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厚生・労働2021年06月06日 障害年金打ち切り、判決に隠れた「矛盾」 1型糖尿病、16年だけなぜ? 提供:共同通信社

 血糖値を下げるインスリンを体内でつくれない「1型糖尿病」の患者9人が、障害基礎年金を打ち切られたとして、国に支給再開を求めた訴訟の判決が5月17日、大阪地裁で言い渡された。患者1人の打ち切り処分を違法とする一方、残り8人については請求を退ける判決だった。
 この裁判を巡ってはいくつもの疑問が浮かぶ。1型糖尿病患者の年金打ち切り訴訟は大阪以外では聞かれない。なぜ大阪だけなのか。そもそも1型糖尿病で障害年金は受け取れるのか、受け取れないのか。疑問の裏には、障害年金を巡るさまざまな矛盾が隠されている。(共同通信=市川亨)

16年に一斉停止

 判決などによると、原告9人は29~52歳の男女。1人は奈良県在住だが、残り8人はいずれも大阪府内在住時代に年金の支給決定を受けた。そして、大阪から他県に引っ越して支給を打ち切られた1人を除けば、打ち切り時期は全員2016年という共通点がある。
 この年は、原告らを含め近畿地方の1型糖尿病患者会「近畿つぼみの会」30人余りが年金の更新手続きに伴って、一斉に支給を打ち切られていた。
 16年に何があったのか。実は、この年の6月に糖尿病に関する障害年金の判定基準が変更されていた。厚生労働省や日本年金機構は「医学的、総合的に判断した結果」としか説明しないが、実際には基準変更が大きく影響したとみられる。

更新時期の違い

 では、16年の後も近畿の1型糖尿病患者は年金を打ち切られたのか。答えはノーだ。基本的には支給が継続された。なぜかというと、年金機構が17年4月、それまで都道府県ごとだった障害年金の審査業務を東京に一元化したことが関係している。
 一元化に伴い、従来とは異なる医師が審査に当たったため、判定結果が変わり、糖尿病に限らず障害年金の打ち切り予告を受け取るケースが全国で続出。国会でも取り上げられる問題となり、厚労省は「年金機構の体制が一斉に変更されたという特別な事情による」として、障害の状態が変わっていなければ支給を続ける救済措置を取った。
 つまり、原告の近畿の1型糖尿病患者たちは、更新時期が「たまたま16年だったから」打ち切られたのだと言える。障害年金では、状態に応じて1~5年ごとに更新手続きが必要な場合があるが、前後に1年でもずれていれば、受給を続けられていた可能性が高い。このため、裁判でも原告らは「更新時期によって不公平が生じている」と訴えていた。

近畿だけ

 一方、判定基準が16年に変更されたことが原因なら、他の地域でも打ち切りとなった1型糖尿病患者はいるのではないか。ところが、少なくともそうした例は報告されていない。
 他の地域では支給が続けられているのかというと、それも違う。大阪など近畿以外では、1型糖尿病患者のほとんどは、そもそも障害基礎年金を受給できていなかったからだ。
 なぜ近畿だけは認められていたのか。関係者の話を総合すると、大阪を中心に近畿では障害者運動が歴史的に活発だったため、闘争の中でさまざまな権利を勝ち取ってきた。1型糖尿病患者への障害基礎年金もその一つだったと思われる。
 5月17日の判決後、記者会見に臨んだ原告ら。仲間同士で明暗が分かれ、敗訴した8人の1人は「1人だけでも助かってよかったが、本人はとてもつらい気持ちだ。むごいことをする」と判決を批判。1人だけ勝訴となった原告も「納得いかない。うれしいより悔しい。みんなで頑張ってきたのに…」と涙で言葉を詰まらせた。
 弁護団は「不当な判決」と声明を発表。敗訴した8人は控訴し、勝訴の1人は国側が控訴しなかったため、判決が確定した。

仕組みの問題

 1型糖尿病患者は国内に10万人超いるとみられる。生活習慣とは関係なく、未成年で発症する人が多いが、成人期も一定数いる。
 近畿以外でも、障害年金を受け取っている患者は少数ながらいる。ただ、大阪の原告らが受け取っていたのが「障害基礎年金2級」(年間約78万円)だったのに対し、他の地域の受給者はほとんどが「障害厚生年金3級」(年間約59万円が最低保障額)で、種類が異なる。
 障害年金は制度が複雑だ。発症時期が20歳前や国民年金加入中の場合は「障害基礎年金」が適用される。会社勤めなどで厚生年金に加入中だった場合は「障害厚生年金」の対象となる。
 重い順に1級から3級まで等級があるが、障害基礎年金は3級と判定されると、支給額はゼロ。つまり3級は障害厚生年金の場合しか支給されない。ところが、糖尿病に関する障害年金の判定基準は3級が基本とされており、1、2級については具体的に定められていない。
 そのため、未成年で発症した患者は障害基礎年金が適用され、ほとんどの人は3級と判定されて受け取れないという状況になっている。

2級が潜在も

 ただ、大阪地裁の判決は原告らの症状や生活の状態を詳しく検討した上で、1人は2級に該当すると認めた。未成年期に発症した1型糖尿病患者は「どうせ年金は受け取れない」と思って、申請していないケースが多いとみられる。2級相当なのに年金を受け取っていない人が潜在化している可能性があり、患者からは「どの程度の症状なら2級と認められるのか、国は基準を明確に定めてほしい」との声が上がっている。
 これに対し厚労省の担当者は、2級の年金を受給できる患者が潜在化している可能性を認めながらも、「現在の基準は専門家会合で医学的な見地から定められており、妥当なものだ。見直す考えはない」とコメントした。

取材を終えて

 今回の裁判の原告たちは、障害年金制度の矛盾と、それを取り繕おうと場当たり的な対応を重ねてきた国に翻弄された被害者とも言える。1型糖尿病患者は医療費で月に1万~3万円程度の自己負担が生じるが、成人患者に対しては医療費助成など経済的な支援は一切ない。不摂生で病気になったわけでもないのに、自己責任で負担を強いられている形だ。障害年金の不合理な仕組みと合わせ、厚労省は真正面から課題に向き合ってほしい。

(2021/06/06)
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