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解説記事2025年09月01日 ニュース特集 二段階買収でのエグジット機会喪失、高裁も少数株主への信義則違反認めず(2025年9月1日号・№1088)

ニュース特集
買収者が負う信義則上の義務の範囲を限定的に解釈
二段階買収でのエグジット機会喪失、高裁も少数株主への信義則違反認めず


 非上場会社を二段階で買収する事案において、一段階目の取引の際に買収者から株主に「一段階目の取引に応じなかった株主のスクイーズアウトが計画されている」旨の説明があったにもかかわらず実際にはスクイーズアウトが実施されなかったことから、一段階目の取引に応じなかった株主が買収会社及び買収対象会社に対し、保有株式が無価値となったとして損害賠償を求めた裁判の控訴審で(一審については本誌1061号参照)、東京高裁は令和7年7月16日、一審に続き株主の請求を棄却する判決を下した。
 本件では、企業買収における信義則上の義務がどの程度及ぶかが争点となったが、二審判決は一審判決よりもかなり詳細に書かれているものの、一審判決と同様、「買収者又は対象会社は、確実に実施する旨を約さない限り少数株主に対してスクイーズアウトを実施する法的義務を負うものではない」ことを大前提としており、株主からの信頼を保護する範囲を極めて限定的に考えている点に変わりはない。
 今回の高裁判決を受け、専門家からは「株主の不安を大きくする先例である」との批判の声も聞かれる。株主からの信頼が低減し、損害を被ることへの不安が増加することにより、企業買収に萎縮的な効果を及ぼす恐れもあろう。
 ※本号に判決全文掲載

一審判決の概要

株主間契約に基づく共同売却権を放棄し、保有株式が無価値に

 本件では、香港の上場会社(買収者)による日本の非公開会社(対象会社)の二段階買収が予定され、買収者が公表したプレスリリースには、一段階目の株式譲渡(本件株式譲渡)により買収者が対象会社の議決権の3分の2以上を取得した場合、本件株式譲渡に応じなかった株主から一段階目の取引と同じ株価で株式併合等によるスクイーズアウトの実施が計画されている旨の説明があった。対象会社の優先株式を保有する株主である原告は、他の株主等との間で締結された株主間契約に基づく共同売却権(他の株主が株式を売却する場合は一定の比率で自らの株式も譲渡することを要求する権利)を有していたが、スクイーズアウトの実施計画を踏まえ、共同売却権を放棄した(参照)。

 しかし、本件株式譲渡が完了した後、スクイーズアウトは実施されなかったため、原告は、「買収者と対象会社が本件スクイーズアウトの手続きが確実に実施されるものと誤信させる説明等を行ったことにより、原告が保有する対象会社株式について対価を得られないという損害を被った(当該株式が無価値となった)」として、買収者と対象会社を相手取り、契約締結上の過失の法理、情報開示義務違反等による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求め、訴訟を提起した。
 これに対し東京地裁は、「買収者(支配株主)又は対象会社が少数株主に対して二段階買収に関する提案ないし説明を行っていたとしても、その内容が二段階目の取引としてのスクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるといった特段の事情がない限り、当該説明ないし提案を行ったことが、スクイーズアウトが確実に実施されるという少数株主の〔法律上保護される利益としての〕正当な信頼を惹起するものであるとはいえないと解される」として株主側の請求を斥けた。

二審判決のポイント(1)

