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解説記事2006年11月13日 【実務解説】 ゴーイング・プライベートの法務・税務(2006年11月13日号・№186)

実務解説

ゴーイング・プライベートの法務・税務

新日本監査法人社員 公認会計士 橋上 徹

Ⅰ はじめに


 近年、上場会社に対して、経営権の支配を目的とした敵対的買収と呼ばれる企業買収がマスコミに報道される機会が多くなってきた。
 この1~2年を見ても、友好的な買収が行われている中で、敵対的買収者が出現し、あるいは上場企業に対しファンドが突然TOB(株式公開買付)を表明するなど、様々な動向が見られた。前者としては、フジテレビがニッポン放送に対して友好的なTOBを行っている最中に、ライブドアが敵対的買収をしかけた事例や、イオンがオリジン東秀にやはり友好的なTOBを行っている最中に、ドン・キホーテが敵対的買収をしかけた事例がある。後者としては、2006年10月26日に米国系投資ファンドが東証上場二部の即席麺メーカー、明星食品に対して敵対的TOBを突如表明した。
 このように、上場企業は、常に被買収リスクを抱える時代となり、このようなリスクが上場による資金調達の利便性や上場ブランドを上回る場合、安定的な経営を図るため、ゴーイング・プライベートという手段が従前より多くの局面で行われるようになってきた。

Ⅱ ゴーイング・プライベートの意義

1.定 義

 法律上定義が明記されているわけではないが、一般的には、対象会社の上場廃止を目標とし、さらに少数株主を完全に排除して対象会社の全株式取得をなすことをいうことが多い。
 但し、中には、上場を維持しつつも、上場廃止基準一杯の議決権を取得することにより、非公開化と同様な効果を具現し、買収防衛その他の利点を享受する場合もあるようである。

2.ゴーイング・プライベートの動機
 主要なものとしては以下のものが挙げられる。
(a)対象会社を完全子会社化し、利益相反取引や取締役の忠実義務違反に基づく少数株主からの訴訟ないしクレーム・リスクをなくして柔軟かつ効率的な企業経営を可能にすること。
(b)証券取引法(金融商品取引法施行後は金融商品取引法)上の継続開示義務や株主総会手続を通じて会社情報が外部に流出することを回避すること。
(c)継続開示費用、株主総会費用、名義書換代理人費用、IR費用その他公開会社であることから生じる管理費用を削減すること。特に、昨今、上場企業の、企業会計の複雑化や、金融商品取引法による四半期開示の法定化・内部統制報告書の法定化などの導入などにより、これらの費用は増大する一方である。
(d)短期的利益を上げることや高株価を維持することについての市場からのプレッシャーをなくし、また、敵対的企業買収の脅威を回避して、長期的視野あるいはグループ全体の視野に立った企業戦略を実行しやすくすること。特に、上記の四半期報告制度の法定化で短期的利益の追求のプレッシャーには拍車がかかる虞もある。

3.現代のゴーイング・プライベートの流れ
 現代のゴーイング・プライベートは、通常、以下のような手続の流れを踏む(参照)。即ち、「MBO+ゴーイング・プライベート」が現代型である。

(a)公開買付けの買付者がSPCを設立。このSPCの設立には創業者などのオーナー及び経営者が関与する。
(b)当該SPCが対象会社と一連の契約書を締結。
(c)SPCに金融機関やプリンシパル・ファンドが融資。
(d)SPCが対象会社に公開買付けを実行。
(e)創業者などのオーナーおよび経営者がSPCに出資(新株引受け・買取り)。
(f)対象会社少数株主とSPC間で株式交換実行。SPCは対象会社の完全親会社になる。この際、少数株主には株式交換の対価として現金を交付。
(g)SPCと対象会社との合併。対象会社を存続会社とする逆さ合併もある。前者は、SPCに「負ののれん」を会計上発生させ、益出しを行いたい場合に有用で、後者は、SPCの負う買収のための借入金や繰越欠損金を対象会社に負担させたい場合に有用である。
●従来、ゴーイング・プライベートの手法としては、(i)株式移転・精算方式、(ii)端株方式、(iii)産業再生方式、の3つが利用されている。
●上記のスキームでSPCを存続会社とする場合は、産業再生方式、対象会社を存続会社とする場合、端株方式が利用される。対象会社を存続会社としてSPCを合併するとき、少数株主に端株処理による現金交付を行っても、適格合併が認められる(法基通1-4-2)ことに起因することによるのではないかと考える。
●産業再生方式は、会社法の合併対価の柔軟化が施行され、課税上もそれが適格合併となればゴーイング・プライベートに活用する意義は実質なくなる。

