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解説記事2004年05月31日 【実務解説】 新たな店頭証券市場「グリーンシート」における会計事務所の役割(2004年5月31日号・№068)

実 務 解 説
新たな店頭証券市場
「グリーンシート」における会計事務所の役割

 ディー・ブレイン証券株式会社       
 代表取締役/公認会計士 出縄良人


1 グリーンシートの概要

グリーンシートとは
 グリーンシートとは、日本証券業協会の規則で定められている中小企業向けの証券市場である。1997年7月に未公開株式の投資勧誘制度として発足し、2003年4月の公正慣習規則第2号(店頭有価証券の売買その他の取引に関する規則、以下「規則」という。)の改正により、実質的な店頭市場としての制度が整備された。
 日本証券業協会は2004年3月末現在で82銘柄をグリーンシート銘柄として指定している。このうち58銘柄は、成長志向、上場志向企業向けの銘柄区分である「エマージング」に指定されている。このほか、上場廃止企業向け銘柄区分「フェニックス」に5銘柄、エマージング・フェニックスいずれの区分にも属さない企業向け区分「リージョナル」に18銘柄、証券投資法人などの区分である「投信SPC区分」に1銘柄がある。
 「リージョナル」は地方の電鉄会社や非上場地方銀行などの地元有力企業が中心。株主が多いことから売買ニーズがあり、地方証券会社が流通の場としてグリーンシートを提供している。「フェニックス」は上場廃止基準が厳しくなってきていることから、今後増加も予想されているが、やはり換金を確保するための流通の場だ。「投信SPC」はまだ十分な活用が進んでいない。
 現在、銘柄数が急速に増え、注目を集めているのはグリーンシートの中でも「エマージング」銘柄である。2002年2月末には15銘柄に過ぎなかった銘柄数が2年間で40銘柄以上、増加し58銘柄となった。2004年3月に札幌証券取引所に上場したアルファ・トレンドを含めてエマージング区分から3社が上場し、上場準備市場としての性格も強めてきた。本稿では、今後も急拡大が期待され、グリーンシートの中心的な役割を担うとともに、会計事務所にとって新たな仕事の領域となる大きな可能性を秘めている「エマージング」区分を中心に解説していく。(図2参照)

金融庁が力を入れるグリーンシート
 2003年12月に発表され、4月から施行された平成16年度税制改正大綱。12月8日の日経新聞朝刊1面トップには確定拠出年金の非課税上限額の引き上げとともに、ベンチャー企業に対する投資優遇税制である「エンジェル税制」の拡充が見出しに掲げられた。この「エンジェル税制」の対象投資先企業として明示されたのが、他でもないグリーンシート・エマージング銘柄である。
 エンジェル税制は、投資した金額がそのまま申告分離課税の株式譲渡所得から控除される画期的な税制である。政府、特に金融庁と経済産業省がグリーンシートに注目するのには理由がある。それはグリーンシートが中小企業の新たな資金調達手段として急速に広がりを見せようとしているからだ。
 グリーンシート(エマージング区分)では新規銘柄指定(株式公開)時に公募増資(または売出)が行われ、その後に売買が行われる。この2年間の公募増資の総額は48社26億円。1社あたり平均5千万円程度と少額ではあるが、中小企業にとって株式発行により返済不要の資金が調達できるのは意味が大きい。また、増資による自己資本の増強は、銀行の格付を大きく向上させる。グリーンシートで増資を行った企業の7割ほどがその直後に銀行融資も増額している。
 グリーンシートに新規に株式を公開する会社は主に時価総額で2億円~5億円ほどの小さな会社である。東京証券取引所やJASDAQなどの従来型の証券市場における上場時の時価総額が最低20億円ほどであることと比較すると10分の1ほどの規模の会社が公開している。従来の証券市場への年間の上場企業数は平均150社ほど。規模が10分の1のグリーンシートは新規公開の対象企業がその50倍~100倍に拡大する。その数は年間1万社、10年間で10万社だ。全国200万社の中小企業の5%ほどが対象となると想定されている。(図1参照)
 グリーンシートのエマージング銘柄については、主幹事証券会社が企業審査を行っている。その最も重要な項目が事業の成長性だ。企業の成長がエクイティとしての価値を高める。それが投資の魅力ともなり分散投資における投資リスク軽減のための原資となる。資本調達に適するのは成長性の評価される企業なのである。
 200万社の中小企業の8割は、大手企業の下請け構造に甘んじていたり、従来の仕事を変えることができず停滞している企業であろう。しかし、残りの2割は意欲をもって事業の成長を図っている企業だ。その中にはベンチャー企業と呼ばれる技術力をもった企業群も含まれている。
 まさにこれらの成長中小企業群こそ、これからの日本経済を伸ばすと考えられている企業群だ。2002年8月に金融庁が打ち出した証券市場改革促進プログラムの大きな柱の一つに「グリーンシートの拡充」が掲げられた。これが2003年4月の日本証券業協会の大幅な制度改革につながった。成長中小企業への資金供給インフラとして機能が拡大している証券市場「グリーンシート」は、疲弊する中小企業向け間接金融を補完する可能性をもった新兵器と言っても良いのである。

