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事例にみる 遺言能力判断の考慮要素-心身の状況、遺言の内容、合理性・動機等-
著/平田厚(明治大学専門職大学院法務研究科教授・弁護士)
概要
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商品情報
- 商品コード
- 81260456
- ISBN
- 978-4-7882-9209-3
- ページ数
- 292
- 発行年月
- 2023年4月
目次
序 章 考え方と傾向
1 全体的な考え方
2 第1章における傾向
3 第2章における傾向
4 第3章における傾向
第1章 認知症が軽度~中等度の場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔1〕 遺言作成後のHDS-Rが15点であった遺言者につき、養子縁組無効確認調停申立てがなされ、それをきっかけとして遺言を作成した旨の手紙が残されており、本件遺言が遺言能力を欠いていたものであるとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔2〕 遺言者は特定不能の認知症との診断を受けており、遺言作成後には遺言者に成年後見開始審判がなされている事案で、各種の能力診断テストが実施されており、能力が保持されていることがうかがわれるとともに、財産を勝手に処分した長男を廃除して、長女に全財産を相続させるとした遺言の有効性が認められた事例
〔3〕 遺言者は認知症との診断を受けているものの、遺言前のMMSEが20点であるなど比較的高い点数となっており、その後に能力低下を示すような経過は認められないため、関係の深かった妹の家族に財産を相続させ、関係の希薄であった兄たちの家族には財産を相続させないとする遺言の有効性が認められた事例
〔4〕 独身で子のない遺言者がアルコール性肝硬変で救急搬送され、その時点でのHDS-Rは13点であり、その2か月後に長年の愛人の長男に財産を遺贈する公正証書遺言を作成し、その20日後に死亡したという事案で、遺言者の意識レベルは保たれており、遺言内容も単純で不自然な点はないことから、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔5〕 遺言者の子の間で、任意後見発効に対する保佐開始審判申立ての対抗措置、連れ去りに対する人身保護請求の対抗措置など多くの紛争が生じた事案で、遺言者の遺言前後のHDS-Rの点数は26~14点と比較的軽度のレベルに安定していたため、意思能力を欠いていたとはいえないと判断された事例
〔6〕 遺言者が4つの遺言を残し、一度は全部撤回しているため、共同相続人間で遺言能力が争われたものの、頻繁にMMSEやHDS-Rが実施されており、遺言者の認知症は中等度にとどまっていることがエビデンスとして示され、遺言内容も比較的単純で被告を廃除する内容も異常ではないとして、いずれの遺言も有効と判断された事例
〔7〕 遺言者が全財産を長男に相続させるという遺言を残したため、二男がその効力を争ったものの、二男は夫の兄と養子縁組をしており、特別受益を受けている上、一度実施されたHDS-Rで遺言者の認知症は軽度であることがエビデンスとして示され、遺言内容も単純で動機にも合理性があるとして、遺言は有効と判断された事例
〔8〕 夫の相続について二女と争いになった遺言者が、全財産を三女の子(養子縁組もしている)に相続させるという遺言をなしたため、二女が遺言能力を争ったものの、遺言4か月前に実施されたMMSEは15点、HDS-Rは14点と比較的高い点数であり、遺言内容の単純性と合理性も考慮して、遺言は有効と判断された事例
〔9〕 父親と孫との養子縁組について、孫の親である長男と長女・二女との間に法的紛争が継続していたところ、最終的には父親と長男との関係が悪化したことにより、長女と二女に相続させる旨の遺言が作成されたため、長男が遺言者である父親の遺言能力を争ったものの、遺言は有効と判断された事例
〔10〕 長女と二女ら(二女と養子で二女の夫)との間で、5通作成された遺言が有効か無効か争いとなった事案で、MMSEは17点であったものの、鑑定書で軽度との診断が記載されており、遺言の内容は一貫しており、長女にも遺産を分けてあげたいと考えたとしても不自然ではないとして、全ての遺言が有効と判断された事例
〔11〕 長男への特別受益の持戻しを免除した自筆証書遺言について、長女が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが14~16点、MMSEが18点であった上、遺言内容も複雑ではなく、内容も不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔12〕 妹4人に遺産を平等に相続させるという遺言を撤回し、1人の妹の長女と養子縁組して、その養子に当たる孫に遺産を相続させるという2通の遺言を作成したため、他の妹が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが17点であり、遺言内容も単純で、医院を継いでもらう目的で不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔13〕 遺言者が甥に対して自宅以外の不動産を負担付遺贈した遺言につき、遺言者の妻が無効を争った事案において、遺言の1年ほど前に実施したHDS-Rは24点で非認知症と診断され、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔14〕 遺言者が子と子の妻及び養子縁組をした孫とに均等に遺産を相続させるとした遺言につき、遺言者の子が無効を争った事案において、遺言の2年半前に実施したHDS-Rは23.5点で、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔15〕 遺言者が内縁の妻に銀行預金等を遺贈した遺言につき、遺言者の子らが遺言の無効を争った事案において、遺言の2年前に実施したHDS-Rは12点であったが、その後、遺言時にはHDS-Rが15点に改善していた上、遺言内容は単純で不自然とはいえないとして、遺言能力が欠けていたとはいえないと判断された事例
〔16〕 遺言者が孫のいない子に4分の1、孫のいる子に4分の3と相続分を指定した遺言につき、4分の1とされた子が遺言能力を争った事案につき、相続分の指定は複雑なものではなく、孫に資産を残したいという動機も了解可能なものであるとして、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔17〕 遺言直前に行われたMMSEは22点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、動機も不自然であるとはいえないのであって、遺言後に実施されたMMSEでも20点となっているため、認知症の程度は軽度であるといえ、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔18〕 遺言4か月後に行われたHDS-Rは19点・MMSEは20点、9か月後のHDS-Rも18点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえず、遺言者が変更理由を遺言に付言として記載しているものであるとして、遺言の有効性が認められた事例
〔19〕 遺言者はずっと要介護1の認定を受けており、遺言前にはHDS-Rが20点であったが、遺言直後に行われたHDS-Rが12点に低下していたことや遺言がひらがなで誤字もあることから、遺言能力が争われた事案で、遺言者が意思能力を保持していると思われるトピックを認定し、遺言内容も比較的単純であることなどから、遺言者は遺言能力を有していたと認められた事例
