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社会保険2020年02月11日 特集「世界の年金事情」 提供:共同通信社

制度見直しが急務 財源不足苦しむ各国

 世界的に平均寿命が延びる中、老後の生活の支えとして重要性が高まる年金。2008年のリーマン・ショック後、多くの国が財源不足に苦しんでおり年金制度の見直しは急務だ。少子高齢化で年金の支え手が減っている日本だけでなく、成長を背景に余裕があった中国やブラジルも改革を進める。各国の年金制度の現状と課題を探った。

将来「予測できない」 中国、財源枯渇に危機感

 「30年先のことなんて予測できない。心配しても仕方がない」。北京市の会社員の男性(30)は達観したように話す。急速に少子高齢化が進む中国で、年金制度は先が見通せない難題となりつつある。中国政府は枯渇が危ぶまれる財源の確保に向け、基金の市場運用を急ぐ。給付年齢の引き上げ案も浮上するが、抵抗は大きそうだ。
 中国の会社員らが加入する公的年金の平均給付額は、北京や上海といった大都市で約3500元(約5万5千円)。夫婦2人で、自分の住居も持っていれば老後の生活には十分とされる。
 冒頭の男性の伯父は昨年、60歳で退職し年金生活に入った。国営企業に勤めていたため、受給額はさらに高いという。
 問題はこの先だ。中国の60歳以上の人口は既に2億5千万人に達し、2050年ごろ5億人に迫る。政府系シンクタンクの中国社会科学院が昨年発表した報告書によると、年金給付額が年金基金の収入を上回り、積立金は35年に底を突く見通しだ。ネット上で不安の声が高まった。
 中国政府は約3年前から年金基金の株式などへの投資運用を始め、財源を補おうとしている。国営通信の新華社によると、昨年9月時点で18の省や直轄市が合同で専門機関に委託した投資額は9660億元という。
 一方、政府は普及が進んでいない企業年金や、個人年金保険も盛んに推奨。中国人民銀行(中央銀行)は昨年7月、年金管理分野への外資の出資を認め「海外の経験を取り込む」(中国メディア)姿勢を打ち出した。
 中国の退職年齢は男性が60歳、女性は50歳または55歳。昨年末、政府系の識者がシンポジウムで女性の退職年齢を10歳引き上げ、公的年金の負担を減らす案を提示した。しかし、中国メディアは「支給の遅れは国民に受け入れられないだろう」とけん制。企業側にも高齢者を継続雇用する下地がないと指摘した。
 だが生活に直結する年金支給に国民は敏感で、中国共産党と政府は制度の安定化に向け改革を加速させている。冒頭の男性が言う。「いま50歳ぐらいの人たちが一番、急な制度変更を気にしているかもしれませんね」(北京共同=竹内健二)

度重なる削減、不信増大 受給額75%カットも ギリシャ

 「国に裏切られた。これまで何回年金を減らされたか覚えていない」―。度重なる年金削減が実施されてきたギリシャでは受給者らの不信感が増大していた。過去の政権が財源を確保しないまま支給を続けたツケが回り財政危機を引き起こしたとの見方もあるが、根本的な構造は今も変わらず制度改革が喫緊の課題となっている。
 アテネ郊外の山あいに住むニコス・ヤソグルーさん(91)は年金の75%をカットされた。月々の受給額が激減しただけでなく、年間14カ月分支払われていたのが12カ月分に。「41年間、年金を受け取るため国に納め続けた金はどこにいったのか」と嘆く。
 3年半前に妻に先立たれ一軒家での1人暮らし。周りは坂道が多く、買い物など身の回りの世話はヘルパーに頼らざるを得ないが費用がかさむ。高額の住宅税も重くのしかかり貯蓄を取り崩す日々だ。「それでも私はまだいいほう。食べるものにも困り苦しんでいる年金生活者が大勢いる」
 ギリシャでは財政危機が発覚した2009年の翌年から十数回にわたり年金支給額が削減されてきた。20年以上「社会保障基金」に納入しても、67歳から受け取れる基礎年金額は現在384ユーロ(約4万6千円)だ。昨年7月に就任したミツォタキス首相はこれ以上の削減はしないと明言するが、国民の不安は大きい。
 人口約1100万人のうち年金受給者は約250万人で、これを現役労働者約350万人が支える。基金だけでは賄いきれず、00~18年の国庫負担額は計2500億ユーロに上った。現在も年金支給総額の6割は国庫から支出されており、こうした仕組みが財政を圧迫し危機の要因になったともされる。
 国庫負担を少しでも減らすため、社会保障基金の資金運用を始めようとの動きもある。しかし、パンディオン大のハラランボス・エコノム教授(社会学)は、運用にはリスクがありプラスの結果を生む保証はないと指摘。「経済を成長させ雇用を創出しない限り年金制度は持続させられない。出生率が下がり若い世代がさらに少なくなれば問題解決はますます難しくなるだろう」と分析した。(アテネ共同=津村一史)

