解説記事2007年06月18日 【編集部解説】 発行済株式の100%取得を目的としたTOBを伴う組織再編スキームにおける一般株主の課税関係について(2007年6月18日号・№215)
解説
発行済株式の100%取得を目的としたTOBを伴う組織再編スキームにおける一般株主の課税関係について
text T&Amaster編集部 佐治俊夫
株式公開買付(TOB)を伴う組織再編スキームを実施する公開企業が増加した感がある。TOBが100%子会社化を目的とする場合には、TOBという手法だけではTOB対象企業の発行済株式のすべてを取得することが保証されないため、TOB後の組織再編を併せて実施することが予定されている。
すなわち、TOBを含んだ組織再編スキームに遭遇した一般株主においては、TOBへの対応(選択)が、TOBに伴う課税関係・TOB後の組織再編に伴う課税関係の選択という側面を有することになる。
発行済株式の100%取得を目的とした①(株)レックス・ホールディングスを対象にしたTOB、②(株)インパクト二十一を対象にしたTOBを具体例にして、株主の選択・態様に応じた課税関係を検証してみたい。
Ⅰ(株)レックス・ホールディングスを対象にしたTOBとその後のスキーム
1.(株)レックス・ホールディングス(以下「対象企業」)の公開買付の概要 外食産業・コンビニエンスストア、高級食品スーパーなどを傘下におく(株)レックス・ホールディングス(TOB当時ジャスダック証券取引所に上場)は、マネジメント・バイアウト(MBO)の一環としてTOBを行った。アドバンテッジパートナーズが発行済株式のすべてを有する株式会社AP8を公開買付者とし買付価格1株230,000円でTOBしたところ、買付予定数135,421株を上回る198,801株の応募があり、応募株式全部の買付け等を行った。
レックスのTOBについては、TOBでの買付価格が安すぎるとして、TOBに応じなかった株主から裁判所に価格決定の申立てが行われるなど、TOBの問題点を浮き彫りにさせている。
2.TOBに応じた株主への課税関係
(1)株主が個人の場合 個人株主のTOBへの応募(決済)は、株式等の譲渡に該当し、申告分離課税が適用される。特定口座内保管上場株式については、特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例(措法37の11の3)が受けられる。
レックス事案は公開買付者と対象企業が異なる場合に該当するが、発行法人が株主への利益還元などを目的として、自己株式のTOBを行った場合の売却株主についても、平成21年3月31日までの譲渡については、みなし配当課税が適用されずに、対価全額について譲渡損益課税が適用される特例措置が設けられている(措法9の6)。
(2)株主が法人の場合 法人株主のTOBへの応募(決済)は、対価全額について譲渡損益課税が行われる。
レックス事案は公開買付者と対象企業が異なる場合に該当するが、発行法人が自己株式のTOBを行った場合の売却株主(法人)については、個人株主に設けられた全額を譲渡損益課税とする特例措置はなく、みなし配当課税と譲渡損益課税が行われる(法法24①四、③、法令23①四、③)。なお、みなし配当については、受取配当金の益金不算入(法法23)の適用が受けられる。
3.「反対株主の買取請求」を行った株主への課税関係 普通株式に全部取得条項を付す旨の定款変更を行うに際しては、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買取請求を行うことができる旨定められている(会社法116)。また株式買取請求があった場合の株式の価格の決定等の手続が定められている(会社法117)。この点について、レックス事案では、全部取得条項付株式の取得決議により割り当てられる株式が1株に満たないことから、公開買付者は、下記((株)AP8ニュースリリース参照)のように注意を喚起していた。
本稿では、課税関係に着目して解説を行うため、法的な問題はさておき、反対株主の買取請求が行われた場合の課税関係について、検討を進めることにする。
(1)株主が個人の場合 個人株主が行う会社法116条に規定する買取請求に基づく買取りについては、外形上は対象企業の自己株式の取得ということになる。
自己株式の取得については、原則として所法25条に定める金額についてみなし配当課税が適用されるが、証券市場における購入による取得その他一定の取得の場合にはみなし所得課税が適用されないことと規定されている(所法25①四、所令61①)。会社法116条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得に規定されていないため、その対価の額(交付を受けた金銭等の合計額)が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる(所法25)。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる(措法37の10)。