〔20〕 遺言前に行われたHDS-Rも15点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、心情としても理解し得るものであって、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言が有効性が認められた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔21〕 遺言書作成の前後でHDS-Rが20点から11点に低下しており、遺言内容や動機に照らして、遺言者が被害妄想に支配されていたと認定し、遺言能力を否定した事例
〔22〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられていることを知っていながら、それを無視して遺言作成を行ったという事案で、HDS-Rは13点とされているものの、遺言内容は単純なものとはいえず、動機も明確でなく被告の上記態度は消極的に作用するとして、遺言能力を否定した事例
〔23〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられており、遺言作成の2か月後のHDS-Rは14点と比較的高かったものの、3か月後にはHDS-Rは4点と著しく低下した事案で、遺言者が全財産を妻に相続させるとの遺言で補充遺言までしていたにもかかわらず、全財産を子の一人に相続させると変更した合理性は認められず、自己の財産を認識できていなかったとして、遺言能力を否定した事例
〔24〕 遺言書作成の2年半前に実施された認知症スケールの結果は13点と認知症は中等度であったものの、その後の心身の状況変化によって判断能力が著しく低下したものとして、遺言能力を否定した事例
〔25〕 遺言書作成の4か月前のHDS-Rは15点、1か月前は14点と比較的高かったものの、遺言者には被害妄想等があり、遺言内容に合理性を欠いていることから、誘導によって遺言を書かされた可能性も否定できないとして、遺言能力を否定した事例
〔26〕 遺言書作成の7か月前のHDS-Rは13点、6か月後も13点と比較的高く安定していたものの、遺言者には暴力行為などの問題行動もあり、遺言内容は被告の意思内容が反映されたものにすぎないとして、遺言能力を否定した事例
〔27〕 遺言書作成の3か月後のMMSEは15点であったが、遺言者の感情は不安定で被害妄想的な言動もあり、遺言内容は複雑なものであって、被告が自ら主導して策定したものであると評するほかないとして、遺言能力を否定した事例
〔28〕 遺言書作成の2日前のHDS-Rは13点であったが、ボヤ騒ぎによる老人ホームへの一時入所期間中、被告宅に一時外泊中に本件遺言が作成され、その内容には被告の意思が強く表れており、被告の影響で作成され、遺言者には遺言能力が欠けていたと判断した事例
〔29〕 遺言書作成前に実施された2回の認知症スケールの結果は19点であったものの、記憶障害や物盗られ妄想が著しくなっているのであり、動機についても遺言を変更するようなわだかまりがあったとはいえないとして、遺言能力を否定した事例
〔30〕 遺言作成時に認知症の周辺症状である徘徊や不潔行為が見られ、認知症スケールの結果では認知症は中等度であるものの、遺言の内容は相当複雑なものを含んでいる上、被告に有利なものとなっているため、被告の誘導による作成と推認されるとし、遺言能力が失われていたとされた事例
第2章 認知症が中等度~重度の場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔31〕 遺言作成9か月前のHDS-Rは14点であったが、遺言作成の8か月後のHDS-Rは8点という低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、その低い点数は遺言作成後の脳内出血による著しい能力低下とみるべきものとして、遺言作成時に遺言能力がなかったとはいえないとされた事例
〔32〕 遺言作成2か月前のHDS-Rは8点、MMSEは11点と非常に低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、その低い点数は遺言者の拒否的態度によるものとし、遺言内容や動機から遺言作成時には遺言能力を欠くほどの程度ではなかったとされた事例
〔33〕 遺言作成2か月前のHDS-Rは8点と非常に低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、遺言者は意思疎通が十分可能な状態にあったとして、遺言内容や動機の合理性から、遺言作成時に遺言能力を欠く状態であったとは認めがたいとされた事例
〔34〕 HDS-Rが6点である等は特別な心身状況を前提としたものであって、これらの検査が転所までの期間のように落ち着いた心身の状況でされたとは認められないとし、遺言の内容自体が複雑であるとまではいえず、遺言者には遺言についての知識と作成意欲があったこと、遺言者が被告に相続させると公証人に答えたこと、遺言者が自らの署名の誤りに気付き、訂正した上で署名をしていることからすると、本件遺言が遺言者の意思に基づくものであることは十分に認められるとして、遺言能力が認められた事例
〔35〕 遺言作成前後のHDS-Rが7~11点、MMSEが8~10点と低い点数であったが、原告らが遺言者の金庫の鍵や通帳・印鑑を勝手に持ち出すなどの感情対立がある中で、同居して介護している長女夫婦(長女の夫とは養子縁組)に対して財産を相続させるとする遺言を作成するのは、内容が単純であるとともに合理的な動機があったとし、遺言作成1年2か月後でも保佐相当の診断があったことから、遺言者は遺言作成時に意思能力を欠いた状態ではなかったとして、遺言を有効とした事例
〔36〕 遺言作成5か月後のMMSEが16点、1年1か月後のHDS-Rが8点と低い点数であったが、遺言者は特養入所中に意思疎通に問題がなく活動的に過ごしていたことからすると、日常的な意思決定は可能であったとし、遺言内容も同居してかわいがっていた孫に全財産を遺贈するという内容は単純で合理性があるとして、遺言を有効とした事例
〔37〕 遺言作成1年3か月前から1年1か月前のHDS-Rがいずれも6点、MMSEが11点・10点と低い点数であったが、遺言者は既に成年後見開始審判を受けており、民法973条に従って医師2人が立ち会い、遺言者の意思能力を確認してなされた公正証書遺言につき、遺言内容は平易で動機に不自然・不合理はないとして、遺言を有効とした事例
〔38〕 遺言作成3か月後のHDS-Rが4点、8か月後が0点と著しく低い点数であったが、遺言者の健康状態や遺言の作成状況、遺言の内容や動機に問題はなかったとして、遺言能力がなかったとはいえないとした事例。なお、遺言者は韓国籍であり、国際裁判管轄と準拠法も問題となっている。
〔39〕 遺言作成3年前に遺言者は保佐開始審判を受けており、遺言作成2か月前にHDS-Rが7点と低かった事案において、HDS-Rは本人の警戒心等による拒否的態度が起因した可能性があり、遺言者の心身の状況や遺言の単純性などから、遺言時の認知症が重度であったとはいえないとして、遺言は無効とはいえないと判断された事例
