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解説記事2017年03月06日 【未公開裁決事例紹介】 株主名簿に記載なくても議決権や配当等で株主判定(2017年3月6日号・№681)

未公開裁決事例紹介
株主名簿に記載なくても議決権や配当等で株主判定
株式の取得経緯、譲渡承認等を総合的に考慮

○株主名簿に株主として記載されていないことなど、同族会社の役員でないため使用人兼務役員に該当すると請求人が主張していた裁決で、国税不服審判所は、株式の取得経緯、株式の譲渡承認、議決権行使、利益配当等を総合的に考慮して株式の実際の権利者を判定すべきとの見解を示した。本件では、取締役会において請求人の株式の譲受けを承認されていること、定時株主総会議事録からすると請求人は本件取締役を株主として認め、本件取締役もそれを自認していたこと及び本件取締役に対して配当を支払っていたことなどの各事情を総合的に考慮して判断すると、本件取締役は、請求人の実際の株主と認められ、同族会社の役員に該当するとした(平成28年6月24日、棄却)。

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の取締役に対して支給した給与について、原処分庁が、当該取締役は使用人兼務役員とは認められないので、当該取締役に対して支給した給与は、その全額が役員に対して支給した給与に該当し、その支給額の一部について損金の額に算入されない額があるとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該取締役は、株主名簿に株主として記載されていないことなどから、法人税法上、請求人の株主には当たらず、使用人兼務役員に該当するので、当該取締役に対して支給した給与はその全額が損金の額に算入されるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実及び審査請求に至る経緯  以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、××に設立された法人で、葬祭式典の請負等を目的とするものである。
ロ 請求人の代表取締役には、昭和48年7月27日から昭和62年7月15日までは××(以下「前代表者」という。)が就任し、同日以後は前代表者の三男である××(以下「代表者」という。)が就任している。
ハ 請求人の定款には、要旨次のとおりの定めがある。
(イ)請求人の株式を譲渡するには、取締役会の承認を得なければならない。(第8条)
(ロ)請求人の株式につき名義書換えを請求するには、請求人で定める請求書に記名押印し、これに株券を添えて提出しなければならない。(第9条第1項)
  譲渡以外の事由による株式の取得である場合には、請求人の請求により、その事由を証する書面及び株券を提出しなければならない。(同条第2項)
(ハ)利益配当金は、毎決算期における株主名簿に記載された株主又は質権者に配当する。(第26条第1項)
(ニ)本定款の変更は平成14年7月29日開催の定時株主総会の承認決議と共に即日より効力を生ずる。(第28条)
ニ 前代表者は、同人の所有する請求人の株式全部を前代表者の孫である××に遺贈する旨の平成20年3月12日付遺言公正証書(以下「本件公正証書」という。)を作成し、その後、××に死亡した。
ホ 請求人の平成21年1月13日付の臨時株主総会議事録には、「第1号議案 後任取締役選任の件」として、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)議長(代表者)は、取締役(前代表者)が××に死亡したため、後任の取締役1名を選任する必要がある旨述べ、その選任方法を議場に諮ったところ、満場一致をもって議長の指名に一任することとなり、議長は代表者の長男である××を指名し、その可否を再度議場に諮ったところ、満場一致によりこれを選任することに可決確定した。
(ロ)被選任者は即時就任を承諾した。(以下、請求人の取締役に就任した××を「本件取締役」という。)
へ 請求人の平成21年1月16日付の履歴事項全部証明書には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)発行可能株式総数:16万株
(ロ)発行済株式の総数:4万2,000株
(ハ)株券を発行する旨の定め:請求人の株式については、株券を発行する(平成17年法律第87号第136条の規定により平成18年5月1日登記)。
(ニ)資本金の額:金2,000万円
(ホ)株式の譲渡制限に関する規定:請求人の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない(平成17年12月19日設定、同日登記)。
