不動産登記2025年12月21日 まさかのSOS、弁護士会が「危機に瀕しています」…背筋が寒くなるその真相 「容疑者」に駆け付ける弁護士が激減、「冤罪」を生む恐れ 提供:共同通信社

もしあなたが突然、警察に逮捕され、家族にも職場にも連絡が取れないまま、混乱した状態でいきなり取り調べが始まったら…。誤認逮捕だと自分では分かっていても、冷静に対応するのは難しい。捜査員の誘導する通りに供述させられ、意に沿わない内容の調書にサインしてしまうかもしれない。
そしてそれが証拠となり、冤罪につながる可能性もある。実際、過去の冤罪事件にはそうやって生まれたものもある。
そうした事態を防ぐために「当番弁護士」は存在する。逮捕直後に駆け付け、最初は無料で相談に応じる。今後の手続きの流れや、対処方法などを助言してくれる。各地の弁護士会が運営し、登録した弁護士に待機日を割り当て、依頼があり次第駆け付ける。
今、この制度に登録している弁護士が激減している。日弁連によると、2024年は全国で登録割合が32・3%と最低になった。弁護士自体の人数は増えているのにだ。一体、刑事弁護の現場で何が起きているのか。(共同通信=大根怜)
▽「やっていられない」
大阪市の法律事務所で働く40代の女性弁護士は今春、当番弁護士の登録を外れた。約15年前に弁護士になった当初は使命感に燃え、大みそかに留置場に駆け付けたこともある。
だが子育てが忙しくなり、仕事との両立すら簡単でなくなってきた。勤務時間内に留置場まで出向かねばならない当番弁護士を続けるのは難しくなった。報酬の少なさもネックだ。当番弁護士はそのまま国選弁護人になることが多い。起訴から公判、判決まで早くても数カ月かかるのに、得られる報酬の総額は10万~20万円程度という。とても見合う金額ではない。
「やっていられない」
弁護士仲間のメーリングリストでも「登録をやめました」と報告する声があがったという。
ただ制度自体の必要性は理解している。「どんな容疑者でも、弁護を受ける権利はある」。負担の重さに応じた形になって欲しいだけだ。具体的には、当番の割り当て回数に上限を設けたり、報酬が上がったりすること。改善されるのなら再登録も考えたい。
「留置場に行くだけでもかなりの時間と労力。たとえばモニター越しに容疑者と話ができる『ウェブ接見』が実現すれば、かなり引き受けやすくなると思う」
▽大阪弁護士会の悲痛な叫び
7月、約5千人の弁護士が所属する大阪弁護士会の会員に森本宏会長名のメールが出回った。タイトルは「緊急事態宣言!!助けて!!刑事当番!!」。
内容は、悲痛な叫びに満ちていた。当番制度への登録者が3年間で約500人減り、日々の当番の割り当ても厳しくなったとして、少なくとも300人程度の新規、もしくは追加登録が必要として、こう訴えている。「制度が危機に瀕しています。あなたの助けが必要です!」
SNSなどを通じて弁護士らの間で話題となった。しかし、前述の女性弁護士は突き放す。「こうなるのは想定内だった」
大阪弁護士会が「緊急事態」に陥ったのには独自の事情もある。
刑事弁護委員長を務める水谷恭史弁護士によると、大阪弁護士会は3年ほど前から新人の研修を厳格化した。
先輩弁護士に付いて容疑者の接見に行く実地研修などを必須とした。また、当番日に出動を断ることが同じ年度内に複数回あると、「警告」を出す仕組みも作った。
厳格化したのには理由がある。「当番弁護士を推薦する以上、一定の基準を設ける必要がある。少なくともある程度の知識やテクニックを身につけてもらわないといけない」(水谷弁護士)。加えて「『今日は忙しい』と断ったり、電話に出なかったりといったモラルハザードが散見され、歯止めをかける必要があった」
ところが、これが現場の反発を招く。実地研修を受けない人が続出。警告に対してもこんな不満の声が上がり、登録を外す人が続出した。
「ただでさえ労働生産性の低い仕事を半ば使命感でやっていたのに、『お前はいい加減だ』みたいな言い方をされるのか」