企業の行動として望ましいかどうかとその違法性を区別

 本件において株主は、契約締結上の過失の法理という信義則上の義務違反(不法行為)を主張しているため、法律構成としては「企業買収における信義則上の義務がどの程度及ぶか」が本件の最大の争点と言える。
 二審判決も一審判決と同様、「買収者又は対象会社は、確実に実施する旨を約さない限り少数株主に対してスクイーズアウトを実施する法的義務を負うものではないこと」を大前提としている(二審判決21頁・今号38頁)。そして、本件においてスクイーズアウトを確実に実施する旨を約した事実がないことについては、提案書の記載内容がスクイーズアウトの実施の確実性を示す意図を含むものではなく、このことが株主にも読み取ることが十分可能であったと解するのが自然であり、控訴人を含む本件株主は、非上場会社たる被控訴人において株主間契約等を締結するなどし、株主相互の関係が希薄な上場会社の株主とは異なる側面を有しており、本件スクイーズアウト実施の確実性を含めた今後の見通しについて必要な情報を収集分析して適切な判断をすることが期待できる地位にあったこと等を指摘している(二審判決14頁・今号34頁)。
 これは、スクイーズアウト実施の確実性を買収者・対象会社が約していない以上、スクイーズアウトが実施されるか否かの情報収集は少数株主の自己責任であることを原則とした上で、株主相互の関係が希薄な上場会社の株主と本件株主(控訴人)を対比しつつ、非上場会社の少数株主である控訴人について、支配株主と株主間契約を締結していたことなども考慮し、自己責任による情報収集を期待できないとはいえない、ということを補足したものと言える。
 また、スクイーズアウトの確実な実施に対する控訴人の信頼を法的保護に値しないとして否定することは強圧性の存在を是認することにほかならず、原審判断は平成28年最高裁決定(いわゆるジュピターテレコム最高裁決定)にも違反するとの控訴人の主張に対しては、①スクイーズアウトを実施しなかったこと自体は、上場会社の場合であったとしても直ちに違法とは評されず、(経済産業省が公表している)MBO指針の適用対象ではない、②非上場会社の事案である本件においては、スクイーズアウトが実施されることが株主の予測可能性を確保し、その期待に応えるという意味で企業の行動として望ましいものと一般的にはいえても、スクイーズアウトを実施しなかったことをもって直ちに違法又は株主に対する強圧性が回避されていない不公正な手続を行ったと評価することはできないとの考えを示した(二審判決17~18頁・今号36~37頁)。
 一般的には市場での買付けについてなされている強圧性の議論は、本件のような非上場会社の買収の事案に全く同じようには妥当しないと判断したものと言える。本件の買収者・対象会社がスクイーズアウトを実施しなかったことが企業の行動として望ましいかどうかという問題と、それが違法・不当なものと評価され、スクイーズアウトの実施に対する株主の信頼が法的に保護されるかどうかという問題を区別して論じている点、注目されよう。

二審判決のポイント(2)

信義則という一般法理で救済する事情がないことを明示

 さらに、共同売却権を放棄したのは本件各合意書によってスクイーズアウトが確実に実施されると信じたからこそであり、このような信頼は保護されるべきとの控訴人の主張については以下の考えを示し、これを斥けている(二審判決21頁・今号37~38頁)。
・本件各合意書による合意の解釈としてスクイーズアウトが実施されなかった本件においては、控訴人は未だ共同売却権等を保持していると解する余地もあり、また、仮に(一段階目の)株式譲渡の手続完了時にこれらの権利が放棄されたと認められるとしても、共同売却権等の諸権利がいかなる財産的価値を有するのか等も判然としない。
・市場の取引状況や株価動向、企業属性等の諸般の事情により、二段階目の取引が確実に実施されるとまではいえないような場合であってもなお、一段階目の取引ではなく二段階目の取引を選択し、仮に二段階目の取引がない場合には株式を保有し続けるという選択もあり得るというべきであり、本件スクイーズアウトが確実に実施される旨を信じなければ権利を放棄しなかったとまで認められるかについても疑問がある。
・対象会社の説明が「控訴人に対して本件スクイーズアウトの実施の確実性に対して過度の期待を抱かせるようなものであったとはいえない」こと等から、控訴人に法的保護に値する信頼が生じたとはいえない。
 少数株主にとっては厳しい判断のようにも思えるが、上記のとおりスクイーズアウトの実施に係る情報収集が少数株主の自己責任が原則であることを前提に、本件については、それを信義則という一般法理により救済するような事情がないということを示したものと言える。