拡大縁故増資による身近な株式公開
 従来の証券市場は流通市場における株の売買の場が中心である。年間の株式の売買金額は200兆円に達する。しかし今日、日本に求められるのは流通市場における投資家間の資金循環ではなく、投資家から企業の事業に資金が供給される発行市場であろう。発行市場の規模は年間約1兆円。このうち8千億円ほどは大企業が市場で時価発行増資により行っているもので、残りの2千億円が新規株式上場時におこなわれる公募増資だ。本来、間接金融に対して直接金融と呼ばれるのは、発行市場の部分である。流通市場と比較するとあまりに小さい。
 さらに、間接金融では信用金庫などを含む銀行の融資先数200万社に対して、直接金融で資金の供給を受けてきた企業数は上場企業3700社に過ぎない。資金の担い手である投資家の数も500万人。証券会社の口座数は800万口座で、あまねく日本国民が口座を有する銀行には及びもつかない。
 間接金融から直接金融へのシフトが強く求められている日本経済で、既存の証券市場の枠組みではなかなか中小企業に直接金融の裾野が広がっていかない。それは、そもそも流通市場型の証券市場を前提としているところに原因がある。500万人の投資家の多くは株式を売買対象の金融商品と考えて投資を行っている。売買目的に適した株式とは流動性が高い株式。すなわち株数が多く株主数も多い規模の大きな会社になる。証券会社が金融商品として販売しやすいためには、企業のブランド力があって財務基盤が強固な会社が適する。また、時価総額が大きいほど証券会社の手数料も大きくなる。上場引受主幹事を行う証券会社でも、売買目的の投資家顧客に適する金融商品を供給することが求められる。顧客ニーズに応えるのが企業の使命であるから正しい経営行動であろう。しかし、流通市場向けの金融商品を供給しているだけでは、中小企業への直接金融は広がらないのである。そこで、中小企業向けには、これまでの証券市場とは逆に、発行市場が主で流通市場が従である証券市場が求められる。そこでの投資の目的の中心は売買ではなく、保有である。
 そもそも株式会社の株式は売買目的の金融商品として生まれたものではない。日本に多くの民間鉄道会社が生まれた明治の頃。この鉄道会社の株主として投資を行ったのは、地元鉄道沿線の方々だった。その資金で線路を敷き列車を買い、鉄道事業そのものを行うことが目的の投資だ。株式投資の原点である。原点の株式投資においては金融商品としてのリターンを得ることが投資の目的ではない。利益が出て配当が行われ、会社が成長して株価が上昇するのは、事業の結果なのだ。
 このような原点の投資を勧誘している証券会社や証券市場はこれまでは存在しなかった。金融商品としての株式のみが証券会社で扱われてきたのだ。そこで、グリーンシートでは、主として、この原点に立ち帰った株式投資が行われている。それが「拡大縁故増資」と呼ばれているものだ。
 企業はお客様、取引先、社員など様々な「ご縁」によって支えられている。これまで「縁故増資」と言うと、親戚や経営者の友人などごく一部の「ご縁」を対象とした増資だった。グリーンシートにおいては、この「ご縁」を大きく拡大し、数千、数万の企業の周辺で事業を一緒に応援いただける株主を募っているのだ。これまでの証券会社では、このような企業の「ご縁」よりも投資に関心がある証券会社の「ご縁」である顧客を対象に投資勧誘を行っていた。しかし、優先順位としては、まずは長期安定株主として会社を応援いただく方に株主になっていただく方が、経営者としては有難い。
 そこでは証券会社の役割も異なっている。株を売ることが仕事ではなく、投資しやすい環境作りだ。銀行が預金者保護を目的として融資先審査を行うと同様に、主幹事証券会社は、投資者の保護を目的に審査を行う。ディスクロージャーの徹底も同様の目的で重要だ。実は、流通市場の整備についても換金の場が確保されることで投資しやすい環境の一つなのだ。
 株主になるための株式投資の原点。このグリーンシートにおける投資文化は、投資家層を大きく広げるとともに、投資対象を全国に10万社あると想定される成長意欲ある中小企業に開放したのである。


