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訴訟・登記2022年05月26日 在外邦人投票不可は違憲 裁判官の国民審査訴訟 不作為認定、賠償命令 最高裁大法廷、法改正へ 提供:共同通信社

 海外在住の日本人有権者が最高裁裁判官の国民審査に投票できないことの違憲性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人(おおたに・なおと)長官)は25日、在外邦人の投票を認めていない現行の国民審査法は、公務員を選任・罷免する権利を保障した憲法15条や国民審査を規定した79条に違反し、「違憲」との初判断を示した。裁判官15人全員一致の意見。政府は法改正する方針だ。
 法令に対する最高裁の違憲判断は、女性の再婚禁止期間を定めた民法の規定を巡る2015年の判決以来で、11例目。
 大法廷は判決理由で「憲法は選挙権と同様に審査権を国民の権利として保障しており、制限は原則として許されない」と指摘し、立法措置を取ることが著しく困難だったとはいえないとした。17年の国民審査までに立法措置が不可欠だったのに怠ったと国会の不作為を認め、1人当たり5千円の賠償を国に命じた。
 原告5人のうち、現在唯一海外に住むブラジル在住の平野司(ひらの・つかさ)さん(43)については、次回審査で投票できなければ違法とも認めた。
 木原誠二官房副長官は25日の記者会見で「厳粛に受け止める。立法的な手当ては必要だろう」と語った。関連法案の国会への提出時期については「判決の内容を十分精査する必要がある」として明言を避けた。
 外務省によると、昨年10月時点の在外邦人は約134万人で、うち約100万人が18歳以上とされる。総務省によると、昨年10月の衆院選では在外選挙人名簿に登録された約9万6千人のうち、約1万9千人が比例代表と小選挙区で投票した。
 衆院選と同時実施の国民審査には、在外邦人に関する規定がなく、投票は認められていない。平野さんや映画監督の想田和弘(そうだ・かずひろ)さん(51)ら原告5人は、17年の国民審査の際、海外在住を理由に審査用紙が配られず、投票できなかった。
 今回の訴訟では一、二審も在外邦人が国民審査で投票できないのを違憲と判断した。一審東京地裁は、国会の立法不作為を認め、国に賠償命令。二審東京高裁は、海外在住を理由に次回投票させないことを違法だと認めたが、賠償請求は退けた。

判決骨子

 一、海外在住の有権者の投票を全く認めていない現行の最高裁裁判官国民審査法は憲法違反に当たる
 一、憲法は選挙権と同様に国民審査権を平等に保障しており、制限は原則として許されない
 一、海外の有権者の権利行使を可能にする立法措置を取らないことにやむを得ない事情はない
 一、遅くとも2017年の国民審査までには立法措置が不可欠だったのに、国が怠ったのは違法で、損害賠償責任を負う

