解説記事2026年04月13日 ニュース特集 欠損金の還付請求書の送付ミスで税理士法人に1,260万円の賠償責任(2026年4月13日号・№1118)
ニュース特集
最近の税理士損害賠償責任事件
欠損金の還付請求書の送付ミスで税理士法人に1,260万円の賠償責任
税理士法人が欠損金の還付請求書の送付をミスしたことにより税理士損害賠償責任事件に発展した事案があることが本誌の取材により明らかとなった。今回の税理士法人のミスは、税務会計ソフトを利用した電子申告の際に、別途送付が必要であった還付請求書を送付しなかったというもの。税理士法人は自らの誤りを認め、顧客(原告)へのフォローを行ったものの、裁判では、税理士法人に対して、1,260万円の損害賠償責任が認められている。
また、本特集では、税理士業務の引き継ぎをうまく行うことができず、税理士らがトラブルに巻き込まれた税賠事件も紹介する。担当の顧問税理士が次々と変更する中、以前から顧客を担当する税理士事務所の職員が1人で仕事を抱え、報告を怠ったことがトラブルの大きな原因となっている。他の税理士事務所の顧問先を引き継ぐ際には留意したい点といえよう。
電子申告の際、誤認し還付請求書を税務署に送付せず
1件目に紹介する税賠事件は、税理士法人(被告)が納税者(原告)の委任した欠損金の還付請求を怠ったことにより還付される予定だった1,260万円超の損害賠償を求めたもの(東京地判令和7年12月5日、令和7年(ワ)第15481号)。税理士法人は電子申告の際のミスを認め、補償金の支払いの申し出や税務署への対応を含め考え得る最善の対応を採ったものとも思われるが、最終的には訴訟に至り、損害賠償金の支払いも命じられている。
納税者は、税理士法人に対し、以前から税務書類及び決算書作成等を委任しており、令和5年3月期においては同期の確定申告と併せ、令和5年3月期を欠損事業年度とし、令和4年3月期を還付所得事業年度とする欠損金の繰り戻しによる還付請求を行うことについても委任。税理士法人は税務会計ソフトを利用し、納税者の令和5年3月期の確定申告書及び欠損金の繰り戻しによる還付請求書を作成し、同ソフトの「電子申告」メニューにアップすることにより、電子申請による確定申告を行った。この時、還付請求書については、別途、税務署にPDFファイルを送信する必要があったが、税理士法人は「電子申告」メニューへのアップによって還付請求書も同時に送信できているものと考え、PDFファイルの送信をせず、その結果、還付請求をすることができなかった。
| (1)還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。 (2)欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。 (3)上記(2)の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること。 |
税務署に訂正依頼し欠損金が復活
その後、税理士法人は納税者に対し、「欠損金の繰り戻しによる還付が出来なかったことに関する経緯と今後の対応につきまして(お詫びとご報告)」と題する書面を送付。書面には、①還付請求ができなかったこと、②税務署に事情を説明して交渉したが却下されたこと、③還付を受けられないことによる対応として、税務署に訂正依頼書を提出し、これにより令和6年3月期以降、約5,000万円の復活欠損金を使えること、④税理士法人側の過失によるものであるため、損失額を補償することなどが記載されていた。補償金額については、還付不能となった金額1,153万円から欠損金の繰越控除により支払われなくなった税金の金額を控除した金額としたいとし、補償の金額を協議したいとしていた。
一方、納税者は、税理士法人の債務不履行により、1,272万円の還付を受けることができず、同額の損害を被ったと主張。ただし、令和6年3月期の確定申告において復活欠損金のうち75万円を損金算入し12万円の節税効果を得たことから、同額を控除し、1,260万円を損害として請求した。
還付を受けたであろう金額の全額が損害
