企業法務2025年08月05日 最低賃金、全国千円超へ 平均6%増1118円 国審議会が過去最高目安 提供:共同通信社

 最低賃金(時給)の2025年度改定額の目安は4日、全国平均で6・0%(63円)アップで決着した。時給の平均は現在の1055円から1118円となる。現行方式となった02年度以降、上げ幅、額ともに過去最高。目安通りに改定すれば初めて全都道府県で時給千円を超える。厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会が7回目の小委員会で取りまとめた。
 政府は最低賃金の全国平均を「20年代に1500円」とする目標を掲げている。達成には25~29年度改定で毎回7・3%のアップが必要な計算だった。6・0%にとどまったことに関し、石破茂首相は官邸で記者団に「さらに努力する。今後の政策効果が表れれば達成可能だ」と述べた。
 目安は経済情勢などで都道府県を三つに分けた区分のうち、地方部を中心とした13県のC区分だけ64円とした。都市部を含む計34都道府県のA、B区分は63円。CがAを上回るのは初めてで、地域間格差の縮小が狙い。3区分の全国加重平均が6・0%、63円となる。
 最低賃金は、都道府県単位の地方審議会が目安を参考に、地元の改定額を議論する仕組み。例年だと8月上旬から順次、決まり、秋から適用されている。労働者側が大幅な引き上げを求める一方、経営者側は中小企業の人件費増を懸念して小幅に抑えようとする構図で、各地で激しい応酬がありそうだ。首相は記者団に、目安を上回った地域に財政支援すると改めて表明した。
 前回24年度改定は、中央審議会の目安が5・0%(50円)のアップ。地方審議会では目安を上回る改定が相次ぎ、上げ幅は平均5・1%(51円)となった。現在の時給トップは東京都の1163円。最も低い秋田県でも951円のため、目安通りの引き上げで全都道府県が千円を超える。
 小委員会メンバーは労働者と経営者の代表、調整役を担う公益委員の3者。上げ幅を巡る調整が難航し、44年ぶりに7回目までもつれた。中央審議会は4日夜、福岡資麿厚労相に目安を答申した。

最低賃金改定のポイント

最低賃金の2025年度改定のポイントは次の通り。
 一、改定額の目安は全国平均で6・0%、63円アップ。
 一、時給の平均は現在の1055円から1118円に。
 一、上げ幅、額ともに過去最高。
 一、各地方審議会が目安通りに改定すれば、初めて全都道府県で時給千円超。

地方審議会の判断焦点 最低賃金改定

 【解説】労働者の暮らしを守る最低賃金は、2025年度改定額の目安がまとまり、今後は都道府県単位の地方審議会による実際の改定額の議論が本格化する。政府は目安を超えて引き上げた地域に財政支援すると予告しており、どのような判断を下すのかが焦点だ。
 目安を定めるのは厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会。目安を参考に実際の改定額を決めるのは、厚労省の地方出先機関、都道府県労働局が設置する地方最低賃金審議会だ。目安が50円だった前回24年度改定では、徳島県の審議会が34円を上乗せし、84円とした。上乗せが10円未満だったほかの都道府県に比べ突出しており、全国に衝撃を与えた。
 石破茂首相は5月に官邸で開いた政労使会議で「国の目安を超えた都道府県には特別な対応をする」と表明した。地方審議会が目安を上回る改定をした場合、当該の都道府県庁が人件費増となる地元の事業者を支援できるよう、既存の自治体向け交付金を拡充する案が想定される。詳細は今後決まる見通しだ。
 首相は最低賃金(時給)の全国平均を20年代に1500円とする目標を掲げており、財政支援は24年度の徳島県のような例を増やす狙いがある。さらに都道府県によっては、知事が大幅アップを働きかける場合があり、地方審議会は強い圧力にさらされている。

赤沢氏水面下で大幅増要求 終盤に「介入」、禍根も

 最低賃金の2025年度改定では議論の終盤になって、赤沢亮正賃金向上担当相が水面下で大幅な引き上げを繰り返し求めたとされる。経営者と労働者の代表らが改定額の目安を決めるため、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会で詰めの議論をしていた最中だった。政府内では「前代未聞の政治介入」「禍根を残しかねない」との批判の声が出ている。
 複数の政府関係者らによると、赤沢氏は7月末、小委員会で議論されている引き上げ水準が不十分だとして、大幅アップへ調整するよう厚労省幹部に要求。6回目の小委員会が開かれた8月1日午前には、中小企業団体の役員らと非公式に面会した。この団体からは、職員が小委員会に委員として参加していた。
 最低賃金は法律に基づき①労働者の生計費②賃金③企業の支払い能力―の3要素を考慮して決める。経営者と労働者、公益委員(有識者)の3者で構成される小委員会が改定額の目安を議論し、政府側は議論に参加しないのが通例となっている。
 政府関係者は「改定額の目安は3者が決めるものであって、閣僚ではない」と説明する。赤沢氏の動きに3者が反発し、議論は一時停滞したという。小委員会は44年ぶりとなる7回目にもつれ込んだ。
 石破茂首相は昨年、全国平均額の「20年代に1500円」という目標を打ち上げた。「首相の最側近」とされる赤沢氏は経済再生担当相などを兼務し、最低賃金を含む賃上げの必要性を繰り返し主張している。

目安超える引き上げ支援 首相、最低賃金巡り

 石破茂首相は4日、最低賃金の2025年度改定額目安の決着を受けた各地方の取り組みについて「国の目安を超えて引き上げる場合には、重点支援を講じたい。賃上げ支援のための政策を総動員したい」と強調した。官邸で記者団の取材に応じた。
 全国平均6・0%アップの決着は「20年代に全国平均1500円という石破内閣の高い目標に配慮しながら、データに基づく真摯(しんし)な議論が行われた」と評価した。「賃上げが成長戦略の要との理念、取り組みが着実に浸透し、効果を上げている」と述べ、今後も努力を続ける考えも示した。

妥当な引き上げ水準 識者談話

 第一生命経済研究所の星野卓也(ほしの・たくや)主席エコノミストの話 足元の賃金上昇や物価高騰を踏まえると、引き上げ額の目安が63円(6・0%)となったのは妥当な水準だ。「2020年代に1500円」という政府目標は大胆で、毎年7%を超える引き上げが必要になる。大幅な引き上げが続くと、特に中小企業は価格転嫁ができず、正社員を含めた企業全体の賃上げが難しくなるだろう。政府は企業に対して、賃金を上げられる体質をつくるための支援が求められる。省力化や企業再編の後押しを進めていくべきだ。

官製賃上げ賛成できない 識者談話

 北海道大の安部由起子(あべ・ゆきこ)教授(労働経済学)の話 最低賃金の改定は近年、政府や都道府県知事の関与が強まっている。政府は「2020年代に1500円」という目標を定め、一部知事は引き上げを働きかけている。現行制度は公労使を代表する委員が金額を審議する。賃金は労使間交渉で決めるという考え方に基づいており、政府や知事が関与する「官製賃上げ」には賛成できない。政府目標の1500円は近年の上げ幅からすれば、かなり高い目標。実現が難しければ、固執せず柔軟に見直すべきだ。

最低賃金

 雇用主がパートやアルバイトを含む全ての労働者に支払う賃金の下限額。下回ると罰金が科される。厚生労働省の出先機関、都道府県労働局が設けた地方最低賃金審議会が毎年度、金額を改定する。中央最低賃金審議会が定めた目安のほか、労働者の生計費、賃金、企業の支払い能力の3要素を考慮する。海外の主要国に比べて低い水準や、都道府県間の格差が課題となっている。

(2025/08/05)

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