2 グリーンシートの株式公開手続

 グリーンシートの株式公開にあたっては、具体的に以下の手続により進められる。

1 予備審査(グリーンシート適性診断)
 予備審査はグリーンシートに株式公開をいただくための無料適性診断のサービスである。ここでは、現状の業績水準、財務内容、投資リスク等の観点から、グリーンシート銘柄としての大きな問題点がある場合に事前の指摘を行う。グリーンシートへの株式公開における第一次審査として、次のステップのプライマリー・デューディリジェンスに進むことができるか否かの簡易診断を行っている。
 予備審査に必要な資料は次のとおりである。
① 会社案内・製品案内など事業の概要が理解できる資料
② 過去3年分の決算書・税務申告書・科目残高明細書
③ 過去3年間の製品別・得意先別等の売上高の明細推移
④ 関係会社(オーナー経営者が支配権を持っている会社を含む)の①及び②の資料
⑤ 会社登記簿謄本
⑥ 役員の経歴書
⑦ 株主名簿


2 プライマリー・デューディリジェンス(PD)
 プライマリー・デューディリジェンスは、グリーンシート株式公開に向けて、専門家による、より詳細な企業内容の実地調査を行い、株式公開を実現するために必要な改善事項を明らかにする手続きで、グリーンシート株式公開の第二次審査である。会社内容説明書の作成ならびに本審査に進むことができるか否かの判断を行う。具体的には以下の内容について調査・検討を行うことになる。なお、PDにあたっては、グリーンシート公開を前提として「PD業務委託契約書」を締結の上、業務を進める。
1)実地調査
①財務内容に関する調査
 公認会計士が監査を実施する観点から、過去の財務諸表について上場企業と同等の会計処理基準に従ったことを前提とする会計処理の修正作業を行う。
②リスクファクターに関する調査
 投資家にとって投資リスクとなる事項(リスクファクター)の洗い出しを行う。リスクファクターのうち、PDでは改善が必要なリスクファクターについて、PD報告会において報告し、改善をご指導する。また、キャッシュフローの状況など会社の継続性に影響するリスクや役員・関係会社との資本関係・取引関係・債権債務関係などに関するリスクについては、その状況の改善度がグリーンシート株式公開の前提となる場合がある。
 改善が必要なリスクファクター以外のリスクについては、会社内容説明書において「事業の概況等に関する特別記載事項」として開示を行うことになる。
③事業の成長性・収益性に関する調査
 事業内容については、過去及び現在の収益を構成している収益区分(製品・サービス別及び顧客別、地域別等の区分)別の売上及び利益を把握し、今後の経営戦略においての成長性及び収益性についての心証を得る。今後の事業計画に沿って経営者に対するヒアリングを実施し、事業計画の基礎を作成する。
④事業の社会性に関する調査
 反社会的な事業内容または反社会的活動に関わる者との関係などがないか、商法・証券取引法その他の法規を遵守しているかなどについての調査を行う。
⑤社内管理体制に関する調査
 公認会計士などの専門家がサポートをすることを前提に、適時適性なディスクロージャーができる最低限の体制が整っているか、企業経営において必要な判断が合理的にでき、不正・誤謬を防止する最低限の体制となっているかについて、調査する。
2)募集戦略の検討
 グリーンシートでは、拡大縁故増資を基本としているため、新たに株主となる方の募集戦略が重要となってくる。顧客、取引先、提携先及び株主や役員の方々が有する個人的なネットワークを含めて、株主として募集すべき対象者の検討を行い、グリーンシートにおいて十分な募集を行うことが可能か否かの検討を行う。

