解説記事2025年11月24日 未公開判決事例紹介 外国子会社への株式譲渡の価格が適正か争われた事件(2025年11月24日号・№1100)
未公開判決事例紹介
外国子会社への株式譲渡の価格が適正か争われた事件
東京地裁、国側の主張を斥ける
本誌1096号40頁で紹介した法人税更正処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇企業グループの親会社である原告が、保有する外国子会社の全発行株式を譲渡した際の株式の譲渡が適正か否か、また、適正な評価額との差額が寄附金課税と移転価格税制のどちらの適用を受けるかが争われた事件(令和3年(行ウ)第484号)。東京地方裁判所(篠田賢治裁判長)は令和7年5月28日、国側の主張を斥け、納税者の原告が勝訴した。争点となったのは、外国子会社が保有する子会社株式の算定(DCF法)における余剰現預金(非事業用資産)の額であったが、CMS預け金の全額を余剰現預金とすべきとの国の主張は斥けられ、その一部を余剰現預金とした原告の評価額が合理的とされた。
主 文
1 門真税務署長が平成30年9月11日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の更正処分(ただし、令和元年8月30日付け更正処分及び令和3年3月25日付け裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち、連結所得金額マイナス900億4887万6415円を超える部分及び翌期ヘ繰り越す連結欠損金4360億9488万6096円を超える部分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
なお、本判決においては、所得の金額又は納付すべき税額が増加する方向及び欠損金額又は還付金の額に相当する税額が減少する方向をプラス(増額)、所得の金額又は納付すべき税額が減少する方向及び欠損金額又は還付金の額に相当する税額が増加する方向をマイナス(減額)とみて、ある金額よりもプラス方向の部分を「超える部分」と表現する。
事実及び理由
第1 請求(第1項に係る請求と第2項に係る請求は選択的併合)
1 主文同旨
2 門真税務署長が令和5年3月22日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
国内外に子会社及び関係会社を多数有する企業グループの親法人である原告は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という。)において、その保有する◎◎◎◎ Corporation of North America(以下「A社」という。)の全発行済株式を、原告の完全子会社である◎◎◎◎ Holding(Netherlands)B.V.(以下「N社」という。)に対して売却し(以下「本件譲渡」という。)、その譲渡価格をもって法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)61条の2第1項1号の定める「譲渡に係る対価の額」であるとして、本件連結事業年度の法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁から、当該譲渡価格は適正な評価額よりも過少であり、その差額は有価証券譲渡利益額として益金の額に算入され、かつ、租税特別措置法(平成31年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)68条の88第1項に規定する国外関連者に対する寄附金の額に該当するため同条3項によりその全額が損金の額に算入されないなどとして、これを前提とする本件連結事業年度の法人税の増額更正処分(以下「本件増額更正処分」という。)を受けた。その後、原告は、本件連結事業年度の法人税について更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたが、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けた。
本件は、原告が、本件増額更正処分(ただし、後記3(5)エの減額更正処分及び同オの裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの。以下「本件更正処分」という。)には、本件譲渡に係る「対価の額」の認定に当たり、A社が保有する同社の完全子会社である◎◎◎◎ Avionics Corporation(以下「C社」という。)の株式の評価を誤るなどした違法があると主張して、同処分のうち本件更正請求に係る請求金額を超える部分の取消しを求めるとともに、選択的に、本件通知処分の取消しを求める事案である。
2 関係法令等の定め
関係法令等の定めは、別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである。なお、別紙において定める略称等は、以下の本文においても用いる。
3 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者等
ア 原告は、昭和10年12月15日に設立された総合エレクトロニクスメーカーで、関連する幅広い事業分野において、電気機械器具等の開発、製造及び販売並びにサービス活動等を展開する内国法人である。原告は、国内外に子会社及び関係会社を多数有する企業グループの親法人であり、本件連結事業年度において連結親法人(法人税法2条12号の6の7)となっている。(乙8)
イ N社は、オランダ王国に所在する外国法人であり、後記(2)の外国の子会社の株式譲渡を通じた組織再編により、原告の企業グループの海外の一部地域の持株会社から海外全地域の持株会社となった。N社は、原告の国外関連者(措置法68条の88第1項)に該当する。(甲1、乙9)
ウ A社は、アメリカ合衆国に所在する外国法人であり、原告の企業グループの北米地域の統括会社として当該地域の子会社の株式を保有する持株会社であった。A社の全発行済株式(以下「A社株式」という。)は、本件譲渡により、原告からN社に対して売却された。(甲1)
エ C社は、航空機内AVシステムの製造販売等を営むアメリカ合衆国に所在する外国法人である。C社の全発行済株式(以下「C社株式」という。)は、A社に保有されている。(乙9)
(2)本件譲渡の概要
ア 原告は、外国の子会社の株式に係る持株会社の機能を海外の各地域統括会社からN社に統合するため、平成28年9月末頃、原告が保有するA社株式をN社に譲渡することを計画し、その売却価格等の検討を開始した。
イ 原告は、平成28年10月6日、D株式会社(以下「D社」という。)との間で、A社株式の価値評価に係る業務委託契約を締結した。(乙17の2)
D社は、平成29年3月9日付け「株式価値評価に関する報告書」(甲2。以下「本件評価報告書」という。)により、連結ベース(A社が保有しているC社を含む子会社の株式の価値も合算されているもの)のA社株式の価値を64億1500万米ドルと報告した。その算定過程は、後記(3)のとおりであった。(甲2)
ウ 原告は、平成29年3月16日、N社との間で、株式譲渡契約を締結し、N社に対し、A社株式を、本件評価報告書における評価額と同額である64億1500万米ドル(以下「本件譲渡価格」という。)で譲渡した(本件譲渡)。(乙35)
エ 原告は、平成29年3月16日、本件譲渡価格とA社株式の譲渡に係る原価の額(4373億2903万1651円)との差額2997億5446万8349円を、会計上、有価証券譲渡益として、本件連結事業年度の益金の額に算入した。
(3)本件評価報告書におけるA社株式の評価額の算定過程(甲2)
ア D社は、A社株式の評価額を評価するに当たり、株式価値の分析のための基準日を平成28年12月31日(以下「本件評価基準日」という。)とし、A社の保有資産のうち、C社株式及びPASA事業(AISカンパニーインフォテインメント事業部)については、DCF法に基づき算定し、その他の事業等については、簿価純資産法に基づいて算定した。