〔40〕 遺言作成の翌年にMMSEが15点と低く、また、成年後見開始審判もなされた事例につき、判断能力が不十分となったのは遺言作成後であり、遺言時には判断能力には問題がなかったとされた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔41〕 成年後見開始審判の申立てと開始審判の間に自筆証書遺言が作成され、遺言作成の2週間前のHDS-Rが1点、MMSEが8点と著しく低かった事案において、遺言の内容は単純であるものの、あえて原告を遺産配分から除外する合理性はないことなどから、遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔42〕 遺言作成の3日前のHDS-Rが21点と高かった一方、遺言作成6か月後のHDS-Rが4点と急激に低下しているものの、遺言内容は被告に全財産を相続させるという単純なものであった事案において、原告X2に遺産を相続させないという合理性はなく、被告の意図が反映されたものだとして、遺言能力はなかったと判断された事例
〔43〕 遺言作成の2~3か月前のHDS-Rが9~10点と低いものの、遺言内容は二男である被告に自宅の土地建物を相続させるという単純なものであった事案において、遺言作成2か月後に成年後見開始審判がなされたことを重視して、遺言は無効と判断された事例
〔44〕 遺言作成の1か月後のHDS-Rが10点と低いものの、遺言内容は長女である被告に全財産を相続させるという単純なものであった事案において、被告の夫が保管していた印章を用いており、長女である被告に一方的に有利な内容であることから、遺言作成に被告らが積極的に関与したと推認して、遺言は遺言能力を欠いて無効と判断された事例
〔45〕 平成18年遺言は遺言作成の10日後のMMSEが17点と低い状態であったというものであり、平成19年遺言は遺言者について成年後見開始審判が申し立てられた3か月後に作成されたものであったという事案において、遺言者は、遅くとも平成18年遺言が作成された段階で判断能力を欠く状態にあったとして、平成18年遺言も平成19年遺言も遺言能力を欠いて無効と判断された事例
〔46〕 遺言作成の2か月前のHDS-Rが9点と低い状態であったというものであり、財産の受益相続人夫婦がビデオ撮影を行って、遺言者の遺言能力の証拠を残そうとした結果、かえって撮影内容が遺言者の遺言能力を失っていることを示し、受益相続人夫婦が誘導することによって遺言が作成されたものと認定し、遺言能力を欠いており遺言は無効と判断された事例
〔47〕 遺言作成の18日前に任意後見契約に基づく任意後見監督人が選任されており、しかも遺言作成の約2年前のHDS-Rが9点と低い状況において遺言が作成されたため、お世話になっている被告を差し置いて遺言者の弟妹たちに相続させるという内容の遺言は、遺言能力を欠いており遺言は無効と判断された事例
〔48〕 遺言作成の5日前に実施されたHDS-Rが11点と低い状態であり、遺言当時に記憶障害や見当識障害が著しくなっていたと認定された遺言者について、遺言内容は単純で動機にも一定の合理性は認められるものの、自己の死亡後に紛争に発展することが想定されたにもかかわらず、そのような事態になることを望んでいたとは認め難いとして、遺言能力を欠く状態にあったため、遺言は無効と判断された事例
〔49〕 遺言作成の3~4か月前に実施されたHDS-Rが7~10点、遺言作成1か月後のHDS-Rは9点と、いずれも低い状態にある中で作成された公正証書遺言の遺言能力が争われた事案で、遺言内容が多くの資産を多くの子や孫に傾斜的に分配するという複雑な内容であることから、遺言者にそのような遺言をする能力はなかったと判断された事例
〔50〕 遺言作成の直前に実施されたHDS-Rが17点と比較的高い点数が残っているが、その信ぴょう性には問題があり、遺言者の周辺症状等に照らせば、遺言者の認知症は重度の状態になっていたとして、遺言内容が面倒を見てきた養女に全財産を相続させるという単純なもので動機も不合理ではないにしても、先行遺言を撤回して正面からそれに抵触する遺言を作成する能力はなかったと判断された事例
〔51〕 遺言作成の5か月前に実施されたHDS-Rが11点、遺言作成20日~1か月後のHDS-Rは11~10点以下と、いずれも低い状態にある中で公正証書遺言が作成されたため、遺言能力が争われた事案で、遺言内容が単純なものではないし、妻が死亡したことを理解していないにもかかわらず、妻の相続分に配慮されていないのは不自然・不可解であることから、遺言者の遺言能力を欠いた状態で作成されたと判断された事例
〔52〕 遺言作成の1年8か月前に実施されたHDS-Rが8点と非常に低く、物盗られ妄想などの周辺症状が出ている状態で遺言が作成されたため、遺言能力が争われた事案で、遺言内容が比較的高度なものであり、遺言者は遺言文案すら見ておらず、遺言の内容に何らの能動的な反応も見せていなかったため、遺言者の遺言能力はなかったと判断された事例
〔53〕 遺言作成の11か月前に実施されたHDS-Rが11点と低く、遺言当日の心身の状況も悪化していたという事案で、遺言内容は被告に全財産を相続させるという単純なものであるものの、被告との関係は、自己の経営する会社の債務について遺言者を無断で連帯保証人としたなど芳しいものではなかったが、原告らとは何らの問題もなかったにもかかわらず、そのような遺言を作成するのは不自然であるとして、遺言者は遺言能力を有していなかったと判断された事例
〔54〕 遺言作成の3年前からHDS-Rが9~11点と低く、問題行動などの周辺症状が出ている状態で、既に遺言作成の2年4か月前には任意後見監督人が選任されて任意後見契約が開始していた事案で、遺言内容は単純なものであるものの、遺言者は遺言の意味を理解する能力を有していなかったと判断された事例
〔55〕 遺言作成の15日前に実施されたHDS-Rが9点、遺言当日のHDS-Rが7点と低く、被告に遺産の全てを相続させ、原告には何も相続させない内容の遺言をする理由となるべき具体的事情はうかがわれないとして、その内容の合理性に疑問を投げかけ、遺言者は遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔56〕 平成9年に土地を原告に相続させるとした遺言を変更し、平成13年に土地を被告Y1に相続させるとした遺言の有効性が問題となった事案で、平成13年には中等度以上に認知症が進行しており、遺言内容も簡単ではなく、強固な意思で平成9年遺言を作成したのに、それを変更する合理性はないとして、平成13年遺言を無効と判断した事例
〔57〕 相続人の一人が自分に遺産全部を相続させる旨の遺言を遺言者に作成させ、遺言作成状況をビデオ撮影して遺言の有効性を立証しようとしたところ、かえって遺言者に遺言能力がないとの事実認定となり、当該遺言が無効と判断された事例
〔58〕 遺言者が6つの遺言書を作成した事案において、平成26年遺言の時点では、認知症が中等度から重度となっており、遺言の内容もひらがなで記載されて合理性も欠いていたとされ、遺言能力を欠いていたものと認定し、それ以降の遺言についても遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔59〕 複数の遺言書が作成されているものの、その1年半前には遺言者の認知症は少なくとも中等度には至っており、その後も認知症が進行していたのであって、遺言書の内容の難解性や合理性に照らして、いずれの遺言も無効であると判断された事例
〔60〕 認知症スケールは実施されていないものの、本人の発言等から判断能力がかなり低下していたと思われる状況で、合理的に作成されていた先行遺言を全部撤回するという本件遺言が作成されたという場合、内容が複雑・難解でないとしても、遺言者の認知力・判断力が著しく低下していたものと認められるとして、遺言能力が否定された事例
