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一般2023年11月04日 人権を核にした性教育を 「私の体は私のもの」 「SRHR」 提供:共同通信社

 「私の体は私のもの」「産むか産まないか、どんな性を生きるかは自分で決める」。集まった人たちが次々にマイクを握り発言していく。前には「SRHR」の文字―。
 9月27日夜、東京駅前で開かれた「SRHRスタンディングアクション」。経口中絶薬、堕胎罪、包括的性教育といった単語が飛び交う。聞いているうちに、生きることの根幹に関わる人権の話だと分かってきた。発言者を訪ね改めて聞いた。
 ▽妊産婦
 SRHRとは「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルツ/ライツ」の頭文字をとった呼称で「性と生殖に関する健康と権利」と訳される。2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)にも盛り込まれた。
 主催団体の一つ、国際NGO「ジョイセフ」事務局次長の小野美智代(おの・みちよ)(49)は静岡県富士市の旧家に生まれた。母が祖父に「男の子を産んで」と言われ肩身の狭い思いをしているのを見て育ち、ジェンダーの問題に関心を持つようになった。
 ジョイセフに入ったのは03年。旅行中に知り合ったカンボジアの友人が出産時に亡くなったことがきっかけだ。「調べてみると、カンボジアやアフガニスタンなどの妊産婦死亡率はものすごく高い。衝撃を受けました」
 ▽選択肢
 ジョイセフの設立は1968年。日本の家族計画の経験を生かし、開発途上国の女性への支援から出発した。近年は国内での活動も開始。若者への意識向上プログラムを実施するなど、日本での取り組みの比重が徐々に大きくなっている。
 23年に「性と恋愛」について調査したところ、交際経験のある15~29歳の4割近くが「気が乗らないのに性交渉に応じた経験がある」と回答。避妊の知識も乏しかった。
 小野は十分な性教育を受けていないためだとみる。「00年代に入って、日本の性教育は後退した。中学では性交について教えていません」
 刑法の堕胎罪が116年前から変わらずにあること。緊急避妊薬や経口中絶薬にアクセスしにくいこと。避妊の選択肢が少ないこと…。SRHR関連の問題点を列挙し、力説する。「問題の根っこにあるのは、性や性役割についての偏見や思い込み。ジェンダーバイアスをなくしていきたい」
 ▽不条理
 「性的触れ合いのすべての場面で、誰もがノーと言っていいんです」。10月25日に東京・原宿で開かれた「とうきょう若者ヘルスサポート」(東京都主催)。ゲストのNPO法人「ピルコン」理事長、染矢明日香(そめや・あすか)(37)が参加者に呼びかけた。
 金沢市出身。大学3年のとき、交際中の男子学生との子どもを妊娠した。「まさか自分が望まない妊娠をするとは思っていなかった。人生を左右する出来事なのに、知識がないことに気付いた」
 悩んだ末に中絶。その後、相手とは別れた。「私は複雑な思いを抱え手術を受けたのに、彼は変わらず昨日と同じ生活をしている。不条理を感じました」
 4年生になって「ピルコン」を立ち上げ、仲間と性や妊娠・中絶のことを学んだ。一度は就職したものの、11年に「ピルコン」を再始動、13年にNPO法人化した。
 年に約80回、中高生や大人に向けて包括的性教育の講演をする。「包括的性教育とは人権やジェンダー平等を核にした性教育のこと。自分の体のことは自分で決める権利があると伝えたい」(敬称略、田村文・共同通信編集委員)

差別禁じ孤立させぬ社会を 最高裁決定は「一歩前進」

 性的少数者に関する情報を発信する当事者支援団体「fair」の代表理事、松岡宗嗣(まつおか・そうし)(29)も「SRHRスタンディングアクション」に駆け付けた。「私はゲイの当事者です」と明かした上で、同性婚が認められていない現状やトランスジェンダー差別に触れ「誰にとっても、性と生殖の健康と権利が守られる社会を実現したい」と訴えた。
 名古屋市出身。小学校高学年の頃に自らの性的指向を自覚し「自分は気持ち悪い存在なのか」「たった一人だ」と感じた。中学、高校でも同性愛者とは公表できなかった。「大事なアイデンティティーについて誰にも言えないのはつらかった」
 高校を卒業してすぐの春休み、仲の良い友人たちに打ち明けると「全然いいと思う」と受け入れられ、勇気を得た。東京の大学に進学してからは自然に人に言えるようになった。性的少数者関連の団体に属して啓発活動に加わるようになった。
 「でも周囲に理解者がいないと孤立し、死にたいと思う人も少なくない。私も友人を亡くした。差別を禁止する法律をつくるなど、社会全体を変える必要があると感じて、卒業後に『fair』を設立しました」
 戸籍上の性別を変更する際、生殖能力をなくす手術を求める性同一性障害特例法の規定について、最高裁が10月25日、違憲とする決定を出した。一方、変更後の性別の性器に近い外観を有することを求める規定については判断を示さず、高裁に差し戻した。
 松岡は「性別変更の交換条件として不妊化を強制する規定は人権侵害以外の何ものでもない。今回の決定は一歩前進だが、バックラッシュの激化の懸念もある」と話す。「どんな性の在り方でも安心して暮らせる社会を目指したい」(敬称略)

自分らしく生きるために

 生理や精通など思春期の体の変化を学ぶ。妊娠や出産、中絶、避妊の知識を得る。多様な性の在り方を知る。性暴力の加害・被害を防ぐ…。さまざまな場面で性教育の充実が求められている。
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は性的な知識だけでなく、人権やジェンダー平等まで幅広く学ぶ「包括的性教育」を提唱するが、日本ではまだ広がっていない。
 日本の性教育は2000年代以降、「行き過ぎている」と批判を浴びて後退した。中学の保健体育の学習指導要領には「妊娠の経過は取り扱わない」とする「歯止め規定」があることから、いまの中学校では基本的に性交について教えない。
 このままでいいのか。包括的性教育の普及に取り組む染矢明日香(そめや・あすか)(37)は「性について学ぶことで選択肢が広がり、自分らしく生きられる」と訴える。「ネガティブなことばかりでなく、性的な体験は楽しくて心地よいものだということも伝えたい」(敬称略)

絶望させてはならない

 東京駅前で行われた「SRHRスタンディングアクション」では20人以上が意見を述べた。その多くは、日本の「性と生殖に関する健康と権利」を巡る社会状況や法制度の貧しさを嘆きながらも、それを乗り越えていくための連帯を求めた。
 ある女性は「イギリスに留学していたとき、日本では手に入らない10種類ぐらいの避妊法が無料で手に入り、緊急避妊薬も薬局で買える状況を見た。日本に帰ったらそれが全部できない。絶望した」と話した。現役の大学生は「SRHRは私たちが生まれてから死ぬまで持っている当たり前の権利なのに、守られていない。日本は世界に後れを取っている。包括的性教育の導入を望みます」と訴えた。
 若い人たちを絶望させてはならないと思った。

(2023/11/4)

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