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解説記事2003年09月22日 【実務解説】 収益還元法による株式評価(2003年9月22日号・№036)

実務解説

収益還元法による株式評価

税理士 江崎一恵


はじめに


 赤字会社を営業譲渡する際に、M&Aの経済的理論を優先して企業評価を行なう場合などは、税務上の問題が生じないかという一抹の不安を感じていた。おりしも、不動産鑑定理論や不服審判所・裁判所の判断においては、土地について収益還元法を採用することが常識的ともいえることを知り、T&Aマスター7月21日号No.28でその紹介をしたのであるが、その後、No.29「収益価格を加味した土地の評価方法等」による判例研究、続いて、No.30「DCFの株価算定書」による株価鑑定と、収益還元法に関する記事が特集された。
 しかし、その段階においても、税理士が日常行なう株価算定に、収益還元法が採用される余地があるとは、正直、想像していなかった。常日頃「時価とは何か」を探りつつ、非上場株式の評価を行なって来たにもかかわらず、収益還元方式が、土地評価以上に身近な存在であることに気づかなかったことに、また驚きを感じているところである。
 非公開株式の評価には、〔Ⅰ〕商法分野、〔Ⅱ〕税法分野、〔Ⅲ〕経済分野・組織再編成における考え方がある。本稿では、株式の評価が必要となるケースを大きく3つに分類して、その中で収益還元法がどのように取り扱われているかを解説したい。


[Ⅰ] 裁判所による株式価格の決定が必要となる場合(商法分野における評価)

 営業譲渡、合併契約書の承認などの各決議に反対する株主からの株式買取請求がなされた場合(商法245条の2、408条の3)、或いは、株式の譲渡制限に伴う買取請求の売買価格の決定をする場合(204条の4)などであるが、裁判例としては事件毎に区々な解決がなされているのが実情である。

裁判所における収益方式の位置付け

 株価形成要因を考慮したうえで、種々の方式により価格が形成されるのであるが、裁判所においては、継続企業を評価する場合、収益方式が理論的には最も優れた方法であるとしている。収益方式によって算定された株価は企業の動的価値を表し、営業譲渡を受ける場合等に最も適する方法であるが、将来収益に依存しており、その予測が不確実であるという欠点を有する。

収益方式は、「収益還元法」と「DCF法」とに分類される

 収益還元法とは将来期待される一株当たり予想純利益を、一定の資本還元率で資本還元する方式により、元本である株式の現在の価格を算出するものであり、「株価=課税後純利益÷資本還元率」の算式で表わされる。
 これは、会社にもたらされる将来の利益が株式の価値を決定するという考え方を基盤にするものであり、配当額よりも、会社内部に留保される利益の増大に関心を持つ支配株主が所有する株式の評価方法として最も合理性を有する。

収益還元法を採用した判例

 支配株主は、会社を解体して残余財産を分配することも、会社を存続させて資本の増殖を図ることもできる。配当として受け取る場合であっても、或いは、利益を内部留保して解散時に財産を分配する場合であっても、それが利益の増加による結果であることを考えると、会社の利益を基準として株価算定する収益還元方式は、経営支配株式の評価に有用であるとして、収益還元方式を採用した鑑定例が少なくない。
 但し、将来の収益予想や資本還元率の決定が困難であるため、鑑定における算定方法も、収益予想は過去数年間の利益の平均値を、還元率は評価通達による配当還元方式を採用している例が多い。
 具体的に、株式買取請求事件についての判例を3つ例示して、裁判所の考え方を研究することにする。