(2)株主が法人の場合 法人株主の会社法116条に規定する買取請求に基づく買取りについても、法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得(法法24①四、61条の2⑪一~三、法令23③)に規定されていないため、その対価の額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる(法法24)。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる(法法61の2)。
4.全部取得条項付種類株式の取得決議があった場合の課税関係 レックス事案では、全部取得条項付株式の取得の件について、(株)AP8(公開買付者)以外の株主に対して取得対価として割り当てられる新たな株式は1株未満の端数となる予定とされている。
会社法では、交付しなければならない株式の数に1株に満たない端数があるときは、その端数の合計数の株式を競売(又は売却)し、代金を交付しなければならないと規定している(会社法234)。
さらに、レックス事案では売却手続に関し、その端数の合計数の株式を、会社法234条2項の規定に基づく(株)AP8(公開買付者)への売却又は会社法234条4項の規定に基づく対象企業への売却を予定している。
(1)株主が個人の場合
① 全部取得条項付種類株式の取得決議の課税関係 個人株主が、全部取得条項付種類株式(ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会その他これに類するものの決議(「取得決議」)によってその全部の取得をする旨の定めがある場合のその種類の株式)を取得決議によりその取得の対価としてその取得をされる株主等にその取得をする法人の株式のみが交付される場合(その交付を受けた株式等の価額がその譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く)には、譲渡所得等の金額の計算については、その有価証券の譲渡がなかったものとみなすこととされている(所法57の4③)。
全部取得条項付種類株式の取得決議は、みなし配当課税の適用が除外されており(所法25①四、57条の4③三)、当該有価証券の譲渡がなかったものとみなされる(課税が繰り延べられる)。
② 一に満たない数の株式等の競売等による代金が交付された場合 さて、レックス事案では、公開買付者以外の株主に対しては、一に満たない数の株式の競売等による代金の交付が予定されているが、所得税法基本通達では一に満たない株式等の競売等による代金が交付された場合の取扱いを次頁(所基通57の4-2)のように明らかにしている。
この所基通57の4-2では、競売等による代金が交付された場合でも株式等が交付されたものとして、課税の繰延べを認めるが、その上で譲渡があったものとして譲渡損益課税が行われるものとして取り扱われる。また、レックスに端数の合計数を売却した場合には、自己株式の取得となるが、このような場合であっても、会社法234条4項による自己株式の買取りについてみなし配当課税から除くことを規定している(所令61①六)ため、当該一に満たない数の株式の売却代金については、みなし配当課税は行われず、譲渡損益課税が行われる。
(2)株主が法人の場合
① 全部取得条項付種類株式の取得決議の課税関係 法人株主が、全部取得条項付種類株式を取得決議によりその取得の対価としてその取得をされる株主等にその取得をする法人の株式のみが交付される場合(その交付を受けた株式等の価額がその譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く)には、その有価証券の譲渡に係る対価の額は、当該譲渡直前の帳簿価額とすることとされている(法法61の2①、⑪三)。
全部取得条項付種類株式の取得決議は、みなし配当課税の適用が除外されており(法法24①四、61条の2⑪三)、当該有価証券の譲渡損益課税は繰り延べられる。
② 1株未満の株式の代金を株主等に交付した場合 法人税法基本通達では1株未満の株式の代金を株主等に交付した場合の取扱いを次頁(法基通2-3-1)のように明らかにしている。
この法基通2-3-1では、代金が交付された場合でも、1株未満の株式を交付したものとして課税が繰り延べられるが、その上で譲渡があったものとして譲渡損益課税が行われる。また、法人税においても、会社法234条4項による自己株式の買取りについてみなし配当課税から除くことを規定している(法令23③六)ため、当該端数の株式の売却代金については、みなし配当課税は行われず、譲渡損益課税が行われる。
レックス事案においては、公開買付者以外の株主全員に対して1株未満の株式の代金が交付予定であることから、上記通達のただし書きの適用関係が懸念されるが、現時点での取材によると、ただし書きは租税回避事案への適用を対象としたものであり、レックス事案にまで適用されるものではないとのことである。
