人事労務2023年11月12日 「宿日直」労働時間外に 実態と乖離、勤務医訴え 許可取得病院が急増 「医師の働き方改革」 提供:共同通信社

来春から勤務医の残業時間を規制する「医師の働き方改革」が始まるのを前に、医師の宿直や日直勤務を労働時間に算入しない「宿日直許可」を取る病院が急増している。常態としてほとんど労働することがない勤務を想定した仕組みだが、現場の医師は「当直中も診察に追われ、十分休息を取れないことも多い」と実態との乖離(かいり)を訴える。
▽患者20人
10月、関東地方の総合病院。男性医師が午後5時から翌朝の午前9時までの宿直に入った。もう1人の医師と診察に当たったが、救急搬送されたり、外来診察に訪れたりする患者が相次いだ。
男性医師によると、宿直勤務での睡眠時間は「4時間程度が平均」。緊急呼び出しへの備えもあり緊張で疲れは取れず、心肺蘇生など2人がかりの治療が必要になった場合、一睡もできないこともあるという。結局、この日の宿直で対応した患者は約20人。脳梗塞が疑われる事例もあった。
ただ、この病院は今年、労働基準監督署から宿日直許可を得ており、宿直中の業務は原則、労働時間外となる。許可の基準を示す厚生労働省の通達は、突発的な業務がまれなことを条件としているが「少数の軽症の外来患者」らへの「診察」などは認めているためだ。
2019年以降、厚労省の周知もあり、全国で医療機関の許可取得件数は急増。同省によると、20年は144件、21年は233件だったが、昨年は1369件に上る。
▽原則内
来春からの上限規制では時間外・休日労働時間は原則年960時間となる。それを上回る場合、医療機関が「特例水準」の適用を都道府県から受ける必要がある。宿直や日直が労働時間外となれば、原則内に収まる事例は多いとみられる。
男性医師の場合も、これまでの時間外・休日労働は年約1800時間に上ったが、このうち約900時間は宿直や日直の勤務時間だった。これが除外されれば、上限規制の範囲内にとどまる。
男性医師は、表面上の労働時間の縮減が働き方改革のつじつま合わせに使われるのではないかとの危惧を抱いている。
ただ「病院側が許可を取得した事情も分かる」と打ち明ける。宿直が労働時間外であれば上限規制を厳守でき、副業・兼業の医師を外部の医療機関などから派遣してもらいやすくなるためだ。地域医療を支えるため受け入れているのが現状とした上で「医師不足解消など根本的な対策を取らなければ今後の医療に持続性はない」と強調した。
厚労省は19年に新基準提示 残業規制の「激変緩和」
厚生労働省は2019年に医師らへの宿日直許可の新基準を示した。現場では残業時間の上限規制導入の「激変緩和策」と受け止められている。厚労省は病院管理者向け手引きでも許可を準備作業の一項目に挙げており、検討する病院には取得を事実上推奨している。
旧労働省が許可に関する通達を出したのは1949年。この通達では、宿日直許可が認められる行為として「病室の巡回」「検温、検脈」といった「軽度または短時間の業務」に限られていた。
ただ時代の変化や医療技術の進歩から現場の実態に即していないとの指摘が上がったほか、働き方改革への対応を求める声が強まり、19年7月、可能となる業務に「少数の軽症の外来患者の診察」などの文言を加えた。厚労省は「でき得る業務を明確化し、周知するための対応」としている。
関東の基幹病院の病院長は宿日直許可について、「働き方改革と病院経営を両立させる妥協策。現状で他に時間外労働削減に対応できる手は見当たらない」と打ち明ける。地域の病院に医師を派遣する立場の大学病院の関係者は「派遣先にできるだけ許可取得を呼びかけている」と話した。
だが現場の医師からは憂慮する意見が出ており、全国医師ユニオンには「勤務先の状況は基準とかけ離れているのに許可が認められた」などの声も複数寄せられている。ユニオンの植山直人(うえやま・なおと)代表は「厚労省は不適切な許可を誘発しており、医療の質向上を望める状況ではない」と話している。
許可の更新制導入検討を 識者談話
海野信也(うんの・のぶや)北里大名誉教授(産婦人科)の話 残業規制を厳格に運用すれば、これまでのような医療体制の維持は困難になり、医師不足による医療崩壊が起きると懸念する専門家も多い。宿日直許可の運用緩和はやむを得ないものの、新制度導入時の緊急避難的措置とするべきだ。現状では、厚生労働省の通達の表現が曖昧で許可水準が不明確なこともあり、宿直中も相当数の救急や出産対応がある病院にも認められている。想定以上に緩くなっており、基準に合致しない許可は取り消されるべきだが、現行の仕組みでは一度取得すれば、内部告発などがない限り継続される。更新制導入も検討する必要がある。
宿日直許可
定期的巡視や非常時に備えた待機などのため、夜間の宿直や休日の日直勤務をする場合、労働基準監督署の許可があれば、労働時間規制の適用除外となる仕組み。労働基準法で定めている。宿直は原則週1回で、手当は賃金の1日平均額の3分の1以上が必要となる。医師の働き方改革の実施を見据え、厚生労働省は2019年の通達で、夜間に十分睡眠が取れ、少数の患者への診察や軽度の処置などであれば業務が可能とする新基準を示した。
(2023/11/12)
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