解説記事2020年04月20日 未公開裁決事例紹介 非営利型法人、普通法人の判定基準は(2020年4月20日号・№831)
未公開裁決事例紹介
非営利型法人、普通法人の判定基準は
「特定の個人に特別の利益を与える」かで判断
○一般社団法人が非営利型、普通法人のどちらに該当するか否か争われた裁決。国税不服審判所は、会員等に対する事業活動が「特定の個人に特別の利益を与える」ことに該当するため、非営利型法人には該当しないと判断した(令和元年5月7日、一部取消し(受取手数料の損金算入額について)、本誌827号16頁参照)。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、一般社団法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人は非営利型法人に該当することを前提として、収益事業から生じた所得についてのみ法人税等の確定申告を行ったところ、原処分庁から、請求人は法人税法上の普通法人に該当するから、全所得が課税の対象となるなどとして、法人税等の更正処分等を受けたため、法人税法上の非営利型法人に該当するなどと主張し、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 設立経緯等
(イ)請求人は、××××××××に、学校教育施設整備に対する助成及び奨学に関する事業を行うこと等を目的に、社団法人として設立された。
(ロ)請求人は、平成20年12月1日に、いわゆる公益法人制度改革に伴って特例民法法人となった後、平成24年11月21日付で、監督官庁である×××××に対して一般社団法人への移行認可申請書を提出し、同知事から移行の認可を受けた上で、××××××××に一般社団法人に移行した。
(ハ)請求人は、自らが実施する事業を公益目的実施事業とその他の事業に区分しており、前者として教育事業、地域振興事業、福祉事業、勧業事業、環境事業及び防犯・防災事業を行っており、後者として不動産賃貸事業及び観光事業等を行っている。
(ニ)請求人の定款には、剰余金の分配を行うことができない旨(第36条(剰余金の分配の禁止))、清算する場合において有する残余財産は、総会の決議を経て、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第17号に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に贈与するものとする旨(第39条(残余財産の帰属))定められている。
ロ ×から受領した賃貸料に関して請求人が委任を受けた業務等
(イ)×は、本件各事業年度において、××××××××××××××××××××の目的をもって、×××××××に所在する一定の土地の各所有者との間で、毎年、当該各所有者を賃貸人、×を賃借人、契約期間を契約締結年の4月1日から翌年3月31日までの1年間とする土地賃貸借契約をそれぞれ締結した(以下、これらの契約の対象となる土地を「本件各土地」という。)。
なお、請求人は、本件各土地の一部を所有している。
(ロ)請求人は、請求人を除く本件各土地の各所有者の全てから、上記(イ)の土地賃貸借契約に関する一切の件並びに当該契約に基づく賃貸料の請求及び受領に関する件などの委任を受けていた。
請求人は、本件委任に基づき、本件各土地に係る賃貸料を×から一括して受領し、当該賃貸料から本件委任に基づく業務の報酬を控除した後の金額を、請求人を除く本件各土地の各所有者にそれぞれ送金した。ただし、本件各土地の所有者のうち、××××××××××××××については、請求人における事務負担が僅少である等の理由から、当該報酬を控除していない。
ハ 請求人の会員等
(イ)請求人は、請求人の定款の第5条(法人の構成員)及び第6条(入会)において、①平成25年3月31日における会員名簿に記載の者及び②①以外の者で以下のAないしCのいずれかの条件を具備した者で、それぞれの入会の際に理事会の承認を受けた者を会員(以下「本件会員」という。)とし、本件会員をもって、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に規定する社員とする旨定めている。
A 請求人の会員であった者で、××××において1年以上一戸を構え、独立の生計を営み、住民としての義務を果たし、かつ永住の見込みのある者で、請求人の全資産を評価して全ての本件会員に等分した金額の100分の2を請求人に寄附したもの
B 本件会員の家族にして分籍し、××××において2年以上一戸を構え、独立の生計を営み、住民としての義務を果たし、かつ永住の見込みのある者で、請求人の全資産を評価して全ての本件会員に等分した金額の100分の3を請求人に寄附したもの
C 上記A及びB以外の者で、××××において10年以上一戸を構え、独立の生計を営み、住民としての義務を果たし、かつ永住の見込みのある者で、請求人の全資産を評価して全ての本件会員に等分した金額の100分の50を請求人に寄附したもの
なお、本件会員は、請求人に対し、年会費1万円の支払義務とともに、枝打ち作業などの法人行事への参加義務を負う。
