カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2006年10月23日 【実務解説】 会社法・会計基準と法人税法 第7回 役員賞与が支払われた場合の取扱い(2006年10月23日号・№184)

実務解説
会社法・会計基準と法人税法
第7回 役員賞与が支払われた場合の取扱い

T&Amaster編集部 佐治俊夫


 平成18年5月1日の会社法・会社計算規則の施行により、会社の計算に関する事項が一新されています。新しい会社法・会計基準・法人税法に基づいて、変更点となる会社法上の取扱い・会計実務の取扱い・法人税申告実務の取扱いについて、解説します。
 第7回では、役員賞与が支払われた場合の取扱いについて、事例により検討します。

Ⅵ 役員賞与が支払われた場合

 平成17年10月1日~平成18年9月30日を事業年度とするF株式会社(以下「F社」とする)は、当該事業年度に係る計算書類等を平成18年11月25日に開催されたF社定時株主総会(以下「本定時株主総会」とする)に提出し、承認を受けました。F社は平成18年9月期の職務に係る役員賞与の支給を本定時株主総会において決議することを予定し、役員賞与の支給見込額300万円を平成18年9月期において役員賞与引当金に計上しています。本定時株主総会において、会社法361条の規定に基づいた役員賞与300万円の支給が決議され、翌日(平成18年11月26日)に支給されました。
 なお、F社は前事業年度(平成17年9月期)の職務に係る役員賞与の支給について、平成17年11月に開催された平成17年9月期定時株主総会における利益処分案の承認手続により実施していました。
(1)何が変わったのか
 ① 会社法では、取締役の報酬等を「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と規定し、賞与も報酬と同じ規制(定款または株主総会の決議)によることを明らかにしています。

 ② 会社法では、株式会社の機関として、会計参与制度を新設しました(会374条以下)。会計参与は、株式会社の役員であり(会329条1項)、会計参与の報酬等は、定款または株主総会の決議によって定められます(会379条1項)。

 ③ 会社法では、株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分をすることができる、と規定しています(会452条)。役員賞与の支給は、剰余金についての処分では根拠付けられず、上記①の「報酬等」の決議によって定められます。

 ④ 会計では、役員賞与の会計処理について、「当面の間、これまでの慣行に従い、役員賞与は、費用処理せず、利益処分により未処分利益の減少として会計処理することも認められる」(「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」)としてきましたが、上記のような会社法における役員賞与の概念整理を受けて、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」としています(「役員賞与に関する会計基準」3項)。

 ⑤ 法人税法は、これまでの役員報酬・賞与の課税上の取扱いを改め、定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与の意義を定めたうえで、これらに該当しない役員給与の額は、損金不算入としています。また、特殊支配同族会社の意義を定め、特殊支配同族会社が業務主宰役員に支給する給与の額のうち一定の金額(給与所得控除額相当額)について損金不算入とする規定を創設しました。
 ⑥ 法人税法では、役員賞与の支給手続が剰余金の処分から外れたことに伴い、各事業年度の所得の金額の明細書(別表四)の社外流出欄から、賞与の欄を削除しています。役員給与の損金不算入額(加算・社外流出)の記載では、その他として記載するとともに、その発生した(支給した)事業年度に対応させて別表四に記載します。
(2)会社法での役員報酬等の取扱い
 ① 役員賞与は職務執行の対価に
 旧商法においては、「取締役ガ受クベキ報酬ニ付テノ」報酬額等を定款・株主総会の決議で定めることを規定していましたが、会社法では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての」と改正されています。旧商法の「報酬」には業績連動型の報酬も含まれると解されていますが、取締役に対する賞与は、職務執行の対価ではなく、利益処分により行われるものとする見解も有力なものでした。
 会社法では、「賞与その他の職務執行の対価として」と規定しているように、役員賞与には職務執行の対価性があることを明確化させており、役員報酬と同様の法規制が適用されることになります。
 ② 機関設計の柔軟化・多様化と会計参与制度の創設
 会社法は、取締役の設置を義務付けたうえで(会326条1項)、「定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる。」(会326条2項)と規定しています。株式会社の種類により機関の設置が義務付けられる場合もありますが、株式会社が定款自治により、機関設計を行うことが柔軟に許容され、その結果、機関の設置のパターンは多様なものになります。
 会計参与は設置することが義務付けられるものではありませんが、公認会計士または税理士などの会計専門家が取締役と共同して、計算書類等を作成するために、定款で会計参与の設置を定めることができると規定されました。
 会社法では、取締役・会計参与・監査役の任期について、原則の期間を定める(取締役・会計参与は2年間、監査役は4年間)とともに、公開会社以外の会社の場合には、定款によりそれぞれの任期を10年まで伸長することができる、と規定されました。
 ③ 利益処分案等の廃止
 旧商法は、取締役が毎決算期に作成する計算書類として「利益ノ処分又ハ損失ノ処理ニ関する議案」を規定していました(旧商281条1項)。会社法では、各事業年度に係る計算書類を次のように規定しました(会435条2項、計規91条1項)。