判決要旨

 海外在住有権者の最高裁裁判官の国民審査権を巡る25日の最高裁大法廷判決の要旨は次の通り。
 【現行法の違憲性】
 憲法は国民主権を定め、公務員の選定や罷免は国民の権利だとした上で、最高裁裁判官の国民審査を規定している。憲法は一切の法律や命令などの憲法適合性を決定する終審裁判所としての最高裁の地位や権限を考慮してこの制度を設け、国民の権利として国民審査権を保障している。審査権は国民主権の原理に基づく主権者の権限として、選挙権と同様の性質を持ち、国民に審査権行使の機会を平等に保障していると解するのが相当だ。
 審査権と権利行使の制限は原則として許されず、制限にやむを得ないと認められる事情がなければ憲法に違反すると言わざるを得ない。
 在外有権者は現行法上、審査権を行使することができないが、憲法によって審査権を保障されていることに変わりはない。最高裁裁判官国民審査法が定める投票用紙の作製や投票方式に関する取り扱いを前提にすると、在外国民審査制度の創設については運用上の技術的な困難があることを否定できないが、選挙権については既に投票の制度が設けられ、複数回の選挙が実施されている。
 技術的困難の回避のために現行と違う方式を採用する余地がないとは断じがたい。国民審査の公正を確保しつつ、在外有権者の審査権行使を可能にするための立法措置を取ることが事実上不可能か困難とは言えず、権利行使を可能にする対応が何ら取られていないことにやむを得ない事情があるとは到底言えない。現行法が在外有権者に審査権行使を全く認めていないのは憲法違反だ。
 【次回の国民審査で投票できない違法性】
 原告は次回の国民審査で審査権を行使させないのが違法との確認を求め、訴えの適法性が争われている。国民審査法が在外有権者に審査権の行使を全く認めていないことによって審査権を行使できない事態が生じる場合、個々の在外有権者が持つ法的地位に現実の危険が生じているといえる。
 審査権は、具体的な国民審査の機会に行使できなければ意味がない。加えて、国が審査権を行使させないことが違法であることを確認する判決が確定した際は、国会がその判断を尊重するものと考えられる。
 従って、現在も海外在住の原告1人に関する違法確認の訴えは適法だ。そして国民審査法が在外有権者の審査権行使を認めないのは違憲であり、請求を認めるべきだ。
 【国の賠償責任】
 国会は選挙に関する在外投票の制度創設などを通じ、在外国民審査権に関する憲法上の問題を検討する契機もあったのに、長く所要の立法措置を取らなかった。遅くとも2017年の国民審査時点では立法措置を取る必要性が明白だったのに、正当な理由なく怠ったのは国家賠償法上の違法があったというべきだ。原告らの損害賠償額につき、1人当たり5千円を相当とする。

対応先送り、厳しく指弾 在外国民審査違憲判決

 【解説】在外邦人が最高裁裁判官の国民審査に全く投票できないことを「違憲」とした25日の最高裁大法廷判決は、審査権を「憲法に明記された国民の権利だ」と明快に位置付け、正当な理由なく権利の制限を続けてきた国会の怠慢を厳しく指弾した。
 最高裁は、裁判で最終的な結論を下す司法の頂点で、その判断は国民の暮らしをも変える。だが最高裁裁判官の指名・任命権は内閣が持ち、人選のプロセスは公表されていない。国民審査は「憲法の番人」と位置付けられる最高裁裁判官がその職責にふさわしいか、有権者が直接チェックできる唯一の機会だ。
 国はこれまで、国民審査を議会制民主主義の下で不可欠な制度ではないとし、「投票用紙などの回収に時間がかかる」との技術的な問題を理由に、在外邦人の投票を全く認めてこなかった。憲法で保障された国民の権利をないがしろにしたと言わざるを得ず、違憲判断は当然の流れだった。
 通信技術が発達し、国政選挙の在外投票が繰り返し実施されるなど、国民審査の制度創設時から社会状況は大きく変化している。「思考停止」とも言える理屈を重ね、対応を先送りし続けた国の責任は重い。

「違憲」判断は11例目 尊属殺人や婚外子相続

 最高裁は法律や命令などが憲法に違反しないかどうかを最終的に判断する「終審裁判所」と位置付けられており、新たな憲法判断を行う場合は、長官と14人の裁判官が参加する大法廷で審理する。最高裁が法令自体を憲法違反と判断したケースは、今回で11例目だ。
 最初の判断は1973年。両親らを殺害する刑法の「尊属殺人」罪について、法定刑を死刑か無期懲役とするのは差別的な取り扱いだとした。
 75年には薬局の新規開設を制限した旧薬事法を職業選択の自由に違反すると指摘。76年と85年には衆院選の「1票の格差」を違憲と断じた。さらに87年、共有林の分割を制限した森林法の規定を違憲とした。
 90年代に違憲判断はなく、2002年に郵便物紛失に対する賠償を巡り郵便法の規定を違憲と判断。05年には、海外在住の日本人が衆院選小選挙区などで投票できないのは、選挙権の保障に違反するとした。
 08年と13年には、結婚していない男女間に生まれた子どもの国籍取得や相続の取り扱いを巡り、憲法14条「法の下の平等」に反すると判断した。
 直近は15年で、女性だけに6カ月の再婚禁止を定めた民法の規定を「禁止期間が100日を超える部分は違憲だ」とした。