Ⅱ(株)インパクト二十一を対象にしたTOBとその後のスキーム
1.(株)インパクト二十一(以下「対象企業」)の公開買付の概要 大手ファッションアパレル業者である(株)オンワード樫山の子会社として設立され、「ラルフローレン」ブランドの婦人用及び紳士用の衣料品、装飾品等を全国の百貨店及び専門店に販売している(株)インパクト二十一(TOB当時東京証券取引所第1部上場)を対象に、ポロ・ラルフローレン・コーポレーション(米国デラウェア州法人)の100%子会社であるピー・アール・エル・ジャパン(株)が、ポロ社のブランド戦略の一環としてTOBを行うことになった。ポロ社は対象企業の発行済株式総数の約20%を保有し、オンワード樫山はその子会社と併せて対象企業の発行済み株式総数の約41%を保有していた。
このTOBにおいては、オンワード樫山及びその子会社がTOBに応募することについて、既に合意があり、対象企業の取締役会もTOBに賛同の意見を表明した。
TOBの買付価格1株2,600円であった。買付価格への不満は顕在化していないが、一般株主には、TOBが明らかになった時点で、TOBに応じる以外の選択肢が事実上なかった事案といえよう。
2.TOBに応じた株主への課税関係 TOBに応じた株主へは、レックス事案と同様の課税関係が生ずる(Ⅰ2参照)。
3.「反対株主の買取請求」を行った株主への課税関係 株式交換をする場合には、完全子会社の反対株主は、完全子会社(インパクト社)に対し、自己の有する株式を公正な価格で買取請求を行うことができる旨定められている(会社法785①)。また株式買取請求があった場合の株式の価格の決定等の手続が定められている(会社法786)。
(1)株主が個人の場合 個人株主の会社法785条に規定する買取請求に基づく買取りについては、外形上は対象企業の自己株式の取得ということになる。
会社法785条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得に規定されていないため、その対価の額(交付を受けた金銭等の合計額)が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる。
(2)株主が法人の場合 法人株主の会社法785条に規定する買取請求に基づく買取りについても、会社法785条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得(法法24①四、61条の2⑪一~三、法令23③)に規定されていないため、その対価の額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる。
4.株式交換が行われた場合の課税関係 インパクト事案では、株式交換について、ピー・アール・エル・ジャパン(株)(公開買付者)及びポロ社以外の株主に対し割り当てられる公開買付者の株式の数は1株未満の端数となる予定とされている。
会社法では、交付しなければならない株式の数に1株に満たない端数があるときは、その端数の合計数の株式を競売(又は売却)し、代金を交付しなければならないと規定している(会社法234①七)。
(1)株主が個人の場合
① 株式交換における完全子会社株主の課税関係 個人株主が、株式交換の対価として完全親法人株式以外の資産等の交付を受けない場合には、譲渡所得等の金額の計算については、その有価証券の譲渡がなかったものとみなすこととされている(所法57の4①)。なお、株式交換に反対する株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産は、株式交換完全親法人の株式以外の資産に該当しないものとされている。
株式交換の対価として完全親法人株式以外の交付を受ける場合には、完全親法人株式等の時価を譲渡収入として、完全子法人株式に係る譲渡損益課税が行われる。
② 1株に満たない数の株式等の競売等による代金が交付された場合 さて、インパクト事案では、残存株主に対しては、1株に満たない数の株式の競売等による代金の交付が予定されているが、所得税法基本通達57の4-1では株式交換等で1株に満たない株式等の競売等による代金が交付された場合の取扱いを前頁のように明らかにしている。
この通達の取扱いにより、株式交換により生じた端数の株式の売却代金については、譲渡損益課税が行われる。
(2)株主が法人の場合
① 株式交換における完全子会社株主の課税関係 法人株主が、株式交換の対価として完全親法人株式以外の資産等の交付を受けない場合には、その有価証券の譲渡に係る対価の額は、当該譲渡直前の帳簿価額とすることとされている(法法61の2⑦)。反対株主の買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産は、株式交換完全親法人の株式以外の資産には該当しないものとされている。
