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解説記事2025年09月29日 未公開判決事例紹介 米国スピンオフに係る証券会社の源泉税額を巡る事件(2025年9月29日号・№1092)

未公開判決事例紹介
米国スピンオフに係る証券会社の源泉税額を巡る事件
東京地裁、適法な徴収であったとは認められず

 今号4頁で紹介した源泉所得税等の誤徴収による不当利得返還請求等事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇米国法人AT&Tが行ったスピンオフをめぐり、スピンオフにより原告が取得した新株(WBD株式)の全額をみなし配当の対象として1万5,923円を源泉徴収していた証券会社に対して、新株を取得した原告が源泉所得税等の一部返還を請求していた事件(令和6年(ワ)第21118号・確定済み)。東京地裁は、新株の評価額全部がみなし配当額になるとすることは法的根拠を欠くなどと指摘したうえで、原告の自認する部分(565円)を超える1万5,358円の支払いを証券会社に対して命じた。

主  文

1 被告は、原告に対し、1万5358円及びこれに対する令和7年5月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 被告は、原告に対し、1万5358円及びこれに対する令和4年5月31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和6年7月2日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 原告が、証券会社である被告に証券総合口座及び外国証券取引口座を開設して、外国法人の株式を保有していたところ、当該外国法人が分割型分割をし、原告に新株を割り当てたことから、被告は、原告に所得税法25条1項2号のいわゆるみなし配当があったものとして、所得税の源泉徴収及び道府県民税配当割の特別徴収(以下、上記所得税及び道府県民税配当割を併せて「所得税等」といい、それらの源泉徴収及び特別徴収を併せて「源泉徴収等」という。)として、上記証券総合口座から合計1万5923円を徴収した。
 請求の趣旨第1項は、原告が、上記のうち1万5358円の源泉徴収等は誤徴収であると主張して、被告に対し、主位的には、預託金返還請求権に基づき、予備的に、不法行為又は不当利得返還請求権に基づき、上記同額及びこれに対する上記徴収の日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金又は利息金の支払を求める事案であり、これに対し、被告は、上記源泉徴収等は適法であると主張して争っている。
 請求の趣旨第2項は、原告が、被告に対し、上記の違法な源泉徴収等の是正を求めたが、被告がこれに応じず、これにより精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料5万円及びこれに対する不法行為の日の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 関係法令の定め
 別紙関係法令の定めの記載のとおり。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)等
(1)被告は、金融商品取引法に規定する金融商品取引業等を目的とする株式会社であり、証券会社である。
  原告は、被告の×××支店に証券総合口座(以下「本件証券総合口座」という。)及び外国証券取引口座(以下「本件外国証券取引口座」という。)を開設して、被告と外国証券の取引を行うなどしていた(甲20、21)。
(2)原告は、令和4年4月当時、本件外国証券取引口座において、AT&T INC.(以下「AT&T」という。)の株式を100株保有していた。
  AT&Tは、同月頃、その事業の一部を切り離す会社分割(以下「本件会社分割」という。)を行い、これに伴い、その株主に対し、AT&Tの株式1株当たり、新設会社であるWARNER BROS. DISCOVERY INC.(以下「WBD」という。)の株式0.241917株を割り当てた。
  その結果、原告は、同月13日、WBDの株式24.1917株(以下「本件株式」という。)の割当てを受け、被告を媒介して本件株式の交付(以下「本件株式交付」という。)を受けた。
  なお、本件会社分割は、所得税法25条1項2号にいう分割型分割(いわゆる非適格分割)に当たる。そのため、本件株式交付は、同項柱書所定の範囲で同法24条1項に規定する配当等とみなされ(いわゆるみなし配当)、配当所得として課税対象となる。その場合、被告は、本件株式交付に際し、租税特別措置法9条の3の2にいう支払の取扱者として、その源泉徴収を行うこととなる。
 (甲1から3まで、8、弁論の全趣旨)
(3)原告は、令和4年5月19日、被告の求めに応じて、本件証券総合口座に1万6000円を送金し、被告に上記金額を預託した。
  被告は、同月31日、本件証券総合口座から、本件株式交付に係る源泉徴収等として、本件株式の評価金額7万8383円の全額が課税対象となることを前提に算出した合計1万5923円を徴収し(以下「本件徴収」という。)、同年6月10日、本件株式交付に係る所得税等として、これを納付した。
 (甲2、3、22、乙5、7)
(4)原告は、令和5年12月14日、本件株式を売却し、令和6年2月27日に、令和5年分の所得税等の確定申告をした。
  その際、原告は、本件株式交付に係る正しい所得税等の額は565円であったと考え、上記本件株式の売却に係る譲渡所得として、上記売却による収入金額3万9154円から手数料2750円及び上記所得税等の額565円を控除した残額である3万5839円を申告した。
 (甲16の1・2)
3 争点
 本件の主たる争点は、①本件徴収の適法性、②原告による慰謝料請求の可否である。
(1)争点①(本件徴収の適法性)
(被告の主張)

