カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

行政・財政2021年04月19日 特集「つながる 地域共生社会」「行政の縦割り打破」 提供:共同通信社

暮らしやすい町どうつくる 課題山積、市役所の挑戦

 政府が目指す「地域共生社会」への取り組みが4月から本格的に始まった。支え手の減少、老老介護、生活困窮…。少子高齢化と社会構造の変化で多くの課題に直面する中、暮らしやすい地域をどうつくるのか。縦割り打破に挑む市役所の姿を追った。

隙間埋めるおせっかい 「ようこそ滞納」発想転換

 「こんにちは。どうしてる?」。3月、滋賀県野洲市の田園地帯。民生委員・児童委員の山田修二(やまだ・しゅうじ)さん(71)と片岡真由美(かたおか・まゆみ)さん(62)が1人暮らしの女性(84)宅を訪れた。玄関先の鉢植えでは紅色のつぼみが膨らみ「春やなあ」と3人で目を細める。
 新型コロナウイルス感染拡大前は、月1回開かれる地域の集まりに参加していた女性。集まりが休止して家に閉じこもりがちになり、山田さんたちが時折訪ねている。
 「千代紙を持ってきたから遊んで」。片岡さんが色とりどりの紙と一緒に手渡したのは、架空請求詐欺への注意を促すチラシ。「最近はコロナワクチン詐欺とかあるんよ」と声掛けも忘れない。
 こうした見守りが被害を未然に防いだことも。「訪問販売で布団を買ったら息子に『高すぎる』と叱られた」。昨秋、別の80代女性が山田さんに打ち明けた。数十万円と確かに高額だ。警察や市役所に連絡しにくいと話す女性に「代わりに聞いてあげるわ」と山田さん。電話で業者とやりとりし、購入を断った。
 市はトラブルの情報や注意喚起のチラシなどを、市内6地区の民生委員・児童委員に小まめに提供。市民部の生水裕美(しょうず・ひろみ)次長(59)は「細かな目配りは私たちではできない。地域の力を全面的にバックアップするのが行政の役割だ」と強調する。

SOS

 野洲市の特徴は、行政機関にありがちな“縦割り”をなくす機動力だ。象徴的なのは、2016年施行の「ようこそ滞納いただきました条例(野洲市債権管理条例)」。
 税金滞納を生活困窮のSOSと読み替え、総合的に支援する態勢を構築した。本来、税情報は機密性が高く、市役所内でも共有の壁は高いが「本当に困っている人は精神的に追い込まれて『困っている』とさえ言えない」と判断した。
 中心を担うのが、生水さんが籍を置く市民生活相談課。複合的な問題の解決に向けた総合調整役だ。市役所のどこに相談が来ても、職員が同課と話し合って庁舎内を駆け回り、支援策を探る。

網の目

 「コロナ休校の影響で娘が不登校気味になって、パートのシフトに入れず生活が苦しい」。昨年8月、子育て家庭支援課の荒川千佳(あらかわ・ちか)さんを訪ねたのは、小学生の娘を1人で育てる40代女性。コロナで減収した人向けの住居確保給付金を申請するため、離婚後に職探しなどを支えてくれた荒川さんを再び頼った。
 女性は転職も考えたが、コロナ禍で求人が減って見つからない。給付金が一時しのぎにしかならないのは明らかだ。荒川さんはまず、申請窓口の市民生活相談課へ女性を連れて行き、手続きをサポート。続けて、娘にどういった対応ができるのか、別棟の教育委員会にも案内。市役所内にあるハローワークの相談予約も取り付けた。
 「担当課が違うというのは、市民には関係ないですから」と荒川さん。女性は「自分であちこち回って一から説明するのは大変。(荒川さんは)状況を分かってくれているから安心感がある」と話した。
 「職員が自分の担当業務しか分からないと、制度の隙間に陥って支援を受けられない人を生んでしまう」と生水さん。
 では、どう埋めるのか。「おせっかいが一番。行政も地域も皆が少しだけおせっかいを焼く。その積み重ねが網の目になり、誰かを支える」。それが地域共生の姿だと思い描いている。