裁判所は、被告の税理士法人は原告の納税者から委任を受けた還付請求を行わなかったもので、契約上の債務不履行に該当すると指摘。原告の主張どおり1,260万円を債務不履行による損害と認めている。なお、税理士法人は、復活欠損金は10年間繰り越すことができるとし、いまだ損害額は確定していないと主張したが、復活欠損金の活用により原告が将来受け取る利益があるとしても、現時点で具体的に存在しているとはいえないとした。
税理士業務の引継ぎの際にトラブル
2件目に紹介する税賠事件は、他の事務所の税理士業務を引継ぐ際にトラブルとなったものである(東京地判令和7年12月25日、令和6年(ワ)第15789号)。
具体的には、納税者(法人)である原告が、被告のX税理士がその補助者である被告Yに名義を貸して税理士業務を行わせるなどし、適切な修正申告を行わなかったこと等により損害を被ったとして、被告らに対し共同不法行為に基づき、約450万円の損害賠償を求めたものである。
被告YはA税理士、B税理士に順次雇用され、令和5年1月以降は被告となったX税理士に雇用されていた者であり、会計補助業務(税理士の指導の下、顧客の伝票を預かり、会計ソフトに入力するなどして税理士の税務申告業務を補助)を行っていた。原告は、もともとA税理士との間で顧問契約を締結していたが、A税理士が死亡したため、B税理士に令和4年8月期に係る法人税の確定申告を委託し、確定申告が行われた。当時、被告YはB税理士に雇用されていたが、確定申告後、B税理士は病気療養のため税理士資格を返上。このため、被告のX税理士は、被告Yを雇用し、同者が担当していた顧客等に関する業務を引き受けたが、B税理士と直接連絡を取るなどして引き継ぎに関する協議をすることはなかった。
このような状況の中、B税理士は確定申告後に税務署から行政指導を受け、その後、X税理士のもとで修正申告を行うことになるが、その間、被告Yと原告は行政指導に基づく修正申告に併せて、確定申告時の計上ミス等も含めて修正するかどうかについての協議を続けていたが、X税理士には報告がなされていなかったというものである(詳細は表2参照)。
| ・B税理士は令和4年10月31日、原告(法人)の確定申告を行ったが、その後、病気療養のため税理士資格を返上。 ・原告は令和4年11月10日、C税理士と確定申告の法人税等に係る申告内容の精査等を受託業務とする業務委託契約を締結するとともに、その後、顧問契約を締結。 ・B税理士は令和4年11月29日、税務署から確定申告に係る行政指導を受けた。行政指導の内容は、原告が会長から受けていた借入金の債務免除に伴い、税務申告書の別表1、4及び7(1)の記載場所を変更するよう求めるものであり、損益とは無関係のものであった。 ・被告Yは、同日頃、原告に対し、税務署から確定申告に係る行政指導があった旨を連絡。原告代表者や経理担当者からは、確定申告を修正するのであれば併せて修正してほしい箇所があるといわれ、以後、被告Yは確定申告の修正内容について原告担当者等と協議を重ねた。 ・被告のX税理士は、知人からB税理士の顧問先等の引継ぎを打診され、令和5年1月、顧問先や顧客と契約を締結し直した上で業務を引き継ぐこととした。これに伴い、被告のX税理士は被告Yを雇用し、同者が担当していた顧客等に関する業務を引き受けたが、B税理士と直接連絡を取るなどして引き継ぎに関する協議をすることはなかった。 ・原告は、被告Yが担当していたB税理士の顧客であったが、被告Yから被告X税理士がB税理士の業務を引き継ぐと聞いたのみであり、原告の従業員が被告X税理士と連絡をとったり、契約書を作成したりしたことはなかった。 ・原告の経理担当者は令和5年1月31日、被告Yに対し、売掛金や前払費用等10項目について、確定申告の修正や確認を依頼する内容のメールを送信。当該内容には、確定申告の計上ミス等のほか、被告Yが確定申告前に原告から受領していた伝票に基づく修正などが含まれていた。 ・被告Yは、確定申告に係る原告からの修正依頼が多くなったことから、B税理士に相談したところ、原告から提供された伝票に基づく税務申告書の作成は誤りなく行い、原告も了承したのであるから、すでに確定申告に係る業務は終了している旨、行政指導を受けた部分のみ訂正を行うべきであり、新たに提供された伝票に基づく修正申告は原告が新しく依頼する税理士において行うべきであると伝えた。なお、被告Yは、原告からの修正依頼等について、この時点で被告X税理士には報告していなかった。 ・被告Yは、修正申告が行わる数日前、被告Ⅹ税理士に対し、税務署から行政指導があり、修正の催促を受けていること、行政指導を受けた範囲で確定申告に係る修正申告を行うことについて原告も了承していることなどを伝えた。 ・被告X税理士は、行政指導の範囲でのみ修正申告を行った。なお、修正申告に関して契約書は存在せず、被告X税理士と原告との間で協議等が行われたことはない。また、被告X税理士が原告に報酬の請求をしたことはなく、原告から報酬が支払われたこともない。 |