類似会社比較による収益還元法を100%採用した判例

東京高裁昭和45年(ラ)第120号 株式売買価格決定に対する即時抗告事件
 赤字経営が続き債務超過であり、かつ、相当の不動産を有している会社の株価について、5ケ年計画による将来の収益予測による収益還元方式を採用するのが妥当であるとした事例
≪裁判所の判断≫
(1)裁判所が、商法204条の4(売買価格の決定)の規定により、指定された先買権者が売渡請求をした時の株価を決定する場合には、会社の資産状態その他一切の事情を斟酌して、できうる限り客観的に適正な価格を求めることを要する。
(2)株価形成の要因としては、当該会社の配当率・収益力・資産内容は勿論、収益の成長性・安定性等を挙げることができる。このような観点に立って株価を算定するための種々の方法があるが、「類似会社比較法」は、収益・配当・純資産額等をそれぞれ比較対照して株価を算出する方法であるから、営業成績が順調な会社の株価を算定するのに適しており、「解散価値法」は、近い将来解散が予定されている会社の株価の算定に適している。
  「収益還元法」は、会社の設立後日が浅く営業活動が本格化していない会社や、業績が悪く無配続きであるが、再建計画が立てられ、配当が安定的になされることが予想される会社の株価算定に適しているといえる。
(3)M社は、各部門毎に再検討を加えた上、収益率を高めて赤字を解消し、5年後には10%の配当を実現する5ヶ年計画を建てている。
  鑑定書は、5年後の決算期を推定時点と定め、類似会社として上場会社4社を選び、収益力、配当水準及び資産内容等の比較検討を加え、さらに、市場性の欠如等を斟酌して試算株価を算出した上、これから逆算して当時の株価を算定したのであり、十分納得できる説明が加えられていることから、類似会社比較による収益還元法を採用するのが最も合理的である。

収益還元方式を50%採用した判例

東京高裁昭和51年(ラ)831号 譲渡制限株式の買取請求事件の決定に対する抗告事件
 商法204条の4による売買価格の決定にあたり、収益還元方式と時価純資産方式の併用方式を相当とした事例である。
≪裁判所の判断≫
 売買当事者が一般投資家でなく、かつ無配のため、配当還元方式を採ることは相当でなく、また、適切な類似会社を選定することが困難であるため、類似会社比準方式を採用することもできない。
 売買当事者が経営支配を目的としており、配当よりも企業利益そのものに関心を持っているといえるので、本件の株式の評価は、収益還元方式が適すると考えられる。
 ただし、抗告人は、会社の全株式を取得することになり、一切の企業収益は勿論、会社財産も帰属することになるので、会社財産の実質的取得の側面から、時価純資産方式にも相当程度のウエイトを置くのが適切である。

併用方式により20%を採用した事例

東京高裁昭和63年(ラ)第726号、第728号株式売買価格決定申請事件
 社長一族で80%以上を保有している会社の株式の、僅か9%を所有する元専務取締役の株式評価について、配当還元方式6割、簿価純資産方式2割、収益還元方式2割とする3方式を併用した事例である。
≪裁判所の判断≫
(1)抗告人が取得する株式は、発行済株式総数の9%に過ぎず、本件株式の取得により会社の経営を支配することはできないことは明らかであり、配当金を主たる目的とせざるを得ないため、基本的には配当還元方式を採用するのが相当である。
(2)しかし、会社は安定した経営状態にあり、純資産額が逐年増加しているにもかかわらず、支払配当は、年3割、年2割、年1割5分と逐次減少していることから、収益の相当割合を社内に留保して資産を増加させることに重点をおき、配当を低く押さえられてきたことがうかがわれる。
(3)しかも、配当額は最終的には支配株主の意思により決定されるが、支配株主の意思も不変ではないから、過去の配当額に多くを依拠する配当還元方式のみによることは不十分であり、純資産価額方式及び収益還元方式をも併用するのが相当である。
(4)更に、商法204条の2による株式譲渡の不承認及び譲渡の相手の指定は、会社が自己に不利益な株主を排斥するために認められた手段であり、株主の株式譲渡の自由に制限を加えるものであるから、自由に譲渡した場合に比して不利益を与えることを避けなければならない。
(5)また購入指定人は会社の下請関係にあり、供託金も会社から借り受けていることから、現社長が将来において本件株式を取得する可能性が少なくないと推認される。


