解説記事2009年05月18日 【制度解説】 「内部統制報告制度に関するQ&A」の再追加とそのポイント等に係る要点(2009年5月18日号・№306)
解説
「内部統制報告制度に関するQ&A」の再追加とそのポイント等に係る要点
金融庁総務企画局企業開示課企業会計調整官 野村昭文
Ⅰ はじめに
金融庁は、平成20年4月1日以後開始する事業年度から導入されている内部統制報告制度に関して、平成19年10月1日付で「内部統制報告制度に関するQ&A」(20問)を公表した。これは、それまでに内部統制報告制度に関して寄せられた照会等に対して行った回答等のうち、先例的な価値があると認められるものを整理したものである。
その後、金融庁や平成20年4月に日本経団連や日本公認会計士協会と共同で設置した「内部統制報告制度・相談照会窓口」に多くの照会等が寄せられた。このため、内部統制の基準・実施基準等、制度の内容の一層の明確化を図る観点から、寄せられた照会等を整理し、平成20年6月24日にQ&A(47問)を追加公表している。
今般、最初に内部統制報告書を提出することになる3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、平成21年4月2日付で新たな質問・回答(24問)を追加公表し、基準等制度の内容のより一層の明確化に努めることとした。
なお、Q&Aは、その冒頭にも記載されているとおり、内部統制報告制度に関して金融庁等に寄せられた照会等に対する回答等を整理したものであり、回答等は、現時点における見解を示すもので、異なる前提条件が存在する場合、関係法令および基準等が変更される場合などには、考え方が異なることもあることに留意が必要である。
本稿では、再追加された質問・回答(以下「追加Q&A」という)のうち、実務において重要と考えられる回答等について補足説明し、実務の参考に供することとしたい。なお、文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ 追加Q&Aのポイント等
今回の追加Q&Aにおいては、最初に内部統制報告書を提出することになる3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、①「重要な欠陥」の判断、②子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない等の場合の取扱い、③内部統制報告書の記載内容の3点をポイントとして掲げている(表参照)。
1 「重要な欠陥」の判断(問68~70、75、77) 期末日において「重要な欠陥」が存在する場合には、内部統制報告書に、その内容およびそれが是正されない理由を記載することとされている。
実施基準では、この「重要な欠陥」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備をいうとされており、その判断に際しては、金額的および質的な重要性の双方について検討を行うこととされ、特に金額的重要性については、連結総資産・連結売上高・連結税引前利益など比率で判断することとされている。
これらの比率は、画一的に適用するのではなく、監査人とも協議のうえ、企業の業種・規模・特性など企業の状況に応じて適切に決定する必要があると考えられる。
したがって、「重要な欠陥」の判断について示している既公表のQ&A(問1、2、40、41、43等)と同様に、追加Q&Aにおいても、内部統制報告書の作成に向け、「重要な欠陥」に該当するかどうかの判断の参考となるよう、次の項目に係るQ&Aを追加した。
(1)財務諸表監査による指摘(問68)、財務諸表等のドラフト(問69) 経営者が一定の財務諸表等の数値を計算した後、当該数値等の誤りを監査人から指摘された場合であるが、誤りを指摘されたことをもって直ちに「重要な欠陥」に該当するのではなく、指摘された誤りが企業の内部統制によって防止・発見できなかったのかどうかという観点からの検討が必要であることを明らかにしている。
なお、ドラフトについては、その位置付けにより重要な欠陥の判断は異なるものと考えられ、監査人との協議を目的とするドラフトの場合には、協議の過程で、重要な虚偽記載が発見されることがあっても、内部統制の重要な欠陥として判断する必要はないとしている。
(2)決算短信(問70) 決算短信は、有価証券報告書の提出より相当程度早く取引所に提出されることが一般的であり、有価証券報告書提出までの間にその数値を訂正することはありうるものと考えられる。