(へ)役員に関する事項:本件取締役(平成21年1月13日就任、同日登記)。
ト 請求人の平成21年7月24日付の取締役会議事録には、「第2号議案 株主変更承認の件」として、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)議長(代表者)は、株主(前代表者)が××死亡したため、株式相続人である本件取締役より株主譲渡承認の請求があり、これを承認すべきか否かについて審議したい旨を述べ、慎重に審議した結果、満場一致をもってこれを承認可決した。
(ロ)譲渡対象株式数は、8,360株である。
チ 平成21年9月15日に原処分庁に提出された前代表者を被相続人とする相続税の申告書には、本件取締役が請求人の株式8,360株(課税価格××)を遺贈により取得した旨の記載がある。
リ 本件取締役は、上記ホのとおり、平成21年1月13日に請求人の取締役に就任しており、請求人の平成22年6月1日から平成23年5月31日まで、平成23年6月1日から平成24年5月31日まで、平成24年6月1日から平成25年5月31日まで及び平成25年6月1日から平成26年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成23年5月期」、「平成24年5月期」、「平成25年5月期」及び「平成26年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)において、請求人の取締役であった。
ヌ 請求人は、本件各事業年度において、本件取締役に対して支給した別表1の「支給金額」欄の各金額を給料手当勘定及び賞与勘定に計上した。
ル 本件各事業年度の法人税の青色の各確定申告書(以下「本件法人税各申告書」という。)の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)(以下「本件各別表二」という。)には、要旨次のとおり(編注:表1参照)の記載があり、いずれも株式数等による判定の結果として「同族会社」とされている。
  なお、上記の「判定基準となる株主及び同族関係者」欄について、××(以下「××」という。)は、代表者が発行済株式総数の50パーセント超の株式を有する同族会社であり、また、「××」は平成23年5月期に、「××」は平成24年5月期、平成25年5月期及び平成26年5月期に、それぞれの記載がある。
ヲ 請求人が作成した平成21年7月24日付の「第60回定時株主総会議事録」、平成22年7月26日付の「第61回定時株主総会議事録」、平成23年7月20日付の「第62回定時株主総会議事録」、平成24年7月27日付の「第63回定時株主総会議事録」、平成25年7月25日付の「第64回定時株主総会議事録」及び平成26年7月29日付の「第65回定時株主総会議事録」には、要旨次のとおり(編注:表2参照)の記載がある(以下、これらの定時株主総会議事録を併せて「本件各定時株主総会議事録」という。)。
ワ 本件法人税各申告書に添付された「株主資本等変動計算書」(以下「本件各株主資本等変動計算書」という。)の「利益剰余金の配当」欄には、要旨次のとおりの記載がある。
カ 本件法人税各申告書に添付された各「個別注記表」の「Ⅴ.株主資本等変動計算書に関する注記」によれば、本件各事業年度末日における請求人の発行済株式の数はいずれも42,000株、本件各事業年度末日における自己株式の数はいずれも6,420株、本件各事業年度中に行った剰余金の配当は、いずれも1株当たり配当額20.0円である。
ヨ 請求人が作成した平成22年7月26日付の「第61期配当金支払名簿(平成22年7月29日支払)」、平成23年7月20日付の「第62期配当金支払名簿(平成23年7月29日支払)」、平成24年7月27日付の「第63期配当金支払名簿(平成24年7月27日支払)」、平成25年7月25日付の「第64期配当金支払名簿(平成25年7月25日支払)」及び平成26年7月29日付の「第65期配当金支払名簿(平成26年7月29日支払)」には、要旨次のとおり(編注:表3参照)の記載がある(以下、これらの配当金支払名簿を併せて「本件各配当金支払名簿」という。)。

  なお、上記の本件各配当金支払名簿の「氏名」欄について、「××」は第61期分及び第62期分に、「××」は第63期分、第64期分及び第65期分に、それぞれの記載がある。また、本件取締役の「住所」欄について、第61期分及び第62期分は、それぞれ「××」である。
タ 請求人を支払者とし、本件取締役を支払を受ける者とする平成23年分ないし平成26年分の各「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」には、要旨次のとおり(編注:表4参照)の記載がある。