なお、DCF法とは、将来のフリー・キャッシュ・フロー(企業の事業活動によって得られる経済的利益から事業活動維持のために必要な投資を差し引くなどして算定した金額。以下「FCF」という。)を現在価値に割り引いた総和(以下「事業価値」という。)に非事業用資産の価値を加算し、負債の時価を減算して企業価値を算定する手法である。
イ 本件評価報告書において、C社株式の評価額は、以下のとおり算定されている(別表2−1の「本件評価報告書における算定額」欄参照)。
(ア)事業価値 ■■■■
(イ)非事業用資産
a 余剰現預金 1億9770万米ドル
上記金額は、C社の現預金残高(後記(4)のCMSへの預け金を含む。)のうち、偶発債務相当額1億5200万米ドルと、C社が平成29年1月から同年3月までに行った他社への出資金額4570万米ドルとを合計した金額である。
b C社の事業計画に反映されていない同社の子会社2社の純資産相当額 3250万米ドル
(ウ)負債 1億5200万米ドル
上記金額は、上記(イ)aの偶発債務相当額である。
(エ)評価額 ■■■■
上記金額は、上記(ア)の事業価値に、上記(イ)a及びbの非事業用資産の価値を加算した上、上記(ウ)の負債時価を減算したものである。
ウ 上記イの算定結果を踏まえ、C社株式の価値を含んだA社株式の価額は、64億1500万米ドルと算定された(別表2−2の「本件評価報告書における算定額(本件譲渡価格)」欄参照)。
(4)CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の概要
ア CMSの概要
一般的に、CMSとは、企業グループ内において、親会社や金融子会社に設けた専用口座で、グループ全体の資金を一元的に管理・運用するシステムであり、グループ内の資金効率の最大化及び財務リスクの最小化を目的とするものである。(乙10)
イ 原告の企業グループにおけるCMSの概要
原告の企業グループにおいて構築されているCMS(以下「本件CMS」という。)においては、当該企業グループ全体の資金を一元的に管理等するグローバル財務拠点1社が置かれ、その下に海外各地域の財務拠点9社が置かれていた。そして、企業グループ内の各企業が所属する各地域の財務拠点に開設した専用口座に日々集約した預金は、各地域の財務拠点を経由して、上記グローバル財務拠点へ日々集約されていた。(乙11)
ウ C社が保有するCMS預け金について
C社は、本件CMSにおける北米地域の財務拠点である◎◎◎◎ Finance(America),Inc.(後にA社に吸収合併され、本件評価基準日には、A社)との間で、本件CMSについての金融取引に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結しており、同契約に基づき、本件評価基準日において、本件CMSに以下の預け金を保有していた(以下、この預け金を「本件CMS預け金」という。)。(乙12の1−3、乙13)
(ア)普通預金 2億5121万7973.55米ドル
(イ)短期(3か月)の定期預金 3億米ドル
(ウ)日本円建て外貨預金 1013万0766.55米ドル(日本円を米ドルに換算した金額)
(エ)合計額 5億6134万8740.1米ドル
(5)課税の経緯等
ア 確定申告
原告は、法人税につき、法人税法4条の2に規定する連結納税の承認を受けているところ、本件連結事業年度の法人税について、前記(2)エの会計上の有価証券譲渡益2997億5446万8349円をもって法人税法61条の2第1項の譲渡利益額として、本件連結事業年度の法人税の連結所得の計算上益金の額に算入し、法定申告期限内である平成29年7月21日付けで、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件確定申告」欄のとおり、確定申告(以下「本件確定申告」という。)を行った。(乙5)
イ 本件増額更正処分
処分行政庁は、原告に対し、平成30年9月11日付けで、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件増額更正処分」欄のとおり、本件増額更正処分をした(なお、同処分が後記エの減額更正処分及び後記オの裁決によりそれぞれ一部取り消された後のものが、本件更正処分である。)。
本件増額更正処分のうち本件譲渡に係る連結所得金額の計算に関する部分の理由は、①C社株式の評価額は、本件評価基準日の本件CMS預け金の全額5億6134万8740.1米ドルを非事業用資産(余剰現預金)としてDCF法により算定した■■■■であり、これを前提にしたA社株式の評価額は67億7864万8740.1米ドル(以下「処分行政庁評価額」という。)であって、原告のC社株式に係る余剰現預金の算定方法には明らかな誤りがあり、処分行政庁評価額を前提とすると本件譲渡につき益金の額に算入される譲渡利益額の正当額は3409億4859万7627円となるため、本件確定申告における原告計算額(前記ア参照)との差額411億9412万9278円を原告固有分の益金算入額として本件連結事業年度の連結所得金額に加算し、また、②本件譲渡価格がA社株式の時価(処分行政庁評価額)に比して低額であることにつき相当な理由が認められないから、本件譲渡価格と処分行政庁評価額との差額は、N社に対する法人税法37条7項の寄附金の額に該当し、上記差額の円換算額411億9412万9278円を原告固有分の損金算入額として本件連結事業年度の連結所得金額から減算するものの、③当該寄附金の額は、措置法68条の88第3項の規定により、その全額が損金の額に算入されないため、当該金額を本件連結事業年度の連結所得金額に加算するというものであった(別表2−1から2−3の「主位的主張」欄参照)。(甲58、乙4)
ウ 審査請求
原告は、平成30年12月7日、国税不服審判所長に対し、本件増額更正処分のうち本件譲渡に係る連結所得金額の計算に関する部分(前記イ)を不服として、審査請求を行った。
エ 更正の請求及び減額更正処分
原告は、令和元年7月1日付けで、処分行政庁に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「更正の請求」欄のとおり、外国子会社から受けた配当等の金額について受取配当等の益金不算入制度が適用されることなどを理由に、更正の請求をした。(甲7)
処分行政庁は、上記更正の請求に基づき、令和元年8月30日付けで、原告に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「減額更正処分」欄のとおり、減額更正処分をした。(甲8、乙7)
オ 裁決
国税不服審判所長は、令和3年3月25日付けで、前記ウの審査請求に対する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件裁決の内容は、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件裁決」欄のとおりであり、C社が保有する本件CMS預け金のうち定期預金3億米ドルを余剰現預金としてC社株式の評価額を算定すると■■■■となり、これに基づきA社株式の評価額を算定すると、65億1730万米ドル(以下「裁決庁評価額」という。)となるなどとして、本件増額更正処分(前記エの減額更正処分によりその一部が取り消された後のもの)の一部を取り消し、その余の審査請求を棄却するものであった(別表2−1から2−3の「予備的主張」欄参照)。(甲9)
本件裁決に係る裁決書謄本は、令和3年3月27日以降、原告に対して送達された。
(6)本件訴訟に関する経緯
ア 本件訴訟の提起
原告は、令和3年9月27日、本件更正処分のうち連結所得金額マイナス900億4887万6415円を超える部分及び翌期へ繰り越す連結欠損金4360億9488万6096円を超える部分の取消しを求めて、本件訴訟を提起した。
これに対し、被告は、原告が本件更正処分の取消しを求める部分のうち、本件確定申告における申告額を超えない部分については、更正の請求を経ずに取消しを求めるものであり不適法である旨の答弁をした。(顕著な事実)
イ 本件更正請求及び本件通知処分
