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相続・遺言2020年01月10日 相続税の申告業務(法苑189号) 執筆者:山本和義

 税理士として相続税の業務に専門特化して取り組んで三〇年以上となります。最初は相続税の申告業務は「単発案件」と考えていました。なぜなら、同じ人は二度死なないからです。(笑)
 しかし、平成に入って以降、パソコンの低価格化と高性能化に合わせ、相続税の申告書作成ソフトの開発普及がめざましく、専門家を計算・検算及び清書の呪縛から解き放ってくれるようになりました。
 さらに、平成四年の相続税法の改正において、相続の開始があったことを知った日の翌日から六か月を経過する日とされていた相続税の申告期限について、順次延長が図られ、平成八年以降は一〇か月以内とされました。
 このように、遺産分割について十分に検討することのできる時間と遺産分割の工夫による相続税負担額についてシミュレーションすることのできるツール(高性能なパソコンと税務ソフト)が普及したことが、相続人の相続税に関する意識を高め、専門家である税理士に対しても高度なサービスを求める傾向が強くなりました。
 税理士は、税理士法第一条において、「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」としています。
 相続税の申告に当たっては、原則すべての相続人から代理権限証書を頂戴していることから、遺産分割についてアドバイスを相続人から求められたときには、その相続人にとって有利な規定も不利な取扱いについてもすべて書面によって説明するように努めています。

 日本の相続税は遺産取得者課税方式であることから、相続発生後においても遺産分割のあり方によって課税関係が異なることになります。
 例えば、取引相場のない株式等は、同族株主が相続によって取得した後の議決権割合が五%以上であるか否かなどで、その株式等を「原則的評価方式」によって評価するのか、「特例的評価方式」によるのか異なり、その評価額は一〇倍以上の開きがあるのも珍しくありません。
 土地の評価においても、「地積規模の大きな宅地」(三大都市圏では五〇〇㎡、三大都市圏以外の地域では一〇〇〇㎡)の地積の判定では、原則として各相続人が取得した土地の地積を基に行うことになります。
 そのため、被相続人の宅地を相続人間で分割して相続することとすると、この地積規模の大きな宅地に定める地積に満たないことになることもあります。
 一方、例えば、北側と南側の二方路線などに面している土地では、北側にだけ面している宅地と南側にだけ面している宅地に分割して取得すると「一方路線の土地」として評価することができて、相続税評価額が下がることも期待できます。

 一般的な家族構成における配偶者と子が相続人である場合には、第二次相続を考慮して、配偶者が相続する財産の種類と金額を工夫すれば、第一次相続及び第二次相続の通算相続税を軽減することも可能です。
 例えば、以下のような設例では、配偶者は第一次相続において相続財産の一割程度を相続することで、第二次相続までの通算相続税を最も軽減することが期待されます。
 また、第一次相続において配偶者が相続する割合が法定相続分以下である場合には、令和二年四月一日以後に開始した相続では、配偶者居住権を配偶者が取得するようにすれば、第一次相続の相続税が軽減されることになります。また、配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅することとされていて、第二次相続において課税関係は生じないこととされています。

 さらに、特例措置(小規模宅地等の特例、各種納税猶予制度、延納・物納など)の適用を受けるためには、誰が何をいつまでに相続しなればならないかなどの要件を満たすために遺産分割は慎重に行う必要があります。
 例えば、物納の選択においては、延納によっても金銭納付が困難な場合に、困難とする金額が限度とされています。そのため、相続財産のうちに現預金などが多額にあると物納は許可されないと誤解されています。
 しかし、相続税の納税方法は相続人ごとに判定することとされているため、相続財産に多額の現預金があっても現預金は配偶者が相続し、不動産や上場株式等を子が相続すると子は金銭納付(延納によっても)が困難となることがあります。
 平成二九年四月一日以降の物納申請分から、上場株式等は物納財産のうち第一順位の財産に改正されたため、昨今は上場株式等の物納が多くなってきました。上場株式等は市場で売却すればすぐに現金化できることから、物納の選択の有利性を理解せずに、売却→現金納付を選択する相続人が少なからずいるようです。相続税評価額よりも値下がりしている上場株式等は物納に充てることで、納付時における時価以上の価額で収納されることになります。また、物納した財産には譲渡税は課されません。
 以上のように、遺産分割の工夫次第で相続税等の負担が大きく異なることが分かります。そうなると、必然的に税理士に対して遺産分割についてアドバイスを求められる事例が多くなります。
 税理士は、相続税の申告に伴う付随的義務の履行として、遺産分割によって誰が何を取得するかで、どのように相続税の課税関係が異なるのか、あらゆる角度から検討して税の有利・不利について、しっかりと説明責任を果たさなければならないと考えます。

 第二次相続を考慮して、配偶者が取得した財産等を、その配偶者の相続開始前までに対策を講ずることで、第二次相続の相続税の負担を軽減することが期待されます。税理士にとって相続税の申告業務で遺産分割について関わることは、第二次相続の相続対策の業務に関わることにもつながり「継続案件」になり得ます。

 相続人との信頼関係が高まれば、第二次相続の相続税の申告業務が、さらには超高齢化社会においては、第三次(子)相続の相続対策の依頼にもつながります。
 相続人間に相続争いがなく、仲良く分割協議のできる事案では、相続発生後においても相続税の負担を軽減することも可能です。円満な相続ができるよう生前対策も怠りなく実行しておきたいものです。

(税理士)

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