[Ⅱ] 税法分野における非上場株式の評価

判例 大阪地裁昭和45年(行ウ)第38号法人税贈与税更正処分取消等請求事件
裁判所の判断

(1)非上場株式の時価とは
  一般に時価とはその財産の客観的交換価値をいい、不特定多数の当事者間における自由な取引において成立すると認められる価額をいうのであるから、非上場株式についても、その売買価額が株式の客観的交換価値を適正に反映していれば時価と認められる。
(2)法人税法上の時価の算定方法
  非上場株式の評価にあたって選択すべき種々の方式があるが、元来取引実例の乏しい株式について時価を算定するのであるから、各方式に長所短所がある以上、そのうちの一方式のみを選んで評価を行なうことには疑問がある。各方式のうち、本件株式の評価に最も合理性があると認められる収益還元方式に重い評価を与えた加重平均をもって、本件における適正な時価とするのが妥当である。
(3)注目点
  裁判所の判断で特筆すべきことは、「非上場株式の時価評価は困難であるが、評価目的に応じてその時価を算定することは、決して不可能な作業ではない」と明示していることである。また、株式の低額譲渡が行なわれた場合、法人税課税だけでなく、株主から株主への贈与があったものとしていることにも留意される。

法人税法上の時価算定方法の検討

 取引相場のない株式の評価方法としては、一般に次のような方式及びこれらの併用方式が考えられる。
(1)配当還元方式
 利益処分のフローとしての配当に着目して、将来期待される配当金額を一定の資本還元率で還元する方法により、企業価値を評価する方式であるが、純資産・収益等の株価決定の要因を一切捨象する点に問題がある。
(2)収益還元方式
 将来各期に期待される純利益を一定の資本化率(還元率または割引率)で還元して、元本である株式の価額を算定する方式である。これは会社にもたらされる将来の利益が株式の価値を決定するという考え方を基盤にするものであって、配当のみならず内部留保される利益の増大に関心を持つ支配株主が所有する株式の評価方法として、最も合理性を有する。
(3)純資産価額方式
  清算を予定している場合や赤字体質の場合、又は、資産の大部分が不動産であり企業経営が順調でない場合などに使用される。
  会社全体を一つの組織体として評価していない。また、この方式を採用すると、会社に利益が発生してもその利益が株主にすべて配当されるわけではなく、会社内部に留保される部分が多く存するのが通例であることから考えて、株価は、本来その株式が有する客観的交換価値より著しく高額になることがしばしば生ずる。
(4)類似業種(類似会社)比準方式
  上場会社中から、評価すべき株式の発行会社と事業の内容、規模(資産構成、収益状況、資本額)などの類似する業種あるいは類似する会社を選定し、その会社の株式の取引相場を基として、両社の収益力、配当率、純資産額等を比較対照して、株価を算出する方法である。この方式は、株価を決定する「配当・収益・純資産」という3つの要素ともに重点をおくものであり妥当な方法であるが、比準会社を容易に選定しがたいのが難点である。

収益還元方式による評価の方法

(1)収益還元方式による株価の算定方法として、鑑定書による算定式「株価 W=E1/(i-rb)」を採用するのが妥当と認められる。
 (E1:当初の1株当り純利益、b:内部留保率、i:資本化率、r:再投資利益率)
(2)資本化率iについてみると、昭和39年~昭和42年にかけて、A社における純利益率はかなり大きく変動しているが、昭和39年及び昭和40年は不況のため正常な企業活動を表わしていると認められないのでこれらを除き、昭和41年(0.123)と昭和42年(0.154)を平均した0.14を基礎資本化率とし、これに本件株式が非上場であって市場性を欠くことによるリスク・プレミアムとして、0.14の2分の1の0.07、および大企業ではないことによるリスク・プレミアム0.03をそれぞれ加えた0.24をもって、資本化率とするのが妥当である。
(3)内部留保率bについてみると、A社は内部留保に非常に力を入れており、課税後利益の少なくとも80%を留保しているが、これは役員賞与も支払わず、また配当も低く押えた結果によるものであるため、長期にわたり実行可能な率という意味で純利益の50%が経常的に留保されるものと仮定し、内部留保率を0.5とするのが妥当である。
(4)再投資利益率r(内部留保された資金や借入れられた資金の利益率)についてみると、A社における昭和39年~昭和43年にかけての利益率のうち、固定資産売却益という本来の事業とは無関係な特別利益を含んでいる年度と、売上高の伸びに比して売上原価や販売費一般管理費の上昇が例外的に小さかった年度を除く平均は0.07となる。
  業界全体に比べA社の利益率は高いが、競争の激しい業界であるため、再投資利益率も長期的には低下すると予想され、その低下分0.01を差引くと0.06となる。さらに内部留保によって自己資本を一単位増すと負債も増加することができ、それがまた純利益率を押し上げるはずであって、この限界負債比率を0.3と考えるべきであること、その結果内部留保を1単位行なうとそれが0.06プラス0.018(0.06×0.3=0.018)、即ち0.078の課税後純利益をもたらすことになるから、結局再投資利益率を0.078とするのが妥当である。
(5)以上のように算出したi.b.rの数字を算式にあてはめて、収益還元方式による価額を計算した後、4方式のうちA社株式の評価に当たって合理性がより高い収益還元方式と純資産処分価額方式に、他の2方式の2倍の重みを与えて加重平均することにより、時価を算定している。