原告は、前記アの被告の答弁等を受け、令和4年12月23日付けで、処分行政庁に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件更正請求」欄のとおり、本件連結事業年度の法人税の連結所得金額をマイナス900億4887万6415円、翌期へ繰り越す連結欠損金の額を4360億9488万6096円とする内容の本件更正請求をした。(甲81)
処分行政庁は、令和5年3月22日付けで、本件更正請求について更正をすべき理由がない旨の本件通知処分をした。(甲99)
ウ 原告による訴えの追加的変更
原告は、令和5年6月19日付けで、国税不服審判所長に対し、本件通知処分の取消しを求める審査請求をした上、同審査請求を行った日の翌日から3か月を経過した後の同年10月18日、行政事件訴訟法19条2項、民事訴訟法143条に基づき、本件通知処分の取消しを求める請求(請求の趣旨第2項)を追加した(なお、同請求と請求の趣旨第1項に係る請求とは選択的併合の関係にある。)。(甲101、顕著な事実)
4 本件更正処分の根拠及び適法性に係る被告の主張
被告が主張する本件更正処分の根拠及び適法性は、別紙3「本件更正処分の根拠及び適法性に係る被告の主張」記載のとおりであり、原告は、後記5の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を争わない。
5 争点
本件の争点は、本件更正処分及び本件通知処分の適法性であり、具体的には、以下の2点である。
(1)本件譲渡時におけるA社株式の「譲渡に係る対価の額」(法人税法61条の2第1項1号)(争点1)
なお、争点1に関して、A社株式の時価の算定において争いがあるのはC社株式の評価額のみであり、具体的には、DCF法によるC社株式の評価におけるC社の事業用現預金及び余剰現預金の額のみが争いとなっており、他の金額の計算等には争いがない。
(2)本件譲渡に移転価格税制(措置法68条の88第1項)を適用せず寄附金課税(同条3項)を適用した点において、本件更正処分に法令適用の誤りがあるか否か(争点2)
6 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件譲渡時におけるA社株式の「譲渡に係る対価の額」)について
(被告の主張)
ア A社株式の時価が処分行政庁評価額であること(争点1に係る主位的主張)
(ア)DCF法を用いて評価することの合理性
連基通2−3−4が準用する同4−1−5は、上場有価証券等以外の株式の評価方法についての原則的な取扱いを定めるところ、C社株式については、連基通4−1−5(1)から(3)に該当しないため、同(4)により、本件譲渡時における「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」が、同株式の本件譲渡時における適正な価額となるといえる。連基通4−1−5(4)に定める「純資産価額等を参酌」する評価方法には、純資産価額に準拠する以外の評価方法も通常取引される価額を求める方法として一般的な合理性が認められている限りにおいて包含されるものと解されるところ、DCF法は、企業価値評価実務で広く用いられているものであり、株式価値の評価手法として一般的な合理性を有するものということができ、C社が収益性の高い事業を営んでおり、C社株式には多額の含み益が生じていたことからすると、本件譲渡時における同株式の適正な価額を算定する方法として、評価対象企業の収益力に着眼するDCF法を用いることは、合理的である。
これに対し、原告は、A社株式及びC社株式の価額は、連基通2−3−4が準用する同通達4−1−5(4)により、純資産価額方式に準じて評価すべきであるなどと主張するが、本件譲渡において、原告は、評価通達の例によって算定した価額によってC社株式を評価していないから、そもそも連基通4−1−6の適用はないし、また、純資産価額方式ではC社の将来の収益獲得能力を適正に把握できないこと、原告自身が同株式の評価に当たりDCF法による方が適切と認識していたことからすると、評価通達(純資産価額方式)に基づいて同株式を評価することは、著しく不合理な結果を生じさせ、課税上の弊害をもたらすものであるから、原告の上記主張は理由がない。
(イ)DCF法における事業用現預金及び余剰現預金の考え方
事業用資産に当たる「事業用現預金」とは、事業の運営のために現預金という形態そのままで保持する必要がある手元現預金のことをいい、当該現預金残高を現預金という形態のままで保持しないと、取引上の決済等の事業運営に支障を来し、DCF法で予測した将来業績の達成が困難になると考えられる水準の現預金に限られる。そして、非事業用資産である「余剰現預金」とは、評価対象企業の保有現預金から上記事業用現預金を除いたその他の現預金をいう。
事業用現預金の額の算定に当たっては、評価対象企業が評価基準日に保有する現預金について、その保有形態にも着目しつつ、当該現預金額が、当該評価対象企業にとって、「事業を継続的に運営していくための流動資産の一部として現預金という形態そのままで確保しておく必要がある手元現預金」であるとみるべき合理的な根拠があるか否かを慎重に検討すべきである。
CMSは、一般に、グループ内の参加会社の余剰資金を統括会社の口座に集め、グループ内の資金需要に応じて貸付けを行うものであるから、CMS預け金は、余剰資金の運用形態ということができる。したがって、事業用現預金の額の算定に当たり、評価対象企業が評価基準日時点で保有するCMSへの預け金については、その保有形態に照らし、基本的には余剰現預金と推定するのが相当である。
(ウ)C社の事業用現預金及び余剰現預金の額
C社は、本件評価基準日(平成28年12月31日)において、合計5億6879万6000米ドルの現預金を保有していたところ、その内訳は、現金及び当座預金が合計744万7259.9米ドル、本件CMS預け金が合計5億6134万8740.1米ドルであった。
CMSへの預け金は、余剰資金の運用形態ということができるから、基本的に余剰現預金と推定するのが相当である。処分行政庁は、本件CMS預け金について、本件評価基準日における将来の支出の予定の有無や、事業上の使途、タイミング、金額が不明であり、本件CMS預け金の全部又は一部がC社の事業用現預金であると説明し得る合理的な根拠が見いだせなかったことから、これを事業用現預金と認める余地はないと判断した。他方で、本件評価基準日時点でC社が保有していた現金及び当座預金については、その保有形態に照らせば、基本的には、事業を継続的に運営していくための流動資産の一部として現預金という形態そのままで確保しておく必要がある手元現預金とみることができ、特に、その全額を事業用現預金の額と算定することができないと解すべき事情はうかがわれなかったことから、処分行政庁は、上記現金及び当座預金の合計744万7259.9米ドルを事業用現預金の額と算定した上で、C社の保有する現預金残高から上記744万7259.9米ドルを除いた5億6134万8740.1米ドル(本件CMS預け金)を余剰現預金と算定したものである。
このように、処分行政庁は、C社の現預金の保有形態に着目して、慎重かつ抑制的にその事業用現預金の額の算定をしたものであり、かかる算定は相当性を有するものである。
(エ)小括
C社の事業用現預金は上記(ウ)のとおりであり、これを前提にC社株式の株式価値をDCF法により算定すると■■■■■■■■となり、これを基礎とするA社株式の評価額は、処分行政庁評価額(67億7864万8740.1米ドル)と算定されるから、同金額が、A社株式の客観的な交換価値である時価と認められる。
イ A社株式の時価が裁決庁評価額を下回ることはないこと(争点1に係る予備的主張)
本件裁決は、DCF法における評価対象企業の保有現預金に関する事業用現預金と余剰現預金の区別について、まず事業を運営するために必要な資金としての事業用現預金の金額を求めるのが一般的であることを前提に、C社の現預金等の資産の状況に照らし、本件CMS預け金のうち定期預金3億米ドルを本件評価基準日におけるC社の余剰現預金の額と認めたものである。