事態を重く見た大阪弁護士会は厳格化を見直した。しかし、それだけでは根本的な解決にならない。水谷弁護士はこう説明する。
「弁護士が手弁当でやることを前提としている制度は、根本的におかしい。刑事弁護に対する国の支援がなさ過ぎる」
▽「1人当たりの負担が重くなり、悪循環に」
日弁連の統計を見ると、大都市ほど当番制度への登録割合が低い。一方でまだ8割以上を維持している弁護士会もあるが、こちらも安泰ではない。
登録割合が89・1%と全国トップだった福井弁護士会の幹部は現状をこう語る。「本当に活動しているのは6、7割ではないか」
登録しても実際は稼働しない高齢会員がいるためだ。育児などの事情から「割り当てを減らしてほしい」と要望されることも珍しくなくなったという。
さらに、地方は新たに来る弁護士自体が少ない。新人の多くは大都市の大規模事務所などに流れ、福井に来るのは「毎年1~2人くらい」。
登録はほぼ全員がしてくれるが、先行きは不安だという。「心もとない。高齢会員が引退すれば登録者が減り、1人当たりの負担が重くなる悪循環に陥るのでは」
登録割合が87・0%で2番目に高かった愛媛弁護士会のベテラン弁護士によると、当番を割り当てても「今は難しい」と断る人が少なくないという。
「昔は当番を義務だと思っていたが、今は『やりたい人がやればいい』という考えの人が増えている」
▽司法の「救急車」だった
かつては、起訴されるまで国選弁護人を付けることができなかった。このため、お金のない容疑者は何の法的助言も得られないままに取り調べを受け、意に沿わない供述調書を作られることも珍しくなかった。
そうした問題を改善するために、英国の制度を参考にして当番弁護士制度はできた。設立に関わった村岡啓一弁護士は当時を振り返る。
「当初は『司法の救急車』という位置付けだった。刑事事件に詳しくなくても、全員が担うものだという使命感があった」
しかし、最近は時代の移り変わりを感じている。「裁判員制度などが始まって刑事弁護の専門化が進んだ。当番もそうした刑事のプロに任せればいい、という考えが広まってきたのではないか。今後どうすべきか、真剣に議論しなければならない」
▽「弁護士が来るまでが勝負」
弁護士会の苦境を尻目に、捜査機関側は対策を進めている、と刑事弁護のベテラン弁護士が語る。最近は「弁護士が来るまでが勝負」と、逮捕直後から取り調べを急ぐようになってきたという。
容疑者には当然、黙秘権があり、供述調書に署名する義務もない。しかし、それらの権利を知らないまま署名したり、早々にスマートフォンのパスワードなどを提出してしまったりする人が後を絶たないという。知的障害などが原因で捜査員に誘導されやすい「供述弱者」はその傾向が顕著であることは言うまでもない。
一般社団法人「刑事司法未来」代表理事の石塚伸一弁護士も制度の重要性を強調する。
「刑事事件では弁護士の関与が早ければ早いほど良い。逮捕直後に当番弁護士が駆け付ければ、警察も強引な取り調べはできなくなる。当番制度が捜査機関に対する抑止力になっている側面もある」
【取材後記】
SNSで「当番弁護士制度が危ない」という話題を目にしたのが取材のきっかけだった。日弁連や弁護士会の関係者は「当番制度は重要」と口をそろえるものの、どうすれば登録者数を回復できるのか、打開策が見つからずに手をこまねいている様子。弁護士の「刑事弁護離れ」は予想以上に深刻だと感じた。
憲法34条は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない」と定めている。この条文を体現したともいえる当番制度の維持は本来、国が責任を持つべきものではないだろうか。日弁連や弁護士会に対策を任せるのはもはや限界だろう。国費で支えていくのがあるべき姿だと考えている。
(2025/12/21)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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