4.現代のゴーイング・プライベートの問題(論点)
 以上の流れを前提とすると、以下の論点が浮上する。
●SPC設立の問題(産業活力再生法が活用できるか否かで、会社法上の適法性の問題を含めスキームに大きな影響がある)
●改正証券取引法(金融商品取引法)による規制強化への対応の問題
●株式交換比率の会社法上あるいは産業活力再生法上の合法性の問題
●合併比率の会社法・法人税法上の問題
●少数株主への譲渡益等課税の問題
●対象会社が繰越欠損金を有する場合の利用の制限の問題
●SPCは株券等をより安く買いたいと考え、対象会社の株主はより高く売りたいと考える。創業者などのオーナーおよび経営者は双方代理のような形となり利益相反の状況が形成されるので、違法性がないことを会社法・証券取引法(金融商品取引法)上どのように立証すればよいのかという問題

5.ゴーイング・プライベートに対する考え方・法整備の変遷
(1)平成11年商法改正前
 少数株主の排除を目的とするような取引は、商法の基本的理念である少数株主保護の観点から許されないという考え方が有力であった。
(2)平成11年の商法改正
 平成11年の商法改正において株式交換・株式移転制度が導入された。株式交換・株式移転制度が設けられた直接の動機は、平成9年の独占禁止法改正により持株会社が解禁されたことから、既存の会社を子会社とする手続が一般に必要とされた。また、完全親子会社関係は、両社の一体的運営を可能とする点で合併に類似するが、子会社の法人格を維持することに、合併にない固有のメリットがあることが認識された。株式交換は、企業買収または既存の子会社の完全子会社化等に利用でき、株式移転は、既存の1社がその持株会社を創設する場合または既存の2社以上が1つ持株会社の下に経営を統合する場合等に利用できる。これを契機として、少数株主を排除して対象会社を完全子会社とすることは合理的必要性がある場合が認知された。
 しかし、この当時の株式交換・株式移転においては、株式の割当てを要件としており(旧商法352条2項・364条2項)、交付金(現金)のみによる手続を認めていなかった。しかし、株式交換では、企業買収などに一定の合理性を見出したものであるから、完全親会社株式でなく現金を対価として対象会社株式を強制的に取得することも、株式移転と他の商法上の手続を組み合わせれば、ゴーイング・プライベートが可能であるとの考え方により、そうした取引を行うものも現れた。
 但し、それでもなおかつ、違法性を払拭できないため、ゴーイング・プライベートに躊躇する企業が多かったのではないかと考えられる。
(3)産業活力再生特別措置法の改正
 平成11年8月に成立した産業活力再生法が平成15年4月に改正された。これは、さらに経営の効率化を進展させる観点から、M&Aも円滑に進める必要があったためである。この改正により、株式交換、吸収分割または合併に際して、完全子会社、分割会社または消滅会社の株主に、完全親会社、承継会社または存続会社の株式ではなく、現金のみを交付することが正面から認められた(産業再生法12条の9第1項)。
 ゴーイング・プライベートでは、公開買付けの買付者により設立されたSPCによる対象会社の議決権の3分の2以上の取得後、現金を対価とする株式交換を行うことになるが、その場合、経営資源活用を円滑に行うために現金を交付することが必要かつ適切であることにつき、別途認定を受ける必要がある(産業再生法12条)。
 株式交換により交付される現金の額については、株式交換完全子会社等の企業価値が存在するにもかかわらず、極めて少額の対価により株式交換等を行おうとする場合など、支配株主の優越的地位の濫用が明らかな場合には認定されないとの立法担当者の見解があるようであるので留意を要する。特に公開買付け直後に現金を対価とする株式交換を行う場合には、多数株主権の濫用(2段階威圧的取引として糾弾されるもの)を避けるため、原則として公開買付価格と同一対価で株式交換を行う必要がある。
