行政・財政2025年12月01日 日本に「スパイ防止法」は必要か、既存の法律で対処できない犯罪行為とは 高市政権誕生で現実味 提供:共同通信社

「スパイ防止法」制定を主張する自民党の高市早苗氏が首相に就任。連立を組む日本維新の会も支持しており、その制定がより現実味を帯びている。日本・世界の防諜問題に詳しく、警視庁公安部捜査官で諜報事件捜査に従事した経験を持つ日本カウンターインテリジェンス協会・稲村悠代表理事に現状と課題を聞いた。(共同通信=太田清)
―国の重要情報を守るスパイ防止法については、既に取り締まる法律があり、その強化で十分との考えもある。自民党総裁選でも高市氏が必要とする一方、茂木敏充前幹事長(当時)、林芳正官房長官(同)が「現時点で必要ない」とするなど意見が分かれた。
「日本には既に、安全保障に係る重要情報を保護対象とする特定秘密保護法、営業秘密を対象とする不正競争防止法、経済安全保障の重要情報へのアクセス権限を制限するセキュリティー・クリアランス制度などがある。特定秘密保護法などでは外国の利益を図る目的で脅迫したり人を欺いたりして情報を取得した場合、罰するよう規定されており、情報を守る法律は整備されている」
「一方で、これらの法律で欠けている点として、重要情報を探す行為については罰則化されていない。例えば外国の情報機関員が重要情報入手のために国家公務員と接触、情報について尋ねるなどした場合などがある。こうした行為を立件できれば、情報の漏えいを未然に防止できる可能性が高まるが、探知行為をどう定義するかの難しさは残る」
―政治的誘導、選挙介入などの外国勢力の工作活動を取り締まる法律を望む声も強い。
「特に整備されていないのは影響力工作への対処だ。その一つが、エージェント(外国代理人)法だ。外国勢力の代理人が日本でロビー活動や広報・PR活動など政治的影響を与える行為を行う場合、その登録を義務づけるもので、米国では同法で中国政府の秘密警察拠点の関係者を摘発するなど活用されている。その必要性については与党内でも合意が得られており、議論の余地は少ないだろう」
―しかし、同様の法律を持つロシアでは、当局の気に入らない個人・団体をスパイとほぼ同義の「外国エージェント」に指定、活動を制限する恣意的運用が指摘されている。
「対象行為や団体を曖昧に定義してしまうと、恣意的運用が懸念される。登録の必要のある活動の定義や要件をしっかり示して透明化を図るとともに、報告義務や審査・監査制度が合わせて必要となる。この法律は外国代理人による活動の透明化を図る法律であり、国民にとってもメリットがある」
「仮装身分捜査の対象拡大や行政通信傍受の整備などは検討すべきだろう。しかし、そもそもスパイ摘発は防諜の一部に過ぎない。相手の活動を検知し、解明する『探知』といった活動も重要で、それは警察だけではなく公安調査庁や自衛隊などが大きく貢献している」
「これらの活動に基づきスパイ行為を公的機関が一定程度公開し、暴露することでその活動のけん制につなげるということも考えていくべきだ。米英や台湾では分析された信頼できる情報が積極的に公開されている。ただし、公開することで日本の防諜能力がある意味暴露されることにもつながるため、慎重にならざるを得ない部分もある」
「防諜全体で考えると、警察によるスパイの摘発だけではなく、執行権を持たない情報組織による探知能力の強化も見据える必要があり、だからこそ対外情報機関の創設も含めたインテリジェンス機能強化も求められる」
―高市首相はかつてスパイ防止法に関して「(同法がないことで)中国の『反スパイ法』で逮捕された日本人を、スパイ交換という手段で救うこともできない」と指摘していた。スパイ防止に関する法律整備が将来的にスパイ交換に結びつく可能性はあるのか。
「相手がスパイ交換に応じざるを得ない対象者を、民主主義国家として正当な理由で摘発できるかどうかが問われるだろう」
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いなむら・ゆう 1984年生まれ。大学卒業後、警視庁入庁。退職後、情報活動やサイバー攻撃対策を啓発する一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会代表理事に就任。企業の技術流出対策を支援するFortis Intelligence Advisory株式会社を設立。
(2025/12/1)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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