内部統制報告制度は、あくまで金融商品取引法に基づく制度であることから、取引所規則に基づく決算短信の数値が訂正されたことをもって直ちに「重要な欠陥」には該当しないとしているものである。
(3)売掛金の残高確認(問75) 本問では、得意先への売掛金の照会に対する回答額と帳簿残高に差異があった場合でも、直ちに「重要な欠陥」と判断するのではなく、会社がその原因を解明し、差異の調整を行って適切な残高に修正するような統制が整備・運用されているのであれば、会社の内部統制は有効に機能していると判断できるとしている。
一方で、このような統制が整備・運用されていない場合には、内部統制上の不備によるものとして、財務報告に与える影響を勘案して重要な欠陥に該当するかどうかを判断する必要があるとしている。
(4)重要な欠陥の判断指標(問77) 各企業においては、当該年度の内部統制の基本的計画や方針を策定する際などに、企業の状況に応じて重要な欠陥の判断指標も見直しを行うことが考えられ、指標等を変更することは可能であるとしている。
また、判断指標を決定する際には、企業の状況に応じて、評価対象年度の実績値だけで判断するのではなく、過年度実績の平均値などを利用することもできることを明らかにしている。
ただし、重要な欠陥の判断指標を恣意的に変更することは適切ではなく、特にあらかじめ定めていた指標を年度途中で変更する場合には、監査人とも十分協議し、変更にあたっての合理的な理由が必要であるとしている。
2 子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない等の場合の取扱い(問73、74)
経営者が内部統制の評価範囲を決定する当初の計画段階で、適切に評価範囲を決定しているのであれば、子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合でも、原則として、改めて評価範囲を見直す必要はないことを明らかにしている。
(1)子会社の売却等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合の取扱い(問73) 経営者は、評価範囲を決定する計画段階で、評価対象年度に予定している子会社の売却等についても、一定程度考慮して評価範囲を決定することが適当であり、このような事情も考慮したうえで適切に評価範囲を決定している場合には、期末日直前などに評価対象としていた子会社を売却し、当該子会社を評価対象から除外したことによって、売上高等の一定割合に達しなくなったような場合であっても、除外した子会社の代わりに、新たな事業拠点を追加するなど改めて当期の評価範囲を見直す必要がないことを明らかにしている。
これは、予期しない子会社等の売却等によって、一定割合に達しなくなった場合でも、売却等までの期間については、期末日に存在する他の重要な事業拠点と同様に内部統制の整備等を行っていたと考えられること、売却等までの当該子会社等の計上した損益や譲渡等に伴う損益等は、連結財務諸表を作成する親会社の決算・財務報告プロセスにおいて適切に把握されることになると考えられたものである。
(2)業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合の取扱い(問74) 評価範囲を決定する計画段階で、当期の業績予想も一定程度考慮して適切に評価範囲を決定しているのであれば、全社的な内部統制が有効であることを前提として、一定割合を著しく下回らない限りにおいて、選定している重要な事業拠点をもって適切な評価範囲と判断することが可能であり、当期の内部統制の評価範囲を見直す必要はないとしている。
本問と問73との違いは、問73の子会社の売却等の場合には、評価範囲の見直しをする必要がないとしているのに対し、本問の業績悪化等の場合には、一定割合(たとえば、概ね3分の2)を著しく下回らない限りにおいてとなっていることに留意が必要である。
3 内部統制報告書の記載内容(問101~107) 3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、内部統制報告書の記載内容に関する照会が多く寄せられるようになった。このため、今般の追加Q&Aにおいて、内部統制報告書の記載内容の例を掲載することとしたものである。
ただし、経営者は、企業等を取り巻く環境や事業の特性・規模等に応じて内部統制を整備・運用する役割と責任を有しており、財務報告に係る内部統制については、その有効性を自ら評価し、その結果を外部に向けて報告することが求められる。
