訴訟・登記2025年08月03日 理由なき減刑、最高裁苦言 「一審尊重」メッセージも 強盗致傷、異例の補足意見 提供:共同通信社

 強盗致傷事件の公判で、事実認定や証拠構造は同じなのに一審と二審で量刑が異なり、最高裁が補足意見で苦言を呈する異例のケースがあった。被告に有利だったことから高裁の結論自体は支持したものの、理由を示さず減刑した高裁判断を「問題がある」と厳しく指摘し、「一審尊重」の姿勢も強調した。公判はどのような経緯だったのか―。
 事件は宮城県多賀城市で2021年に発生。被告(51)は路上で高齢女性の顔などをゴムハンマーで殴り、財布が入ったリュックサックを奪ったとして起訴された。裁判員裁判で審理された一審仙台地裁の公判で、被害女性は「事件を思い出しフラッシュバックする」との医師の診断を基に出廷せず、代わりに地裁は捜査段階の女性の供述調書を証拠採用し、23年9月、被告に懲役11年の判決を言い渡した。
 24年8月の二審仙台高裁判決は、女性が本当に出廷できないのかを検討し、一審はその検討が不十分だったとして違法とした。しかし、高裁として医師の尋問などを実施し、女性は法廷で証言できないため調書には証拠能力があると、改めて認定。結果として地裁と同様の犯罪事実を認めたが、懲役9年に減刑した。
 これに対し、最高裁第3小法廷は7月の決定で無罪を主張していた被告の上告を棄却。その上で、地裁が判断した時点で調書を証拠採用する要件を満たしていたとし、高裁の手続きを「刑事訴訟法の解釈適用を誤り違法だ」と指摘した。
 さらに渡辺恵理子(わたなべ・えりこ)裁判長と平木正洋(ひらき・まさひろ)裁判官は補足意見で、高裁が実質的な理由を示さず地裁と異なる量刑を言い渡した点が問題だとした。「一審の量刑判断を尊重する考え方は、裁判員制度導入の議論を通じ積み重ねられてきた共通認識だ」と述べ、これと相いれない結果になりかねないことが懸念されるとした。
 ベテラン刑事裁判官は「各地の高裁の裁判官に対するメッセージだ」と話している。

(2025/08/03)

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