 改正前商法は、株式交換において完全子会社となる会社には簡易株式交換が認められていなかったため、ゴーイング・プライベートに際して株式交換を行う場合には、相当数の少数株主が残存する対象会社の臨時株主総会の開催に相当の時間と費用がかかった。そこで産業再生法では、認定事業者またはその完全子会社となる会社が議決権を3分の2以上保有している会社(以下「特定関係事業者」という)が、そのグループ内で行う組織の再編成については、その規模に株主総会の特別決議が不要とされているため(産業再生法12条の2ないし12条の7)、例えば、SPCが公開買付けにより対象会社の議決権の3分の2以上を取得すれば、完全子会社となるべき対象会社における簡易株式交換も可能となった。この簡易株式交換と上記現金株式交換を組み合わせる場合には、株主総会の決議がないまま小数株主を排除することが可能になる。
(4)会社法の施行
 平成18年5月1日、会社法が施行された。株式交換等組織再編の際の完全子会社の株主への対価の柔軟化が実現された。但し、組織再編行為のうち、合併については、対価の柔軟化に関する規定の施行は平成19年5月1日に延期されている(会社法附則4項)。
 このため、ゴーイング・プライベートに関しては平成19年4月末までは、産業活力再生特別措置法で対応を図ることになる。
(5)法人税法の改正
 法人税法の改正により、ゴーイング・プライベートで利用される、株式交換・合併に関し税務上の取扱いが変わることとなったため、その内容について理解する必要がある。
① 株式交換・株式移転の関連~平成18年度税制改正の概要(平成18年10月1日以降の取扱い)
 現行の株式交換および株式移転についての税制上の取扱いは、租税特別措置として定められ、金銭等の対価が5%未満であること等を要件として子法人株主の株式の譲渡損益の課税を繰り延べること等とされている(措法67の9、67の10)。
 一方、合併等の組織再編に係る税制は、法人税法に規定されているが、この組織再編に係る税制は適格要件を満たす組織再編について、法人資産等の譲渡損益の繰延べと株主に対する株式の譲渡損益の課税を繰延べされることとされている(法法2、62の2等)。
 今回の改正では、組織再編税制の中に取り込み、適格(譲渡損益の繰延)、非適格(時価譲渡益課税)により課税関係を分けることとした。
 株式交換や株式移転は実質的には企業が持株会社化への移行など組織再編の一環として利用されることから、平成18年度税制改正では、株式交換や株式移転により完全親法人の株式等のみが交付されるものは完全子法人の株主における有価証券の譲渡損益を繰り延べることとされた(法法61の2⑦、⑧)。
 一方、株式交換や株式移転のうち一定のものを適格株式交換または適格株式移転とし、適格株式交換または適格株式移転に該当しないときは、株式交換や株式移転に係る完全子法人の資産・負債の一定のものについてその時の時価評価を強制することとした(法法2十二の十六、十二の十七、62の9)。
 完全子法人の旧株主が株式交換・株式移転における交換の対価として金銭等の交付を受けた場合には、単なる株式の譲渡として、株式譲渡損益の計算を行う。
 株式譲渡は、株式交換・株式移転により交付を受けた対価の額を譲渡収入金額とし、完全子法人の旧株主が有していた完全子法人株式の帳簿価額を譲渡原価として計算を行う。
株式交換・株式移転については、適格・非適格にかかわらず、また金銭等の交付があったとしても、合併や分割と異なり完全子法人の旧株主においてみなし配当課税は生じない。
 株式交換・株式移転における時価評価によって完全子法人の利益積立金に増減があったとしても、その増減後の利益積立金を完全子法人がそのまま引き継ぎ、その時点で精算を行わないためである。