したがって、作成される内部統制報告書についても、内部統制府令の第1号様式(内国法人の場合)に従って作成する必要があるものの、その記載内容については、各企業の実情等に応じて記載することが適当である。
このため、追加Q&Aにおいて示す内部統制報告書の記載内容の例は、あくまでも参考であり、記載内容の例のとおりに記載することを求めているものではないことに留意する必要がある。
各事項における記載内容の例について補足すると、次のとおりである。
(1)表紙(問102) 表紙に記載する「最高財務責任者」については、「会社が会社内部における役職のいかんにかかわらず、財務報告に関し代表者に準じる責任を有する者を定めている場合における当該者をいい、単に財務を担当している者は含まない」「会社が最高財務責任者を定めていない場合には、役職氏名への記載は要しない」ことに留意が必要である(内部統制府令ガイドライン4-1、問80参照)。
なお、表紙は、内部統制報告書提出日時点で記載することから、株主総会において代表者や最高財務責任者が交替し、基準日時点の代表者や最高財務責任者と異なる者が内部統制報告書提出日に就任している場合には、新しい代表者や最高財務責任者の役職氏名を記載することとなる。
(2)評価の範囲、基準日および評価手続に関する事項(問104) ① 評価手続の概要
会社の行った評価手続を詳細に記載する必要はなく、評価範囲内における統制上の要点の選定など財務報告に係る内部統制の評価結果に重要な影響を及ぼす手続の概要を簡潔に記載することに留意することとされている。
② 評価の範囲
わが国の内部統制報告制度においては、評価範囲の絞込み(内部統制の基準等により、業務プロセス等については、重大な虚偽記載につながるリスクに着眼して必要な範囲で評価すること)を認めていることから、当該部分の記載にあたっては、各会社における評価範囲および当該評価範囲を決定した手順・方法等を簡潔に、かつ明確にわかるように記載することが必要であると考えられる。
すなわち、既公表のQ&Aの問67(評価範囲外から重要な欠陥が発見された場合の内部統制報告書の訂正)において、基準等に準拠して適切に決定した評価範囲について経営者が評価を実施し、有効である(重要な欠陥がない)という評価結果を付した内部統制報告書を提出した後に、結果的に、当該評価範囲外から重要な欠陥に相当する事実が発見されたとしても、提出済みの内部統制報告書の評価結果を訂正する必要はないということを明らかにしている。
同様に、監査人においても、評価範囲外から重要な欠陥が発見されたことをもって、内部統制監査報告書の監査意見を訂正する必要がないとしている。
したがって、適切に評価範囲を決定したことを明確に示すとの観点から、たとえば、重要性に鑑みて特に評価範囲に含めていない部分がある場合には、当該部分を明らかにしておくことも考えられる(たとえば、Q&Aの例の「なお、連結子会社×社及び持分法適用関連会社×社については、金額的及び質的重要性の観点から僅少であると判断し、全社的な内部統制の評価範囲に含めていない。」参照)。
また、手順・方法等についても、会社が特に明記しておくことが適切と判断したものがある場合には、当該部分を明らかにしておくことが考えられる(たとえば、Q&Aの例の「……評価範囲については、各事業拠点の前連結会計年度の売上高……」において、売上高としては、当該連結会計年度の(予想)売上高ではなく、前連結会計年度の売上高を使用していることを明記)。
ただし、評価範囲の実績値を記載する必要がないことや個別に評価対象に追加した重要性の大きい業務プロセスはその選定方針を記載すれば足りることを明らかにしている(問104-1、104-2)。
なお、このほか、企業の判断によって、決算・財務報告に係る業務プロセスやITを利用した内部統制等に言及することも考えられる。
(3)評価結果(問105)
追加Q&Aにおいては、内部統制が有効である場合の例と、重要な欠陥があり内部統制が有効でない場合の例とを記載しており、有効でない場合の例として、①内部統制の評価を実施した場合と②内部統制を整備せず評価を実施しなかった場合であって、当該重要な欠陥の是正に向けての方針、当該方針を実行するために検討している計画等があるものを記載している。
内部統制が有効である場合は、概ねQ&Aの例に掲げたような記載になるものと考えられる。
内部統制が有効でない場合の例のうち、②の内部統制を整備せず評価を実施しなかった場合の例については、財務報告の信頼性に関するリスクの評価と対応を実施していないため、全社的な内部統制に不備が存在するとして、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く、重要な欠陥に該当すると判断したものである。
