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2022年03月10日 更新
裁判官の異動履歴(官報から参照)や、その裁判官が扱った主な判決(裁判所ウェブサイトから引用)などを掲載し、随時更新しています。
※できる限り正確な情報を提供できるよう努めておりますが、誤りがないことを保証するものではありません。
判決日 2022年01月27日 令和3(ネ)77号
憲法53条違憲国家賠償請求控訴事件
広島高等裁判所 岡山支部 第2部
判示事項 1 事案の概要 本件は,他の衆議院議員119名と連名で平成29年6月22日に憲法53条後段に基づく臨時会召集決定を要求(本件召集要求)した衆議院議員である控訴人が,被控訴人に対し,内閣を加害公務員として,内閣が合理的期間内に召集を決定すべき義務に違反して本件召集要求後98日が経過するまで臨時会の召集を怠る加害行為(本件懈怠)をしたことによって,国会議員の権能行使を侵害されたと主張して,国家賠償法(国賠法)1条1項に基づき,慰謝料等110万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 争点に対する判断 憲法53条後段に基づく臨時会の召集要求があった場合において,内閣は,個々の国会議員に対し,国賠法1条1項適用上の職務上の法的義務として,臨時会の召集を行うことを決定する義務を負うか。 (1) 憲法53条後段の個々の国会議員における私益性の有無 国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するから,内閣がした本件懈怠が同項の適用上違法となるかどうかは,憲法53条後段に基づく臨時会召集要求を受けた内閣の行動が,個別の国民すなわちこれに参加した各個別の国会議員に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題である。当該各個別の国会議員の権利又は法律上保護された利益が侵害されたといえなければ,内閣が,当該各個別の国会議員との関係で職務上の法的義務に違反したということはできない。したがって,控訴人は,他の衆議院議員らとした本件召集要求をもって,主観的利益である国賠法上保護される権利利益を有するといえるかが問題となる。 憲法は,天皇が内閣の助言と承認によって国会を召集することとしているから(憲法7条2号),国会が国会として活動する会期を開始するためには召集を要するところ,憲法上定められている定期の常会(憲法52条),衆議院解散後の特別会(憲法54条1項)及び臨時の必要による臨時会(憲法53条)のうち,前2者は国会自身をして必要に応じた自律的な会期を開始するに足りる規定とはいえない。そこで,憲法53条は,まず,前段において「内閣は,国会の臨時会の召集を決定することができる」と規定し,天皇の召集に先行する臨時会の召集決定権を内閣総理大臣及びその他の国務大臣によって組織される内閣(憲法66条1項)に帰属させ,内閣による臨時会召集決定によって他律的に会期を開始させることを定めつつ,次いで,後段において「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば,内閣は,その召集を決定しなければならない」と規定し,実質的に国会をして自ら会期を開始して活動できるようにしたものと解される。もっとも,国会自身が自律的に会期を開始すべき行為をしようといっても,当然ながら会期前のことであり,その行為自体は形式的には国会の活動といえないことになる。そこで,憲法53条後段は,「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求」という一部少数の国会議員らによる意思形成の形式(国会法3条参照)を用いることによって,実質的に国会をして自律的に会期を開始させることができるようにしたというべきである。そうすると,憲法53条後段は,国会をして必要に応じて活動しうる権限を与えた趣旨の規定というべきであり,かつ,活動を開始する限りの国会の意思形成としては過半数でなく「4分の1以上」で足りるとすることによって,少数派の尊重をも図ったといえる。かくして,憲法53条は,前段で内閣が他律的に国会の会期を開始させ,後段で国会が自律的に会期を開始するという,内閣と国会の機関相互の権限分配を規定したものと統一的に理解することができる。このように解してこそ,憲法53条前段による臨時会も後段による臨時会も,国会の会期ないし活動として何らの異同もないことを自然に理解できるのであって,内閣が憲法53条後段に基づく臨時会召集要求に応じないときには,国会による自律的な活動の開始を妨げたものとして,国会ひいては全国民(憲法43条1項参照)に対して政治的責任を免れないということもできる。 そうすると,憲法53条後段に基づく臨時会召集要求権は,実質的に国会と内閣という機関相互間の権限の問題であり,これに参加した各個別の国会議員が,召集要求自体において,公益を離れ,あるいは公益に解消されない憲法上保障され又は保護されている権利利益(主観的利益である国賠法上保護される権利利益)を有しないというべきであるから,内閣が控訴人との関係で職務上の法的義務違背を生じることもないというべきである。 (2) 控訴人の国会活動の侵害の有無 控訴人は,本件懈怠によって,本件召集要求のほかに,控訴人の職業活動の自由(憲法22条1項),表現の自由(憲法21条)及び参政権(憲法15条)に基づく政治活動の自由の一環である国会活動という憲法上保障され又は保護されている権利利益が侵害されたと主張する。 しかしながら,本件懈怠と直接結びつく権利利益,換言すれば,本件懈怠が直接侵害したといえるのは,控訴人の国会活動ではなく,本件召集要求(憲法53条後段に基づく臨時会召集要求権)である。臨時会召集要求権が実質的に国会の内閣に対する権限であり,これによって召集されるべき臨時会において,控訴人とその余の議員が区別なく活動すること(憲法53条前段による臨時会と後段による臨時会は,国会の会期ないし活動として何らの異同もないこと)は既に説示したとおりであるから,控訴人の憲法53条後段による臨時会における国会活動が,憲法53条前段による臨時会と同様,格別に保護されるものでないことは明らかである。しかも,控訴人が侵害されたと主張する国会活動は,臨時会が召集されたならばなし得たであろう国会活動を指しているにすぎず,そこにおいては,本件召集要求をした議員達の求める事項についての優先的先議権があるわけでもなく,本件召集要求に参加しなかった他の議員達も本件召集要求をした議員達と全く同様の国会活動をすることができるものである。そうすると,控訴人が主張する国会活動の内容は,仮定的ないし抽象的な可能性をいうに留まっているといわざるを得ない。国賠法1条1項は,仮定的ないし抽象的な可能性を保護の対象にするものではないから,内閣が仮定的ないし抽象的な国会活動の可能性を有するに留まる控訴人との関係で職務上の法的義務違背を生じることもないというべきである。 3 結論 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとする。