相基通9-2(株式の価額が増加した場合)の適用範囲について

 K社がA社株主から株式を低額で譲り受けた結果、時価との差額に相当する額が含み資産となり、同社の純資産額増加分だけ価値が増加したことにより、財産上の利益を享受したと認められ、実質的にA社株主からK社株主に対し贈与があったものとみなさると判示している。
 事例の場合は、会社の経営支配権を後継者に移転することを目的に株式の譲渡が行なわれたものであるから、どのような場合であっても、低額譲渡の結果、株式の価値が増加したら、株主に対し常に贈与税が課税されるのかについては疑問である。また、「時価より著しく低い価額」が、判例でいうように、4分の3未満の額を指すと解釈すべきであるかについても議論の余地がある。


[Ⅲ]組織再編における考え方 

合併・分割等の比率算定と税務上の問題

(1)企業再編においては、利害の反する当事会社・株主等が存在するわけであるから、税務上の問題ということだけでなく、関係者に納得してもらえる比率算定を行なうことが目的となる。この比率算定は、本来、当事会社の適正価値を測定することであるから、株式の多面性の評価が重要になる。 
  1992年ソニー株式会社が発表した株式交換比率の算定基準は、公開会社であっても、単に市場価格だけに頼ることなく、企業の適正価値を分析して、将来の企業価値を交換比率に織り込んでいるところに注目される。適正な鑑定評価とは、やはり評価事案に適合した加重平均法の採用にあるといえる。
(2)しかし、現実問題として、税務上の評価方法によらず、個別評価方法で“株式鑑定書”を作り、それに基づいて売買を行なったときに、課税問題が生じないかという大きな問題がある。この点については、通常の裁判の過程で作られた鑑定書によって行なわれる売買行為については、たとえその価額が税務上の評価額と異なっていても、租税回避目的で行なったのではない限り、問題はないとされている。
  問題は、裁判以外の場合であるが、他人同士の純粋な商取引としての株式の売買であれば、選択した評価方式が、税務上の評価額と一致していなくても、なんら問題ないと考えられる。
  現にM&Aでは、売買価額と税務上の評価額が異なっていても課税問題は生じていない。また、関係会社間の売買や、親族でも兄弟やいとこといった間柄での売買であっても、それが正当な経済的行為であり、租税回避行為でなければ、税務上も容認されるものであり、合理的な説明ができれば課税問題は回避し得ると考える。従って、合併・分割等の企業再編における比率の算定にあっては、税務上の評価額とは別の、適正価値たる評価方法の選定になるはずである(注)。