第3章 認知症の程度が不明な場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔61〕 遺言作成の時点で、認知症スケール等は実施されていないが、本人の心身の状況に関して認知症が重度に進行していたという証拠はなく、遺言内容は理解困難なものでなく、被告に有利な内容になっているとしても不合理不自然とはいえないとして、遺言者には遺言能力があったものと認められるとされた事例
〔62〕 遺言作成の時点で、認知症スケール等は実施されていないが、本人の心身の状況に関して診療記録では何も問題がなく、遺言内容も難しいものでないし、動機にも不合理なところはないとして、遺言者の意思能力には問題がなかったとされた事例
〔63〕 遺言作成の3か月ほど前の時点で、HDS-Rが実施されたものの、本人の抵抗感・拒否反応が強く、その評点は参考にならないため、遺言者の認知症の程度は不明であるが、遺言者の心身の状況は認知症が悪化していたというものではなく、遺言の内容も複雑なものでない上、内容も合理性がないとはいえないとして、遺言者が遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔64〕 入院中に2つの公正証書遺言が作成されたことにつき、先妻の子が後妻や後妻の子を相手に、遺言者の遺言能力を争った事案で、認知症スケールは実施されていないが、看護記録から遺言者の心身の状況に問題となるようなことがなかったことがうかがわれ、遺言の内容も複雑なものでない上、内容も何ら不合理とはいえないとして、遺言者が遺言能力を有していなかったとまでは認められないとされた事例
〔65〕 認知症スケールが実施されていないところ、看護記録では、遺言作成の3か月ほど前に、遺言者が意識障害を呈していた言動が見られたが、その1か月後には意識障害の記載は見られなくなった上、晩年の入院治療を支援して遺言者を看取った妹らに全財産を相続させるという遺言内容は、単純で不合理なものとはいえないため、遺言能力がなかったとは認められないとされた事例
〔66〕 認知症スケールの実施結果は明確でないところ、第一審判決ではせん妄があったことを重視して遺言能力を否定したが、それだけでは遺言能力を否定できないし、遺言内容も格別複雑なものではなく、動機も不自然・不合理ではないとして、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔67〕 躁うつ病であった行政書士が遺言を作成し、知人に対して全財産を全部包括遺贈するとしたことにつき、遺言者の姉が躁病相の影響下でなされた遺言能力を欠く遺言であると争った事案で、躁病相で遺言能力を欠く状態であったとは認められず、遺言の動機も不合理ではないとして、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔68〕 大腸がんで入院した後、遺言者が公正証書遺言を作成したが、その5か月後に自筆証書遺言で内容を変更したことにつき、遺言者の長男が遺言能力を欠いていたと争った事案で、入院中の経過記録によれば遺言者の心身の状況にそれほどの変化はなかったとして、遺言内容の単純性や合理性も考慮し、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔69〕 遺言作成時に91歳と高齢でアルツハイマー型認知症であり、遺言作成当時の心身の状況が分からないとしても、遺言の内容は難解なものではなく、その内容にも合理性が認められるものであるため、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔70〕 遺言作成時の認知症の程度は明確でないが、単身生活をして業務も行っており、遺言の内容は単純なもので、遺言内容を理解することが可能な程度の遺言能力はあったとされた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔71〕 遺言作成時の遺言者が認知症であり、妄想や見当識障害が生じていたのであり、遺言内容は簡単なものであっても、先立つ遺言の内容が変遷しており、その変遷内容に合理的理由も見当たらず、真意をうかがい知ることができないため、遺言は無効であるとされた事例
〔72〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関する記録があまりないが、被告である長女の手帳の記載に信用性があるとして、主治医意見書などと共にエビデンスとして認め、遺言者が内容を理解して遺言を作成したものとは認められないとされた事例
〔73〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関する記録があまりないが、見当識障害が著しかったことがうかがわれ、遺言内容も10の不動産の帰属先を定め、代償金の負担まで定めるという複雑なものである事案で、遺言者は意思能力を有していなかったとされた事例
〔74〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、診断書等で記憶障害や見当識障害が指摘されており、遺言内容は相続人に平等に相続させるという比較的単純なものであるが、遺言者は相続人の数や名前も判然としておらず、先になされていた公正証書遺言を変更する動機がうかがわれないとして、遺言者は遺言能力を有していなかったとされた事例
〔75〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、せん妄などがみられていたが、後継ぎである長男が急逝したため、更に衰弱した状態となったところ、問題となった遺言の内容は、従前の遺言を全部撤回して被告に基本的に相続させるというものであり、遺言者がそのように翻意する合理的理由はなく、被告は遺言者の長男の妻を排除するために遺言作成前日に遺言者宅の玄関の鍵を勝手に交換するなどの行為をしたため、遺言内容も作成経緯も遺言者の真意に基づくとはいえないとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔76〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、認知症の程度を示す直接的なエビデンスはないものの、短期記憶にも長期記憶にも障害があり、日常生活上の意思決定ができない状態になっていたとして、1人の子に不動産を相続させるという遺言につき、不動産の持分等の所有関係を理解する判断力を失っていたとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔77〕 二男の行く末を案じて第1遺言を作成したにもかかわらず、その8か月後の入院中に、二男を排除して長男家族が相続財産を取得する第2遺言が作成されていたため、第2遺言の遺言能力が争われた事案につき、遺言作成時の遺言者の精神状態、第2遺言作成後の遺言者の言動、第2遺言の内容の複雑さ、第1遺言の内容とそれを変更する動機等を総合的に検討して、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔78〕 重い失語状態にある遺言者に関して、成年後見開始審判の申立て後に作成された2通の公正証書遺言につき、遺言者の二女が第1遺言及び第2遺言の遺言能力を争った事案につき、遺言作成時の遺言者の失語状態では意思表示が極めて難しかった上、遺言内容も相当に複雑であるとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔79〕 遺言作成4か月後のMMSEの結果が22点と比較的高かったにもかかわらず、遺言者の認知症がかなり進行しており、物盗られ妄想に強く影響されて遺言が作成されたことが明らかであるとして、遺言者には、遺言当時、遺言能力はなかったものと認められた事例
