一般2024年09月21日 裁判やり直し請求中に死刑 元弁護人が争う国賠訴訟 「不透明」執行制度に一石 提供:共同通信社
死刑囚が裁判のやり直し(再審)の請求中に死刑を執行され、弁護権を侵害された―。こう主張する元弁護人らが起こした国家賠償請求訴訟が、大阪地裁で続いている。執行の過程が「不透明だ」と指摘されてきた死刑制度。同地裁で争われている関連訴訟では、法相ですら執行基準を知らされていない実態が明らかになった。
静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌(はかまた・いわお)さん(88)の再審公判の判決言い渡しが26日に迫る中、死刑制度の在り方に改めて一石を投じている。
原告は、投資顧問会社社長らへの強盗殺人罪に問われた岡本啓三(おかもと・けいぞう)元死刑囚の元弁護人3人。2018年、第4次再審請求中に執行されたことを受け、20年に提訴した。
訴状などによると、原告側は「弁護人の活動を国は最大限保護すべきだ」と主張。今年8月、原告側証人として出廷した青山学院大の葛野尋之(くずの・ひろゆき)教授(刑事法)は、再審の目的を「誤判の是正」とした上で、再審請求中の執行は憲法32条の「裁判を受ける権利」の侵害に当たると指摘した。国は請求棄却を求めている。
法務省によると、今月9日時点で確定死刑囚は108人。このうち再審請求中なのは8月末時点で51人に上る。刑事訴訟法は執行を「判決確定日から6カ月以内」としているが守られておらず、順番も前後しているのが実情だ。
千葉景子(ちば・けいこ)元法相は昨年、大阪地裁の別の死刑関連訴訟で聞き取りに応じた。法相在任中、対象者の選定基準を法務官僚に尋ねたが明確な回答はなく「意思決定を誰が担っていたのかよく分からなかった」と明かした。
国は執行対象者の順番を決める基準を明らかにしていない。1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害された「飯塚事件」では08年、再審請求の準備中に死刑が執行された。袴田さんは68年に静岡地裁から死刑判決を言い渡され、80年に最高裁で確定。同地裁が再審開始を認める14年までの間に執行される可能性があった。
袴田さんの主任弁護人の小川秀世(おがわ・ひでよ)氏は「再審請求中は確定判決に疑義が生じている状態。冤罪(えんざい)の可能性がある以上、死刑執行は許されない」と話した。
「取り返しがつかない」 執行拒否した杉浦元法相
2005年10月から06年9月まで法相を務めた弁護士の杉浦正健(すぎうら・せいけん)氏(90)は就任直後の記者会見で死刑執行の決裁書類に「サインしない」と述べ、在任中は執行しなかった。「本能的に答えた」と振り返るが、思考をたどると理由はあった。自身の宗教観や国際的な死刑廃止の潮流、そして「誤判があったら取り返しがつかない」との思いだ。
死刑が確定した袴田巌(はかまた・いわお)さん(88)の再審判決が今月26日に予定され、無罪が言い渡される公算が大きい中「再審請求中の死刑執行はすべきでない。請求は権利だ」と訴える。
杉浦氏は大臣就任後、深く死刑について考えるようになったという。在任中、秘書官に「もし今、執行するとしたら候補は何人いるのか」と尋ね、「4人です」と言われたことが記憶に残る。選定の理由は知らされないまま、大量の裁判記録に目を通した。いずれも残忍な事件だったが、サインをする気持ちにはなれなかった。敬虔(けいけん)な仏教徒の家庭で育った自身の宗教観も影響した。
杉浦氏は09年に政界を引退し、日弁連の「死刑廃止および関連する刑罰制度改革実現本部」顧問などを務める。昨今は国際的な死刑廃止の流れがますます加速しているとし、代替刑として終身刑の導入を提案するなど、問題提起を重ねてきた。
裁判員制度導入から15年たち、司法は以前よりも国民の身近になった。「今は変化の土壌があるはず。国が積極的に死刑の実態を開示し、根底から制度を考える時期が来ている」
(2024/09/21)
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