 株主の旧株の譲渡損益の取扱いについては平成18年10月1日以前と以後で取扱いが異なる。
(i)改正前制度の概要
 株式交換・株式移転が行われた場合において、特定親会社(株式交換・株式移転により完全親法人になる法人)における特定子会社(株式交換・株式移転により完全子会社となる法人)の株式の受入価額が特定子会社の株主の帳簿価額以下であることおよび金銭等の対価が5%未満であることの要件を満たすときは、その株主について譲渡損益の計上を繰り延べることとされている(措法67の9①)。
(ii)改正の内容
 株式交換完全子法人または株式移転完全子法人の株主が、株式交換または株式移転により株式交換完全親法人または株式移転完全親法人の株式以外の資産の交付を受けなかった場合には、旧株の帳簿価額による譲渡を行ったものとして譲渡損益の計上を繰り延べることとされた(法法61の2⑦⑧)。
② 被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎ
 共同事業を行うための再編成であればすべての繰越欠損金の利用が認められる。グループ内の再編成の場合でも、グループ化してから5年を経過していれば認められる。しかし、グループ化してから5年に満たない場合は、みなし共同事業要件を充足している場合を除き、グループ化する前の繰越欠損金は利用できない。
●基本的な取扱い
 原則1 合併法人(存続会社)の青色繰越欠損金は、合併後も利用することができる(従前からの取扱い)。
 原則2 適格合併等の場合は、被合併法人(消滅会社)の青色繰越欠損金も、合併会社で引き継いで利用することができる。
 適格合併等が行われた場合に、被合併法人等に未処理欠損金があるときは、当該未処理欠損金は、合併法人等の合併等事業年度前の各事業年度に生じた欠損金とみなして合併等事業年度以後の各事業年度において繰越控除する。
 ゴーイング・プライベートの場合、スキーム上SPCに欠損金が生じるが、存続会社である対象会社はこの繰越欠損金を引き継ぐことができる。但し、組織再編行為計算否認の包括規定(法法132の2)には留意する必要がある。
(6)改正証券取引法・金融商品取引法の成立による公開買付規制強化
 証券取引法の公開買付けの規定が改正され、金融商品取引法の条文も同一とされた。
 改正の背景は次のとおりである。平成17年ごろから、敵対的な企業買収の試みが見られるようになり、上場会社は相次いで買収防衛策を導入してきた。
① 公開買付規制が適用される対象
 株券・新株予約権付社債・その他政令で定めるもの(「株券等」)について、有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等である(27条の2第1項)。
 株券を上場している会社の株券等、過去に新株予約権付社債を公募したため有価証券報告書を提出しなければならない会社の株券等、過去に新株予約権付社債を公募したため有価証券報告書を提出しなければならない会社の株券等、外形標準(資本金5億円以上かつ500名以上など)に該当する会社の株券等がこれに該当する。
 これに対し、発行者による自社株の買付けに公開手続を利用できるのは、株券等のうち上場されているものを対象とする場合に限られる(27条の22の2第1項)。
② 公開買付けによらなければならない場合
(i)60日間で11名以上の者から市場外で株券等を買い付け、買付け後に株券等所有割合が5%を超える場合(27条の2第1項1号)
 この取引は、投資家に株券等の提供圧力が生じるため、公開買付けによらなければならないとされた。