株式交換の対価として完全親法人株式以外の交付を受ける場合には、完全親法人株式等の時価を譲渡収入として、完全子法人株式に係る譲渡損益課税が行われる(61条の2①)。
② 1株未満の株式の譲渡代金が交付された場合 法人税法基本通達1-4-2では株式交換で1株未満の株式の譲渡代金が交付された場合の適格株式交換の判定を上記のように明らかにしている。
この通達は、適格株式交換の判定における取扱いであるが、株式交換の対価として完全親法人株式以外の資産等の交付を受けない場合の判定に類推適用できるものと考えられること、旧措置法通達67の9-2の取扱いが維持されていると考えられることから、当該1株未満の株式の譲渡代金については、その譲渡代金部分についてのみ譲渡損益課税が行われるものと考えられる。なお、株式交換が行われた場合において、完全子法人の株主にはみなし配当は生じない。
Ⅲ おわりに
上記は2つのTOBに伴う実例に基づいて課税関係を検証したものであるが、それぞれのスキームが複雑なこともあり、課税関係のエッセンスを抽出しておきたい。
一般株主において生ずる課税関係は、2通りしかない。100%子会社化を目的としていることの裏返しで一般株主は保有株式をすべて現金化させられることになる。そのため、一般株主(個人・法人)において課税の繰延べということにはならず、①みなし配当課税か、②譲渡損益課税か、ということになる。
TOBに応じた場合、全部取得条項付株式の取得(売却代金の交付)、株式交換(売却代金の交付)の場合には、みなし配当課税が排除される規定が設けられているが、全部取得条項付株式や株式交換に反対する株主の買取請求については、いずれも外形的に自己株式の取得とはなるが、みなし配当課税が排除される直接的な規定は設けられていない。みなし配当課税が行われると、特に個人株主では不利な課税関係となりうる。
このように検証してきたところ、現時点で課税関係が不明ということはないようにも思われるが、TOBの強圧性を税制が助長することへの不満もあり、反対株主の買取請求への課税関係の見直しなどが課題となる。
また、法人税法基本通達には、ただし書きが設けられているが、どのような場合に適用されることになるのか、これからの課税関係の明確化が期待されるであろう。
(さじ・としお)
発行済株式の100%取得を目的としたTOBを伴う組織再編スキームにおける一般株主の課税関係について
text T&Amaster編集部 佐治俊夫
株式公開買付(TOB)を伴う組織再編スキームを実施する公開企業が増加した感がある。TOBが100%子会社化を目的とする場合には、TOBという手法だけではTOB対象企業の発行済株式のすべてを取得することが保証されないため、TOB後の組織再編を併せて実施することが予定されている。
すなわち、TOBを含んだ組織再編スキームに遭遇した一般株主においては、TOBへの対応(選択)が、TOBに伴う課税関係・TOB後の組織再編に伴う課税関係の選択という側面を有することになる。
発行済株式の100%取得を目的とした①(株)レックス・ホールディングスを対象にしたTOB、②(株)インパクト二十一を対象にしたTOBを具体例にして、株主の選択・態様に応じた課税関係を検証してみたい。
Ⅰ(株)レックス・ホールディングスを対象にしたTOBとその後のスキーム
1.(株)レックス・ホールディングス(以下「対象企業」)の公開買付の概要 外食産業・コンビニエンスストア、高級食品スーパーなどを傘下におく(株)レックス・ホールディングス(TOB当時ジャスダック証券取引所に上場)は、マネジメント・バイアウト(MBO)の一環としてTOBを行った。アドバンテッジパートナーズが発行済株式のすべてを有する株式会社AP8を公開買付者とし買付価格1株230,000円でTOBしたところ、買付予定数135,421株を上回る198,801株の応募があり、応募株式全部の買付け等を行った。
レックスのTOBについては、TOBでの買付価格が安すぎるとして、TOBに応じなかった株主から裁判所に価格決定の申立てが行われるなど、TOBの問題点を浮き彫りにさせている。
2.TOBに応じた株主への課税関係
(1)株主が個人の場合 個人株主のTOBへの応募(決済)は、株式等の譲渡に該当し、申告分離課税が適用される。特定口座内保管上場株式については、特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例(措法37の11の3)が受けられる。
レックス事案は公開買付者と対象企業が異なる場合に該当するが、発行法人が株主への利益還元などを目的として、自己株式のTOBを行った場合の売却株主についても、平成21年3月31日までの譲渡については、みなし配当課税が適用されずに、対価全額について譲渡損益課税が適用される特例措置が設けられている(措法9の6)。
(2)株主が法人の場合 法人株主のTOBへの応募(決済)は、対価全額について譲渡損益課税が行われる。