 利益処分として行われていた役員賞与の支給については、上記①の役員賞与についての考え方の整理を踏まえ、会社法では、「剰余金についてのその他の処分」(会452条)では、取り扱わないことになります。すなわち、役員賞与は職務執行の対価と整理されていることから、役員報酬と同様に損益計算書に表示されることになりました。
(3)会計実務での役員賞与の取扱い
 ① 発生した会計期間で費用化

 会計は、会計上の考え方として、「役員賞与は、発生時に費用として会計処理することが適切である」との考え方を明らかにしていましたが、「これまでの慣行として、一般的に役員賞与の支給は利益処分により行われていること」に配慮し、「当面の間、これまでの慣行に従い、役員賞与は、費用処理せず、利益処分により未処分利益の減少として会計処理することも認められる」(「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」)としてきました。
 会社法の施行により、役員賞与と役員報酬とが同一の手続により支給されることになったため、企業会計基準委員会は、「当面の取扱い」を見直し、「役員賞与に関する会計基準」(平成17年11月29日)を公表することになりました。「役員賞与に関する会計基準」では、取締役、会計参与、監査役および執行役を「役員」とし、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」(同会計基準3項)と定めています。
 また、「当事業年度の職務にかかる役員賞与を期末後に開催される株主総会の決議事項とする場合には、当該支給は株主総会の決議が前提となるので、当該決議事項とする額又はその見込み額(当事業年度の職務に係る額に限るものとする。)を、原則として、引当金に計上する。」(同会計基準13項)と定めています。
 F社の平成18年9月期においては、期末時に次の会計仕訳を計上します。役員賞与引当金繰入は、「販売費及び一般管理費」に計上すると考えられます。

 また、本定時株主総会の決議後の支給時に次の会計仕訳を計上します。

 ② 会計基準の変更に伴う会計方針の変更
 F社では、平成17年9月期においては、利益処分により役員賞与の支給を行っていましたが、平成18年9月期においては、「役員賞与引当金繰入」として、費用に計上されています。
 会社法の施行に伴う会計基準の変更により、会計処理が変更されました。会計方針が変更されたことで、経常利益および当期純利益に影響を及ぼしています。
 会計基準では、「本会計基準の適用に伴い、役員賞与を発生した会計期間の費用として会計処理することとなった場合には、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱うことに留意する必要がある。」(同会計基準15項)と定めており、重要な会計方針に係る事項(計規132条)として個別注記表に記載することが規定されています。会計方針の変更が行われた平成18年9月期の計算書類(個別注記表)には、上記のような注記の記載が考えられます。

 公開会社でない株式会社で会計監査人設置会社以外の株式会社であれば、個別注記表に記載する注記事項は限定されたものになっていますが、「重要な会計方針に係る事項に関する注記」はすべての株式会社に対して表示が求められています。
(4)法人税申告実務での取扱い
 ① 改正前法人税法は、役員賞与等の損金不算入を規定していましたが、平成18年度税制改正では、役員賞与の損金不算入(定期定額要件)が緩和されています。法人税法は、定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与の意義を定めたうえで、これらに該当しない役員給与の額は、損金不算入としています。
 上記の法人税法の改正は、平成18年4月1日以後開始する事業年度について適用されるため、F社が3,000,000円を役員賞与引当金に繰り入れた平成18年9月期事業年度においては適用されません。改正前法人税法が適用されることになりますが、役員賞与引当金の繰入は法人税法上損金算入が認められていませんから、当該繰入金額について、法人税申告書上で下記の調整を行うことになります。
 ② 平成18年11月26日に支給された役員賞与は、会計上は平成18年9月期の費用に計上されていますが、税務上は損金算入が認められていないため、翌期(平成19年9月期)において支給された役員賞与として取り扱われることになります。
 この役員賞与は、臨時的に支給するものですから定期同額給与には該当しません。
 法人税法に規定する事前確定届出給与・利益連動給与に該当するか否かで損金算入が判断されることになります。本事例では事前確定届出給与・利益連動給与のいずれにも該当しないものとして、当該賞与の支給が損金不算入の取扱いを受けるものとします。
 税務上は役員給与について損金不算入の取扱いになるといっても、F社は平成19年9月期において、役員賞与を費用処理しているわけではありません。税務上は、前期に損金算入を否認した金額を税務上認容したうえで、役員給与の損金不算入の取扱いを行うことになります。
 平成19年9月期において役員賞与引当金の繰入額を4,000,000円計上し、当期純利益が10,000,000円であった場合を仮定すると、平成19年9月期事業年度のF社の法人税申告書別表四・別表五(一)の記載は、下記のようになります。(さじ・としお)


当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索