大切な権利「早く投票を」 ブラジル在住の原告男性

 「海外に住んでいるという理由だけで、大切な権利が認められないのは悲しい」。最高裁裁判官の国民審査訴訟の原告でブラジルに住む平野司(ひらの・つかさ)さん(43)は疎外感を募らせてきた。在外邦人に国民審査を認めないのは違憲とした25日の最高裁判決を受け「今後なるべく早い段階で、実際の投票が実現することを願う」との思いを抱く。
 平野さんは幼児期に父親の転勤でブラジルへ渡り、小学生の時に帰国。大学卒業後は大手電機メーカーに就職した。
 再びブラジルに赴任していた父に会うため、現地をたびたび訪問。新興5カ国(BRICS)の一翼として経済発展にまい進する光景に魅せられ、20代半ばでブラジルのコンサルタント会社に転職した。その後現地で日系企業向けのコンサル会社を立ち上げ、2010年に永住権を取得する一方、日本国籍を維持し、在外選挙人登録をした。
 国民審査に関心を持つきっかけは17年の衆院選だ。一時帰国していた平野さんは、滞在先近くの投票所へ向かったが「ここではできません」と断られた。仕方なく役所まで足を運ぶと、小選挙区と比例代表の投票用紙を渡されたが、国民審査の用紙はもらえなかった。
 日本人なのに、帰国した時さえ国民審査ができない―。ブラジルに戻ると、問題意識を持つ日本人の友人に「裁判を起こそう」と誘われた。それを機に知れば知るほど「民主主義にとって意義のある権利だ」と感じた。
 原告5人のうち4人は新型コロナウイルス禍の影響などで既に日本に帰国。平野さんはただ一人、在外邦人の立場で闘ってきたが、国側の反論には落胆した。「民主主義に不可欠の権利とは言えない」「投票用紙の配備が間に合わない」との主張に、平野さんは「やらない言い訳ばかりで、課題を克服する前向きな気持ちを感じなかった」。
 ブラジルでは既に国政選挙で電子投票制度を導入している。日本で即座に新たな仕組みを採用するのは難しいかもしれないが、平野さんは「日本の諸制度に合った形で、さまざまな方法を取り入れる柔軟な姿勢を持ってほしい」と望んでいる。

「完全勝訴」喜びあふれる 原告、迅速な立法措置要望

 「爽快です。完全勝訴だ」。最高裁裁判官の国民審査訴訟の原告で映画監督の想田和弘(そうだ・かずひろ)さん(51)は、在外邦人の投票を認めないことを「違憲」とした25日の最高裁判決に喜びをあらわにした。在外邦人が国内の有権者と平等に扱われるよう願い「これ以上、権利を侵害しないでほしい。国会はすぐに立法措置を取るべきだ」と訴えた。
 判決後、原告側の代理人らが最高裁前で「違憲判決」と書かれた紙を掲げると、想田さんは何度もガッツポーズ。傍らにいた弁護団長の吉田京子(よしだ・きょうこ)弁護士は、審査される側の裁判官が全員一致で違憲と判断したことに「裁判官が自ら襟を正すことを真剣に考えた結果だ」と高く評価した。
 想田さんは昨年まで約27年間米国に住み、現在は岡山県で生活。1997年に米国で夫婦別姓のまま結婚し、今回の訴訟とは別に、日本でも別姓婚が認められるよう求める訴訟を起こした。
 最高裁は昨年6月、夫婦別姓を認めない民法の規定を大法廷で「合憲」と判断したが、裁判官15人中4人は「違憲」とした。
 25日の判決後、東京都内で記者会見した想田さんは「(夫婦別姓訴訟の結論は)裁判官の構成によっては違憲になっていたかもしれない。国民審査権は裁判官に意思表示をできる大切な権利だ」と感じている。
 米国では連邦最高裁判事の人事を巡り共和党と民主党が激しく争い、世論の関心も高いとされるが、日本では国民審査権への関心は決して高いとは言えない現状がある。
 代理人としても訴訟に関わった原告の谷口太規(たにぐち・もとき)弁護士は「いかに重要な権利かというメッセージを最高裁が発してくれた。今後、国民審査制度が活発になるきっかけにしてほしい」と望んだ。

