カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

民事2025年07月06日 「発想を転換すべきだ」 公文書開示、信頼高める 情報公開訴訟を続ける三木由希子さん 提供:共同通信社

 警察庁は2016年、保有する個人情報管理簿の名称や含まれている個人情報の概要などが分かる文書の開示請求を受け「名称」「利用の目的」「記録される項目」など管理簿各欄の項目名だけを開示。記載された内容は、情報公開法で不開示にできる「国の安全を害するおそれ」「犯罪捜査に支障を及ぼすおそれ」などがある情報(不開示情報)に当たるとして、全て不開示とした。
 一方、18年に「写真」「DNA型」「指紋」といった管理簿の名称を特定した請求を受けると、一部の不開示情報を除き各欄の記載内容も開示した。「備考」の記載内容は当初全て黒塗りだったが、2度目の請求で小項目の名称と一部を除く記載内容を開示し、備考欄の全容がほぼ判明した。
 こうした経緯から、最初の請求に対する不開示取り消し訴訟では、備考欄の開示が争点となる。
 最高裁第3小法廷(宇賀克也(うが・かつや)裁判長)は今年6月3日の判決で、情報公開法により不開示情報が記録された部分を除くことができるときは、残りを開示しなければならず、備考欄に小項目がある場合は区切られた範囲ごとに不開示情報に当たるかどうかを検討すべきだと指摘。そうした検討をしていないなど、審理が尽くされていないとして二審判決を破棄、訴訟を東京高裁へ差し戻した。
 情報公開法の立法に関わった東京大名誉教授(行政法)の宇賀裁判長は判決の補足意見で、一部に不開示情報があれば全体を不開示にできる「情報単位論」は「最大限の開示を実現するという情報公開法の精神に反する」と明言した。
 東京のNPO法人情報公開クリアリングハウス(英語略称AICJ)で理事長を務める三木由希子(みき・ゆきこ)さん(52)は「不開示情報を除く部分開示は法律上の義務なのに、情報単位論の判決があったことから、省庁は裁量と主張するようになった。最高裁判決は混乱を解きほぐし、今後の訴訟に大きなインパクトがある」と評価する。
 「情報公開の世界」に入って約30年。警察庁に2度開示請求し、今回の判決を引き出した。
 ▽制度前に大量廃棄
 AICJの前身は、消費者団体や薬害被害者弁護団などのメンバーが中心となって1980年に結成した「情報公開法を求める市民運動」。行政情報の非公開、秘密が当たり前の政府や自治体を批判し、法律や条例を作って市民の「知る権利」を獲得しようと訴えた。
 各自治体が情報公開条例を次々制定したのに続いて、情報公開法が成立した99年に現名称に改め、NPO法人となった。
 三木さんは横浜市立大に在学中、前身団体を手伝い、96年に卒業後はスタッフに。自分の大学入試センター試験の結果が知らされないことに疑問を感じ、前身団体のメンバーの助言で、市の条例に基づき入試結果の開示を請求。市は開示せず、不服を申し立てた審査会も不開示を支持したので提訴したが、敗訴した。
 「これが情報公開の世界へ入るきっかけ。現行の大学入学共通テストは1月に実施され、4月に成績を開示しているものの、受験はもう終わっている。自己責任の入試なのに必要な情報が得られない制度になっている」と三木さん。情報公開やその対応から判明する行政の不合理は多い。
 財務省や警察庁、環境省などは、情報公開法施行直前の2000年度に前年度や01年度の数倍から十数倍の文書を廃棄していた。AICJが同法施行後、各省庁に文書廃棄の経費資料を開示請求して分かった。開示されては困る文書をまとめて捨てたのだろうか。
 三木さんが理事長に就いた11年以降のAICJは、①東京電力福島第1原発事故後の「放射線の健康影響に係る研究調査事業」報告書②裁判官らによる原発訴訟の研究会資料③内閣官房の慰安婦問題ファイル④イラク戦争検証報告書⑤日米合意がない限り、日米合同委員会の議事録などを公表しないと決めた事実が分かる文書⑥森友学園への国有地売却に関する交渉・協議記録―などを開示請求した。
 ▽政治家守る行政
 これらのうち、④の報告書は外務省が17ページ全てを黒塗りにした。AICJは開示を求め、15年に提訴。裁判中に報告書の3分の1が開示されたが、残りは一、二審とも「国の安全を害するおそれ」などを理由に不開示を支持し、最高裁は上告を受け付けなかった。
 ⑤の文書を巡っては、15~18年に外務省が不開示など決定▽AICJ提訴▽文書は国と沖縄県の訴訟に証拠提出されたと指摘され、外務省が開示▽当初の不開示決定は違法としてAICJが損害賠償請求▽不開示決定は米国から「公開に同意しない」とメールなどで確認したと国が主張▽この主張を国が撤回―といった経過をたどる。
 19年に東京地裁が裁判官だけでメールの内容を確認する「インカメラ審理」を決定すると、国は110万円の賠償請求を受け入れる認諾で訴訟を終結させた。「逃げられた」と三木さんは憤る。
 ⑥の記録は財務省、近畿財務局(近財)、大阪航空局が17年3~4月に「不存在」と決定。「記録は残っていない」という同省の佐川宣寿(さがわ・のぶひさ)理財局長(当時)の国会答弁に合わせたとみられるが、18年に同省による決裁文書の改ざんが発覚し、記録は裁判官に促されて順次部分開示された。
 さらに改ざんを苦に亡くなった近財元職員、赤木俊夫(あかぎ・としお)さんの妻雅子(まさこ)さん(54)が、同省から大阪地検に提出された関連文書の開示を求めた訴訟で勝訴。文書の開示が今年4月から開始され、AICJにも同省の裁量で記録が開示されることになったという。
 森友問題の隠蔽(いんぺい)は、安倍晋三首相(当時)の「私や妻が(問題に)関わっていれば首相も国会議員も辞める」という国会答弁から始まった。三木さんは「政治家が行政に守られる世界があからさまになった。情報公開は国民主権や権力の民主的なコントロールに行き着く手段だが、それが公共の利益ではなく、一部の人を守るために使われると機能しない」と話す。
 その上で「情報を隠すのではなく公開して批判され、改善することで行政への信頼を高めることができる。発想を転換すべきだ」と省庁に変化を求めている。(共同通信編集委員・竹田昌弘、AICJの資料など参照)