(ロ)請求人は、本件会員の名簿とは別に、本件会員を含む××××に居住する住民の名簿(以下「本件地区名簿」という。)を毎年4月に作成している。本件地区名簿には、世帯主の氏名及び各世帯の人数が記載されているが、本件地区名簿への記載を望まない住民については記載されていない(以下、本件地区名簿に氏名が記載されている本件会員以外の世帯主及びその家族を「本件地区民」といい、本件会員及びその家族並びに本件地区民を併せて「本件会員等」という。)。
なお、本件地区民は、請求人に対し、年会費の支払等の義務を負わない。
ニ 本件会員等に対する事業
請求人は、本件各事業年度において、本件会員等に対し、以下の事業活動を行っていた(以下、これらの事業活動による請求人の支出を併せて「本件各支出」という。)。
(イ)本件会員等を共済契約者とする家財共済、建物更生共済及び火災共済の各掛金(以下「本件家財等共済掛金」という。)の負担
A 平成24年4月から平成26年3月まで(運営者は××××××××××)
本件会員等(市営住宅に住んでいる者、養護施設に長期間滞在している者及び支出を受けることを希望しない者など一部の者を除く。)が所有する家財に対する共済掛金(一人当たり約1,100円。満期共済金なし。)
B 平成26年4月から平成29年3月まで(運営者は××××××××)
(A)本件会員及びその家族(支出を受けることを希望しない者など一部の者を除く。)が所有する家財に対する建物更生共済掛金(一人当たり約20,500円。満期共済金あり。)
(B)本件地区民(市営住宅に住んでいる者及び養護施設に長期間滞在している者など一部の者を除く。)が所有する家財に対する火災共済掛金(一人当たり約2,400円。満期共済金なし。)
(ロ)請求人が定める「××××××××××××××××××」に基づく敬老祝金(以下「本件敬老祝金」という。)の交付
A ××××に在住する70歳以上の者のうち、本件会員及びその配偶者並びに本件会員の3親等以内の血族及びその配偶者で、本件会員と同一世帯に属し請求人の理事監事会で認めた者に対して毎年3万円
B ××××に在住する70歳以上の者のうち、上記Aの要件に該当する者以外の者で、住民としての義務を果たし、××××に連続して10年以上在住している本件地区民に対して毎年1万円
(ハ)請求人が定める「××××××××××××××××」に基づき、請求人が契約する温泉旅館等の宿泊利用券(以下「本件利用券」という。)を本件会員等の世帯に以下のとおり交付し、交付を受けた本件会員等の利用によって生ずる請求人の負担(1枚当たり9,000円)
A 本件会員の各世帯に対して、平成24年4月から平成25年3月までは年4枚、平成25年4月から平成29年3月までは年5枚
B 本件地区民で、前年の12月31日現在で満5年以上××××に定住し、住民としての義務を果たしている者の各世帯に対して、年4枚(1人世帯については年2枚)
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成25年3月期の本件委任に基づく業務の報酬7,605,111円(以下「本件受取手数料」という。)が収益事業以外の事業から生じた収入に該当するとして、別表1(編注:略)の「確定申告」欄のとおり、平成25年3月期の法人税の青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、一般社団法人のうち非営利型法人に該当するとして、別表1ないし3(編注:略)の各「確定申告」欄又は「申告」欄のとおり、平成26年3月期ないし平成29年3月期の各事業年度(以下、併せて「本件移行後各事業年度」という。)並びに平成26年3月課税事業年度、平成28年3月課税事業年度及び平成29年3月課税事業年度の法人税等の青色の確定申告書及び申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
ハ 原処分庁は、別表1ないし3の各「更正処分等」欄のとおり、平成30年2月28日付で、本件受取手数料は収益事業に係る収入に該当するとして平成25年3月期の法人税の更正処分をし、また、同日付で、請求人は××××××××から普通法人に該当する等として、本件移行後各事業年度並びに平成26年3月課税事業年度、平成28年3月課税事業年度及び平成29年3月課税事業年度の法人税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正等処分」という。)をした(以下、本件各更正等処分に係る通知書を「本件各更正等通知書」という。)。
ニ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年5月14日に審査請求をした。
なお、請求人は、原処分のうち平成25年31月期の更正処分について、本件受取手数料が収益事業に係る収入に該当することについては争っていない。
争点および主張
(1)平成25年3月期において、本件受取手数料に係る費用として損金の額に算入すべき金額があるか否か(争点1)。(略)
(2)本件各更正等通知書の理由付記に不備があるか否か(争点2)。(略)
(3)請求人は、本件移行後各事業年度において、非営利型法人又は普通法人のいずれに該当するか(争点3)。(表参照)
【表】争点についての主張(請求人は、本件移行後各事業年度において、非営利型法人又は普通法人のいずれに該当するか(争点3))
原処分庁 | 請 求 人 |
