に性的暴行を加えたとして、父親が準強制性交罪で起訴された。名古屋地裁岡崎支部(鵜飼祐充(うかい・ひろみつ)裁判長)は19年3月、中学2年の頃から性的虐待があったとし「性交は意に反するもので、抵抗する意志や意欲を奪われた状態だった」と認める一方、性交を拒めていた時期もあったなどと判断。「抵抗不能な状態だったとは認定できない」として無罪(求刑懲役10年)の判決を言い渡した。20年3月12日、名古屋高裁(堀内満(ほりうち・みつる)裁判長)は、娘は抵抗が著しく困難な「抗拒不能」の状態だったと認めて懲役10年の判決を言い渡し、11月に最高裁で確定した。

(2021/03/14)
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