自民「政府で法改正対応」 反省も、野党は協力姿勢

 与野党は25日、海外の日本人有権者が最高裁裁判官の国民審査に投票できないことを「違憲」とした最高裁判決を受けた対応の検討に入った。自民党の高市早苗政調会長は記者会見で「最高裁で判決が出たからには、政府において必要な法改正の対応をしていただく」と説明した。野党も協力する姿勢を示している。「立法府の怠慢と指摘された」(公明党の山口那津男代表)と、反省の言葉も漏れた。
 高市氏は法改正に向けて「党として必要な協力を行う」と表明。立憲民主党の小川淳也政調会長は「早急に立法府として必要な措置を講じたい。国民審査の投票の利便性を高める取り組みも併せて進めたい」とのコメントを発表した。日本維新の会の藤田文武幹事長は会見で「判決をしっかり受け止め、立法府の議員として責任を果たしていく」と強調した。
 山口氏は「次の衆院選に備えて速やかに立法措置を検討する必要がある。誠意を持って対応する」とのコメントを出した。国民民主党の古川元久国対委員長は会見で「国民審査は国民主権の観点から重要な権利であり、機会を保障することは大事だ。速やかに対応する必要がある」と語った。
 共産党の塩川鉄也国対委員長代理は共同通信の取材に「真摯(しんし)に受け止めて対応することが必要だ。各党で議論する」と話した。

権利重視の「満額」回答 識者談話

 立教大の渋谷秀樹(しぶたに・ひでき)名誉教授(憲法学)の話 国民審査の権利は選挙権に比べ、重要性が一段低く見られてきたが、今回の判決は主権の一部であり、海外の有権者が権利を行使できないのは問題だとはっきり示した。国民の権利を重視し、賠償を含めて原告側の請求に事実上、満額回答しており、総じて良い判決だといえる。国会は判決内容を踏まえ、できる限り速やかに法改正をしてほしい。国は技術的に難しい点があると言うかもしれないが、最優先で解決すべきだ。

波及効果大きい 識者談話

 慶応大の鈴木秀美(すずき・ひでみ)教授(憲法)の話 最高裁裁判官の国民審査について、最高裁自身が判断を示した点が興味深い。有権者が国民審査権を持っているのは、最高裁が違憲審査権を行使できる終審裁判所だから、ということを改めて世に訴える機会にもなった。これまで国民審査は世間一般にあまり意識されてこなかったが、今回の判決による国民への波及効果は大きいのではないか。これを契機に、日本の最高裁もドイツなどのように積極的に違憲審査権を活用し、少数者の声にも耳を傾け国民の充実した暮らしを守ってほしい。

在外邦人の投票権巡る経過

 1998年4月 公選法改正。国政選挙の比例代表に限り海外での投票可能に
 2005年9月 最高裁が比例代表の投票しか認めない公選法の規定を違憲と判断
 07年6月 改正公選法施行。選挙区でも投票可能に
 11年4月 中国在住の男性が、最高裁裁判官の国民審査に投票できないのは違憲だと訴えた訴訟で、東京地裁判決が「合憲性に重大な疑義がある」と指摘
 18年4月 ブラジル在住の男性ら5人が、在外邦人に最高裁裁判官の国民審査が認められないのは違憲と東京地裁に提訴
 19年5月 地裁が違憲と判断して国に賠償命令
 20年6月 東京高裁も違憲と判断。賠償請求は棄却
 22年5月25日 最高裁大法廷が違憲判決

最高裁裁判官の国民審査

 最高裁の裁判官は長官1人と判事14人の計15人。憲法79条に基づき、裁判官任命後初めての衆院選に合わせて、職務にふさわしいかどうか、有権者の投票による審査を受ける。有権者は辞めさせたい裁判官の欄に「×」印を記入し、有効投票の過半数となった裁判官は罷免される。何も書かなければ信任したとみなされ、×印以外の記入は全て無効となる。点字用の投票用紙には裁判官の氏名が印刷されておらず、辞めさせたい人の名前を点字器で記入する。1949年の第1回以降、罷免された裁判官はいない。

(2022/05/26)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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