 株券等所有割合とは、対象会社の総議決権の数に対する買付者とその特別関係者の有する株券等の議決権の割合のことをいう。新株予約権付社債のような潜在的株式については、買付者・特別関係者の有する分を分子および分母に加えて計算する。特別関係者には、買付者と株式の所有関係・親族関係などで結ばれている者と、買付者との間で株券等の共同買付け・相互の譲渡・共同の議決権行使を合意している者とが入る。
(ii)60日間で10名以内の者から市場外で株券等を買い付け、買付け後に株券等所有割合が3分の1を超える場合(27条の2第1項2号)
 この場合に公開買付規制を及ぼす目的はプレミアムの分配である。既に、対象会社の株券等保有割合が50%を超える者が市場外で買い増す場合は、3分の1ルールは適用されない。これは、支配権の移動がないと考えられるためである。また、3分の1を超える取得を市場取引により行うことは禁じられない。市場取引ではプレミアムが付かないか、仮に付くと想定しても市場取引には誰でも参加できるためである。
 平成17年2月、ライブドアがニッポン放送株を東京証券取引所の立会外取引であるToSTNetにより取得して株券等所有割合が3分の1を超えたことが、市場内か市場外かで問題となった。立会外取引は、投資家の多様な取引ニーズに応えるために創設され、立会時間外に、電子取引ネットワークシステムを介して行われる売買制度のことである。大口の取引やバスケット取引等に利用されており、東証のToSTNeT(トストネット、Tokyo Stock exchange Trading Network System)と大証のJ-NET(ジェイネット)等がある。ToSTNeTにはToSTNeT-1とToSTNeT-2があり、前者は単一銘柄取引とバスケット対当取引を、後者は終値取引を対象とする。また、J-NETは単一銘柄取引、バスケット取引、自己株式取得取引を対象とする。とりわけ大口の取引等を行う機関投資家にとって利便性の高い制度である一方、立会「外」であって市場「内」の取引であるという位置付けから、取引の透明性などが問題視されていた。
 裁判所は、ToSTNeT取引は、証券取引所の開設する有価証券市場に当たる(市場内)としたが、同取引は一般投資家が参加しにくい取引であることから、平成17年の証券取引法改正により、同取引で3分の1超を取得することが禁止された(27条の2第1項3号)。
 平成18年のドン・キホーテによるオリジン東秀株の取得では、公開買付け前である1月に市場外取引で約31%を取得した後、公開買付けを開始し、公開買付けが失敗に終わった後である2月に、市場取引によって15%分を追加取得したことが問題になった。公開買付け前の市場外取得の際に市場内取引で3分の1を超えることを意図していなかったのであれば3分の1ルールの脱法とは言えないが、グレーゾーンであった。
 そこで、金融商品取引法では、①市場内外の取引を組み合わせて、または、②市場外取引と第三者割当による新株取得を組み合わせて3分の1を超える取引であって、市場外取引が政令で定める一定割合を占める場合には公開買付規制を適用することとした(27条の2第1項4号)。
 平成17年~18年には、経営者に友好的な公開買付けが行われている最中に、敵対的な買収者が対象会社の株式を市場で買い付けるケースが発生した。即ち、フジテレビによるニッポン放送株公開買付け中のライブドアによる株式取得、イオンによるオリジン東秀株公開買付け中のドン・キホーテによる株式取得である。
 このケースにおいては、公開買付者は市場取引や相対取引を禁止されるという「公開買付けの取引規制」があるのに、他の買付者は買付方法に限定がなく不公平ではないかが問題とされた。買付者間の公平性は、証券取引法規制が問題にする論点ではないが、既に3分の1を超える株式を保有している者に関する情報は、公開買付けに直面している投資家にとっても重要な情報と考えられることから、ある者による公開買付期間中に、株券等所有割合が既に3分の1を超える他の者が対象会社の株式を取得する場合には、他の者も公開買付けの手続によらなければならないとされた(27条の2第1項5号)。