被告は、前記アのとおり、本件評価基準日におけるC社の保有現預金のうち本件CMS預け金全額(5億6134万8740.1米ドル)を余剰現預金の額と認めるのが相当である旨主張するものであるが、仮に、かかる被告の主位的主張が認められないとしても、本件裁決の判断内容に照らし、少なくとも上記3億米ドルについては、本件評価基準日におけるC社の余剰現預金であると認められるべきである。これを前提にDCF法によりC社株式の株式価値を算定すると、■■■■となり、これを基礎とするA社株式の評価額は、裁決庁評価額(65億1730万米ドル)となる。
したがって、A社株式の時価が裁決庁評価額を下回ることはない。
(原告の主張)
ア DCF法により算定されるA社株式の時価が、本件譲渡価格であると認められるべきこと
(ア)DCF法については、法令や通達には何らの規定もなく、その適用方法について複数の合理的な考え方があり得るため、DCF法により算定される株式価値についても、複数の合理的な評価額があり得る。
他方で、法人税法上の時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する客観的な価額でなければならないから、本件において、原告の採用した本件譲渡価格が誤り又は違法であるというためには、不特定多数の当事者間の自由な取引において、処分行政庁評価額で時価を認定するという処理しか通常はあり得ず、本件譲渡価格が明らかに不合理であり、何らの合理性もないことが必要である。
(イ)事業用現預金の額の算定は、財務上の経営判断としての将来予測として、「事業運営に支障を来し、DCF法で予測した将来業績の達成が困難になる」ことが起こらないレベルの現預金の絶対額を定量的に算定するものである。その事業用現預金の額の定量的な算定方法について、被告が依拠すると思われる、現預金の保有形態に基づき算定するとの方法は、講学上も実務上も一般に示されていない。
(ウ)事業用現預金の額の算定は、評価対象企業の中長期的なビジネス上の視点に基づく経営判断の問題にほかならず、その経営判断を重視し尊重すべきことが実務上確立している。事業用現預金の額を、外部から入手可能な客観的情報のみに基づいて一義的に算定することは困難であり、C社の経営や財務に関知せず経営責任も負わない第三者が専らその主観により同社の事業用現預金の額の算定をすることには意味がない。
(エ)D社による本件評価報告書によるC社株式の評価は、大要、①評価基準日を含む直近12か月のC社の現預金月末残高のうち最も小さい金額を事業用現預金の額として算定したが、②C社は長年にわたって高い収益力を有しており、保有する現預金残高が事業用現預金を超えて大きく積み上がっている可能性が考えられる旨の情報が寄せられたことから、③C社の偶発債務相当額及び他社への出資予定金額の合計額1億9770万米ドルという金額は、同出捐があったとしてもC社の事業が問題なく継続できる金額と判断されたため、同額が余剰現預金に該当するとして、①で算定した事業用現預金の額を同額だけ減少させたものである。このような評価方法は何ら不合理なものではない。
(オ)本件評価報告書の算定結果は、原告の企業グループにおいてキャッシュ化速度のための財務指標として広く用いられているキャッシュ・コンバージョン・サイクル指標(以下「CCC指標」という。)に基づき推定されるC社の事業用現預金の額とも一致する合理的なものであった。また、本件会計監査人及び△△△△も、本件評価報告書の採用した算定方法及び算定結果の合理性を認めている。
(カ)被告の主張するC社の事業用現預金の額では、C社は事業運営に支障を来し倒産するから、結論において誤りである。また、DCF法の適用において、余剰現預金の額は、事業用現預金の額を推定し、その額を評価基準日現在の現預金残高から控除して算出することが一般的であるが、処分行政庁は、C社の事業用現預金の額について一切検討していなかったものであり、本件CMS預け金について保有形態のみを理由としてその全額を余剰現預金の額として扱う被告の主張は不合理である。さらに、本件CMS預け金のうち定期預金とされている部分の全額を余剰現預金であるとする被告の予備的主張も、失当である。
(キ)以上によれば、原告が主張するDCF法の適用上のC社の事業用現預金の額(3億7109万6000米ドル)及び余剰現預金の額(1億9770万米ドル)の算定は、DCF法の適用として通常あり得ない不合理なものであるとは認められず、むしろ十分な合理性を有するものである。したがって、A社株式の法人税法上の時価が処分行政庁評価額であるとの事実は認定できないから、本件更正処分は、違法である。
イ 連基通の定める純資産価額方式に準じて算定されたA社株式の時価は、本件譲渡価格を上回らないこと
A社株式及びC社株式の価額は、連基通2−3−4が準用する同通達4−1−5(4)により、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」すなわち純資産価額方式に準じて評価すべきである。
かかる方法に従ってA社株式及びC社株式の各価額を評価した結果は、▲▲▲▲税理士法人及び▲▲▲▲トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社の作成した平成31年1月10日付け株式価値算定報告書(甲56)のとおりであり、A社株式の評価額は55億2275万8000米ドル(うちC社株式の評価額は、■■■■)と算定される。これは、処分行政庁評価額はもちろん、原告の主張する本件譲渡価格よりも低いから、A社株式の時価が処分行政庁評価額又は裁決庁評価額であるとは認められない。
ウ 小括
以上によれば、A社株式の時価が処分行政庁評価額又は裁決庁評価額であることを前提としてされた本件更正処分は、違法である。
(2)争点2(本件譲渡に移転価格税制を適用せず寄附金課税を適用した点において、本件更正処分に法令適用の誤りがあるか否か)について
(被告の主張)
移転価格税制の規定と国外関連者に対する寄附金の損金不算入の規定は、明らかに適用要件が異なり、その適用範囲は常に一致するわけではない。また、措置法68条の88第3項の「寄附金」が法人税法37条7項の「寄附金」と同義であることは、法文上明らかである。
本件譲渡価格(64億1500万米ドル)は、A社株式の「譲渡に係る対価の額」(法人税法61条の2第1項1号)であり「その譲渡の時における価額」(同法37条8項)である処分行政庁評価額(67億7864万8740.1米ドル)及び裁決庁評価額(65億1730万米ドル)に比して低額であるところ、本件譲渡においては、原告がA社株式を「その譲渡の時における価額」(時価)より低く譲渡したことにつき、通常の経済取引として是認できる合理的な理由の存在をうかがわせる事情は何ら認められない。したがって、本件譲渡価格と時価である処分行政庁評価額又は裁決庁評価額との差額は、措置法68条の88第3項に規定する国外関連者に対する寄附金として、その全額が損金に算入されないこととなるから、本件更正処分に法令適用の誤りはない。
(原告の主張)
国外関連者との間の資産の譲渡について、当該資産の時価をめぐる課税庁との見解の相違により資産の時価との差額が認定されるような場合にまで寄附金課税が適用されると解するならば、およそ国外関連者との間の資産の譲渡においては移転価格税制にいう「独立企業間価格」と寄附金課税にいう「時価」の双方が常に観念し得る以上、結局常に寄附金課税が適用されることとなり、移転価格税制が適用される余地はなくなるところ、そのような帰結は、国外関連者との間の資産の譲渡の場面において移転価格税制を事実上死文化させるものであり、およそ法令が予定するものではない。また、寄附金課税と移転価格税制の適用の選択が課税庁の自由裁量に委ねられるということも、およそ法令が予定するものではない。
仮に、措置法68条の88第3項の「寄附金の額」を、法人税法37条8項及び7項の「寄附金の額」と同義に解するとしても、同条8項の「実質的に贈与又は無償の供与をした」場合に該当するか否か、つまり、寄附金の額の定義にいう「通常の経済取引として是認することができる合理的な理由が存在しない」ものか否かは、課税庁が認定した資産の時価と譲渡対価との間に客観的な乖離がある事実それ自体で判断されるものではなく、そのような乖離がある場合であっても、その乖離の程度や譲渡対価の決定の経緯等の諸般の事情を考慮することにより決せられるべきである。