以下のことから、請求人は、法人税法施行令第3条第1項第3号に規定する「特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は行ったこと」が認められるから普通法人に該当する。 イ 「特定の個人」について 請求人は、下記のロの各供与を、××××の住民全体ではなく、その一部の者である本件全員等に対して行っているため、本件会員等は「特定の個人」に該当する。 ロ 「特別の利益」について (イ)本件家財等共済掛金 請求人が支出した本件家財等共済掛金は、本件会員等が所有する家財を対象とするものであり、本来は本件会員等が各自で負担すべきものであるから、請求人が本件家財等共済掛金を支出することは、請求人から本件会員等に対する経済的利益の供与といえ、「特別の利益」の供与に該当する。 (ロ)本件敬老祝金 本件敬老祝金の交付は、本件会員等に対する経済的利益の供与であり、その金額は、一般的な敬老祝金の額を超えるものである。したがって、本件敬老祝金の交付は、「特別の利益」の供与に該当する。 (ハ)本件利用券 本件利用券は、請求人が利用契約を締結したホテルや旅館に宿泊することができる金券であり、本件会員等が本件利用券を使用した際に、請求人が当該使用に係る宿泊費等を支出することは、請求人から本件会員等に対する経済的利益の供与といえる。 したがって、利用された本件利用券に係る宿泊費等を請求人が支出することは、「特別の利益」の供与に該当する。 |
以下のことから、請求人は、法人税法施行令第3条第1項第3号に規定する「特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は行ったこと」はなく、非営利型法人に該当する。 イ 「特定の個人」について 請求人は、積極的に構成員になるように広く勧誘活動を行っており、××××の住民であれば、誰でも本件会員等になることができる。また、原処分庁は、本件会員等が「特定の個人」に該当すると主張するが、請求人が、誰に、いつ、いくらの経済的利益を与えたかについて確認しておらず、「特定の個人」と「特別の利益」を紐付けることはできないのであるから、本件会員等は「特定の個人」には該当しない。 ロ 「特別の利益」について (イ)本件家財等共済掛金 共済対象となる事故がない限り、被共済者である本件会員等に対して、本件家財等共済掛金に対応する共済金は支払われず、本件移行後各事業年度において該当する事故は発生していない。また、共済契約者である本件会員等は、請求人に、被共済者が共済金を請求しない旨及び満期共済金を請求人が受領することに異議はない旨の念書を差し入れており、また、本件家財等共済掛金の額も、給与課税が行われない、あるいは寄附金とされない程度のものである。 したがって、本件家財等共済掛金に係る本件会員等に帰属する経済的利益はなく、「特別の利益」もない。 (ロ)本件敬老祝金 本件敬老祝金は、長年にわたり郷土の振興のために尽くした労をねぎらうために交付するものであるから、一般に対象年齢に達したことを根拠に支給される地方公共団体の敬老祝金とは趣旨が異なる。また、請求人と同程度の敬老祝金を毎年支給している一般社団法人も存在する。 したがって、本件敬老祝金に係る経済的利益は、社会通念上不相当なものとはいえず、「特別の利益」には該当しない。 (ハ)本件利用券 本件利用券は××××の住民の置かれた騒音等による過酷な生活環境に鑑み、精神の安定を保つことを目的として交付しているものである。このような事情を踏まえれば、本件利用券に係る経済的利益は、政策的に強いて課税しなくても課税上の弊害はなく、「特別の利益」には該当しない。 |
(4)本件各賦課決定処分について、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるか否か(争点4)。(略)
審判所の判断
(1)争点1(平成25年3月期において、本件受取手数料に係る費用として損金の額に算入すべき金額があるか否か。)について(略)
(2)争点2(本件各更正等通知書の理由付記に不備があるか否か。)について(略)
(3)争点3(請求人は、本件移行後各事業年度において、非営利型法人又は普通法人のいずれに該当するか。)について
イ 検討
(イ)法人税基本通達1.1.8の相当性について
法人税法施行令第3条第1項は、一般社団法人で、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがある場合には、非営利型法人に該当しない旨規定している。
それを受け、法人税基本通達1.1.8は、「特別の利益を与えること」とは、法人が特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償で譲渡していることなどのような「経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう」旨定めている。
法人税基本通達1.1.8の定めは、一般社団法人のうち法人税法第2条第9号の2イに規定する非営利型法人が、剰余金の分配を禁止されていること等に鑑み、妥当な取扱いであり、当審判所においても相当と認められる。
(ロ)本件各支出は、「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当するか否かについて
A 本件家財等共済掛金の負担について