(iii)自社株公開買付が強制される場合
 発行者による自社株公開買付けが強制されるのは、会社が株主総会または取締役会の決定を受けて株主との合意により自己株式を取得する場合のうち、有価証券市場外で買付けを行う場合である(27条の22の2)。株主の平等取扱いを実現させることが公開買付けによることを義務付ける目的であるので、特定少数から買い付けるか、不特定多数から買い付けるかを問わず、また、市場内取引による自己株式の取得は許容されている。
③ 公開買付けの手続
 買付者は、公開買付開始公告を行い、同時に内閣総理大臣に「公開買付届出書」を提出すれば、買付けの勧誘をすることができる。公開買付開始公告は広く投資家に参加の機会を保障するためのものであるので、電子公告を行うときでもそのURLなどを新聞公告しなければならない。
 公開買付届出書は、募集・売出しの際の有価証券届出書に相当するものであり、①買付期間・買付価格・買付予定株券数・買付条件等の公開買付要項、②買付者の状況、③対象会社の状況などを記載する。
 公開買付期間は、20営業日以上60営業日以内の範囲で買付者が定める(27条の2第2項)。最短期間の要求は、投資家に情報の熟慮期間を与えるため、最長期間の限定は、長期間投資家を不安定な状態に置かないためである。なお、買付期間が30営業日未満に設定された場合、対象会社による対抗提案等の提示に一定の時間を要することを考慮し、これを30営業日まで伸長することができる(27条の10第2項)。
 買付者は、公開買付届出書提出後は、「公開買付説明書」を交付し、いつでも買付契約を締結することができる(27条の9)。その代わりとして、投資家は、公開買付期間中はいつでも契約を解除することができる。
 公開買付けの対価は金銭でなくてもよいが、同一種類の対価でなくてはならない(27条の2第3項)。対価が有価証券であり、それを提供することが募集又は売出しに当たるときは、有価証券届出書の提出が必要になる場合がある(アマの50人以上募集など:第4条)。
 金融商品取引法では、投資判断材料を豊富にするため、対象会社に「意見表明報告書」の提出を義務付けた(27条の10第1項)。意見表明報告書に買付者に対する質問が記載されたときは、買付者は政令で定める期間内に「対質問回答報告書」を提出しなければならない(27条の10第11項)。
 公開買付期間が終了したときは、指定した代理人(金融商品取引業者・金融機関)を通じて、遅滞なく株券の受渡しと代金の決済を行い、公開買付けの結果を発表し、「公開買付報告書」を内閣総理大臣に提出する。
*「MBO+ゴーイング・プライベート」の問題
 ワールド・ポッカコーポレーション・すかいらーくなど、最近、対象会社の経営者が出資した会社(SPC)が対象会社を買収して非公開化する取引が多くなってきた。非公開化は究極の防衛策でもある。
 経営者による買収はMBO(Management Buyout)、買付者が借入金を用いて買収し、買収後に対象会社と合併することによって対象会社に借入金債務を負わせる買収手法はLBO(Leveraged Buyout)と呼ばれる。
 非公開化取引が行われると、株式価値を図る尺度が失われ、株式を提供した株主が損をする取引だったのかどうか検証する手段がない。また、対象会社の株価が低いほど買付者にとって有利なので、MBOの場合、経営者は株主と利益相反の関係に立つことになる。
 そのため、米国などでは、非公開化取引については、上場廃止とする意思の有無等について詳細な開示を求め、また第三者委員会の設置あるいはフェアネス・オピニオンの取得を義務付けている。