3 公開スケジュールと資本政策の策定
 PDで示された改善事項の内容及び決算期に伴う監査手続などを勘案して、主幹事証券会社から、グリーンシートへの株式公開スケジュールが提案される。これを協議の上、決定するとともに、併せて資本政策が提示される。
 資本政策は、増資等の金額及び株価によって、既存株主及び新たに参加する株主の持株割合を計画するものである。ここでは、グリーンシートでの公募増資のほか、第三者割当増資やインセンティブのための新株予約権の付与なども含めて、持株割合の推移とその時期を計画する。

4 会社内容説明書の作成と公認会計士監査
1)会社内容説明書の作成
  1億円以上の募集または売出を行う場合を除き、グリーンシート公開企業は、会社内容説明書の作成と開示が義務づけられている。会社内容説明書はいわゆるⅠの部として、グリーンシート主幹事証券会社の審査書類にもなっている。ディー・ブレイン証券では、認定する公認会計士等の専門家が会社内容説明書の作成をサポートとするとともに、そのドラフトを基に審査質問書によって本審査を進めていく。
2)公認会計士監査
  初めてグリーンシートに株式公開するときに作成する会社内容説明書には、最近1年間の財務諸表に監査法人または公認会計士の監査が必要となる。監査を実施する監査法人または公認会計士と別途監査契約を締結いただき、会社内容説明書の作成作業と平行して監査手続を実施する。

5 主幹事証券会社の本審査
1)経営者プレゼンテーション
  ディー・ブレイン証券審査部を中心とする審査チームに対して、経営者に事業内容及び事業計画等について1時間程度のプレゼンテーションを行っていただく。
2)審査質問書及び回答書による書面審査
  審査チームより提出された審査質問書に対して文書による回答を求め、会社の事業の成長性・収益性と投資リスクなどの把握が行われる。
3)アナリスト調査
  ディー・ブレイン証券と契約する証券アナリストの調査。経営者に対してマーケットの状況や会社の競争優位性等に関する質問が行われる。これらはアナリスト報告書としてまとめられ、ディー・ブレイン証券に提出される。
4)知的財産権等の調査
  特許権その他の知的財産権が会社の事業において重要な役割を担っていると判断される場合には、ディー・ブレイン証券と契約する弁理士などの専門家による調査を行う。取得されている権利が事業の保護のために十分なものか、他社の権利に抵触していないかなどを調査する。また、重要なライセンス契約や取引における重要な契約については弁護士による調査なども実施することがある。
5)ディスクロージャー審査会議の開催
  会社内容説明書のドラフトについては、適正な開示が十分に行われているか否かについての審査部における会議を実施する。特に事業の概況等に関する特別記載事項(リスク情報)及び事業計画書については、投資家の投資判断を誤らせるものでないかについて、十分なチェックを行う。
6)審査結果検討会議の開催
  審査質問回答書及びディスクロージャー審査会議の結果をもとに、主幹事証券会社として、グリーンシート銘柄として日本証券業協会に届出を行うか否かの最終決定を行う会議が開催される。ここでの決定によってグリーンシートにおける審査手続が終了する。
  審査会議の結果、グリーンシート銘柄として届出が行うことが決定された場合には、日本証券業協会に対して、審査結果(事前)報告書を提出する。

6 グリーンシート銘柄としての届出
1)グリーンシート諸契約の締結
  グリーンシート銘柄として届出にあたって締結が必要となる契約は以下のとおりである。
(ア)グリーンシート取扱主幹事契約
  主幹事証券会社との取り決めで、ディスクロージャーなどグリーンシート銘柄の発行企業として、投資家保護のために必要なことをお約束いただくもの。
(イ)株式募集取扱契約
  グリーンシートで最初に行う募集または売出について、主幹事証券会社が取扱う条件を示したもので、実際には募集条件の決定後に締結する。
(ウ)継続ディスクロージャーサポート契約
  主幹事証券会社が認定する公認会計士などの開示専門家と締結するコンサルティング契約。グリーンシートでは、継続的に専門家のディスクロージャーサポートを受けることによって、ディスクロージャーの品質が維持されている。
(エ)名義書換代理人契約
  日本証券代行(株)や信託銀行など名義書換代理人業務を専門に行う会社との契約。
2)定款変更手続(臨時株主総会の開催)
  グリーンシート銘柄発行企業として必要な定款変更(譲渡制限の撤廃や名義書換代理人の設置等)を行う。
3)取扱幹事団(証券会社)の決定と届出
  取扱証券会社の決定を受けて、正式に日本証券業協会にグリーンシート銘柄(エマージング区分)として届出を行う。

