解説記事2025年09月15日 未公開判決事例紹介 法人税法132条の2の適用を巡る控訴審判決(2025年9月15日号・№1090)
未公開判決事例紹介
法人税法132条の2の適用を巡る控訴審判決
東京高裁、原審に続き国側が敗訴
本誌1085号4頁で紹介した更正処分等取消請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇ゴルフ場運営を行うグループ会社への法人税法132条の2の適用を巡り争われた控訴審(令和6年(行コ)第321号)。東京高等裁判所(梅本圭一郎裁判長)は令和7年7月23日、法人税法132条の2による更正処分等は違法であるとし、国の控訴を棄却。原審の東京地裁に引き続き、国側が敗訴した。本件では、完全支配関係法人間の適格合併にも「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が不当性要件の判断において考慮されるべきかどうかがポイントとなっていたが、東京高裁も、原審と同じく、事業の移転・継続状況は、不当性要件の判断において特に重視すべき要素ということはできないとの考えを示した。
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
(以下、略称は、原判決別紙2の例による。また、法人税法の規定は、いずれも平成29年法律第4号による改正前のものである。)
1 本件は、PHDを持株会社とする企業グループ(Pグループ)の構成法人の一つであった被控訴人が、Pグループ内の別法人5社を同一日に2段階に分けて合併(本件各合併)し、被合併法人の繰越欠損金額を法人税法の規定に従い被控訴人の欠損金額とみなして法人税及び地方法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁が、企業再編税制における一般的否認規定である法人税法132条の2の規定により欠損金額の引継ぎを否認して、法人税及び地方法人税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各更正処分等)をしたことから、被控訴人が、控訴人に対し、本件各更正処分等の違法を主張して、次のとおり、その一部取消しを求めた事案である。
(1)処分行政庁が令和元年6月28日付けで被控訴人に対してした法人税(被控訴人の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度に関するもの)に係る、次の各処分の取消請求
ア 更正処分のうち連結所得金額24億8078万2256円及び納付すべき税額5億7978万8100円を超える部分
イ 過少申告加算税の賦課決定処分
(2)処分行政庁が令和元年6月28日付けで被控訴人に対してした地方法人税(被控訴人の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度に関するもの)に係る、次の各処分の取消請求
ア 更正処分のうち課税標準法人税額5億7983万円及び納付すべき税額2551万2500円を超える部分
イ 過少申告加算税の賦課決定処分
2 原審は、本件各合併につき法人税法132条の2を適用することはできず、本件各更正処分等は違法であるとして、被控訴人の請求を全部認容したところ、控訴人は、これを不服として本件控訴をした。
3 主な関係法令の規定、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記4の当審における控訴人の主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」2から5まで(3頁2行目から39頁16行目まで)、別紙3から6(別表1及び2を含む。)まで(86頁から107頁まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
(1)判断枠組みについて
ア 最高裁平成28年判決の判断枠組みによれば、組織再編税制に係る規定の濫用の有無の判断に当たって考慮事情となる「行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等」を検討するに当たっては、「税負担の減少目的」と「それを除外した事業目的」とを区別した上で、その主従関係を考慮すべきことになる。税負担の減少による経済的利益の獲得を、行為又は計算の合理性を肯定する事情として考慮するのであれば、それは最高裁平成28年判決に実質的に反する。