〔80〕 遺言作成時に94歳と高齢でアルツハイマー型認知症であり、遺言作成の前後には短期記憶や見当識に欠けることがあり、徘徊、物盗られ妄想、尿失禁、不適切な着衣等の症状が見られ、本件遺言の内容が相続人によって取得することになる遺産の種類が異なっている上、相続人が取得することになる本件マンションの共有持分割合が3名とも異なっており複雑な面を有すること等の事情を総合すれば、遺言能力はなかったものと認められた事例
1 全体的な考え方
2 第1章における傾向
3 第2章における傾向
4 第3章における傾向
第1章 認知症が軽度~中等度の場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔1〕 遺言作成後のHDS-Rが15点であった遺言者につき、養子縁組無効確認調停申立てがなされ、それをきっかけとして遺言を作成した旨の手紙が残されており、本件遺言が遺言能力を欠いていたものであるとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔2〕 遺言者は特定不能の認知症との診断を受けており、遺言作成後には遺言者に成年後見開始審判がなされている事案で、各種の能力診断テストが実施されており、能力が保持されていることがうかがわれるとともに、財産を勝手に処分した長男を廃除して、長女に全財産を相続させるとした遺言の有効性が認められた事例
〔3〕 遺言者は認知症との診断を受けているものの、遺言前のMMSEが20点であるなど比較的高い点数となっており、その後に能力低下を示すような経過は認められないため、関係の深かった妹の家族に財産を相続させ、関係の希薄であった兄たちの家族には財産を相続させないとする遺言の有効性が認められた事例
〔4〕 独身で子のない遺言者がアルコール性肝硬変で救急搬送され、その時点でのHDS-Rは13点であり、その2か月後に長年の愛人の長男に財産を遺贈する公正証書遺言を作成し、その20日後に死亡したという事案で、遺言者の意識レベルは保たれており、遺言内容も単純で不自然な点はないことから、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔5〕 遺言者の子の間で、任意後見発効に対する保佐開始審判申立ての対抗措置、連れ去りに対する人身保護請求の対抗措置など多くの紛争が生じた事案で、遺言者の遺言前後のHDS-Rの点数は26~14点と比較的軽度のレベルに安定していたため、意思能力を欠いていたとはいえないと判断された事例
〔6〕 遺言者が4つの遺言を残し、一度は全部撤回しているため、共同相続人間で遺言能力が争われたものの、頻繁にMMSEやHDS-Rが実施されており、遺言者の認知症は中等度にとどまっていることがエビデンスとして示され、遺言内容も比較的単純で被告を廃除する内容も異常ではないとして、いずれの遺言も有効と判断された事例
〔7〕 遺言者が全財産を長男に相続させるという遺言を残したため、二男がその効力を争ったものの、二男は夫の兄と養子縁組をしており、特別受益を受けている上、一度実施されたHDS-Rで遺言者の認知症は軽度であることがエビデンスとして示され、遺言内容も単純で動機にも合理性があるとして、遺言は有効と判断された事例
〔8〕 夫の相続について二女と争いになった遺言者が、全財産を三女の子(養子縁組もしている)に相続させるという遺言をなしたため、二女が遺言能力を争ったものの、遺言4か月前に実施されたMMSEは15点、HDS-Rは14点と比較的高い点数であり、遺言内容の単純性と合理性も考慮して、遺言は有効と判断された事例
〔9〕 父親と孫との養子縁組について、孫の親である長男と長女・二女との間に法的紛争が継続していたところ、最終的には父親と長男との関係が悪化したことにより、長女と二女に相続させる旨の遺言が作成されたため、長男が遺言者である父親の遺言能力を争ったものの、遺言は有効と判断された事例
〔10〕 長女と二女ら(二女と養子で二女の夫)との間で、5通作成された遺言が有効か無効か争いとなった事案で、MMSEは17点であったものの、鑑定書で軽度との診断が記載されており、遺言の内容は一貫しており、長女にも遺産を分けてあげたいと考えたとしても不自然ではないとして、全ての遺言が有効と判断された事例
〔11〕 長男への特別受益の持戻しを免除した自筆証書遺言について、長女が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが14~16点、MMSEが18点であった上、遺言内容も複雑ではなく、内容も不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔12〕 妹4人に遺産を平等に相続させるという遺言を撤回し、1人の妹の長女と養子縁組して、その養子に当たる孫に遺産を相続させるという2通の遺言を作成したため、他の妹が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが17点であり、遺言内容も単純で、医院を継いでもらう目的で不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔13〕 遺言者が甥に対して自宅以外の不動産を負担付遺贈した遺言につき、遺言者の妻が無効を争った事案において、遺言の1年ほど前に実施したHDS-Rは24点で非認知症と診断され、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔14〕 遺言者が子と子の妻及び養子縁組をした孫とに均等に遺産を相続させるとした遺言につき、遺言者の子が無効を争った事案において、遺言の2年半前に実施したHDS-Rは23.5点で、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔15〕 遺言者が内縁の妻に銀行預金等を遺贈した遺言につき、遺言者の子らが遺言の無効を争った事案において、遺言の2年前に実施したHDS-Rは12点であったが、その後、遺言時にはHDS-Rが15点に改善していた上、遺言内容は単純で不自然とはいえないとして、遺言能力が欠けていたとはいえないと判断された事例
〔16〕 遺言者が孫のいない子に4分の1、孫のいる子に4分の3と相続分を指定した遺言につき、4分の1とされた子が遺言能力を争った事案につき、相続分の指定は複雑なものではなく、孫に資産を残したいという動機も了解可能なものであるとして、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔17〕 遺言直前に行われたMMSEは22点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、動機も不自然であるとはいえないのであって、遺言後に実施されたMMSEでも20点となっているため、認知症の程度は軽度であるといえ、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔18〕 遺言4か月後に行われたHDS-Rは19点・MMSEは20点、9か月後のHDS-Rも18点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえず、遺言者が変更理由を遺言に付言として記載しているものであるとして、遺言の有効性が認められた事例
〔19〕 遺言者はずっと要介護1の認定を受けており、遺言前にはHDS-Rが20点であったが、遺言直後に行われたHDS-Rが12点に低下していたことや遺言がひらがなで誤字もあることから、遺言能力が争われた事案で、遺言者が意思能力を保持していると思われるトピックを認定し、遺言内容も比較的単純であることなどから、遺言者は遺言能力を有していたと認められた事例