 次のとおり、本件徴収は適法であるから、被告は、原告に対し、本件徴収の額に相当する預託金を返還する義務を負うものではない。
ア 外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収等については、必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であることから、各証券会社においてその取扱いが区々になっており、税務当局や金融当局も明確な方針を示しておらず、証券業界内でも統一した結論が得られていない。
イ 被告は、前記アの場合、現地入庫日の終値で割当株式を時価評価し、その全額をみなし配当額として取り扱うこととしているところ、このような取扱いは、実務上の対応策として、税務否認のリスクの観点から保守的な対応として許容される範囲内での取扱いである。
ウ 被告においては、前記イのとおりに数十年以上取り扱ってきたが、その間に行われた税務当局や金融当局の調査の際にも違法を指摘されたことはない。
エ 実質的に見ても、顧客にとっては、いつの時点で納付するかは異なるものの、最終的に納付する税額は一緒であるから、取扱いの違いにより実害は生じない。
(原告の主張)
 本件株式交付が所得税法25条1項にいうみなし配当課税の対象となるのは、①分割前のAT&
Tの株式の価値と、②分割後のAT&Tの株式の価値及び株式分割に係るWBDの株式の価値の合計額とを比較し、後者が前者を超える場合に、その部分についてのみである。
 以上を基に算出すると、本件株式交付に対して源泉徴収等がされるべき所得税等の額は565円を超えないというべきである。
 それにもかかわらず、被告は、本件株式の評価額全額を課税対象として、合計1万5923円を徴収しているから(本件徴収)、本件徴収のうち565円を超える1万5358円の部分は違法であり、その額に相当する預託金が本件証券総合口座に残存している。
 よって、被告は、原告に対し、上記預託金を返還する義務を負う。
(2)争点②(原告による慰謝料請求の可否)
(原告の主張)

 原告は、被告に対し、繰り返し本件徴収が所得税法25条に違反するものである旨指摘し、誤徴収相当額の返還を求めるなどしたが、被告はこれに応じなかった。そのため、原告は、××税務署に相談に行き、また、原告の夫をして国税相談室に相談してもらい、また、国税庁宛てに意見書を送付してもらうなどし、最終的に本訴提起に至ったものである。
 被告の上記対応により、原告は精神的苦痛や時間的負担を強いられ、これを慰謝するための慰謝料としては、5万円を下らない。
 よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、上記慰謝料5万円についても請求することができる。
(被告の主張)
 否認又は争う。