請求人は、一定の条件の下に①平成24年4月から平成26年3月までは、本件会員等が所有する家財に対する共済掛金(一人当たり約1,100円)を負担し、②平成26年4月から平成29年3月までは、請求人の社員である本件会員及びその家族が所有する家財に対する建物更生共済掛金並びに本件地区民が所有する家財に対する火災共済掛金(本件会員一人当たり約20,500円、本件地区民一人当たり約2,400円)を負担している。これらの請求人の負担は、請求人が設定した一定の条件に該当する本件会員等に対するものであるから、「特定の個人」に対するものと認められる。また、本件家財等共済掛金の負担は、本来であれば家財を所有する者等が負担すべき共済掛金を請求人が代わりに負担することによって経済的利益を供与するものと認められる。そして、このような経済的利益の供与の対象及び態様並びに供与される金額等に照らすと、本件家財等共済掛金の負担は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。
したがって、本件家財等共済掛金の負担は、「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当するものと認められる。
B 本件敬老祝金の交付について
請求人は、本件敬老祝金として、「××××××××××××××××××××」に掲げる条件に該当する①70歳以上の請求人の社員である本件会員及びその親族に対して毎年3万円並びに②70歳以上の一定の本件地区民に対して毎年1万円を交付している。これらの請求人の金銭の交付は、請求人が設定した一定の条件に該当する本件会員等に対するものであるから、「特定の個人」に対するものと認められる。また、本件敬老祝金の交付は、毎年3万円又は1万円の金銭を直接交付するというもので、金銭その他の資産の交付をするものと認められる。そして、このような金銭その他の資産の交付の対象及び態様並びに交付される金額等に照らすと、本件敬老祝金の交付は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。
したがって、本件敬老祝金の交付は、「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当するものと認められる。
C 本件利用券の利用に基づく負担について
請求人は、本件会員の各世帯及び「××××××××××××××××××××」に掲げる一定の条件に該当する本件地区民の各世帯に対して本件利用券を交付しており、本件利用券が利用された場合、各温泉旅館等に対して本件利用券1枚当たり9,000円(年間最大45,000円)を負担している。これらの請求人の負担は、請求人の社員である本件会員及び請求人が設定した一定の条件に該当する本件地区民に対するものであるから、「特定の個人」に対するものと認められる。また、本件利用券の利用に基づく負担は、本来であれば、各温泉旅館等を利用した者等が負担すべき利用料を請求人が代わりに負担することによって、経済的利益を供与するものと認められる。そして、このような経済的利益の供与の対象及び態様並びに供与される金額等に照らすと、本件利用券の利用に基づく負担は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。
したがって、本件利用券の利用に基づく負担は、「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当するものと認められる。
(ハ)請求人は非営利型法人に該当するか否かについて
本件各支出は、上記(ロ)のとおり、法人税法施行令第3条第1項第3号に規定する「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当し、請求人はそれを行うことを決定し、又は行ったと認められるから、請求人は、法人税法施行令第3条第1項第3号に規定する非営利型法人の要件を満たしておらず、法人税法第2条第9号の2に規定する非営利型法人に該当しない(同条第9号に規定する普通法人に該当する。)。
(ニ)請求人が普通法人に移行した日について
上記(ロ)のとおり、請求人は、請求人が設定した一定の条件に該当する者に対して本件各支出を行っており、それを一般社団法人への移行前から移行後にかけて継続して行っていることからすれば、請求人は、一般社団法人への移行の時には、「特定の個人に特別の利益を与えること」を決定していたとみるのが相当である。
以上のことから、請求人が普通法人に移行した日は、請求人が一般社団法人に移行した××××××××と認められる。
ロ 請求人の主張について
(イ)「特定の個人」について
請求人は、××××の住民であれば誰でも本件会員等になることができ、また、請求人が、誰に、いつ、いくらの経済的利益を与えたかについて原処分庁は確認しておらず、「特定の個人」と「特別の利益」を紐付けることができない以上、本件会員等は「特定の個人」には該当しない旨主張する。
ところで、「特定の」という文言は、通常の日本語の意味内容に従い、「特にそれと指定すること」と解するのが相当であるところ、請求人の社員である本件会員並びに請求人が設定した一定の条件に該当する本件会員の家族及び本件地区民は、請求人が特にそれと指定した者であるから、「特定の個人」に該当すると認められる。