原告は、被告のX税理士はB税理士と原告との間の業務委託契約を承継し、適切に修正申告を行う義務を負っていたが、原告が被告Yを通じて伝えていた確定申告の修正内容を無視し、一部のみの修正にとどまる修正申告を無断で行っており、業務委託契約の債務不履行に当たるなどと主張した。
行政指導の範囲に限定した無償の業務委託契約
裁判所は、事実認定等からB税理士と原告との間の業務委託契約は確定申告が行われたことにより終了したと解するのが相当であり、業務委託契約に基づくB税理士の義務を被告X税理士が承継したと認めるに足りる事情はないとした。一方、原告と被告X税理士との契約締結については、両者の間に契約書や明示的な合意はないものの、①原告が行政指導に沿う修正申告を了承していたこと、②被告X税理士が確定申告に係る原告の修正の要望を把握しておらず、被告Yから報告を受け、行政指導に沿った範囲でのみ修正申告を行うことを承諾して修正申告を行うに至ったこと、③被告Yにおいてその旨を原告にメールで伝えていたこと、④修正申告に係る報酬を請求していないことからすれば、被告X税理士と原告との間において、行政指導の範囲に限定した修正申告を行うことを内容とする無償の業務委託契約が成立したと認めるのが相当であるとした。したがって、被告X税理士は、原告に対し、確定申告に関する問題点をすべて修正する内容の修正申告を行う義務を負っていたとは認められないことから、当該義務を履行しなかったとしても債務不履行があったとはいえないとした。
また、原告は、被告X税理士が被告Yに名義を貸与して確定申告の修正箇所を判断させた行為が非税理士への名義貸し(税理士法37条の2)に該当すると主張したが、裁判所は、被告X税理士は、被告Yが行政指導以降に原告との間で行っていたやり取りなどを把握しておらず、修正申告については自ら確認した上で申告したのであるから、被告Yに名義を貸与していたとは認められないとした。
そのほか、原告は、被告YがX会計事務所名義で修正決算報告書を作成したことや、原告担当者との打ち合わせを行ったことなどにより、被告X税理士において確定申告の問題点のすべての修正等を受託したと原告に誤信させ、損害を与えたことにつき不法行為が成立すると主張したが、裁判所は、被告Yが修正決算報告書を作成するなどした当時、被告X税理士と原告との間に契約関係は存在しなかったのであるから、少なくとも被告X税理士法人が確定申告に係る修正申告を行う義務を負っていたとはいえないと指摘。他方、B税理士と原告との間の確定申告に係る契約内容は明確ではなく、①行政指導に基づく修正、②確定申告の計上ミス等の修正、③確定申告時には判明していなかった伝票等に基づく修正に関し、B税理士が修正義務を負うか否か、被告X税理士への引継ぎの要否等が不明な状況にあった。このような事情に照らすと、被告YはB税理士から行政指導に基づく修正のみ修正すべきであるとの指示を受けるまで、確定申告に係る原告の要望をどこまで応えるべきか判然としないまま、顧客であった原告への対応を行ったものであり、これらの行為は、原告とB税理士との間の業務委託契約に関して無償で行われた事後的な顧客対応(アフターサービス)であり、法的義務を伴わないものであったと解するのが相当であると判断。原告の請求を棄却している。
本件は、顧問税理士が変更する中で起きてしまった事件であるが、税理士事務所の職員が報告し、顧問先と新たな税理士も含めコミュニケーションをとっていれば防ぐことができた事件といえそうだ。
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