イ 控訴人は、原審以来、組織再編税制に係る規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様であるかという観点において考慮すべき事情の一つとして、法人税法上の組織再編税制が完全支配関係の適格合併の場合を含めて合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定していることを主張している。これは、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を、同法57条2項の事実上の要件であるとか、事業の継続がない場合に一律に同条項の適用がないなどと主張するものではない。経済実態に実質的な変更がない場合かどうかは、合併による事業の移転や合併後の事業の継続という観点も考慮して、判断すべきである。
PG6の本件簿外債務への対応は、単に偶発的に生じた事態への対応業務にすぎないから、組織再編税制において想定されている事業には当たらない。
ウ 平成13年の法人税法改正時、包括的な租税回避防止措置として規定された同法132条の2について、その適用例として想定されていたのは、複数の組織再編成を段階的に組み合わせることなどにより、受けるべき課税を免れる事例や、繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金等を利用するために組織再編成を行う事例であった。したがって、同法57条2項等の組織再編税制は、少なくともこのような事例を許容する趣旨及び目的でないことは明らかである。
(2)本件各合併について
ア 本件未処理欠損金額は、法人税法57条2項の期間制限により、平成30年3月期までの事業年度でしか損金算入することができず、また、■■社によるPHD株式の取得時期との関係で、同法57条の2第1項により、平成28年12月5日以降の適格合併でなければ損金算入することができない状況であった。また、適格合併となり得る合併法人は幾つか考えられるところ、所得金額が最も多い被控訴人を合併対象としなければ、本件未処理欠損金額は所得金額から控除しきれない状況であった。本件各合併は、合併時期及び合併相手につき、Pグループ内で最も税負担の減少効果が高いものが選択されている。しかも、Pグループは、平成21年に多額の未処理欠損金額が生じた当時から、その利用について検討していた。
したがって、本件各合併は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものといえる。
イ PG6は、収益性のあるゴルフ場事業を本件分割により新会社へ移転し、本件簿外債務に係るリスクのみを残す形となっていたが、このような事業再生手法(第二会社方式)では、旧会社の法人格を消滅させることが一般的である。
PG6は、何ら収益獲得に結び付く事業を行っておらず、貸借対照表には未払法人税等のほかに債務はなかったから、清算することに何ら支障のない状況にあった。また、本件簿外債務の顕在化リスクを抱えており、清算することで本件簿外債務の顕在化を免れるという、清算の必要性が高い状況にあった。清算費用が約300万円であるとしても、他社の合併に要する登記等の費用との比較において費用面で合併に経済合理性があるわけではなかった。にもかかわらず、PG千葉にゴルフ場事業等を承継させた後、約7年間にわたり税理士費用を支払って、青色申告書を提出し、未処理欠損金額の繰越を続けていたのは、税負担の減少という利益を除外して考えると、経済合理性を欠く行動である。
合併については存続会社等の商号及び住所まで公告しなければならず(会社法789条2項)、清算の場合に比べ潜在的債権者が存続会社に請求する可能性を高めることになるほか、Pグループにおいて特別清算がされた例もあり、清算の経験が乏しいとしてもそれは弁護士に依頼することで補える性質の事情でしかない。
ウ Pグループのビジネスモデルは、買収法人の欠損金額等を他社の税務上の利益獲得のために利用するという欠損金額の繰越制度本来の趣旨・目的に反するものを含んでいる。
エ 3社以上の会社を合併する際に、実務上一般的に想定される手法や方法は、被合併法人と合併法人との合併を複数並立させる方法であるといえ、二段階で順次合併するという手順・方法は、例外的なものである。実務上全く存在しない手順や方法による組織再編成でない限り法人税法132条の2の適用を認めないかのような解釈・判断は不当である。
本件では、二段階で順次合併するという方法を採ることによって合併事務が効率化されるという関係にない、又は、事務効率に有意な差はない。そもそも、比較するのであれば、単にPG6を被控訴人に合併する場合と本件各合併の場合とを比較すべきであって、PG6とP4をそれぞれ被控訴人に合併する場合をもって比較するのは、対象の捉え方を誤ったものである。