④ 公開買付けの取引規制
(i)投資家の平等取扱いを確保するためのもの
ア 買付価格は均一条件でなければならず(27条の2第3項)、買付価格の引下げは原則としてできず(27条の6第3項)、買付価格を引き上げた場合は、すべて、引上げ後の価格で買い付けることになる。
イ 応募株数が予定を超える場合に、その超える部分の全部または一部の買付けをしないことを条件とした場合であって、提供株数が買付予定株数を超過するときは、按分比例によって買い付けなければならない(27条の13第5項)。これらの規制は、先に提供した者には高い価格を支払う、あるいは先に提供した者だけから買い付ける等の手法で提供圧力を高める行為を禁止するものである。按分比例による買付けを認めるということは、応募株式の全部を買い付ける「全部買付義務」が課されていないことを意味する。
 但し、買付け後の株券等所有割合が3分の2を超える場合には、上場廃止の危険が生じるなど少数株主が不安定な地位に置かれることから、例外的に買付者に全部買付義務を課すこととした(27条の13第4項)。
 これにより、公開買付けと合併等の企業組織再編手続を組み合わせる2段階買収において、第2段階で買収者の提案する合併・株式交換において不利に取り扱われることをおそれて、第1段階の公開買付けに応募してしまうという公開買付けのプレッシャーは緩和されている。
ウ 公開買付期間中は、買付者は公開買付けによらないで株券等を取得することが禁止される(「別途買付けの禁止」27条の5)。但し、公開買付開始前に買付契約を締結し、そのことを届出書に明らかにしている場合には、公開買付手続外で買い付けることができる。
(ii)公開買付制度の相場操縦等濫用防止規制
ア 応募株数の状況によって買付数を制限することは、応募株数が予定に満たない場合に全部の買付けをしないとの条件を付した場合以外認められない(27条の13第4項1号)。
イ 安易な撤回を認めると、公開買付けが相場操縦に利用されるため、公開買付けの撤回が一定の場合に制限されている(27条の11第1項)。
●平成17年の夢真ホールディングスによる日本技術開発への公開買付けでは、日本技術開発が公開買付期間中に株式分割を決定するかが注目されたが、実際は、公開買付開始前に株
式分割が決定された。公開買付期間中に株式分割が行われると、分割比率に応じて株価は下落するが、買付価格の引下げが認められないので、分割前の買付価格で分割後の応募株券を買い付けなければならず、買付者は多大な損害を被る。
●平成17年以降、多くの上場会社が、敵対的な公開買付けが行われた場合に、既存の株主に対し有利な条件で新株や新株予約権を与える防衛策(ライツプラン、ポイズンピル)を発動することを表明している。公開買付期間中に防衛策が発動されると、買付者の持分の割合や価値が希釈化されるため、買付者に損害を与え買収を困難にさせる。こうした株式分割、新株・新株予約権の発行等は公開買付けの撤回事由に列挙されていないため、列挙事項に「準ずる事項」として買付者が撤回事由に指定できるかどうかが問題となっている。
ウ 買付条件の変更は新聞公告を通じてすることができるが、(a)買付価格の引下げ、(b)買付予定株数の減少、(c)買付期間の短縮、(d)その他政令で定める買付条件の変更はできない(27条の6)。これらは、撤回と同様の効果を持つからである。
 しかし、株式分割や新株・新株予約権の発行が決定されると株価が希釈化される。公開買付けの撤回が認められるとしても、再度公開買付けをするには多大なコストを要する。そのため、公開買付期間中に対象会社が株式分割その他政令で定める行為を行ったときに、買付者が内閣府令で定める基準に従って買付価格を引き下げることを認めた(27条の6)。