本問の例は、内部統制を整備せず評価も実施しなかった場合であり、内部統制は整備していたが、何らかの事情で重要な評価手続が実施できなかった場合とは明確に区別すべきであると考えられる。
この点に関しては、経営者が評価を実施した範囲において、重要な欠陥を識別している場合には、財務報告に係る内部統制は有効でないことは明らかであるとして、実施できなかった評価手続等を記載したうえで、内部統制は有効でない旨の記載をすることとなるとしている問63との関係にも留意する必要がある。
(4)付記事項(問106) 付記事項としては、①財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象がある場合、②事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合に記載をすることになっている。
①の付記事項に記載すべき後発事象としては、追加Q&Aの問83において、次年度以降の内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす事象が該当し、具体的には、事業年度の末日後、内部統制報告書提出日までに行われた会社の合併や買収、事業の譲渡や譲受けなどのうち次年度以降の企業集団に係る財務報告のリスクに重要な変更をもたらすことで、内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼすものが発生した場合に当該事象の内容を記載することとしている。
Ⅲ 追加Q&Aにおけるその他の主な事項
追加Q&Aのポイントとして掲げられた3項目以外のQ&Aで補足説明をする必要があると考えられる主なものは、次のとおりである。
(1)有価証券報告書の訂正報告書の提出と内部統制報告書(問71) 財務報告に係る内部統制は有効であると記載した内部統制報告書を提出した後に、有価証券報告書の訂正報告書を提出した場合には、連動して直ちに内部統制報告書の訂正報告書の提出が求められるわけではなく、有価証券報告書の訂正の原因となった誤りを検討し、適切に決定された評価範囲の外なのか内なのか、内である場合でも当該誤りを生じさせた不備が財務報告に重要な影響を及ぼすものであるのかどうかにより判断することになることを明らかにしている。
(2)期末日後に実施される統制手続(問76) 本問において、売掛金残高に係る管理手続を最重要の統制手続と位置付けているのであれば、期末日後かなりの期間、運用評価が完了できないということは必ずしも適切ではないものとも考えられ、より適切な内部統制を構築し評価することが必要になるものと考えられる。
ただし、暫定的な評価によってその妥当性の検証を行うことも可能であると考えられ、必ずしも従来の統制手続を変更し、新たな統制手続を構築し直さなければならないということではないと考えられるとしている。
Ⅳ おわりに
「重要な欠陥」の意義については、追加Q&Aではなく、既公表のQ&A(問48)の内容となるが、金融庁としては、関係者とも協力してその周知に努めているところであり、再度触れさせていただきたい。
「重要な欠陥」が存在する場合には、それは財務報告に重要な影響を及ぼす可能性があるということであり、直ちに当該企業の有価証券報告書に記載された財務報告が適正でないことを意味するわけではないことに留意する必要がある。
したがって、「重要な欠陥」があると開示することは、それだけでは、上場廃止や金融商品取引法違反として罰則の対象にもならないことになる。
そのうえで、期末日に「重要な欠陥」が存在する場合には、経営者は内部統制報告書において、その内容およびそれが是正されない理由を記載することとされているが、これは、投資者等に対して、有価証券報告書に記載された財務報告の内容を利用する際に留意すべき事項として、財務報告に係る内部統制について「今後改善を要する重要な課題」があることを開示することに意義があるとして、「重要な欠陥」の意義を明らかにしている。
内部統制報告制度においては、企業等に過度の負担をかけることなく、効率性と有効性のバランスをとりながら企業の内部統制が整備されることを目指している。
金融庁等では、内部統制報告制度の円滑な実施に向けて、引き続き、内部統制報告制度相談・照会窓口における相談を含め、機会を捉えて制度や基準等の内容の一層の周知・明確化に努めていくこととしており、関係者におかれては、制度の趣旨をご理解いただき、引き続き適切な対応をお願いしたい。(のむら・あきふみ)
