民事2023年11月18日 映画助成金不交付「違法」 出演俳優の事件巡り最高裁 製作会社、逆転勝訴確定 提供:共同通信社

薬物使用事件で有罪が確定した俳優の出演を理由に、映画への助成金を交付しなかった文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)の処分の妥当性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(尾島明(おじま・あきら)裁判長)は17日、不交付処分を違法と判断した。処分を適法とした二審判決を破棄し、原告の映画製作会社側の逆転勝訴が確定した。芸術文化作品への公的な助成金の在り方に関する最高裁の初判断で、4人の裁判官全員一致の結論。
映画は製作会社「スターサンズ」が手がけて2019年9月に公開された「宮本から君へ」。芸文振は出演俳優の有罪確定に伴い、内定していた助成金1千万円を交付しない決定をした。訴訟では国の事業として税金を原資とする助成金の交付が、公益に照らして妥当と言えるかが争われた。
判決は、交付の判断に当たっては公益的観点が必要とする一方、交付の拒否が広く行われれば「表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性があり、憲法に基づく表現の自由の保障の趣旨に照らしても看過しがたい」と指摘。不交付とするには、重要な公益が害される具体的な危険があるかどうかを十分考慮すべきだとの枠組みを示した。
その上で今回のケースを検討し、出演者の知名度や役柄の重要性にかかわらず、助成金を交付した場合でも「国が薬物犯罪に寛容だ」との誤ったメッセージが広がる事態は想定しがたく、薬物使用者が増加する根拠も見当たらないと指摘。「薬物乱用の防止という公益が害される具体的な危険があるとは言いがたい」として、不交付は芸文振側の裁量権の逸脱、乱用に当たると結論付けた。
一、二審判決によると、出演者のピエール瀧(たき)さんが映画の完成した19年3月に逮捕され、7月に執行猶予付きの有罪判決が確定。芸文振はその後、不交付を決めた。一審判決は不交付を違法、二審判決は適法とした。
最高裁判決後、製作会社側代理人の伊藤真(いとう・まこと)弁護士は東京都内で記者会見し「日本の文化芸術に対する助成制度の将来を左右する画期的な判決だ」と高く評価した。芸文振は「判決文を精査の上、今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
亡き映画人にささげる勝訴 遺影掲げ「やりました」
「やりました。非常に画期的な判決です」。17日、映画の助成金を巡り最高裁で逆転勝訴した製作会社「スターサンズ」側の四宮隆史(しのみや・たかし)弁護士は記者会見で開口一番、胸を張った。提訴に向けて奔走し、昨年6月に72歳で死去した会社の元代表河村光庸(かわむら・みつのぶ)さんの遺影を壇上に掲げ「判決を見せたかった」と思いを込めた。
午後3時の判決後、弁護士6人が最高裁の正門前に並び「映画表現の自由は守られた!」などと書かれた紙を掲げた。四宮弁護士は「表現の自由にまで踏み込んだ言及があるとは思わなかった」と驚いた様子だった。
会見では、河村さんから「これは憲法の問題だ」と相談されて2019年に提訴した経緯に触れ「文化芸術に国がどう向き合うのかを問う裁判だった。彼の思いが通じたようで、感無量だ」と振り返った。
現在はスターサンズの代表を務める四宮弁護士。今後の映画製作について問われると「萎縮せずにいいものを作る。いま描くべきものをきちっとやりたい」と力説した。
秋山光(あきやま・ひかる)弁護士は「映画出演者が不祥事を起こした際に撮り直さず作品を生かしても、決して不祥事を容認する趣旨ではないことも示された。表現者がより自由な判断をできるようになるのではないか」と波及効果に期待を寄せた。
映画製作の萎縮防ぐ判断 識者談話
元文化庁文化部長で映画プロデューサーの寺脇研(てらわき・けん)氏の話 極めてまっとうな判決だ。適法とした二審判決が維持されれば、映画製作に際して必要以上の忖度(そんたく)や、出演者全員の「身体検査」を行うなどの萎縮につながりかねなかった。作品の製作を応援する制度として存在する以上、一出演者の不祥事で不交付にすべきではない。出演者が罪を犯しても、償うべきは本人であり、別個の固有のテーマを描くために作られる映画がとがめられるのはおかしい。ただ、この助成金制度は自主製作映画など日本映画の大半を占める小規模作品が対象になっておらず、映画を作ろうとする全ての人が利用できるような助成制度にしていくべきだ。
芸術の多様性維持に貢献 識者談話
映画監督の深田晃司(ふかだ・こうじ)さんの話 今回の裁判は日本の文化行政の思想に関わる問題だと受け止め、注目していた。作家性の強い作品を撮る監督にとって助成金は重要で、原告の勝訴は助成金の交付の安定につながる。芸術の多様性の維持に貢献する結果で、粘って勝訴を勝ち取ってくれた「宮本から君へ」のチームに感謝したい。「日本芸術文化振興会」は裁判結果をきちんと受け止め、芸術的な観点からの公益性を一番優先してほしい。
(2023/11/18)
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