一般2025年08月08日 震災裁判記録55件特別保存 有識者評価「教訓残った」 岩手・宮城・福島の地裁 提供:共同通信社

2011年の東日本大震災、東京電力福島第1原発事故に関連して岩手、宮城、福島の被災3県で起こされた訴訟で、各地裁(支部を含む)がこれまでに55件の裁判記録を永久に残す「特別保存」としたことが、共同通信の取材で7日までに分かった。識者は「重要な教訓が残った」と評価する一方で、保存された記録は限定的だとして拡充に向けた基準の見直しを求めている。
特別保存には史料や参考資料の価値がある裁判記録を国民の財産として後世に引き継ぐ目的があり、震災の他に旧優生保護法下の強制不妊を巡る国家賠償訴訟(仙台地裁)も対象になっている。
3県の地裁が特別保存した件数は盛岡55件、仙台82件、福島68件の計205件。このうち震災関連は55件で全体の4分の1余りを占めた。内訳は盛岡が12件、仙台が9件、福島が34件。
津波被害を巡っては、162人が亡くなったとされる岩手県釜石市の鵜住居(うのすまい)地区防災センターや、町長ら多くの町職員がのまれた大槌町の旧役場庁舎の解体差し止め、送迎バスの園児らが犠牲になった宮城県石巻市の日和幼稚園などの裁判記録が保存された。原発事故では避難を余儀なくされた福島県民らが国や東電を訴えた複数の集団訴訟の他に、古里を追われることを苦にした自殺、高線量下の廃炉作業、農地汚染を原因とする裁判などが対象となった。
被災後に体調を崩すなどして亡くなった人の遺族が災害関連死の認定を求めた行政訴訟も複数あった。夫を亡くし、岩手県陸前高田市と争った元原告川澄恵子(かわすみ・けいこ)さん(60)の記録も保存された。川澄さんは当時の思いや審理で積み上げた事実が残ることで「今後、自分と同じ立場の遺族は、私がどう闘ったかを参照できる」と話す。ただ「災害関連死は1人として同じ事例はない」とし、可能な限り全ての関連訴訟の保存を求めた。
仙台地裁によると、児童74人と教職員10人が津波の犠牲となった宮城県石巻市立大川小を巡る国家賠償訴訟も近く保存対象になる予定という。
一方、1995年の阪神大震災では神戸地裁管内の関連訴訟で特別保存された例は1件もなく、ほぼ全ての裁判記録が廃棄されたとみられている。
重大事態の裁判全件保存を 識者談話
裁判記録の廃棄問題に詳しい上智大の奥山俊宏(おくやま・としひろ)教授(ジャーナリズム論)の話 東日本大震災や東京電力福島第1原発事故に関する裁判の尋問調書や陳述書などは、被災者の生の声が詰まった重要な1次情報だ。研究の史料や取材の素材となり得るもので、教訓を抽出でき、後世に歴史を引き継げる。ただ、保存された記録はごく一部に過ぎない。東日本大震災など歴史上重要な事態について、裁判所は無名の訴訟も含め全件保存するべきだ。
裁判記録の特別保存
訴状や審理過程の文書を全てとじた裁判記録は、通常の民事裁判の場合、判決確定や和解の後に一審の裁判所が5年間保存する。「史料または参考資料」に当たるものは裁判所長が特別保存と認定し、永久に残すことになっている。判決文は別扱いで50年保存。2019年以降、長沼ナイキ基地訴訟などの著名な憲法裁判や、神戸連続児童殺傷事件といった重大少年事件の記録が特別保存されず廃棄されていたことが判明した。最高裁は2023年、特別保存に関する規則を新設して史料価値のある裁判記録を「国民共有の財産」と明示し、一般からの要望も受け付けて保存を進めている。
(2025/08/08)
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