7 新株式発行に関する諸手続き
 株式発行にあたって、以下の手続きを行う。
1)取締役会による新株式行決議と公告
2)募集条件の決定
3)払込保管銀行の決定

8 新株式の募集手続き(1億円未満の募集)
1)有価証券通知書の提出
  1億円未満の募集を行う場合には、財務局に有価証券通知書を提出することが必要となる。
2)日本証券業協会よりグリーンシート銘柄として指定
  届出を行ってから、15営業日後にグリーンシート銘柄としての指定を受け、通常はこの日より募集を開始する。
3)拡大縁故関係者へのご案内
  グリーンシートの募集の特徴は株主となって会社を応援いただく方(金融商品としての株式投資とは異なる長期安定株主としての資本参加で、そのような投資を行う方の多くは、企業と何らかのご縁をもつ拡大縁故関係者)を募集することにある。グリーシートの募集では主幹事証券会社と協議の上、顧客または顧客企業関係者・取引先関係者・代理店や提携先関係者・役員社員またはその家族・友人など、拡大縁故関係者に対する募集戦略を立案し、郵送・FAX・e-mail・電話・訪問などを通じたご案内を進める。
4)会社内容等説明会の開催
  グリーンシートの募集にあたっては、投資に関心を持つ方を対象とした会社内容等説明会を1回以上開催することになっている。主幹事証券会社と協議の上、拡大縁故関係者を対象とした説明会のほか、取扱証券会社の顧客投資家を対象とした説明会を開催する場合もある。
5)証券会社からの正式申込手続き書類の送付と受付
  拡大縁故関係者の中で投資参加を希望する方からは「株主として資本参加の意向書」が会社に届く。これを仮申込書として、その方に対して主幹事証券会社から、正式な口座開設と株式申込手続資料が送付される。口座開設にあたり本人確認を行ったうえで、正式な申込と申込証拠金の入金によって株式の申込手続が完了する。
6)抽選手続と増資払込手続
  申込が募集株数を超過した場合には幹事証券会社により公正な抽選手続が行われる。その後、払込期日に主幹事証券会社は募集取扱手数料を控除した増資払込金を払込保管銀行に払い込みを行う。

9 流通市場取引の開始
 募集終了後、ただちに取扱主幹事証券会社から投資家に対する名義書換手続が行われ、株券が準備される。その手続に1ヶ月~2ヶ月の期間が必要で、その後、流通市場で売買が開始される。株券はすべて取扱証券会社の保護預かりとなる。


3 グリーンシートにおける会計事務所の役割

 株式を公開した企業にはディスクロージャーが求められる。ディスクロージャーは自己責任投資の前提であるとともに、募集や売買の取扱を行う証券会社にとっても販売責任を負うために重要である。日本証券業協会は規則において、主幹事証券会社に対し発行企業に対するディスクロージャーの指導責任を義務づけている。
 従来の証券市場に株式を上場するに際しては、適時適正なディスクロージャーが維持されるよう内部管理体制を整備する必要がある。そのためには人員を増強して管理部門の組織を構築し、組織的牽制が機能する規定を整備・運用するとともに、コンピューターシステムなどの整備も必要である。仮に4人~5人の人員を増員するだけで、年間2千万円~3千万円のコストアップとなる。さらに、監査法人に対する監査報酬として年間1千万円ほどの負担が必要だ。
 内部牽制が働く管理組織を構築して組織的経営が行われることは、組織が拡大しつつある成長期の企業にとって、一定の時期に必要なことでもある。しかし、まだ社員数が50名に満たないような中小企業の場合は、管理組織の人件費を中心とするディスクロージャーコストの負担が重く、中小規模の株式上場の大きな障害となっていた。
 そこで、グリーンシートにおいては、内部に管理組織を構築する代わりに、外部の会計専門家が情報開示を責任もって担うことで、中小企業の適時適正なディスクロージャーを維持する体制が築かれている。グリーンシートにおける取扱主幹事最大手のディー・ブレイン証券では、すでに全国の公認会計士または税理士等120名ほどと「プロフェッショナル・パートナー」(以下「PP」と言う。)契約を締結し、研修を通じてスキルの向上を図りながら、質の高いディスクロージャー業務を担っていただいている。
 グリーンシート企業がPPに支払う年間のディスクロージャー指導料は、平均250万円ほど。専門家が作成した財務諸表を専門家が監査することから、監査報酬も抑えることができる。グリーンシート企業に対する監査報酬は200万円~400万円ほどだ。500万円~600万円の新たに発生する年間ディスクロージャーコストは中小企業にとって軽い負担とは言えないが、後述するグリーンシートへの株式公開の絶大なメリットを得るためのコストと考えれば、十分に見合うものであろう。それがグリーンシート公開企業急増の背景ともなっている。
 一方、会計事務所にとって、グリーンシートのディスクロージャー指導業務は、クライアントに対する業務の領域拡大となる。自計化によって記帳代行業務が縮小する中で顧問先企業の資金調達ニーズに役立つ新たな専門業務と言えよう。グリーンシートに株式を公開する企業には売上が1億円に満たない会社や赤字の会社もある。規模が小さくても成長性が評価されれば株式を公開できるグリーンシートでは、会計事務所の法人顧問先の10社に1社ほどが、グリーンシートの対象となりうる。
 TKC全国会が組織するタックスジャパングループ。TKC会員の会計事務所をリードする立場にあるこの組織の平成16年度の基本方針は「グリーンシート・ワンハンドレッド」。年間100社のグリーンシート新規公開をサポートしようというものだ。新たな専門領域として証券取引法や商法に基づくディスクロージャーノウハウの修得が必要だが、会計事務所が中小企業の成長に大きく貢献する重要なテーマであることは間違いない。
 