「内部統制報告制度に関するQ&A」の再追加とそのポイント等に係る要点
金融庁総務企画局企業開示課企業会計調整官 野村昭文
Ⅰ はじめに
金融庁は、平成20年4月1日以後開始する事業年度から導入されている内部統制報告制度に関して、平成19年10月1日付で「内部統制報告制度に関するQ&A」(20問)を公表した。これは、それまでに内部統制報告制度に関して寄せられた照会等に対して行った回答等のうち、先例的な価値があると認められるものを整理したものである。
その後、金融庁や平成20年4月に日本経団連や日本公認会計士協会と共同で設置した「内部統制報告制度・相談照会窓口」に多くの照会等が寄せられた。このため、内部統制の基準・実施基準等、制度の内容の一層の明確化を図る観点から、寄せられた照会等を整理し、平成20年6月24日にQ&A(47問)を追加公表している。
今般、最初に内部統制報告書を提出することになる3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、平成21年4月2日付で新たな質問・回答(24問)を追加公表し、基準等制度の内容のより一層の明確化に努めることとした。
なお、Q&Aは、その冒頭にも記載されているとおり、内部統制報告制度に関して金融庁等に寄せられた照会等に対する回答等を整理したものであり、回答等は、現時点における見解を示すもので、異なる前提条件が存在する場合、関係法令および基準等が変更される場合などには、考え方が異なることもあることに留意が必要である。
本稿では、再追加された質問・回答(以下「追加Q&A」という)のうち、実務において重要と考えられる回答等について補足説明し、実務の参考に供することとしたい。なお、文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ 追加Q&Aのポイント等
今回の追加Q&Aにおいては、最初に内部統制報告書を提出することになる3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、①「重要な欠陥」の判断、②子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない等の場合の取扱い、③内部統制報告書の記載内容の3点をポイントとして掲げている(表参照)。
1 「重要な欠陥」の判断(問68~70、75、77) 期末日において「重要な欠陥」が存在する場合には、内部統制報告書に、その内容およびそれが是正されない理由を記載することとされている。
実施基準では、この「重要な欠陥」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備をいうとされており、その判断に際しては、金額的および質的な重要性の双方について検討を行うこととされ、特に金額的重要性については、連結総資産・連結売上高・連結税引前利益など比率で判断することとされている。
これらの比率は、画一的に適用するのではなく、監査人とも協議のうえ、企業の業種・規模・特性など企業の状況に応じて適切に決定する必要があると考えられる。
したがって、「重要な欠陥」の判断について示している既公表のQ&A(問1、2、40、41、43等)と同様に、追加Q&Aにおいても、内部統制報告書の作成に向け、「重要な欠陥」に該当するかどうかの判断の参考となるよう、次の項目に係るQ&Aを追加した。
(1)財務諸表監査による指摘(問68)、財務諸表等のドラフト(問69) 経営者が一定の財務諸表等の数値を計算した後、当該数値等の誤りを監査人から指摘された場合であるが、誤りを指摘されたことをもって直ちに「重要な欠陥」に該当するのではなく、指摘された誤りが企業の内部統制によって防止・発見できなかったのかどうかという観点からの検討が必要であることを明らかにしている。
なお、ドラフトについては、その位置付けにより重要な欠陥の判断は異なるものと考えられ、監査人との協議を目的とするドラフトの場合には、協議の過程で、重要な虚偽記載が発見されることがあっても、内部統制の重要な欠陥として判断する必要はないとしている。
(2)決算短信(問70) 決算短信は、有価証券報告書の提出より相当程度早く取引所に提出されることが一般的であり、有価証券報告書提出までの間にその数値を訂正することはありうるものと考えられる。
内部統制報告制度は、あくまで金融商品取引法に基づく制度であることから、取引所規則に基づく決算短信の数値が訂正されたことをもって直ちに「重要な欠陥」には該当しないとしているものである。