50代で引退、給与の満額 手厚い制度ようやく改革 ブラジル

 「これからは子どもの頃から関心があった農牧業に携わりたい。家に閉じこもるわけではないよ」。昨年9月に民間企業を退職した、リオデジャネイロのホセ・テオドロ・フランコさん(55)は夢を語る。
 「旅行もしたいわね」と語る妻のオルガ・トシエさん(57)は54歳だった2016年12月、政府系金融機関を辞めて、一足先に年金生活に入った。フランコさんは退職時の給与の75%、オルガ・トシエさんは100%相当分を受給している。
 ブラジルの年金制度はかつて世界的にも手厚いとされ、政府の財政圧迫の原因となってきた。これまでは民間企業や公務員の支給開始年齢の定めがなく、男性は35年、女性は30年、保険料を拠出すれば受給を始められた。地元メディアによると、18年の国立社会保障院(INSS)への受給開始申請者の平均年齢は54・6歳だった。
 年金改革は過去20年以上にわたり歴代政権が試み、失敗してきたが、議会は昨年10月、ついに改革法案を成立させた。今後10年間で8千億レアル(約21兆円)規模の歳出削減効果を見込む。支給開始年齢は男性65歳、女性62歳と定められた。
 ブラジルの平均寿命は76・3歳(18年)。フランコさんは「65歳で退職すれば、残りの人生を満喫できるのはたった11年。制度の欠点だ」と言う。
 しかし改革は不十分との見方も強い。年金問題に詳しいサンパウロ大のジョルジ・フェリクス教授は「軍人の中には40代後半で退官する例があるなど、不可侵の特権層がまだ存在する」と指摘する。(リオデジャネイロ共同=小西大輔)

裕福な老後生活楽しむ 私的年金が充実 オーストラリア

 オーストラリアの最大都市シドニー近郊の町バーウッド。退役軍人向けの社交施設内にあるパブでは、定期的に開かれる投資に関する勉強会に参加した高齢者グループが昼食を楽しんでいた。
 「ここにいる人の多くが退職しているが、お金には困っていない。僕も来週からクルーズ船で旅行するしね」。60歳で教師を退職し、勉強会を主催するグレッグ・ブリアクさん(71)は話す。
 オーストラリアで比較的裕福に老後生活を送る高齢者が多いのは、公的年金である社会保障年金(老齢年金)に加え、「スーパーアニュエーション」という私的年金が充実しているからだ。
 老齢年金は税財源で賄われ、社会保険料負担はない。全国民が一定額の支給を受けられるが、一定以上の所得や資産があると減額される。
 スーパーアニュエーションは老齢年金を補完し、高齢者の所得保障を強化する目的で1992年に整備された。会社員や公務員など被用者が強制加入となり、雇用主は賃金の一定割合(現在は9・5%)を被用者の年金口座に拠出することが義務付けられている。自営業者は任意加入だ。
 18年6月末のスーパーアニュエーションの資産残高は2兆9千億豪ドル(約215兆円)と国内総生産(GDP)を超える規模。オーストラリアではスーパーアニュエーションを老後の資産形成に役立てるという考え方が定着している。
 オーストラリアスーパーアニュエーション基金協会のロス・クレア調査部長(65)は「強制的な仕組みがないと貯蓄できないと考えている人が多く、スーパーアニュエーションは国民の8割の支持を得ている」と指摘した。(バーウッド共同=板井和也)