グリーンシート登録銘柄の募集実績と売上高・経常利益
募集売出月
銘柄名
業種
募集・売出額(千円)
直近売上高(百万円)*1
直近経常利益(百万円)*1
2000年
2月
ラ・アトレ 都市型マンションデベロッパー
80,000
4,382
36
 
3月
電子システム 教育機関向けOA設備の設計施工
90,000
1,859
75
 
4月
クセロ ドキュメント管理等のソフトウェアー開発
99,968
 
5月
ユニメディカル 天然素材による医薬品開発
99,400
6
△37
 
6月
アスコット・コム インターネットセキュリティー関連ソフトウェアー開発
99,900
 
7月
パフ 新卒対象のインターネット就職支援
41,310
173
22
 
8月
イーディーコントライブ CD-ROM等の製作アウトソーシング
87,780
2,764*2
130*2
 
9月
カワシマ・ゴールド リサイクル型の貴金属店展開
250,000
2,955
146
 
11月
風船工房匠 アミューズメント風船の開発
61,160
2001年
2月
ビジネス・ワン ビジネスソフトウェア開発
99,958
294*2
5*2
 
6月
大秦 中国家庭料理専門店チェーン
99,996
744
△225
 
7月
レッド写真サービス DPEチェーン
20,900
311
△10
 
9月
ICBIYジャパン フローズンヨーグルト専門店チェーン
45,750
177
△71
2002年
3月
アルファ・トレンド WEBシステム開発及びWEBホスティング
91,320
186*2
22*2
 