Ⅲ 「すかいらーく」の株式非公開化

1.概 要

 2006年6月8日、東京証券取引所に上場していた「すかいらーく」は、臨時取締役会を開催し、経営陣による企業買収(MBO:Management Buy Out)を実施し、株式を非公開にする方針を決定した。
 横川竟会長兼最高経営責任者(CEO)ら創業者一族と経営陣は特別目的会社(SPC)を設立し、SPCがすかいらーくのTOB(株式公開買付け)を実施した。
 このSPC名称は「SNCインベストメント株式会社」といい、野村プリンシパル・ファイナンス株式会社が63.33%、Asia Eateries Holdings NV(以下AEH:CVC Asia Pacific imitedが助言するファンドであるCVC Capital Partners Asia PacificII L.P.とCVC Capital Partners Asia Pacific II Parallel Fund-A,L.P.が間接的に保有するベルギー法に基づき設立された会社)が36.67%保有する、いわゆる「MBOファンド」である。
 横川竟氏は、本公開買付けが成立した場合において、公開買付者に直接、または同氏ならびに同氏と野村プリンシパル・ファイナンスおよびAEHとが協議して定める第三者とが出資する会社等により間接に出資するとともに、引き続き当社の取締役に留まる予定とした。また、野村プリンシパル・ファイナンス、AEHおよび横川竟氏が指名する役員と共に、当社の経営にあたる予定とした。なお、横川竟氏以外の当社の現在の経営陣も引き続き当社の経営に参画する可能性があるとのことである。さらに、横川竟氏以外の当社の現在の経営陣、従業員等が公開買付者または当社へ出資を行う可能性があるとし、経営陣のみならず、従業員からの出資も検討していることから、マネジメント・エンプロイー・バイアウト(MEBO)となる可能性があるとのことであった。
 SPCは、すかいらーくの株式全株の取得をめざし、平成19年初めにも、すかいらーくを吸収合併し、その後は横川氏らとともに、野村プリンシパル・CVCからも役員を受け入れる予定とのことであった。

2.買付価格
 本公開買付けにおける買付価格は、公開買付者が当社の普通株式の市場価格、財務状況および将来収益等の諸要素を総合的に勘案して決定したものであり、平成18年6月7日までの過去6ヶ月間の東京証券取引所における売買価格の終値の単純平均値1,962円(小数点以下四捨五入)に対して27.4%のプレミアムを加えた価格であり、また、平成15年12月における株式会社ジョナサンの完全子会社化発表以後の現体制発足以降、平成18年6月7日までの期間における最高値2,350円を上回る価格である。

3.株式のすべてを公開買付期間内に取得できなかった場合の対応
 公開買付けで当社の自己株式を除いた全株式を取得できなかった場合、本計画が認定された後、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律450条7項の規定によりなお効力を有するものとされる、同法449条の規定による改正前の産業活力再生特別措置法12条の9の要件を満たすときは、金銭交付による株式交換を実施し、その後公開買付者を存続会社とし、当社を消滅会社とする合併を行うことを企図していた。このうち株式交換については、公開買付者は、本公開買付け後、本計画に基づき金銭交付による株式交換の認定を受けた上で、公開買付者を完全親会社とし、当社を完全子会社とする株式交換を行って、完全子会社となる会社たる当社のその時点における他の株主に対して、対価として金銭を交付する予定とした。なお、公開買付者は、株式交換について、会社法784条1項に定める略式組織再編(本計画の認定を受けた場合には、産業活力再生特別措置法12条1項の規定により略式組織再編が認められる要件が変更される)の制度を活用する予定であり、当社における株主総会の決議を要せずに実施する予定とした。
 株式交換に際して交付される金銭の額は、本公開買付けの買付価格を基準として算定され、本公開買付けの買付価格に準ずる価格となる予定としつつ本公開買付けにおける買付価格とは異なることがあるとした(この株式交換に際しては、完全子会社となるすかいらーくの株主は、法令の手続に従い、当社に対して株式買取請求をすることができる)。この場合の1株当たりの買取価格は、株式交換においてすかいらーくの株主の有する株式1株につき交付される金銭の額または本公開買付けの買付価格とは異なることがあり、本公開買付け、金銭交付による株式交換または株式交換にかかる株式買取請求による買取りの場合の税務上の取扱いについては、検討が必要である状況である。

4.TOBの結果
 7月11日、6月9日から実施したMBOファンドによるTOBの結果を公表した。約18,800の株主から、株式の94.38%に当たる約1億267万株の応募があった。結果、TOB成立条件とした66.7%を大きく上回った。

5.上場廃止
 すかいらーくは、8月19日、監理ポストに入り、9月19日上場廃止となった。
(はしがみ・とおる)

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