(3)売掛金の残高確認(問75) 本問では、得意先への売掛金の照会に対する回答額と帳簿残高に差異があった場合でも、直ちに「重要な欠陥」と判断するのではなく、会社がその原因を解明し、差異の調整を行って適切な残高に修正するような統制が整備・運用されているのであれば、会社の内部統制は有効に機能していると判断できるとしている。
一方で、このような統制が整備・運用されていない場合には、内部統制上の不備によるものとして、財務報告に与える影響を勘案して重要な欠陥に該当するかどうかを判断する必要があるとしている。
(4)重要な欠陥の判断指標(問77) 各企業においては、当該年度の内部統制の基本的計画や方針を策定する際などに、企業の状況に応じて重要な欠陥の判断指標も見直しを行うことが考えられ、指標等を変更することは可能であるとしている。
また、判断指標を決定する際には、企業の状況に応じて、評価対象年度の実績値だけで判断するのではなく、過年度実績の平均値などを利用することもできることを明らかにしている。
ただし、重要な欠陥の判断指標を恣意的に変更することは適切ではなく、特にあらかじめ定めていた指標を年度途中で変更する場合には、監査人とも十分協議し、変更にあたっての合理的な理由が必要であるとしている。
2 子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない等の場合の取扱い(問73、74)
経営者が内部統制の評価範囲を決定する当初の計画段階で、適切に評価範囲を決定しているのであれば、子会社の売却・業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合でも、原則として、改めて評価範囲を見直す必要はないことを明らかにしている。
(1)子会社の売却等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合の取扱い(問73) 経営者は、評価範囲を決定する計画段階で、評価対象年度に予定している子会社の売却等についても、一定程度考慮して評価範囲を決定することが適当であり、このような事情も考慮したうえで適切に評価範囲を決定している場合には、期末日直前などに評価対象としていた子会社を売却し、当該子会社を評価対象から除外したことによって、売上高等の一定割合に達しなくなったような場合であっても、除外した子会社の代わりに、新たな事業拠点を追加するなど改めて当期の評価範囲を見直す必要がないことを明らかにしている。
これは、予期しない子会社等の売却等によって、一定割合に達しなくなった場合でも、売却等までの期間については、期末日に存在する他の重要な事業拠点と同様に内部統制の整備等を行っていたと考えられること、売却等までの当該子会社等の計上した損益や譲渡等に伴う損益等は、連結財務諸表を作成する親会社の決算・財務報告プロセスにおいて適切に把握されることになると考えられたものである。
(2)業績悪化等により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合の取扱い(問74) 評価範囲を決定する計画段階で、当期の業績予想も一定程度考慮して適切に評価範囲を決定しているのであれば、全社的な内部統制が有効であることを前提として、一定割合を著しく下回らない限りにおいて、選定している重要な事業拠点をもって適切な評価範囲と判断することが可能であり、当期の内部統制の評価範囲を見直す必要はないとしている。
本問と問73との違いは、問73の子会社の売却等の場合には、評価範囲の見直しをする必要がないとしているのに対し、本問の業績悪化等の場合には、一定割合(たとえば、概ね3分の2)を著しく下回らない限りにおいてとなっていることに留意が必要である。
3 内部統制報告書の記載内容(問101~107) 3月決算企業の内部統制報告書の作成に向け、内部統制報告書の記載内容に関する照会が多く寄せられるようになった。このため、今般の追加Q&Aにおいて、内部統制報告書の記載内容の例を掲載することとしたものである。
ただし、経営者は、企業等を取り巻く環境や事業の特性・規模等に応じて内部統制を整備・運用する役割と責任を有しており、財務報告に係る内部統制については、その有効性を自ら評価し、その結果を外部に向けて報告することが求められる。
したがって、作成される内部統制報告書についても、内部統制府令の第1号様式(内国法人の場合)に従って作成する必要があるものの、その記載内容については、各企業の実情等に応じて記載することが適当である。
