解説記事2025年11月03日 未公開判決事例紹介 同族会社等の判定明細書の記載を巡る税賠事件(2025年11月3日号・№1097)
未公開判決事例紹介
同族会社等の判定明細書の記載を巡る税賠事件
株式数は係争中のため税理士法上の確認義務なし
本誌1078号8頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇株主(原告)が同族会社等の判定に関する明細書を作成した税理士法人及びその職員(被告)を訴えていた事件(令和6年(ワ)第10945号)。東京地方裁判所は令和7年4月18日、持株数は係争中で、会社の意向により明細書を作成し、株式数の減少について確認しなかったとしても税理士法上の義務に違反しないとし、株主の請求を棄却した。
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して、145万7500円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要等
本件は、A株式会社(以下「A社」という。)の株主である原告が、同社の税務申告を担当する被告税理士法人△△△△(以下「被告法人」という。)の従業員であった被告T(以下「被告T」という。)の不法行為により損害を被ったと主張して、被告Tに対しては民法709条に基づき、被告法人に対しては民法715条に基づき損害賠償を求める事案である。
1 前提事実
争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、以下のとおりである。
(1)A社は、亡F氏(以下「F氏」という。)によって設立された会社である。F氏は、長年にわたり、A社の代表取締役として同社の経営を担ってきた。原告はF氏の二男であり、現在A社の代表取締役を務めるB氏(以下「B氏」という。)は、F氏の長男である。(甲1、4、争いのない事実)
(2)A社の平成27年7月期の税務申告は、K税理士によって行われた。この税務申告に含まれる「同族会社等の判定に関する明細書」には、原告がA社の株式620株を有することが記載されている。(甲3、弁論の全趣旨(原告第2準備書面3頁))
(3)被告法人は、平成27年11月頃から、K税理士に代わり、A社の税務申告等の業務を受任するようになった。被告法人においては、被告TがA社の担当者とされ、F氏との間で打合せをするなどして業務を行っていた。(甲9・4枚目)
(4)A社の平成28年7月期の税務申告は、被告法人によって行われた。被告Tは、税務申告の準備をするにあたり、従前の打合せ時においてF氏から原告の株式数をゼロとする意向を聞いていたことや、原告の株式数をゼロとすることなどが記載された資料を受け取っていたことなどを踏まえ、「同族会社等の判定に関する明細書」の書式に、原告の持株数をゼロとして記載した。その上で、平成28年9月頃、当時□□□□病院に入院中であったF氏のもとを訪れ、上記明細書の内容に了解を得た。被告法人は、これを税務当局へ提出して税務申告を行った。(甲2、甲9・5枚目以降、甲12。以下、平成28年7月期の税務申告に添付された「同族会社等の判定に関する明細書」(甲2)を指して「本件明細書」という。)
(5)F氏は、平成29年11月1日に死亡した。
(6)原告は、A社を被告として、原告が620株を有する株主であることの確認を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成31年(ワ)第8228号株主権確認等請求事件。以下「前訴」という。)。前訴において、原告は、平成21年7月から平成26年7月にかけて、F氏からA社の株式合計620株の贈与を受けたと主張した。A社は、これらの贈与は形式的な名義の移転にすぎないとか、この贈与を解除したなどと主張して原告が株主であることを争ったが、東京地方裁判所は、贈与は有効であって原告は620株を有する株主であるとして、原告の請求を認容し、この判決は確定した。(甲4、争いのない事実)
2 原告の主張
(1)被告らの不法行為
ア 被告T及び被告法人における担当税理士は、A社の税務申告を行うにあたり、F氏やB氏と原告とが対立関係にあることを認識していたのであるから、原告の持株数が減少する事実関係の存否について確認をすべき注意義務があるのに、これを怠り、何ら確認をしないまま原告の持株数をゼロと記載した本件明細書を作成して提出した過失がある。したがって、被告Tは不法行為者として、被告法人は被告T及び担当税理士の使用者として、連帯して、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