レックス事案は公開買付者と対象企業が異なる場合に該当するが、発行法人が自己株式のTOBを行った場合の売却株主(法人)については、個人株主に設けられた全額を譲渡損益課税とする特例措置はなく、みなし配当課税と譲渡損益課税が行われる(法法24①四、③、法令23①四、③)。なお、みなし配当については、受取配当金の益金不算入(法法23)の適用が受けられる。
3.「反対株主の買取請求」を行った株主への課税関係 普通株式に全部取得条項を付す旨の定款変更を行うに際しては、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買取請求を行うことができる旨定められている(会社法116)。また株式買取請求があった場合の株式の価格の決定等の手続が定められている(会社法117)。この点について、レックス事案では、全部取得条項付株式の取得決議により割り当てられる株式が1株に満たないことから、公開買付者は、下記((株)AP8ニュースリリース参照)のように注意を喚起していた。
| 会社法第116条及び第117条の定めに従った株式買取請求については、会社法の条文上、かかる株式買取請求権は「株主」の権利とされておりますが、当該株式買取請求権を行使したとしても、全部取得条項が付された株式の全部取得が行われた場合、本公開買付けに応募されなかった公開買付者及びその100%子会社以外の対象者の株主に対しては対象者の普通株式の一株に満たない端数のみが交付される予定であることから、一株に満たない端数のみの交付を受ける者が会社法第117条に基づいて裁判所に価格決定の申立てを行った場合に、当該申立て時点で一株に満たない端数しか保有していない者も「株主」としてかかる価格の決定の申立てが認められることになるか否かは、最終的には裁判所が判断することになるため、必ずしも明らかではありません。 (株式会社AP8平成18年12月1日付ニュースリリースより) |
(1)株主が個人の場合 個人株主が行う会社法116条に規定する買取請求に基づく買取りについては、外形上は対象企業の自己株式の取得ということになる。
自己株式の取得については、原則として所法25条に定める金額についてみなし配当課税が適用されるが、証券市場における購入による取得その他一定の取得の場合にはみなし所得課税が適用されないことと規定されている(所法25①四、所令61①)。会社法116条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得に規定されていないため、その対価の額(交付を受けた金銭等の合計額)が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる(所法25)。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる(措法37の10)。
(2)株主が法人の場合 法人株主の会社法116条に規定する買取請求に基づく買取りについても、法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得(法法24①四、61条の2⑪一~三、法令23③)に規定されていないため、その対価の額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる(法法24)。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる(法法61の2)。
4.全部取得条項付種類株式の取得決議があった場合の課税関係 レックス事案では、全部取得条項付株式の取得の件について、(株)AP8(公開買付者)以外の株主に対して取得対価として割り当てられる新たな株式は1株未満の端数となる予定とされている。
会社法では、交付しなければならない株式の数に1株に満たない端数があるときは、その端数の合計数の株式を競売(又は売却)し、代金を交付しなければならないと規定している(会社法234)。
さらに、レックス事案では売却手続に関し、その端数の合計数の株式を、会社法234条2項の規定に基づく(株)AP8(公開買付者)への売却又は会社法234条4項の規定に基づく対象企業への売却を予定している。
(1)株主が個人の場合
① 全部取得条項付種類株式の取得決議の課税関係 個人株主が、全部取得条項付種類株式(ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会その他これに類するものの決議(「取得決議」)によってその全部の取得をする旨の定めがある場合のその種類の株式)を取得決議によりその取得の対価としてその取得をされる株主等にその取得をする法人の株式のみが交付される場合(その交付を受けた株式等の価額がその譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く)には、譲渡所得等の金額の計算については、その有価証券の譲渡がなかったものとみなすこととされている(所法57の4③)。
全部取得条項付種類株式の取得決議は、みなし配当課税の適用が除外されており(所法25①四、57条の4③三)、当該有価証券の譲渡がなかったものとみなされる(課税が繰り延べられる)。
② 一に満たない数の株式等の競売等による代金が交付された場合 さて、レックス事案では、公開買付者以外の株主に対しては、一に満たない数の株式の競売等による代金の交付が予定されているが、所得税法基本通達では一に満たない株式等の競売等による代金が交付された場合の取扱いを次頁(所基通57の4-2)のように明らかにしている。
| (一に満たない数の株式又は新株予約権の競売等による代金が交付された場合の取扱い) 57の4-2 法第57条の4第3項(同項第1号及び第4号を除く。以下同じ。)の規定を適用する場合において、株式、新株予約権又は新株予約権付社債の発行会社が、同項に規定する事由により株主又は新株予約権者(以下この項において「株主等」という。)に対し交付しなければならない株式又は新株予約権(以下この項において「株式等」という。)に一に満たない端数が生じたため、会社法第234条第1項の規定等によりその端数の合計数に相当する株式等の競売等をし、その競売等による代金が株主等に交付されたときは、その一に満たない端数に相当する株式等については、その一に満たない端数に相当する株式等の株主等に対して当該発行会社の株式等が交付されたものとして取り扱う。 なお、この場合において、その株主等に交付された一に満たない端数の株式等については令第167条の7の規定による取得価額の計算が行われ、その上で譲渡があったものとして措置法第37条の10、第37条の11、第37条の11の2、第37条の12、第37条の12の2又は第37条の14の規定が適用されることに留意する。(平18課資3-12、課個2-20、課審6-12追加) (注)法第57条の4第3項第1号に規定する取得請求権付株式に係る請求権の行使又は同項第4号に規定する新株予約権付社債に付された新株予約権の行使により、株式等の発行会社が、株主等に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、会社法第167条第3項又は第283条に規定する一株に満たない端数に相当する部分は、令第167条の7第5項の規定により法第57条の4第3項第1号又は第4号に規定する取得をする法人の株式に含まれることに留意する。 なお、この場合において、その株主等に交付された一株に満たない端数の株式については令第167条の7の規定による取得価額の計算が行われ、その上で譲渡があったものとして措置法第37条の10、第37条の11、第37条の11の2、第37条の12又は第37条の12の2の規定が適用されることに留意する。 |
(2)株主が法人の場合
① 全部取得条項付種類株式の取得決議の課税関係 法人株主が、全部取得条項付種類株式を取得決議によりその取得の対価としてその取得をされる株主等にその取得をする法人の株式のみが交付される場合(その交付を受けた株式等の価額がその譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く)には、その有価証券の譲渡に係る対価の額は、当該譲渡直前の帳簿価額とすることとされている(法法61の2①、⑪三)。
全部取得条項付種類株式の取得決議は、みなし配当課税の適用が除外されており(法法24①四、61条の2⑪三)、当該有価証券の譲渡損益課税は繰り延べられる。
② 1株未満の株式の代金を株主等に交付した場合 法人税法基本通達では1株未満の株式の代金を株主等に交付した場合の取扱いを次頁(法基通2-3-1)のように明らかにしている。
| (取得条項付株式の取得等に際し1株未満の株式の代金を株主等に交付した場合の取扱い) 2-3-1 法第61条の2第11項第2号《有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入》に規定する取得条項付株式に係る取得事由の発生によりその取得条項付株式を有する株主等に金銭が交付される場合において、その金銭が、その取得の対価として交付すべき当該取得をする法人の株式(出資を含む。以下2-3-1において同じ。)に1株未満の端数が生じたためにその1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を譲渡し、又は買い取った代金として交付されたものであるときは、当該株主等に対してその1株未満の株式に相当する株式を交付したこととなることに留意する。ただし、その交付された金銭が、その取得の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的に当該株主等に対して支払う当該取得条項付株式の取得の対価であると認められるときは、当該取得の対価として金銭が交付されたものとして取り扱う。 同項第3号又は第5号に規定する全部取得条項付種類株式又は取得条項付新株予約権に係る株式に1株未満の端数が生じた場合についても、同様とする。 |