オ P4がN社から本件P4優先株式を買い取ったことにつき、経済的支出を伴う本件P4優先株式を買い取るのではなく、経済的支出を伴わない普通株式転換権の放棄を求めるのが経済的合理性にかなう方法であり、N社の対応を踏まえると実現可能性もあるといえる。しかし、Pグループがその手法を求めなかったのは不合理なものであり、税負担減少目的以外の合理的な理由となる事業目的その他の事由は存在しない。
カ 本件各合併の税務上の実態は、PG6から被控訴人への吸収合併であるのに、法形式はPG6からP4への本件合併1、P4から被控訴人への本件合併2という二段階となっており、実態と形式に齟齬がある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件各合併が法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当することを前提とした本件各更正処分等は違法であって、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2の当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1から5まで(39頁22行目から75頁23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決41頁3行目の「法人について、清算が行われたことはうかがわれない。」を「法人で清算が行われたのは、平成19年頃にPHDの連結子会社であった▼▼▼▼Holdings株式会社が特別清算をした(乙96)ほかは、特に見当たらない。」に改める。
(2)原判決44頁19行目末尾の後に、改行して、次のとおり加える。
「オ 本件買収等に伴う欠損金の発生等
(ア)I千葉(PG6)がA商事の子会社時代に有していた固定資産等に係る税務上の含み損(前提事実(3)ウ)は、本件分割によりPG千葉の株式に振り替えられた。この株式に振り替えられた含み損(144億円超)と株式売却益(86億円超)との差額に相当する57億円超が、本件株式譲渡に伴い、税務上の欠損金額として生じたが(前提事実(4)イ(イ))、これが、本件未処理欠損金額の大半を占めている。
(イ)本件買収直前において、I千葉が運営していたゴルフ場の敷地の約73%は、A商事又はI千葉が所有し、その余の約27%はA商事が賃借する土地であったところ、これらの土地所有権や賃借人の地位は、本件買収及び本件分割により、PG千葉が承継した。(前提事実(4)ア、甲99)
(ウ)PG千葉は、本件株式譲渡により、P1の完全子会社となった。(前提事実(4)イ(ア))
(エ)PG千葉は、平成21年12月1日、SCCに吸収合併された。また、P1は、平成22年6月30日、被控訴人に吸収合併された。
このため、本件各合併の直前時点において、PG千葉を承継したSCCは、被控訴人の完全子会社となっていた(なお、本件合併2により、SCCは被控訴人に合併している。)。」
(3)原判決64頁25行目の「清算が行われたとはうかがわれないこと」を「清算が行われた例が極めて少ないこと」に改める。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1)行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等について
控訴人が指摘するように、最高裁平成28年判決でいう考慮事情②に関し、税負担の減少目的とそれを捨象した事業目的との主従関係を考慮することを指摘する文献は存在し(甲60・最高裁平成28年判決の判例解説)、その前提として税負担の減少目的とそれを除外した事業目的とを区別することは必要であるものと解される。
しかしながら、控訴人が指摘する文献等において指摘されているのは、税負担の減少以外の事業目的が存在するか否かだけではなく、それが正当なものといえるかどうかを判断すべきと指摘するもの(甲60)や、税負担の軽減という目的を捨象した場合に合理的経済人として経済的合理性を欠く行為であるかどうかを検討すべきと指摘するもの(乙78)等であって、目的の主従関係を考慮することについて、税負担の減少目的がそれ以外の事業目的よりも少しでも重いものであれば不当性要件に該当するといった趣旨で述べられているものとは解されない。本件のように未処理欠損金額が多額である場合、それによる税負担減少の効果が大きいため、法人として税負担減少目的が相対的に重視されることは少なくないものと解されるが、不当性要件の当否は、本来的に金額の多寡によって直ちに決せられるものではない。したがって、税負担の減少目的とそれを捨象した事業目的とのいずれがより重視されていたかを単純に比較するようなことを前提とする主張は、採用することができない。