関係者間の信頼の上に成り立つ二段階買収の実務が否定されることへの懸念も

 このように、二審判決の記載は一審判決よりもかなり詳細になっているものの、株主からの信頼を保護する範囲を極めて限定的に考えている点で一審判決と変わりはない。今回の二審判決を受け、専門家からは「株主の不安を大きくする先例である」との批判の声も聞かれる。具体的には以下のような懸念が示されている。
 第1に、少数株主保護の要請に反しないか、という点である。本件の信義則上の義務は、買収者と対象会社が既に取引内容について合意しており、これを少数株主に提示する場面で問題となっている。ここでは、買収者と対象会社(さらに言えば、その経営者である大株主)とが連携して、少数株主に対峙している。そして、対峙する双方の間には、情報量、資金面その他のリソース、対象会社に対する影響力等において著しい格差が存在する。そのような格差ある当事者間において、信義則の適用をかなり限定することが正しいのか、少数株主保護の要請に反しないのかは慎重に考えるべき問題である。
 第2に、この対峙は少数株主による投下資本の回収の場面で起きている一方、その対価を支払うのは買収者であり、両者の利害が対立する可能性があるということだ。すなわち、少数株主が投下資本回収の機会を失うという損害を被るということは、買収者が買収コスト低減という利益を得るという関係にある。このような状況において信義則の適用を限定することが正しいのか、さらに言えば、買収者は法令や契約の明確な規定に反しなければ基本的に何をしても(たとえそれが少数株主に損害を及ぼすようなことでも)よいのか、ということも慎重に考えるべき問題である。
 第3に、ベンチャー企業への投資を阻害することにならないか、という点だ。最近は、個人投資家を含め様々な投資家がベンチャー企業に投資する流れとなっている。また、多くの投資家は少数株主として投資している。一審判決及び二審判決はいずれも非上場会社の株主に適切な判断、交渉等を期待し、信義則による保護を与えない考え方を示しているが(二審判決14頁等・今号34頁等)、これはそのような能力及び意欲のない者は非上場ベンチャー企業に投資するべきではないとのメッセージとなりかねず、ベンチャー企業への投資を阻害する懸念がある。
 第4に「強圧性」の問題だ。すなわち、信義則の適用範囲の限定は企業買収の場面における株主意思の尊重に反しないのか、という点である。専門家からは、一審判決及び二審判決の考え方は強圧性を生じさせるものとの指摘がある。企業買収では、二段階買収の一段階目等において、株主総会以外の方法で株主の意思を確認することがあるが、強圧性が株主に対して生じれば、その意思が歪められる恐れがある。また、信義則の適用範囲が限定されると、少数株主が誤信するような言動を買収者及び対象会社が行うことが法令や契約の明確な規定に反しない限り許容され、この意味においても株主の意思が歪められることになりかねない。
 第5に、二段階買収のように、関係者間の信頼の上に成り立っている実務が否定されることへの懸念である。二段階買収では、特段の事情がない限り、二段階目も一段階目と同一価格で確実に実施されるとの信頼が前提にある。一審判決及び二審判決は、信義則の適用範囲を限定することによりこの信頼を保護しないという立場をとっているため、二段階買収の実務の否定に繋がることが危惧されている。

「売却機会喪失を積極的に選択することもあり得る」との認識も実務と相違

 上記のような懸念がある一方、一審判決、二審判決とも、信義則の適用範囲を限定する積極的な理由は何ら示しておらず、基本的に①本件スクイーズアウトの実施が確実であるとは買収者及び対象会社が明確には言っていない、②少数株主の側で適切な判断、交渉等ができたはず、ということを述べるにとどまっている。これに対し専門家からは、「買収者及び対象会社と少数株主が対峙する場面において、買収者及び対象会社の利益を優先する判断を下しているのだから、これにまつわる積極的理由があってしかるべき」との指摘がある。
 一審・二審と信義則の適用範囲を限定する判決が出たことをきっかけに、株主からの信頼が低減し、損害を被ることに関する不安が増幅することにより、企業買収に萎縮的な効果を及ぼす恐れもある。
 また、実務上、二段階買収では少数株主が買収者と個別交渉を行うことは想定されておらず、ジュピターテレコム最高裁決定も個別交渉は想定していない。これに対し二審判決では、被告らの説明を踏まえて実施された原告らの共同売却権の放棄(エグジットの機会の喪失)等が原告ら少数株主の自己責任であることが強調されているうえ、仮に二段階目の取引がない場合には株式を保有し続けるという選択もあり得るというべきとも述べている。一般に売却機会を失うことへの恐怖から強圧性が生じると考えられていることからすれば、売却機会を失うことを積極的に選択することもあり得るとの認識は実務の認識と異なっているため、この意味においても実務に与える影響は大きい。
 本件は既に上告及び上告受理申立済となっている。最高裁の判断及び今後の企業買収実務への影響を注視したい。

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