レックス事案においては、公開買付者以外の株主全員に対して1株未満の株式の代金が交付予定であることから、上記通達のただし書きの適用関係が懸念されるが、現時点での取材によると、ただし書きは租税回避事案への適用を対象としたものであり、レックス事案にまで適用されるものではないとのことである。
Ⅱ(株)インパクト二十一を対象にしたTOBとその後のスキーム
1.(株)インパクト二十一(以下「対象企業」)の公開買付の概要 大手ファッションアパレル業者である(株)オンワード樫山の子会社として設立され、「ラルフローレン」ブランドの婦人用及び紳士用の衣料品、装飾品等を全国の百貨店及び専門店に販売している(株)インパクト二十一(TOB当時東京証券取引所第1部上場)を対象に、ポロ・ラルフローレン・コーポレーション(米国デラウェア州法人)の100%子会社であるピー・アール・エル・ジャパン(株)が、ポロ社のブランド戦略の一環としてTOBを行うことになった。ポロ社は対象企業の発行済株式総数の約20%を保有し、オンワード樫山はその子会社と併せて対象企業の発行済み株式総数の約41%を保有していた。
このTOBにおいては、オンワード樫山及びその子会社がTOBに応募することについて、既に合意があり、対象企業の取締役会もTOBに賛同の意見を表明した。
TOBの買付価格1株2,600円であった。買付価格への不満は顕在化していないが、一般株主には、TOBが明らかになった時点で、TOBに応じる以外の選択肢が事実上なかった事案といえよう。
2.TOBに応じた株主への課税関係 TOBに応じた株主へは、レックス事案と同様の課税関係が生ずる(Ⅰ2参照)。
3.「反対株主の買取請求」を行った株主への課税関係 株式交換をする場合には、完全子会社の反対株主は、完全子会社(インパクト社)に対し、自己の有する株式を公正な価格で買取請求を行うことができる旨定められている(会社法785①)。また株式買取請求があった場合の株式の価格の決定等の手続が定められている(会社法786)。
(1)株主が個人の場合 個人株主の会社法785条に規定する買取請求に基づく買取りについては、外形上は対象企業の自己株式の取得ということになる。
会社法785条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得に規定されていないため、その対価の額(交付を受けた金銭等の合計額)が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる。
(2)株主が法人の場合 法人株主の会社法785条に規定する買取請求に基づく買取りについても、会社法785条に規定する反対株主の買取請求に基づく買取りは法令で定めるみなし配当課税が適用されない自己株式の取得(法法24①四、61条の2⑪一~三、法令23③)に規定されていないため、その対価の額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分について、みなし配当課税が適用されることになる。また、その対価の額からみなし配当の額を差し引いた金額について譲渡損益課税の対象となる。
4.株式交換が行われた場合の課税関係 インパクト事案では、株式交換について、ピー・アール・エル・ジャパン(株)(公開買付者)及びポロ社以外の株主に対し割り当てられる公開買付者の株式の数は1株未満の端数となる予定とされている。
会社法では、交付しなければならない株式の数に1株に満たない端数があるときは、その端数の合計数の株式を競売(又は売却)し、代金を交付しなければならないと規定している(会社法234①七)。
(1)株主が個人の場合
① 株式交換における完全子会社株主の課税関係 個人株主が、株式交換の対価として完全親法人株式以外の資産等の交付を受けない場合には、譲渡所得等の金額の計算については、その有価証券の譲渡がなかったものとみなすこととされている(所法57の4①)。なお、株式交換に反対する株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産は、株式交換完全親法人の株式以外の資産に該当しないものとされている。
株式交換の対価として完全親法人株式以外の交付を受ける場合には、完全親法人株式等の時価を譲渡収入として、完全子法人株式に係る譲渡損益課税が行われる。
② 1株に満たない数の株式等の競売等による代金が交付された場合 さて、インパクト事案では、残存株主に対しては、1株に満たない数の株式の競売等による代金の交付が予定されているが、所得税法基本通達57の4-1では株式交換等で1株に満たない株式等の競売等による代金が交付された場合の取扱いを前頁のように明らかにしている。
