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コラム2008年11月24日 【Sammys Cafe】 虚偽記載による課徴金とインサイダー取引(2008年11月24日号・№284)

コンプライアンスの秘訣を指南するみんなの会社法
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虚偽記載による課徴金とインサイダー取引

by TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉匡美
港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。 Welcome to SAMMYS Cafe

古本屋 この写真集は「海外直輸入無修整もの」だから、重要部分は黒塗りして、黒塗りを消せる消しゴムとセット販売しようと思ってるんだ。
Sammy セットで売ったら、無修整で売っているのと同じですよ。ダメですよ。

1 有価証券の発行と開示

 金融庁は、平成20年11月7日にアーバンコーポレーション(以下「アーバン」といいます)に対し、臨時報告書の虚偽記載を理由として課徴金納付命令を発しました。
 課徴金の対象となった行為の概要は、アーバンが同年6月26日、転換社債の発行による手取金の使途について、真実は、①同日および同年7月8日に締結したスワップ取引に基づき転換社債の割当先に支払い、スワップ契約に基づく当該割当先からの受領金を同社の債務の返済に使用していく予定であり、②手取金の全額を同社の債務の返済に使用することはできなかったにもかかわらず、「新規発行による手取金の額及び使途」の欄に「財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定」と記載した臨時報告書を関東財務局長に対して提出したというものです。
 またアーバンは、本件に関連して有価証券報告書の虚偽記載についても調査されています。
 有価証券報告書や臨時報告書の重要な事項について虚偽の記載があれば、課徴金を課されるのみならず、刑事罰(金融商品取引法197条の2)が課されるリスクもあります。
 また会社は、株式の取得者に対して、虚偽記載により生じた損害について無過失の賠償責任を負い(金商法21条の2)、当該会社の役員も、過失があれば損害賠償責任を負いますから(同法24条の4等)、どんなことがあっても、有価証券報告書等の虚偽記載をしないように気を付けなければなりません。

2 虚偽性の判断

 有価証券報告書等に記載された事実が虚偽かどうかは、一見、単なる事実認定の問題のようですが、実際には法的判断が必要です。
 たとえば、金融庁はアーバンの臨時報告書の「新規発行による手取金の額及び使途」の欄について、①手取金の全額をスワップ契約に基づく支払いに充てること、および②スワップ受領金について、いつ、いくらをアーバンの債務の返済に使用することができるかは不確定であることを、投資家が自ら推察し、投資判断ができる程度までスワップ契約の内容を引用して記載すべきであったと判断しています。
 転換社債の手取金の使途に関する事実は、①のみですから、本来は②について言及しなくとも、アーバンの虚偽記載の事実は認められるはずです。
 それにもかかわらず、金融庁が、形式的には転換社債とは別の契約であるスワップ契約に関する情報も開示すべきであると判断したのは、本件の金融商品は、実質的にはMSCBと同種のものを、転換社債とスワップ契約に分離して設計したものに過ぎないと考えたからではないでしょうか。
 この判断には、MSCBであれば転換条件等がすべて開示されるにもかかわらず、「転換社債+スワップ契約」という法形式に変更するだけで開示を免れるのは不当であるという「形式よりも実質」をみる金融庁の価値観が垣間みえます。
 また、本件では2個のスワップ契約が締結されており、転換社債の手取金のほとんどは、2番目に締結された7月8日のスワップ契約の払込金として使用されています。
 臨時報告書は6月26日付であり、その時点では、2番目のスワップ契約が締結されていないのですから、形式的にみる限り、臨時報告書の手取金の使途の欄には虚偽記載はありません。契約の日付という形式を重視すれば、単に臨時報告書の提出後のスワップ取引により、事情の変化が生じたに過ぎないようにもみえます。
 しかし、金融庁は、6月26日の時点で、2番目のスワップ契約の内容を含めて開示すべきであったと指摘していますから、おそらく、その時点で、すでに2番目のスワップ契約の締結が予定されていたと認定しているようです。
 アーバンが近接した時点で2個のスワップ契約を締結した趣旨はわかりませんが、少なくとも金融庁は、「形式よりも実質」を重んじ、2個のスワップ契約を一体と評価しています。
 金融の世界では、法形式を変更することにより、規制を回避することもテクニックの1つと考える傾向にありますが、このような金融庁の判断手法をみる限り、法形式に見合う実質を伴わなければ、かえって法的責任を問われるリスクを増大させることになってしまうようです。

3 インサイダー取引

 有価証券報告書等の虚偽記載が、インサイダー取引につながることもあります。
 インサイダー取引(金商法166条)は、会社関係者等が重要事実の公表前に上場株式やそのオプション等の売買等を行った場合に成立します。「公表」には有価証券報告書等の提出が含まれますが、有価証券報告書等の記載が虚偽であるため、そのなかに公表すべき重要事実が含まれていない場合には、インサイダー取引規制が解除されることはありません。
 本件では、新株予約権の募集についての決定を行ったこと(金商法166条2項1号イ)は臨時報告書で公表されていますから、その重要事実についてはインサイダー取引規制は解除されています。しかし、手取金の使途がスワップ取引の払込金となることなどがバスケット条項(同項4号)に該当する場合には、当該事実についてはインサイダー取引規制の対象となります。
 また、スワップ契約の当事者が、スワップ契約に基づき、アーバン株式やそのオプションを売買することは、いわゆる「知る前契約」(金商法166条6項8号)による取得などの適用除外事由には該当しません。
 したがって、本件において、スワップ契約を公表しない段階で、その当事者がアーバン株式やそのオプションを売買することは、インサイダー取引に該当する可能性があり、絶対に行うべきではありませんでした。
 このように開示を回避することにより利益を得ようとする者は、手痛いしっぺ返しを食らうことがありますから、目の前の利益よりも、誠実に開示を行うことが、結局はすべての関係者にとって最善の策であるといえるでしょう。

古本屋 開示するのがいいんなら、この写真集も今、黒塗りを消して、重要部分を開示しちゃおう!
Sammy ん? 黒塗り消しても、水着を着てるじゃないですか。おじさん、それはズバリ、詐欺でしょう。

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