〔20〕 遺言前に行われたHDS-Rも15点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、心情としても理解し得るものであって、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言が有効性が認められた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔21〕 遺言書作成の前後でHDS-Rが20点から11点に低下しており、遺言内容や動機に照らして、遺言者が被害妄想に支配されていたと認定し、遺言能力を否定した事例
〔22〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられていることを知っていながら、それを無視して遺言作成を行ったという事案で、HDS-Rは13点とされているものの、遺言内容は単純なものとはいえず、動機も明確でなく被告の上記態度は消極的に作用するとして、遺言能力を否定した事例
〔23〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられており、遺言作成の2か月後のHDS-Rは14点と比較的高かったものの、3か月後にはHDS-Rは4点と著しく低下した事案で、遺言者が全財産を妻に相続させるとの遺言で補充遺言までしていたにもかかわらず、全財産を子の一人に相続させると変更した合理性は認められず、自己の財産を認識できていなかったとして、遺言能力を否定した事例
〔24〕 遺言書作成の2年半前に実施された認知症スケールの結果は13点と認知症は中等度であったものの、その後の心身の状況変化によって判断能力が著しく低下したものとして、遺言能力を否定した事例
〔25〕 遺言書作成の4か月前のHDS-Rは15点、1か月前は14点と比較的高かったものの、遺言者には被害妄想等があり、遺言内容に合理性を欠いていることから、誘導によって遺言を書かされた可能性も否定できないとして、遺言能力を否定した事例
〔26〕 遺言書作成の7か月前のHDS-Rは13点、6か月後も13点と比較的高く安定していたものの、遺言者には暴力行為などの問題行動もあり、遺言内容は被告の意思内容が反映されたものにすぎないとして、遺言能力を否定した事例
〔27〕 遺言書作成の3か月後のMMSEは15点であったが、遺言者の感情は不安定で被害妄想的な言動もあり、遺言内容は複雑なものであって、被告が自ら主導して策定したものであると評するほかないとして、遺言能力を否定した事例
〔28〕 遺言書作成の2日前のHDS-Rは13点であったが、ボヤ騒ぎによる老人ホームへの一時入所期間中、被告宅に一時外泊中に本件遺言が作成され、その内容には被告の意思が強く表れており、被告の影響で作成され、遺言者には遺言能力が欠けていたと判断した事例
〔29〕 遺言書作成前に実施された2回の認知症スケールの結果は19点であったものの、記憶障害や物盗られ妄想が著しくなっているのであり、動機についても遺言を変更するようなわだかまりがあったとはいえないとして、遺言能力を否定した事例
〔30〕 遺言作成時に認知症の周辺症状である徘徊や不潔行為が見られ、認知症スケールの結果では認知症は中等度であるものの、遺言の内容は相当複雑なものを含んでいる上、被告に有利なものとなっているため、被告の誘導による作成と推認されるとし、遺言能力が失われていたとされた事例
第2章 認知症が中等度~重度の場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔31〕 遺言作成9か月前のHDS-Rは14点であったが、遺言作成の8か月後のHDS-Rは8点という低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、その低い点数は遺言作成後の脳内出血による著しい能力低下とみるべきものとして、遺言作成時に遺言能力がなかったとはいえないとされた事例
〔32〕 遺言作成2か月前のHDS-Rは8点、MMSEは11点と非常に低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、その低い点数は遺言者の拒否的態度によるものとし、遺言内容や動機から遺言作成時には遺言能力を欠くほどの程度ではなかったとされた事例
〔33〕 遺言作成2か月前のHDS-Rは8点と非常に低い点数であったため、遺言能力が争われた事案で、遺言者は意思疎通が十分可能な状態にあったとして、遺言内容や動機の合理性から、遺言作成時に遺言能力を欠く状態であったとは認めがたいとされた事例
〔34〕 HDS-Rが6点である等は特別な心身状況を前提としたものであって、これらの検査が転所までの期間のように落ち着いた心身の状況でされたとは認められないとし、遺言の内容自体が複雑であるとまではいえず、遺言者には遺言についての知識と作成意欲があったこと、遺言者が被告に相続させると公証人に答えたこと、遺言者が自らの署名の誤りに気付き、訂正した上で署名をしていることからすると、本件遺言が遺言者の意思に基づくものであることは十分に認められるとして、遺言能力が認められた事例
〔35〕 遺言作成前後のHDS-Rが7~11点、MMSEが8~10点と低い点数であったが、原告らが遺言者の金庫の鍵や通帳・印鑑を勝手に持ち出すなどの感情対立がある中で、同居して介護している長女夫婦(長女の夫とは養子縁組)に対して財産を相続させるとする遺言を作成するのは、内容が単純であるとともに合理的な動機があったとし、遺言作成1年2か月後でも保佐相当の診断があったことから、遺言者は遺言作成時に意思能力を欠いた状態ではなかったとして、遺言を有効とした事例
〔36〕 遺言作成5か月後のMMSEが16点、1年1か月後のHDS-Rが8点と低い点数であったが、遺言者は特養入所中に意思疎通に問題がなく活動的に過ごしていたことからすると、日常的な意思決定は可能であったとし、遺言内容も同居してかわいがっていた孫に全財産を遺贈するという内容は単純で合理性があるとして、遺言を有効とした事例
〔37〕 遺言作成1年3か月前から1年1か月前のHDS-Rがいずれも6点、MMSEが11点・10点と低い点数であったが、遺言者は既に成年後見開始審判を受けており、民法973条に従って医師2人が立ち会い、遺言者の意思能力を確認してなされた公正証書遺言につき、遺言内容は平易で動機に不自然・不合理はないとして、遺言を有効とした事例
〔38〕 遺言作成3か月後のHDS-Rが4点、8か月後が0点と著しく低い点数であったが、遺言者の健康状態や遺言の作成状況、遺言の内容や動機に問題はなかったとして、遺言能力がなかったとはいえないとした事例。なお、遺言者は韓国籍であり、国際裁判管轄と準拠法も問題となっている。
〔39〕 遺言作成3年前に遺言者は保佐開始審判を受けており、遺言作成2か月前にHDS-Rが7点と低かった事案において、HDS-Rは本人の警戒心等による拒否的態度が起因した可能性があり、遺言者の心身の状況や遺言の単純性などから、遺言時の認知症が重度であったとはいえないとして、遺言は無効とはいえないと判断された事例
〔40〕 遺言作成の翌年にMMSEが15点と低く、また、成年後見開始審判もなされた事例につき、判断能力が不十分となったのは遺言作成後であり、遺言時には判断能力には問題がなかったとされた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔41〕 成年後見開始審判の申立てと開始審判の間に自筆証書遺言が作成され、遺言作成の2週間前のHDS-Rが1点、MMSEが8点と著しく低かった事案において、遺言の内容は単純であるものの、あえて原告を遺産配分から除外する合理性はないことなどから、遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔42〕 遺言作成の3日前のHDS-Rが21点と高かった一方、遺言作成6か月後のHDS-Rが4点と急激に低下しているものの、遺言内容は被告に全財産を相続させるという単純なものであった事案において、原告X2に遺産を相続させないという合理性はなく、被告の意図が反映されたものだとして、遺言能力はなかったと判断された事例