イ F氏は、原告所有の株式の無断移転やA社の役員の無断変更等の不法行為を行ったところ、被告らは、原告からB氏への株式贈与の贈与申告書を作成したり、不存在の株主総会議事録等の書類を作成するなどして、これらの行為に積極的に加担した。よって、被告らは、F氏との共同不法行為者として責任を負う。
(2)原告に生じた損害は、次の合計額である145万7500円である。
ア 前訴の弁護士費用(報酬、日当及び実費) 132万5000円
イ 本件の弁護士費用 13万2500円
(3)被告らの消滅時効の主張は争う。消滅時効の起算点は、前訴の代理人弁護士からの請求書が原告に到着した令和3年5月8日であるから、時効期間は経過していない。
3 被告らの主張
(1)被告らの不法行為の主張に対し被告Tは、A社の代表取締役であったF氏の意向を受けて本件明細書を作成し税務申告を行ったにすぎず、被告らはそれ以上に原告の持株数が減少する事実関係の存否について確認をすべき注意義務を負わない。また、原告に前訴を提起する必要が生じたのは、被告らが本件明細書を作成したからではなく、原告とA社との間で原告の持株数について争いがあったからであり、被告らの行為と原告主張の損害との間に因果関係はない。
(2)原告の損害は争う。
(3)前訴は令和3年4月7日に確定し、原告は、同日をもって、不法行為の損害及び加害者を知るところとなった。しかしながら、原告が本訴を提起したのは、その日から3年を経過した後の令和6年4月25日である。被告らは、原告の請求に対し消滅時効を援用する。
また、上記2原告の主張(1)イにかかる共同不法行為の主張は、令和7年1月15日提出の原告第4準備書面によって初めてなされているから、時効の起算点につき原告の主張によるとしても、この請求は時効期間経過後になされたものである。被告らは、原告の請求に対し消滅時効を援用する。
第3 当裁判所の判断
1 被告Tによる不法行為の成否
(1)上記第2の1前提事実(4)のとおり、被告Tは、原告の持株数をゼロとして取り扱う旨のA社の意向に基づき、被告法人の担当者として本件明細書を作成したことが明らかである。そうすると、原告とA社との間に株主権について争いが生じ、原告が前訴を提起することを余儀なくされたのは、本件明細書の作成に先立ち、A社がその内部的意思決定として(F氏の意向であると考えられるが、B氏やその他の者の意向が関わっていたとしても同様である。)原告の持株数をゼロとして取り扱うことと判断したのが原因であるというべきである。したがって、その後、被告Tによって本件明細書が作成されたことと、原告に前訴の弁護士費用等の損害が生じたこととの間に因果関係があるとは解されない。
(2)原告は、被告Tが、A社の担当税理士が被告法人に代わった原因がF氏と原告との対立にあることを把握していたことや、B氏が平成28年7月に原告から株式の贈与を受けた旨の贈与税の申告や、A社の役員の選任にかかる株主総会議事録及び取締役会議事録の作成にも関与していることを指摘し、被告Tは、原告とF氏及びB氏とが対立する関係にあることを認識していたのであるから、原告の持株数の減少が真正の事実に反するものでないか確認すべき義務を負っていたと主張する。しかしながら、原告の持株数の減少に理由があるか否かはまさに前訴の争点となっていたところであって、本件明細書の作成時点においては、原告の持株数をゼロとして取り扱うことが事実に反するか否かは未定であり、そのような状況のもと、被告Tが委任者たるA社の意向に基づいて本件明細書を作成し、原告に株式数の減少について確認しなかったとしても、被告らの税理士法上の義務に違反するものとはいえない。
(3)また、原告は、被告Tが上記のとおり原告の株式の移転にかかる贈与税の申告や役員の選任にかかる議事録等の作成に関与していたことなどから、被告らは、F氏による原告所有の株式の無断移転に積極的に加担したものとして共同不法行為を構成するとも主張する。しかしながら、平成28年頃の時点において、原告の持株数をゼロとして取り扱うことが事実に反するか否かが未定であったことは上記(2)のとおりであり、この時点において、被告TがA社側の指示に基づいて税務申告や書面の作成を行ったことが不法行為にあたるとはいえない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第12部
裁判官 秋山沙織
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-

-

団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -















