一般2025年12月12日 全国27市区町村で「外国人1割社会」が現実に、住民比率トップは北海道占冠村の36% 背景に働き手不足、「背に腹は代えられない」と雇い主【多文化共生企画】 提供:共同通信社

日本に住む外国人が急増している。国の研究機関の推計では、2070年に外国人が総人口の10・8%を占めるようになる見通しだ。こうした中、住民基本台帳のデータから全国の自治体の外国人住民比率を計算したところ、27市区町村では今年1月時点で既に10%を超えていたことが分かった。比率トップは北海道占冠村の36・6%だ。
全国レベルでの1割社会の到来時期は2070年から早まる可能性も出ている。「外国人1割社会」では、いったいどんな生活が待っているのか。未来を先取りした地域を歩いてみた。(共同通信=渋谷菜七、鈴木快生、大根怜)
▽急増に戸惑いも
伊勢湾を望む人口4713人の愛知県飛島村。今年1月時点で人口に占める外国人の割合は501人(10・6%)に達し、全国有数の大きさだ。仕事が終わる夕方ごろに通りを歩くと、作業服を着て自転車に乗る外国人たちとすれ違う。休日は路線バスの乗客の半数近くが外国人のこともある。
「ここ数年で一気に増えた」。住民はこう口をそろえる。安定した雇用の確保に悩む中小企業の頼みの綱として、技能実習や特定技能の資格で工場などで働く人が急増したとみられる。中古車販売に携わる外国人も増えている。
住民の反応はさまざまだ。
農家の女性(54)は好意的に受け止める。「庭の手入れに外国人が来てくれた。気持ちのいいあいさつをして、一生懸命働いてくれた」と話す。農家の男性(78)も「外国人が急激に増えたが、特にトラブルは感じたことがない」
一方、中には車のマナーなどを守らない外国人がいるとして不満を抱く住民もいる。
自営業の女性(75)は「人手不足で、働いてくれるのはありがたい」としつつも「日本のルールを学ばない外国人が増えるのではないかと不安」と吐露する。無職の女性(83)は「環境が急に変わっていくことが何となく怖い」と急増への戸惑いも口にした。
それでは、実際に外国人労働者が働く現場に行ってみよう。
▽毎月12万~15万を仕送り、自分で使うのは数万円
名古屋港にほど近く倉庫や工場が立ち並ぶ地区を抜けると、のどかな田園に囲まれたトビシマ製作所がある。冷熱機器の部品製造を手がけ、従業員21人のうち4人が技能実習や特定技能の資格で働くベトナム人だ。
伊藤秀樹社長(73)は、働きぶりをこう評価する。「貴重な戦力、宝だ。辞められたら会社が立ち行かない」。4人は切削加工などの作業に従事している。
伊藤さんによると、飛島村に住む日本人の若者は都市部へ出て行き、働き手が見つからない。雇っても、1年で辞める人もいた。
「会社の将来を考えたら、若い日本人が働いてくれた方が絶対にいいが、そういうわけにもいかない。背に腹は代えられなかった」
人づてにベトナム人の勤勉さを知り、2017年に受け入れを開始した。一生懸命働く姿を見て、順次増やしていった。給料やボーナスなど待遇は日本人従業員とほとんど変わらないという。
4人のベトナム人は会社の敷地内で共同生活を送る。中には、お金を稼ぎ、ベトナムに残る家族に仕送りをするため来日した人もいる。グエン・マイン・ハーさん(28)は、トビシマ製作所で約6年間働く。毎月12万~15万円を仕送りし、自分で使うのは2万~3万円ほどだ。「仕事は楽しい。できるなら日本でずっと働きたい」と話した。
▽全国で35万人増
飛島村のように、外国人住民が多い地域はどのくらいあるのだろうか。全国1892市区町村について、今年初めの住民基本台帳人口を集計してみた。比率が最も高いのは北海道占冠村で住民1590人中582人(36・6%)だった。代表的なリゾート地「トマム」で多くの外国人従業員が働いている。
外国人住民比率が20%を超えたのは、占冠村のほかは北海道赤井川村、大阪市生野区、群馬県大泉町、北海道倶知安町で、5区町村に上った。10%超は27市区町村で、工業地帯や観光地のほか、古くから永住者が多かった地域もある。
ゼロは青森県西目屋村など2村だった。
在留外国人統計を見ると、全国の在留外国人は2024年末時点で376万人。前年比35万人増となり、過去最大の伸びを記録した。
日本に住む外国人の数を巡っては、1960年代まではおおむね60万人台で推移していた。1990年施行の改正入管難民法によって日系人らが定住者として暮らせるようになり、増加傾向が明確になった。リーマン・ショックによる解雇、帰国で減った後、再び増加した。新型コロナ禍による落ち込み後の現在は第3次の拡大期に当たる。
▽働き手不足の急場
国の研究機関、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は日本の未来の人口を予測している。社人研が公表した最新の将来推計では、2070年の総人口は現在から大幅に減り8700万人を割り込む。この推計で外国人については、2040年ごろまでは毎年16万人ほど増加し、2070年には10%を超えると算出した。
しかし足元の現実は違う。外国人の増加数は2022年から前年比30万人増のペースで推移し、2024年には35万人に上った。
今年7月末に外国人の出入国を所管する鈴木馨祐法相(当時)が「2040年ごろには(外国人の割合が)10%を超えることも想定しておかなくてはならない」との見解を示した。社人研の推計より30年程度早まるとの見立てだ。
日本の働き手不足は向こう十数年特に厳しくなる。推計では、日本人の15~64歳の人口は2020年から2040年の20年間で、1500万人が減る現役世代の急減期となる。少子化が推計を上回るスピードで進む現状があり、仮に今から少子化が反転しても働き手不足の「急場」に間に合わない形だ。人工知能(AI)活用による省力化も期待されるものの、外国人頼みの局面が続く可能性がある。
▽議論本格化
高市早苗首相が日本維新の会と連立する政権は外国人の規制を掲げる。所信表明演説でこう強調した。「一部の外国人による違法行為やルール逸脱に対し、不安や不公平を感じる状況が生じている」
一方、専門家からは人口推計や労働力不足を踏まえた方向性を探るべきだという声もある。
福井県立大の佐々井司教授(人口学)はこう話した。
「日本は既に外国人との共生なしには存続できない社会。足元の課題を直視すべきだ。外国人が労働力としてうまく定着できる土壌は日本社会にとってメリットが大きい」
外国人受け入れを巡って、これからの日本社会をどう描くか。今後、こうした議論が本格化していく。
(2025/12/12)
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