(2)合併による事業の移転及び合併後の事業の継続について
控訴人は、原審において、完全支配関係にある法人間の合併についても、被合併法人及び合併法人が、原則として法人税施行規則3条1項1号に該当するかどうかを検討すべきであると主張していたところ、不当性要件の判断に当たり、そのような形で合併による事業の移転及び合併後の事業の継続の有無を検討し、これに該当しない場合を企業再編税制の趣旨・目的に反するものとして否認するような判断枠組みを採用することができないことについては、引用に係る原判決説示のとおりである。
また、最高裁平成28年判決でいう考慮事情①及び同②に係る事情として、事業の移転・継続状況が考慮される事例が全く想定されないというものではないと解されるが、引用に係る原判決が説示するように、完全支配関係の適格合併の場合に事業の継続が一律に適用の前提になっていたとまでは認められないこと、完全子会社を吸収合併した後に当該子会社の事業を廃止する事例や、休眠会社である完全子会社を吸収合併する事例が容易に想定されるにもかかわらず、組織再編税制の議論においてこれらを適用除外とするような検討がされた形跡が見られないことなどからすれば、完全支配関係の適格合併の場合における事業の移転及び合併後の事業の継続という事情は、不当性要件の判断において、特に重視すべき要素ということはできない。本件においても、PG6が平成25年12月以降、本件簿外債務への対応に関する具体的活動をしていなかったとの事情をもって、本件各合併が企業再編税制の趣旨・目的に反するものとはいえず、当該事情は不当性要件の判断に当たり特に重視すべきものということはできない。
(3)想定される法人税法132条の2の適用例について
控訴人は、法人税法132条の2の適用例として、複数の組織再編成を段階的に組み合わせることなどにより受けるべき課税を免れる事例や、繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、これを利用するために組織再編成を行う事例が想定されていたことを指摘する。
この点、確かに、控訴人が挙げる文献等にはそのような記載が見られるが(乙88、89、92)、これらの文献等も、組織再編成を段階的に組み合わせることが直ちに組織再編税制の濫用に当たるとする趣旨で述べられているものではない。また、繰越欠損金のある会社を買収し、結果的に欠損金額の引継ぎがされたからといって、それが当然に組織再編税制の濫用に当たるものでもない。
(4)合併時期及び合併相手の選択及びその検討について
控訴人は、本件各合併につき、合併時期(平成29年)及び合併相手(被控訴人)としてPグループ内で最も税負担の減少効果が高いものが選択され、実際に平成21年に多額の欠損金額が生じた当時からPG6の繰越欠損金の利用が検討されていたことなどから、組織再編成を利用して税負担を減少させることを目的としたものであると主張する。
しかし、合併時期については、原判決説示のとおり、本件各合併当時、本件簿外債務リスクは完全に消滅はしていなかったものの、相当程度そのリスクが低減した時期にあったこと、PG6を存続させ続ける限り一定の管理コストが継続的に発生することなどから、時期の選択には合理性が認められるのであって、税負担の減少という目的を捨象しても、本件各合併の時期が不自然であるとか通常あり得ない時期であったなどと解することはできない。
また、本件未処理欠損金額の大半は、PG6(I千葉)のA商事の子会社時代に有していた固定資産等の含み損に起因するものであるところ、PG6から切り離されたゴルフ場運営事業等は、PG千葉を経てSCCに引き継がれ、本件各合併の直前において、SCCは被控訴人の完全子会社となっており、かつ、本件合併2でSCCは被控訴人に合併したのである。したがって、税負担の減少目的を捨象してみても、繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた法人に引き継ぐという観点に照らし、本件未処理欠損金額の引継ぎ先として被控訴人が選択されたことに、不自然・不合理な点はないものというべきである。
本件各合併につき、Pグループにおいて税負担の減少という意図があったこと自体は否定できないものの、前記のとおり、税負担の減少目的がそれ以外の事業目的よりも少しでも重いものであれば不当性要件に該当するなどと解することはできない。このほか控訴人が指摘する事情をもってしても、合併時期及び合併相手の選択及びその検討という観点から、組織再編税制規定の濫用に当たると解することはできない。
(5)PG6を清算するという選択をしなかったことについて
控訴人は、PG6を清算して法人格を消滅させるという選択をしなかったことが経済合理性を欠くものであると主張する。