結果 棄却
裁判長裁判官 塩田直也 裁判官 榎本康浩 裁判官 渡邉健司
(原審) 岡山地方裁判所 令和30(ワ)163号
判決文判決文は裁判所ウェブサイトへのリンクです。
判決日 2019年10月31日令和1(行ケ)1号
選挙無効請求事件
広島高等裁判所 岡山支部 第2部
判示事項 1 憲法は,投票価値の平等を要求しているものの,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,直ちに憲法に違反するとはいえない。 2 二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得る。また,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえない。 3 参議院議員の選挙について,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいわけではなく,投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる。しかし,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用した結果,投票価値の較差が衆議院議員選挙と比べて大きいものとなっても,そのことをもって直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとはいえない。 4 最高裁平成29年大法廷判決は,平成27年改正法について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差が2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小したこと,同改正法の附則で,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示され,再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮されていることを評価し,平成28年選挙における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないと判断した。 5 平成30年改正は,参議院選挙区選出議員の定数を2人増加して148人とした上で,2人を埼玉県に配分してその改選定数を4人とし,選挙区間の最大較差を2.985倍とし,参議院比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙において,名簿に予め順位を付する拘束式の特定枠を設けることができる制度を導入した。これは,参議院の会派の意見に隔たりがあり,大選挙区制を採用するなどの新たな選挙制度を設けるには時間的な制約もあり,本件選挙までに選挙制度の抜本的見直しを行うには困難な状況の中で,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめた平成27年改正に引き続き,平成29年大法廷判決を踏まえ,投票価値の較差を図るための現実的な選択肢として漸進的な是正を図ったものであり,平成27年改正法附則の「選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正」を考慮した改正といえる。 平成30年改正で,平成27年改正法附則の「選挙制度の抜本的見直し」がされたとはいい難いが,いかなる選挙制度によって憲法の二院制の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,国会の合理的な裁量に委ねられており,選挙制度の抜本的見直しが未だされていないからといって,直ちに,本件選挙について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない。 6 平成27年改正により,鳥取県,島根県,高知県及び徳島県が合区の対象とされたが,当時の国会の審議においても,それ以上の合区を創設することが困難であることは認識されていた。また,平成27年当時,合区の検討対象とされていた地方公共団体,全国町村会及び全国知事会等から,合区創設に反対し,都道府県単位の選挙区の維持を求める意見書が多数提出された。 平成28年選挙において合区された県の投票率は,島根県を除く各県で低下し,当時における過去最低の投票率を記録し,その無効投票率(当時)は,島根県を除いて全国平均を相当程度上回り,特に地元出身の候補者のいなかった高知県は全国で最高となった。本件選挙でも,徳島県の投票率は全国最低の約38.59%であり,鳥取県及び島根県でもそれぞれ過去最低の投票率を記録し,無効票率についても,ともに高知県出身の自民党と野党統一候補の事実上の一騎打ちとなった徳島県では全国平均である2.53%を大きく上回る最も多い6.04%を記録した。 これらのことからすると,平成30年改正において合区を更に設置しなかったことが国会の裁量の範囲を超えるとはいえないし,そもそも単に合区を増加させることが選挙制度の抜本的見直しとはいい難い。参議院の各会派の意見には隔たりがあり,新たな選挙制度を設けるためには更に慎重な検討を重ねる必要があるから,平成30年改正で選挙制度の抜本的見直しがされなかったとの一事のみで直ちに違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じているとはいえない。加えて,平成30年改正でも,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において,「今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと」についてその実現に努めるべきであること等を内容とする附帯決議がされ,引き続き選挙制度改革を進めるという立法府の意向が示され,再び以前のような大きな較差を生じさせることのないように配慮されている。 7 以上によれば,本件選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するとはいえないから,原告の請求には理由がない。
結果 棄却
裁判長裁判官 塩田直也 裁判官 榎本康浩 裁判官 西田昌吾
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判決日 2018年02月14日平成26(行ウ)16 号
群馬の森追悼碑事件
前橋地方裁判所 民事第1部
判示事項
結果
裁判長裁判官 塩田直也 裁判官 高橋浩美 裁判官 佐藤秀海
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