本件についてこれをみると、本件譲渡価格は、処分行政庁評価額と比べてもわずか5%程度しか乖離しておらず、その決定経緯に鑑みても、原告において、本件譲渡価格がA社株式の時価を下回るとの認識は一切有していなかった。そうすると、本件譲渡においては、資産の時価と譲渡対価の間の乖離の程度や譲渡対価の決定の経緯等の諸般の事情をみても、およそ原告からN社に対する贈与を推認させる事実は存在せず、同差額が寄附金の額に該当することはないというべきである。
以上のとおり、本件譲渡における差額については、「その行為について通常の経済取引として是認することができる合理的な理由が存在しない」とはいえず、寄附金課税の要件を充足しないから、寄附金課税ではなく移転価格税制が適用されるべきであった。
したがって、本件譲渡における差額に寄附金課税を適用した本件更正処分には、法令の適用を誤った違法がある。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)本件CMSの基本的な仕組み
ア C社は、本件CMSにおける北米地域の財務拠点であるA社との間で、金融取引に関する本件基本契約を締結しており(前提事実(4)ウ参照)、本件基本契約において、原告の定める「G&Gファンドマネジメントシステム」に従って金融取引を実施することなどを合意していた。「G&Gファンドマネジメントシステム」とは、原告の企業グループにおけるグループ連結総資産の圧縮及び資金効率の向上を目的として、グループ資金を財務拠点に集中して管理するための仕組みを定めるものであり、本件評価基準日においては、平成28年4月1日付け「G&G Funds Management System(Revised Edition)」(甲108。以下「本件G&Gファンドマネジメントシステム」という。)が適用されていた。(甲111、乙13)
本件G&GファンドマネジメントシステムⅣ章1条は、同システムに参加する企業(以下「各参加企業」という。)に対し、財務拠点に内部口座(以下「財務拠点内部口座」という。)を開設しなければならない旨定めるとともに、原告が地域ごとに指定する銀行に資金集約のための口座(以下「オートスイープ対象口座」という。)を開設しなければならない旨定めている。(甲108)
C社は、本件G&Gファンドマネジメントシステムの上記定めに従い、北米地域の財務拠点であるA社に財務拠点内部口座(以下「A社内部口座(C社)」という。)を開設するとともに、原告が北米地域について指定したCitibank(以下「本件銀行」という。)に、オートスイープ対象口座(C社名義の本件銀行ニューヨーク支店口座番号××××××××。以下「C社シティバンク銀行口座」という。)を開設していた。このうち、A社内部口座(C社)は、残高が管理上記録されるにすぎず、物理的な資金移動があるのはC社シティバンク銀行口座のみである。(甲111、弁論の全趣旨)
イ C社シティバンク銀行口座については、A社と本件銀行との間で、C社を含む北米地域の各参加企業が本件銀行に開設するオートスイープ対象口座について、オートスイープを実施するための契約(甲109。以下「オートスイープ実施契約」という。)が締結されており、C社も同契約の定める内容に従うことに同意していた。(甲111)
オートスイープ実施契約においては、財務拠点であるA社が本件銀行に開設する口座(A社名義の本件銀行ニューヨーク支店口座番号××××××××。以下「A社シティバンク銀行口座」という。)と、各参加企業のオートスイープ対象口座との間で、オートスイープが実施されることが合意されている。具体的には、各営業日の終了時点において、①オートスイープ対象口座の残高が0米ドルを下回った場合、残高が0米ドルになるまで自動的にA社シティバンク銀行口座から資金が補充され、②オートスイープ対象口座の残高が0米ドルを上回った場合、残高が0米ドルになるまで自動的に資金がA社シティバンク銀行口座に移動されるという取引が実施される。なお、A社シティバンク銀行口座に集約された資金については、別途、オランダ法人である◎◎◎◎ Global Treasury Center B.V.(以下「□□□□社」という。)と本件銀行との間で締結された契約に基づき、□□□□社が本件銀行に開設する口座(以下「原告グループ資金集約口座」という。)に資金が集約される。(甲109〔3、5頁)、110〔3頁〕、乙11〔4頁〕弁論の全趣旨)
ウ 物理的な資金移動としては、C社を含む北米地域の各参加企業のオートスイープ対象口座(C社の場合はC社シティバンク銀行口座)における預金は、A社シティバンク銀行口座を経由して、原告グループ資金集約口座に集約されている。他方で、本件CMSに基づく資金管理としては、オートスイープ対象口座とA社シティバンク銀行口座との間で実施されるオートスイープに基づく入出金の結果が、各参加企業の開設した財務拠点内部口座(C社の場合はA社内部口座(C社))の残高として管理上記録される。各参加企業のCMS預け金という場合、財務拠点内部口座に管理上記録された残高を意味する。(乙11〔4頁〕、甲110〔2頁〕、111〔2頁〕)
エ 各参加企業の財務拠点内部口座の普通預金及び定期預金の金利は、本件G&GファンドマネジメントシステムⅣ章6条により、原告及び財務拠点(C社の場合はA社)が決定することとされている。平成28年10月末日時点におけるA社内部口座(C社)に係る普通預金と定期預金の利率は、それぞれ、0.64%及び0.70%であった。(甲117、118)
各参加企業がCMS預け金に係る定期預金を中途解約する場合、本件G&GファンドマネジメントシステムⅣ章7条により、解約コストを支払うこととされている。もっとも、実際には、中途解約時までの期間に係る利息計算が定期預金ではなく普通預金の利率に基づき行われるものの、これとは別に解約コストが請求される例はなく、そのような実務運用が本件CMSに関与する者の共通認識となっていた。また、中途解約された定期預金は、最大2日、最短即日で引出しが可能であった。(甲110〔4、5頁〕、121、123)
平成28年10月末におけるA社内部口座(C社)の定期預金の満期は3か月とされており、満期到来時には、当該定期預金の残高は、A社内部口座(C社)の普通預金の残高に管理上の記録が変更されていた。(甲118、120)
(2)オートスイープに係る実務運用の概要(甲111〔3~5頁〕)
ア 特定の日(以下「該当日」という。)についてのオートスイープは、該当日の取引によりC社シティバンク銀行口座に生じる入金と出金の差額を日締めで計算した上で、当該差額(すなわち該当日に生じたC社シティバンク銀行口座の残高の変動分)を埋める形で、C社シティバンク銀行口座からA社シティバンク銀行口座への出金又はA社シティバンク銀行口座からC社シティバンク銀行口座への入金が自動的に行われる(甲109〔3、5頁))。当該オートスイープは、該当日の日締めのタイミングにおいて上記入金と出金の差額を計算して、該当日におけるオートスイープの送金額を確定させた上で、実際の資金の移動は該当日の翌日の午前2時頃に行われる。このため、該当日の翌日午前2時頃に行われるオートスイープによる送金を該当日における取引に含めて考えた場合、原則として、該当日のC社シティバンク銀行口座の出入金額は一致し、該当日の終了時点(該当日の翌日午前2時頃において該当日に係るオートスイープによる送金が完了した時点をいう。以下同じ。)で残高はゼロとなる。
イ もっとも、本件銀行の記帳上は該当日付けで記録されるものの、実際の入金は該当日の日締めのタイミング以降に発生するもの(例えば資金の移動に時間がかかる小切手の入金)も存在するところ、そのような入金は、該当日のオートスイープには間に合わない。そのため、上記アの例外として、該当日の終了時点におけるC社シティバンク銀行口座の残高がゼロとならないことがある。当該金額は、残高として該当日の翌日に繰り越された後、当該翌日のオートスイープにより、まとめてA社シティバンク銀行口座に移動されることとなる。