〔43〕 遺言作成の2~3か月前のHDS-Rが9~10点と低いものの、遺言内容は二男である被告に自宅の土地建物を相続させるという単純なものであった事案において、遺言作成2か月後に成年後見開始審判がなされたことを重視して、遺言は無効と判断された事例
〔44〕 遺言作成の1か月後のHDS-Rが10点と低いものの、遺言内容は長女である被告に全財産を相続させるという単純なものであった事案において、被告の夫が保管していた印章を用いており、長女である被告に一方的に有利な内容であることから、遺言作成に被告らが積極的に関与したと推認して、遺言は遺言能力を欠いて無効と判断された事例
〔45〕 平成18年遺言は遺言作成の10日後のMMSEが17点と低い状態であったというものであり、平成19年遺言は遺言者について成年後見開始審判が申し立てられた3か月後に作成されたものであったという事案において、遺言者は、遅くとも平成18年遺言が作成された段階で判断能力を欠く状態にあったとして、平成18年遺言も平成19年遺言も遺言能力を欠いて無効と判断された事例
〔46〕 遺言作成の2か月前のHDS-Rが9点と低い状態であったというものであり、財産の受益相続人夫婦がビデオ撮影を行って、遺言者の遺言能力の証拠を残そうとした結果、かえって撮影内容が遺言者の遺言能力を失っていることを示し、受益相続人夫婦が誘導することによって遺言が作成されたものと認定し、遺言能力を欠いており遺言は無効と判断された事例
〔47〕 遺言作成の18日前に任意後見契約に基づく任意後見監督人が選任されており、しかも遺言作成の約2年前のHDS-Rが9点と低い状況において遺言が作成されたため、お世話になっている被告を差し置いて遺言者の弟妹たちに相続させるという内容の遺言は、遺言能力を欠いており遺言は無効と判断された事例
〔48〕 遺言作成の5日前に実施されたHDS-Rが11点と低い状態であり、遺言当時に記憶障害や見当識障害が著しくなっていたと認定された遺言者について、遺言内容は単純で動機にも一定の合理性は認められるものの、自己の死亡後に紛争に発展することが想定されたにもかかわらず、そのような事態になることを望んでいたとは認め難いとして、遺言能力を欠く状態にあったため、遺言は無効と判断された事例
〔49〕 遺言作成の3~4か月前に実施されたHDS-Rが7~10点、遺言作成1か月後のHDS-Rは9点と、いずれも低い状態にある中で作成された公正証書遺言の遺言能力が争われた事案で、遺言内容が多くの資産を多くの子や孫に傾斜的に分配するという複雑な内容であることから、遺言者にそのような遺言をする能力はなかったと判断された事例
〔50〕 遺言作成の直前に実施されたHDS-Rが17点と比較的高い点数が残っているが、その信ぴょう性には問題があり、遺言者の周辺症状等に照らせば、遺言者の認知症は重度の状態になっていたとして、遺言内容が面倒を見てきた養女に全財産を相続させるという単純なもので動機も不合理ではないにしても、先行遺言を撤回して正面からそれに抵触する遺言を作成する能力はなかったと判断された事例
〔51〕 遺言作成の5か月前に実施されたHDS-Rが11点、遺言作成20日~1か月後のHDS-Rは11~10点以下と、いずれも低い状態にある中で公正証書遺言が作成されたため、遺言能力が争われた事案で、遺言内容が単純なものではないし、妻が死亡したことを理解していないにもかかわらず、妻の相続分に配慮されていないのは不自然・不可解であることから、遺言者の遺言能力を欠いた状態で作成されたと判断された事例
〔52〕 遺言作成の1年8か月前に実施されたHDS-Rが8点と非常に低く、物盗られ妄想などの周辺症状が出ている状態で遺言が作成されたため、遺言能力が争われた事案で、遺言内容が比較的高度なものであり、遺言者は遺言文案すら見ておらず、遺言の内容に何らの能動的な反応も見せていなかったため、遺言者の遺言能力はなかったと判断された事例
〔53〕 遺言作成の11か月前に実施されたHDS-Rが11点と低く、遺言当日の心身の状況も悪化していたという事案で、遺言内容は被告に全財産を相続させるという単純なものであるものの、被告との関係は、自己の経営する会社の債務について遺言者を無断で連帯保証人としたなど芳しいものではなかったが、原告らとは何らの問題もなかったにもかかわらず、そのような遺言を作成するのは不自然であるとして、遺言者は遺言能力を有していなかったと判断された事例
〔54〕 遺言作成の3年前からHDS-Rが9~11点と低く、問題行動などの周辺症状が出ている状態で、既に遺言作成の2年4か月前には任意後見監督人が選任されて任意後見契約が開始していた事案で、遺言内容は単純なものであるものの、遺言者は遺言の意味を理解する能力を有していなかったと判断された事例
〔55〕 遺言作成の15日前に実施されたHDS-Rが9点、遺言当日のHDS-Rが7点と低く、被告に遺産の全てを相続させ、原告には何も相続させない内容の遺言をする理由となるべき具体的事情はうかがわれないとして、その内容の合理性に疑問を投げかけ、遺言者は遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔56〕 平成9年に土地を原告に相続させるとした遺言を変更し、平成13年に土地を被告Y1に相続させるとした遺言の有効性が問題となった事案で、平成13年には中等度以上に認知症が進行しており、遺言内容も簡単ではなく、強固な意思で平成9年遺言を作成したのに、それを変更する合理性はないとして、平成13年遺言を無効と判断した事例
〔57〕 相続人の一人が自分に遺産全部を相続させる旨の遺言を遺言者に作成させ、遺言作成状況をビデオ撮影して遺言の有効性を立証しようとしたところ、かえって遺言者に遺言能力がないとの事実認定となり、当該遺言が無効と判断された事例
〔58〕 遺言者が6つの遺言書を作成した事案において、平成26年遺言の時点では、認知症が中等度から重度となっており、遺言の内容もひらがなで記載されて合理性も欠いていたとされ、遺言能力を欠いていたものと認定し、それ以降の遺言についても遺言能力を欠いていたと判断された事例
〔59〕 複数の遺言書が作成されているものの、その1年半前には遺言者の認知症は少なくとも中等度には至っており、その後も認知症が進行していたのであって、遺言書の内容の難解性や合理性に照らして、いずれの遺言も無効であると判断された事例
〔60〕 認知症スケールは実施されていないものの、本人の発言等から判断能力がかなり低下していたと思われる状況で、合理的に作成されていた先行遺言を全部撤回するという本件遺言が作成されたという場合、内容が複雑・難解でないとしても、遺言者の認知力・判断力が著しく低下していたものと認められるとして、遺言能力が否定された事例
第3章 認知症の程度が不明な場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔61〕 遺言作成の時点で、認知症スケール等は実施されていないが、本人の心身の状況に関して認知症が重度に進行していたという証拠はなく、遺言内容は理解困難なものでなく、被告に有利な内容になっているとしても不合理不自然とはいえないとして、遺言者には遺言能力があったものと認められるとされた事例