営業譲渡と収益還元法

(1)商法・会計・判例を通じて、営業権とは超過収益力を有する無形の財産的価値とされてきた。売手側にとっては、会社は単に資産の固まりではなく、有機的な組織体であり、保有する資産の価値以上のものがあると考えており、買手側としても、買収後にその企業が獲得する収益に期待することにより、取得する資産以上の価値を見出しているはずである。ここに、純資産価額以上の売買価格が成立する事実関係が存立し、それ故にその算定方法として、収益還元価値法が有効な方法とされる。
(2)一般的には、譲渡の対象となる営業は、土地・建物・設備等の有形資産だけではなく、営業に従事する社員、得意先・仕入先取引網、ノウハウ等の無形資産等の組織体としての構成部分が集合した資産価値を有するものとして行なわれるため、企業評価額は、企業の純資産価額を超えることになる。 
  すなわち営業譲渡とは、譲渡対象の特定部門に属する有形・無形の資産だけでなく、有機的に統合している営業活動そのものが譲渡されることが必要であり、単なる資産の売却だけでは、営業譲渡とはいえないのである。これについては下記の有名な判例がある。
(3)昭和40年9月22日最高裁判例が判示している「営業譲渡」
  いうまでもなく、営業は単なる個々的財産の集合ではない。営業を構成する各個の財産の譲渡は、それが如何に重要なものであつても、また一括譲渡であつても、それだけでは営業譲渡とはいえない。
  営業譲渡とは、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」の移転であり、それにより譲受人は譲渡人と同様の営業者たる地位を取得することをいう。かかる有機的一体としての価値を有する財産の譲渡を意味するのであるから、それを構成する個々的財産の価値の総和よりも高い価値を有する。
(4)営業権と収益還元法
  このように、営業権は、特許権・商標権などの法律上の権利ではなく、譲渡代金が純資産額を超える部分、すなわち「超過収益力を引き続き発生させる財産的価値のあるもの」と認識される。この価値付けの要素としては、得意先・仕入先関係、会社の名声、営業上のノウハウ等があるが、法人税法では営業権について特段の規定はない。
  適格合併等の場合は自己創設のれんの計上ができないが、営業譲渡の場合には、法人税の所得金額の認識基準である時価基準により、営業権の存在が明らかにできれば、計上できることになる。更に、非適格組織再編成においては、計上しなくてはならない場面も生じてくることから、営業権の計上については、その計上の妥当性と評価方法の両面が検討されることとなる。営業権の(収益還元法的)評価方法については、本稿の最後で触れたい。

赤字部門の営業譲渡における妥当な売値の算定

 赤字会社に超過収益力があるのかという点については、収益とは過去の実績ではなく、その営業を譲り受けた企業が、今後どれだけ収益を上げられるかがポイントなのであるから、その譲渡価額が、利害関係の相反する第三者間で交渉されたものであり、財産よりも収益を生むことへの期待が大きいということで検討した結果であるなら、問題はないと考えられる。
 しかし、それが同族会社間、親子・兄弟会社間などで行なわれたものである場合には、その事業に超過収益力をもたらす事実上の財産があるとして、営業権の存在を客観的に立証できなければ、寄付金課税の対象となる恐れがある。

債務超過会社の営業譲渡・合併

 民事再生法では再生計画決定前の営業譲渡を認めているため、本業は黒字であるが投資の失敗等により資金繰りが悪化したような場合、すなわちその企業の営業に収益力が認められる場合には、廃業し残余財産を分配するよりも営業部分を譲渡して、その譲渡代金を弁済に充てる方法も考えられる。また、更生会社による合併についても、合併当事会社の収益力を考慮した資産状態が債務超過でない場合には可能であると考えるべきである。

