カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

衛生・食品2021年04月26日 特集「生肉集団食中毒10年」 提供:共同通信社

 生肉メニューのユッケなどを食べた客約180人が食中毒を発症し5人が死亡、多くの患者から腸管出血性大腸菌O111が検出された「焼肉酒家(やきにくざかや)えびす」の集団食中毒事件は、2011年4月の発覚から27日で10年。運営会社元社長らは起訴されず捜査は終了し、被害者への賠償が完了するめども立たない中、遺族の苦悩は続く。

「誰も謝りにこない」 やり場ない思い今も

 「人の命が失われたのに誰も罰せられない」。焼肉酒家(やきにくざかや)えびすの生肉集団食中毒事件で妻と義母を亡くした富山県砺波市の会社員小西政弘(こにし・まさひろ)さん(58)は、運営会社元社長らの責任を追及し続けたが、ついに司法が裁くことはなかった。「誰も謝りにこず、責任も負わない」。やり場のない思いを今も抱える。
 大型連休前、一家だんらんのひとときだった。4月23日、家族5人で同市の砺波店を訪問、薦められたユッケを食べた。妻由佳(ゆか)さん(43)と義母美智子(みちこ)さん(70)、長女、長男が発熱や血便などの症状を訴えた。
 由佳さんと美智子さんは入院後すぐに重症化。「妻はかわいい人だった。なのに肌の色は変わって、全身はパンパン。面影が一切なくなってしまった」。5月、2人は相次ぎ息を引き取った。
 集中治療室で生死の境をさまよった長女と長男は奇跡的に意識を取り戻した。だが脳症と診断された長男は、寝たきり状態で、言葉を話すリハビリを余儀なくされた。現在も通院し、後遺症におびえる日々が続く。
 事件を巡る県の調査などで、店側が肉の表面を削るトリミングなど必要な措置をしていなかったことが判明。小西さんは被害者の先頭に立ち、元社長らを訴えた。飲食業者として、客の命を守るという重い責任を問いたかったからだ。
 だが東京地裁は会社側に賠償を命じただけで、元社長に「重大な過失はない」と判断した。5人が苦しみ亡くなったのに、問われない責任。「これだけ被害が出たのに…」。信じられなかった。控訴したものの棄却され、上告は諦めた。
 刑事責任の追及に望みをかけた。検察審査会に審査を申し立て、支援を求める署名活動に駆け回った。たくさんの人に頭を下げ、家族の被害を懸命に説明。「その度に悲しい経験を思い出し、おかしくなりそうだった」と振り返る。
 検審は不起訴不当を議決したが、地検は1年以上の再捜査の末、再び不起訴に。「検察という組織はなんのためにあるのか。被害者がいくら訴えても、何も変わらないのがこの法治国家の現実だ」と嘆いた。
 元社長から直接の謝罪は今もない。「大切な人を失い、闘い抜き、今はすかすかの抜け殻だ。この10年は、ただ寂しいの一言だった」

被害の賠償、今も道半ば 刑事責任追及の場も失われ

 生肉集団食中毒事件を巡っては、富山地検が「焼肉酒家(やきにくざかや)えびす」の運営会社「フーズ・フォーラス」の元社長らを2度、不起訴処分としたことで刑事責任を追及する機会は失われた。特別清算が決まった同社による賠償金支払いも完了せず、事件から10年の今も被害回復は道半ばだ。
 被害者は最終的に神奈川、富山、石川、福井の4県、計約180人に広がった。富山県警などは5人の死者が出た事態を重くみて業務上過失致死傷容疑で捜査。国の衛生基準を順守しなかったフーズ社と卸業者の過失を問えるかどうかが焦点だった。
 しかし、基準を守っても食中毒を防げなかった可能性が浮上するなど捜査は難航。遺族は強い処罰感情を持っていたが、地検が最終的に起訴を断念した。西岡剛(にしおか・たけし)次席検事は「当時、飲食業界でここまで危険な大腸菌の存在は知られておらず、会社側に結果回避義務を課すことができなかった」と苦渋の表情で記者に説明した。
 賠償金の支払いも終わっていない。関係者によると、フーズ社の負債総額は十数億円規模で、うち同社が認めた被害者への賠償金額は4億円超(2017年時点)。食中毒の保険金などを原資として被害者に一部を支払ってきたが、資金に余力はないとみられる。
 被害者への支払いを優先的に進めるためには、金融機関など他の債権者が、債権放棄や減額に同意する協定を結ぶことが必要となる。だが関係者は「いまだに協定の案すら出ていない」と内情を打ち明ける。
 債権者に公平に財産を分ける破産手続きへの移行も一部で取り沙汰されるが、全額支払いの可能性が消えることから被害者の反発は必至だ。
 「会社としてできる限りのことをする」。発覚当時こう誓った元社長。遺族側代理人の上谷(かみたに)さくら弁護士は「本人は表舞台に出てこない。会社代理人から被害者や私たちへの報告、説明も途絶えた。誠実にはほど遠い」と話した。