条例解釈から「単位論」 請求側が文書の存在証明

 知る権利は「思想および良心の自由の不可侵を定めた憲法19条や、表現の自由を保障する憲法21条の趣旨、目的から、いわば派生原理として当然に導かれる」(最高裁判例)とされ、①メディアを通じて自由に情報を受け取る権利②国や自治体に情報の開示を求める権利―などがある。
 ②は情報公開法と自治体の情報公開条例によって具体的に行使できる。
 最高裁は大阪府知事交際費訴訟の第2次上告審判決(2001年3月)で「当時の条例上、一つの文書に非公開相当の情報があれば、その文書全てが非公開。部分公開は認められない」と解釈。大阪高裁が相手方氏名以外は開示とした香料やせんべつ、懇談などに関する文書を非開示とし、「情報単位論」のリーディングケースとなった。
 また行政機関が「存在しない」とする文書について、最高裁は14年7月、開示を請求する側が文書の存在を証明しない限り、公にできないとの判断を示している(沖縄返還を巡る日米間の密約文書訴訟の上告審判決)。

(2025/07/06)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

ここから先は新日本法規WEB会員の方のみ
ご覧いただけます。

会員登録していただくと、会員限定記事・動画の閲覧のほか、様々なサービスをご利用いただけます。登録は簡単・無料です。是非ご利用ください。

ログイン新規会員登録

関連カテゴリから探す

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索