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民事2025年05月02日 石綿賠償、国が上告断念 救済範囲拡大、運用見直し 4月の大阪高裁判決 提供:共同通信社

 工場労働によるアスベスト(石綿)被害を巡る訴訟で、国に賠償を命じた4月17日の大阪高裁判決に関し、国が上告を断念したことが1日、関係者への取材で分かった。賠償請求権が消滅する除斥期間(20年)の起算点が争点で、関係者によると、国は判決の認定に沿って救済範囲を広げる運用見直しに着手した。
 上告期限は1日。厚生労働省の担当者は「上告したか、しなかったかは、2日まで公表しない」としている。厚労省は、2019年に救済範囲を狭める運用変更を行ったのに当事者らに周知しなかった。原告側からは「秘密裏だ」との批判が出ている。
 工場で起きた石綿被害は、14年の「泉南アスベスト訴訟」で最高裁が国の賠償責任を認めた。被害者が訴訟を起こし、要件を満たせば国が和解に応じる流れが続く。
 当初は除斥期間の起算点は行政が健康被害を認定した時だった。だが厚労省は19年、起算点を「診断時」に前倒しし、救済範囲を狭める運用変更を行った。厚労省は、同年の肺がんに関する石綿訴訟判決との法的整合性などを考慮したと主張する。
 だが、大阪高裁判決はじん肺を患った兵庫県尼崎市の原告(提訴後に死去、遺族が訴訟継続)の除斥期間の起算点について、じん肺の症状は肺がんと違って医学的知見が定まっていないとして、行政が認定した時を起算点と認定。国に賠償を命じた。
 弁護団の奥村昌裕(おくむら・まさひろ)弁護士は「当然の判断だ。国は原告のようなじん肺患者だけではなく、肺がんの患者らの除斥期間の起算点も救済範囲を広げる方向で見直すべきだ」とコメントした。

起算点変更、非公表に憤り 「二重の被害受けた」

 アスベスト(石綿)による健康被害を巡り、20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」の起算点が争われた訴訟。国は当事者に知らせず起算点を変更し救済範囲を狭め、弁護団は「二重の被害を受けた」と憤る。情報公開の専門家も「当事者に寄り添った対応ではなかった」と話している。
 弁護団によると、男性は2000年5月30日に労働局から健康被害を認定され、20年5月8日に和解による賠償金を求めて提訴した。あとわずかではあったが、20年の除斥期間は経過しておらず、対象になると考えたためだ。男性は提訴の約1カ月後に死去し、遺族が訴訟を引き継いだ。
 だが国はなかなか和解に応じなかった。そして提訴から2年後、国は「請求権が消滅している」と主張。弁護団が説明を求めると、国は19年に除斥期間の起算点を「診断時」に前倒ししたと明らかにした。男性は1999年10月にじん肺の診断を受けており、そこから起算すると提訴時に20年が経過していた。
 この運用変更は男性を含む被害者には知らされていなかった。弁護団は理由や経緯を知るため情報公開請求をしたが、結果は黒塗り。訴訟の中で国に何度も釈明を求めたが、具体的な回答は得られなかったという。
 なぜ運用変更を明かさなかったのか。厚生労働省幹部は取材に対し、変更を明かせば「諦める人が出てしまう」と説明。行政として線引きは必要だが、最終的には司法が判断する仕組みのため提訴控えを懸念したとの弁明だ。幹部は「弁護士に相談してほしい、という点を周知するしかなかった」と述べ「当時の判断は間違っていなかったと思う」と主張した。
 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子(みき・ゆきこ)理事長は「19年の運用変更は当事者に不利益を与えるものであり、明示すべきだった。その上で個別に判断されるとして、諦めずに相談するよう求めれば良かったのではないか」と指摘する。

アスベスト(石綿)被害

 石綿は極細繊維からなる天然鉱物。安価で断熱性や耐火性に優れ、高度経済成長期に建築材料に広く使われた。だが粉じんを吸い込むと、じん肺や肺がん、中皮腫の原因になることが分かり、規制が進んだ。潜伏期間は数十年に及び「静かな時限爆弾」と呼ばれる。2005年、兵庫県尼崎市にあるクボタ旧神崎工場の元従業員らの健康被害が発覚し、社会問題化。元工場労働者らの訴訟で14年、元建設労働者らの訴訟で21年、最高裁がそれぞれ国の賠償責任を認めている。

(2025/05/02)

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