このため、追加Q&Aにおいて示す内部統制報告書の記載内容の例は、あくまでも参考であり、記載内容の例のとおりに記載することを求めているものではないことに留意する必要がある。
各事項における記載内容の例について補足すると、次のとおりである。
(1)表紙(問102) 表紙に記載する「最高財務責任者」については、「会社が会社内部における役職のいかんにかかわらず、財務報告に関し代表者に準じる責任を有する者を定めている場合における当該者をいい、単に財務を担当している者は含まない」「会社が最高財務責任者を定めていない場合には、役職氏名への記載は要しない」ことに留意が必要である(内部統制府令ガイドライン4-1、問80参照)。
なお、表紙は、内部統制報告書提出日時点で記載することから、株主総会において代表者や最高財務責任者が交替し、基準日時点の代表者や最高財務責任者と異なる者が内部統制報告書提出日に就任している場合には、新しい代表者や最高財務責任者の役職氏名を記載することとなる。
(2)評価の範囲、基準日および評価手続に関する事項(問104) ① 評価手続の概要
会社の行った評価手続を詳細に記載する必要はなく、評価範囲内における統制上の要点の選定など財務報告に係る内部統制の評価結果に重要な影響を及ぼす手続の概要を簡潔に記載することに留意することとされている。
② 評価の範囲
わが国の内部統制報告制度においては、評価範囲の絞込み(内部統制の基準等により、業務プロセス等については、重大な虚偽記載につながるリスクに着眼して必要な範囲で評価すること)を認めていることから、当該部分の記載にあたっては、各会社における評価範囲および当該評価範囲を決定した手順・方法等を簡潔に、かつ明確にわかるように記載することが必要であると考えられる。
すなわち、既公表のQ&Aの問67(評価範囲外から重要な欠陥が発見された場合の内部統制報告書の訂正)において、基準等に準拠して適切に決定した評価範囲について経営者が評価を実施し、有効である(重要な欠陥がない)という評価結果を付した内部統制報告書を提出した後に、結果的に、当該評価範囲外から重要な欠陥に相当する事実が発見されたとしても、提出済みの内部統制報告書の評価結果を訂正する必要はないということを明らかにしている。
同様に、監査人においても、評価範囲外から重要な欠陥が発見されたことをもって、内部統制監査報告書の監査意見を訂正する必要がないとしている。
したがって、適切に評価範囲を決定したことを明確に示すとの観点から、たとえば、重要性に鑑みて特に評価範囲に含めていない部分がある場合には、当該部分を明らかにしておくことも考えられる(たとえば、Q&Aの例の「なお、連結子会社×社及び持分法適用関連会社×社については、金額的及び質的重要性の観点から僅少であると判断し、全社的な内部統制の評価範囲に含めていない。」参照)。
また、手順・方法等についても、会社が特に明記しておくことが適切と判断したものがある場合には、当該部分を明らかにしておくことが考えられる(たとえば、Q&Aの例の「……評価範囲については、各事業拠点の前連結会計年度の売上高……」において、売上高としては、当該連結会計年度の(予想)売上高ではなく、前連結会計年度の売上高を使用していることを明記)。
ただし、評価範囲の実績値を記載する必要がないことや個別に評価対象に追加した重要性の大きい業務プロセスはその選定方針を記載すれば足りることを明らかにしている(問104-1、104-2)。
なお、このほか、企業の判断によって、決算・財務報告に係る業務プロセスやITを利用した内部統制等に言及することも考えられる。
(3)評価結果(問105)
追加Q&Aにおいては、内部統制が有効である場合の例と、重要な欠陥があり内部統制が有効でない場合の例とを記載しており、有効でない場合の例として、①内部統制の評価を実施した場合と②内部統制を整備せず評価を実施しなかった場合であって、当該重要な欠陥の是正に向けての方針、当該方針を実行するために検討している計画等があるものを記載している。
内部統制が有効である場合は、概ねQ&Aの例に掲げたような記載になるものと考えられる。
内部統制が有効でない場合の例のうち、②の内部統制を整備せず評価を実施しなかった場合の例については、財務報告の信頼性に関するリスクの評価と対応を実施していないため、全社的な内部統制に不備が存在するとして、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く、重要な欠陥に該当すると判断したものである。