消費相談から生活支援へ 「カモリスト」活用も

 野洲市役所で組織の縦割りを打破したのは、市民部の生水裕美(しょうず・ひろみ)次長(59)の突破力だ。「SOSをどうキャッチするか」。日々アンテナを張り、役所の内外を細やかにつなぐ。問題意識の原点は消費者行政にあるという。
 「これ、いくらと思います? 100万円? 200万円?」
 3月の週末、JR野洲駅前で開かれた出前講座。生水さんの明るい声が響く。手に掲げるのは、巨額詐欺事件を起こした「ジャパンライフ」が扱った磁気健康器具の実物。ショートメッセージサービス(SMS)に送られたリンク先から偽サイトに誘導される詐欺被害なども紹介した。
 参加したのは、市内の新興住宅地を担当する民生委員・児童委員。地域の見守りでの注意点を知ってもらうのが狙いだ。
 生水さんは1999年、非常勤の消費生活相談員として働き始め、2008年に正職員に。相談者の悩みは借金や消費トラブルに限らず、地域からの孤立や介護なども複雑に絡み合う。「現場で起きていることと法律や制度が結び付いてない」と実感。相談者の生活全体を見る必要があると考えた。
 市は17年、悪質業者の間で出回る顧客名簿、通称「カモリスト」を活用した見守りを全国で初めて開始した。消費者庁が押収した名簿の市関係分を提供してもらい、警察や福祉関係者らと協力して、名簿に載っている人も含めて高齢者を地域で見守る。情報管理は難題だが「重点的な見守りができれば二次被害を防げる」と、関係機関の垣根を越えたという。
 政府は4月施行の改正社会福祉法に基づき、複合的な困り事に一括対応する新事業に交付金を出す。野洲市も準備事業を開始。生水さんは「使えるものは何でも使いたい」と歓迎する一方、「お金があっても孤立している人はいる。新事業でも抜け落ちる人がいるかもしれない」と早くも注意を向けた。

首相の理念は「まず自助」 厳しい財政、丸投げ懸念も

 菅義偉首相は政策の基本に「自助・共助・公助」を掲げ、「まずは自助」と強調している。住民やNPOなどが支え合う地域共生社会づくりを政府が進める背景には、社会保障財政の厳しさもあり、野党からは「国が責任を放棄して住民に丸投げしようとするものだ」との懸念も出ている。
 首相は昨年9月の就任会見で「まずは自分で。そして家族、地域で助け合う。その上で政府がセーフティーネットで守る」との優先順位を示し、波紋を広げた。共産党の志位和夫委員長は国会質問で「政治の仕事は公助、公の責任を果たすことだ」と批判。立憲民主党の枝野幸男代表も「追い込まれても公的な支援に抵抗感を抱き、頼ることをためらう風潮が広がる」と警鐘を鳴らした。
 東京都立大の室田信一(むろた・しんいち)准教授(地域福祉)は「住民自身が自助や共助を目指すのは健全だが、政府が政策的に誘導することには違和感がある」とし、住民の選択に委ねるべきだと指摘。
 地域共生社会については「今の時代に必要な仕組みだが、国の財政支援だけに頼ると持続性が不安定になる。新事業は取り組み姿勢によって地域格差が広がる恐れがあり、公助で住民の生活を支えることが不可欠だ」と話している。

滋賀県野洲市

 琵琶湖の南岸に接し、人口は約5万人。基幹産業は農業。京セラや村田製作所などの大規模な工場もある。大阪市から約65キロ、京都市からも約25キロのため、京阪神へ通勤・通学する人も多い。県立野洲高校はサッカーの強豪として知られる。特産品の植物タデを使ったビールやうどんをPRしている。

(2021/04/19)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

ここから先は新日本法規WEB会員の方のみ
ご覧いただけます。

会員登録していただくと、会員限定記事の閲覧のほか、様々なサービスをご利用いただけます。登録は簡単・無料です。是非ご利用ください。

ログイン新規会員登録

関連カテゴリから探す

  • bnr-購読者専用ダウンロードサービス
  • 法苑
  • 裁判官検索