レ 本件取締役は、上記ヌの各給与及び上記タの各配当等について、平成23年分の所得税並びに平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税の各確定申告をした。
ソ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、本件法人税各申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告をした。
  また、請求人は、平成24年6月1日から平成25年5月31日まで及び平成25年6月1日から平成26年5月31日までの各課税事業年度(以下、順次「平成25年5月課税事業年度」及び「平成26年5月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の復興特別法人税申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告をした。
ツ 原処分庁は、これに対し、請求人が本件取締役に支給した給与のうち、法人税法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第34条《役員給与の損金不算入》第1項各号に規定する役員給与に該当せず、本件各事業年度の損金の額に算入されない金額として別表1の「損金不算入額」欄の各金額(以下「本件各不算入額」という。)を算定し、平成27年7月7日付で別表2(略)の「更正処分等」欄のとおり法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税各賦課決定処分」という。)並びに同日付で別表3(略)の「更正処分」欄のとおり復興特別法人税の各更正処分(以下、本件法人税各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)をした。
ネ 本件法人税各更正処分の通知書(以下「本件各更正通知書」という。)に付記された理由は、要旨以下のとおりである。
(イ)平成23年5月期
 役員給与の損金不算入額 1,245,043円
 請求人は、取締役総務部長である本件取締役に対して給料手当等として合計6,228,643円を支給し、その全額を損金の額に算入している。
 しかしながら、下記の事実から、請求人は法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社に該当し、また、本件取締役は、同条第15号に規定する役員に該当するとともに、①第1順位の株主グループの所有割合が100分の50を超える場合における当該株主グループに属していること、②本件取締役の属する株主グループの所有割合が100分の10を超えていること、③本件取締役の所有割合が100分の5を超えていることから、法人税法施行令(平成27年政令142号による改正前のもの。以下同じ。)第71条《使用人兼務役員とされない役員》第1項第5号のイないしハに掲げる要件の全てを満たしている者となり、法人税法第34条第1項に規定する使用人としての職務を有する役員には該当しない。
 したがって、本件取締役に対して支給した給与は、法人税法第34条第1項に規定する内国法人がその役員に対して支給する給与に該当し、また、当該給与は同項第2号及び第3号に規定する役員給与には該当しないため、同項第1号の規定に基づき損金の額に算入される役員給与の額を計算した結果、支給金額と定期同額給与の金額との差額の合計1,245,043円が、同号に規定する役員給与に該当しないこととなり、同項の規定により損金の額に算入されないので、当事業年度の所得金額に加算した。
  記
 本件取締役は、請求人の株式を8,360株所有しており、請求人が所有する自己株式の株数6,420株を請求人の発行済株式の総数42,000株から控除して計算した本件取締役の所有割合は約23.5パーセントとなる。
 また、請求人の株主のうち、本件取締役及び××氏は、それぞれ代表者の長男及び叔母であり、××は、代表者が発行済株式の100分の50を超える数の株式を所有する法人であるため、これらの者は、代表者からみて法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》に規定する特殊の関係のある個人又は法人に該当し、代表者及びこれらの者が所有する株式数を合計すると33,880株となるので、代表者を中心とした株主グループは、自己株式を除く発行済株式の総数の約95.2パーセントを所有する第1順位の株主グループとなる。
(ロ)平成24年5月期ないし平成26年5月期
 役員給与の損金不算入額、支給金額及び定期同額給与の金額との差額の記載が異なるが、その他の記載については、上記(イ)の記載と同様である。
ナ 請求人は、上記ツの各処分を不服として、平成27年7月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月20日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ラ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年10月26日に審査請求をした。
(3)関係法令等の要旨(略)

争点および主張
(1)本件法人税各更正処分に係る更正の理由付記に不備があるか否か。(争点1)(略)
(2)本件取締役は、使用人兼務役員に該当するか否か。(争点2)
 当事者の主張はのとおり。