本問の例は、内部統制を整備せず評価も実施しなかった場合であり、内部統制は整備していたが、何らかの事情で重要な評価手続が実施できなかった場合とは明確に区別すべきであると考えられる。
この点に関しては、経営者が評価を実施した範囲において、重要な欠陥を識別している場合には、財務報告に係る内部統制は有効でないことは明らかであるとして、実施できなかった評価手続等を記載したうえで、内部統制は有効でない旨の記載をすることとなるとしている問63との関係にも留意する必要がある。
(4)付記事項(問106) 付記事項としては、①財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象がある場合、②事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合に記載をすることになっている。
①の付記事項に記載すべき後発事象としては、追加Q&Aの問83において、次年度以降の内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす事象が該当し、具体的には、事業年度の末日後、内部統制報告書提出日までに行われた会社の合併や買収、事業の譲渡や譲受けなどのうち次年度以降の企業集団に係る財務報告のリスクに重要な変更をもたらすことで、内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼすものが発生した場合に当該事象の内容を記載することとしている。
Ⅲ 追加Q&Aにおけるその他の主な事項
追加Q&Aのポイントとして掲げられた3項目以外のQ&Aで補足説明をする必要があると考えられる主なものは、次のとおりである。
(1)有価証券報告書の訂正報告書の提出と内部統制報告書(問71) 財務報告に係る内部統制は有効であると記載した内部統制報告書を提出した後に、有価証券報告書の訂正報告書を提出した場合には、連動して直ちに内部統制報告書の訂正報告書の提出が求められるわけではなく、有価証券報告書の訂正の原因となった誤りを検討し、適切に決定された評価範囲の外なのか内なのか、内である場合でも当該誤りを生じさせた不備が財務報告に重要な影響を及ぼすものであるのかどうかにより判断することになることを明らかにしている。
(2)期末日後に実施される統制手続(問76) 本問において、売掛金残高に係る管理手続を最重要の統制手続と位置付けているのであれば、期末日後かなりの期間、運用評価が完了できないということは必ずしも適切ではないものとも考えられ、より適切な内部統制を構築し評価することが必要になるものと考えられる。
ただし、暫定的な評価によってその妥当性の検証を行うことも可能であると考えられ、必ずしも従来の統制手続を変更し、新たな統制手続を構築し直さなければならないということではないと考えられるとしている。
Ⅳ おわりに
「重要な欠陥」の意義については、追加Q&Aではなく、既公表のQ&A(問48)の内容となるが、金融庁としては、関係者とも協力してその周知に努めているところであり、再度触れさせていただきたい。
「重要な欠陥」が存在する場合には、それは財務報告に重要な影響を及ぼす可能性があるということであり、直ちに当該企業の有価証券報告書に記載された財務報告が適正でないことを意味するわけではないことに留意する必要がある。
したがって、「重要な欠陥」があると開示することは、それだけでは、上場廃止や金融商品取引法違反として罰則の対象にもならないことになる。
そのうえで、期末日に「重要な欠陥」が存在する場合には、経営者は内部統制報告書において、その内容およびそれが是正されない理由を記載することとされているが、これは、投資者等に対して、有価証券報告書に記載された財務報告の内容を利用する際に留意すべき事項として、財務報告に係る内部統制について「今後改善を要する重要な課題」があることを開示することに意義があるとして、「重要な欠陥」の意義を明らかにしている。
内部統制報告制度においては、企業等に過度の負担をかけることなく、効率性と有効性のバランスをとりながら企業の内部統制が整備されることを目指している。
金融庁等では、内部統制報告制度の円滑な実施に向けて、引き続き、内部統制報告制度相談・照会窓口における相談を含め、機会を捉えて制度や基準等の内容の一層の周知・明確化に努めていくこととしており、関係者におかれては、制度の趣旨をご理解いただき、引き続き適切な対応をお願いしたい。(のむら・あきふみ)
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