規制強化進んだ生肉 根強いニーズ、店「複雑」

 生肉集団食中毒事件をきっかけに、国はユッケなどに使われる生食用牛肉の規制を強化、ユッケより食中毒の発生件数が多いとして牛の生レバーを提供禁止とした。一方、生肉を好む客のニーズは根強く、店側は「複雑」と対応に神経を使う。
 事件を受け厚生労働省は、生食用牛肉の表面加熱殺菌や、肉の表面を削るトリミングを罰則付きで義務化した。
 焼き肉店でユッケは人気メニューの一つだったが、富山県内のある飲食店関係者は「工場で加工することが必要になった分、仕入れの価格が上がってしまい、ユッケの取り扱いをやめる店舗が増えた」と振り返る。
 代用品として豚肉を扱う店が増えると、豚の生レバーや生肉の提供なども禁じられた。
 ただ、生肉を求める客は今も少なくない。生レバーを提供した店が立件されるケースも各地で相次ぐ。
 「リスクはゼロではないので不安」。関西を中心に展開する焼き肉チェーンの店長は、基準を守れば提供できる牛の生肉を扱うが、本音では提供に慎重で、客に加熱やトングの使い分けの徹底を呼び掛けている。「客のニーズが高いので出さざるを得ないが複雑だ」と吐露した。

生肉集団食中毒事件

 2011年4月、「焼肉酒家(やきにくざかや)えびす」の神奈川、富山、石川、福井4県の6店舗でユッケなどを食べた客約180人が食中毒を発症、5人が死亡した。患者からは腸管出血性大腸菌O111が検出された。富山県警などが業務上過失致死傷容疑で捜査。富山地検は嫌疑不十分で不起訴処分とした。富山検察審査会の不起訴不当議決を受け地検は再捜査したが、再び不起訴に。衛生基準を満たさない食用生肉の流通が被害につながったと指摘され、国が牛肉や豚肉などの生食規制を強化するきっかけになった。

生肉集団食中毒事件の経過 

 2011年4月27日 富山県の発表で焼肉酒家えびすの集団食中毒発覚
 28日 福井市の店舗で食事した男児(6)が死亡
 29日 富山県の砺波店で食事した男児(6)が死亡
 5月2日 富山県警が捜査本部設置。その後、警視庁などが加わり合同捜査に
 4日 砺波店で食事した小西由佳(こにし・ゆか)さん(43)が死亡
 5日 由佳さんの母美智子(みちこ)さん(70)も死亡
 7月8日 運営会社フーズ・フォーラスが解散。清算手続き開始
 10月22日 砺波店で食事し入院中だった中2男子(14)が死亡
 14年10月17日 遺族らがフーズ社などに損害賠償を求め東京地裁に提訴
 16年2月15日 合同捜査本部が捜査結果を富山地検に送付
 5月19日 地検が元社長らを嫌疑不十分で不起訴処分
 18年3月13日 東京地裁がフーズ社に約1億6900万円の賠償命じる判決。元社長に重大な過失はなかったと判断
 12月3日 富山在住の遺族らが処分を不服として富山検察審査会に審査申し立て
 19年6月20日 検審が不起訴処分は不当と議決
 20年10月7日 地検が元社長らを再び不起訴に。捜査終結

(2021/04/26)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

ここから先は新日本法規WEB会員の方のみ
ご覧いただけます。

会員登録していただくと、会員限定記事の閲覧のほか、様々なサービスをご利用いただけます。登録は簡単・無料です。是非ご利用ください。

ログイン新規会員登録

関連カテゴリから探す

  • bnr-購読者専用ダウンロードサービス
  • 法苑
  • 裁判官検索