〔62〕 遺言作成の時点で、認知症スケール等は実施されていないが、本人の心身の状況に関して診療記録では何も問題がなく、遺言内容も難しいものでないし、動機にも不合理なところはないとして、遺言者の意思能力には問題がなかったとされた事例
〔63〕 遺言作成の3か月ほど前の時点で、HDS-Rが実施されたものの、本人の抵抗感・拒否反応が強く、その評点は参考にならないため、遺言者の認知症の程度は不明であるが、遺言者の心身の状況は認知症が悪化していたというものではなく、遺言の内容も複雑なものでない上、内容も合理性がないとはいえないとして、遺言者が遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔64〕 入院中に2つの公正証書遺言が作成されたことにつき、先妻の子が後妻や後妻の子を相手に、遺言者の遺言能力を争った事案で、認知症スケールは実施されていないが、看護記録から遺言者の心身の状況に問題となるようなことがなかったことがうかがわれ、遺言の内容も複雑なものでない上、内容も何ら不合理とはいえないとして、遺言者が遺言能力を有していなかったとまでは認められないとされた事例
〔65〕 認知症スケールが実施されていないところ、看護記録では、遺言作成の3か月ほど前に、遺言者が意識障害を呈していた言動が見られたが、その1か月後には意識障害の記載は見られなくなった上、晩年の入院治療を支援して遺言者を看取った妹らに全財産を相続させるという遺言内容は、単純で不合理なものとはいえないため、遺言能力がなかったとは認められないとされた事例
〔66〕 認知症スケールの実施結果は明確でないところ、第一審判決ではせん妄があったことを重視して遺言能力を否定したが、それだけでは遺言能力を否定できないし、遺言内容も格別複雑なものではなく、動機も不自然・不合理ではないとして、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔67〕 躁うつ病であった行政書士が遺言を作成し、知人に対して全財産を全部包括遺贈するとしたことにつき、遺言者の姉が躁病相の影響下でなされた遺言能力を欠く遺言であると争った事案で、躁病相で遺言能力を欠く状態であったとは認められず、遺言の動機も不合理ではないとして、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔68〕 大腸がんで入院した後、遺言者が公正証書遺言を作成したが、その5か月後に自筆証書遺言で内容を変更したことにつき、遺言者の長男が遺言能力を欠いていたと争った事案で、入院中の経過記録によれば遺言者の心身の状況にそれほどの変化はなかったとして、遺言内容の単純性や合理性も考慮し、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔69〕 遺言作成時に91歳と高齢でアルツハイマー型認知症であり、遺言作成当時の心身の状況が分からないとしても、遺言の内容は難解なものではなく、その内容にも合理性が認められるものであるため、遺言能力を欠いていたとは認められないとされた事例
〔70〕 遺言作成時の認知症の程度は明確でないが、単身生活をして業務も行っており、遺言の内容は単純なもので、遺言内容を理解することが可能な程度の遺言能力はあったとされた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔71〕 遺言作成時の遺言者が認知症であり、妄想や見当識障害が生じていたのであり、遺言内容は簡単なものであっても、先立つ遺言の内容が変遷しており、その変遷内容に合理的理由も見当たらず、真意をうかがい知ることができないため、遺言は無効であるとされた事例
〔72〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関する記録があまりないが、被告である長女の手帳の記載に信用性があるとして、主治医意見書などと共にエビデンスとして認め、遺言者が内容を理解して遺言を作成したものとは認められないとされた事例
〔73〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関する記録があまりないが、見当識障害が著しかったことがうかがわれ、遺言内容も10の不動産の帰属先を定め、代償金の負担まで定めるという複雑なものである事案で、遺言者は意思能力を有していなかったとされた事例
〔74〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、診断書等で記憶障害や見当識障害が指摘されており、遺言内容は相続人に平等に相続させるという比較的単純なものであるが、遺言者は相続人の数や名前も判然としておらず、先になされていた公正証書遺言を変更する動機がうかがわれないとして、遺言者は遺言能力を有していなかったとされた事例
〔75〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、せん妄などがみられていたが、後継ぎである長男が急逝したため、更に衰弱した状態となったところ、問題となった遺言の内容は、従前の遺言を全部撤回して被告に基本的に相続させるというものであり、遺言者がそのように翻意する合理的理由はなく、被告は遺言者の長男の妻を排除するために遺言作成前日に遺言者宅の玄関の鍵を勝手に交換するなどの行為をしたため、遺言内容も作成経緯も遺言者の真意に基づくとはいえないとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔76〕 遺言作成時の遺言者の心身の状況に関しては、認知症の程度を示す直接的なエビデンスはないものの、短期記憶にも長期記憶にも障害があり、日常生活上の意思決定ができない状態になっていたとして、1人の子に不動産を相続させるという遺言につき、不動産の持分等の所有関係を理解する判断力を失っていたとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔77〕 二男の行く末を案じて第1遺言を作成したにもかかわらず、その8か月後の入院中に、二男を排除して長男家族が相続財産を取得する第2遺言が作成されていたため、第2遺言の遺言能力が争われた事案につき、遺言作成時の遺言者の精神状態、第2遺言作成後の遺言者の言動、第2遺言の内容の複雑さ、第1遺言の内容とそれを変更する動機等を総合的に検討して、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔78〕 重い失語状態にある遺言者に関して、成年後見開始審判の申立て後に作成された2通の公正証書遺言につき、遺言者の二女が第1遺言及び第2遺言の遺言能力を争った事案につき、遺言作成時の遺言者の失語状態では意思表示が極めて難しかった上、遺言内容も相当に複雑であるとして、遺言者は遺言能力を欠いていたとされた事例
〔79〕 遺言作成4か月後のMMSEの結果が22点と比較的高かったにもかかわらず、遺言者の認知症がかなり進行しており、物盗られ妄想に強く影響されて遺言が作成されたことが明らかであるとして、遺言者には、遺言当時、遺言能力はなかったものと認められた事例
〔80〕 遺言作成時に94歳と高齢でアルツハイマー型認知症であり、遺言作成の前後には短期記憶や見当識に欠けることがあり、徘徊、物盗られ妄想、尿失禁、不適切な着衣等の症状が見られ、本件遺言の内容が相続人によって取得することになる遺産の種類が異なっている上、相続人が取得することになる本件マンションの共有持分割合が3名とも異なっており複雑な面を有すること等の事情を総合すれば、遺言能力はなかったものと認められた事例
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