ウ C社における日々の事業上の取引においては、C社が顧客に対して有する売掛債権について入金がある場合は、当該顧客の口座からC社シティバンク銀行口座に売掛金相当額が振り込まれ、C社が取引相手に対して負う買掛債務について出金を行う場合は、C社シティバンク銀行口座から当該顧客の口座に対して買掛金相当額が振り込まれる。
該当日においてC社シティバンク銀行口座からの出金が生じる場合、上記アのとおり該当日の前日の終了時点でのC社シティバンク銀行口座の残高はオートスイープにより原則としてゼロとなっているから、当該出金時点で、当該出金相当額がC社シティバンク銀行口座に残っていないこともある。その場合、A社内部口座(C社)の残高の範囲内であれば、本件銀行の日中赤残枠(日中ベースの当座貸越)をもって、無利息で上記出金に対応することができるとされている。
(3)C社の保有現預金について
ア 各参加企業は、取引等に基づく出入金について、原則としてオートスイープ対象口座を用いることが原告によって推奨されており、C社においても、売掛債権等の回収及び買掛債務等の支払は、原則として全てC社シティバンク銀行口座において対応している。
もっとも、C社は、従業員給与や関税の支払の都合上、主として米国外の市中銀行において米ドル以外の通貨建ての口座も有しており、かかる市中口座については、オートスイープの対象とはなっていないものの、本件基本契約及び本件G&Gファンドマネジメントシステムに基づく資金集中管理の対象に含まれるため、C社は、当該市中口座については米国外の現地国における従業員給与や関税の支払に必要となる最低限の金額のみ入金し、それを上回る額の金銭については、定期的に担当者が手動で送金指示を行うことによりC社シティバンク銀行口座に移動することとし、これにより資金集約を図っている。(以上につき、甲111〔4、5頁〕)
イ C社は、本件評価基準日(平成28年12月31日)において、現預金合計5億6879万6000米ドルを保有しており、その内訳は、以下のとおりであった。(前提事実(4)ウ、弁論の全趣旨)

このうち、現金及び当座預金の合計744万7259.9米ドルは、①オートスイープの対象であるC社シティバンク銀行口座に預けられていたもの(494万2900米ドル)と、②C社が主として米国外の市中銀行に有している口座に米ドル以外の通貨建てで預けられていたものとに大別される。(甲122)
上記①のC社シティバンク銀行口座に預けられていた預金については、該当日のオートスイープに間に合わなかった入金が残高として翌日に繰り越され、当該残高がC社の現金又は当座預金として計上されたものであり、オートスイープの仕組み上の技術的な理由により生じたものである。
また、上記②のC社が市中銀行に有している口座に預けられていた預金については、同社が世界各国で営む事業において、従業員に対する給与や関税を支払うために必要となる最低限の金額として、現地国の市中銀行において保有していたものである。(以上につき、甲111〔6、7頁〕)
(4)CCC指標について
ア 原告の企業グループにおいては、平成24年10月から、キャッシュ重視の経営の促進を図る一環として、キャッシュ化速度を可視化するための財務指標であるCCC指標(キャッシュ・コンバージョン・サイクル指標)が導入されている。原告の企業グループにおいて採用されているCCC指標は、「CCC金額」及び「CCC日数」という2つの数値として計算されるところ、その計算方法は、次のとおりである。
CCC金額:売掛債権+棚卸資産−買掛債務
CCC日数:(売掛債権+棚卸資産−買掛債務)÷対象期間の売上高×対象期間の標準日数(3か月であれば90日)
CCC金額は、CCC日数の前提として計算されるものであり、CCC日数は、原材料や商品仕入れのために現金を支出してから、その原材料や商品を売り上げて最終的に現金化されるまでの日数を示すものである。(以上につき、甲67)
イ C社につき、平成28年12月末直近1年間の各四半期末において、各期間における実績値と標準日数(90日)を用いて計算したCCC金額は、それぞれ、3億5791万9000米ドル、4億1579万4000米ドル、4億3979万5000米ドル、4億7146万3000米ドルであり、CCC日数は、それぞれ、44.8日、55.8日、63.0日、63.2日であった。当該CCC日数に、当該四半期ごとの1日当たりの平均売上高(当該期間の売上高÷実日数)を乗じた金額、すなわち、標準日数(90日)ではなく各期間における実日数に引き直して計算したCCC金額は、それぞれ、3億5368万3000米ドル、4億1102万米ドル、4億2962万6000米ドル、4億6114万4000米ドルと算出される。(甲35、71)
2 争点1(本件譲渡時におけるA社株式の「譲渡に係る対価の額」)について
(1)法人税法61条の2第1項1号の「有価証券の譲渡に係る対価の額」の意義等
ア 法人税法22条1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、益金の額から損金の額を控除した金額とする旨定め、同条2項は、資産の無償譲渡も収益の発生原因となるものとしているところ、その趣旨は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される。そして、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡の場合にも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるところ、たまたま現実に収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになるから、その趣旨からして、この場合に益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと当該資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成6年(行ツ)第75号同7年12月19日第三小法廷判決・民集49巻10号3121頁参照)。
イ 法人税法61条の2第1項は、同法22条2項又は3項の「別段の定め」として、内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入するものと定め、ここにいう譲渡利益額とは、その有価証券の譲渡に係る対価の額(同項1号)が譲渡に係る原価の額(同項2号)を超える場合におけるその超える部分の金額をいい、譲渡損失額とは、その有価証券の譲渡に係る原価の額(同項2号)が譲渡に係る対価の額(同項1号)を超える場合におけるその超える部分の金額をいう旨定めている。かかる規定が、有価証券の譲渡において認識すべき収益の額について、同法22条2項と異なる取扱いを行う趣旨で設けられたものとは解されないことからすると、同法61条の2第1項1号にいう「有価証券の譲渡に係る対価の額」とは、当該有価証券の譲渡時における適正な価額、すなわち時価をいうものと解すべきである。そして、時価とは、財産の客観的な交換価値をいい、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。
ウ 以上を前提に、本件譲渡時におけるA社株式の時価の算定の基礎となるC社株式の評価額について検討する。
(2)DCF法を用いたC社株式の評価について
ア DCF法は、評価対象企業について将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引いて株式価値を算定する手法であり、収益に着目して企業価値を評価するインカム・アプローチの代表的な評価方法である。具体的には、評価対象企業の事業計画に基づき将来のFCFを見積もり、年次ごとに割引率を用いて現在価値の総和(事業価値)を求め、当該事業価値に非事業用資産の価値を加算して企業価値を算出し、企業価値から有利子負債の時価を減算して株主に帰属する価値(株式価値)を求める手法である(前提事実(3)ア、乙51、59)。
