民事2025年05月01日 家族法や誹謗中傷、安保… 長谷部恭男教授に聞く インタビュー「憲法の論点 2025」 提供:共同通信社

日本国憲法は3日の憲法記念日で施行78年。同性婚や夫婦別姓といった家族の法制度をはじめ、インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷、選挙期間中の虚偽情報流布、安全保障、日本学術会議法案など、憲法を巡る2025年の論点について、早稲田大の長谷部恭男教授に聞いた。(共同通信編集委員 竹田昌弘)
「違憲と言いやすい」 同性婚認めない現行法制度 情プラ法、象徴的効果も
―同性カップルの結婚を認めない現行の法制度は違憲とする判決が五つの高裁で相次ぎました。
「憲法24条は『婚姻は両性の合意』と言っているので、憲法をつくった人たちは同性婚を想定していなかった。ただ婚姻は愛する人と生活して助け合い、人生をなるべく長く過ごすための制度だから、同性を愛する人たちが自分たちにも制度を用意してほしいというのは自然なことだ。制度がないのは(法の下の平等を定めた)14条違反というのはよく分かる」
「また13条の幸福追求権の否定だというのも理解できる。24条の助けを借りなくても、現行制度は憲法上極めて問題だという結論は出てくる」
―最高裁はどう判断するでしょうか。
「夫婦別姓を認めない法制度は違憲と判断した場合、新たな立法がないと、役場の窓口は対処できないが、同性婚は異性婚と同じように受け付ければいいので、違憲と言いやすいのではないか。それでも違憲ではないとするときは、立法府が対処すべき問題で、裁判所として同性婚の制度があるべきだとまでは言えないという理屈になるだろうが、最高裁だけ何だと言われるでしょう」
―夫婦に同じ姓を強制する現行制度の違憲判断はやはり難しいですか。
「別姓を選択できる制度は望ましいが、どういう制度を用意すればいいのかは、裁判所で決められる問題ではないので、国会でやってくださいとならざるを得ない」
―ネットの交流サイト(SNS)などでの誹謗(ひぼう)中傷への対応を運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」が4月から施行されました。
「象徴的な効果はあるだろう。例えばヘイトスピーチ解消法には罰則もないが、警察は法律に基づいて対応するので、ヘイトスピーチは減った。ただ相手がIT大手なので、言うことを聞いて対応してくれるのかどうかはよく分からない」
▽9条で自己拘束
―昨年11月の兵庫県知事選では、選挙中の誹謗中傷や虚偽情報の流布が問題となりました。
「信頼されている言論機関は新聞やテレビだと思うが、選挙期間に入ると、公平を考えて報道を自粛してしまう。その間隙(かんげき)を縫って、トリックスターが出てきて『実は報道機関もみんなぐるなんだ』といったことを言われると、そうなのかと思ってしまう人もいる。はっきり虚偽の場合、報道機関は指摘する方がいい。また明らかに選挙の趣旨に反する運動は公選法で禁止すべきだ」
―集団的自衛権行使を含む安全保障法制が整備され、防衛費は国内総生産(GDP)比1・8%になりました。憲法との整合性はどう考えればいいのでしょうか。
「軍拡すれば、相手の国も軍拡し、ますます安全ではなくなる。そんなジレンマに陥らないため、自分で自分の手を縛る自己拘束の仕掛けとして憲法9条がある。防衛予算を増やし、米国から武器をどんどん買うよりも、どうすれば武器を使う事態が起こらないようにするかを考えるべきだ」
―安倍晋三元首相は「憲法学者の7~8割は自衛隊を違憲だとしている」と言っていましたが。
「本当にそうなのかは疑問だ。憲法9条の前提は、国際紛争の解決手段として戦争を使わないと定めた1928年の不戦条約。それまでの国際紛争の決着をつける手段は戦争という決闘で、勝った方が正しいとされていたが、それだと決闘で勝つよう準備し、決闘が始まると、とてつもない犠牲が出た。そこで決闘はやめようとなった。いきなり侵略してくる国があったときにどうするのかは別の話で、自衛隊を持つことが憲法上全く不可能だというのは極論だ」
―9条2項の戦力不保持が自衛隊と矛盾するという意見もあります。
「戦力とは戦争遂行能力のことで、われわれは決闘しません、決闘するための能力も持ちませんと言っているだけで、自衛力を持つかどうかはやはり別の話だ」
▽企業献金は禁止も
―企業・団体の政治献金は禁止か、透明性を高めるかが与野党で議論されています。
「最高裁の判例を前提とすると、個人が政治団体に献金し、政治団体が政党や政治家に献金するのは許される。企業をはじめとする法人には、個人と同等の権利は保障されず、弊害が甚だしければ、法人の献金を禁止することもあり得る」
―日本学術会議を国の特別機関から特殊法人へ移行させる法案が国会で審議中です。
「2020年の菅義偉首相(当時)による新会員候補6人の任命拒否問題から国民の目をそらすために、論点をずらす法案だ。新設する首相任命の監事や評価委員を誰が引き受けるのか。引き受けた人の見識が問われる。学者はならないでしょう」
―国連女性差別撤廃委員会が皇位継承を男系男子に限る皇室典範改正を勧告したのに対し、政府は国連の機関に拠出している資金が同委員会に渡らないようにした。
「私流の言い方をすると、憲法がつくり出した政治体制は、平等な個人の創出を貫徹せず、世襲の天皇制という身分制の『飛び地』を残した。皇位継承なので差別ではないという理屈は十分あり得るが、政府の対応はどうも大人げない」
長谷部恭男教授の略歴
はせべ・やすお 1956年広島市生まれ。憲法学者。東京大教授などを経て2014年から現職。日本公法学会理事長も務める。「法とは何か」や「歴史と理性と憲法と」など著書多数。
同性婚訴訟
男性同士や女性同士の結婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法13条、14条、24条に反するとして同性カップルが国に損害賠償を求めている訴訟。札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5地裁に6件の提訴があり、これまでの一審6件と二審5件の判決はいずれも賠償請求を退け、現行の法制度は違憲7件(うち高裁5件)、違憲状態3件、合憲1件に判断が分かれた。原告は最高裁に上告している。
不戦条約と憲法9条
日本を含む15カ国が1928年にパリで調印し、後に63カ国が参加した不戦条約の1条は「国際紛争解決ノ為(ため)戦争ニ訴フルコトヲ非トシ…国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄(放棄)スル」と規定。日本国憲法の9条には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」として、ほぼ同趣旨が定められている。
日本学術会議法案
政府が今国会に提出した。学術会議は1949年に設立された日本の文系・理系の科学者を代表する組織で、現在は国の特別の機関だが、法案では特殊法人に移行する。また首相が任命する監事が業務を監査し、評価委員会も新設する。2020年に当時の菅義偉首相が会員候補6人の任命を拒否。政府はその理由を明らかにしないまま、組織の見直しを検討してきた。
(2025/05/01)
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