【表】争点2(本件取締役は、使用人兼務役員に該当するか否か。)について
原処分庁 請 求 人
 本件取締役は、次のとおり、請求人の株主と認められ、法人税法施行令第71条第1項第5号に規定する要件の全てを満たす同族会社の役員に該当するから、使用人兼務役員に該当しない。
(イ)基本通達1-3-2によれば、法人税法第2条第10号に規定する「株主等」は、株主名簿等に記載又は記録されている株主等によるのであるが、その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者を株主等として判定を行うこととなる。
(ロ)請求人は、本件各事業年度において、本件各配当金支払名簿を作成しており、本件各配当金支払名簿には、株主が株式を取得した日及び株式に係る株券の番号は記載されていないものの、株主の氏名及び住所並びに株主の有する株式の数が記載されているとともに、株主の氏名や住所が変更となった場合には、本件各配当金支払名簿の記載内容も変更されていることなどからすると、本件各配当金支払名簿には真実の株主が記載されており、請求人は、本件各配当金支払名簿により本件各事業年度における株主を管理しているものと認められるので、本件各配当金支払名簿に記載された本件取締役らは、請求人の株主としての地位を有する実際の権利者と認められる。
 本件取締役は、次のとおり、請求人の株主と認められず、法人税法施行令第71条第1項第5号に規定する要件の全てを満たす同族会社の役員に該当しないから、使用人兼務役員に該当する。
(イ)基本通達1-3-2は、法人税法第2条第10号に規定する「株主等」は、「株主名簿、社員名簿又は定款に記録されている株主等による」と判断基準が明確に示されている。請求人の作成した本件各配当金支払名簿は、株主名簿記載事項が記載されていないことから、会社法に規定する「株主名簿」に当たらない。
(ロ)本件のように株式の名義書換え及び株主名簿への記載が未了の場合は、名義株の問題が発生する。名義株について、真正な株主あるいは実際の株主の判定に当たっては、具体的に①出資の状況が客観的に判定可能か。②株券は発行しているか。③配当が行われている場合、その配当は誰が受け取っているか。④配当が行われている場合、支払調書は誰の名前になっているかなどのような状況を基礎に総合的に判断することとなる。
  使用人兼務役員になれない者の判定においては、株主名簿に記載があるか否かということだけに固執することなく、配当を受けた者が必ずしも真正な株主とはいえないことや、株主総会での議決権を行使する等会社経営に参加する権利が重要な要素となることに注意すべきである。