国民のほとんど未加入 生活、家族支え頼り インド

 約13億の人口を抱えるインドでは、中央政府や州政府の公務員を対象にした強制加入の年金制度があるものの、民間では一部に任意加入の仕組みがあるだけで、ほとんどの国民は年金に未加入となっている。政府は医療制度の拡充に力を入れる一方、年金制度は手つかずのままで、高齢者の生活は家族の支えに頼っているのが現状だ。
 首都ニューデリー郊外のマンションに住むシャイレンドラ・ガイロラさん(80)は、機械技師として民間企業で約40年間勤務した。「仕事一筋で、将来のことは『神に任せるしかない』と考えていた」という日々は、2001年に退職してから一変する。収入が途絶える中、マンション購入費と子ども2人の教育費が重くのしかかり、生活に余裕がなくなったのだ。
 それまでの経験が買われて経営コンサルタントの職を得たが、収入は不安定だった。それでも「私は幸運だった。同年代のほとんどは再就職のチャンスがない」と話す。
 25歳未満の若年層が総人口の4割以上を占めるインドでは、雇用の確保が大きな課題となっている。世界銀行による15年の調査では、人口の約13%が1日1・9ドル(約208円)未満の極貧状態で生活しており、貧富の格差も激しい。「そうした状況が、年金制度を優先順位の低いテーマに追いやっている」と、日本政府当局者は分析する。
 ガイロラさんと妻の世話は、同居する長女が担う。「インドは伝統的に家族の絆が強いが、いつまで続くかは分からない。若い世代が負担に感じることもあるだろう」。ガイロラさんは、公務員が中心となっている現在の年金制度は「あまりに不公平だ」と言い切った。(ニューデリー共同=佐藤大介)

「皆年金」も3割目減り 財政維持へ給付を抑制 日本

 日本の公的年金制度は「国民皆年金」と言われるのが最大の特徴だ。国内に住む20歳以上60歳未満の人は国民年金(基礎年金)に加入する義務があり、老後生活の柱と位置付けられている。現役世代の負担が過重にならないよう保険料に上限が設けられている一方、少子高齢化の中で年金財政を維持するため、給付膨張を抑える仕組みがある。国民年金は約30年後に3割程度も価値が目減りする見通しだ。
 公的年金は自営業者らが加入する国民年金と、会社員や公務員が入る厚生年金がある。国民年金は保険料を40年間納めた満額で月約6万5千円、厚生年金は平均的な給与で40年間働いた夫と専業主婦のモデル世帯で月約22万円。国民年金だけの家庭は、ほかの収入や豊かな蓄えがなければ、現状でも生活が厳しい。
 厚生労働省が昨年8月に公表した長期試算では、経済成長する標準的なケースでも将来的に公的年金の価値が目減りすることが鮮明になった。
 「マクロ経済スライド」と呼ばれる給付抑制策があるためだ。日本の年金制度は、現役世代の納める保険料が年金受給者への支払いに充てられる。保険料を支払う現役世代が減少する一方、年金を受け取る高齢者の平均余命は延びている。
 物価や現役世代の賃金が上昇すれば年金額も上げるのが基本だが、これらに合わせて上げ続けると年金財政が立ちゆかなくなる恐れがある。そのため年金額を物価と賃金の伸びよりも低く抑えるルールで、2004年の制度改革で導入。厚生年金の保険料は計画的に引き上げ、労使折半で18・3%に固定している。
 今後は、年金財政の悪化を防ぐことと低年金の人への対策が課題だ。その一環として政府は開会中の通常国会に制度改革の関連法案を提出する。パートなど非正規で働く人たちの厚生年金への加入を促進して将来の年金額を手厚くするほか、支え手を増やすのも目的だ。

(2020/02/11)

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