| (一株に満たない数の株式の競売等による代金が交付された場合の取扱い) 57の4-1 法第57条の4第1項及び第2項の規定を適用する場合において、同条第1項に規定する株式交換完全親法人又は同条第2項に規定する株式移転完全親法人が、同条第1項に規定する株式交換又は同条第2項に規定する株式移転に際し株主に対し交付しなければならない株式に一株に満たない端数が生じたため、会社法第234条第1項の規定等によりその端数の合計数に相当する株式の競売等をし、その競売等による代金が株主に交付されたときは、その一株に満たない端数に相当する株式については、その一株に満たない端数に相当する株式の株主に対して当該株式交換完全親法人又は当該株式移転完全親法人の株式が交付されたものとして取り扱う。 なお、この場合において、その株主に交付された一株に満たない端数に相当する数の株式については令第167条の7の規定による取得価額の計算が行われ、その上で譲渡があったものとして措置法第37条の10、第37条の11、第37条の11の2、第37条の12、第37条の12の2又は第37条の14の規定が適用されることに留意する。(平18課資3-12、課個2-20、課審6-12追加) |
(2)株主が法人の場合
① 株式交換における完全子会社株主の課税関係 法人株主が、株式交換の対価として完全親法人株式以外の資産等の交付を受けない場合には、その有価証券の譲渡に係る対価の額は、当該譲渡直前の帳簿価額とすることとされている(法法61の2⑦)。反対株主の買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産は、株式交換完全親法人の株式以外の資産には該当しないものとされている。
株式交換の対価として完全親法人株式以外の交付を受ける場合には、完全親法人株式等の時価を譲渡収入として、完全子法人株式に係る譲渡損益課税が行われる(61条の2①)。
② 1株未満の株式の譲渡代金が交付された場合 法人税法基本通達1-4-2では株式交換で1株未満の株式の譲渡代金が交付された場合の適格株式交換の判定を上記のように明らかにしている。
| (合併等に際し1株未満の株式の譲渡代金を被合併法人等の株主等に交付した場合の適格合併等の判定) 1-4-2 法人が行った合併が法第2条第12号の8《適格合併》に規定する適格合併に該当するかどうかを判定する場合において、被合併法人の株主等に交付された金銭が、その合併に際して交付すべき合併法人の株式(出資を含む。以下1-4-3までにおいて同じ。)に1株未満の端数が生じたためにその1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として交付されたものであるときは、当該株主等に対してその1株未満の株式に相当する株式を交付したこととなることに留意する。ただし、その交付された金銭が、その交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的に当該株主等に対して支払う合併の対価であると認められるときは、当該合併の対価として金銭が交付されたものとして取り扱う。 法人が行った分割、株式交換又は株式移転が法第2条第12号の11《適格分割》、第12号の16《適格株式交換》又は第1号の12号の17《適格株式移転》に規定する適格分割、適格株式交換又は適格株式移転に該当するかどう判定する場合についても、同様とする。(注)略 |
Ⅲ おわりに
上記は2つのTOBに伴う実例に基づいて課税関係を検証したものであるが、それぞれのスキームが複雑なこともあり、課税関係のエッセンスを抽出しておきたい。
一般株主において生ずる課税関係は、2通りしかない。100%子会社化を目的としていることの裏返しで一般株主は保有株式をすべて現金化させられることになる。そのため、一般株主(個人・法人)において課税の繰延べということにはならず、①みなし配当課税か、②譲渡損益課税か、ということになる。
TOBに応じた場合、全部取得条項付株式の取得(売却代金の交付)、株式交換(売却代金の交付)の場合には、みなし配当課税が排除される規定が設けられているが、全部取得条項付株式や株式交換に反対する株主の買取請求については、いずれも外形的に自己株式の取得とはなるが、みなし配当課税が排除される直接的な規定は設けられていない。みなし配当課税が行われると、特に個人株主では不利な課税関係となりうる。
このように検証してきたところ、現時点で課税関係が不明ということはないようにも思われるが、TOBの強圧性を税制が助長することへの不満もあり、反対株主の買取請求への課税関係の見直しなどが課題となる。
また、法人税法基本通達には、ただし書きが設けられているが、どのような場合に適用されることになるのか、これからの課税関係の明確化が期待されるであろう。
(さじ・としお)
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