3月
オフィスG&P 広告代理業及びWEBマーケティング支援
69,420
 
3月
コンピュータ・イメージ研究所 オンラインゲームなどのソフトウェア開発
99,000
426
73
 
4月
チョウエイハンズ 店舗等内装の設計施工
51,648
1,808
△2
 
5月
ジャパン21 海外企業の日本支社業務受託
48,910
189
△18
 
6月
アクシコ SP媒体の企画開発提案
39,960
304
2
 
6月
ファイネストコミュニケーションズ

プライベートブランドISPの業務受託

36,400
154
△23
 
6月
シーキューブ 3次元CADソフトの販売
46,400
337
1
 
7月
日本ジッコウ 水処理施設等の改修
99,800
2,644
13
 
7月
オプトグラフ 3次元画像ソフトウェアの開発
42,840
76
△2
 
7月
オオシマ自工

特殊トラック車体加工

40,100
442
14
 
7月
エムディケー プリント基板等の製造
77,604
1,101
3
 
8月
キノシタオート 自動車用品の販売店チェーン
63,800
1,523
51
 
8月
雄山閣 専門書籍の出版
51,500
254
5
 
9月
フォス 促成栽培ワサビの製造販売
40,600
92
△65
 
11月
ジェット証券 オンライン証券会社
85,500
373
△235
 
11月
きくや

菓子の製造販売

67,200
733
27
 
11月
富士テクノサービス CAD技術者派遣及び紹介
80,850
1,312
4
 
11月
イオレ スポーツ関連携帯WEBサイト運営
15,060
 
11月
野外科学 環境に関する調査・分析
25,680
509
21
 
11月
ケイ・エム・エー 小売業の店頭販促支援事業
41,500
661
10
 
11月
テックウェイ

ネットワークソリューション事業

22,350
 
12月
日本システムアンドマネージメント 不動産証券化とM&Aによる保険事業
25,750
479
10
 
12月
スペリオル WEB-EDIシステムの構築と携帯コンテンツ
48,735
42
△77
2003年
1月
オストジャパングループ

調剤薬局と福祉の企業グループ

99,875
1,647
△65
 
1月
エイジア

アウトバウンド系CRMソフトを中心としたシステム開発

22,600
154
△4
 
2月
メッセージワン ブロードバンド対応双方向システム開発
34,200
366
40
 
2月
イルカネットワーク WEBによる自動車中古パーツリサイクル事業
24,539
20
△16
 
2月
アライブ 住宅向地盤改良証明システム開発
29,580
233
3
 
2月
TDOグラフィックス 新素材(蓄光材)開発、電子部品販売
47,000
260
△37
 
3月
エクセルシア ダイオキシン無害化技術開発
34,200
56
△64
 
5月
フィスコン 食材卸業及び物流サービス事業
35,160
562
△134
 
6月
ユーホーケミカル 業務用化学製品の開発・製造
71,016
1,319
11
 
6月
エコワールド沖縄 太陽発電・次世代型電池システムの企画開発
108,000
35
△47
 
7月
キューブプランニング 製菓・製パン業向け店舗設計コンサルティング
26,350
391
△89
 
8月
オプトグラフ 3次元画像ソフトウェアの開発
33,900
76
△2
 
8月
エイジア アウトバウンド系CRMソフトを中心としたシステム開発
14,900
154
△4
 
9月
きくや 菓子の製造販売
7,735
733
27
 
9月
チョウエイハンズ 店舗等内装の設計施工
17,052
1,808
△2
 
9月
ガイアフィールド 売建・マンション販売・管理
28,900
768
27
 
9月
アータライブ 総合アートプロデュース事業
30,650
31
0
 
9月
洛王セレモニー ご葬儀一式148,000円!のこくみん葬祭
69,748
601
1
 
9月
レジナ 電磁波抑制商品の開発と販売事業
9,900
 
9月
日本システムデザイン 経営・情報システム診断と企画・開発
48,720
23
△81
 
9月
京ろまん 感動と喜びの呉服ショップ展開
68,055
904
6
 
10月
京ろまん 感動と喜びの呉服ショップ展開
9,620
904
6
 
10月
オプトグラフ 3次元画像ソフトウェアの開発
21,230
76
△2
 
11月
日本システムアンドマネージメント 不動産証券化とM&Aによる保険事業
1,479
479
10
 
11月
サン・ダイアル デザイン制作、WEB・携帯コンテンツ提供
54,350
713
21
 
11月
日本環境美化協会 フランチャイズシステムによる環境衛生事業
42,840
232
13
 
11月
エトレ ペットの会員制フィットネスクラブのFC展開
36,650
679
10
 
11月
チャイルドフッド 沖縄発!地域特化型の情報誌出版事業
55,500
38
0
 
12月
ハウ・インターナショナル Javaによるシステム開発及びコンサル事業
37,590
92
△23
2004年
1月
エイワット 環境エネルギーに特化したコンサルティング
57,000
164
15
 
1月
私塾 エリート層対象教育事業
84,474
93
5
 
2月
テキスト コンタクトレンズの販売及び医療関連事業
99,900
1,311
77
 
2月
ヒューリブ カジュアル・ダイニングレストラン展開
34,714
42
3
 
2月
洛王セレモニー ご葬儀一式148,000円!のこくみん葬祭
28,243
601
1
 
2月
シーオージ デジタルコンテンツの企画制作プロデュース
36,800
316
9
 
4月
東亜テクノ

マンション管理人ロボットの開発及び販売

36,408
158
8

*1:「―」の入った銘柄は、2004年5月21日現在、グリーンシート登録廃止となった銘柄(*2を除く)。
*2:ビジネス・ワンは平成15年2月14日に福証Qボードに、またイーディーコントライブは平成15年5月1日に東証マザーズに、さらにアルファ・トレンドは平成16年3月16日に札証アンビシャスに上場している。

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