審判所の判断
(1)争点1(本件法人税各更正処分に係る更正の理由付記に不備があるか否か。)について(略)
(2)争点2(本件取締役は、使用人兼務役員に該当するか否か。)について
 イ 認定事実(略)
 ロ 法令解釈等
(イ)法人税法第34条第1項、第5項及びそれを受けた法人税法施行令第71条第1項並びに法人税法第2条第10号及び第14号によると、同族会社の役員で、一定の株主グループに属し、かつ、当該会社に係る所有割合が5パーセントを超えている者は、その具体的職務内容にかかわらず、使用人兼務役員とされないこととなる。
(ロ)そして、上記(イ)の使用人兼務役員とされない同族会社の役員の判定においては、基本通達9-2-7により基本通達1-3-2が準用されているところ、同通達は、税法上の同族会社かどうかの判定に当たっては、原則として、会社の株主名簿又は社員名簿に記載されたそれぞれの株主等の持株数又は出資金額を基礎としてその判定を行うことになるが、現実問題としては、株主名簿記載の株主が単なる名義人であって、他に実際の権利者がいるという場合も少なくなく、このような場合、名義株を放置することにより、同族会社としての課税が回避される等、弊害も生じ得るため、株主名簿だけでなく、実際の権利者を追求することにより、適正公平な課税関係を実現することを目的とする取扱いであることから、当審判所においても相当であると認められる。
(ハ)会社法第130条第1項は、株式の譲渡は、その取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ会社等に対抗できないが、会社が実質関係を認め自己の危険において株主名簿に記載されていない者を実際の株主として取り扱うことは妨げないものと解されている。
 ハ 当てはめ (イ)請求人の株主について
 A 実際の権利者の判定
  請求人における本件百株券株主名簿を含めた株主名簿については、昭和63年頃から名義書換えがされておらず、株主を把握する機能を果たすことなく形骸化しているため、基本通達9-2-7の取扱いの趣旨及び本件事実関係の下での株式の実際の権利者について、株式の取得経緯、株式の譲渡承認、株主総会における議決権の行使状況、取得後の利益配当等を総合的に考慮して認定されるべきであることから、本件取締役が請求人の株主であるか否かについては、株主名簿の記載によるのではなく、上記の状況等を総合的に考慮して請求人の株式の実際の権利者を判定すべきである。
 B 株式の取得経緯
  前代表者は、本件公正証書を作成しており、死亡した際に株式8,360株を所有していたことから、当該株式8,360株は、前代表者の孫で代表者の長男である本件取締役に遺贈することで、前代表者の遺産分割協議がされた。
 C 株式の譲渡承認
  本件取締役は、前代表者が所有していた請求人の株式8,360株を遺贈により譲り受け、本件取締役は、自らを取得者として株主譲渡承認の請求をしたところ、請求人の取締役会において、当該株式の譲渡が承認された。
 D 株主総会における議決権の行使状況
  本件各事業年度の定時株主総会は、実際には開催されなかったと認められるものの、本件各定時株主総会議事録においては、本件取締役が株主及び出席株主に含まれており、また、本件各定時株主総会議事録のうち第63回定時株主総会議事録を除くもの全てに本件取締役が押印していることからすると、請求人は、本件各事業年度において、本件取締役を請求人の株主として認めており、本件取締役もそれを自認していたとともに、当該各定時株主総会議事録によれば、決算及び配当支払の承認等に係る議決権を行使していたことが認められる。
 E 取得後の利益配当
 (A)本件各配当金支払名簿と本件各定時株主総会議事録に記載されている株主総数は一致しており、本件各配当金支払名簿と本件各別表二に記載されている株主数、株主の住所、氏名及び株式数も一致している。また、本件各配当金支払名簿の配当金額の合計額は、本件各株主資本等変動計算書の利益剰余金の配当欄に記載された金額とも一致している。
 (B)さらに、配当金の支払についても、本件取締役の持株数8,360株に応じた167,200円(20.0円×8,360株)が、いずれも請求人内の手続を経て、請求人において源泉徴収がされた後、本件取締役に支払われている。そして、本件取締役は、当該支払を受けた各配当について、平成24年分を除き配当所得として各確定申告をしており、平成24年分の配当についても住民税の課税対象とされている。
 F まとめ
  本件取締役は、上記B及びCのとおり、前代表者から遺贈により請求人の株式8,360株を取得し、請求人の取締役会において、当該株式の譲渡が承認され、また、請求人は、上記Dのとおり、本件取締役を請求人の株主であると認め、本件取締役も、そのことを自認するとともに、当該各定時株主総会議事録において、決算及び配当支払の承認等に係る議決権を行使していたことが認められ、さらに、請求人は、上記Eのとおり、請求人内の手続を経て、本件取締役に対して株式数に応じて配当を支払っており、その他、本件取締役が請求人の株主であることを疑わせる事実は認められないことなどの事情を総合的に考慮して判断すると、本件各事業年度において、本件取締役は請求人の株式8,360株を所有する株主であることが認められる。
(ロ)使用人兼務役員について
 本件取締役は、上記(イ)のFのとおり、本件各事業年度において、請求人の株式8,360株を所有する株主であり、請求人は、代表者、代表者の親族及び代表者が支配する会社が、請求人の発行済株式数の50パーセント超の株式を有する同族会社であると認められる。そして、本件取締役は、同族会社である請求人の役員で、その第1順位の株主グループに属し、当該株主グループの請求人に係る所有割合が50パーセントを超え、かつ、本件取締役の請求人に係る所有割合が5パーセントを超えていることから、本件取締役は、本件各事業年度において使用人兼務役員に該当しないこととなる。
 ニ 請求人の主張について  請求人は、本件のように株式の名義書換え及び株主名簿への記載が未了の場合、名義株の問題が発生し、名義株について、真正な株主あるいは実際の株主の判定に当たっては、出資の状況、株券の保有状況、配当の支払状況、株主総会の出席状況等を基礎に総合的な判断が求められる旨、本件各事業年度に関する請求人の各定時株主総会において、本件取締役が株主の権利を行使した事実が確認されていないので、本件取締役は、本件各事業年度において請求人の実際の株主と推認されず、使用人兼務役員に該当する旨主張する。
 しかしながら、株式の実際の権利者の判定に当たって客観的事実を総合的に考慮した結果、本件取締役が請求人の株式の実際の権利者と認められることについては、上記ハの(イ)のFのとおりであり、これを覆すに足りる事実は認められない。また、会社法第130条第1項においても、上記ロの(ハ)のとおり、会社が自ら実質関係を認め自己の危険において株主名簿に記載されていない者を株主として取り扱うことは許容されているところ、本件取締役は本件百株券株主名簿を含む株主名簿に記載されてはいないものの、上記ハの(イ)のC及びDのとおり、請求人が、本件取締役を株主として取り扱っていることからすると、本件取締役が請求人の株主であると認めることができる。したがって、請求人の主張には理由がない。

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