第3 争点に対する判断
1 争点①(本件徴収の適法性)について

(1)本件会社分割が所得税法25条1項2号にいう分割型分割に当たり、本件株式交付が同項柱書所定の範囲で同法24条1項にいう配当とみなされ、課税対象となり、その場合、被告が、本件株式交付に際し、租税特別措置法9条の3の2にいう支払の取扱者として、その源泉徴収を行うこととなることは、前提事実(2)のとおりである。
  被告は、本件株式の評価額全部がみなし配当額になるとして本件徴収をしたところ、①外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収については、必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であることから、各証券会社においてその取扱いが区々になっており、税務当局や金融当局も明確な方針を示しておらず、証券業界内でも統一した結論が得られていない、②このような場合、現地入庫日の終値で割当株式を時価評価し、その全額をみなし配当額として取り扱うこととする運用をしているところ、このような取扱いは、実務上の対応策として、税務否認のリスクの観点から保守的な対応として許容される範囲内でのものである、③上記の運用で数十年以上取り扱ってきたが、その間に行われた税務当局や金融当局の調査の際にも違法を指摘されたことはない、④実質的に見ても、顧客にとっては、いつの時点で納付するかは異なるものの、最終的に納付する税額は一緒であるから、取扱いの違いにより実害は生じないなどと指摘して、本件徴収が適法であると主張する。
(2)しかしながら、所得税法25条1項の規定は、別紙関係法令の定め記載のとおりであって、本件株式交付が同法24条1項の配当等とみなされ、課税対象となるのは、飽くまで本件株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えるときであり、かつ、その超える部分に限られる。
  しかるに、本件株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えること及びその超過額についての主張立証はされていない。そして、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を判断するために必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であるとしても、このことをもって、直ちに、同金額が0円であり、本件株式の評価額全部がみなし配当額になると推認することはできない。かえって、証拠(甲10、調査嘱託の結果)によれば、A証券株式会社は、同社の契約する情報ベンダーからの情報に基づき、本件株式分割に関し、WBD1株当たりのみなし配当額を0.9263127ドルと算定して、源泉徴収等を行ったことが認められ、被告が採用したWBD1株当たりの評価額(=みなし配当額)26.00ドルとは大きく異なっており、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額がその評価額のうち相当大きな割合を占めることがうかがわれる。
  以上によれば、本件株式の価額の合計額のうち、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超える部分の有無及びその額を積極的に認定することは困難であって、前記(1)の被告の主張する諸事情を考慮しても、本件株式の評価額全部がみなし配当額になるとする法的根拠を欠き、これを前提として行われた本件徴収は、原告の自認する565円の部分を除き、適法であるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
  前記(1)の被告の主張は、採用することができない。
(3)以上の次第で、被告のした本件徴収のうち、原告の自認する565円を超えて1万5358円を徴収した部分は、適法な源泉徴収等であったとは認められないから、上記同額の預託金は、未だ本件証券総合口座に残存しており、原告は、被告に対し、上記金額の預託金返還請求権を行使し得るというべきである。
  そして、上記請求権に係る被告の債務は期限の定めがないものであって、被告は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う(民法412条3項)から、上記の預託金返還請求に係る遅延損害金の起算日は、上記預託金返還請求権に基づく請求を追加した令和7年5月12日付け訴えの変更申立書謄本の送達日の翌日である同月20日と認められる。
  よって、請求の趣旨第1項に係る主位的請求のうち、上記の1万5358円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金を求める部分は理由があり、その余の部分は理由がない。
(4)なお、原告が被告に対し1万5358円の預託金返還請求権を有することは、前記(3)のとおりであることに照らすと、本件徴収によって、法律上保護される原告の権利利益が侵害されたとしても、原告に上記同額の損害が及んだことも認められない。
  よって、請求の趣旨第1項に係る予備的請求のうち上記(3)の認容額を超える部分は、いずれも理由がない。
2 争点②(原告による慰謝料請求の可否)について
(1)原告は、被告に対し、繰り返し本件徴収が所得税法25条に違反するものである旨指摘し、誤徴収相当額の返還を求めるなどしたが、被告がこれに応じなかった、そのため、××税務署に相談に行き、また、原告の夫をして国税相談室に相談してもらい、また、国税庁宛てに意見書を送付してもらうなどして、最終的に本訴提起に至った、被告の上記対応により、原告は精神的苦痛や時間的負担を強いられ、これを慰謝するための慰謝料としては、5万円を下らないなどとして、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、上記慰謝料5万円を請求し得る旨主張する。
(2)しかしながら、原告が被告に対し1万5358円の預託金返還請求権を有することは、前記1(3)のとおりであり、その履行により原告の経済的損失は補填されることになる。そうすると、前記(1)の原告の主張する経過が認められる余地があると仮定しても、被告が上記の預託金返還債務の不履行を超えて、原告の法的保護に値する権利利益を侵害したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
  前記(1)の原告の主張は、採用することができず、請求の趣旨第2項に係る慰謝料請求は、理由がない。
3 結語
 以上のとおり、原告の請求は、1万5358円及びこれに対する令和7年5月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の部分はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第18部
裁判長裁判官 田中寛明
裁判官 古賀大督
裁判官 袖山佳人

(別紙)
関係法令の定め
1 所得税法
(1)24条1項
 配当所得とは、法人(略)から受ける剰余金の配当(株式又は出資(略)に係るものに限るものとし、(略)分割型分割(略)によるもの(略)を除く。)、利益の配当((略)分割型分割によるもの(略)を除く。)、剰余金の分配(略)、投資信託及び投資法人に関する法律第137条(金銭の分配)の金銭の分配(略)、基金利息(略)並びに投資信託(略)及び特定受益証券発行信託の収益の分配((略)以下この条において「配当等」という。)に係る所得をいう。
(2)25条1項
 法人(略)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その(略)金銭以外の資産の価額(略)の合計額が当該法人の(略)資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。
 一 (略)
 二 当該法人の分割型分割(法人税法第2条第12号の12に規定する適格分割型分割を除く。)
   (以下略)
2 租税特別措置法
(1)9条の3
 平成28年1月1日以後に支払を受けるべき所得税法第24条第1項に規定する配当等(以下この条及び次条において「配当等」という。)(以下略)
(2)9条の3の2
 平成28年1月1日以後に個人(略)に対して支払われる次に掲げる(略)配当等で政令で定めるもの(略)の国内における支払の取扱者で政令で定めるもの(略)は、当該個人(略)に当該上場株式等の配当等の交付をする際、その交付をする金額(略)に100分の15(略)の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。
 一 第37条の11第2項第1号に掲げる株式等の利子等又は配当等
   (以下略)

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