以上のことから、請求人が、請求人の社員である本件会員並びに請求人が設定した一定の条件に該当する本件会員の家族及び本件地区民という特定の個人に対して本件各支出に係る経済的利益の供与又は金銭の交付をしていることが認められる以上、それらの者が受けた経済的利益又は金銭の具体的な額が不明であったとしても、本件各支出に係る経済的利益の供与又は金銭の交付が「特定の個人」に対するものとする判断を左右しない。
したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(ロ)「特別の利益」について
A 本件家財等共済掛金の負担について
請求人は、①本件移行後各事業年度において、共済対象となる事故は発生していないこと及び②本件会員等は、請求人に、被共済者が共済金を請求しない旨及び満期共済金を請求人が受領することに異議はない旨の念書を差し入れていることを理由に、本件会員等の経済的利益はなく、「特別の利益」もない旨主張する。
しかしながら、本件家財等共済掛金は、本件会員等が個人的に所有する家財に対するものであり、支払事由が発生した場合の共済金及び満期共済金の受取人は契約者であることからすれば、本件家財等共済掛金は、契約者である本件会員等が負担すべきものであることは明白であり、共済対象となる事故の発生の有無にかかわらず、本件家財等共済掛金を請求人が負担することは、本件会員等に対する経済的利益の供与に該当する。
したがって、念書の有効性について判断するまでもなく、本件家財等共済掛金に係る本件会員等の経済的利益は生じないとする請求人の主張には理由がない。
B 本件敬老祝金の交付について
請求人は、本件敬老祝金は、長年にわたり郷土の振興のために尽くした労をねぎらうために交付するものであり、対象年齢に達したことを根拠に支給される敬老祝金とは趣旨が異なり、また、請求人と同程度の敬老祝金を毎年支給している一般社団法人も存在することから、社会通念上不相当なものとはいえず、「特別の利益」には該当しない旨主張する。
しかしながら、金銭その他の資産の交付の対象及び態様並びに交付される金額等に照らすと、本件会員等に対する本件敬老祝金の交付が「特別の利益」の供与に該当することは上記のとおりであり、仮に本件敬老祝金の交付について請求人の主張のとおりであったとしても、当該判断を左右しない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
C 本件利用券の利用に基づく負担について
請求人は、本件利用券の利用に基づく負担について、×××××の住民の置かれた騒音等による過酷な生活環境に鑑みれば、本件利用券に係る経済的利益に対しては、政策的に課税しなくとも課税上の弊害はないから、「特別の利益」には該当しない旨主張する。
しかしながら、経済的利益の供与の対象及び態様並びに供与される金額等に照らすと、本件利用券の利用に基づく負担が「特別の利益」の供与に該当することは上記のとおりであり、仮に本件利用券の交付の趣旨が請求人の主張のとおりであったとしても、当該判断を左右しない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(ハ)一般社団法人への移行認可について
請求人は、×××××から一般社団法人への移行認可を取得しているのであるから、請求人が利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が、事業の内容や実施方法等具体的事情に即し、社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇でないと×××××が認めており、このことは、本件会員等に対する本件各支出が「特別の利益」の供与に該当しないことを示すものである旨主張する。
しかしながら、請求人が法人税法上の普通法人又は非営利型法人のいずれに該当するかについては、飽くまで法人税法の規定に基づいて判断されるものであり、×××××の判断によって左右されるものではなく、また、上記のとおり、本件各支出は、法人税法の規定に基づき、「特定の個人に特別の利益を与えること」に該当するものと判断されるから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)普通法人への移行日について
請求人は、請求人が普通法人に該当するとしても、普通法人への移行日は、××××××××ではなく、実際に特定の個人に特別の利益を与えることを決定し、又は行った日である旨主張する。
しかしながら、請求人は、一般社団法人への移行の時には、「特定の個人に特別の利益を与えること」を決定していたとみるのが相当であり、請求人が普通法人に移行した日は、請求人が一般社団法人に移行した××××××××と認められるから、請求人の主張には理由がない。
(ホ)小括
以上のとおり、上記(イ)ないし(ニ)の請求人の主張にはいずれも理由がなく、その他の請求人の主張を踏まえて検討しても、上記イの判断を左右する事情は認められない。
(4)争点4(本件各賦課決定処分について、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるか否か。)について(略)
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