イ DCF法においては、事業価値に非事業用資産を加算して企業価値を算出することになるところ、非事業用資産とは、一般に、評価対象企業の事業と直接関係しないもので、同企業におけるFCFの創出に貢献しておらず、同企業の事業上、その処分について制約のない資産をいう(乙52、54)。余剰資金、遊休不動産、投機目的の有価証券等が非事業用資産の典型例として挙げられる(甲53)。
企業の営業活動に必要な現預金は、必要運転資本の一部と考えられるため余剰資金には含まれず、営業活動に必要な現預金を超えて保有している現預金が、余剰資金として事業価値に加算されることになる。余剰資金は、評価基準日現在の現預金残高のうち必要運転資金(事業用現預金)の額を推定し、その額を控除して算出するのが一般的であり、この場合の必要運転資金(事業用現預金)の額を推定する方法としては、①対象企業の過去の現預金残高の推移を分析して必要資金を推定する方法、②売上債権、在庫、仕入債務等の支払サイトから必要現預金残高を推定する方法、③同業他社との比較分析によって必要残高を推定する方法がある(甲23)。
このように、事業に必要な現預金について運転資金(事業用現預金)として扱い、事業に必要な水準を超えた余剰現預金を非事業用資産として扱う方法が主流かつ理論的にも望ましいとされる一方で、実務上は、保有現預金を全て余剰現預金と考えて非事業用資産として扱う場合もあると指摘されている(乙77)。また、事業に必要な資金の水準は、債権の回収条件や債務の支払条件等によって異なり、評価対象企業の経営者の判断により決定されるべきものであるとの指摘もある(乙52)。
ウ 継続企業の評価方法としては、企業が将来生み出すキャッシュ・フローを全て現在価値に割り戻して合計するDCF法が価値評価の手法として適しており、確かな根拠のある将来キャッシュ・フローが入手できる限りにおいてはDCF法が最も正確に企業価値を推定できる手法であるとされている(乙68)。
本件において、■■■■■■■■■■■■からすると、本件譲渡時におけるC社株式の評価に当たっては、将来の収益力に着眼するDCF法を用いることが適切であると認められる。
(3)本件評価報告書におけるC社株式の評価の合理性について
ア D社による本件評価報告書(甲2)において、C社の余剰現預金の額は、1億9770万米ドルと算定されているところ、この金額は、偶発債務相当額1億5200万米ドルと他社への出資金額4570万米ドルとの合計額である(前提事実(3)イ)。
このように余剰現預金の額が決定された背景として、D社において、本件評価基準日を含む直近12か月間におけるC社の現預金の月末残高推移を参照して月次の最低金額(平成28年11月末の5億5814万5000米ドル)を事業用現預金の額とし、これを控除した1065万1000米ドルを余剰現預金の額として算定したところ、原告の担当者から、C社については長年にわたって高い収益力を有しており、保有する現預金残高が事業用現預金を超えて大きく積み上がっている可能性がある旨の説明を受け、さらに、上記の偶発債務相当額及び他社への出資金額に係る情報が提供されたことから、これらの合計額を余剰現預金とみなすことができると判断したことが認められる(甲28)。
イ 以上のとおり、D社は、C社の保有現預金の月末残高推移を参照する方法により事業用現預金の額を推定した上で、C社に係る個別具体的な事情を勘案して上記推定結果を調整し、余剰現預金の額を上方修正したものである。対象企業の過去の現預金残高の推移を分析して必要資金を推定する方法は、事業用現預金の額を推定する方法の一つとされている上(前記(2)イ①)、D社による上記のような算定過程に特段不合理な点は見当たらないから、D社による余剰現預金の額の算定が合理的根拠を欠くものであると直ちにいうことはできない。
ウ 加えて、C社の事業については、①航空会社を顧客とするいわゆるBtoBの航空機関連ビジネスを行っており、売掛債権の回転日数が平均して約60日と比較的長期である一方、買掛債務の回転日数は平均して約20日と比較的短期であり、これに対応する必要があること、②C社の製品は長期間の使用を前提としており、顧客へのアフターサービス対応のため、長期間にわたり一定数の在庫を保有する必要があること、③航空機ビジネスという乗客の安全を預かる事業の特性上、顧客の要求水準が高く、何らかの問題が発生した場合には即時の対応が求められることなどから、事業を円滑に遂行するためには、買掛債務の支払や棚卸資産の維持、突然の資金需要に対応するために手元に現預金を保有しておく必要性が高いといえる。このため、C社においては、従前から、売掛債権及び棚卸資産という資産項目から買掛債務という負債項目を控除することにより求められるCCC金額が、既に投下済みの資金に加えて追加で必要となり得る資金需要の指標を示すものと捉え、CCC金額と同程度の現預金を、C社の事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用していたことが認められる(以上につき、甲64〔4~7頁〕)。
C社の事業用現預金の額を推定するに当たっては、以上のような事業の特性を踏まえる必要があるところ、平成28年12月末の直近1年間の各四半期末におけるCCC金額の幅が、3億5791万9000米ドルから4億7146万3000米ドルの間(各四半期を標準日数である90日とした場合)又は3億5368万3000米ドルから4億6114万4000米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実(4)イ)からすると、本件評価報告書における事業用現預金の額である3億7109万6000米ドル(5億6879万6000米ドル−1億9770万米ドル)は、かかる幅の中に収まっており、C社の事業用現預金の額として一定の合理性を有するものということができる。
エ 被告は、CCC指標に基づき算出した運転資本の金額を基にDCF法における事業用現預金の額を推定することには合理性がなく、CCC指標に基づき算出したC社の運転資本の金額をもって本件評価報告書におけるC社の事業用現預金の額の相当性が裏付けられるものではない旨主張する。
しかし、原材料を仕入れて生じた買掛金を支払うタイミングと、製品を作り販売して生じた売掛金を回収するタイミングとに差がある場合、企業は、その差を埋めるために一定の現金を保有する必要があり、そのような現預金は、運転資本の一部、すなわち事業用資産の一部となると解すべきである(甲72)。このような観点から、事業用現預金の額を推定する方法の一つとして、売上債権、在庫、仕入債務等の支払サイトから必要現預金残高を推定する方法(前記(2)イ②)が挙げられているものと解される。また、事業に必要な資金の水準は、債権の回収条件や債務の支払条件等によって異なるし、これを見誤った場合には経営上の重大な事態を惹起しかねないことからすると、ある企業において事業に必要な資金をいくらと見積もるかについては、当該事業の特性を踏まえた当該企業の合理的な経営判断を尊重するのが相当である(前記(2)イ参照)。
そして、前記ウ①から③で述べたような事情により、手元に現預金を保有しておく必要性が高いという、C社の事業の特性も踏まえると、C社において、CCC金額と同程度の現預金を事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用することは合理的なものといえるから、事業用現預金の額を検証する際にCCC金額を参考とすることにも合理性があるというべきである。被告の上記主張は、運転資本と事業用現預金の理論的な相違を述べるものにすぎず、これを採用することはできない。
オ 以上によると、本件評価報告書におけるC社株式の評価には、相応の合理性を認めることができる。
(4)処分行政庁によるC社株式の評価の合理性(被告の主位的主張)について
ア 被告は、事業用現預金について、事業の運営のために現預金という形態そのままで保持する必要がある手元現預金のことをいうとした上で、CMSへの預け金が余剰資金の運用形態であるとの理解を前提に、処分行政庁が、本件CMS預け金を事業用現預金と認める余地はないと判断し、C社の保有現預金のうち、現金及び当座預金の合計744万7259.9米ドルを事業用現預金とし、これを除いた5億6134万8740.1米ドル(本件CMS預け金)を余剰現預金と算定したことについて、C社の現預金の保有形態に着目して慎重かつ抑制的にその事業用現預金の額を算定したものとして相当性を有するものである旨主張する。