非適格組織再編成における“のれん”の計上

(1)適格組織再編成の場合は、簿価引継ぎとされていることから、営業権の問題は生じないが、非適格組織再編成の場合には、譲渡する資産は時価によって引き継ぐため、その譲渡対象とされた純資産額を越える資産価値であるところの「営業権」の問題が生じる。
  非適格組織再編成の場合において、被合併法人等に営業権の計上が必要であると認められる場合には、被合併法人等の最終事業年度の資産の譲渡対価を増加させることになり、その結果、被合併法人等においてその増加分につき課税され、合併法人等は取得した営業権を資産として計上することになる。
(2)特に会社分割においては、営業の承継が要件であるため、そこに存在する無形の価値を評価して、「のれん」として計上する根拠が存在するといえる。
  商法施行規則第33条は、「自家創設のれん」を禁止しているが、これは新設分割の場合は、吸収分割の場合と異なり、利害の対立する第三者の関与といったものを想定することが難しく、もっぱら分割する会社の意思のみで決定され、合理的な評価額を付すことが困難であり、恣意的に過大評価される恐れが大きいためである。
  従って、例えば、非適格分社型分割において、会社が優良部門を新設会社に移転し、その後その子会社の株式が譲渡されるような場合においては、純資産価額との差額が、分割会社において譲渡益として認定されると考えられる。このような場合、税法は、その計上および評価額の妥当性をチェックすることになる。

収益還元価額方式についての会計上の考え

 企業を収益を生む有機体として買収する場合は、その企業の事業素質、つまり将来の予想収益が評価の主な対象となる。買収時点以降の将来にわたる収益力を企業価値の指標とするものであり、具体的には予想利益を一定の資本還元率で割引いて収益還元価額を求めるのであるが、実務的には予想収益に代えて過去2~3年の実績を、還元率として年8%~10%程度を適用することが多い。企業をゴーイングコンサーンとして見た場合は、企業価値をストックで捉えるよりは、このようにフローで算定した方が理論的に正しいとして、会計上においても、収益還元法は合理的方法であると解説されている。

法人税法上の営業権の評価

(1)後継者不足のため事業を廃止したいが、不動産などは残して、得意先関係・ノウハウだけを売却したいというケースも少なくない。法人税法上は、営業権の評価方法について特に定められていないので、一般に公正妥当と認められる会計処理に従って計算されることになるのであるが(法法22条④)、どのような評価方法により算定しても、営業権としての価額が合理的に計算されていれば認められることになる。
(2)評価通達による営業権の評価方法は法人税においても参考になる。
  評価通達165は、営業権の評価を次のような算式で定めている。

平均利益金額×0.5-企業者報酬の額-総資産価額×基準年利率=超過利益金額

超過利益金額×営業権の持続年数(原則として10年)に応ずる基準年利率による複利年金現価率=営業権の価額

(3)企業全体の評価とは別に営業譲渡の対象となる事業部門等の評価を行なうことになる。
  営業譲渡をする動機や、譲渡会社・譲受会社の力関係等によって、営業権の評価は異なるため、評価通達の算式を基本にして、合理的な算定過程を明らかにすることが必要である。営業譲渡対象事業部門における営業権評価の検討項目としては、次のようなものが考えられる。
  1)平均利益金額の算定において、課税所得金額に加減する経常外損益、支払利息・割引料等の調整、及び、企業者報酬の総額が平均利益金額の10%にすぎないため、営業譲渡対象部門における適正額の検討、2)一般的な資産運用収益の基となる総資産価額の評価を(相評ではなく)時価基準で行なう、更に、割引率である基準年利率を国債利回り等以外の方法で算定するなどの検討、3)平均利益金額の算定期間を過去3年間、営業権の持続年数を10年とすること、更に、危険率を0.5とすることの妥当性、4)譲り受け会社の経営手法による利益予測やシナジー効果を反映させる等、所要の検討を行う必要がある。


おわりに

 組織再編成の場面等において、今後更に営業権を評価する機会が増えると思われるが、これらの評価にあたっては、収益還元価値的な発想であるところの「評価通達の営業権評価」を基に算定することも合理的である。
 更に、税法上の株式評価においても、時価の概念に収益還元法的要素が斟酌されることは否定できないことから、評価通達における非上場株式の時価の算定上収益還元法を考慮することが、また、そのためにも営業権の相続税評価額算定式の早急な整備が望まれる。

(注)「企業再編の税務」武田昌輔他(第一法規)
江崎一恵 (えざきかずえ)
昭和61年税理士登録
平成14年江崎一恵税理士事務所開設
【著書(共著)】
『国税裁決例実務活用マニュアル』(ぎょうせい)
『民事再生法と税理士の実務』(税務研究会出版局)

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