本件は、控訴人が指摘するような第二会社方式による事業再生の事案とは異なるものと解されるが、この点をおくとしても、控訴人が指摘する事情は、清算という手法が有力な選択肢の一つになり得ることを基礎付けるにとどまり、清算という選択肢を取らないことが直ちに不合理と解されるものではない。PG6を合併すること自体に、Pグループの本件ビジネスモデルにおける合理的な事業目的があると認められることは原判決説示のとおりである。また、PG6が清算して法人格を失うことになれば、同社は本件簿外債務リスクによる責任追及を免れることになるものの、本件簿外債務リスクは、A商事の子会社時代におけるI千葉(PG6)の元代表者の不正行為に起因するものであって、A商事あるいは同社を含む企業グループも、Pグループも、我が国において相応の規模及び知名度を有する企業であり、第三者との関係で内部不正行為に伴う負担を法人格消滅という形で免れることが、企業の社会的責任の観点から問題視され、あるいは企業価値を損ねるリスクも想定される。こうした事情を勘案すると、税負担の減少目的を捨象しても、法人格消滅という選択をしないことが合理性を欠き又は通常あり得ないことであると認めることはできない。
なお、控訴人は、Pグループのビジネスモデル自体が欠損金の繰越制度本来の趣旨・目的に反するものを含んでいるとも主張するが、このような主張は、企業の競争力を確保し、企業活力が十分発揮できるよう定められた企業再編税制の趣旨や欠損金の引継制度自体を事実上否定するに等しく、採用することができない。Pグループは、バブル崩壊後に経営危機に陥った多数のゴルフ場を買収してグループ内で合併し、本部で集中管理する体制を取り、スケールメリットを追求し徹底的な経営効率化を推進することにより、ゴルフ人口の減少という厳しい競争環境においても収益を上げることを目指した本件ビジネスモデルの下で事業を営んでいるところ、本件ビジネスモデルにおいて買収後の事業による収益確保よりも欠損金の引継目的を優先しているなどといった事情を認めるに足りる証拠はない。Pグループ内において欠損金の引継制度を含む企業再編税制を活用した例が少なからずあるとしても、それを直ちに不当であるとか法制度に反するものであるなどと認めることはできない。
(6)二段階で合併したことについて
本件各合併が二段階で行われたことを考慮しても、組織再編税制規定の濫用に当たるものといえないことについては、引用に係る原判決説示のとおりであり、税負担の減少目的を捨象しても、第1段階として完全支配関係の合併をし、第2段階として支配関係の合併をすることには、合理的な理由となる事業目的が十分存在するものと認められる。
3社以上の法人を合併する場合に、合併を複数並立させる方法が一般的であるとの控訴人の指摘を前提にしても、そのことから直ちに、段階を踏む合併の手法が、通常想定されない不合理な手法ということにはならない。また、本件各合併は、P4を含む5社を被控訴人に合併するものであるから、段階を踏まずにこれらの合併をする場合と段階を踏んで合併する場合との対比で合理性を検討することに特段問題はなく、PG6、P4及び被控訴人の完全子会社3社を被控訴人に合併したことについて実態と形式に齟齬があるということもできない(本件各合併は、実体のない形ばかりの役員就任を行った事例や、組織再編成の最終形態を実現させる上で不必要な株式譲渡を挟んだような事例とは異なる。)。P4を除外した合併と本件各合併とを比較するという控訴人の指摘は、むしろ事実と異なる不自然な比較をするものといわざるを得ず、P4を除外してPG6から被控訴人へ合併することが本件各合併と齟齬しているなどと評価することも相当ではない。
(7)本件P4優先株式の買取りについて
控訴人は、P4がN社に対し、経済的支出を伴わない普通株式転換権の放棄を求めず、本件P4優先株式を買い取ったことが不合理であると指摘する。しかしながら、本件P4優先株式に係る普通株式取得請求権の付与の時期や交渉のために要する時間、同株式の価値、N社との関係性その他の事情を考慮することなく、経済的支出の有無のみに着目して普通株式転換権の放棄ではなく本件P4株式の買取りという選択をしたことが不合理であるなどと認めることはできない。
(8)このほか控訴人は種々の指摘をするが、原審主張の繰り返しであるか、あるいは上記判断を左右するものではなく、いずれも採用することができない。
第4 結論
以上の次第で、被控訴人の請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 梅本圭一郎
裁判官 工藤 正
裁判官 浅岡千香子
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