イ そこで検討するに、各営業日の終了時点において、オートスイープ対象口座であるC社シティバンク銀行口座の残高がプラスであった場合には、口座残高が0米ドルになるまで自動的にA社シティバンク銀行口座に移動され、逆に、C社シティバンク銀行口座の残高がマイナスであった場合には、口座残高が0米ドルになるまで自動的にA社シティバンク銀行口座から資金が補充されるという本件CMSの仕組み(認定事実(1)イ)に照らすと、C社シティバンク銀行口座に預けられた資金は、事業に必要な資金であるか余剰資金であるかを問わず、全てオートスイープによりA社シティバンク銀行口座に集約されることになるのであるから、かかるオートスイープによる入出金の結果をA社内部口座(C社)に管理上記録した残高である本件CMS預け金について、余剰資金の運用形態であると即断することは相当でない。
そして、該当日のオートスイープに間に合わない入金があった場合、該当日の終了時点におけるC社シティバンク銀行口座の残高はゼロとならずに翌日に繰り越されるところ(認定事実(2)イ)、本件評価基準日におけるC社の現金及び当座預金も、米国外の市中銀行に米ドル以外の通貨建てで有していたものを除くと、前日のオートスイープに間に合わなかった入金が残高として繰り越されたというオートスイープの仕組み上の技術的な理由により生じたものであった(同(3)イ)。このように、C社の保有する現金及び当座預金と本件CMS預け金との違いは、事業に必要な資金であるか余剰資金であるかの判断に基づくのではなく、飽くまで入金のタイミングという技術的な理由によるものにすぎないと解される。
しかも、本件評価基準日を含む平成28年12月において、本件CMS預け金の普通預金からは、1回当たり3000万米ドルを超える出金が複数回あり、1日当たり9000万米ドルを超える出金がされた日もあったのであり(甲48)、これらはC社の買掛債務の支払等に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。このような本件CMS預け金の利用状況に照らすと、処分行政庁が事業用現預金の額と判断したC社の現金及び当座預金の合計744万7259.9米ドルだけでは、同社の事業上の資金需要に対応することができないのは明らかである。
以上のような本件CMSの仕組みや利用状況に鑑みると、現預金の保有形態に着目して事業用現預金の額を算定し、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とした処分行政庁の算定方法に合理性があるということはできない。
ウ 加えて、前記(3)ウで説示したような事情から、C社は、手元に現預金を保有しておく必要性が高く、このため、CCC金額と同程度の現預金を事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用していたのであり、C社の事業用現預金の額を推定するに当たっては、このような同社の事業の特性とこれを前提とした同社の経営方針を踏まえる必要がある。
平成28年12月末の直近1年間の各四半期末におけるCCC金額が、3億5791万9000米ドルから4億7146万3000米ドルの間(各四半期を標準日数である90日とした場合)又は3億5368万3000米ドルから4億6114万4000米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実(4)イ)に照らすと、C社の保有現預金のうち、現金及び当座預金の合計744万7259.9米ドルのみを事業用現預金とした処分行政庁の判断は、CCC金額の幅に照らして著しく少額であり、C社の事業の特性を十分に踏まえたものではないといえるから、かかる観点からも合理性を有しないというべきである。
エ 被告は、事業用現預金と余剰現預金の区別に当たり、評価対象企業が評価基準日時点で保有する現預金の全額を余剰現預金として扱う方法も実務ではよく利用される方法として許容されていることからも、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とすることには合理性がある旨主張する。
しかし、保有現預金の全額を余剰現預金として扱う方法は、事業用現預金の額を算定するよりも簡便で実務的に使いやすいとの理由によるものと考えられ(乙77、78)、関係当事者間において異議がない場合等の簡便な方法としてこれを用いるのは格別、企業のFCFの創出に貢献しない資産を非事業用資産として事業価値に加算するというDCF法の考え方(前記(2)イ)からすれば、余剰現預金の額は、飽くまで保有現預金の額から事業用現預金の額を除いて算定することが基本というべきであり、既に述べたような本件CMSの仕組みや利用状況に照らせば、被告が指摘するような方法が実務上許容されていることは、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とすることを正当化する理由にはならないというべきである。
オ 以上によると、処分行政庁によるC社株式の評価が合理的なものとは認められない。
(5)本件裁決におけるC社株式の評価の合理性(被告の予備的主張)について
ア 被告は、本件CMS預け金のうち定期預金3億米ドルを本件評価基準日におけるC社の余剰現預金の額と算定した本件裁決の判断内容に照らし、少なくとも3億米ドルはC社の余剰現預金であると認められるべきである旨主張する。
イ そこで検討するに、本件CMS預け金のうちの定期預金は、①満期が3か月であり、満期到来時にはA社内部口座(C社)の普通預金の残高となること、②中途解約の際、普通預金の利率に基づき利息が計算されるものの、これとは別に解約コスト等のペナルティは発生しない実務運用となっており、中途解約された定期預金は、最大2日、最短即日で引出しが可能であること(認定事実(1)エ)からすると、本件CMS預け金のうち、定期預金と普通預金との間には、機能的に有意な差異はないと解される。したがって、本件CMS預け金のうちの定期預金について、普通預金と区別する合理的な理由はないといえる。
そして、平成28年12月末の直近1年間の各四半期末におけるCCC金額が、3億5791万9000米ドルから4億7146万3000米ドルの間(各四半期を標準日数である90日とした場合)又は3億5368万3000米ドルから4億6114万4000米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実(4)イ)に照らすと、3億米ドルをC社の余剰現預金とし、残る2億6879万6000米ドルを事業用現預金であるとすることは、C社の事業の特性とそれに基づく現預金の必要性を適切に踏まえたものとはいい難いから、3億米ドルを余剰現預金とする本件裁決における判断にも合理性があるとは認められない。
ウ よって、本件裁決におけるC社株式の評価も、合理的なものとは認められない。
(6)小括
以上によると、本件譲渡時におけるA社株式の時価について、これを本件譲渡価格とすることには相応の合理性が認められる一方、処分行政庁評価額又は裁決庁評価額とすることは合理的なものとは認められないから、本件更正処分は、上記時価の評価を誤ってされたものであって、違法である。
第4 結論
以上の次第で、争点2について判断するまでもなく、本件更正処分のうち本件更正請求に係る請求金額を超える部分の取消しを求める原告の請求は理由がある。よって、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 篠田賢治
裁判官 高部祐未
裁判官金澤康は、退官のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 篠田賢治
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